タマモクロスの可愛い後輩
カネヒキリに料理を教えたのは、まだ桜が落ちきる季節だったと思う。
卵もろくに割れなかったウマ娘が、よくもまあここまで上達したもんや。
そう感心するくらいには、カネヒキリの料理の腕前は上達していた。
いや、むしろ上達しすぎていた。
なんやねん『鴨のコンフィ』て。
教えてへんわこんな洒落た料理!
「如何ですか」
「んまいぃ……!」
突然の呼び出しの詫びに、と作ってもらった料理に舌鼓を打ちながら、それにしても、とエプロン姿のカネヒキリを見た。
料理の腕と同じくらい、カネヒキリに対する印象もずいぶんと変わった気がする。
出会ったばかりの頃のカネヒキリは、他のウマ娘にほとんど興味がない、クールなイメージやった。
職人気質といえばええんか? それが今や、サンジェニュインのために料理を覚え、毎食拵えてやっている。
カネヒキリにここまでさせるサンジェニュインというウマ娘は、本当になんなんやろなあ。
クリークは会ったことあるみたいやけど、神出鬼没と言われるサンジェニュインと遭遇する確率はかなり低く、結局まだ一度も会えていない。
なんやクリークは『可愛らしい』なんて言うてたけど、そもそもクリークは誰に対しても可愛いと言うウマ娘や。
テレビ越しとは言え、見たことあるサンジェニュインは確かに愛らしい見た目をしているし、なんや新情報はなかったな。
カネヒキリだって、当初は料理を通じて会っていたのが、海外遠征に出るようになってからはそれもめっきり減って、ここしばらくは連絡もなかった。
けど最近になってウチとクリークにアポが入ったってワケや。
「おお、BCクラシック!? 世界ダートの注目レースやないか! すごいでカネヒキリ!」
「おめでとうございます~!」
「ありがとうございます、タマモクロス先輩、スーパークリーク先輩」
国内だと地方を除いて中央のダートレースは幅が広いとは言えない。
圧倒的に重賞レースが不足している中で、ダートを走るウマ娘はしばしば軽視されがちなのが、根絶すべき悪しき風習ってやつや。
クラシックシーズンに入ってからダート路線に切り替え、クラシック級でありながら国内のダート路線を席巻したカネヒキリに、この島国は小さすぎた。
んで、シニア級に上がって早々、カネヒキリはサンジェニュインとともに海外遠征を繰り返すようになったっちゅーわけや。
世界一のダートレースと謳われるドバイワールドカップを制して以降、カネヒキリの海外志向はますます強まった。
今回、カネヒキリからアポが入ったのは、その最中だった。
「……サンジェニュインの、自炊の補助?」
「はい。BCクラシック参戦にあたって、サンジェニュインの食事を作るのが難しくなってしまいました。サンジェニュインには自炊をお願いしようと思っているのですが、如何せん彼女には自炊の経験がなく。お手数おかけしますが、先輩方には自炊の手伝いをお願いしたいのです」
「おぉ……あんた……珍しく饒舌やなあ……」
思わずそんな言葉が出るレベルで、カネヒキリが喋る、喋る。
別に無口っていうほど無口ちゃうけど、カネヒキリは滅多に長く喋るようなウマ娘じゃあない。
せやから驚いたし、同時に、カネヒキリの中でのサンジェニュインの存在を改めて強く感じた。
「カネヒキリちゃん。お手伝い、は全然大丈夫なのですが、私たちが作る、のではだめでしょうか? サンジェニュインちゃんはお料理、できないって聞きましたけど……」
「せや! それ! 自炊初心者の危なっかしい手つきを見守るよりは、ウチらが作ったほうが早そうやんな」
けどカネヒキリは首を横に振って答えた。
「サンジェニュインは、事情があって私の手料理か、トレーナーやメテオのメンバーが手を掛けたもの以外は食べられません。ご厚意は大変ありがたいのですが、どうか『サンジェニュインの自炊』を補助していただけませんか」
クリークと顔を見合わせた。
もっとよく話を聞くと、他のメンバー ── チーム・メテオの面々も、マイルCS、天皇賞・秋、JBCクラシックなどの十月~十一月開催のレースに出走するため、それぞれ合宿に出て寮内にはいないらしい。
カネヒキリが帰国するまでの間、サンジェニュインだけの状態になるため、他に頼れるウマ娘がいないのだと、カネヒキリは頭を下げた。
ウチとクリークはまた顔を見合わせて、そんでカネヒキリの背中を叩いた。
「カネヒキリ! こんなことで頭下げんなや! 困った時はお互い様や言うたやろ~? お前の料理練習の時とかにぎょーさん野菜とか肉とかお裾分けしてもろたし、おかげであん時はかなり食費浮いたわ。助かったで」
「そうですよぉ、カネヒキリちゃん。お料理もお菓子作りもと~っても頑張っていたし、頑張り屋さんのサポートをするのは大得意なんです。それになにより、困ったとき私たちのことを思い出してくれて、それが一番うれしいです!」
そうや。クリークの言う通り。
ほかに頼れる人がおらんってなった時に、ウチらのことを思い出して、こうして頼ろうとしてくれたのも嬉しい。
料理を教えた時だって、ちょっと目を離した隙にすぐに上達して、気づけば教えることはなんにもなくなってた。
成長の速さに誇らしい気持ち半分、支えられるところが減って悲しいのが半分。
すぐに一人立ちしたがる妹分が、ウチらに手を伸ばしてくれたことが、ほんまに嬉しいんや。
「……本当に、ありがとう、ございます」
もう一度頭を下げたカネヒキリの背中を、ウチはポンと叩いた。
背も高くて、凛々しい顔で、大人びていて。
でもやっぱりウチらよりも年下なんや。
少しだけ泣きそうに潤んだ目は、見なかったフリをした。
「それで? 補助をするのはなんも問題ないわ。せやけど、ウチはテレビ越しにしかサンジェニュイン、見たことないんやけど……」
「……はい。なので、連れてきました」
ガラッと廊下の扉をカネヒキリが開くと ── そこにはオグリキャップと共にクッキーモンスターと化した天使の姿が。
……い、いや天使ちゃうわ、ウマ娘や!
びっっっくりした!!
天使がクッキー食ってるかと思ったわほんま。
何故かバクバク煩い心臓を抑え、オグリキャップの方を見ることでやり過ごす。
扉を開いたカネヒキリは、困ったような表情で天使、じゃなくてウマ娘に近づいて行った。
「サンジェニュイン。クッキーは一日五十枚までだと言っただろう」
「あああああ! オレのクッキーがぁぁあああ!」
いやいや、クッキーは一日五十枚までだ、ちゃうやん。
怒るのはそこちゃうで、っていうか五十枚は多すぎや、っちゅーかクッキー五十枚も焼いたんか?
アカン、ツッコミどころが多すぎて追いきれんわ!
お前もお前でなにちゃっかり自分用のクッキーを腕に抱えとんねん、オグリキャップ!
「ふまいほ?」
「後輩からクッキー取ったんなや……!」
満足そうにクッキーを食べるオグリキャップにため息が漏れる。
前からそうやけど、ほんまマイペースなやっちゃな。
でも今はそのマイペースさに救われるわ。
オグリキャップがいつも通りであることで、天使、じゃなくてウマ娘 ── サンジェニュインの方を見ずに済む。
いや、見たくないわけちゃうで? むしろめちゃめちゃ見たいねんやけど、なんやろ、なんか、あかん! みたいな。
ガン見したら何かを得る代わりに何かを失う気がすんねん。
サンジェニュインをガン見してるクリークの腕をさりげなく引きつつ、ウチはカネヒキリの説教が終わるまでの間、じっと目を閉じていた。
「すみません、先輩方。改めて紹介させて貰っても良いですか」
「お、おお。もちろんや。……えーっと、はじめましてやな!」
数分くらいして、ウチらは天使、じゃなくてサンジェニュインと改めて向き合った。
瞳と唇以外が真っ白なサンジェニュインは、テレビ越しで見るよりもよりキラキラしていた。
テレビでキラキラしてんのはなんかの編集かエフェクトか、そんなもんかとぼんやり思ってたけど、ちゃうな。
これはガチや。
サンジェニュインからキラキラと一緒にお花さんが飛んでるんや。
すごいなコレ、どないなってんねん。どういう原理やねん。
サンジェニュインを抱きしめに行こうとしているクリークを止めつつ、思わずジロジロと見てしまうウチらを、サンジェニュインはカネヒキリの背中から顔だけ見せてペコリと頭を下げた。
なんや、テレビで見た時や、聞いてた噂とはだいぶちゃうなあ。
よく聞くのは、気取ってるだとか、ふてぶてしいだとか、偉そうだとか、冷酷だとか、そらまあ高飛車な噂ばっかりやったけど、実際に目にしたサンジェニュインはといえば、容姿こそいろんなやつが言う通り輝かんばかりの美貌ではあったけど、どこかおっとりした雰囲気やった。
カネヒキリの背中に隠れているのは、以前クリークが追いかけ回した影響なのかもしれん。知らんけど。
それを見てると、冷酷なんてとんでもない。
どちらかといえば小動物のような印象の方が強かった。
こじんまりとした、手のひらに乗るハムスターのような癒し系や。
スラスラとサンジェニュインの経歴を喋るカネヒキリの背中越しに、こっそりとクッキーを食べている姿なんて子リスやないか。
そんなことを思ってたけど、それが間違いなのはすぐに分かった。
カネヒキリに促されて一歩、前に出たサンジェニュインの身長はウチを有に上回った。
なんならクリークよりも大きい。
178センチ近いカネヒキリとほぼ変わらないということは、少なくとも一七〇センチ越えっちゅーわけやけど、驚きすぎて思わず自分の身体をかき抱くレベルや。
「カネヒキリくんがいない間、お世話になります」
そういってカネヒキリ共々頭を下げるサンジェニュイン。
そのしおらしい様子に、ウチは思わず『めっちゃおとなしいやん!』と口走ってしもた。
「あ、いや、すまん! なんや聞いてたのと印象ちゃうから、つい」
ウチの言葉に、目を丸くしたサンジェニュインが『ああ』と息を漏らした。
それから、どこに隠し持ってたのか扇を取り出して広げると、顔の半分、口元を隠すように置いた。
「聞いてた印象ってこれですか?」
さっきよりもワントーン下がった声色でそう言ったサンジェニュインが、目をスッと細めた。
「それやそれ! それそれ!」
と指差すウチに、サンジェニュインは面白そうに笑った。
なんや、ほんまに違うな。
もっとこう、傲慢な感じがあるかと思ったのに。
傲慢どころか純粋そう。
そう思うくらい透き通った笑い声だった。
もしかして、今までの噂全部演技だったんか?
そうだとしたら、えらい演技派やで。
方々から噂されるほどの人格を演じ切るなんて、並の精神力じゃできん。
相当考えて、おっきすぎる猫ちゃんかぶっとるんや。……なんや、とんでもない大女優に会うてしもたかも。
『その扇、まさか……お前が噂のサンジェニュインか?』
『ですです。さっき自己紹介しましたよオグリキャップ先輩』
『すまない、クッキーに夢中になっていた』
『美味しいですもんね』
『ああ』
とかいうオグリとサンジェニュインの天然ふわふわな会話も聞こえないくらいの衝撃やった。
── そんな初対面から三週間が経った。カネヒキリは二週間前に渡米してもういない。
サンジェニュインの『一ヶ月カネヒキリ無し生活』も二週目に突入していた、なんてことないある日。
カネヒキリ経由で交換したウマッターに連絡が入ったのは、ちょうどその日のトレーニングが終わった頃やった。
『今日から自炊します。カレーです』
『了解。材料はあるんか?』
『カネヒキリくんがセッティングしててくれたみたいです』
『用意周到すぎるやろ。わかった。クリーク連れてそっち向かうわ』
『よろしくお願いします』
カネヒキリは三週間分の作り置きを用意する、と言うてたけど、それと同時に『おそらく二週間くらいで食べ終わると思います』とも言うてた。
そしてそれはドンピシャで当たった。
さすが幼馴染と言うべきなんか?
最初はカレーから作ると思いますよ、言っていたことも同時に思い出して、いや幼馴染特有の以心伝心というかもうその次元ちゃうなあ、と頭を抱えた。
元からただの幼馴染と呼ぶには距離の近いふたりや。
カネヒキリはサンジェニュインの世話を焼きすぎだし、サンジェニュインはカネヒキリを頼りにしすぎている。
どっかのタイミングでトレーナーなりが引き離して、それぞれ独立させるべきなんちゃうか、とふたりのやりとりを見て思ったこともあるけど、きっとちゃうんやろな。
共依存のように見えて、その実、ふたりは一個人として自立しているようでもあるんや。
「ちぐはぐやけど、完璧ちゃうけど、いびつでも、ちゃあんと自分の脚で立っとるんやもんな、あのふたり。不思議やわあ、ほんま」
ウチの言葉に、いつのまにか傍にいたクリークが、『愛ですねえ』とのんびりと呟いた。
「こんばんは。……ってアレ? オグリキャップ先輩も一緒なんですね」
「せやねん。途中で会ってな。サンジェニュインのところに行く言うたら、飯のことやってピンときたみたいで」
「美味いものが食えると聞いて。楽しみだ」
「あんたのために作るんとちゃうんで!」
コントのようなやりとりに、サンジェニュインは可笑しそうに笑う。
調理の準備は万端、と意気込むサンジェニュインに案内されるまま、部屋の中に入った。
サンジェニュインの部屋は栗東寮の奥まったところにある。
カネヒキリが散々言っていたように、その愛らしい顔が原因で、サンジェニュインはストーカー被害などに度々会うらしい。
そもそもカネヒキリが料理を始めた理由だって、食堂で異物混入されるからその対策だったことを思い出して、ウチもクリークも、クッキーを頬張っていたオグリも苦々しい表情になったわ。
ウマ娘が安心して暮らす第二の実家になるはずの寮内でさえ、安心して気ままに振舞えんなんてアホな話やで。
確かにサンジェニュインは美少女やけど、ストーカー行為に走ったって心なんか手に入らんこと、わからんのやろか。
……わかってたらストーカーせんか。
「わあ、キッチンもあるんですね!」
「ですです。といっても簡易的なつくりなんで、本格的な料理はできないですよ。せいぜいお湯沸かしたり、かるーく炒めるとかその程度。……と、カネヒキリくんが言ってました」
「って、カネヒキリかーい!」
「オレは使うの禁止されてるんですもん」
サンジェニュインの部屋は特殊なつくりになっていて、セキュリティの問題で詳しいことは言えんらしいけど、変質者対策も兼ねて部屋内にミニキッチンも備えられている優れもんや。
でもサンジェニュイン本人が言う通り、自炊ができないサンジェニュインにはオーバースペックで、もっぱらカネヒキリが利用しているらしい。
ここでおやつとか作ってもらったりします、とサンジェニュインは嬉しそうに言った。
「ほんで、今日はカレーやったな。でも鍋とかないやん。どないするんや?」
「それは大丈夫です! これがあるんで!」
ジャジャーン、と口で良いながらサンジェニュインが取り出したのは炊飯器三台。
「こっちの白いのが御飯用。こっちの赤いのが汁物用。こっちの青いのがお肉用です!」
「……まさか、炊飯器でカレー作るんか?」
「ハイ! そのために炊飯器三台用意しました!」
にぱーっとサンジェニュインが笑って肯定する。
その手には何かのノートが握られていたので、目を凝らしてタイトルを見た。
「『カネヒキリ式炊飯器レシピ ~ 炊飯器一台で作れる美味しいごはん ~』……アイツこんなもんまで作ってたんか」
「オレ、料理ほんとにできないんすよ。包丁握ったら天井に刺さるし、ピーラー使おうとしたら爪がはがれそうになったし、コンロに火をつけたら強火以外にできないし ──」
「ちょい待ち! なんやねんそのツッコミどころのオンパレードは! ひとつひとつツッコミさせえや! そいで料理できないとかそういうレベルとちゃうやろそれぇ!」
肩で息をするウチに、サンジェニュインが人差し指をピン、と立てた。
「それでは天井をごらんください。ところどころ穴が見えますね。アレはオレがカネヒキリくんに内緒で包丁を握ったときにできた穴の数々です」
「えげつなっ! どんだけぶっさしとんねん!」
「好きで刺したわけじゃないんすけどね……そしてこちら! この壁のちょっと燃えた感じ。これはコンロに火をつけようとした瞬間にキャンプファイヤー! した火で燃えた跡です。極めつけがこちら。温めボタンを押しただけなのに爆発して使い物にならなくなったレンジ」
そうはならんやろ、という事故物品の数々。
ちょいオグリ、なに『おお~!』言うてんねん。『おお~!』ちゃうねんぞこれは。
クリークも、あらあら、なんて言っとる場合ちゃうでほんま。
こんなん料理ができんとかそういうレベルちゃうねん!
大事なことだから2回言わしてもろたわ!
「そんなオレですが唯一使えるのが炊飯器。ご飯炊くのもケーキ炊くのもお手の物!」
「ケーキを『炊く』っていうのツッコミポイントや思うけど、もう、スルーさしもらうで……あんたはもうずっと炊飯器使ってなさい……」
そのための炊飯器レシピです! とサンジェニュインが無邪気に笑う。
カネヒキリくんサンクス! と言いながらレシピノートを天に掲げ、クルクルとその場で回る姿は、まるで小さな子供やった。
うちのチビたちと同じくらいの。いやそんなこと考えとる場合ちゃうな。
それよりも何か言わなきゃいけない気ぃがする。すごく大事な、なんやったっけ。
ツッコミどころが多すぎて頭から抜けてもーた。
「ところでサンジェニュイン。包丁も握れないなら食材はどうやって切るつもりなんだ?」
「それや! それやでオグリ! でかした!」
そうそう、包丁使えんのにどうやって料理するのかっちゅー話や。
カレーは小学生でもできる簡単な料理ではあるけど、野菜や肉を切ったりする作業が発生する。
サンジェニュインが包丁握れんと野菜も切れん。
カネヒキリはサンジェニュインの自炊の補助を、とウチらに頼んできたけど、サンジェニュインの代わりに包丁使って野菜切ったりすればええんやろか。
クリークも同じ考えに至ったようで、にっこりと笑った。
「お野菜やお肉は私が切りましょうか?」
「いいえ! 心配には及びません。オレが包丁を使えないことなどカネヒキリくんはお見通し! そこでコレです」
サンジェニュインが取り出したのはタッパー。蓋を開けるとカット野菜が出てきた。
「こちら、カネヒキリくんが事前に切っておいてくれた野菜と肉です」
「至れり尽くせりか!」
カネヒキリも甘やかしすぎるやろこれは~!?
ここにいないやつに文句言うてもしゃーないけども!
なんやねん事前にカットされた野菜て! 切らせぇ!
補助のために二人もついてるんだから、生の野菜渡して切らせぇよ!
「今日はカネヒキリくんのご厚意に甘えてこのカット野菜とお肉使うんですけど……実はタマモクロス先輩たちにお願いがありまして」
「ゼェ……ハァ……ゼェ……ッ! おね、おねがい……?」
ツッコミ疲れで肩で息をするウチを見下ろしながら、サンジェニュインはひとつ頷いた。
「実は ──」
その願いに、ウチとクリークは思わず顔を見合わせた。
「『カネヒキリくんに手料理を振る舞いたい』なんて……可愛らしいお願いでしたねえ」
数メートル離れた位置で、カネヒキリが意識を飛ばしている姿を見た。
いつもなら「あかーん!」とでも叫んで助けたるところやけど、今日は助けん。
なぜなら今日のウチらは、意識を飛ばす側 ── サンジェニュインの味方やから。
でもカネヒキリの敵とちゃうで?
むしろ感謝してほしいくらいや。
空中を飛び交う包丁を避けつつ、サンジェニュインに猫の手を教えた日々。
なぜか強火しか出ないコンロと格闘しつつ、サンジェニュインに火加減とはなんたるかを教えた日々。
何度も失敗しては、その度にオグリキャップの胃の中に消えていくカレーを見送ってきた。
その成果が今日、目の前にある。
ギャーギャーとうるさいサンジェニュインの声をBGMに、ウチはあの日のことを思い出していた。
『実は、オレ、自分の手でカレーを作りたいんです。炊飯器じゃなくて、鍋で。野菜も自分で切って。で、それをカネヒキリくんに食べてもらいたいんです。なので、力を貸してください!』
手がボロボロにならんよう、ゴム手袋をはめ、気にしすぎるくらい慎重に切られた野菜と肉。
ルーは市販の固形ルーだけど、隠し味の存在を教えて本当に隠れるように使った。
ハチミツ、りんご、一欠片のチョコレート。
カネヒキリはもうちょっと辛い方が好きだから、と辛いものが苦手なのに真剣な表情で味を調整していた。
「カネヒキリ、あんた……愛されとるなあ……」
やっぱ料理は愛情やな。
そう思って、分けてもらったカレーに舌鼓を打った。
「美味い。おかわりもらえるだろうか……貰ってくる」
「オグリ!! あんたちょっとは空気読み!!」
第◇回サンジェニュインのお嫁さんレース(敬称略)
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エアグルーヴ
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ハルウララ
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ウオッカ
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カレンチャン
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海外牝馬組