ひぐらしのなく頃に圭梨   作:山屋

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第64話:梨花と沙都子

 

「梨花ぁ~、なんであんな事を仰いましたの?」

 

 その日の帰り道。沙都子は今は悟史と共に北条家の家に住んでいるので本来は帰る方向は違うのだが、せっかくだし、家まできてお茶でも飲んでいったら、と北条兄妹に誘われ、その提案を受け入れる事にしたのだ。

 

「あんな事とは何の事ですか、沙都子」

「勿論。圭一さんのメイドをするなんて事ですわよ」

「あれは……」

 

 沙都子一人にそんな事をさせては圭一の気が移ってしまうかもしれない。そんな本音を告げる訳にはいかない。

 圭一の心が移ろいやすいのはこれまでの世界で知っている。レナと相思相愛になった世界もあれば、魅音とそれの一歩手前にまでいった世界もある。兄として、沙都子を大切に思うようになった世界もある。

 そんな中で沙都子一人に圭一と接しさせてしまえば、どうなるか分からない。私としては私が圭一の相手になりたいという強い想いがあるのだから、そんな事を見過ごす訳にはいかないのだ。

 

「あはは、梨花ちゃまは沙都子の事が心配なんですよ、圭ちゃんにあんなことやこんなことをされないかって」

 

 少し勘違いした様子で悟史の車椅子を押す詩音が笑う。それを聞いて悟史は「むぅ」とうなった。

 

「圭一はそんな人なのかい?」

「酷いお人ですわよ、にぃにぃ」

 

 悟史の質問に沙都子は辛辣な答えを返すが、その声音から本気で嫌っている訳ではないと察したのだろう。悟史が笑みの形を変える事はなかった。

 

「そっか。それなら梨花ちゃんにも一緒についていてもらった方が安心だ」

 

 冗談めかして悟史もそんな事を言う。今頃、圭一はくしゃみでもしているのかしら。

 

「そんな必要はありませんというのに……わたくし一人で充分ですわ」

「みー、ボクが沙都子を守るために一緒に行きたいのです」

「梨花ちゃまがここまで言うんなら仕方がないですねぇ」

 

 詩音にしては脇が甘い物言いだと思うが、悟史と二人きりになれる口実を見つけた事で気が緩んでいるのかもしれない。

 そうして北条家に着くが、ここからがやはり大変だ。

 北条家は車椅子の人が生活する事を想定して作られてはいない。今は車椅子生活の悟史は誰かの介助がなければ家に上がる事も出来ないのだ。

 その役目は勿論、詩音が担う事になる。

 

「悪いね、詩音」

「いいんですよ、悟史くん。悟史くんのためならこの園崎詩音。火の中、水の中!」

 

 ちょっと申し訳なさそうに言う悟史に詩音が笑顔で答える。詩音なら本当に火の中にでも飛び込みそうね。悟史絡みなら。

 

「にぃにぃももう少しすれば自力で歩けるようになるのでしょう?」

「入江はそう言っているのです」

 

 沙都子の疑問に私が答えてやると悟史は苦笑いした。

 

「早くそうならないとね。いつまでも詩音や他のみんなに迷惑はかけられないよ」

「迷惑なんてとんでもない。悟史くんのためなら……」

「火の中、水の中、なんでしょう。詩音さん」

 

 詩音の台詞を先読みして沙都子がやや呆れ気味に言う。合法的に悟史の体に触ったり色々出来る分、詩音にとっては悟史はまだ車椅子生活の方がいいのかもしれない。

 

「それより梨花。わたくしの部屋に来てくださいますこと?」

「みぃ?」

 

 急に沙都子がそんな話を振ってきて私は疑問に思ったが、特に断る理由はなかった。

 

「それでは詩音さん。お客様の貴方にお願いするのは心苦しいのですが……」

「分かってますよ、沙都子。全員の麦茶、淹れておきます」

 

 客に出すお茶を人任せにしてまで私と二人きりになりたいとは何の用だろう。

 これから圭一の面倒を二人でみる事に関してだろうか。

 私のその予想は当たらずとも遠からずであった。

 

「さて……」

 

 沙都子の部屋に久しぶりに上がり込む。私にとってはかなり前の記憶になるが、この世界基準では去年までは普通に沙都子が住んでいた部屋だ。私がなつかしさを感じるのとは対照的にそこまで部屋の方は変わりなかった。当然、しばらく放置された分、少し痛んでいるのだが私の体感時間とのずれがやはりある。

 

「まどろっこしいのは嫌いなので、単刀直入に申し上げますわ、梨花」

「みぃ? なんなのです、沙都子」

 

 私の方を真っ直ぐに見て、沙都子はふざけた様子を見せず、真剣そうに言う。そんな態度を取られたらニパニパと茶化す事も出来ない。

 

「……梨花。圭一さんの事を好いていらっしゃいますでしょう」

 

 その言葉は大きな槍となって私の胸をグサリと貫いた。いきなりの衝撃の大きさ。想定外の衝撃に私はしばらく固まってしまった。

 

「沈黙は……肯定ですわね」

 

 そんな私の態度を見ていて沙都子は察したように言う。

 ああ、私とした事が不覚。こんな事で沙都子に本心を知られてしまうなんて。

 

「あう、あう、あう……その、沙都子……」

 

 何故かあいつの口調が出てしまう。端的に言ってこの時、私はパニックになっていた。

 

「最近の梨花を見ていれば分かりますわ。わたくしは梨花の一番の友達なのですわよ?」

「そ、そうなのですか……そうなのです……」

「梨花は本当に圭一さんの事を?」

「そうなのです……そうなのです……」

 

 まるでL5を発症している時の状態のように同じ言葉を繰り返す私。何故、バレた、なんて質問の答えは既に沙都子が話している。

 沙都子は私の一番の友達だ。その沙都子なら、確かに分かってしまうかもしれない。

 

「まぁ、わたくしだけではなくレナさんや魅音さんも察しがついているとは思いますけど」

「みぃ!?」

 

 そ、そうなのか。レナは勘付いているとは思ったが、魅音もなのか。私の心は仲間たちにはバレバレだと言うのか。

 

「で、では……もしや圭一も?」

「ああ。それは問題ありませんわ。いえ、この場合問題あるのかもしれませんが。圭一さんは全く梨花の心に気付いておりませんわ」

 

 確かに問題ないようで問題大ありだと言えるだろう。

 私のこの想いはいずれ圭一に伝えないといけないものだ。そのためのアプローチを6月の惨劇を突破してから行ってきたものの、成果には乏しいというのが本当の所だ。あの、鈍感男……! その察しの悪さでよく口先の魔術師なんて名乗れるわよね。

 

「みぃ。降参なのです。沙都子にはなんでもお見通しなのです」

「当然ですわ。こんな事。わたくしの千里眼をもってすれば……」

 

 自慢げに沙都子が笑う。一本取られたわね、これは。

 

「それで用はそれだけですか?」

「いえ、ここからが本題ですわ」

 

 本題。なんだろう。私は少し緊張して身構える。

 

「わたくしと梨花は友人でしょう」

「そうなのです」

「ですから、友達の恋路は応援しようと、わたくしは思っておりますの」

「みぃ!?」

 

 それもまた衝撃。沙都子が私の恋を応援してくれる? そんなのこの百年で初めての事じゃない!

 私はらしくもなく動揺してしまった。

 

「梨花、落ち着いてくださいませ」

「ボ、ボクは落ち着いているのです。あぅあぅあぅ……」

 

 クールになれ、クールになるのよ、私。100年を生きた魔女の私がこの程度の事で平静を乱すなんて……。

 

「まぁ、その様子から梨花が圭一さんに対して抱いている想いはそれだけ真剣なのだと分かりましたわ」

「みー」

 

 沙都子に対して私は生返事をするしか出来ない。

 

「梨花。分かっておりますの、事は難題ですわよ?」

「そ、それは分かっているつもりなのです」

「圭一さんはご存じの通り、鈍感朴念仁。それに加えてレナさんと魅音さんも圭一さんに好意を向けている。この状況は梨花にとって危機的状況ではなくて?」

「それも、そうなのです……」

 

 言われてみれば全てにおいて沙都子の言う通りだ。

 今の私の周りの環境は危機的状況と言って言い。

 前原圭一という男の心を射止めるためには。

 

「みぃ……」

 

 どうすればいいのだろう。らしくもなく私は情けない声を出してしまう。そんな私とは対照的に沙都子は元気に笑った。

 

「……ですから、わたくしが梨花の手助けをしてあげますわ!」

 

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