チームハダルとそれにまつわる短編集 作:FlankerのFnキー
ここまでの3つの出来事
1つ、
チームリギルを追い出された!
2つ、
噂のウマ娘が見つからない!
3つ、
栗毛のコウマ娘に遭遇した!
栗毛の幼いウマ娘に手を引かれて、ここまで俺は無抵抗で公園内にやって来たわけだが、この子は一体何がしたいのだろう?
雨の中、バイクにもたれてダウンしていた見知らぬ男を公園につれて来てする事って何かあるか?
え、集団リンチ?カツアゲ?
やだ、最近の幼いウマ娘怖い。
「…ん」
屋根のないベンチの前で歩みを止めた幼いウマ娘はこちらに振り返り、既にタイムを計っているストップウォッチと俺が使える大人サイズの黒い傘を押しつけてきた。
いや、わからん。
この子は本当に何が目的なんだ?というか、このストップウォッチは何を計っているのさ?
しかも、よくよくこのストップウォッチを眺めてみると俺が普段使っているストップウォッチと全く同じ機種だし。うん、使い慣れてるものなのはありがたいけど、これは逆にホラーだぜ。というか、このストップウォッチかなり使い込まれてるな。結構、新しい機種なんだけど。
「君は俺に何を……?あれ、いない!?」
真意を問おうと顔を上げると栗毛の幼いウマ娘は忽然と姿を消していた。
え、何これ、ホラー?ホラーなの?俺、そういうのダメなんですけど?夜、寝れなくなったらどう責任取るわけ?
タッタッタッ
「おいおい、何か遠くから足音するんだけど!?」
しかも、こっちに向かって来てる!いや、本当に止めて。止めてください。お願いします。
あぁ、向こうに黒い影が!
「黒いウマ娘がこっちに……いや、このコースを走っているのか。うん、幽霊ではなさそうだ。」
もしかして、もしかしてなのだけど、このストップウォッチが計っているのはあのウマ娘の走りなのでは?
既に計り始めているストップウォッチ、目の前を走るウマ娘。
ならば、一トレーナーとしてやるべきことはただ一つ。
目の前のウマ娘のタイムを計るッ!
ウォッチを持った手を走っているウマ娘に見えるように振る。こうすれば、向こうだって気がつくはずだ。向こうからすれば、見知らぬ男が自分のタイムを計っているというホラーが呼んだホラー状態かもしれないがそこは我慢してほしい。
さぁ、伝われ。俺の思い!そこからスパートしろ!
「4、3、2、1、スパート今ッ!」
俺の呟きは彼女にちゃんと届いたらしく、黒いウマ娘は加速した。
その加速は正直に言って、そこまで強いものではなかった。スピードがない。パワーもない。
だが、彼女は確かにスパートした。
このストップウォッチが彼女を計っているのだとしたら彼女はスパートをかける前の、人間と比べたらだいぶ速く、ウマ娘で言うところの長距離の差しウマぐらいのスピードで既に13分は走っていることになる。その状態からスパートをかける。ジュニア級、デビュー前のウマ娘が、だ。
今の彼女にはスピードがない。パワーがない。
しかし、天才的なスタミナと13分間をたった1人で走り、スパートをかけられる強い精神力。
間違いない。
俺の前を通りすぎ、流して息を整えた黒いウマ娘はいつの間にか止んだ雨の、雲の隙間から降りてきた光に照らされながら、こちらに戻ってきた。彼女の雨合羽と前髪に滴る雨水が反射でキラキラしている。
(息を整えるのも早いな。)
俺には彼女が磨いてもいないのにとても綺麗な宝石の様に見えていた。
「ふぅー…ふぅー……え、あ、あの、あなたは…?」
そんな、彼女が発したのは当然の疑問。
だが、愚問だ。
「走っているウマ娘の前でストップウォッチを構えてる人なんて、かなり人種が限られると思うぞ?」
「トレセン学園のトレーナーさん…?」
「いぐざくとりー。俺は春雲 雪。中央の出遅れた新人トレーナーだよ。」
まずは自己紹介だ。俺は今、多分、彼女から見てかなり怪しい人物のはずだ。
「新人トレーナーさん…?……あ」
「ん?」
黒いウマ娘は俺の姿をまじまじと眺めた後、何かに気がつき、
「ごめんなさいっ!」
いきなり謝ってきた。
「・・・・・・」
…なぜ?
これはアレか?不審者に話しかけられて悲鳴的な意味のごめんなさいか?通報は勘弁してください、お願いします。いや、待て、他の可能性もある。例えば、新人と聞いて自分に話しかけてきた理由を大体察して既に担当トレーナーが居るから断りのごめんなさい、とか。どちらにしよ良い解答ではないな。
「もしかして、既に担当トレーナーがついてるのか?」
「え、えと、違くて!その、きっとライスのせいで雨に降られちゃったから!だから、ごめんなさい!」
「ライス、そうか、君がライスシャワーか。」
この黒いウマ娘がお尋ね者のライスシャワーか。こいつは噂以上に良い。
「えっ!ライスを…知ってるの?どうして?」
「そりゃ、日本人でお米を英語でRiceって言うのを知らない奴はなかなかいないと思うぞ?」
「「・・・・・・」」
…笑え。笑えよ。はは。
「すまん、今のは場を和ませようとした軽い冗談だ。」
「そっ、そうなんだ…!」
「「・・・・・・」」
「ライスシャワー、君の事を知っていたのは君を探していたからだ。ふむ、なるほど。確かに俺が雨に降られたのは君が原因だな。」
「ライスを探してた?って、やっぱりライスのせいなんだ…ごめんなさい…」
「いや、別に目的は達成できたから雨の件はどうでもいい。」
「で、でも、ライスのせいでトレーナーさんがびしょびしょになっちゃってるからライスはどうでもよくないよっ!…ライス、やっぱり、ダメな子だぁ……」
「ライスは駄目じゃないだろ。最近は糖質カットだとかで米を抜く、なんて不届き者がいるみたいだが、大抵の日本人は米が食べれたら幸せになれるんだから。」
「え……」
「「・・・・・・」」
「モウヤダ…キエタイ…」
「あわわ、えと、面白かった、とライスは思いますっ!」
こういう時、無理なフォローは傷口に塩を塗るだけなんだよ。
閑話休題。というか、話を戻そう。
「ライスシャワー、君には夢があるか?」
トレセン学園に来てるのに夢を持っていない、なんてヤツはそうそう居ない。走りは十分。なら、次にライスシャワーについて知るべきは彼女の走る目的だ。トレーナーの仕事はあくまで担当ウマ娘の夢を叶える手伝いをすること。トレーナー自信の夢は二の次であるべきだ。だけど、是が非でも早く俺は俺の夢を叶えたい。ならば、俺が求めるのは自分の夢を叶えるついでに俺の夢を叶えてもらえやすい夢を持ったウマ娘だ。俺にとって利用しやすく、それでいてついでだからウマ娘とはうぃんうぃんな関係でいられる都合のいい夢を持ったウマ娘。はたして、彼女はそんなウマ娘なのか?
「ライスの…私の夢…」
「どんなモノでも形の無いモノでも良い。雲の形みたいなモノだけでも教えてくれないか?」
「私は……青いバラになりたい。」
彼女はやはり強いウマ娘だ。さっきまでのオドオドとした態度はどこかに行き、ライスシャワーの言葉にはしっかりとした芯があった。
青バラになりたいというのはよくわからんが。
「青いバラ?」
「えっとね、ライスの好きな絵本で『しあわせの青いバラ』って言うんだけど…知ってますか…?」
「昔、読み聞かせをしたことがある。完璧ではないがざっくりなら知ってる。」
素朴な疑問だが、どうしてこの手の話で青は幸せの象徴として扱われるのだろう?今はどうでもいいことか。
「そうなんだ…!」
マイナーな本というわけではないが、やはり、自分の好きな物を知っていることは嬉しいらしい。声のトーンが自信を持ってきた。
「私はね、あの青いバラみたいに周りにいる人を幸せにしたい。ライスのレースで誰かを笑顔にしたいんだ。」
レースで誰かを笑顔に、か。難しいな。レースで一着になれるのは同着みたいな奇跡でも起きない限り一人だ。それ以外のその他は敗者になる。また、敗者をも、笑顔に出来るウマ娘…か。また…?あぁ、そうか、前にも考えた事があるのか、俺は。敗者も笑顔に出来るウマ娘とは何か。
「……シンボリルドルフの夢に少し似てるからか。」
「え、生徒会長さん…?」
「ん、いや、形、というか対象?が違うけどシンボリルドルフも似たような夢を掲げていたな、と思って。でも、そうか。誰かを幸せに、か。」
「お、おかしいかな?」
「おかしくないよ。ただ、俺は君をスカウトするつもりだったんだけど…」
「す、スカウト!?ら、ライスは駄目な子だよ?あ、あと食べても美味しくないよ!?」
こいつ、俺のこと何だと思っているんだ?別に食べるつもりは全くないぞ。あと、美味しいか、美味しくないかは食べた後に考えることだ。
「君と俺は相性が悪そうだ。」
「え……」
「俺はそこそこ性格が悪い。だから、優しい君とは多分相性が良くない。」
俺の手は汚れている。
「しかーし、君には才能がある。強いウマ娘のだ。そんな、ウマ娘が未だに担当を持たずにいるという才能の持ち腐れ状態は俺としては許容しがたい。トゥインクル・シリーズにとって大きな損失だ。」
だが、誰かに道案内ぐらいなら悪人だってやるのだ。
「俺は実は個人的に仲介人みたいな事をトレセン学園でやっているんだ。」
「才能…?仲介人…?」
どうやら、ライスシャワーはいきなり多くの情報が入ってきて少々混乱状態にあるらしい。
「才能があるのに何かしらの理由で担当を持っていないウマ娘にその才能を磨く事や夢を叶えるのに最適な…コホン、相性の良いトレーナーを紹介する、そんな感じだ。」
「あの、トレーナーさんは担当を持たないの…?」
「俺?担当がいないとトレーナーをやっていられないから欲しいけど、俺は注文が多くてな。なかなか、運命の出会いってヤツが来ないんだ。」
もしかしたら、アイツがその運命の出会いってヤツなのかもしれないが。そうだとしたら、俺はとんでもないヤツが俺の運命の人になってしまうから止めて欲しい。
「そう……なんだ。」
おっと、いけない。これではお前は俺の注文を満たしていないと彼女を少し侮辱しているようなものだ。
「因みに君をスカウト出来ないのは君の性格が俺の注文に合わないからだ。走りに関しては俺の欲しいものを満たしてる。まぁ、お前は何様だよ、と思うかもしれないが俺は俺様だ。俺は我が儘なんだ。」
うん、侮辱していることに変わりはない気がする。
「で、だ。とりあえず、明日の昼、予定は空いているか?」
「空いてる…よ。」
「そうか、じゃあとりあえず明日の昼に候補のトレーナーの書類を渡すのとそれの説明、その後の展開についての話をしたいから一緒にご飯を食べよう。どこでもいい、俺の奢りだ。」
「……わかった、わかりました。教室に来るんですか?」
「ああ、そんな感じだ。」
こうして、ライスシャワーに明日会う約束を無理矢理取り付けてその日は解散した。
「あ、学園までバイクで送ろうか?」
「ありがとうございます、走って帰るから大丈夫です…!」
因みに言った後に気がついたのだが、今日はヘルメット、1つしか持ってきてない。うん、断られて正解だな。
さらにこの後、門限になっても美浦寮に帰ってこないライスシャワーを探して連れ帰ることになるのはまた別の話だ。
栗毛のコウマ娘のヒミツ
実は、トレーナーの好みを栗毛にしようと画策してたら栗毛の小さいウマ娘が好みになってしまい、ドン引きしている。