チームハダルとそれにまつわる短編集   作:FlankerのFnキー

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破壊神シドーを倒したので、亡き父の遺志を継いで魔王バラモスを倒す旅に出ていたため更新が遅れました。


これまでに起きた3つの出来事
1つ、
グラスと2人で感謝祭を回ることになった!
2つ、
グラスをサボり部屋に招待した!
3つ、
彩雲春から桐生院葵に謎の警告をされた!


グラスとファン感謝祭と迷子 その2

 

やはりというか、グラスはとてつもなく強かった。場にある札から詠まれる上の句を予測し、詠まれた上の句を判別した瞬間に高速で札を獲る。百人一首の句をだいたい覚えているからこそ出来る芸当だろう。じゃあ、展開はグラスの圧勝かというとそれは違う。俺とグラスは一進一退の攻防を繰り広げていたのだ。グラスに近い札はグラスに取られ、俺に近い札は俺が取った。これだけ言うと俺が凄いみたいに聞こえるが実際は……もっと凄い。俺はグラスと違って百人一首の句を覚えている訳じゃない。そんな俺がグラス相手にどうやって互角に戦ったのか?答えは『目線で獲る札を予測する』だ。どういうことか?簡単な話、句を覚えていないなら覚えている人に教えて貰えばいいのだ。目線からグラスが獲ろうとしている札を探知してグラスよりも先に手をつける。いくら、ウマ娘とはいえど、反射神経ならばヒトでも張り合うことが出来る。素早く予測して、グラスより先に動く。これでグラスとちゃんと互角の勝負が出来るのだ。……そう、出来ていた。後半、場の札が少なくなったことを良いことにグラスは俺を完封するべく、目隠しをするという行動に出た。流石に俺も驚いたが、予測要素を目線から腕の動きにシフトしたが、これでは大きく俺の行動が遅くなるのは当たり前、さらにタネを理解したグラスによるフェイントにより後半戦にて俺はグラスに完全敗北してしまった。

 

「百人一首でここまで苦戦したのは久しぶりです。楽しかったのでまたやりましょうね、トレーナーさん」

 

「終盤、1枚も獲らせなかったのに楽しかったって……しょうがない、こうなったら一切句を覚えないでグラスに勝つ方法を考えるか。」

 

「素直に覚えるのをおすすめしますよ~それに和歌を知ると世界が美しく見えますから」

 

残念だが、俺はそんな風流な心は持っていない。

 

「嫌だね。グラスに普通の勝ち方で勝っても面白くない。」

 

「ふふ、では楽しみに待っていますね」

 

それにしても、百人一首でここまで疲れることになるなんて……

 

この経験は『八方にらみ』の対策に活かせるかもしれないな。

 


 

その後、ギャラリーたちにグラスの相手をやってもらおうと呼び掛けると意外にもニット帽をかぶった俺とグラスの勝負で賭け事していたウマ娘が名乗りを上げ、カフェテリアの食事券を賭けた熱い戦いを繰り広げことになった。勝ったのはもちろんグラスだ。

 

「負けたか。やっぱり、あんたらは面白いな」

 

「「?」」

 

ニット帽のウマ娘の勝負後の評価曰く、俺たちは面白いらしい。でも、俺たちはこれからもっと面白くなるから待っていてくれ。

 

ブゥーーーーン

 

「あ、お昼ですね」

 

「だな。少しお腹空いたな。」

 

あんまり、表に出たくはないがお昼ご飯のためなら是非も及ばず。今日は学園祭だし、焼きそばがあるばすだ。それにしよう。

 

「グラスはお昼どうする?俺は焼きそばを買いに行くからグラスのお使い頼まれるぞ?」

 

「焼きそば…和とは違いますけどそれも日本の味。私も焼きそばが良いです」

 

「分かった。じゃあ、行ってくる。ここは騒がしいかもしれないが待っていてくれ。」

 

「駄目です。」

 

「へぁ?」

 

「私も行きますよ。トレーナーさんを一人にしておけませんから」

 

「うぐ…何で皆して俺の保護者面するんだ…?」

 

おかしい、俺はクールで頼れる悪役なのに…お兄さまなのに…

 

「今日は私がトレーナーさんを見張っておくと、皆さんにも言ってありますから~」

 

えぇ、その見張り役ってチーム公認なの?

 

「分かった、分かったよ。車椅子のロックを外してくれ。」

 

連れていけと言われた以上、俺はグラスを連れていくしかない。焼きそば持って、ここまで帰ってくる手間が省けたと思うことにしよう。

 

「はい」

 

おすぞー、とグラスに確認を取ってからゆっくりと車椅子を押して部屋を出る。その間際だった。

 

「おい、春雲」

 

「何だ?」

 

「お前もグラスも、もうここに来るなよ。多分、ここにいるヤツの総意だ」

 

「来させないさ。」

 

副生徒会長からのありがたいお言葉を頂き、俺たちはサボり部屋を後にした。……いや、俺は来ても良くない?

 


 

「流石に疲れるわね…」

 

本日、キングヘイローは一緒に回ろうというハルウララの誘いを断り一人で学園祭をぶらぶらしていた。目的はただ1つ、出来る限りお母様の目に自分が止まるよう学園を訪れた記者やファンにアピールすることだ。結果はそれなり、といったところ。彼女はジュニア期G1バだ。ファンがいない訳じゃないので歩いていれば、ファンから声をかけて貰える。そして、ファンサービスをSNSに上げて貰えば、お母様の目に映るという寸法だ。しかし、記者の方は結果は彼女の欲しいものではなかった。お母様のこと、同期のこと、チームメンバーの怪我のこと……ある意味、キングヘイローに対する取材はなかったのだ。それでも、彼女は記者に対して答えられることは答えた。次の皐月賞、勝った時の予行でもあり、記者の印象をよくするためである。彼女の所属するハダルには記者の印象が悪いとどうなるのかという反面教師がいるのでチームハダルにおいて記者の対応はかなり慎重だ。気を使いながら、それなりの記者を相手にしたのだ。流石のキングヘイローも疲れてしまう。

 

「おい、そこの試験中にペン全部落としちまったヤツみたいな顔をしてるオマエ。焼きそば食わねぇか?」

 

「…へ?」

 

「へ?じゃねぇ、アタシの焼きそばを食べろ」

 

「い、いきなりなんなの?」

 

(キングヘイローのお腹の虫が鳴る音)

 

「けっ!やっぱり、アタシの焼きそばが食べたいんじゃねぇか!もっと、自分に正直にならないと火星で痛い目みることになるぞ!?」

 

「違うわよっ!別にあなたの焼きそばが食べたい訳じゃないわ!ただ、少しお腹が空いてただけ!」

 

時刻はお昼時、キングヘイローの腹が鳴るのも是非も及ばず。

 

「うっせぇ!ぐだぐだ言ってると部屋に大量のキュウリ送りつけっぞ!?」

 

「ウララさんとスペさんとグラスさんが食べるからそれは貰っておくわっ!」

 

「何だって!?ウマ娘がキュウリを食べるのか!?くそっ、こうなったらニンジンもつけてやるっ!」

 

「ありがとう、感謝するわっ!」

 

「流石、キングヘイローだな。やるじゃねぇか」

 

「全く訳が分からなかったけど、一流だからこれも当然よ」

 

「で、焼きそばは食うか?」

 

「…貰うわ」

 

「ほらよ」

 

「いただきます」

 

「……何で目の前に焼きそばがあるのにビュレットの実験失敗したみたいな顔してんだよ」

 

「何よ、その顔…」

 

「鏡見るか?」

 

「止めておくわ」

 

「…なぁ、そのこだわりは本当に必要なのか?」

 

「一流はこだわりじゃないわ、私の有り様よ」

 

「そっちじゃねぇよ。あんたのその親がどうとかのこと」

 

「…私が一流であるために通らなければならない道よ。口を出さないでちょうだい」

 

「そうか……アタシも雪も桐生院も皆、正しい母親との付き合い方なんて知らない」

 

「……」

 

「アタシにとっては母親から…まわりの評価なんてどうでも良かった。面白いレースが出来ればそれで良かった。アンタだって、アンタの在りたい有り様でいられれば良いんじゃねぇか?」

 

「私の一流は…お母様のことを何とかして、やっと完成するの。いつまでも、お母様とこんな関係を続けているなんて一流じゃないのよ」

 

「そうか…じゃあ、アタシから言うことはねぇや。悪いな、アタシらしくない焼きそばの不味くなる話だったわ」

 

「心配として受け取っておくわ」

 


キングヘイローの体力が回復した!


 

「なんか今、変なカットイン入らなかったかしら?」

 

「気のせいだろ」

 


 

焼きそばを食べた後、人気のない庭(いわゆる、メソメソポイント)を二人で散策する。人気のないと言っても、ここにもニシノ神様と女帝殿が整備している花壇があるので季節の感じられる良いポイントだ。

 

「トレーナーさん」

 

「ああ。」

 

で、本日は何度でも言うが学園祭。本来なら今日ここに用があるヤツは滅多にいない。にも関わらず、このメソメソポイントのどこかでメソメソしているウマ娘がいた。

 

「学園の生徒じゃありませんね。ということは」

 

「見た目と状況的に迷子だな。」

 

「ですね。行きましょう」

 

あんまり、学園外のそれもトレセンに入る前ぐらいの年齢のウマ娘とは関わりたくないがそうも言っていられない。

 

「そこの可愛らしいウマ娘さん、ここでどうしたんですか?」

 

「グスッ……!…トレセン学園のお姉さん…?」

 

「はい、そうですよ~グラスワンダーと申します。こちらは私のトレーナーさんです」

 

「グスッ…グスッ…」

 

俺の紹介もグラスがしてくれたのであやすのはグラスに任せて俺は必要な情報を聞くとするか。

 

「泣かないでもう大丈夫ですよ。お姉さんとお兄さんがついてます」

 

グラスが落ち着かせてくれたのを見計らって質問していく。

 

「少女、名前は?」

 

「え、えと…サトノダイヤモンドです」

 

サトノ…?確か、青いハリネズミが走るゲームの会社の親会社だったっけ?弱肉強食の大自然で、幾千もの針を纏い生き抜く獣がレスキュー剣山!ってね、はは。……ああ、名家の子かぁ。嫌だなぁ。

 

「親はどうしたんだ?はぐれちゃったのか?」

 

「ううん、お父さまとお母さまとは来てないです」

 

おい、いくらウマ娘とはいえ、こんな可愛い子を付き人無しで放ったらかしていいのか?

 

「もしかして、お友達と一緒だったんですか?」

 

「はい…キタちゃん…キタサンブラックっていう友だちがはぐれてしまって…それでさがしていたら私もわかんなくなってしまったんです」

 

そこは素直に自分も迷子になったと認めろよ。まぁ、そのキタサンブラックという(名前からして)ウマ娘が先にはぐれたなら自分が迷子になったとは認めたくないものかもしれない。事実は知らないが。まぁ、いいや。さぁ、どうする?

 

「そうなんですか…それは早く、そのキタサンブラックちゃんも見つけてあげないといけませんね」

 

「そうだな。とりあえず、運営本部に行こう。この学園はお節介が多いから少女の友人も誰かに助けられてるだろ。」

 

本部に行くとなると確実に人目の多い場所を往くことになるが文句も言っていられない。

 

「…トレーナーさん、気になったので聞きたいんですが…」

 

グラスにちょいちょいと耳をかせとのことなのでしゃがみこんでグラスの口元に耳を寄せる。

 

「トレーナーさんの領域で迷子のウマ娘を探すことって出来ないんですか?」

 

「いや、1回も会ったことがない奴と繋げるなんて出来ない『あら、そのダイヤさんは私のファンですの?では、会ってたくさんファンサービスしなければいけませんわね』……出来た。」

 

この声と話し方…メジロマックイーンだな。

 

「あら、出来たんですか?ふふ、何事も言ってみるものですね」

 

「確かにやってみるもんだな…」

 

初めて繋げるのに…はライスの時もだったけど、こんな遠距離で繋がるって…どういうことなんだ?メジロ家とマルゼンスキーのソウル関連のウマ娘は特別繋げやすいのか?それとも、試行回数が少ないだけで本当は繋げやすい方が多数派なのか?

 

「…?…繋げる?」

 

げ、このウマ娘、メンコしていないから大丈夫だと思っていたのに聞こえていたか。それなりに長いことトレーナーやっているのにウマ娘の聴力を無礼ていたか。

 

「何でもない。それより、友人が見つかった。」

 

「本当ですか!?」

 

会話から位置も判別出来た、走ればすぐに会えるな。

 

「グラス、飛ばすからしっかり掴まっておいてくれ。行くぞ、サトノダイヤモンド。」

 

「え、はいっ!」

 


 

「サトノダイヤモンド、君は差しウマだろ?」

 

「え?まだ、よくわからないんですけど…」

 

共に走っているのでサトノダイヤモンドの能力は既に把握した。

 

(トレーナーさんが子どもとはいえ、ダイヤちゃんと一緒に走れていることは誰も気にならないんでしょうか~?)

 

「今から目の前の人混みに突っ込む。差しウマならしっかりついてこい。」

 

正直、車椅子を押しているから楽ではないかもしれない……まぁ、5秒ぐらい問題ないだろう。タイマーを動かす。

 

「花火の中に突っ込むぞ。」

 

5

 

グラスたちにはどう見えているのだろうか?

 

4

 

俺には時が止まったかのように見える世界を駆ける。

 

3

 

車椅子が通れるだけの隙間とそこから人混みを抜けるルートを探し、ルートを判断。

 

2

 

定まった瞬間に勘を信じて突っ込む。

 

1

 

「グラス、怖い差しは外だけじゃなくて、内からも来るぞ。」

 

0

 

俺たちは人混みを抜けた。そして…

 

「…!キタちゃんっ!」

 

俺とグラスの横を小さな影が駆けていき、目の前に現れた黒いウマ娘に抱きつきに行った。

 

「くそぉ、差されたかー」

 

「……トレーナーさん、私の怪我が治ったら私と走ってくれませんか」

 

「拒否しておく。本気のグラスに追われて平気な肝は持ってない。」

 

「それじゃあ、ダイヤちゃんが狡いです。私もトレーナーさんと走りたい。私にそう思わせたんですから責任とってください」

 

なるほど、己の闘争心に火をつけたからそれを鎮火しろと。

 

「それにトレーナーさん、とっても楽しそうでした」

 

「…わかったわかった、400mなら付き合ってやる。」

 

グラスの非難の目とウマ娘のお願いなので俺はしぶしぶ了承してしまう

 

「いきなり、飛び出してきてびっくりしたよー!」

 

「春雲さん、あなたがダイヤさんを見つけてらしたんですね。でも、どうやってここまでこれたんですの?」

 

どうやら、キタサンブラックを保護していたのはメジロマックイーンだけでなくトウカイテイオーも一緒だった。こいつら、本当に仲が良いな。もちろん、最後の質問には機密なので教えられない。

 

「俺の勘はよく当たるんでな。」

 

「それって、春雲のロリコンセンサーじゃないの?」

 

「かぶとわり。」

 

頭頂部にアクセラーで手を抜いた会心の一撃をいれる。ウマ娘の体はヒトよりは丈夫だし、これぐらい問題ないだろう。

 

「うぎゃあぁっ!ナニするのさー!!!」

 

「誰がロリコンだ、誰が。あと、ロリコンなんてそんな言葉使うんじゃないっ!」

 

だいたい、俺の好みは……どんなのだ?おい、グラス。その目線は何だ?グラスまでそんなこと言うのか?止めてくれよ。

 

「あのトレーナーさん、マックイーンさん、ありがとうございましたっ!」

 

「年上として、当然のことをしたまでですわ。それよりキタさんに聞きましたわ、ダイヤさんは私のファンなんですって…何か私にしてほしいことはありませんこと?」

 

「えっ!?良いんですか?」

 

「もちろんですわ、最近はレースに出れていませんから…こういうファンとふれ合える機会を逃すわけにはいきませんもの」

 

メジロマックイーンはアレを発症して治療後、テイオー同様に1年に限られた数のレースにのみ、出走している。表には出ているが今はシリウスのサブトレーナーのような存在。本人の言う通り、ファンサービスの機会は少なくなっているのだろう。

 

「さて、俺たちの役目は終わったし…グラス次はどうする?」

 

今はまだ、俺たちは帝王と名優を前にすると脇役だ。役割の終わった脇役は場に長居は出来ない。

 

「どうしましょうか…」

 

「ふっふっふーおもしろいこと思いついちゃったー」

 

場を去ろうとする俺たちの前にいきなり立ち塞がったのは帝王様。うわ、すごく面白くなさそうな提案をしてきそうな顔をしているよ。

 

「邪魔だ、トウカイテイオー。また、頭に一閃いれるぞ?」

 

「うげ、それはやめてよー!ふふん、別にボクのことを無視してどっか行ってもいいよ?けど、春雲は絶対に立ち止まっちゃうと思うなぁ?」

 

「そうか。じゃあ、無視する。行くぞ、グラス。」

 

トウカイテイオーの横を素通りして、これからどこに行こうかとグラスと相談する。しかし、それなりに良い聴覚を持った俺の耳は後ろの会話をしっかりと聞いていた。

 

「ねぇねぇ、ダイヤちゃん」

 

「?何ですか、テイオーさん」

 

「マックイーンのファンならさ、ライスのことはどう思ってたの?」

 

俺の足は電池の切れた時計のように止まった。いきなり止まってしまって、グラスが慣性の法則を味わっていることに謝りつつ後ろの会話に注意していた。

 

「ライスさんのことですか?」

 

「そう、漆黒のステイヤーのライスシャワー」

 

「私は……ライスシャワーさんのことはスゴいなって思ってます。でも、時々ズルいなとも思ってます」

 

ズルい…か。確かに自分の担当ながらライスのあの領域は本当に狡かったと思う。まぁ、領域なんて使える時点で十分に狡いんだけど。

 

「私はマックイーンさんに憧れてます。そして、いつかマックイーンさんのことを越えたいと思ってました」

 

「あっ、あたしもテイオーさんのことをいつか越えるって思ってましたよっ!」

 

「でも、ライスさんに」

 

「「先を越されちゃいました!!!」」

 

ライスに先を越された。当然だ、サトノダイヤモンドとキタサンブラックはまだ学園の生徒でさえない。そんな彼女たちがライスに先を越されるのは彼女たちにとっては確かにズルいことなのかもしれない。言われた側としては理不尽だが。

 

「でも、ライスさんのことも大好きです。一番はマックイーンさんですけど。それでも、強すぎてつまらないと言われていたマックイーンさんに勝つって凄くて…ズルいとも思いましたけど、それと同じぐらい胸が熱くなって…」

 

胸が熱く……そうだろう?だって、あの日の春天は面白いレースを目指したんだから熱くなるに決まっている。

 

「あれから、あたしたちの目標はテイオーさんとマックイーンさんだけじゃなくて、ライスさんも越えたい憧れの1人なんですっ!」

 

「そっかぁ。そうだよね、長距離のライスは本当に強かったからなぁ」

 

「あらテイオー、私のことをお忘れでなくて?」

 

「もちろん忘れてないよ?いつか2人まとめて長距離で抜いてあげるよっ!」

 

「わぁ、3人の長距離レース!あたしも出たいですっ!」

 

3人…か。ライスがメジロマックイーンたちの引退前に目覚めないと出来ない、今までとライスが逆の立場のレース。挑戦する側から挑戦される側へ。そして、この2人にとっては勝てば、一気に憧れの3人を越えられるドリームレース。

 

「トレーナーさん…?泣いてるんですか?」

 

「え…」

 

グラスからの指摘を受けて、はじめて俺は俺が泣いていることに気がついてしまった。

 

「泣いて…ない。ただ、あの子たちみたいなファンがあの時にもっといればな、なんて無い物ねだりをしてただけだ。」

 

「無い物ねだりじゃないと思いますよ…あの時は気がついてないだけでちゃんとそういうファンもいたんじゃないですか?」

 

ライスのことをちゃんと応援してくれていた人はいないわけじゃなかった。デジたん、ウララ、桐生院葵、ハッピーミーク、彩雲…

 

「そっか、いたんだ…でも、俺はそれさえも見えなくなってたのか。」

 

本当に俺は何も見えなくなっていたんだ。それこそ、ライスの宝塚の前から。そりゃあ、ライスも俺のことを心配するし、無理もする。結局、俺が原因か……

 

「トレーナーさんのせい、じゃないと思いますよ」

 

「人の心を…俺が人のこと言えないか。」

 

「そうですよ~…トレーナーさんって、思っていることがけっこう顔に出ますよね」

 

俺、帽子のおかげで表情が隠れて見えないはずなんだが…

 

「私だったとしても、私はきっとライスちゃんと同じことをしたと思います。だって、私たちはウマ娘ですから」

 

君たちウマ娘は走ることに命を懸けすぎなんだよ。

 

「春雲ー!やっぱり、立ち止まってるじゃん。で、どうだった?」

 

「別に特に何も。…メジロマックイーン、トウカイテイオー、眠り姫が起きるまでもう少し待っていてくれ。」

 

「「もちろん(ですわ)!」」

 

ライバルたちに夢のレースを誓って、俺たちはこの場をさった。

 


 

私のことをキタちゃんの元に送ってくれたトレーナーさんを見送った後、テイオーさんはポツリとこぼす。

 

「一応、言っておくとね。あの人がライスシャワーのトレーナーなんだ」

 

「そうなんですか!?」

 

「口は悪くてメンタルに難ありですが、ライスさんを名に導いたトレーナーですわ」

 

私にはマックイーンさんが懐かしそうにしている姿がなぜかとても印象に残った。

 




サトノダイヤモンドのヒミツ
実は、彼女が春雲雪の最後の被害者。
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