ひぐらしのなく頃に圭梨   作:山屋

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第63話:恋の鞘当て

 冗談じゃない、というのが私の最初の感想だった。

 この部活で下位だった者は上位の者に尽くす。それ自体は別にいい。部活である以上、それくらいは当然だ。

 で、それで沙都子が兄の悟史に尽くし、詩音が圭一に尽くす。これなら問題ない。なんの問題もない。

 北条兄妹が兄妹の間柄を超えた関係になる事など有り得ないし、詩音は悟史一筋。断じて圭一に浮気する事などない。これに関しては100%言い切れる。

 だから詩音なら圭一に尽くす相手としては安心出来る。これがレナや魅音だったら、圭一の心を奪ってやろうと企みかねないので私としては気が気でない。

 しかし、沙都子と詩音が入れ替え? つまり沙都子が圭一の面倒を見る……?

 

「みぃ。沙都子は圭一の面倒をみたいのですか?」

「そ、そんな訳はありませんことよ、梨花」

 

 相変わらずの変な言葉遣いで返されたが、そこに露骨に慌てている様子を私は敏感に感じ取っていた。100年の付き合いの親友だ。それくらいは分かる。

 

「へっ、沙都子。そんなちんちくりんで俺の面倒が本当に見れるのか?」

「むきー! おっしゃいましたね、圭一さん! わたくしが圭一さんの面倒を見てレディとしての魅力で魅了してさしあげますわ!」

「ははは、沙都子じゃなぁ。お前がレディなんて年かよ」

「何をおっしゃいますの! わたくしは立派なレディですわ!」

 

 圭一は相変わらず深く考えていないようで楽しげに笑う。私としては笑える気分ではない。

 まさか沙都子も圭一の事が……。いや、それは有り得る話だ。圭一を兄の悟史に代わって兄のように慕うようになる世界もこれまでにはあった。ならば、また圭一を慕うようになる事も可能性としては充分有り得るのだ。

 そして、その感情が発展しないかなどと誰が断言出来ようか。発展。そう恋に、だ。

 沙都子までライバルになられては面倒な事になる。さらに今、沙都子は圭一の面倒を見るという名目で圭一から好感度を上げるアドバンテージを獲得しているのだ。これは放っておけない。

 

「みぃ。甲斐性なしの圭一の面倒なんて見る必要はないのです、沙都子」

 

 さりげなく私がやめるように言う。本当にさりげなく。

 

「い、いえっ、り、梨花。部活の罰ゲームは絶対なのですことよ」

「それなら当初の予定通り、悟史の世話をすればいいのです」

「そ、それは、詩音さんにお譲りしましたし……」

 

 なんだ。

 私が訊いてみると沙都子は露骨に動揺した。

 まさか、本当にやりたがっているのか。圭一の面倒を見るという事を。

 

「まぁ、こうなった以上、俺も沙都子で我慢してやるぜ」

「むきー! 沙都子で、とは何ですの! 圭一さんは何様になったおつもりですの!?」

「部活の勝利者様だ! がーはっはっは!」

 

 楽しげに笑う圭一。沙都子はそれに不服そうにしているが、内心では喜んでいるのが分かった。

 

「う、うーん。魅ぃちゃん。これっていいのかなぁ?」

「どうなんだろうねぇ、おじさんもよく分からないなぁ」

 

 レナと魅音もこの事に困惑している。こんなルール破りを認めていいのか。天下の雛見沢分校部活が。

 

「私としては悟史くんの面倒が見れて大満足です」

「あ、あはは……」

 

 心の底から満足感を溢れさせている詩音に少し引き攣った笑いを浮かべる悟史。悟史。あんたもなかなか重い愛を背負っているわね……。

 

「そ、それなら!」

 

 とはいえ他人の恋路に気を取られている暇はない。ここで後れを取るのはまずい。そう直感的に思った私は既に声に出していた。

 

「ボクも圭一の面倒を見るのです!」

「ええ? 梨花ちゃんが?」

 

 いきなりの宣言にみんな鳩が豆鉄砲を食ったような顔で私を見る。反応したレナの言葉に私は畳みかける。

 

「そうなのです」

「でも、梨花ちゃんは今回の部活では上位だよ?」

「魅ぃ。沙都子一人に任せておくのは心配なのですよ」

 

 本当半分嘘半分で私はそう言う。実際、心配なのは間違いがない。ちゃんと面倒がみれるのかとかそういう所とは全く別の心配だけど。

 

「わたくしに任せて何が心配ですの!」

 

 その言葉は沙都子の気分を害したようだ。怒ったように私に詰めよる。

 

「みー。きっと圭一は普段憎く思ている沙都子が自分の思い通りになると知ればあんなことやこんな事を要求するのです! それは沙都子の親友のボクとしては見過ごせないのです」

「あんなことやこんなこと……」

「圭一くん! ダメだよ!」

「ぐへぇっ!?」

 

 何故かレナパンが繰り出され、圭一が殴り飛ばされているが、この際、そちらに構っている余裕はない。いや、圭一に関する事なら構わないといけないのか。

 こういう時こそ普段からキャラを作っている成果が出る。私は吹っ飛ばされた圭一の近くまでとてとてと駆け寄るとその頭を撫でた。

 

「圭一。かわいそ、かわいそなのです」

「うう……ありがとよ、梨花ちゃん。沙都子じゃなくて梨花ちゃんなら面倒見られてもいいんだけどなぁ」

「え……」

 

 それは深い意味があって言った言葉ではないだろう。それくらいは分かる。軽口の一つだ。

 それでも私の心はその言葉に大きな脈を打つ。

 

「なんですの! わたくしでは不満だと言いたいんですの!」

「不満も不満、大いに不満だな。沙都子なんてちんちくりんじゃ」

「梨花だって、わたくしと同じようなものではありませんか!」

「お、自分がちんちくりんと認めたな?」

「そ、そういう訳ではありませんわ。揚げ足を取らないでくださいまし! 男としての器量が知れますわよ!」

 

 この二人は喧嘩しているように見えるが、喧嘩する程、仲が良いというヤツだ。やっぱり沙都子も圭一を好いている。それはこれまでの世界でも当然の事だったが、問題はそれがライクかラブか、だ。

 

「はっはっは、俺の器量は底知れずだ」

「よくそうも大言壮語を……」

 

 うーん、沙都子は苦い顔をしているが、私としても圭一の器量は底知れずだと思うのよね。

 何をするか分からない不確定要素の塊。繰り返す世界の中でも最大のイレギュラー。

 それに助けられた事もあれば、苦しめられた事もあったけど……今となって私も圭一の事を好いている気持ちの方が圧倒的に強い。

 100年一緒にいても飽きないのだから、これから先、圭一と一緒にいられればきっと楽しい人生だろうと思える。

 

「みぃ。とにかくボクも圭一の面倒を見るのです」

 

 これは決定事項だ。誰にも文句を言わせない。

 そのプレッシャーを凄ませて、私は言い放つ。長い付き合いの仲間たちなら私の本気が分かるはずだ。

 

「む、むぅ、梨花ちゃん。なんかすごいね」

「梨花ちゃまは初めからすごいですよ、悟史くん」

 

 悟史は少し驚いているようだったが、レナも魅音も仕方がないという顔になる。

 

「とりあえず今回は梨花ちゃんと沙都子ちゃんに任せようか」

「そうだね、レナ。圭ちゃん。梨花ちゃんや沙都子に変な事したら承知しないわよ」

「爪五枚剥ぎですね」

 

 レナが笑顔でいい、魅音が笑いつつも睨みを利かせ、詩音が脅す。圭一は気圧されて「お、おう……」などと声を返す。そういうヘタレな所も圭一の一面だ。人間である以上、美点だけではなく欠点も持っているのが当然。

 私の母が娘の私に対して、ヒステリー気味に接する事もあったけど、本当は私の事をちゃんと愛していたように。

 あら、なんだかしんみりした話になっちゃったわね。

 気を取り直すべく私はいつものニパニパ口調で圭一に話しかける。

 

「面倒を見てあげるのです、圭一。衣装は前に入江に用意してもらったメイド服なのです」

「お、おう……? ホントにいいのか?」

「ボクがいいと言っているのだからいいのです。オヤシロ様の生まれ変わりのボクに文句を言ったら罰が当たるのです」

「そいつは恐いな」

 

 圭一も笑みを浮かべる。沙都子はどこかよく分かっていない表情。

 ともあれ、これで先の予定は決定したのだった。

 

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