※「【擬人化】太陽の仔 ── ドリームデイ」は削除しました。閲覧ありがとうございました※
青天の霹靂。
青く晴れた空に突然起こる雷の意。
転じて、偶発的に発生する思いがけない
カネヒキリとサンジェニュイン。
ふたりの出会いはまさに『青天の霹靂』と呼ぶに相応しかった。
少なくとも、カネヒキリにとっては。
冬の最中でありながら、その日はいっとう暖かい日だった。
吹く風はほんの少しだけ冷たかったが、まるで春先のような優しいにおいがしたことを、カネヒキリは昨日のことのように覚えている。
それほど鮮明で、それほど忘れがたい記憶だった。
「カネヒキリ、ほら、ごあいさつ」
まだ2歳だった。
母のスカートを掴み、言葉はそれほど達者ではなかったはずだ。
ひとりで本を読むのが好きだった。
あんこを詰めたパンの擬人化がその時の流行り。
多忙な母が迎えに来るまで、ウマ娘専用の託児所の隅で本を広げる。
そんな日々の中で、それはやってきた。
「明日から一緒に遊ぶ新しいお友達ですよぉ」
時間はちょうど帰宅ラッシュ。
母が見えて立ち上がったカネヒキリは、職員の声に足を止めた。
「ほらこっちにおいで」
そう言って喚きたてる子供たちの前に引っ張り出されたものを、カネヒキリは太陽だと思った。
空から太陽が落ちてきた、と。
白くて、まろくて、甘いにおいのする太陽が。
絵本をギュっと握りしめたまま、カネヒキリはしばらく太陽を見続けていた。
瞬きも忘れるほど見つめて、気づかれないはずもない。
パチリ、とかみ合った視線の先で、太陽はゆっくりと目を瞬かせて、そして。
「カネヒキリくん」
音にはなっていなかった。
でも確かに、太陽はカネヒキリの名前を呼んだ。
青い宝石をかき集めたような、そんなキラキラとした両目から涙が流れる。
「初めてで緊張しちゃったのかしら」
「かわいらしい子ねえ」
と保護者たちが囁き合う。
「そうだ、カネヒキリ。あの子にあいさつしようか」
いつの間にか傍に来ていた母に促され、背中を押されて半歩、前に出た。
カネヒキリは生まれつき体格が良く、同世代の中でも大柄な方だ。
見下ろすことはあっても見上げることはなかった。
だがその日、カネヒキリは初めて誰かを見上げた。
ほんの数センチにも満たない差。
でも、それこそが、カネヒキリの記憶の中でもっとも鮮やかで、晴れやかで、満ち足りた景色だと胸を張って言えた。
「……はじめまして!」
子供らしい甲高い声が響く。涙はもうなく、ただ高らかに。
視線はカネヒキリに向いていた。
母が再度カネヒキリの背を押す。
それでも声を上げられなかった。
同じように「はじめまして」と言えなかった。
だって、なんだかこれがはじめてじゃないような── そんな気がして。
ただ、カネヒキリはただ、ただ見惚れて。
一言も言えないまま立ち尽くして。
「この子ったらすみません」
と頭を下げる母のことも目に入らなかった。
でも目の前の存在から視線を逸らすこともできない。
思えばなんて失礼な態度だっただろう。
それでも鮮やかなまで美しい『白』は、カネヒキリの頭上でまぶしく笑った。
それから数年後。
「おーいカネヒキリくーん! あーそーぼー!」
外から聞こえた元気な声を合図に、カネヒキリはリュックを持ち上げた。
するとオープンキッチンから手が伸びる。
持っていきなさい、と手が言うので、カネヒキリは有難く持っていくことにした。
真っ白な手提げ袋。
汚れが目立つから別の色にしないさい、と言われて、でも、その色が良いと選んだ。
端のほうに小さくカネヒキリの名前が刺繍されている。
「今日はどこに行くの?」
「おばけ森」
「結構遠いじゃない。バスで行くの? 歩き? そう。あんまり遅くならないように、あと、奥深くまで行かないように。日焼け止めは塗ったの? 虫よけスプレーも持った?」
「うん」
ここで『行くな』と言わない、子供の好奇心に理解のある母のことをカネヒキリは尊敬している。
玄関前、シューズボックスの扉に備え付けの姿見の前に立った。
栗色の髪の毛をさっと整えて、ピンと張った耳の調子を確かめる。
しっぽの毛艶ヨシ、服装ヨシ。
カネヒキリくーん、と再び声が上がって、慌てて振り向いた。
しかしそれよりも先に、誰かがガチャリと扉を開けた。
「あっ、おばちゃん! おはようございます!」
「はい、おはようサンジェニュインちゃん。今日も元気ねえ」
「それだけが取り柄みたいなもんなんで! おばちゃんは今日もきれいですね!」
「あらやだこの子ったら嬉しいこと言って! カネヒキリの手提げ袋の中にサンジェニュインちゃんの分も入れたから、まだお腹空いてるなあって思ったら食べてね」
「やったぜ! ありがとうおばちゃん!」
元気な声が ── サンジェニュインが来るといつもこうだ。
別にわざわざ顔を見せなくても良いのに、母はエプロンを外して玄関先まで出てくる。
カネヒキリが声を掛けるよりも先にサンジェニュインに話しかけ、腰まで伸びた白髪の寝ぐせを直してやり、おまけにかわいいかわいいと褒めたてた。
カネヒキリのことも良く褒める母なので、それに対して思うことはない。
あるとすればやっぱり、自分が声を掛けるより先に話しかけないでくれ、ということくらいだ。
ここに父もいたらさらに騒がしかっただろう。
そう思いながら、カネヒキリはようやくサンジェニュインに挨拶をした。
空の色を映したような両目を瞬かせて、サンジェニュインは笑みを深める。
母に向けた子供らしい挨拶ではなく、それよりも一段と落ち着いた声色は、カネヒキリを不思議な気持ちにさせる。
胸の真ん中がざわざわするような、擽ったいような、温かいような。
でも気分が良かった。
サンジェニュインがそうするのはカネヒキリの前だけだと、知っていたからだ。
「オレたちもあと少しでトレセンだな」
大きな木の下にピクニック用のシートを敷いた。
擦れる木々の隙間から晴天が見える。
日差しがきつくないのを確かめてから、カネヒキリはサンジェニュインの言葉に頷いた。
季節は冬を越え、春を越え、今は夏。
あと数か月もすればふたりはトレセン ── 日本ウマ娘トレーニングセンター学園に旅立つ。
「学校通うの初めてだなあ」
長髪を風に揺らしながら、サンジェニュインはしみじみと言葉にした。
サンジェニュインとカネヒキリは同世代だ。
だがカネヒキリが地元の私立学校に通う中、サンジェニュインは基本的に自宅学習をしている。
理由は多々あったが、その最たるものは「安全性が確保できない」ことにあるとカネヒキリは知っていた。
「……許可出たんだな」
「うん、流石にな。レースに出るならトレセン行かなきゃ。トレーナー見つけないとどうしようもない。それは父ちゃんたちもわかってるから」
シートに置かれた重箱は五段。
それらを一段ずつ食べながら、サンジェニュインは少し難しそうな顔をした。
「カネヒキリくんとは同じ寮だと思うけど、同室にはなれるんかな……? あれって
「サンジェニュイン」
「あ、お茶! ありがとう」
手渡したお茶を美味しそうに飲むサンジェニュインを横目に、カネヒキリも箸を動かした。
母が作ってくれた玉子焼きは出汁巻きで、大根おろしと合わせると絶妙な味わいになる。
それに舌鼓を打ちながら、カネヒキリの視線はサンジェニュインに向いていた。
サンジェニュインと出会って10年。
それだけの年月を共に過ごした今でさえ、カネヒキリは不思議に思うことが多々ある。
つい先ほどサンジェニュインの口から飛び出した発言も不思議に思うことのひとつだ。
『カネヒキリくんとは同じ寮だと思う』
トレセン学園には美浦と栗東のふたつの寮があるが、そのどちらに振り分けられるかは入学してみないとわからない。
だがサンジェニュインは、当たり前のようにカネヒキリと同じ寮だと思い込んでいた。
いや、思い込みではなく、きっと同じ寮になるのだろう。
サンジェニュインは度々理解できない言動をするが、それが外れることはほとんどなかった。
「まあ、寮のことは今はいいや! なるようになるだろうし。あー、でもほんと入学楽しみだ! 食堂とか行ってみたいなあ。美味しいらしいじゃんか。あと練習施設も。入学当日から使えるんだろうか……電話したら教えてくれるかな」
「……新入生は基礎トレーニングを終えてから、と聞いたようなきがする」
「エッほんと? ……んー、そっか。じゃあ使えねえな。もっと早く練習したかったんだけどな」
サンジェニュインは練習熱心、というよりは、自分の技術を高めることが好きだった。
スピードを、パワーを、スタミナを、根性を。
叩きあげて、昨日よりも、一時間前よりも速くなることを求めている。
視線は常に前へ。
生来の才能を限りない努力で育てるサンジェニュインの、ごうごうと燃えるような瞳が、カネヒキリにはこの上なく眩しく見えた。
「練習もそうなんだけどさあ、実は心配してることがあって」
眉を下げながら、サンジェニュインは頼りない声色で言った。
「心配っていうか、不安っていうかさ。やっぱ勉強のことなんだよな。四則演算は五桁までなら電卓なしで即答できるし、造花のバラを数えるのも千本までなら一瞬でできんだけど」
そう得意げにするサンジェニュインの学力は、義務教育の最低ラインをちょっと超えた程度。
やはり自宅学習の影響なのか、世俗とは一歩ズレた感覚もある。
だがそれらは偏に『勉強に必要性を見いだせないせいだ』という一言に尽きた。
ようは勉強することに興味がないのだ。
嫌いなわけではないことをカネヒキリはよく知っている。
ただ、本当にただ、勉強という作業に興味がないサンジェニュインは、授業を聞いてもそれらを脳みそにインプットできない。
これでなにかしら、勉強に興味を持つきっかけなりがあれば良いのだが。
そんな都合の良いこともなく、なあなあでここまで来てしまった。
救いがあるとすれば、サンジェニュインは頭の作りが悪いわけではないので、やろうと思えば一夜漬けでもそれなりの点数を取ることができるということだ。
しかし、翌日には頭から抜けているようだが。
「勉強はなんとかするとして……んふっふ。学校生活楽しみだなあ。カネヒキリくん、お友達紹介してくれるんだろ?」
学校に通うカネヒキリには数人の友人がいる。
その中で同じようにトレセン学園に進学する友人をサンジェニュインに紹介する予定だった。
カネヒキリなりにサンジェニュインの交友関係を気にしてのことだったが、走ることに対しての意識が高すぎるサンジェニュインに、普通のウマ娘を紹介しても意味はない。
それに、カネヒキリとしては自分の親友に会わせるからには、相手もそれなりのウマ娘でなくてはならないという気持ちがあった。
同学年でも選りすぐりと呼ばれる友人たちなら、サンジェニュインともきっと話が合うだろう。
そう思いながら、しかし一番の理由は、友人たちにこの美しすぎる親友を自慢したいという、子供らしい感情だった。
「楽しみだ。ほんっとーに、楽しみだなあ。な、カネヒキリくん!」
心の底からそう思っているのだろう。
鼻歌交じりのサンジェニュインの横顔を眺めた。
涼しさを求めて日陰に腰を下ろしたが、それでもサンジェニュインの顔は美しかった。
まるで絵画。
白い髪が木々の色合いを写し取り、神秘的な横顔を露わにしている。
言葉を失うほどの美の結晶が、親友と呼ぶカネヒキリに微笑む。
サンジェニュインが学校に通えていなかった理由の最たるものに、この隔絶した美しさがあると、カネヒキリはためらうことなく断言できた。
「……もう6年か」
思い出すのも忌々しい、と言わんばかりの声色で呟いたカネヒキリに、サンジェニュインは不思議そうな顔をして、でもすぐにピンときたのか頷いた。
6年。そう、6年が経った。
サンジェニュインが襲われてから、ちょうど。
── あれは託児所で出会ってから4年目の春。
カネヒキリは地元の私立学校に進学し、そしてサンジェニュインも同じように地元の別の私立学校への進学していった。
離れ離れになってしまったが、家はウマ娘の脚力ならひとっ走りして着く距離。
決して遠くはない、とお互いに言い聞かせて、放課後に遊ぶのが何よりの楽しみだった。
だがサンジェニュインが学校に通い始めて1週間も経つ頃には、通学を取りやめて自宅学習に切り替わっていた。
どうしてそうなったのかと言えば、学内で児童・教師関係なく追い掛け回されたりした挙句、誘拐未遂にあったからだ。
ちなみに誘拐未遂は合計3回で、犯人は担任のウマ娘や学年主任のウマ娘や用務員のウマ娘だと言う。
救いのない話である。
「あんときはびっくりしたなあ。まさかオレの顔がキッズにも効くとは……」
のんびりとした様子で答えるサンジェニュインに、カネヒキリはあの日のことを思い出していた。
確かあの時も、サンジェニュインは今のようにのらりくらりとしていたのだった。
あまりにも危機感がないので、カネヒキリがサンジェニュインの父に連絡したほどである。
「いやだってさ、オレも悪かったかなーって」
「お前に非はない。未成年に手を出そうとする側が圧倒的に悪いだろう。加害者を庇うな」
「いつになく饒舌だな……わかった、わかったよ。確かに相手が……先生の方がヤベーよな、ウン。いくらオレの顔が可愛かろうが未成年に手を出すのはねえわ」
ほいほい誘いに乗ったオレもアレだけどね、と言いながらサンジェニュインは肩を竦めた。
あの日、サンジェニュインはクラス担任から「グラウンドで走らせてあげる」等の誘い文句を受け、その教師に車に乗せられそうになった。
だがサンジェニュインが見事な回し蹴りでそれを退けて脱出し、その足でそのまま帰宅したのだ。
『担任のウマ娘がヤバすぎて笑っちゃった。護身術習おうかな』
学校帰りにそう言われたカネヒキリが一瞬だけ気絶し、持ち直すとすぐにサンジェニュインの父に連絡したのも無理ない話だった。
サンジェニュインにはふたりの父がいるが、どちらも誘拐未遂にひどく動揺し、そしてそれが複数回あった事実に激怒していた。
当然である。親でこの反応をしないやつはマジでいない。
誘拐未遂をやらかすウマ娘がいる学校に通わせられるか、ということで自宅学習となった。
ただ通学時と変わらない教育水準を受けるため、今は近隣の高等学校に通うトレーナー志望の女性を家庭教師に勉学に励んでいた。
イノリちゃん優しいんだよ、とサンジェニュインはその女性に懐いているらしい。
トレーナー志望というだけあって、ウマ娘のボディケアにも精通しているらしいその女性は、サンジェニュインのことをかなり可愛がっているようだ。
誘拐未遂事件の二の舞にならないか心配したが、カネヒキリの調査によると今のところ無害である。
心変わりしないことを祈っているが、相手はサンジェニュインだ。
サンジェニュインというウマ娘はとにかく衆目を集める娘だった。
託児所にいた頃からそうだったが、天上の生き物と見紛うその美貌に、理性を失うウマ娘が後を絶たなかった。
だから送り迎えは車必須で、遊ぶときはお互いの家の中か、サンジェニュインの地元限定という徹底ぶり。
カネヒキリ的にはサンジェニュインと一対一で遊べることもあり、場所はどこでもよかったが。
「……危険なのは入学してからか」
「ん? なんて?」
「いや。……同じ部屋だといいな」
そうすればカネヒキリがいろいろと助けてやれる。
そんな気持ちを押し込んだ言葉に、サンジェニュインはふにゃりと笑った。
「うん、同じ部屋がいいな。そうしたらきっと、もっと、楽しいはずだ」
笑って、笑って、楽しそうに笑って。
そう言ってカネヒキリの手を握るから ──……。
カネヒキリは気絶した。
「か、カネヒキリく~~ん!?!? カネヒキリくん!! 意識しっかり!!」
意識が落ちる前に見た空は、鮮やかすぎるほどきれいな青だった。
カネヒキリちゃん
馬の記憶など当然ない褐色美少女ウマ娘ちゃん
割と早い段階でぽんこつと再会し世話を焼いてる
サンジェの危機感がぽんこつすぎて頭抱えてるウッマ娘
でもこの親友が可愛いオブザイヤーが過ぎるんだよなあって毎秒思ってる
正直サンジェと遊ぶためだけに後半は保育所に通ってたまである
気をつけろ大変なのはトレセン入ってからだぞ!!
サンジェニュイン
全部の記憶持ちウッマ娘
ガン見の圧で即カネヒキリくんと察した
自分以外は記憶無いだろうなと覚悟してたのでそこらへんは別になんとも思ってない
危機感はないが恐怖心はある
カネヒキリくんがいなかったら引きこもってたし、実際カネヒキリくんと遊ぶ時以外は専用のトレーニング場(洋芝)でずっと走ってる
第◇回サンジェニュインのお嫁さんレース(敬称略)
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エアグルーヴ
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ハルウララ
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ウオッカ
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カレンチャン
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海外牝馬組