ひぐらしのなく頃に圭梨   作:山屋

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第56話:部活の末に

 圭一と組んで部活に挑むというのは悪くはない心地だった。

 かつての6月の戦いの時を思い出す。あの時も圭一は私の唯一の味方であり、惨劇を打破するために力を貸してくれた。

 勿論、圭一に頼りっぱなしだったつもりはないけれども、圭一の力は私の大きな助けとなり、惨劇を打ち破り、運命を打ち破り、未来への扉を切り拓いてくれた。

 だからこそ、今、こうして、昭和58年の夏休みという未知の時間を迎えられて、登校日でみんなで部活をする事も出来ているのだ。

 かくれんぼという遊びで圭一と一緒に隠れた相手を探している間は心地の良い時間であった。私はそれなり以上には長い年月を生きているのだが、不思議と部活に関しては飽きがこないし、幼稚な事だとも思わない。

 繰り返す昭和58年の6月の日々の中で不確定要素の塊であり、イレギュラーばかり起こり得る部活というものは私の救いでもあり、そこで行う事が傍から見ればどれだけ幼稚に思える事でも私はそうは思わなかった。結局の所、私も幼いまま本当の意味では成長出来ていないのかもしれない。歳を重ねている自覚は人並み以上に強くあったのだが、今にして思えば私の人生は小学五年生でストップしてそこを繰り返していたのであり、社会経験などたかが知れている。私は自分だけが大人になったつもりでいて、いい気になっていたのかもしれない。今ならそう思える。

 社会経験もない、恋愛経験などもない。

 そんな私に圭一は振り向いてくれるだろうか?

 最後の世界と覚悟を決めたこの世界は特にイレギュラーの塊であった。

 魅音が圭一に委員長と部活の部長の座を譲るなんてこれまでの世界ではなかったし、部活に富田や岡村を始めとした雛見沢分校の下級生たちが加入するなんて事もこれまでの世界ではなかった事だ。

 そうして、迎えられた未来。この世界を存分に謳歌するつもりで私は部活に挑んでいるのだが、圭一と別行動を取り、かくれた魅音を探すとなると物足りない感じが胸の中に残る。

 

(まるで圭一に依存しているみたいじゃない)

 

 自分自身にそう突っ込みを入れる。私はそれほど弱くはないつもりだったのだが、これもまた、思っている以上に弱かったのかもしれない。この世界で最初に羽入が傍にいない事に気付いた時の心細さといったら、他にたとえようのないものだったし、最後に鷹野の罪を、いや、雛見沢全ての罪を背負って、羽入が消えてしまった時も激しく落ち込んだものだ。

 今ではある程度、立ち直れているが。多分、きっと、それを羽入も望んでいると思うから。

 

(なんて言って魅音を見つけられなかったら私たちが罰ゲームなんだから、しっかり探さないとね)

 

 こんな感傷で部活に手を抜く事は出来ない。元祖・部活メンバーの一人としてそれは許されない。そんなていたらくでは圭一、いやレナにも魅音にも沙都子にも、羽入にも顔向け出来ない。

 かくれんぼで強い人は一か所に隠れないとは聞く。さっき見つけた沙都子もそうだった。魅音もまた隠れ場所を転々と変えて、鬼である私たちを翻弄しているのだろう。やはり魅音は部活においては強いのだ。

 だからといって負けてはやらない。魅音が潜んでいそうな場所を片っ端からあたり、彼女の姿を探す。そうしていると、

 

「みぃ。見つけたのです」

「あっちゃぁ~」

 

 やらかした、という顔の魅音を発見する。隠れ場所を変えようと姿を見せた所を運良く私が見つけられた形であった。

 

「残り時間も僅かなんだから、さっきの場所にずっととどまっていた方が良かったかなぁ、これは。おじさんとした事が、失敗失敗」

「魅ぃはいつも肝心な所が抜けているのですよ」

「そうかもね、あはは!」

 

 私の指摘に魅音は豪快に笑う。敗北を受け入れる潔い笑みであった。

 肝心な所が抜けている。その配慮の微妙な足りなさ加減ゆえにこれまでの世界では惨劇に繋がってしまった事もあるのだが、本質的には魅音は頼れる存在だと思っている。

 完璧な人間などいない。それは魅音だけではなく、圭一やレナも、沙都子も、私だってそうだ。だから私たちは仲間を作り、お互いの足りない所を補いあって生きていくのだろう。その絆を壊してしまう雛見沢症候群という病はまさに悪魔の病であった。

 

「それじゃあ、連行するのです。魅ぃ」

「はいはい。こうなった以上、おじさんも抵抗したりはしないよ。大人しく連行されますって」

 

 魅音を連れて、教室に戻ろうとした時、圭一が顔を見せた。

 

「おっ、梨花ちゃん。魅音を見つけたのか、お手柄だな!」

「みー。ボクならこの程度、朝飯前ならぬ昼飯前なのですよ。にぱー」

 

 圭一に褒められるのは悪い気分ではない。

 魅音を連行して教室に戻ると既に捕まっている生徒たちは嘆きの声を漏らした。

 

「あーあー、魅ぃちゃんも見つかっちゃったか」

「悔しいですけれど、今回は梨花と圭一さんの完全勝利ですわね……」

 

 特にレナと沙都子が悔しそうに歯噛みする。

 

「いやぁ~、前部長の意地を見せようと思ったんだけどねぇ。ごめんね、みんな」

「はっはっはっ、栄華は衰退し、衰えたトップはすり替わるのが世の常! 現部長の俺様に敵う道理はなかったな、魅音」

「おじさんを見つけたのは圭ちゃんじゃなくて梨花ちゃんでしょ? 全く。すぐに調子に乗るねぇ、圭ちゃんは」

 

 魅音の言う通り、圭一はすぐに調子に乗る。それは圭一の欠点であり、美点だ。

 

「調子に乗らない圭一なんて圭一じゃないのですよ」

「そうだね。すごく圭一くんらしいよ」

「圭一さんですからね」

「……なんか、すげえ馬鹿にされている気がするぞ」

 

 私たちの言葉に圭一が眉をしかめる。

 

「とにかく! これで俺と梨花ちゃん以外はみんな揃って罰ゲームだな! 覚悟は出来ているかぁ! お前らぁ!」

 

 圭一がそう言って生徒たちに凄む。レナや魅音、沙都子は苦笑いしていたが、他の生徒たちは震え上がっていた。

 

「まぁ、罰ゲームから逃げはしないけど、ここはみんなでお昼ご飯にしようよ、圭一くん」

 

 そこにレナが提案する。私たちは午前の授業を終えて、そのまま部活に入ったので昼食を食べていないのだ。

 

「そうだな。頭も体も使って腹が減ったし」

「体はともかく、圭一はあまり頭は使っていないと思うのですよ」

「梨花の言う通りですわね。本能のままに動く圭一さんが頭なんて使ったら知恵熱でぶっ倒れてしまう事ですわよ」

「お前らなぁ。あまり俺を馬鹿にするなよ?」

 

 私と沙都子の言葉に圭一が苦い顔をする。圭一も驚く程、思慮深い一面がある事はこれまでの世界や6月の戦いで分かっている事であるが、やはり沙都子の言う通り、本能のおもむくままに動いてこそ、圭一、という感じはある。

 

「まぁ、勉強は出来るね、圭ちゃんは」

 

 フォローするように魅音が言う。だが、圭一はまだ苦い顔だ。

 

「お勉強が出来てもあまりいい事はないぞ? そりゃあ、いい学校に入ったりは出来るかもしれないけど、この世で成功する奴は勉強が出来る奴じゃなくて、本当の意味で頭のいい奴だ」

 

 妙に達観したような事を圭一は言う。雛見沢に来る前は進学校に通っており、勉強漬けの日々の末に過ちを犯した過去を知っている私はその言葉に感じるものがあったが、そういった事情を知らない魅音や沙都子はそういうものなのか、と不思議そうに顔を見合わせる。レナは理解したように微笑んでいたが。

 学校のテストで100点が取れるからって社会で成功するとは限らないという事か。

 それもまた人生。私がまだまだ体験した事のない未来の事だ。

 

「圭一は頭がいいとボクは思うのですよ」

 

 だからこそ、そんな圭一に私は言ってやる。ガサツでデリカシーのカケラもない。そんな圭一だが、やはり本質的には彼の言う頭のいい奴に分類されると思う。圭一なら将来、ビッグになれると大石も言っていたし、私もそう思う。

 

「へっ、おだてても何も出ないぜ、梨花ちゃん」

 

 自嘲めいた笑みを圭一は浮かべる。進学校時代の障害事件やこれまでの世界で疑心暗鬼と狂気に陥り、仲間をその手にかけてしまった記憶を思い出している圭一は自分に自信がなくなっているのかもしれない。だとしたら、そんな事はない、と私は伝えてあげないといけない。

 彼のこれまでの世界での罪を許してあげられるのは、私しかいないのだから。

 それからは雛見沢分校のみんなで楽しいランチタイムとなった。こういう時間を楽しめるのもあの6月を乗り越えたおかげか。

 さて、ここにいる私と圭一以外の面々にこの先に待つ罰ゲームでどんな事をさせてあげようかしら。それは圭一と一緒に考えよう。

 

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