美貌バいろいろ   作:SunGenuin(佐藤)

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7月にインフルに罹ったマヌケはこの俺なんだよね!
毎秒ワクチン打て(豹変)

サンジェニュインをこれ以上ポンだと思わせないようにちゃんと賢いところを書きました。
前半はサンジェニュイン視点、後半は関係者視点です。


ハッピーバースデイ・フォー・ユー 2

「サンジェお前……」

 

 いや違う。

 これは違うんだわリキ。

 ちょっと話し合おうぜ?

 違うんだ、言い訳をさせてくれ、別に蹴っ飛ばそうと思ったわけじゃなくってぇ……!

 

「ブモブモ言ってるけど……アレ、めっちゃ飛んでるやんけ」

 

 見てみぃ他のスタッフが慌てて回収しに行ってるわ、とぼやくリキこと、俺の今の担当厩務員・目黒リキ。

 名字でお察しの通り、目黒さんの親戚、甥っ子である。

 俺と俺の産駒が暮らしてる専用厩舎、別名『太陽御殿』全体の管理をしつつ、主に俺の世話をしてくれてる男。

 で、今、絶賛開催中のバースデーイベントでも進行役をしてくれてる。

 誰のバースデーって、当然俺だ。

 この社来スタリオンステーションで7月生まれなど、オーストラリアから来てるシャトル種牡馬を除けばこの俺ただ1頭なのでね!

 

 23歳にもなってバースデーイベントて……とか思われるかもしれんが、俺がクラシックシーズンでヒイヒイ言ってた頃からちょうど20年経ってんだわ。

 せっかくの節目だし、何より種牡馬18年目にして初めて産駒が日本ダービーを制した!

 おめでとう俺、おめでとう関係者、ってこともあり、お祝いに次ぐお祝ということで開催してもらった。

 第92代ダービー馬ことサンサンファイト、本当におめでとう!!

 父ちゃんも嬉しい。いやもう本当はちゃめちゃに嬉しくて厩舎内で騒ぎまくったもんな。

 目黒さんににんじん贈るようすっごいお願いしといたからな。

 いっぱい食って次は菊花賞! こっちも怪我せず頑張ってくれよな!!

 

 ちなみに今回のバースデーイベント、なんとスポンサー付きだ。

 これに関しては、まあ、俺の名前を使ってる基金とかもこれを機に知名度アップさせたいって社来側も考えてるみたいだし。

 自分で言うのもなんだけど、俺、馬の中だとそれなりに一般人相手にも知名度あるんでね。

 普段は競馬に縁もゆかりもなさそうな一般企業様をバックにつけてちょいちょいと一稼ぎだ。

 えぇ結局は金かよ……と若き日の俺なら思っちゃうこと間違いなしだが、こうして十数年もお世話になってるとわかってくる。

 

 俺らの生活費って高ぇ。

 

 馬の維持費ってすんごい掛かるんだわ。

 ただ生かすだけなら草と水と屋根付きの寝床さえあればいいのかもしれないが、俺らの幸せな毎日まで考えるとそうもいかない。

 良質な飼い葉に清潔な水、衛生環境のしっかりした馬房に、運動できる広々とした場所、いざという時の医療費。

 必要経費を考えれば金はいくらあっても足りんのです。

 種牡馬として1発何千万だったりする俺だけど、その金額で俺だけでなく俺を世話する人間だったりを養ってるので。

 それにこの世の中ってのは、金があればできることが増えるもんなんです。

 ソーナンデス。

 

 あと、こういうので得られるのは直接的な金だけじゃない。

 俺の現役時代から応援してくれてる人や、俺の産駒のファン、それ以外の人たちにも基金なり引退馬協会の活動なりを広く知ってもらって、俺含めた競走馬の未来についてちょっとでも考えるきっかけになれれば嬉しい。

 どうして基金が存在するのか、その基金で集めた金が何に使われるのか、使われた先の未来で何を得ようとしているのか。

 そのこと自体を知ってもらうものも目的のひとつなんだろう。

 重賞馬の数以上に用途変更、行方不明の産駒が多くいる俺なので、こうした啓蒙の先で1頭でも多くの道なき馬に道ができたら、頑張って仕事をした甲斐もあったなあと思えるのだ。

 もちろん、俺らは経済動物だし、肥育だってやがて他の動物の命を繋ぐためには必要なものだとわかってる。

 でも気持ちっていうのは割り切れないし、ましてや自分の血を分けた子供だと考えたら「仕方ないよねバイバイ」で済む話じゃないんだ。

 俺はそこまでプロフェッショナルになれなかった。

 人の記憶があって、だから自分たちの置かれてる環境だったり、経済的な価値、資産的な価値、モノとしての立場を理解していても、こればっかりは簡単にいかない。

 むしろ人の記憶があるからこそ強く思うのかも知れない。知っている、って、良いことばかりじゃないからなあ。

 そんなままならない気持ちを抱えながら、だからせめて、と思う。

 

 自分の意志で馬を肥育に送り出せるオーナーには文句はない。

 言えないし、それが所有者の確固たる判断ならむしろオーナーとして「馬の最期にまで責任を持つ」って役割を果たしたと思う。

 けど、たとえば「乗馬になれたはずだけどリトレーニングする金銭的余裕がないから泣く泣く肥育」みたいな、()()()()()()()()()()()()オーナーは、違うと思うんだ。

 そういうオーナーは不幸だ。いちばんありふれてるけど、俺からしたらオーナーも馬も不幸に見える。

 

 もし、リトレーニング代や治療費を助成してくれる機関があったら。

 もし、リトレーニング代を悩まずに済んだら。

 

 もっとじっくり、馬のこれからを考えて決断できるオーナーがひとりでも増えるかもしれない。

 世の中には「乗馬クラブに無償譲渡すればいい」って言う人もいるけど、無償譲渡したからって本当に馬がリトレーニングされる保証もなければ、無償なのは譲渡だけでリトレーニング代は無かったことにはならない。

 中には無償譲渡された馬を結局は扱いきれずに仕方なく肥育に出すクラブもあるし、俺の産駒にだって公式発表では無償譲渡で乗馬予定だったのにそれから音沙汰ない仔もいる。

 しばらくしたら肥育に出されたケースも、目黒さんが確認しただけで10頭はいたんだ。

 仕方ない話だとはわかっているし、すべての競走馬を救うことが非現実的なのもしっかり理解した上で、それでもままならない気持ちがどうしても残るんだよ。

 だから、俺の名前を使った『サンジェニュイン基金』が、そうした悩めるオーナーと馬、あるいは乗馬クラブをサポートするひとつの形になれたらいいと、そう願っているんだ。

 

 

 ということで、種牡馬入りしてからちょくちょく開催されている見学会や、広報のための撮影なんかは嫌がらずに取り組んだ。

 拒否権なんかないからそりゃ嫌がるも何もないだろって話かもしれないが、なるべくリテイクなく済むようにむしろ積極的にやった方。

 写真集も出してるけど、あれ買ってくれてる人ほんとうにいるのかな?

 前に遊びに来てくれた目黒さんが言うには結構売れてるらしいけど。見学会でもたまに持ってきてるひと居るもんなあ。

 俺の半生を映画化する、とかいう「おめえ大丈夫か? 本当に題材俺でいいんか?」な内容にも真剣に取り組んだよ。

 嘶き方が棒すぎるカネヒキリくんに演技指導までしたわ。

 その甲斐あってヒットしてくれて本当にニッコリ。

 子供たちの何頭かは役者馬っていうセカンドライフも手に入れたみたいだし。

 仕事なんてなんぼあったってええですからね。

 

 そういう活動の地続きでこうして23歳のお誕生日会を開いてもらってる。

 若い頃一緒にいたやつはほとんどいなくて、今や俺より年下の子ばっかりになっちゃったこの社来SSで、人間だけは相変わらずいつものメンツのまま年だけとったおっさんどもに囲まれてな。

 マジこいつらの感性どうなってるんだろうな。なんだよ、俺がプレゼント開封する企画って。

 いやできますよ?

 元人間の俺ともなればプレゼントを開封するなんてちょいちょいのちょいです。

 ただ世界広しと言えどもサラブレッドにプレゼント開封させようとした人間はお前らくらいのもんだかんな。

 

 まあせっかく期待されたしやってやりますか、と自慢の右前脚でプレゼントボックスの輪っか紐を脚に引っかけたまではよかった。

 問題はその後なんだよな。

 あとはチョイッと引っ張り上げるだけの予定が、ボックス自体が思ったより手前に配置されてしまった関係で蹴っ飛ばしてしまったのだ。

 予定では一発成功して「おぉ〜〜!」という歓声を浴びることになっていたので、おっさんどもから笑われている現状が許せねえ。

 おい、誰だよ今「おっさんだから上手く蹴れない」つったのは。

 違うから。

 別に加齢のせいじゃねえからこれ。

 配置のせいだから……!!

 

「ブヒ〜ん!!!!」

「わかったわかった!!!! もう1回(もいっかい)、な!」

 

 チャンスさえあれば次は絶対成功させるから……!!

 俺は挑戦の牡馬(おとこ)ですからね、やってやりますよやってやりますよ……!?

 

「よしサンジェ、慎重に、慎重に……アッ」

 

 このあと更に2回失敗し、社来SSの代表から苦笑いされた。

 

「無理しなくていいんだよ、サンジェニュイン」

 

 ち、ちが……こんなはずじゃ……ヒィン──……!!!!

 

 

 

 

 

 2025年7月2日。

 

 サンジェニュインが産まれて23年目の夏が来た。

 産まれた頃から何もかもが太ましく、丈夫であるがまま今日まで生きてきたその道程を、ある時は彼の生産元として、ある時はいちファンとして見守った。

 あの当時はあんなに珍しがられた白毛も、今となっては数ある毛色のひとつとしてよく見るようになった。

 それは彼自身の血の広がりが凄まじいこともあるし、彼同様、白毛に産まれてその繁殖力を強く見せつけたシラユキヒメらの存在もある。

 ともかく、令和の今では特別珍しくもないその毛色を、それでも今でも「特別」だと思わせる輝きを放ったまま、サンジェニュインはその場に君臨していた。

 月日を経ようが曇ることのない光は、かの国では「太陽王」としてこれ以上無い畏敬の念でもって仰がれている。

 

 ひとたび走れば史上初で在り続けてきた彼も、今日で満23歳。

 馬の中で取り立てて老成しているというわけではないが、現役の種牡馬としてはまずまずの高齢で、この社来SSにおいては最年長だ。

 かつて種牡馬たちのボスとして君臨してきた歴代の馬たちを振り返るに、やはり、彼は特殊だろうと思う。

 

 まず、サンジェニュインの仕事の拠点はふたつあった。

 ここ、社来SS ── 社来スタリオンステーションと、海外である。

 それは南半球へと向うシャトル種牡馬ではなく、シーズン途中から移動を開始するこれまでに類を見ないスタイルで、欧州でこそその血を多く残した。

 元より、現役時代から洋芝に対する高い適性を発揮し、その末の凱旋門賞制覇という偉業を成し遂げたわけだから、馬産業に従事している者であればそれを不思議に思うこともないだろう。

 深く沈む大地を主戦場として掲げる西洋でこそ真価を見せた血を、むしろ大勢の日本の関係者が喜んだに違いない。

 これまで他国から種牡馬を輸入し、自国の競馬を発展させてきた我々が、今度は他国に影響をもたらすことができたのだから。

 その点から見て、サンジェニュインは我が国の競馬がいかに進化したのかを知らしめる最大のシンボルであった。

 

 種牡馬の価値とは、子供が決める。

 サンジェニュインが現役時代どれほど素晴らしい馬であろうと、それは現役時代の彼自身の評価を確固たるものにするだけで、種牡馬としての彼を評価しない。

 産まれた仔が走り、勝ち得たトロフィーだけがサンジェニュインの父としての価値を我々に語るのだ。

 それでいくと、サンジェニュインは種牡馬としても優れていると言うほかない。

 

 サンサンドリーマー、サニーメロンソーダ、シルバータイム、アイシテルサニー、サニーファンタスティック、シャイニングトップレディ。

 

 海外も含めた初期の産駒だけでこれほどの名馬が揃うことはそうないだろう。

 特に初年度から2頭も三冠馬を輩出した例はこれ以上になく、サンジェニュインの名を高めた。

 サニーファンタスティックは後継種牡馬としてもさらに枝を伸ばし、今日において欧州でのサイアーライン確立に重要な役割を果たしてくれた。

 

 そして時代はうつろう。

 サンジェニュインの血を求めて数千万が飛び交ったあの頃から、今やその子供達へと世代交代が進んでいた。

 それでもなおサンジェニュインを求める声が完全に止んだわけではなく、18年目の今年、ダービー馬を輩出した事からも衰えていないことは明白だ。

 しかし、サンジェニュインは種牡馬を引退する。

 

 まだやれるとわかっていながら、求めることがあると知りながら、しかし、我々は彼の引退を決めた。

 誰が口を出そうとも撤回することはない。

 サンジェニュインが用無しになったのかと言ったら違う。

 むしろ逆だ。

 サンジェニュインは我々に有り余るほどの幸福を授けてくれた。

 感謝こそすれ、それを下げるようなことは未来永劫ありえないだろう。

 

 ならばなぜ引退するのか?

 それはひとえに、彼の限界が見えているからだ。

 

 22歳になった去年。

 サンジェニュインは生まれて初めて体調を崩した。

 これまで1度の熱発もなく、疝痛に悩まされたこともなく、現役時代にあった疾病といえば心房細動のみで、非常に健康であったサンジェニュイン。

 しかし寄る年波に勝つことはできない。

 シーズン中は日に3回もあった種付けを熟しきることはもうほぼ不可能で、様子を見て日に2回へと減らされた。

 緊急時の種付けもなくなり、そうしてようやく回復した体調を維持するだけの1年。

 2025年に入ってからは体調の善し悪しに波が生まれ、酷いときは立てない日もある。

 それらの様子から、社来グループとしてサンジェニュインの完全な引退を決めた。

 同じ厩舎には後継種牡馬が数頭控えている。

 若い彼等にバトンタッチして、サンジェニュインは生まれ故郷である陽来で余生を過ごす手筈となっていた。

 

 社来SSで過ごす最後の夏。

 良い思い出になるよう企画された今回の誕生会でも、サンジェニュインの衰えは見えた。

 背筋はピンと伸び、首も曲がらず、足腰もしっかりして元気そうに見えるが、3度の蹴り失敗等加齢による衰えが顕著だ。

 もう少し若かったら失敗することは絶対に無かっただろう。

 おそらく目に異常が出ているのかも知れない。自分が見えているモノとの正確な距離が掴めていないようにも思える。

 愛する馬の老いをこんな形で見ることになるのはとてもつらいが、それにまっすぐ向き合うこともまた、馬と共に生きるということだ。

 

 23歳なんてまだ若い。そう言うスタッフがいるのもわかっている。

 確かにまだ若い部類かもしれない。しかし、ディープインパクトが死んだのは何歳だ?

 キングカメハメハが死んだのは。クロフネが死んだのは。ハーツクライが死んだのは?

 種牡馬は一般の馬とはすこし違う。

 両手足じゃ足りないほどの名馬を送り出してきた、近代の名種牡馬として十分な高齢だ。

 後継も十分に育った今、功労馬として安心して余生を過ごす道を探してやるのが我々の最後の務め。

 繋養先は社来SSの功労馬が入る施設よりも、生まれ育った陽来の方が良いだろうと事前に話し合って決めている。

 だがそれ以外では何ができるだろう。

 数え切れないほど奇跡を生み出し、日本競馬に新しい光を射し込んだサンジェニュインに、何が──。

 

 その時、ワッと歓声があがった。

 大きなプレゼントボックスから順に贈り物を取り出している間も、じっと、その場で大人しくしていたサンジェニュインが首をもたげる。

 豪奢な馬着が出てきたときも、頑丈そうなホルターを見せられたときも、好物であろうリンゴを原材料としたオヤツを差し出されても、ゆったりと頷くだけだったサンジェニュインが、その身を乗り出して熱心に見つめていたモノ。

 それは2体のぬいぐるみだった。

 ターフィーグッズとして売られているような、成人男性の手のひらに収まるほどの馬のぬいぐるみ。

 遠目にも栗毛と鹿毛、あるいは黒鹿毛と思われるそれを、鼻をヒクヒクと動かしながらも興味深そうにしていた。

 

「こちらはサンジェニュインの元厩務員、目黒康史さんからの贈り物です! オーダーメイドで依頼した、カネヒキリ号とラインクラフト号のぬいぐるみですね」

 

 ああ、そういうことか。

 私以外にも何人かが頷いているのが見える。

 その頬は緩んでいて、仕方ないな、という声が表情に張り付いているようにも見えた。

 きっと私も同じ顔をしているのだろう。

 

「敵わないな、目黒さんには……」

 

 苦笑してそう言ったのはどの関係者か。

 いや、主戦だった芝木騎手のぼやきだったのかもしれない。

 たった2年。されど2年。

 競走馬にとってあれ以上なく濃密な期間を共に過ごした厩務員ともなれば、ああも容易くサンジェニュインの心を射止めるのだろうか。

 如何にも遊びたそうな横顔でぬいぐるみを見つめる、サンジェニュインのことを思う。

 

 この馬は元来寂しがり屋だ。

 孤高を気取るし、実際、外から見ると1頭でいるのが好きに見える。

 牡馬が嫌いであるし、騒がしい牝馬も苦手であるし、基本穏やかな馬以外との交流が下手。

 最初の数年間、ほとんど専用厩舎に引きこもっていたサンジェニュインの姿を見たときは、私も誤解したものだが。

 カネヒキリやディープインパクト、ヴァーミリアンと放牧地を隣合わせた時の表情からは、ひたすら楽しさだけが垣間見えた。

 

 ああ、この馬は誰かといたいんだ、と気づいた。

 

 よく考えれば、サンジェニュインは生まれた時から人間と共に過ごし、人間に構われて生活してきた。

 1頭ぼっちでいることなど、望みようもない環境ですくすくと育ってきた馬が、孤高を好むはずもない。

 ただ孤高でいる寂しさと、苦手な牡馬と共同生活を送るストレスとを天秤に掛けて、寂しさを耐えることの方がマシだと判断していただけなのだ。

 同じ厩舎で暮らし、あまつさえ放牧地まで共有して見せたカネヒキリとの生活態度を見れば、本当は誰かに構われながら生きていくことの方が幸福な馬なのだ。

 選り好みが激しい分、愛情も深い。

 カネヒキリやディープインパクトといった僚馬を立て続けに失ったとき、この馬がどれほどショックだったか人間にも分かる。

 産駒が種牡馬入りしたことで幾分か孤独感も和らぎ、そうしてどうにか日常を送っているような彼にとって、そのぬいぐるみはどれほど魅力的に見えたのか。

 

 馬の視覚は人間ほど色合いがハッキリしていないという。

 ましてやぬいぐるみの毛色なんてパターン化された生地を使用しているから、実際の馬ともかなり違う。

 けれどサンジェニュインには、あのちいさなぬいぐるみがカネヒキリやラインクラフトに見えているのだろうなと、ぼんやりと思った。

 そう思うほど、いや、確信するほど、目の輝きが違った。

 

「賢いんだか、子供なんだか。……いや、どっちもかな」

 

 ふっと口を突いた言葉は誰に聞かせるためのものでも無かったが、周囲にいた数人は確かに頷いた。

 そう、サンジェニュインは時々、我々をハッとさせるほど知性を魅せる時もあれば、純粋な子供のように振る舞うこともある。

 感情のメリハリがどの馬よりもクッキリついた馬である分、それが顕著にみえるのだ。

 どちらが本当のサンジェニュインかと言われれば、どちらもサンジェニュインなんだろう。

 

 23歳なんて、人間にたとえたら新卒社員くらいの年齢だ。

 人生まだまだこれから。そんな若手もいいところだけど、馬の世界では管理職クラス。

 酸いも甘いも噛み分けながら、でもやっぱりちょっとお茶目なくらいがとっつきが良い。

 

 サンジェニュインは永遠にスターホースだ。

 我が国初の凱旋門賞馬として未来永劫敬われる存在。

 であると同時に、ここでは、友達が大好きな人懐っこい1頭の馬でしかないのだと、改めて思い知った。

 少なくとも私はそう思う。

 

 そういえば、彼を管理していた本原調教師も似たようなことを言っていた。

 

「サンジェニュインは巷で言われるような天才ではありません。騎手に乗り方を教えるようなヤツでもなかったし、コースを知り尽くしているだとか、まるで競馬がわかっているかのような、とか、そんなことを度々言われたりするんですけど、まったくないです。コース取りは騎手任せ。競馬はただ走ればいいと考えている。純粋なんです。1番早く走ることを望まれていると知っていただけ。限られた時間の中で、ただ一生懸命走ってきただけなんです」

 

 彼はどこにでもいる馬だ。

 戦績がちょっとばかし、いや、ものすごく輝いていることを除けば。

 人を愛し、人に愛され、馬を愛し、馬に愛された。

 一生懸命、今を生きる、普通の馬だ。

 

 

 

 夏の空がゆっくりと夜へと姿を変えていく。

 ぴかりと光っていた太陽も紫雲の中に紛れ、徐々に姿を現す月が、バトンタッチを伝えてくる。

 放牧地の照明灯に照らされ、うっすらと白銀の光を帯びるサンジェニュインの姿は、その日、誰の目にも焼き付いて離れなかった。




これで読者諸兄にもサンジェニュインがいかに賢いのか分かって貰えたと思います。
次話ではもっと賢いところをお見せしますよ本当です賢さUCあります。

ところでこれは関係ないんですけど、美貌馬本編初投稿の日に生まれた現在3歳馬のアラレタバシル号の存在を報告しておきますね。母父デュランダル号でこれはもうウマ娘化間違いなし!!(早漏)
今日のレパードS出てたんですけどいやあ頑張ってましたね。
俺はアラレタバシル号の重賞制覇に1000ペリカとサンジェニュ院の魂賭けてるから。

第◇回サンジェニュインのお嫁さんレース(敬称略)

  • エアグルーヴ
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  • 海外牝馬組
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