美貌バいろいろ   作:SunGenuin(佐藤)

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おまたせしました~~!!!!
みんなだいすき完全素人兄貴の外伝です。
全6話予定。

いい感じに気持ち悪い素人ニキを提供できたらと思います。



【完】素人ニキ外伝『魂の証明』 最終更新:'22/5/28
魂の証明①


自分自身でも何故こんなに惹かれているのか、わけがわからなかった。

ただ身体の奥深く、触れられないなにかが脈打つ。

これだと叫んでいる。

やわらかくて、あたたかくて、締め付けられるような。

 

白い手が差し出された。

画面の向こう側で、実体のない平面が微笑む。

その光を、ひたすらに追い求めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「別れたんだって?」

 

困ったような顔をした男にそう聞かれて、俺は頬を掻いた。

 

「誰から聞いた?」

「あー、彼女から」

 

俺に釣られるように頬を掻く男とその彼女とは、中学校以来の友人だ。

気まずそうにしている理由は単純だ。

俺が彼女にプロポーズすることをこの男も知っていたから、だろう。

知っていたどころか、プロポーズするならこの店がいいよ、と会場までセッティングしてくれたのがこの男だったのだから、プロポーズどころの話じゃ無かったと聞けば、こんな表情にもなるか。

俺はそう思って頷き、男の肩を2、3回叩いた。

 

「参ったよ。本命がいるなら、レストランの名前を聞く前にフって欲しかったな。……ま、お前が気にするようなことじゃない。縁がなかったってことだろ」

 

そう言ってわざとらしく手を振ると、男は少しだけ目を丸くして口を開いた。

 

「……なんかお前、思ったよりダメージ受けてないな?」

「なんだ?飯も食えなくなるほどボロクソに傷つけって?」

「そうは言ってないだろ!……いやさ、お前、中学ん時に飼ってたハムスター。死んだ時おもっくそ泣いてたろ?彼女、あー、元カノのこともすげえ溺愛してたじゃん。だから、なんだ、その反動でヤバいことになっていかって……」

 

ああ、と俺は納得した。

同時にため息が出る。

 

「そのためだけに早朝出勤までしたのか」

「そりゃあなあ!?クッソ可愛がってたハムスター死んだときに『もう生きてる意味がわからない』ってギャンギャン泣いてたのを知ってればなあ!?」

 

ずいぶんと心配をかけてしまったらしい。

俺は再度男の肩を叩き、大丈夫だと告げた。

 

「自分でも思ったほどダメージはないんだ。傷つかなかったと言うと嘘になるけど、不思議と引きずってない」

 

本音だった。

確かにあの瞬間は生きていることさえ煩わしかったはずなのに。

一歩踏み出した先の、あの光が脳裏に焼き付いて離れない。

10年もの間、大事に抱きしめていたはずの彼女への感情を包む光。

枯れしぼんだ花のように項垂れた俺を救いあげた、あの眩しさ。

 

「……眩んで、目を逸らしているだけかもしれないけど」

 

ぽつりと呟いた声は雑音に消され、目の前の男は未だ心配そうな顔をしている。

俺は何度目になるかも分らない作り笑いを見せて、自席に戻るように促した。

もう間もなく始業の時間だ。

今日はいくつも会議が入っていて、彼女の事もあの光の事も考えている余裕はない。

一日にこんなに会議を詰め込むなんて最悪だな、と以前なら思っていたし、詰め込んだヤツ── 俺自身を恨んだだろう。

だが今は感謝している。

仕事に忙殺されている間は、いつも通りの日常に思えるから。

 

そうして次から次へと飛び込んでくる仕事を片付けた後、傷心の俺を慰める目的で── 実のところただ飲みたいだけのヤツが多いんだろうが── セッティングされた飲み会から抜け出した帰り道。

メッセージアプリの通知を知らせる音が響き、スマホを手に取ると別れたはずの彼女からのメッセージだった。

そこにはたった一言。

 

『私物は全部処分して』

 

挨拶もないその事務的な連絡に、一切の動揺はなかった。

昨日まであんなに揺れていた水面が今は静かだ。

自分自身でも驚くほど冷静で、返信を打つ親指の動きはスムーズ。

 

『わかった』

 

というたった4文字を送り返した後は、スマホを仕舞い込んで家路を急いだ。

男の一人暮らしにしては広い2LDKの自室に着くと、俺は着替えもそこそこにパソコンを立ち上げる。

頭の中に刷り込まれた白さを思い浮かべながら、その光の名前を打ち込んだ。

 

その光の名は ── サンジェニュイン。

 

「……2002年産まれの日本のサラブレッド」

 

誕生日は7月2日。

競走馬として、2005年に皐月賞、菊花賞、有馬記念を制し、翌2006年には日本の競走馬として至上初の凱旋門賞制覇を成し遂げた。

種牡馬としては初年度から2頭の三冠馬を輩出したほか、2013年、2017年に凱旋門賞勝ち馬を送り出して父子制覇を果たす。

2005年にJRA最優秀3歳牡馬を、2006年にJRA最優秀4歳以上牡馬とカルティエ賞年度代表馬を受賞し、2007年には顕彰馬に選出された。

サラブレッドとしても希有な白毛の持ち主で、その見た目と強い競馬もあって、2000年代初頭の競馬ブームをディープインパクトと共に牽引した。

現在も種牡馬として社来スタリオンステーションで繋養されている。

 

簡易的にまとめられた情報ページには、あの日、町中で見た少女のイラストも添えられていた。

2021年にリリースされ、今年4周年を迎えたそのアプリゲームの事は俺も知っている。

元々あまりゲームに興味を持つタイプではなかったため遊んだことは無かったが、それが大変なブームになっていたことは流石に覚えていた。

リリース当時ほどの熱狂では無いのかも知れないが、今もそのゲーム名は度々耳にするので、人気は衰えていないのだろう。

 

「ウマ娘プリティーダービー、か」

 

カチカチ、とマウスを操作して情報を集めていく。

ウマ娘プリティーダービー ── 通称「ウマ娘」は、シャイゲームズという会社が提供するメディアミックス作品。

実在する競走馬を擬人化したキャラクターである「ウマ娘」を育成する育成シミュレーションゲームであり、2018年にはアニメ化もされているようだ。

メディアミックス作品というだけあってその展開は多岐にわたるようで、ゲーム、アニメの他に漫画化や、最近だとノベライズもされていることから、その市場の大きさが分る。

俺が見た光は、現役の種牡馬である「サンジェニュイン」をモチーフとした同名のキャラクター。

さっと調べた範囲ではこれから登場予定のようだったから、あの映像はその広告だったのだろう。

登場するのはいつなのか、と調べているうちに、気づけば俺のスマホにはウマ娘がインストールされ、パソコンにもプレイ環境が構築されていた。

在宅勤務用に買って、結局使わずじまいだったはずのサブディスプレイが机に置かれていたときは、実は部屋の中にもうひとり、別の誰かがいるのではないかとさえ思った。

それくらい、それらを用意したときの記憶はない。

ただ手だけは動き続け、通販サイトの注文履歴にはサンジェニュイン関連の書籍が何十冊も並び、それに購入可能なウマ娘関連商品が続く。

翌朝には会社に連絡を入れ、ため込んでいた有給を緊急で消化するための交渉をしていた。

 

「はい……はい、はい、わかってます。明日までには引き継ぎ資料を送ります。え?青木ヶ原樹海?いや行きませんけど……は?華厳の滝……東尋坊?だから行きませんって。なんですかそのチョイス。……ええ、はい。はい、ありがとうございます」

 

電話口の上司からやたら心配された。

おそらく昨日の男、友人との会話がきっかけだろう。

別にふたりとも声を潜めていたわけでもなかったし、近くには他の社員もいたのだから、上司の耳に入ってもおかしくはない。

大学生の時からインターンで世話になっていることもあり、社員としての勤続年数は若いが長い付き合いだ。

上司も含め同僚の多くは、俺が一度のめり込むと引きずりがちになることを知っている。

今回は10年付き合った彼女との破局だったこともあって、余計心配してくれているのだろうが、傷心旅行で訪れる場所でもないだろうに。

 

「そもそも傷心旅行をしている場合でもないし」

 

素晴らしきかな現代のサービス。

翌日配送も珍しくない昨今において、通販サイトの履歴にずらりと並ぶ書籍たちは、明日から順次届き始めるだろう。

家を留守にしていては意味がない。

……だが、一社員に過ぎない俺のことを心配してくれる上司や、気に掛けてくれる友人のためにも、1日に1度は生存報告するべきかもしれないな。

そう思いながら俺は急ピッチで引き継ぎ資料を作り上げた。

 

その資料が後任に確かに渡ったことを確認した後は── 気づけば有休消化残り2日になっていた。

 

周りには大量の本が積まれている。

どれもこれも、表紙を見ただけで内容が浮かんでくるくらいには深く読み込んでいた。

ただ覚えていないのは、この十数日間、読書以外に何をしていたかということだ。

冷蔵庫は空で、ゴミ箱に配達業者のレシートが積み重なっているのを見ると、どうやら食べてはいたらしい。

何を食べたかはっきりと覚えていない。

『栄光の馬たち ── 1960年から2010年』の211ページでサンジェニュインが食べているのはサンふじ林檎だってことは答えられるのに。

牧場での幼名は『マイサン』で、冬は厚めの馬着を愛用していて、にんにくみそが嫌いで、寝藁は多めがいい。

他の馬よりも毛量があるため、レース前はいつも鬣を少しだけ短く切ることなんかも、記載されている本を読まなくてもすらすらと読み上げられる自信があった。

だがいくらなんでも夢中になりすぎた、と頭を抱えていると、眼前のサブディスプレイにメール受信の通知が現れる。

その件名を見て、俺はハッとした。

 

「やばい、連絡を返していない……!」

 

メールページを開けばそこには3桁にも及ぶ未読のメール。

古いものから辿っていくと、調子はどうか尋ねるメールに始まり、本当に大丈夫なのか、早まっていないかと回を追うごとに深刻になっていく。

もういろいろと手遅れな気もするが、生存報告するためにスマホを手に取るとしこたま怒られた。

こればかりは俺のせいだ。

怒れる友人を宥めながら、俺は部屋を見渡し、ひとつ決意する。

 

「……そうだ、ネット上にもまだまだ情報があるはず」

 

友人に怒られた意味はなんだったのか。

この時の俺がまったく反省していなかったのは認めるが、無我夢中だったので許して欲しい。

無我夢中にもほどがあるだろ、とそれから幾月が経った頃なら自覚できたかもしれない。

だが、もはや本だけでは満足できなくなっていた俺は、その後も無心でキーボードを叩き続けた。

一度アップロードしてしまえばその情報が消えることはない、などと言われるインターネットだが、如何せん情報量が多すぎる。

目当てのものが引っかかるまで何度も検索条件を変え、そのサイト内にあるURLを片っ端から踏みまくった。

中には悪意の掃きだめとも言える汚物のようなサイトもあったが、めげること無く繰り返した結果、俺はあるサイトにたどり着いた。

時刻は23時58分。

 

『【総合】サンジェニュイン専用スレ 28』

 

このスレとの出会いが、後の俺の運命を変えることになろうとは、この時の俺は考えてもいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

169:俺は名無しだって食っちまう ID:4tu0nNik1

ちょっといいですか?

最近アプリ版ウマ娘始めたんですけど、サンジェニュインが実装されるのはまだ当分先ってことですか?

 

 

 

打ち込んだ文章に対し、間も開かずに返信がくるあたり、そのスレ── 掲示板のスレッドは盛り上がっていた。

開いたタイミングも良かったのだろう。

独特のネット用語を理解するのは苦労したが、教えて貰ったメッセージまで掲示板内を遡ると、詳細な情報が記されていた。

サンジェニュインの実装予告がなされたのは、本当に最近のことらしい。

順調にいけば秋、それもサンジェニュインが制した凱旋門賞というレースが開催される時期に実装のようだ。

ポンポンと流れる話題を目で追いながらメッセージを打ち込んでいく。

掲示板の利用者たち、ここではスレ民と呼ぶそうだが、彼、あるいは彼女たちは時に辛辣な時もあれば、こうして親切にしてくれる側面もあるらしい。

せっかくだから書籍以外にサンジェニュインについて知ることができる媒体がないか、それを聞くと、なら映画が良いのではないかと言われた。

そうか、映像作品もあるのか。

そういえば情報をまとめたサイトに、映画の欄もあったような気がする。

ウインドウを二つに広げ、掲示板を見ながら片方のウインドウで通販サイトを立ち上げた。

書き込まれていく作品名を検索欄にいれ、該当する商品をカートに次々と入れる。

映画の他に漫画もあると知ればそれも。

グッズもあると投稿されればそれも。

生産牧場で限定のグッズがあるとの書き込みを見れば生産牧場の公式サイトを開いた。

これまで彼女との結婚資金に貯めていた7桁の貯蓄がある。

ブランドもののバッグやアクセサリーを買う必要も無い今、浮いたそれらがサンジェニュイン関連の商品に流れていた。

正直後悔はしていない。

どころか、この瞬間こそが最も気持ち良いとさえ思っている。

室内に積み上がった書籍を見渡しても、その気持ちは揺るがなかった。

 

再び掲示板に視線を戻すと、俺がサンジェニュイン実装後のウマ娘に100万円をつぎ込むと発言したことに対して、いくつかの返信が来ていた。

学生時代からの貯蓄だと知ると、もっと大切なことに使えと書き込むスレ民もいたが、これが今の俺にとっていちばん大切なことだ。

だからつぎ込んでも心配ない。

流れていく返信を横目に、立ち上げていた2つ目のウインドウで航空チケットを予約した。

数ヶ月後、10月4日にフランスに到着するチケットだ。

これで10月5日の凱旋門賞に十分間に合う。

別にフランスにサンジェニュインはいない。

いないが、その血を継ぐ子供たちはいる。

その存在を感じるためだけに、俺はフランスに行こうとしていた。

サンジェニュイン基金に数十万を入金しながら、異国の大地へと想いを馳せていると、掲示板に書き込まれた文言に目を惹かれた。

 

 

 

281:俺は名無しだって食っちまう ID:j4gxACYKL

この素人兄貴が数年後、ダービー馬のオーナーになるとはこの時誰も知らなかった──

 

282:俺は名無しだって食っちまう ID:Kfr8Mqy63

>>281 本当になりそうで草

 

 

 

── オーナー。

考えてもいなかった。

そもそも競馬にこれまで触れてこなかったこともあるが、馬を所有するのはよほどの金持ちだと認識していたこともあり、そこまで思考がたどり着いていない。

しかし応援の形として「自分自身がオーナーになる」という道もあるのか、と思った。

……なるには途轍もない努力が必要となるだろうし、巨万の富を得ることなど俺には無理だろう。

せいぜいサンジェニュインを所有していたクラブに入会して、そこの一口馬主になるのが関の山か。

だがそれも面白そうだと思いながら、その日の俺はそのまま眠りについた。

 




毎週日曜日22時投稿予定!!!!

第◇回サンジェニュインのお嫁さんレース(敬称略)

  • エアグルーヴ
  • ハルウララ
  • ウオッカ
  • カレンチャン
  • 海外牝馬組
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