ひぐらしのなく頃に圭梨   作:山屋

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第58話:ライバル

 圭一たちがやって来てから夏休みの宿題の進行は一気にはかどった。やはり中学生の助力があるのは助かる。沙都子もなんだかんだ言いながら、圭一たちを頼りにして勉強を見て貰っているようだ。

 

「なんでその問題でこの答えになるんだ、沙都子」

「ち、違いますの!?」

「違うに決まっているだろ」

「むきー! いじわるな事言わないで教えてくださいませ!」

 

 圭一に対しては何かと反発しているものの、圭一も勉強という自分の得意フィールドだからか、余裕が出ているようで沙都子に突っかかられるのを華麗に流して対応している。

 沙都子が勉強が苦手なのは本当のようだ。これまでもそうかな、と思う事はあったが、この分では将来、勉強が必要になった場面で面倒な事になるかもしれない、と少し心配。

 

「梨花ちゃん、いい感じだね」

「みぃ。レナの教え方が上手いのです」

 

 私もレナに宿題を見て貰いながら、進める。私の方は元々、一学期の勉強は完璧なだけあり、後は問題を解くだけだ。面倒ではあるが、苦戦はしない。

 

「あーっはっはっは! 受験勉強で鍛えられたこの魅音様がこの程度の宿題で苦戦する訳が……」

「魅音、そこの方程式の解、間違ってるぞ」

「なぁっ!?」

 

 受験勉強で実力を付けた魅音は自信があるようだったが、圭一に指摘され、顔を真っ赤にして消しゴムで解答を消す。

 

「く、このおじさんが……こんな初歩的なミスを」

「初歩的なミスを無くす事が大切だろ。そんなんで受験大丈夫か?」

「圭ちゃんに心配されるまでもないよ! 余裕で合格してみせるから!」

 

 方程式とかルートとか中学生の授業は難しそうね。私に出来るだろうか。そこは私にとっても未知の領域であるため分からない。

 

(まぁ、その時はその時ね)

 

 分からなければ圭一に訊けばいいんだし、などと思いながら私も宿題を進める。そんな私を見てレナがクスリ、と笑った。

 

「ごめんね、梨花ちゃん」

「み? 何がなのです?」

「梨花ちゃんはレナより圭一くんに勉強を見て貰いたいよね」

 

 い、いきなり何を!? 私は動揺して声を上げる。

 

「な、何を言うのですか、レナ。そんな事はないのです!」

「本当かな~? レナじゃ不満だって顔に出ていた気がして」

「そ、そんな事は絶対にないのです! レナが不満だなんて事は」

 

 レナに不満がある事などあるはずがない。ただ。ただ、正直に言えば圭一に勉強を見て貰っている沙都子が少しだけ、ほんの少しだけよ? 羨ましいという思いがあるのは事実ではある。

 

「梨花ちゃんは圭一くんの事が好きなんだね」

 

 圭一や魅音、沙都子に聞こえない程度の声でサラリとレナに言われる。大ごと、のはずであるのだが、優しげな微笑から出た言葉はあたたかみを含んでいて私も素直に頷いた。

 

「みぃ、そうなのです」

「そっか~」

「そう言うレナも圭一の事が好きではないのですか?」

 

 だけど、私もやられっぱなしではいられない。一つやり返してやる。私の反撃にレナはう、と困ったような顔の末に返答する。

 

「そうだね、レナも圭一くんが好き」

「やっぱりなのです。なら、ボクとレナはライバルなのですね」

「あはは、そういう事になるかな、かな?」

 

 ライバル。とはいえ悪い意味ではなく、お互いに同じ目標に向かって競い合っていく存在、という意味でのライバルだ。

 レナならいいライバルになりそうだ。そう思っていた私にレナは予想外の言葉を寄越す。

 

「でも、それなら魅ぃちゃんもライバルだよ」

「魅ぃもですか。それもそうなのです」

 

 確かに。魅音の圭一への恋心は疑う余地がない。それが原因で惨劇が起こった世界もあったのだし。私が頷いているとレナはさらなる爆弾を投げ込む。

 

「それに沙都子ちゃんも、ね」

「みぃ? 沙都子もなのですか?」

「うん。多分、だけどね」

 

 沙都子も圭一の事が好きなのだろうか? そりゃあ、悪からぬようには思っている事は分かるが。私が沙都子の方に視線を向ける。圭一となんやかんや言い合いをしていた。

 お互いに気の置けない仲だからこそ、ああやってじゃれあったり出来る訳だし。しかし、それは恋心なのだろうか。

 

「沙都子が本当に圭一を? 少し信じられないのです」

「そうかな? 私にはそう見えるよ、梨花ちゃん」

 

 自信があるようにレナは言い切る。もしそうだとしたら私のライバルは多いという事か。これは全く油断出来ない事態と言えるだろう。

 

「もし、本当にそうなら、ボクは負けられないのです」

「うん。私も負けないよ、梨花ちゃん」

「レナは強敵なのです……」

 

 心から痛感して言う。レナは強敵だろう。女の子としてレナは私にとって見本のような存在だった。下手に歳を重ねてしまったせいでひねくれている所があると自覚している私だが、純粋無垢なレナに勝てるのだろうか。純粋という点では沙都子や魅音もそうだが。

 良くも悪くも私は長い時を生き過ぎた。それが足を引っ張ってしまう事もあるだろう。とはいえ、かつての世界の事を覚えている事を圭一と共有しているのは他の三人にはない強みに成り得る。

 

「圭一の面倒を見るのは大変なのですよ」

「あはは、それくらいレナも分かっているよ」

 

 私の言葉にレナは笑みを返す。確かにレナならば圭一を支える事もやってのけるだろう。良妻賢母として、圭一と共にあたたかな家庭を築く姿が容易に想像出来る。かつての記憶がなくとも抜群の配慮で圭一の悩みを察して解決してあげる事も出来るだろう。これはやはり強敵だな、レナは。

 

「おーい、二人共、手が止まってるぞ~! 何話しているんだ?」

 

 そんなやり取りをレナとしていると圭一に咎められてしまう。あんたのせいなんだけどね、とは言い返す事は出来ず「みー」と鳴いて誤魔化す。

 

「ごめんごめん、圭一くん。レナたちおしゃべりに夢中になっちゃって」

「全く。それじゃあ、なんのために俺たちが来たのか分からないだろう」

「本当にそうだね」

 

 レナは笑いながら「それじゃ、梨花ちゃん。続きやろっか」と言って来る。私もそれに応じる。

 

「恋に浮かれて沙都子に後れを取っては笑い話にもならないのです」

「あはは、勉強のライバルは沙都子ちゃんなんだね。梨花ちゃんにとって」

「それは勿論なのです」

 

 これまで意識した事はあまりなかったが、同じ年齢の友人として沙都子には負けたくないという気持ちがある。精神年齢は私の方が遥かに上だろうが、それを表向きには出さず、あるがままの自分でいようと決めたのも圭一との事があってからだ。

 私は別に魔女でもなんでもない。ただの女の子なのだ。それを圭一が教えてくれた。

 だからこそ、こうして夏休みの宿題を解くために鉛筆を走らせているのだ。レナの助けを借りながら。

 

「それじゃあ、沙都子ちゃんとどっちが早く終わるか、競争だね」

 

 そんな私の思いを察したのかレナが言って来る。競争か、面白い。沙都子には負けてやらない。見事、勝利してみせる。

 

「沙都子、負けないのです」

「い、いきなりなんですの、梨花?」

「この宿題なのです」

「宿題? どちらが早く終わるか、という事なのですの?」

 

 流石に察しはよく沙都子もこちらを見る。ニヤリと私は笑ってやる。

 

「そうなのです、勝負なのです」

「それならわたくしも負ける訳にはいきませんわね。いきますわよ、梨花」

 

 そうして私たちは宿題に取り掛かる。夏休みの宿題なんて面倒なだけだと思っていたけど、こうなったのならなんだかんだで面白いものだ。

 なかなかいい夏の終わりになりそうだ、と思いながら、私は勝負に負けないように手と頭を動かすのであった。

 親友であっても容赦はしないわよ、沙都子。

 

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