美貌バいろいろ   作:SunGenuin(佐藤)

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【IF】弥生賞後死亡→マックイーン産駒転生ネタ

永遠、の意味を知る。

緑が眩しいターフの上で、必死に引いた綱から伝わる重み。

遠く、遠く悲鳴が響いて。

肩をつかまれる、腕を、胴を、引かれて、振り払う。

 

「ッ……──ジェ!」

 

伸ばして、行き場を失った手の軽さ。

 

「俺も一緒に燃やしてくれ」

 

架かる虹の向こう側に、白い馬が1頭、駆け抜けていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんということだサニーホープ、メジロサニーホープ一人旅ッ!プレイがちぎられて!上ってくるサダムパテック、サダムパテックまだ追うがこれは、これはもう──」

 

2011年3月6日。

中山競馬場11R、芝右回り2000メートル。

他馬の追随を許さないその走りは、観衆から声すら奪った。

 

「直線向いてサニーホープ!これがメジロの血統、これがメジロのプライドかサニーホープ!デビュー無敗の白毛馬、ここに、ここにクラシックへ勝ち名乗り……ッ!」

 

えぐれた芝の無残な姿が、その踏み込みの重さを物語る。

スタートからゴールまで、一度もペースを落とさないまま逃げ切ってもなお、その馬の脚は止まらなかった。

 

ただ、前へ。

ひたむきに、遠くへ。

 

光を受けて輝く白い馬体に、人は、夢の続きを見た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「【続き】って言葉ほど、無情なものはないね」

「……竹さん」

 

パチリ。

目を閉じていた男が瞬きをする。

入り込んだ光の中に、竹はひっそりとたたずんでいた。

 

夢中(・・)はどんな気分だい」

 

その言葉に沈黙が返る。

尋ねても得るものがないと知っているから、竹もまた口をつぐんだ。

お互い、嫌と言うほど思い知っている。

慰め合いは傷を深め、時は癒してなんかくれず、経てば経つほど渇望してやまない。

 

「重ねてなんかない」

 

その声は淡々としていた。

 

「重ねてなんかやらない」

 

その声は拗ねて聞こえた。

 

「夢の続きなんかじゃなくて、俺は、今いるアイツと、夢を見たいと思います」

 

言い聞かせるような声色で、男は── 芝木は、顔を上げた。

 

「俺を照らし切って沈んだのが太陽なら、俺を今、照らしているものも太陽だから」

 

勝負服をつかむ。

あの日着ていた、黒地に赤い線は交わらない。

今、掴んでいるのはきっと、希望だけ。

 

 

 

 

 

 

── 2011年4月24日。

日本を襲った未曾有の大災害から約1か月。

その痛みが、悲しみが引く間もない、春の日。

中山競馬場から東京競馬場に場所を移して開催された、第71回皐月賞。

生涯ただ一度きりの大舞台を前に、居並ぶ3歳馬たちを光が包んでいた。

 

「6枠12番オルフェーヴル。馬体は前回よりマイナス4キロで440キロです。兄のドリームジャーニー同様やや小柄ですが、どうでしょう」

「気にするような小ささではないですね。前走スプリングステークスでは切れ味のよさを見せつけてくれました。ダレずにまっすぐ走り切ってくれそうです」

 

パドックを周る馬たちは輝いて見えた。

誰もが勝利を目指し、そのためだけにここまで生きてきた。

その生命を、つなげられたすべてを活かすときが、きたのだ。

 

「……ここで別周、4枠8番メジロサニーホープが入ってきました。馬体重514キロ、前走からプラス2キロです。さらに風格が出てきたように見えます」

「トモが張って毛艶もいいですね。この馬はデビューからここまで無敗。今回も1番人気に推されました。自慢の逃げ足がこの東京競馬場でも光るでしょうか。逃げても尽きないスタミナにも注目ですよ」

 

18頭の中で、並外れた歓声が上がる。

それを気にすることもなく、白毛の馬はまっすぐと前を向いていた。

首は曲がらず、頭も下げず。

まるで、ここではない場所を見つめているようだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

栗東トレーニングセンターにも春が来た。

桜並木から風が鋭く吹いて、桜の花びらが舞う。

舞って、舞って、舞い散って。

俺は実感した。

 

春は出会いの季節だ。

吹き荒れる花の嵐が、あの日の夢を連れて帰ってくるから。

 

 

 

 

 

 

「……とまれの合図、響きました。各馬に騎手が跨りまして、返し馬に入ります」

「順調な入りで、あっ」

「あー、オルフェーヴルが、今ですね、オルフェーヴルがメジロサニーホープにピタリと張り付いてですね……2頭並んで軽く走っています」

「川添騎手が離そうと綱を引くのですが……あっ、ああ……」

「落馬ですね」

「川添騎手、振り落とされましたがすぐ立ち上がりました。大丈夫なようですが、オルフェーヴル、綱をつかませまいと頭を振っています」

「……いま、メジロサニーホープがオルフェーヴルの綱を食んで、はい、文字通り咥えてですね、落ち着かせているようで……川添騎手、鞍上に戻りました」

「そのままゲート前に移動して、……先にメジロサニーホープが誘導を受けます」

 

ったくよー、オルフェーヴルくん。

ダメだってレース直前で川添くん振り落としちゃあ。

何が気に入らないんだい、このオッサ、じゃなくてお兄さんはな、俺たちのことこれでもかと可愛がってて……ちょっとオルフェーヴルくん、聞いてる?

俺の顔に見惚れる前に話を聞いてくれよな!

あっ、ほらもう、そうこうしてるうちにゲート前だわ。

ほい、川添くん綱返すわ。

今度は離さないようにな!

 

そんで俺たちはとっととゲート入りすっぞ、芝木くん!

 

「これで全頭収まりました。第71回皐月賞── スタートしました!」

 

ガシャン、と高い音がして、目の前のゲートが開いた。

 

「抜群のスタートダッシュ、やはりこの馬だメジロサニーホープ!ぐんっと2番手を突き放してハナを行きます。追走するのはエイシンオスマン、ベルシャザールの2頭。この2頭が並んで追う。そこから1馬身差ステラロッサ、半馬身離れてプレイ、内からダノンバラード、やや囲まれているかカフナ、サダムパテックが中段で少しもがいている、抜け出すチャンスはあるか。ナカヤマナイト、ダノンミル、フェイトフルウォーが横並びで駆けだすもナカヤマナイトがやや頭抜け。1馬身半の位置にオルフェーヴルが続いています。その外側にリベルタス、トーセンラーが見えるがロッカヴェラーノ、ロッカヴェラーノが躱そうかというところ。デボネアが後ろにぴたりと張り付いているので2頭上っていくか。シンガリはオールアズワン、ノーザンリバーが競り合っている状態」

 

綱を持つ手がゆるっゆるの芝木くんを背負って、俺は東京競馬場のコースを駆け抜ける。

第1コーナーを回り、第2コーナーを抜け、スピードを落とさずに走り続けた。

スタンド前、観客のバカでかい声を受けながらも第3コーナーを目指す。

かわいー!だって、聞こえたか芝木くん?

生まれ変わっても俺の美貌は損なわれないってな!

 

そう── 生まれ変わり。

 

またの名を、転生。

一度あることは二度あるっていうけど、まさかサンジェニュインの次の生も馬とはたまげたなあ!?

いや、神様が「うまぴょいできなかったらヒトにはなれない」的なこと言ってたから、まあ……。

 

サンジェニュインだった俺は、弥生賞のゴール後にぽっくり逝ってしまったっぽいが、俺が最後に感じたのは身体のダルさくらいだし、特に痛みはなかったのでヨシ!

 

……いや良くねえわ!!!!

 

弥生賞で走ってたはずなのに、次に目が覚めたら謎の液体まみれだった俺のことを考えても見ろ。

パニックだわ、当然意味がわからなかったし、死んじゃったことを受け入れるのもまあまあ時間かかった。

今回は神様も現れなかったから状況も上手く把握できなかったし。

最初のころはテキや目黒さん、イサノちゃん、芝木くんやカネヒキリくんたちにもう会えないのかと思って毎晩泣いてた。

ただ、次の転生先、今世はアットホームなオーダーブリーダーの下に生まれた。

気のいい南野っておっちゃんが俺の生産主であり馬主。

母馬に育児放棄されたサンジェニュインと違って、この俺── メジロサニーホープの母馬は肝っ玉母ちゃんで、とても世話好きだった。

牧場内は身内だらけで、栗東トレセンにいた時みたいにうまだっち!なことはなかったし。

牡馬を魅了する効果が二度目の転生で無くなったか、と思ったら入厩後にうまだっち!なオッス共を見るハメになるとはさすがに思わなかったけどな!!

 

幸い、隣の馬房になったオルフェーヴルくんは大人しいウッマで……ちょっと鞍上を振り落としたりもするけど大人しいウッマで、いままでうまだっち!なこともなければ、性癖の圧をかけられたこともない。

初期のカネヒキリくんを思い出す無口なオッスだ。

どうも俺がいないところではやんちゃらしいけど……ドリームジャーニーさんが「血だよ」とか言ってたけど血ってなんだ……?

まあそれはともかく。

第二の馬生でも、俺はあったけえヒト族と同族に囲まれながら生きていた。

サンジェニュインの時に報いることができなかった分を、今世では果たしてみせるぞ!とやる気もいっぱい。

1回調教を受けた経験があるからそこらへんは他の馬たちよりもスムーズだし、3戦しかしてないけど場慣れはしてるほうだから、正直言うとペーペーの2歳馬に負ける気はしなかった。

とはいえあそこまで大逃げがハマるとは……南野のおっちゃんが「サニー、お前、強いんだなあ」とか言ってたけど俺も「俺、強すぎ!?」って思ったよ!

2戦目で重賞、3戦目でGⅠにブチこまれたときは「テキ!いきなりぶっこむんじゃあない!」って思ったが、今思えばあのタイミングでレースに出走して、結果勝てたことで、俺の中に成功体験ができてだいぶ気持ちは楽になったけど。

 

……本音を言えば、重賞はサンジェニュインのときに、芝木くんと取りたかったんだけどな。

でも今更たらればを言ってもしょうがない。

一緒に重賞を制した川添くんはいいヤツだし、ちょっとオルフェーヴルくん贔屓なところもあるけど、サンジェニュインの時の芝木くんもだいぶ俺贔屓だったからね。

そこらへんは特に思うことはないよ。

川添くんがオルフェーヴルくんを選んでくれたことで、結果的に今、俺の鞍上には芝木くんがいるわけだし。

 

そう、サンジェニュインの騎手だった芝木くん。

あの時はまだ駆け出しの騎手だった芝木くんも、今や騎手歴7年。

 

……と、時の流れ、早すぎ!?

 

その時の流れが芝木くんを変えてしまったのか、サンジェニュインの知る芝木くんとはまるで別人のようになっていた。

どれくらい別人かというと、俺が知っていた芝木くんは、いっつも俺に対してニッコニコだったけど、久しぶりに会ったときは「誰!?」ってくらい表情が硬かったんだよ。

サンジェニュインの時みたいにじゃれてもニコリともしないし……同姓同名?かと思ったけど、そんじょそこらにこんな顔のいい騎手がわらわらいてたまるかってんだよ!

能面かっていうくらい硬かった芝木くんだけど、まあ、何度か俺に乗るうちに笑うようにはなった。

この前の弥生賞は、芝木くんを乗せられるのがうれしくてはしゃいじゃって……内心笑いながら爆走ちゃったんだよな。

俺のはしゃぎっぷりが伝わったのか、ゴールした後の芝木くんが大声で笑いだしたときはビビったけど。

レース後からは、昔みたいにニコニコするようになったからいいんだけどな!

 

……っと、昔を思い出してばっかりもいられないようだな。

 

「第3コーナー回って先頭は依然メジロサニーホープ!メジロサニーホープ強い!これは決まったか!?無敗の皐月賞馬!史上初の白毛の──!?おおっとこれは!?もつれあう2番手集団から一気に、一気に抜け出たのはオルフェーヴルだ!鞍上川添、ここで仕掛けに来たか手綱を扱く!」

 

弥生賞まで俺の鞍上には川添くんがいた。

俺は何をやられても「しゃらくせえ!逃げるぞ川添ェ!」してたから、ロクに彼の言うことを聞いたことがないんだけど……これについては本当にスマンと思ってるが。

サンジェニュインの最期は、馬群に呑まれた末にイッキに駆け抜けて訪れた。

その記憶が、たぶん、俺が思っている以上に魂に刻まれているんだろう。

 

馬群に呑まれると思っただけでめちゃくちゃ── 脚が動く。

 

仮に呑まれたら俺、掛かって暴走してしまう自信しかない。

ので、川添くんが俺を先行で集団に付けようとしてもガン無視して逃げてたわけだ。

新馬戦から京成杯までずっと、俺が思う走りだけをさせてもらった。

だからこそ、川添くんは、思うがままに走る俺のスタイルを、良く知っている。

 

俺が第3コーナーを曲がり切ったあとに一瞬だけ速度を緩めるのを、よくよく、知っているのだ。

 

「これはこれは、サニーホープ初めての展開だ差が!差がつまっていく!ここにきて芝木が鞭を振るうが、川添も負けじと首を押して、今、ああ今、オルフェーヴルが差し迫ろうというところ……ッ!」

 

それにしてもオルフェーヴルくんはっや!?!?

 

視野の広い馬の目から、すぐそばにオルフェーヴルくんの姿を見てビビる。

お前~~!!今まで絶対なめプだっただろ!!

オルフェーヴルくんはテン乗りも仕掛けも苦手ってテキは言ってたけど、今まで見せてなかっただけじゃ~~ん!?!?

 

「クソ……ッ!サンジェッ!」

 

わあーってるよ、芝木くん!

ちょい苦しいけど、きっちりスピード、上げてくぞ!

 

って、うん?

芝木くん、いまなんて。

 

「いやここでサニーホープ!サニーホープがさらにスピードをあげて!突き放そうとするがオルフェーヴル、届くかオルフェーヴル!第4コーナーを回ってもう直線を向くぞ!」

 

少しだけ突き放した距離を、またオルフェーヴルくんが詰める。

んんッ!粘るじゃん!?

オルフェーヴルくん、後方からぶち抜いてきたんだからこう、疲れとかさあ!?

ッああやばいやばい、並ばれちゃう!!

せっかくのGⅠ、芝木くんを乗せてるっていうのに!!

 

「サン……ッ」

 

サンジェっていったら振り落とすぞお前!

いや確かに俺はサンジェニュインだったけど今はサニーホープなわけで、ここでお前サンジェの名前出すのはなお前、今カノといるときに元カノの名前だすようなヤツだぞ!?

 

……いやあああ、オルフェーヴルくん真横にいるわ!?

 

「オルフェーヴル並んだ!並んだ!影すら踏ませなかったサニーホープに並んで!ッこれは、アタマ差有利かオルフェーヴル!?」

 

栗毛がほんの少し俺の前に出ているのを見て、俺は。

全身がぞわぞわと粟立つ。

負ける?

嫌だ。

目の前に馬がいる。

 

ふっと思い浮かぶ、囲まれて、抜け出せなくて、ぐっと詰まった息。

 

重い身体を引きずった、最期。

 

「サニーホープ!」

 

── 呼ぶのがおせえぞ、芝木ィ!!

 

「いやまだだサニーホープッ!メジロサニーホープもはや執念!ハナは俺だと強い執念が今、残り100メートル、オルフェーヴルかサニーホープか、オルフェかサニーかオルフェかサニーか!?」

 

このレース、勝つのは俺たちだ──……!!

 

「2頭揃ってゴールインッ!……大、大、大接戦だ!抜きん出て1頭、1.1倍1番人気のメジロサニーホープに対して5番人気のオルフェーヴル、見事に迫りました!これは大波乱か、それとも数センチの世界をサニーホープ、照らして見せるか!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

東京

11 R

8
同着

 

7

 

1.1/4

 

3/4

12

4

2

15

 

 

 

 

 

 

メジロサニーホープの伝説の始まりは?と聞かれると、多くのホースマンが同じレースの名前を挙げる。

 

「伝説のはじまりはどのレースかって?もちろん、史上初の2頭の皐月賞馬が誕生した、あのレースさ」

 

東京競馬場のターフを、白毛と栗毛、2頭の馬が走り続けていた。

第◇回サンジェニュインのお嫁さんレース(敬称略)

  • エアグルーヴ
  • ハルウララ
  • ウオッカ
  • カレンチャン
  • 海外牝馬組
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