チームハダルとそれにまつわる短編集   作:FlankerのFnキー

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書き貯めあると言ったな?あれは嘘だ。


これまでに起きた3つの出来事
1つ、
スカウトの本命に話すことが出来なかった!
2つ、
選抜Rにてグラスワンダーは2着だった!
3つ、
キングヘイローに捕まった!


グラスとキングと選抜レース その3

 

今度は俺の心臓が凍ったかと思った。

 

「ライスシャワー…淀に咲き淀に散った黒い刺客の担当トレーナー…」

 

グラスワンダーが呟いた俺の簡単な経歴が俺から温度を奪っていく。けど、辛うじて俺は言葉を吐く。もはや、スカウトをする気にはなれてないというか、ここから逃げ出したいというか…

 

「そこまで知っているなら俺が一流じゃないことぐらい分かるだろ。」

 

「そうね。今のあなたは全く一流じゃないわ。でもね?キングは一流で在るにあたって一流になれるのに燻ってる人が嫌いで、放っておけないのよ」

 

「いや、放っておいてくれよ。」

 

「それに一流のキングには一流の好敵手が必要だわ。グラスさん、あなた、まだ担当トレーナーが決まってないでしょう?」

 

「そうですね~…今はまだ誰のスカウトも受けるつもりはありませんが」

 

グラスワンダーは本当に全てのスカウトを断っているらしい。今は、まだ。彼女は何が不満でスカウトを全て蹴っているのだろうか。

 

「そう、じゃあグラスさん、あなたがスカウトを受けてもいい状態になったらこの人を担当トレーナーになさい」

 

「は?」

 

「あら、まぁ」

 

このご令嬢は何を言っているんだ?

 

「グラスさん、それに今は三流のトレーナー、あなた達にはこのキングの好敵手になる権利をあげるわ!」

 

グラスワンダー、君から何か言ってくれ。と、彼女を見ると彼女は彼女で好敵手と呼ばれたからには絶対に負けない。という強い意志の炎が瞳で揺らいでいた。なんて、使えない大和撫子なんだ。

 

「キングヘイロー、君は本当に何を言っているんだ?だいたい、キングヘイローとグラスワンダーじゃ適正距離がどこも被ってないから勝負に…「お黙りッ…!」…はい。」

 

そういう所だぞ、ライスがああなった原因。分かってますか、俺?

 

「別にあなたにメリットが何一つ無いわけじゃ無いのよ?」

 

へぇーメリットあるんですか?この押し売り(グラスワンダーには悪いが)。

 

「何だ、そのメリットって?」

 

「そうね、もしも、あなたがグラスさんに認められて、担当トレーナーになれたなら……あなたのスカウト受けてあげるわ」

 

有った。メリットが有りました。だけど、ね、うん。だが、しかし、

 

「グラスワンダー、さっきから君抜きで勝手にキングヘイローが話を進められているんだが…良いのか?早く何か言い返さないと、この気性難じゃじゃウマ娘の言った通りに押し通されるぞ?」

 

「誰がじゃじゃウマ娘ですって!?」

 

グラスワンダーの意向ガン無視って訳には流石のキングヘイローもいかないだろう。さぁ、グラスワンダー…正論と言う反論を、やっておしまいっ!

 

「では、私からはトレーナーさんに私がトレーナーさんを認めて、その時が来たら私がトレーナーさんに優先してスカウトされる権利をあげましょう」

 

満面の笑みで彼女はそう言った。

 

「お前もかッ、グラスワンダー…ッ!」

 

「さりげなく、キングを無視しないでほしいのだけれど?」

 

なぜか、グラスワンダーはキングヘイローの話に乗る気らしい。しかも、優先してスカウトされる権利ということは、つまりは確定で担当契約が出来るというわけではないようだが…何だか詐欺みたいだ。

 

「俺はもう担当バ持つつもりはないんだ。…流石に4人目の担当を持たせたら桐生院は過労死する。」

 

桐生院はウマ娘のためなら、彼女たちを勝たせるためなら、本気で本当に何でもやるトレーナーだ。まさに乙名史氏理想のトレーナーと言ったところだろう。現状、桐生院の担当というか我らがチームハダルは2人のウマ娘が所属しているが(ライスの籍はまだあるから正確には3人)、その2人の面倒を見てるだけでも桐生院は放っておくと過労死まっしぐらーである。ふむ…もしや、俺はウマ娘のトレーナーとして一流にはなれなかったが、桐生院のサブとしては一流なのでは?……サブが居ないとまともに回らないチームってどうなんだよ?頼むよ、ホントさぁ。辞めるに辞められないんだよね…

 

「それは困りますね~私がもし、今ここでトレーナーさんを認めてしまったら、私はトレーナーさんのスカウトを優先しないといけないので、他のトレーナーさんからのスカウトをまた断らないといけませんね」

 

「つまり、どういうことだ?」

 

「トレーナーさんが私をスカウトして、私が受けるか断るかを決めるまで私は誰の担当バにもなれないという事です」

 

「要するに、君は君の将来を俺のキングヘイローのスカウトという君にとってどうでもいいことで消費するのか?」

 

この子は鹿なのか?

 

担当トレーナーと契約しないということ、それはトゥインクル・シリーズに出走…いや、メイクデビューにも出られないという事だ。確かに別に早めにデビューすれば良いという訳ではない。実戦経験なら別に同期との模擬レースでも積める。それこそ、シニアの先輩にでも頼めばさらに良い経験が出来るだろう。生徒会長がいつでも頼みに来てほしいと言っていた。

しかし、トレーナーは別だ。確かに矛盾しているように聞こえるがトレーナーを簡単に決めてしまうのはよろしくない。ウマ娘とトレーナーの関係はズブズブだ。人間的に相性が悪いというのは、メンタルを崩しやすくそれがレースの結果に直結する年頃のウマ娘にとって大きなハンデになるだろう。それでも、自分と相性が良いトレーナーを早期に見つけて契約を取りつけるは重要だ。実戦経験と違い、トレーナーとの信頼関係を積むのには時間がかかる。トレーナーを見つけられていないという事は、このトゥインクル・シリーズにおいてすでに()()()ているに等しい。おまけにウマ娘の数とトレーナーの数は圧倒的にウマ娘が多い。一度、スカウトが上手くいかない子と印象を抱かれればトレーナーには替わりのウマ娘がたくさん居るのだ。

 

「いいえ、違います。今、決めたんです。これは私が私に課した最初の試練です。」

 

グラスワンダーの空気が変わった。まるでさっきのレース前のような空気感。

 

「試練?」

 

「はい。私はこの道を征くと決めたからには頂点に立ちたいと思っております」

 

「頂点に辿り着くのはこのキングよ!」

 

「頂点…ねぇ。」

 

「あなたは先程、私は長距離に適正があると仰いました」

 

「あぁ。スタミナを何とかすればね。」

 

「だ・か・らぁ!キングのことを無視しないでくれる!?」

 

「トレーナーさん、あなたは長距離の頂点に立ったウマ娘のトレーナーです」

 

長距離の頂点。立てていたのだろうか?確かにあの頃ライスに長距離で勝てる子は誰も居なかった。いいや、違う。ライスは勝ち逃げしたのだ。あの年、本来なら出走する予定だったURAファイナルズ長距離。そこで勝って本当に長距離最強のウマ娘はライスシャワーだと証明するはずだった。

 

「ならば、私をトレーナーさんがスカウトしたいウマ娘だと思われなければ、私に頂点の道など程遠い。そう思いませんか?」

 

「…グラスワンダーは優秀なウマ娘だ。きっと、後世に伝わる、な。」

 

「しかし、あなたのスカウトしたいと思うウマ娘では無い」

 

「……そんなこと無い。」

 

「ちょっと…!」

 

押しの強い子に俺は弱い。同じ轍を踏むのは俺だって嫌なんだ。それにグラスワンダーは桐生院に任せるにしても、ハッピーミーク並に自分の思ってることを表に出さない。…キングヘイローは置いておくとしても、俺とも桐生院とも相性が悪いのだ。

 

「桐生院に任せられないから候補から除外していただけだ。」

 

「嘘です。トレーナーさんはずっと1人しか見ていません。あなたが本当にスカウトしたいのはあの子ですよね?」

 

「ねぇ…ねぇってば…!」

 

グラスワンダーの視線の先には既にトレーナーを決めたらしい芦毛のウマ娘の姿があった。

 

「…確かに俺がもう一度、担当を持つと仮定した場合、俺は必ず彼女をスカウトするだろうな。」

 

「トレーナーさんは…やっぱり私を認めていないのですね」

 

「ねぇ……」

 

俺が君をスカウトしないのは単純に君が差しウマだからというのもあるのだが。グラスワンダーはそれで納得するだろうか。

 

「だから、私が私に課した試練なんです。」

 

「……」

 

「私はあなたに私をスカウトしたいと必ず思わせてみせます。次の6月選抜レースの1着を以て。」

 

グラスワンダーはもはや隠す気もない闘志を燃やしながら宣言した。なるほど、スカウトマンを逆スカウトか……

 

しかし、歪んだ変な話だ。

俺は次の選抜レースまでにグラスワンダーにトレーナーとして認められなければならない。そして、キングヘイローを加入させる。

グラスワンダーは選抜レースで1着を取り、俺を()()()にさせないといけない。

 

整理しても意味が分からないぞ?

 

「はぁ……わかった、分かったよ。」

 

「次の選抜レースまで自主トレに付き合おう。ま、口出しはしない視るだけだ。何せ、それが俺の基本のやり方だからな。それでトレーナーとして俺を判断しろ。」

 

「…!自主トレは…自分でやります。トレーナーさんは気にしないで下さい」

 

「別に視るだけだ。」

 

「「……」」

 

変なところで意見がぶつかった俺たちはしばし、無言で見つめ合う。

 

「とりあえず、選抜までよろしく。」

 

「選抜の後もよろしくお願い致しますね?トレーナーさん」

 

いつの間にか、赤くなった夕日に照らされる中、俺とグラスワンダーは握手をして選抜レースまでの不思議な関係が始まった。

 

「うぐっ…ぐすっ…ずっと、無視だなんて…酷い仕打ちだわ…このキングも泣くわよ…!ぐすん…」

 

既に泣いているキングヘイローに2人で謝ってから、今日は解散となった。

 




芦毛の彼女のヒミツ
実は、こっちの事にちゃんと聞き耳をたてている。
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