ひぐらしのなく頃に圭梨   作:山屋

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第62話:悟史と部活

 長らく行方不明であり、実は入江診療所の地下に匿われていて、その後も監督の下でリハビリに励んでいた沙都子の兄貴・悟史がついに退院し、復学した。

 沙都子や詩音、レナに魅音に梨花ちゃんにとってもこの日を待ち望んだ事だろうが、俺・前原圭一にとってもだ。

 俺と悟史の接触って驚くべき少なさなんだよな。なんなんだろうな、これは神様が俺と悟史が一緒にいられないように悪戯しているようにすら覚えるぜ。

 悟史は話に聞いていた通り、温和な性格で俺とはタイプが全然、違うように思えるのだが、不思議と意気投合してしまうのだから人間の相性というヤツは分からない。今は車椅子生活だが、それもすぐに二本の足で歩いて生活出来るようになるだろう、と監督は言っていた(とはいえ、監督としてはまだ悟史に退院は早いという考えであるらしい)。

 ならば、やるのは部活しかねえだろ? 悟史が復学してからしばらくはまだ退院したばかりという事で自重していた俺たちだが、悟史の健康面に問題がないと分かった今、躊躇う理由は存在しない。

 

「よっしゃあ! それじゃあ、今日は部活だぁ!」

 

 大声を上げて、俺が部活の開始を宣言する。レナ、魅音、沙都子、梨花ちゃんの元祖・部活メンバーに新たに加わった下級生たちの一部がやって来て、詩音も悟史の車椅子を押して、馳せ参じる。

 

「この部長! 前原圭一様が仕切るぜ! 今日はなぁ!」

 

 必要以上にテンションを上げて喋る。部活メンバーたるもの常にこれくらいの自信に溢れていなければ務まらない。梨花ちゃんから聞いた話では俺はみんなを盛り上げて引っ張って行く赤い炎とやらの素質を持っているという事なので炎は炎らしく燃え上がるまでだ。

 クールにならず、ホットになる。なんとなく覚えているこれまでの世界の記憶でそうした方が良い結果に繋がる事が多かった気がするのだ。

 

「あはは、元気だね。圭一は」

 

 車椅子に座りながらも悟史は笑みを浮かべて俺を見る。沙都子はため息をついた。

 

「元気過ぎて困るくらいですわよ。にぃにぃ」

「そうですねー、圭ちゃんはちょっとは悟史くんを見習って大人しくしているべきです」

「はっ、女史諸君。大人しくしている俺など前原圭一であって前原圭一にあらず!」

 

 びしぃ、っと沙都子と詩音の方を指差しながら言い切ってやる。

 

「そうなのです。圭一はこれくらいで丁度いいのです」

「お、梨花ちゃん、分かっているじゃないか」

 

 そうだよな、梨花ちゃんなら分かってくれるよな。俺はそう思ったのだが。

 

「馬鹿も突き抜けて大馬鹿になれば何かをやってくれるのです」

「うぐっ、結構、きつい事言うな……梨花ちゃん」

 

 まさか後ろから刺されるとは思ってもいなかった。俺はショックを受けたモーションをする。そんな余裕があるのだから実際にはそこまでショックではないのだが。

 実際、俺自身が俺は大馬鹿だと思っているしな。色々な意味で。

 

「でも、圭一は勉強が出来るよ」

 

 そこに異論を挟むように悟史が言う。確かに俺は勉強はある程度出来るかもしれないが。悟史も復学してからの数日でそれは分かったのだろう。

 

「あのな、悟史。勉強が出来るイコール頭がいい、って事じゃないんだ」

「そうですよねー、圭ちゃん、お姉と一緒で単純ですし」

「ちょっと詩音! おじさんと圭ちゃんを一緒にしないでくれる!?」

 

 詩音が片目をつむり、ニヤリと笑ったのに魅音が激しく抗議する。それはそれでやっぱり心外かもしれない……。

 

「はっ、元・部長の魅音と現・部長の俺が同じである訳あるか!」

「ほーう、言ったね、圭ちゃん。それじゃあ、今日の部活でハッキリさせようじゃないの!」

「望む所!」

 

 俺と魅音の視線がぶつかり合い、火花を散らす。くー、燃えるぜ。やっぱ、部活はこうじゃなくっちゃな!

 

「あはは……お手柔らかに」

 

 悟史はこのノリについて行けないのか苦笑いをしていたが。それでも侮れない。

 

「そう言う悟史も負ける気はないのによく言うのです」

「いやー、僕も罰ゲームは嫌だからね。梨花ちゃん」

 

 温和な性格とは裏腹に悟史も俺たち元祖・部活メンバーに迫るだけの実力を持っているのだ。穏やかな笑みを浮かべたままグサリと後ろから刺して来る、とでも表現しようか。穏やかな気質でありながら勝負事には強いレナに似ているが、レナとも少し違う感じである。

 

「それじゃあ、今日の部活はこいつだ!」

 

 俺はトランプを取り出して、集めた机の上に置く。

 

「トランプですの?」

「みぃ、王道のアイテムなのです」

「それだけに何のゲームをやるのか気になるかな、かな」

 

 みんなの反応もなかなか上々。やはりみんなで遊ぶとなると王道のアイテムだ。トランプは。

 

「ゲームの内容は真剣衰弱だ! 真の頭の良さが問われるゲームだな!」

「をーほっほっほ! 面白そうですわ、圭一さん。わたくしの頭脳を見せてさしあげましょう!」

「むぅ、これは頭を使いそうだ」

 

 北条兄妹が正反対の反応をする。望む所という勢いの沙都子に対し、苦い顔の悟史。

 

「……羽入に頼る反則はもう使えないからね。使う気もないけど、元より」

「あれ、何か言った? 梨花ちゃん」

「みー。なんでもないのですよ、レナ。にぱー」

 

 周りのやり取りを気にせず、俺は部活の進行をする。

 

「それじゃあ、全員、配置に付け、シャッフルは……」

「悟史くんにやってもらいましょう。圭ちゃんやお姉に任せたらどんなイカサマをされるか分かったもんじゃないですし」

「ちょっと詩音! 真剣勝負でイカサマなんてしないよ!」

 

 詩音の言葉に再び魅音が抗議する。俺としてもイカサマをする気はなかったので心外だ。

 しかし、魅音はただの水鉄砲勝負に高価な水鉄砲を持ち込んだ事もある。信用出来ないという気持ちは分かる。

 

「言っておくけど、園崎姉妹に北条兄妹! 兄妹姉妹だからって協力したりはなしだぞ!」

「それくらい分かっておりますわ!」

「真剣勝負だろう、圭一。僕も一人で戦えるよ」

「私は元々、お姉と組む気はありませんし。悟史くんとなら考えますが」

「望む所! 勝負だよ、圭ちゃん」

 

 否応なしに盛り上がる教室。これがあるから部活はやめられないぜ。夏の暑さにも負けない熱で俺たち全員から炎が立ち昇っているかのようだ。

 

「ははは! 熱くなって来たなぁ! 梨花ちゃん!」

「でも、神経衰弱は冷静にやった方が勝てると思うのですよ」

「……ま、まぁ、それはそうかもしれないが。俺たちの場合は熱血神経衰弱だ!」

 

 自分で言っておいてなんだが、熱血神経衰弱って何だろう。

 

「神経衰弱って経験がある程度、物を言うゲームだってレナは聞いた事があるよ」

「ならおじさんたちが圭ちゃんや悟史に負ける訳にはいかないねぇ、レナ。おじさんたち最古参メンバーが」

「言ったな、魅音。俺だって負けねえぞ」

「あはは、お手柔らかに」

 

 盛り上がる俺たちの一方、悟史は少し引き気味に笑っていたが、勝つ気がないという訳では一切なさそうであった。

 そしてこの勝負で俺たちは悟史の底知れなさを知る事になる。

 なんでそんなに分かるんだってくらいずばずば当てて、大差を付けて一位になりやがったのだ、悟史は。

 本当に温和そうな表情に見えて、中にライオンを飼っているような男だぜ、悟史は。

 その妹の沙都子はどうやら頭の回転が少々鈍いらしく低い順位に甘んじてしまったのであるが。

 

「わたくしがにぃにぃにメイドとして尽くすのですの!?」

「あはは。なんだかよく分からない状況だね、沙都子」

「もう……にぃにぃはそんな顔して楽しんでいらっしゃるのでしょう!?」

 

 北条兄妹の仲がいいようで何よりと思うのは俺だけではないようでレナも魅音も詩音も梨花ちゃんも温和な表情で二人を見つめていた。

 それにしても悟史はなかなかの強力なライバルになりそうだ。

 俺も負けないようにますます腕を磨かないといけないな。

 

「沙都子~。羨ましいですよー。私も悟史くんの面倒を見たかったなぁ」

「俺の面倒を見るのが嫌みたいな言い方はよせ詩音」

「悟史くんに比べたら、そりゃあ圭ちゃんじゃ、ねぇ?」

「ねぇ、じゃねえよ」

 

 くそ。詩音が悟史LOVEなのは分かっているが、こうも露骨にされると腹が立つな。

 

「なんだったら交換しませんこと、詩音さん」

「それはいいですね、沙都子。沙都子が圭ちゃんの面倒を見て、私は悟史くんを……それでいきましょう」

「え、ええ!?」

 

 悟史が驚きの声を上げる。俺としても予想外の展開だ。

 

「ちょっと現部長! そんなの許していい訳~!?」

 

 魅音から野次が飛ぶ。こ、これはどういう状況だ?

 

「みぃ……沙都子、まさか……」

 

 梨花ちゃんも意味深な目で沙都子を見るし。

 何がどうなっているんだ……?

 

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