美貌バいろいろ   作:SunGenuin(佐藤)

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IF・サイレンススズカの全弟:シャイニングスズカ時空の話


【IF】いるもん、グスズ、トモダチいるもん!

 ここまでのあらすじ!

 

 オッス! オレ、どこにでもいる美貌のウッマ娘!

 元は人間のオス! たくさん働いてたくさん頑張ってたらあっさり過労死しちゃった!

 そんでまた目覚めたと思ったら馬に転生しちゃって、一体全体なにが起きたの~~!?

 でも持ち前の順応力でウッマ生活にも慣れていこうとしたら、今度は良くしてくれた母馬が死んじゃった!?

 ヒンヒン泣きながらも頑張って育成進めて、トコトコ栗東トレーニングセンターにインッ!!

 幼名のマイサンからシャイニングスズカという名前もゲットして……えっスズカ!? オレ、スズカ!?

 もしかしてってドキドキしてたら隣の馬房に素敵な栗毛のウッマが! どうやらオレのにいちゃんはサイレンススズカらしい。

 

 とんでもねえ……とんでもねえや……!

 

 サイレンススズカって言えば例の骨折じゃん……とソワソワしていたのが1歳の秋。

 同じ厩舎のサイレンススズカにいちゃんもコマンドスズカにいちゃんもラスカルスズカにいちゃんも、とにかくみんな良いお馬さんたちで、オレとかいう存在しないウッマが存在しちゃった世界線だしワンチャンでススズの骨折もなかったことにならんかな、と期待していた。

 

 まあ、ならんかったよね。

 神は無慈悲なソウルをお持ち。

 

 オレがにいちゃんたちと合流して1ヶ月後。

 1998年11月1日。

 運命の天皇賞・秋。

 

 オレの鼻先を軽くつついてから出発したにいちゃんの横顔。

 オレより小柄な馬体にデカい夢を乗せたにいちゃんの背中。

 オレに「すぐ戻るよ」と遺して駆け出すにいちゃんの足音。

 

 1番人気を背負って挑んだにいちゃんは、結局、オレのとこには帰ってこなかった。

 

 もちろんオレはヒンヒン泣いた。

 泣き喚いたが、どうにもならないもんはどうにもならないもんである。

 こうなったらオレがにいちゃんの分まで走るしかない!

 そう決意した2歳の秋、1999年、オレはメイクデビューを迎えた。

 

 にいちゃんが虹の向こう側まで駆け抜けていったあの東京競馬場。

 

 鞍上にはにいちゃんの主戦だった竹創騎手を乗せて、戦法も同じく大逃げ。

 大歓声を背に受けて、オレは無事に勝ち逃げした。

 

 翌年にはクラシックシーズンを迎え、皐月賞と日本ダービーを勝利。

 距離適正の問題で菊花賞ではなく、海外の凱旋門賞というレースに出てここでも勝利。

 帰国後すぐに天皇賞・秋に出た時は、竹さんやテキたちがなぜかブーイングを食らっていたな。

 どうも凱旋門賞から間隔が短すぎるのが原因らしいけど、オレは特に疲れもないんだから問題ないと思う。

 何よりオレ自身がこのレースに出たいと思っていた。

 

 にいちゃんが先頭で駆け抜けようとした大舞台。

 たどり着けなかったゴールと、その後に広がっているだろう景色。

 

 その景色がどんなものだったか知りたいという気持ち半分と、にいちゃんの分まで竹さんをゴールに連れて行こうという気持ち半分。

 このレースには世紀末覇王ことテイエムオペラオーや、彼と鎬を削るメイショウドトウらの強豪も勢揃い。

 オレ自身も陣営も、オレがかなり苦戦するだろうと予想してそれでも挑んだ大舞台。

 天がオレに味方したのか、当日の天気は曇りで、おまけにオレの得意な重馬場。

 それに加えて直線、最後に誰かがオレの背中を押しているかのように、目一杯、脚に力が入ったような気がする。

 

 あれはもしかしたらにいちゃんのひと押しだったのかもしれない。

 オレに向かって『あとちょっとだ、頑張れ』って。

 

 結果としてオレは勝った。

 13年ぶりの1番人気馬による勝利だと、色んなヒトがオレを褒めそやしたけど、いちばん印象に残ったのは竹さんの涙だった。

 

 そんなオレのラストランは有馬記念。

 本当はラストランじゃなかったけど、オレがゴールした後にぶっ倒れちゃったことで引退が決まった。

 このレースでは天皇賞・秋とは違って、ギリギリまでテイエムオペラオーとメイショウドトウに追い詰められて苦しめられた。

 残り200メートルというところでオペラオーに抜かされた時はもうダメかと思ったが、いや、こんなところで諦められっか! と必死に首を伸ばしたことでなんとか勝てた。

 必死すぎて心臓を叩きすぎた結果、倒れちゃったわけだけど。

 

 なんかススズのにいちゃんに再会したような気もするけど、気づけば馬の診療室みたいなところで目覚めて、ギャン泣きの馬主たちに出迎えられた。

 そんな馬主やテキたちが話し合いを重ねた末に引退し、種牡馬入りしたわけだが、オレの子供たちも順当に活躍し、20年後。

 2021年に天寿を全うした。

 

 あらすじ、ここで完!

 

 そんなオレは今、ウマ娘になっている。

 

 

 

 二度あることは三度あるっていうし、このパターンもあるかもしれんと薄々、原液薄めのカルピスウォーターくらいはあると考えはした。

 

 でもまさか本当にウマ娘に転生するとはな〜〜!?

 しかもススズのにいちゃん、改めねえちゃんの妹である。

 自我を取り戻したのはだいたい3歳くらいの時だったのだが、それ以前からもう『あれ? なんかおねえちゃんに見覚えあるな?』くらいには感じてた。

 記憶が完全に戻った時は熱出して倒れたっけな。

 あの時はねえちゃんたちに随分と心配をかけてしまった。

 ねえちゃんもねえちゃんで、それがよっぽど印象に残ったのか、大きくなった今でもオレのことを子供のように扱ってくる。

 

「サン、今日の授業の準備はできてるの?」

「……んもー、ねえちゃん! 昨日の夜に準備したって言ったじゃんか!」

「でも、そう言ってあなた、この前は国語辞典を忘れてたわよね?」

「うん、ぐぅの音も出ねえや!」

 

 ススズのねえちゃんとは同じ栗東寮所属だ。

 部屋は隣同士。

 ねえちゃんの同室はスペシャルウィークで、オレの同室は居ない。

 ウマ娘では実際の馬同士のポジションだったり騎手繋がりだったりで部屋が組まれていたけど、現役時代はとにかく走ることに集中してたオレ。

 残念ながら親しいと言える馬がほんのちょっぴりしかいないのだ。

 日常的に話す馬だと同じ厩舎のにいちゃんたちになるし。

 身内以外だと1個上のアドマイヤベガ先輩くらいなもんだ。

 今や姉となった元にいちゃんたちはそれぞれが同室だし、アドマイヤベガ先輩も同室者いるし、で、オレが宙に浮いた!

 寂しいと言えば寂しいけど、生活能力が無いオレはよく散らかしてしまうので、それで同室者に迷惑掛けるよりはマシだと今は思ってる。

 

 やっぱり一回馬時代を挟んだからか、生活能力がリセットされてしまったオレは家事全般が苦手なんだよなあ。

 幼少期はねえちゃんたちに危ないからと台所に入れてもらえず、鍋でお湯すら沸かしたこともない有様。

 そんなオレが寮で自活できるかと言ったらできないんです。当然だよな!?

 毎朝ねえちゃんに起こしてもらい、昼もねえちゃんと一緒に食べ、夜もねえちゃんにお休みを言って就寝。

 たまに心配したアドマイヤベガ先輩も顔を出してくれるけど、もう圧倒的ねえちゃん率。

 もはやねえちゃん無くしては生活できない、それが今のオレ。

 

 さて、ねえちゃんに言われた通り、今日の授業で使う教材の再チェックをしたら英和辞典が抜けてた。

 ほら、とねえちゃんには呆れたように言われたしオレは泣いた。

 

 そしてお昼。

 オレは毎食ねえちゃんと一緒に食べている。

 正確にはねえちゃんの友達も一緒だ。

 いつもはエアグルーヴ先輩なのだが、時々スペシャルウィークたちスピカのメンバーやフジキセキ寮長も。

 今日はスピカの面々が一緒みたいだ。

 

「ねえちゃ〜ん」

「サン! お昼とってあるわよ」

「ありがと〜! スペさんたちもこんにちは!」

「こ、こんにちは、サンちゃん!」

 

 ちなみにオレがサンって呼ばれてるのは、小さい時のあだ名由来だ。

 シャイニングスズカってフツーの名前として扱うにはちょっと難しいもんな。

 競走馬時代は「グスズ」とか「シャスズ」とかの方がよばれる確率は多かったかも。

 スズカは冠名だし、にいちゃんたちもみんなスズカだし、それにどっちかっていうとススズのにいちゃんの方を指すことが多いからなあ。

 アニメ版ウマ娘でも、トレーナーはススズのねえちゃんのことを「スズカ」って呼んでた。

 まああのアニメ版にはススズのねえちゃん以外のスズカ冠が居ないからっていうのもあるんだろうけど。

 

「うまうま〜」

「あ、サン先輩、緑茶飲みます?」

「飲む! ありがとうウオッカ」

「サラダもっと取ってきましょうか」

「ありがとうスカーレット」

 

 オレはたくさん食べるタイプのウマ娘だ。

 たくさん走るのでその分エネルギーが必要になるんだよなあ。

 大逃げって意外と力使うし、それにオレってなんでか右耳ウマ娘にモテるからさ、それから逃げてたら体力使っちゃう。

 いや、思い返せば競走馬時代も牡馬にモテる傾向はあったんだけどさあ……モテるって言ってもケツ追いかけ回されるほどじゃなかったし。

 せいぜい世話を焼かれる程度だ。

 ウマ娘になってからはやたらお菓子もらったり飲み物もらったり、お菓子もらったり、お菓子もらったりしてる。

 でも歩き回ってることには変わりないので、常に腹減り状態ではあるのだ。

 お昼はゆっくりとエネルギー溜められる貴重な時間でもある。

 もりもり食べて午後に備えるぞ!!

 

 ところで、オレが現役だったころ一緒に走ったことのある競走馬で、ウマ娘になっている馬たちもそれなりにいる。

 が、チームスピカの面々は、どちらかというと一緒に走ったことのないメンツだ。

 

 メジロマックイーンとトウカイテイオーはオレよりも年上だから時期的に一緒に走れてないし、兄のサイレンススズカとは1ヶ月しか一緒に過ごしてないし、その一つ下のスペシャルウィークはオレがデビューした1999年の有馬記念で引退してて、ウオッカやスカーレット、ゴールドシップはオレよりも年下だからこちらも現役時代が被ってない。

 じゃあ現役が被ってるウマ娘はと言えば、同期のエアシャカールとアグネスデジタル、1つ年上のアドマイヤベガ先輩、テイエムオペラオー先輩にメイショウドトウ先輩、ナリタトップロード先輩、ハルウララちゃん。あと2つ年上のステイゴー……じゃなくてキンイロリョテイ先輩。

 錚々たる面々だ。

 オレが人間だった頃のアプリ版ウマ娘では、オペラオー先輩とウララちゃんしか育成ウマ娘として実装されていなかったが、他のウマ娘たちも実装されたのだろうか。

 サポカとしてならシャカールやデジタルは既にあったけど……っていうかオレの初SSRがシャカールでした。

 

 あ、そうそう、そのシャカール。

 競走馬時代もウマ娘の今も、何かと縁のある存在なのだ。

 同世代の同期で、お互いクラシックでは鎬を削りあった者同士。

 おんなじレースになったのは海外のキングジョージが最後になったけど、よく一緒に走った。

 もはやトモダチの域。

 出会った頃からシャカールは気性の荒い馬だったけど、他馬がオレのスピードに追いつけないと諦めていく中、珍しく諦めなかったガッツの持ち主でもある。

 そんなシャカールは2002年の暮れに引退すると、3ヶ月後に虹の橋を渡ってしまった。

 種牡馬としてはまだまだ駆け出しだった最中の急逝。

 残されたわずか4頭の産駒はいずれも牝馬だったことでサイアーラインは途絶えたけれど、シャカールの名前はその後も母の父や、その母系に刻まれている。

 そんなシャカールとウマ娘になってから再会するとは。

 いやー、生きるって色んなことが起こるんだなあ。

 

「サン、サン、聞いてるの?」

「んあ?」

「もう……あなた、チーム内ではうまくやれてるの?」

 

 心配そうな顔で聞いてくるススズのねえちゃんに親指を立てる。

 

 オレが所属しているのはチームメテオ。

 海外レースを中心にしているチームだ。

 最初はねえちゃんと同じくチームリギルにいたのだが、厩務員を半殺しにしてそうな雰囲気のあるトレーナーに拉致、もといスカウトされて移籍した。

 ねえちゃんとは違って自分で勝手に決めたので、おハナさんにはめちゃめちゃ怒られた。残念ながら当然である。

 メテオは海外転戦が多いので、向こうのシーズンが始まってしまうとこっちにいることはほとんどない。

 オレはチームメイトたちと行動を共にしていくことになるのだが、かなりマイペースなオレのことを心配しているのだろう。

 ……いや、もしかしたらそんなマイペースなオレに振り回されているかもしれないチームメイトの方を心配しているのか?

 それはそれであり得る。

 

「そんなに心配しなくってもでえじょうぶだよねえちゃん! チームメイトみんな良いウマ!」

「それはわかってるけど……サン、いつもご飯は私たちと食べるし、もしかしてお友達いないの?」

「む、失礼な! ちゃんと友達いるし!」

 

 確かにほとんどトレーニングトレーニング、レースにトレーニング、トレーニングからのレース! みたいな日々を過ごしてはいるが、オレにだって友達の1人や2人はいるのだ!

 そう、たとえばエアシャカールとかアグネスデジタルとかがな!

 

「エアシャカールとアグネスデジタル以外にはいるの?」

「むむっ! ……キンイロリョテイさん!」

「先輩よね」

「うぐぐ……カネヒキリ! シーザリオ!」

「後輩よね」

 

 そんな……オレってもしかして……トモダチがそんなにいない、ってコト……!?!?

 

 エアシャカールに聞かなきゃ……!!

 

 

 

 

 

 

 ずっと、許せねェ女がいる。

 

「お、シャカール! また一緒だな!」

 

 真珠色の長髪が風に揺れる。

 少し長い前髪から零れるふたつの蒼穹とかち合う。

 その度に光の輪ができて、女の立つ場所を鮮やかにする。

 さながら、スポットライトのよう。

 

 ……ああ、忌々しい。

 

 またお前と同じレースか。

 腹が立つ。

 どうして、どうしていつもお前がいるのか。

 

「また走れて嬉しいぞ!」

 

 こっちは何一つとして嬉しくねェ。

 

「今日も頑張ろうな、シャカール!」

 

 やめろ、イライラする。

 

 どんなにロジカルにものを考えようとも。

 どんなに最適解を見出そうとも。

 パルカイはエラーを吐き出す。

 もはや7センチ差ですらない。

 勝利の道筋ではなく、エラーとしてたどり着けないことを突きつけてくる。

 

 嫌いだ。

 どうしようもなく嫌いだ。

 お前の。

 

「いやあ、晴れてよかったな」

 

 降水率100%の予報が覆ったことに笑うところも。

 

「今日のレース相手見た? 海外のやべーウマ娘しかいなくてビビるな!」

 

 そういう割には、勝ち気に目を輝かせるところも。

 

「オレたちあんまり人気ないって! 失礼しちゃうぜまったく。ま、人気が勝敗を左右するわけじゃないからね。最後まで逃げ粘ってやるぞ!」

 

 他人からの評価に一切興味がないところも。

 

「ん? 運命? さあ、わからんけど。走り切ったらそれが全てじゃね? 結局はさ、残るのは必然だけだろ?」

 

 運命をハナから信じていないところも。

 

「っしゃ、行こうぜ、シャカール! 世界だァ!」

 

 神なんかまやかしで、超常現象で、ロジカルでは説明のつかない存在で。

 でも、そんな非証明存在に愛されているとしか思えない、お前が。

 

「だい、っきらいだ……!」

 

 それが、結局は、その輝きの意味を証明できないまま沈むオレが、お前を諦めきれない理由だった。

 

 

 

 

 

 

 

「エアシャカ~~ル!! オレたちってともだちだよなぁ!?」

「ゼッッッテェ違う!!!!」

 

 そんなぁ……!!




サイレンススズカさん
ちょっと抜けてる妹が心配
大丈夫? お菓子食べる?
おともだちできた?

エアシャカールさん
シャイニングスズカ最大の被害者
同世代でたった1頭、たったひとり、『シャイニングスズカ』を諦めないでいてくれた
追い続けてくれたのは君だけ

シャイニングスズカ
にいちゃんの背中!!走り!!影!!
すべてを追いかけてきた『追込馬』
おれを諦めないでいてくれてありがとう、シャカール

第◇回サンジェニュインのお嫁さんレース(敬称略)

  • エアグルーヴ
  • ハルウララ
  • ウオッカ
  • カレンチャン
  • 海外牝馬組
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