ひぐらしのなく頃に圭梨   作:山屋

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第54話:登校日の部活

 夏休みも残り少ない。それを日めくりカレンダーをめくった私は実感する。

 見かけより長い年月を生きて達観しているつもりだった私だけどやっぱり学校というものは嫌なものだ。自由に遊べる夏休みが終わってしまう事は悲しく感じる。

 これは私が長い年月を生きていても大人として生きた経験がないからなのかもしれない。

 大人になると学校や勉強が恋しくなると聞いた事があるけれど、それは大人になって職場勤めをするようになり学校や勉強という環境から離れるから生まれる感情ではないだろうか。

 何回、何十回と世界を繰り返しても小学生としての体験を送り続けている私にとってはまだまだ学校は嫌なものであり、出来る事なら避けたいものだ。

 勿論、昭和58年の6月の牢獄を突破した事で新しい授業の範囲まで進んだ事や部活メンバーとの何度やっても飽きない部活は楽しみでもあるのだが。

 

「梨花~。そんなにのんびりしていると遅刻してしまいますわよ~」

「みぃ?」

 

 沙都子がよく分からない事を言う。寝ぼけているのだろうか? 今はまだ夏休みのはずだが。

 

「何を言っているのですか、今は夏休みなのです。沙都子」

「梨花の方こそ何をおっしゃっていますの。今日は登校日でございましょう?」

 

 あ。

 そういえばそうだった。

 長期休暇の中にポツンとある学校に通わなければならない日。登校日。それが丁度、今日であるのだ。

 面倒臭い……正直に言えば。でも、行かない訳にはいかないし、みんなと部活が出来るという事でもある。

 夏休みという事で部活はたまに学校に集まってやる程度で頻度が少なめになっていた。この辺りで英気を養いたい所だ。

 

「そうだったのです。うっかりしていたのです」

「そうですわよ。早く朝ごはんを食べて、お弁当の準備をしませんと」

 

 登校日なので授業は午前で終わるのだが、沙都子もそれだけで帰るつもりはないのだろう。午後からの部活に熱意を燃やしているのが伝わって来る。そうでなければお弁当の準備など言い出すまい。

 お弁当タイムも学生にとっては貴重な時間だ。圭一に料理が上手だ、と褒めてもらうためにも力を入れてお弁当のおかずを作らなければ。

 あわよくば圭一に「梨花ちゃん、いただき」なんて言ってお弁当のおかずを強奪されて「美味いな」なんて言って貰えれば最高だ。

 私と沙都子は朝ごはんの支度をしつつ、お弁当の準備もして、二人で朝ごはんを食べて家を出る。結構、ギリギリの時間になってしまった。

 そのせいか、雛見沢分校に到着した時には多くの生徒は既に来ていた。圭一とレナと魅音。私と沙都子の家からは反対方向に家があるグループも揃っているようだ。

 

「むむむ、圭一さんに久しぶりのトラップをお見舞いしてあげようと思いましたのに。もう来ていらっしゃるじゃありませんか」

「残念なのです、沙都子。よしよし」

「ちょっと梨花ぁ! 頭を撫でるのは止めてくださいませ」

 

 沙都子が私の頭を撫でる手を振り払う。むぅ。詩音や悟史にされた時は素直に受け入れる癖に。それに圭一にされた時も。沙都子にとっては私は彼ら以下なのかと一瞬、思ってしまうが、年上の人間ならともかく、同い年の友人にやられるのが恥ずかしいだけだろうと推測する程度の頭は私にもある。

 

「おう! 沙都子に梨花ちゃん! おはよう!」

「二人共、おはよう。久しぶりって事もないかな、かな。部活で集まったりしているしね」

「いやぁ~、それでも夏休みなのにこうして学校で会うってのは新鮮だねぇ。おはよう、二人共」

 

 圭一、レナ、魅音が教室に入った私たちを見つけるとそれぞれ挨拶をして来る。私たちも挨拶を返す。

 

「おはようございますなのです」

「おはようなのですわ、お三方。今日は絶好の部活日和ですわね」

 

 沙都子が朝一でいきなり部活に対して言及する。それを聞いた圭一も目を光らせた。

 

「おう! 夏休みで控え目になっていたからな。今日はばっちり、部活を楽しむぜ!」

「ふっふっふ、おじさんも負けてられないねー。部長の座は圭ちゃんに譲ったけど、部活最強の座は譲る気はないからね」

「ははは! 何を言う魅音! その座も既に俺のものになっているんだぜ?」

 

 圭一と魅音が睨み合い、視線と視線がぶつかり合い、火花を散らす。部活と聞くと否が応でも盛り上がってしまうのが真の部活メンバーと言うものだ。

 そこにやって来た影が二人。

 

「僕たちも負けませんよ!」

「下克上を果たしてみせます!」

「望む所だぜ、大樹! 傑! どっからでもかかってきやがれ! 部長として、元祖・部活メンバーとして、この前原圭一! 受けて立つ!」

 

 富田と岡村も宣戦布告だ。学校の全生徒が部活メンバー入りした中でもこの二人は特に元祖・部活メンバーに次ぐ強さを見せる事が多い。私もうかうかしていられない。

 

「はいはい。部活もいいですけど、まずは授業ですよ。皆さん、おはようございます。夏休みの間も健康に過ごせていますか?」

 

 そんな盛り上がった所に知恵の声が響き、一旦、この熱はお預けとなる。

 

「知恵先生ー。興宮でウチの……園崎系列がやっているおススメのカレー屋さん紹介するんで、今日は授業なしにしてくれません?」

「なっ! それは本当……じゃなくて、ダメですよ。カレーはとても、とてもとても大事ですが、教師たる者。授業を放棄する訳にはいきません」

「ちぇっ、残念」

 

 魅音の甘い(辛い?)誘惑にも負けず知恵は教壇に立つ。なんだかんだ言って知恵も立派な教師よね。

 

「……それはそれとしてそのカレー屋さんの事は後で教えてくださいね」

 

 ……立派な教師よね?

 とにかく登校日の授業が始まるが、午前中だけで終わる授業なんてそこまで熱心に取り組む程のものでもない。小学生から中学生までがごちゃ混ぜになっているこの分校でならなおさらだ。

 一学期の復習問題が書かれたプリントが配られ、それに解答を書き込んでいく。

 全問正解、のはずだ。昭和58年度の一学期の授業に関しては嫌になる程、受けたのでここで手落ちなど許されない。

 圭一たち中学生組の様子を伺う。

 圭一は問題ないだろう。繰り返すが勉強は出来る方なのだ。おそらくこの学校の生徒で一学年上の魅音をも凌ぎ、一番、成績はいい。レナもそこそこだろう。問題は魅音か。

 高校受験を控えている身であるが、圭一が教えなくなってからはちゃんと勉強しているのだろうか、と思ったがわりと余裕そうな顔であった。園崎が金に物を言わせて各教科それぞれ一人の優秀な家庭教師を付けたらしいが、その効果が表れているのだろうか。

 ともあれ授業はそれでほぼ終わりだ。知恵がプリントを回収していく。

 その後はやはり一学期の復習を基本に授業が進められる。私としては聞き飽きた一学期の授業より未知の塊である二学期の授業の予習をして欲しかった所だが、教師の授業の進め方に注文を付けるなんて真似は流石に出来ない。

 これが授業をするのが私を崇拝している村の年寄りたちならともかく、知恵はそういう村の風習に染まっている訳ではない。私のワガママなど通してはくれないだろう。

 そんな授業も終わり、ついに部活の時間がやって来る。

 学校の授業は終わったのに帰ろうとする生徒は誰一人おらず圭一を中心に部活メンバー全員が集まる。

 

「今日はどうする、魅音? みんなで楽しめるゲームを考えておくって言ってたけど」

 

 圭一が魅音に水を向ける。魅音が考えるゲームなら期待出来るわね。

 

「そうだね。ここはいっちょ、みんなでかくれんぼをやろうかと思うんだ」

「かくれんぼか。面白そうだね、魅ぃちゃん」

 

 レナの言葉には同意だ。かくれんぼ自体はありふれた遊びであるが、部活メンバーで、それも生徒全員でやる大規模なものになれば面白さも段違いになるだろう。

 

「探す鬼と隠れる人に別れてやろうと思っているんだけどいいかな、圭ちゃん?」

「俺はそれで構わんぞ。鬼は全員見つけられなかったら罰ゲーム、隠れる側は見つかったら罰ゲーム。分かりやすいじゃねえか」

 

 鬼の人数次第では有利不利が出来てしまいそうなルールであるが、その程度の理不尽は乗り越えて勝利を掴んでこその部活。私も文句を付ける気はない。

 

「鬼の人数は何人ですの?」

「二人だよ、沙都子」

「それなら鬼はボクたち元祖・部活メンバーから選んだ方がいいと思うのです。他の子たちには荷が重いと思うのです」

 

 鬼が二人であれば鬼の方が圧倒的に不利であろう。実力のある私たち元祖・部活メンバーが鬼をやった方がきっと楽しいゲームになる。

 私の提案に承知の上と言った顔で魅音は頷く。

 

「そう思ってくじ引きの箱、用意しておいたよ」

「流石だな、魅音」

「おじさんの準備と先読みの良さに感心するんだねー、圭ちゃん」

 

 魅音がどこからともなく箱を取り出す。これに私たちで手を入れてくじを引いて鬼のくじを引いた者が鬼か。

 そうしてくじ引きの結果。

 

「俺と梨花ちゃんが鬼か。よっしゃ、やってやろうぜ、梨花ちゃん」

 

 何の神の悪戯か。

 鬼は私と圭一に決定したのだった。

 

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