ひぐらしのなく頃に圭梨   作:山屋

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第61話:悟史と勉強会

 

「むぅ」

 

 悟史の学校復帰後、最初の日の授業が終わった。こうなれば放課後の自由な時間。みんなで部活を行うのがいつもの流れなのだが、今日は少し違った。

 

「当たり前だけど、覚えている事、ほとんど忘れちゃっているなぁ、困ったなぁ」

 

 悟史が苦笑いしている。その理由は分かりやすい、と言えば失礼だろうか。

 ありていに言って、悟史はこれまでの学校生活で勉強した事の多くを忘れてしまっていた。

 一年間眠っていたり、目覚めた後もリハビリばかりを行い、ようやく退院したものの、車椅子に乗って授業を受けている身。学力面で衰えがあるのは無理もない話だ。

 

「仕方がありませんよ。悟史くん。事情が事情です」

 

 詩音がそう言って悟史を励ます。何故、別の学校の彼女が堂々とこの雛見沢分校にいるのかのツッコミは最早するまい。

 とことん悟史LOVEなのだ、詩音は。

 

「そうだよなぁ。一年も眠っていたんだから勉強が出来なくても仕方がないさ」

「圭一。圭一なりに気遣って言っているのは分かりますですが、ストレートに言い過ぎなのです」

「む、そうか。悪い悟史。俺、デリカシーがなくてな……」

 

 私が圭一に指摘すると圭一はバツが悪そうに頭を掻く。しかし、悟史は嫌な顔一つする事なく温和に笑う。

 

「いや、事実だよ。今の僕が勉強が出来ないのは。気にしていないから圭一も気にしないで」

「そ、そうか。それならいいんだが……」

 

 その様子を見守っていた魅音が不意に声を上げる。

 

「うーん。それじゃあ、今日の部活は中止にして、みんなで悟史に勉強を教えてあげようか。おじさんは受験生の身分だから力になれると思うよ」

 

 流石は魅音だ、と私は思った。気の利いた提案だ。本来なら受験生の魅音は自分の勉強に専念しないといけない所なのだろうけど。

 

「それはありがたいね。ところで圭一は勉強が出来るんだね」

 

 少し意外そうに悟史が言う。今日の授業中で知恵が黒板に書いた小学生の私ではさっぱり分からない方程式とやらの難題を圭一がズバリ、即答で解答した所を見ているからこそ出た言葉だろう。

 

「こう言っちゃ失礼だけど、圭一って体育会系で勉強は苦手なのかと思っていたよ」

「ホントに失礼だなぁ」

 

 悟史の言う事に圭一は苦笑いする。確かに圭一は立ち振る舞いや口調からあまり勉強が出来そうな雰囲気は出ていない。実際には雛見沢に来るまでは都内の進学校に通って過酷な受験戦争に身を置いていたのでイメージとは裏腹に勉強はよく出来るのだ。

 

「まぁ、この前原圭一様に任せておけば悟史の一年分の遅れなんてすぐに取り戻させてやるぜ。安心しな。みんなで色々教えてやろうぜ」

 

 そう言って圭一は快活に笑ってのける。釣られて周りのみんなにも明るい雰囲気が広がる。こういう時、みんなを引っ張って行く最初の着火点になれるのは圭一の一番の美徳だ。赤い炎の名は伊達ではない。

 

「勿論、私も悟史くんの勉強は見てあげますよ。お姉よりは力になれると思います」

「詩音、あんたねぇ」

 

 微笑みながらの詩音の言葉に魅音が顔をしかめる。実際の成績ではこの姉妹のどちらが上かは分からないが、少なくとも受験勉強を始める前の魅音は学業の成績は褒められたものではなかった。詩音の方が勉強は出来るのかもしれない、とイメージだけで思った。

 圭一がイメージと裏腹に勉強が出来るのだから、イメージだけで考えてはいけないとも思うものの、雛見沢分校なんていう、こう言うのもなんだが、学校としては二流も三流もいい所(中学生と小学生が全員ごちゃ混ぜで授業を受けている時点でマトモになるはずもない)に通っている魅音より普通の中学に通っている詩音の方が理想的な環境で勉学には励めているだろう。

 

「頼もしいよ、詩音」

「……っ。ええ、任せて下さい、悟史くん」

 

 温和な笑みで悟史から声をかけられ、詩音の頬が赤くなる。何かと大人な印象のある詩音だが、悟史の前ではただの恋する乙女である。その恋が重すぎて、惨劇を引き起こす世界も多かったのだが。

 ……と言う訳で、今日は部活は休止して、居残りで悟史の勉強会を行う事になった。この面子で部活をせずに勉強をするなんてこれまでの世界でも珍しい事だ。

 

「悟史、その方程式はこっちの公式を応用して解くんだ」

「ああ、なるほど。これならぴったりはまるね」

「そうそう。次の問題も同じ形式だからやってみな」

 

 ここで教師として抜群の力を発揮したのは圭一だ。やはり進学校に通っていた学力は凄い。普段は見られない圭一の姿を見られて、みんな大なり小なり驚いているようだ。惚れ直しちゃうじゃない、圭一。

 

「悟史、英語って基本的に主語を抜いちゃダメだから気を付けてね」

「分かった。ありがとう魅音」

 

 魅音の方も圭一に負けていない。受験勉強を頑張っているのは本当のようだ。って、ちょっと詩音。魅音に悟史が微笑んだからって恐い目で魅音を見るのはやめてよね。せっかく惨劇を抜けたのに、また恋煩いが原因で惨劇を起こされては堪らない。それだけ詩音の悟史への想いは大きいという事なのだろうけど。

 

「ちんぷんかんぷんですわ」

 

 そんな中学生たちの勉強会に完全に置いてけぼりを喰らっているのが沙都子と私だ。流石に意味が分からない所が多い。私も長い年月を生きて来たけど、勉強に関しては小学五年生の所でストップして、そこから先に進んでいないから仕方がない。こんな事なら中学生用の教科書や参考書でも買って独自に勉強しておけば、と思うがあの手の本は基本的に高いのだ。いくら入江から援助を受けていたとはいえほいほい買えるものではなかったし、そもそも、惨劇を突破する事だけを考えていたサバイバル気分で常にいたのでのんきに勉強なんてする気が起きなかった。

 

「僕も結構、ちんぷんかんぷんだよ、沙都子」

「みぃ。北条家は勉強が苦手なのです」

 

 北条兄妹が揃って勉強に苦戦しているようだったので、少しからかいの言葉を言ってみる。悟史は苦笑いしただけだったが、沙都子が「梨花ぁ~」と突っかかって来た。

 

「わたくしの学力が劣るなどという事は有り得ませんわ」

「本当にそうなのですか? 夏休みの宿題に大分苦戦していたのです。沙都子は」

「むぐっ。それはそうなのですけれど……」

 

 この分だと将来、受験やテストで苦労するのではないかと老婆心で心配してしまう。この分校にいる間は勉強なんて出来ても出来なくてもどちらでもいいだろうけど。

 

「ははは、沙都子にも俺が勉強を教えてやろうか?」

「余計なお世話ですわ! 圭一さん!」

 

 圭一も乗って来て、からかいの言葉を発すると、沙都子はうがー、と反発する。圭一とマンツーマンで勉強を教えてもらえるのなら私は是非ともそうしたい。そうだ。次の部活で圭一に勝てれば、罰ゲームはそれにしようか?

 常日頃、遊んでばかりいる私たち(自分で言うのもどうかと思うが)としては信じられないくらい真面目に勉強会は行われた。圭一・魅音・詩音は悟史の勉強を見つつ、たまに私や沙都子にアドバイスしてくれて、レナは私と沙都子に小学校の勉強を教えてくれる。

 ありがたい事だが、圭一が魅音と詩音の両手に花なのが気になるわね。悟史もいるからそれは少し違う気がするものの。

 世間の学生たちは当たり前の事なのかもしれないが、私たちにとっては世にも珍しい放課後の過ごし方だった。

 まぁ、たまにはこんな一日があってもいいわよね。勉強は何歳になってもやり始めるのは遅くないって言うし。自分を年寄りだと思うつもりはないのだけれど。

 

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