チームハダルとそれにまつわる短編集   作:FlankerのFnキー

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箸休め回のつもりが思った以上にグダったあげく、長くなりそうなので分割……
2週間何をやっていたのか?そりゃ、試験とドラクエⅡだよ。


これまでに起きた3つの出来事
1つ、
弥生賞、キングヘイローは2着、セイウンスカイは3着だった!
2つ、
春雲 雪が完全復活した!
3つ、
リギルからエルコンドルパサーが一時移籍してきた!


グラスとファン感謝祭と迷子 その1

 

明日はトレセン学園で年に2度、行われる学園祭の対外向けの方、春のファン大感謝祭の日である。とは言っても、開催時期的にクラシック期のウマ娘にとっては皐月賞前なので凄い注目のウマ娘でもない限り関係がなく、主役はシニア期のウマ娘たちだ。特に春天が控えるウマ娘は春天直前インタビューがあったりする。つまり、我々ハダルは春天に出走するハッピーミーク以外は関係がなく暇。正確にはハダルがというより俺が暇だ。やることがない。かといって、客として楽しめるかというとグラスの怪我の件があるので表にも出られない。なので去年同様、人が寄りつかない出し物をやっていない場所でサボり組と共に時間を潰すという予定を過ごすつもりでいた。

 

「トレーナーさん、明日はどうされますか?」

 

「明日は適当にサボるつもりだ。」

 

「サボりですか?……そのサボり、私も同行してもいいですか?」

 

が、サボりという言葉を嫌いそうなグラスワンダーはなぜか俺に同行したいと言ってきた。

 

「友達と回らなくていいのか?」

 

「えぇ、この脚ですから、スペちゃんたちのテンションには着いていけませんので」

 

「うぐ…車椅子、用意しておいたから好きに使っていいぞ。」

 

グラスワンダーの怪我は選手生命を絶つレベルの物ではないが、治るまで日常生活に不便が生ずるレベルだ。で、怪我の原因は俺だ。もうやだ、トレーナー辞めたい…

 

「まぁ、トレーナーさんが車椅子を押してくれるんですね。ありがとうございます」

 

どうやら、俺はグラスの車椅子を押す係を仰せつかったらしい。

 

「あー、俺が居るとエルコンドルパサーは良いだろうけど、スペシャルウィークが気まずいんじゃないか?」

 

スペシャルウィークは俺のことを怖がるし、俺の認識的にも彼女は潰さないといけない敵だ。

 

「私はトレーナーさんとサボるつもりですが?それとも、私がいると不都合ですか?」

 

「いや、不都合じゃいけど。感謝祭を客としてちゃんと楽しめるのは今年だけだぞ。いいのか?」

 

「ふふ、それって来年の今頃には私は主役のウマ娘になっているってことですよね」

 

「そうだ。」

 

来年の今頃、彼女は有を獲ったグランプリウマ娘だ。ファン感謝祭で主役になっていて当然だろう。

 

「それじゃあ、トレーナーさんと一緒にサボれるのは今年が最後ですよね?」

 

「……そうだな。」

 

「では、せっかくの経験ですからトレーナーさんに同行しますね」

 

「せっかくの経験だから、ちゃんとファン感謝祭を楽しんできなよ…」

 

「この脚の事、記者さんにどう言えばいいでしょうか?」

 

「うぐ…」

 

グラスは怪我以降、表に出ていないので感謝祭で記者に見つかったらいいエサになってしまうだろう。何しろ、彼女は朝日杯を獲ったウマ娘であのライスシャワーの担当トレーナーの担当ウマ娘だ。とっても大衆好みのいい記事が書けるはずだ。

 

「それにトレーナーさんを一人にしておくのは良くないということを私は身をもって、よ~く思い知りましたので」

 

「はい…本当にすみませんでした。」

 

「明日はよろしくお願いしますね?トレーナーさん」

 

明日の予定にグラスワンダーの同行が決まったらしい。

 


 

感謝祭当日。俺はグラスを乗せた車椅子を押しながら、サボり集団の部屋を目指していた。

 

「あの、サボり仲間って何ですか?」

 

「サボり仲間はサボり仲間だよ。お互いにこのファン感謝祭という暇を有意義につぶそうと協力する仲間さ。」

 

「感謝祭をサボる…そういう人たちって、そんなに居るんですか?」

 

「この学園の殆どが感謝祭の日が暇だ。だから、大抵の奴はキングヘイローみたいに感謝祭を客として全力で楽しむ。」

 

そもそも、この学園祭はファン感謝祭である。ファンが多くないと主役になれない。主役になれるのはだいたいゴールドクラスぐらいウマ娘たちからだ。すなわち、大多数のシルバー以下が今日、暇になる。まぁ、真面目なウマ娘なら感謝祭の運営として働くはずだ。

 

「でも、少しひねくれた奴は学園祭をエスケープする。そういうウマ娘が感謝祭と関係がない場所で毎年集まっているんだ。」

 

サボるウマ娘の理由は様々だ。輝きに目を背けた奴だったり、本当にひねくれた奴だったり、単純に人混みが嫌いだけど一人は嫌な奴…これもひねくれ者だな。まぁ、集まっている奴らはわりとマシな方だ。最悪なのは部屋に引きこもってるタイプの奴。ちなみに学園の外でトレーニングに励んでいる奴らもいる。ライスがこれだった。グラスなら、そのグループに入りたがりそうだけど、今は怪我人。そういうのは言わないでおこう。

 

「そうなんですね」

 

「着いたぞ。」

 

教室棟の一番端、二つの教室をつなげた広さの部屋の前に辿り着く。感謝祭の喧騒は遠く、俺たちが感謝祭の中心から離れた所にいることを教えてくれている。

 

「あ、多目的室ですか。私、はじめて入るかもしれません。思ったよりも賑やかですね。」

 

まぁ、部屋の中から喧騒が聞こえるが。

 

「だろうな。授業で使うことは滅多にない部屋だ。入るぞ?」

 

グラスに未知に領域に入ることを確認してから足を踏み入れる。

 

「今年もか。まぁ、それも当然か」

 

入り口で俺たちをぶっきらぼうに歓迎される。

 

「ナリタブライアンさん?どうして、ブライアンさんみたいなウマ娘がここに?」

 

突然の副生徒会長の登場に驚くのはしょうがないだろう。当然、ナリタブライアンは俺の言う“暇”なウマ娘じゃない。

 

「グラス、この学園の生徒会長様は少々夢見がちでな。この多目的室は昔は非公式だったが、今は生徒会が運営しているんだ。ナリタブライアンはここの室長みたいなもんだな。」

 

「そういうことだ」

 

「そうなんですね。あら、皆さんがやっているのは…」

 

「今年はカルタか。百人一首もあるな。」

 

「景品もある。適当に持ってけ」

 

副生徒会長さん、景品を適当に持っていかせるのは駄目だと思います。

 

「百人一首…ですか。いいですね」

 

「グラスはなんか百人一首、強そうだな。俺と戦うか?」

 

「ふふ、私は嗜む程度の強さですよ?ですが、挑まれたからにはうけて立ちましょう」

 

グラスワンダーにレースの時みたいなスイッチ入ったな、これ。まぁ、この勝負、相手が強ければ強いほど俺の有利。相手の強さは空戦で確かめるものだ。誰かがそう言っていた!

 

「では、あそこの席が空いています。本来は畳がいいんですけど…贅沢は言えませんね。行きましょう」

 

いや今、足を怪我してるからそもそも正座出来ないでしょ。

 


 

雪トレーナーは天皇賞(春)インタビュー頑張れと私たちを送り出してくれました。けど、長距離という舞台でミークの評価は良くない。ミークは今まで掲示板外になったことはないし、中距離までならG1含めて多くの重賞を勝っている。じゃあ、長距離は?一回しか勝ってません。ライスちゃんやら、ハヤヒデやらマヤノやらに散々敗けまくりました。

 

『視てきた。ハッピーミークは今回も厳しいぞ。』

 

雪トレーナーの評価もこの通り辛口です。本人がいるんですからもう少しオブラートに包んでもいいと思うんです。……ライスちゃんの時と比べると優しくなってるんだよね…?雪トレーナーの事は今はいい。大事なのは厳しいと言われたミークをどうやって勝たせるのか。幸い、五番人気でこそあるけど、ミークは記者の質問が全く飛んでこないぐらいには他から注目されていない。これまでの経験からこういう時のミークは強い。なら、私は私のやれることをやりきるだけ。とりあえず、気にするべきは雪トレーナーが言っていた四番人気のウマ娘。

 

「フクキタルにそんな熱視線を送っても無駄なんだよなぁ、桐生院センパイ。アイツの事は無視するのをおすすめするぜぇ」

 

「彩雲トレーナー…」

 

まるで雪トレーナーのようにいきなり隣に現れたのは雪トレーナーが危険視していたマチカネフクキタルの担当、彩雲 春。雪トレーナーとはよくわからないけど友達らしい。私は正直嫌いだけど。

 

「雪の能力、復調したんだろ?なんて言ってた?まぁ、だいたい予想出来るけどな」

 

「1着はメジロブライト。でも、マチカネフクキタルの運が良かったら、このレースは全部マチカネフクキタルにひっくり返されることになる。だそうです」

 

「へぇ~やっぱ、桐生院センパイはバカだなぁ」

 

「親切に教えてあげたのにいきなりバカってどういうことですか?」

 

「レース、戦いは情報が重要なのにそういう重要情報を簡単に教えちゃうとこ」

 

戦いは情報が重要……確かに雪トレーナーと言ってることが同じですね…雪トレーナーの能力を知られている以上、雪トレーナーの予想はこの人にとって凄く信頼性のある情報になっちゃう…これは確かに雪トレーナーに話したら少し説教されるかも。

 

「それにしても、全部ひっくり返す…ねぇ。桐生院センパイ、そこは安心していいぜ。今のフクキタルにそんなこと絶対に出来ないから」

 

「自分の担当のことを信じてないんですか?」

 

担当トレーナーが担当ウマ娘の事を信じらなくて、何が担当トレーナーか。例え、外野が何と言ったって担当ウマ娘にとって唯一の味方の私たちは私たちだけは絶対に担当を信じていないといけないでしょ。……雪トレーナー、あなたのことですよ。

 

「信じてるさ。アイツが本来の力を発揮できるなら、このレースの1着はフクキタルだ。それ以外、ありえねぇ」

 

「そこまで言うなら、獲って見せてくださいよ。本来の力を発揮できるようにするのが私たちの仕事でしょう!?」

 

「無理だろ、本人が開き直らない限り。それに俺がそこまでして得る利益は何だ?あぁ、確かにアイツが走れるようになればG1という金山をたくさん掘ることが出来るかもしれねぇ。けど、別にフクキタルの代わりならチームに既に居るし、今の時期なら重賞が獲れるレベル新しいウマ娘数人と契約してソイツらに時間をかけた方が利益がある」

 

利益。これだから彩雲トレーナーは嫌いだ。ウマ娘を金集めの道具としてか見ていない。何でこんな人が中央のトレーナーなんですか?あと、マチカネフクキタルの代わりって、何ですか!?マチカネフクキタルは彼女一人しかいないのに…!

 

「ハハハ、いかにも怒鳴り散らかしたいって顔だなぁ?」

 

ええ、今がイベント中じゃなかったなら、間違いなく胸ぐらを掴んで怒っていますとも。私、これでも一般男性よりは力あるんですよ?

 

「桐生院センパイも同じだぜ?トレーナーである以上、ウマ娘を食い物にしていかないといけないんだからさ」

 

トレーナーの給料は担当ウマ娘の成績でボーナスがあります。担当ウマ娘の成績が私たちの給料に影響するのは分かってる。そうなんですけど…!でも…マチカネフクキタルは…!マチカネフクキタルにはあなたしか居ないのに…

 

「……あんたはフクキタルの心配するより自分の心配した方がいいぜ」

 

「え?」

 

「あそこ、端の方にいるハッピーミークに熱視線送ってる奴、見ねぇ顔だ。記者でも中央のトレーナーでもなさそうだ」

 

彩雲トレーナーの視線の先には確かに知らない男が……いいえ、あの人に私は見覚えがあるような……

 

「今年、桐生院センパイの回りに風が吹き荒れるでしょう。以上、フクキタ彩雲天気予報でしたー」

 

「ちょっ、ちょっと待ってくださいっ!どういうこと「葵トレーナー、今いいですか?」

 

なんですか?という私の言葉を遮ったのは乙名史記者。ハダルがお世話になっている記者さんだ。無視は出来ない。彩雲トレーナーとなら学園でも話が出来る後回しでもいいですよね?

 

「はい、大丈夫です」

 

「ありがとうございます。早速ですが、今回の天皇賞(春)、自信ほどはどうでしょう?」

 

「皆さんの評価通り、厳しい戦いなのは事実です。でも、私たちはゴール板を走る抜けるまで絶対に諦めません」

 

「それでは勝つ策はあると?」

 

「はい、ありがたいことにハダルには長距離最強と呼ばれたウマ娘のデータがありますから」

 

「なるほど、ライスシャワーさんの走りを参考にするわけですね!」

 

「えぇ、ミークは尖ってる所が無いなんてよく言われます。だからこそ、モノマネが得意なんですよ。ライスちゃんのマネは簡単じゃないですけどね」

 

「素敵です。ハッピーミークさんはライスシャワーさんの思いをのせて走るというわけですか。ありがとうございます、私はハッピーミークさんの取材に行きますね。葵トレーナーはどうされます?」

 

「ここにいます」

 

学園で話せばいいとは思ったけど、出来ることなら早く終わらせたい。乙名史記者を見送って私は再び彩雲トレーナーに向き合おうしたけど、

 

「……勝てないウマ娘は記憶から消えていく。フクキタルもそうなっちまうのかねぇ」

 

と嫌な呟きを残して、この場を去るところだった。嫌な呟き…だけど、その背中はどこか見覚えがあった。

 

「マチカネフクキタルは忘れられないですっ!あの末脚を忘れられる人は居ないです」

 

そうだ、雪トレーナーだ。雪トレーナーがチームシリウスを見ている時のあの背中だ。

 

「……思い出は商品価値になる。フクキタルはまだ金になるってことだな」

 

ニタァとして笑顔を向けて、今度こそ彩雲トレーナーは会場を去った。

 

「あ、あの謎の人のこと聞きそびれた……」

 




ハッピーミークのヒミツ
実は、得意なモノマネは『エサを求めて水面に来る鯉』。
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