チームハダルとそれにまつわる短編集 作:FlankerのFnキー
全消しの絶望をウマ娘に押し付けた最低な奴です、私は。
これまでに起きた3つの出来事
1つ、
大阪杯でトウカイテイオーが宣言通り一冠目をとった!
2つ、
阪神大賞典にて、ライスシャワーVSスーパークリーク公式戦初対決実現!
3つ、
青バラの領域、3つ目の覚醒。クリークから逃げ切り勝ち!
学園の掲示板、その中でも一際目立つレース板。それは近々開催される重賞レースのポスターを中心に掲示している。ポスターの中身は過去にそのレースで勝ったウマ娘だったり、注目株のウマ娘だったり様々だ。
そんな、レース板の前に一人のウマ娘が足を止めていた。
去年の彼女であれば、「あぁ、もうすぐ皐月賞と桜花賞かぁ~」などと変に年寄りくさい反応をしていただろうが今年は違った。
あるレースのポスターから目が離せなくなっていたのだ。
三 三 三
冠 冠 冠
を を を
走 と と
れ っ ら
な た せ
か ウ な
っ マ か
た 娘 っ
ウ た
マ ウ
娘 マ
娘
今、宿命の地に三者が集う
『天皇賞(春)』
「うわぁ、すごい面子だわ」
『絶対の帝王』
VS
『シャドーロールの怪物』
VS
『淀の鬼神』
それぞれ、淀の地に因縁のあるウマ娘たちの対決。ポスターになるくらいには世間から注目されるカードなのだが、彼女はどこか冷めた目でそのポスターを眺めていた。
彼女の名はナイスネイチャ。去年の有馬記念、4着だったウマ娘だ。
あの日、手を抜いて走ったライスシャワーに負けたウマ娘の一人だ。
ナイスネイチャは頭を使って走るタイプのウマ娘だ。そんな、彼女は中山をとても気持ちよく走っていた。理由は恐らく前を先行するビワハヤヒデだろう。ビワハヤヒデというウマ娘もまたナイスネイチャと同じタイプのウマ娘、そして、このレースでマークしている相手も同じ、はず。二人は別にお互いに事前に打合せしたわけではないがビワハヤヒデの後ろにつける彼女、トウカイテイオーを嵌めるために沈黙の協定を結んでいるのだ。互いに利用しあうという協定を。
(さーて、ハヤヒデはどこでアタシを裏切ってくるかなぁ?)
もちろん、アタシたち二人がかりで襲って簡単に倒せるテイオーじゃないし、例え、テイオーを万全の状態で走れない様に(ま、テイオーは既に大きなハンデを背負っていることには目を瞑るとして)したとしてもハヤヒデはアタシ同様に万全の状態で終盤に突っ込む訳なので、アタシとハヤヒデはいつ裏切るのか?そして、それを相手に悟らせないという厄介な戦いだ。
だが、本当に厄介なのは今先頭を走る…逃げる黒いウマ娘。
(先行じゃなくて、このレース唯一の逃げなのが救いかな)
この場所からはよく見えないが、あの娘には注意しておかなくてはいけない。
(ライスシャワー…トウカイテイオー…ビワハヤヒデ…今日、勝つのはアタシだ!)
今、トゥインクル・シリーズにおいて長距離最強と呼ばれるウマ娘ライスシャワー。レースの前からこのウマ娘の対策にネイチャはとにかく頭を悩ませた。ナイスネイチャがライスシャワーと走るのはこれが初めてではない。初めてはちょうど1年前の有馬記念。結果はネイチャが3着、ライスシャワーは1着で感想を述べるなら全く相手にされなかった。である。もちろん、去年の時もライスシャワーについてとにかく調べた。ナイスネイチャは一緒に走る相手は必ず自分より格下だとしても絶対に全て調べる。それがネイチャの信条だ。しかし、ライスシャワーについて分かった事といえばナイスネイチャととにかく相性がお互いに悪いということだった。
まず、ライスシャワーにレースメイクによる拘束──いわゆる赤技能──が通用しない。他のウマ娘にブロックさせるのが限界だ。ナイスネイチャにとってこれがとても痛い。
次にライスシャワーは差しに弱い。これまでのライスシャワーの戦績を見ると大半が差しウマに負けている。現にチームメイトのマチカネタンホイザも中距離でライスシャワーに1度勝っている。逆に先行or逃げでライスシャワーに勝ったことがあるのはミホノブルボンただ一人。まぁ、それも中距離での話だが。それでも、差しナイスネイチャはライスシャワーの苦手なウマ娘であることには変わりはない。
自分の前を行くウマ娘に強く、自分の後ろのウマ娘に弱いウマ娘、それがライスシャワーなのだ。
しかし、ナイスネイチャはこれに疑問を感じていた。はたして、ライスシャワーは本当に後ろのウマ娘に弱いのか?
ナイスネイチャは多くのライスシャワーと走ったことがあるウマ娘に話を聞いてまわった。どのウマ娘も口を揃えて言うのは
『ライスシャワーの前ほど、恐ろしいモノは無い』
『ライスシャワーの前は絶対に走ってはならない』
こうである。だが、ナイスネイチャが一番に興味を引かれた話、疑問の発生地はマチカネタンホイザとメジロライアンの話だった。
『ライスシャワーは後ろに興味が無いよね。ガン無視だよ』
『ライスシャワーは前しか見てないよ。後ろを振り返ってるところ見たことないもん』
ライスシャワーは差しウマに弱いわけでは無い。差しウマに興味が全く、これっぽっちも無いのだ。
ナイスネイチャがライスシャワーに勝つために必要な条件。それはいかにしてライスシャワーにこっちを見てもらうか?である。
先行で走る?
否である。前を走ることはナイスネイチャの敗北宣言だ。そもそも、ビワハヤヒデがいるのだから彼女を利用するためにはやはり差しで行くしかない。
ライスシャワーの注意を引くという無理難題をこなしながら、トウカイテイオーを罠にかけ、ビワハヤヒデを裏切る。これがこの有馬記念でナイスネイチャに課せられた課題。ビワハヤヒデ風に言うならば、勝利への方程式である。
……余談だが、一番良い情報を期待したのはライスシャワーと最も多く走り勝っているミホノブルボンだったのだが…
『レース中に後ろを確認する必要性が理解できません』
類は友を呼ぶとはこういうことらしい。
『……それでも、菊花賞で私は振り返ってしまった。それも敗因の一つでしょうか』
もしかしたら、菊花賞の時のライスシャワーもナイスネイチャと同じだったのかもしれない。
アタシを見て。
まもなく、レース終盤…なのだが結局のところライスシャワーの注意を引くという無理難題は未だに達成できずにいた。
(そろそろ、前でライスシャワーがスパートかけ始めた頃かな?アタシも上がるとしますか)
ハヤヒデは中盤で裏切ってきた。周りの差しウマが少々掛かったみたいだけど、アタシは掛かってる演技でそれをやり過ごした。
そして、コーナー。
「えっ!?」
その光景にアタシは思わず声に出して驚いてしまった。
故障!?いや、それなら多少の観客のどよめきがあるはず。でも、これはチャンスだ。今から差せばアタシとライスシャワーの身体を使ってテイオーとハヤヒデをブロック出来る!行くなら今だ!
「はぁあっ!」
しかし、簡単には事を進めさせてくれない二人だ。アタシの動きを察した二人も一気に仕掛け始めた。
(クソっ、動揺で仕掛けるのが遅れたッ!)
間に合わない!このままだと、また3着だ。そんなの絶対にイヤだ!
その時、アタシの前で不死鳥の翼が煌めいたのをアタシは見た。テイオーだ。
「アタシだってッ!」
キラキラに手を伸ばす。
辺りが暗闇に包まれる。
目の前には輝きが。
アタシはそれに向かって駆け出し
「ごめんなさいごめんなさい」
首に震える冷たい何かが触れた。
「え…?」
そしてそれはアタシの首に食い込んだ。
震える刃で首を刺されるとどうなるのか?
答えはとても痛い。幻痛なんだけどね。
視界が暗くなるなかアタシはそんなことを呑気に考えていた。
視界が開けた時に、アタシの目がまず捉えたのはアタシの横を過ぎ去る黒い影。
「え、え?」
訳がわからない。どうして?さっきまで全く仕掛ける気配を見せなかったのに!何で!?
脳裏によぎったのは『ライスシャワーの前は絶対に走ってはならない』という言葉。
何でアタシを?何でアタシが前にいる時に?
「ま、待って…待ってよ!」
それで待つ人はいない。
アタシはゴール板の前を通った4人目のウマ娘だった。
掲示板は特に審議が入ることもなく確定された。
アタシは4着。
有馬記念では初めてだった。とうとう、3着でさえなくなった。
とりあえず、自分の首が繋がっている事をしっかりと確認した。
ライスシャワーに視線を向けると彼女は俯いて表情が見えない。ただ、震えているが息切れは全くしていない。
テイオーとハヤヒデに目を向けると確実に激怒しているハヤヒデをテイオーが静かに手で制していた。
「ハヤヒデ、一緒にウィナーズサークルに行こう?このテイオー様と一緒に取材を受けさせてあげるから!」
アタシは後ろから上がってきた所だったから、最初は分からなかったけど前方でライスシャワーをずっと見ていた2人がこうだ。アタシは確信してしまう。
ライスシャワーはこのレースで手を抜いていた。
「…ネイチャも来る?」
「ごめん、テイオー。アタシ、ちょっと」
「あ、待って!ネイチャ!」
「テイオー!復活おめでとう!主役なんだから早く行ってきて!」
アタシは無言で地下バ道に入るライスシャワーを追いかけた。
「待って、ライスシャワー」
自分でも酷く低い声が出たと思った。ライスシャワーは今度は立ち止まり漸く振り返ってくれた。あはは、無理難題。クリアじゃん。いや、アタシはライスシャワーに首を切られた時点でクリアしてたか。
「ナイスネイチャ…さん…」
「どうして、アタシだったの?」
「どうして、アタシが前に来た時にやっと本気になったの?」
「あ…それは……」
「手を抜くんならさ。最後まで抜いてれば良いじゃん。どうして?」
「あ…あぁ…」
あぁ、泣いちゃってるよこの子。こんな、小さい子泣かしてアタシってば悪い奴だなぁ。…泣きたいのはこっちだっつーの。
「アタシがG1で1度も勝ったことがないウマ娘だから?」
あれ?アタシ、もしかして泣いてるのかな?
「違っ」
「G1何度も取ってるウマ娘としてプライドってわけ!?」
「あぁ…うぅ……ごめ」
「謝るなッ!ライス!」
ライスシャワーの謝罪を止め、アタシとライスシャワーの間に立ったのは黒のキャップ帽に黒い上着に黒のズボンと全身真っ黒、担当とペアルックですか?なライスシャワーの担当トレーナー。でも、髪は芦毛だから白いわ。
「僕としては謝罪してほしいんですけどね、春雲さん?」
そして、アタシの前にはアタシのトレーナーが立った。
「ライスはナイスネイチャに謝罪する必要なんてないです、先輩。」
「どうして、断言するんですか?」
「ライスに謝罪する必要があるとしたら、トウカイテイオーとビワハヤヒデの二人に対してだけだ。」
「違うでしょ。今日の有馬記念の走者全員にの間違いだ」
トレーナーが怒ってる…?初めて見たかもしれない。
「無いです。まぁ、確かにナイスネイチャはライスの領域の餌食になったから文句を言いたいのは分かりますけど。」
「でも、貴方たちは手を抜いたライスに負けた。ライスも3着なんで敗者だということに変わりはない。けど、これが結果だ。敗者が敗者にとやかく言う権利は無い。…勝者に対してもだけど。」
あ……そっか、アタシは……手を抜いたライスにさえ負けたのか……
そう、気がついた瞬間アタシの脚から力が抜けた。
「ネイチャっ!?大丈夫ですか!?」
「大…丈夫…」
「春雲!お前は間違っている!レースは一緒に走る走者が居るからこそ初めてレースに成るんだ!他の走者に敬意を払わないなんて絶対に間違っているッ!」
「……!」
トレーナーのその言葉に何かを思い出したのか春雲トレーナーはどこか遠くを眺めた。
「昔、強すぎて誰も相手をしてもらえなかったウマ娘を俺は知ってる。」
「そうだろうな!お前はリギルの見習い時代、マルゼンの側に居たんだからッ!なのにどうしてだ!?」
「…それは」
「……ないよ」
ずっと黙りこんでいたライスシャワーがポツリと呟いた。
「ライス?ライスは何も言」
「分かるわけないよッ!ナイスネイチャさんに!カノープスに!ライスの気持ちが…!」
わからない?あぁ、わからないよ。あんたの逆ギレの意味なんて。
「分かるわけない!カノープスみたいに勝っても負けても皆を幸せに出来る人たちにライスのことが…!」
「ライスだって…ライスだって今日、勝ちたかった!勝ちたかったよっ!」
何を……言っているんだ…?
「なにそれ、わからないよ。じゃあ、最初っから、本気で走れよっ!それなら、こんな風に」
アタシが惨めになることなかった。負けるなら、せめて全力の相手に負けたかった。
「でもっ!…勝ったら、ライスが勝っちゃったら……!」
ライスシャワーの視線の先にはアタシではなく、ライスシャワーのトレーナー。
「……ライス、まさか…!」
「もう…イヤだよ。私の大切な人を…私は傷つけたくないッ!」
言うだけ言って、ライスシャワーはその逃げ脚でこの場を走り去った。
「……どうやら、俺には謝罪する理由が出来たらしい。いや、最初からあったのか。」
残されたライスシャワーのトレーナーはこちらに向かい背筋を正した。
「今回のライスシャワーの無様な走りは全部、俺のせいだ。ナイスネイチャ、南坂トレーナー、大変申し訳ないことをした。」
綺麗な礼だった。けど、あんたの謝罪もライスシャワーの謝罪も、もうどうでもいい気がした。
「…事情は察しました。けど、これで分かった事があります」
「貴方たちこそ、今日の有馬記念の真の敗者です」
「…そうだな、そうなんだろうな。」
トレーナーさんは何かを察したらしいけど、アタシには全く理解できないよ。
「俺はこれで失礼する。」
逃げたライスシャワーを追うのだろう。
「でも、最後に一つ感謝を。」
ライスシャワーのトレーナーは振り返らずに
「今日のレースのおかげで差しウマ対策の方法が分かったかもしれない。感謝する。」
それだけ言って、彼もまた走り去った。
「何が感謝ですか。ネイチャの事を何とも思っていない癖に…!」
今日ほど、散々な思いをしたレースはあっただろうか?いや、ない。
だって、本当の痛みはこの後にやって来るのだ。
それは刃は意外にも、テイオーによってアタシの首に突き立てられた。
ウィナーズサークルでのテイオーのインタビュー、アタシはそれをたまたまその日の夜のニュース番組で見ていた。
『ボクはもう一度、三冠を狙う。シニア春の三冠だ。』
最初はあぁ、テイオーらしいなで片付けられた。
『天皇賞(春)で今度は本気で戦おう、ライスシャワー!』
でも、その一言は確かにアタシの首を切り裂いた。
「ねぇ、テイオー…それじゃあ、アタシは…?」
テイオーはきっとそんなこと思っていない。そんなの分かっている。でも、そう思ってしまう。
「アタシはテイオーの……ライバルですらないの?」
テイオーまでアタシの事を見ていないの…?
ナイスネイチャのヒミツ
実は、これが理由でライスシャワーの領域に対して勘違いを起こしている。そのため、メジロマックイーンらに対する尊敬度が上がった。
あー、これ、企画の時と天皇賞(春)の結果変わりますねー多分。