美貌バいろいろ   作:SunGenuin(佐藤)

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短いです
デビュー前サンジェと陽来スタッフとの会話


【現役前】サンジェニュイン、初めての冬

 あれは俺が生まれて数ヶ月経った頃のこと。

 馬生で初の冬季にそれは起きた。

 

「……マイサンさん、頼みますよ」

 

 勘弁しろや。いや本当に。すまんけど。

 

「ブモモッ!」

「んん~、嫌かあ」

 

 困ったように頬を掻くタカハルに、俺は申し訳ないと思いつつも拒絶した。

 嫌なものは嫌なのである。さんお。

 

「マイサン大丈夫だって、サラブレッドは寒さに強い生き物なんだぞ? こんくらいの寒さならいけるって、な? チャレンジしよ? 戦お?」

 

 馬鹿野郎! 無謀な挑戦は時として悲劇を招くんだよ。

 これは戦略的撤退なの。勇気ある決断なの!

 

「……何やってんだよタカハル」

「おっ、タクミ~! いいところに! マイサンが外に出たがらないんだよ。なんか寒いみたいでさぁ」

 

 水桶片手に入ってきたタクミもタカハル同様あきれ顔で俺を見る。

 

 いやでも、寒いみたいっていうかマジで寒いやろがい!

 なんだこれは。北海道寒いとは聞いてたけど予想外の寒さなんだよなあ!

 コートが必要なレベルやぞお前。毛皮で守れる限度を超えてる。

 もっと分厚いのが必要だよ例えばコートとかがな!

 アッていうかタクミそれ、ソレだよその手に持ってるヤツ! なにそれ服!?

 

「こんなこともあろうかと馬着持ってきたぞ。ほらマイサン、着せてやるから。そんな隅っこに居ないでこっち来い」

「……お、ずっといないからサボりかと思ってたけど。よかったなあマイサン、これで放牧地にも出られるな?」

「サボるって、タカハルお前じゃ無いんだからそんなことするわけないだろ。……こらマイサン、動くなよ」

 

 放牧地にでるか否か。それとこれとはまた別だけどまあとりま服は着ますよ。

 

「ん? あれ俺いま遠回しに貶されなかったか?」

 

 遠回しにっていうかかなりド直球に貶されたぞタカハル。

 タクミは温和で生真面目そうに見えてしっかり毒吐いてくスタイルだからな。

 

 俺は馬着── 馬用の服を着せてもらいながら、ついでにここ数ヶ月のことを思い出していた。

 と言っても取り立ててなんてことはない。数ヶ月前。俺は人間だった。

 ……何を言っているんだ、と思われそうだけど、ほんとなんだって! いやマジで。

 俺、人間だったんだわ。

 ちょっと働き過ぎて死んじゃったけど確かに人間だった俺は、神と名乗る存在によって馬に転生させられた。

 しかもだ。それだけでは済まず、オスとアーッ! なことをしないと人間に戻れない身体にされた。

 正直【邪神か?】とか思ってるけど。

 っていうか絶対に邪神だってあれ。神様がとんでもねえバッドスキルつけんなや。

 おかげで今から将来が不安で不安で仕方ない。

 この陽来(あききた)に俺以外の馬がいなくてセーフだったまである。

 

「よしよし、良い仔にしててくれてありがとうマイサン」

「おぉ……似合ってるじゃん! マイサン元から可愛いからなあ。よっ、陽来ナンバーワンイケメン!」

「ナンバーワンも何も今はこいつしかいないけどな」

 

 タクミに着せてもらった馬着は厚手で、さっきよりは寒さもだいぶマシになった。

 これがあるんだったら最初っからこれ出してくれよな、と思いつつ、感謝の気持ちを込めて頬ずりしておく。

 タカハルにもタクミにも転生した時から世話になっているので、まあこれくらいはね!

 サービスサービスぅ!

 

「にしても、マイサンがここまで寒さを嫌がるとは……」

「やっぱさ、夏生まれだからじゃねえかな。ほら馬って寒い時期に生まれるのが通例じゃん? でもマイサンは7月生まれだから」

 

 あ~、それもあるかもしれんけど、元々人間だった頃から寒いのはそんなに得意じゃなかったんだよな。

 そういや死んだのも寒い日だった。

 関東住みだったから雪もそんなに積もらなかったけど。寒かったなあ。

 

「……よく考えたらこいつにとってこれが初めての冬か」

 

 そうだぞ。馬になってからは初めてだ。

 タカハルたちが【馬は寒さに強い】とか言うからいつも通り真っ裸で出ようとしたけど、ガッチガチに寒いので厩舎に立てこもっていた。

 この馬着の存在がなければこの冬はずっと引きこもってたね、断言するわ。

 

「まあ、これで出てくれそうだし細かいことは良いか。……おし、マイサン、放牧地行くぞ」

 

 オーケー……いや待って、これ俺裸足なんだけど馬って末端冷え性とかない?

 俺、手先とか足先がガチガチになるの苦手なんだが。

 外出たら脚冷たい! ってならんか?

 できれば雪が積もってないところ歩かせて欲しい。

 だけどアスファルトとか土とかも冷たそうだし……床暖房システムになんねえかな全部。

 できない? そっかあ……。

 

 っておい、ちょっと待てって引っ張んなって、あっ、あっ、アーッ!

 ……あぁ?

 

「どうだマイサン、初めての銀景色は」

「だはは、びっくりして固まってるのか? 自分も真っ白なナリしてるのにな」

「馬の色覚は人間よりは狭いらしいぞ。白とは言っても黄色味がかってるって聞いた……ような気がする」

「曖昧かよ〜」

 

 確かにタクミが言う通り、俺の視界は若干黄色っぽいけども。

 いやそうじゃなくて。視界とかじゃなくて脚、全然冷たくないや!

 なんだビビった〜!

 馬着もあるから身体もそんなに寒くないし、脚も雪を踏んでるけどすごい冷たいってわけじゃないし。

 なんだいけるじゃん、いいじゃん、いいじゃん!!

 思ったより全然問題なかったわ。なんか駄々こねて悪かったなタクミ、タカハル!

 

「お、マイサンなんか元気じゃん。これは放牧地に出しても大丈夫そうだな」

「一応三十分くらいは見守るか」

「念のためね。こいつちょっと抜けてるから、自分で作った雪の穴にハマりそうだし」

 

 はぁん? そんな園児じゃあるまいし。

 失礼なこと言うんじゃないよタカハル!

 俺がそんな間抜けな真似するか、こちとら中身は人間なんだぞ!

 いくら身体が馬になったからといって俺の理性が損なわれるわけないんだよな。

 ちゃんと考えてから行動するっての。

 

 ヨシ、ちょっくら放牧地周って大丈夫アピールしてやるか。

 

「お、駆け出した」

「ワハハ、『馬は喜び庭駆け回る』か」

「庭っていうには広すぎるけどな。……それにしても、防寒用に馬着を着せたけど、別の意味で助かるな、コレ」

「ウン。もし馬着なかったら俺、マイサンのこと見失うわ。それくらい同化してる。馬着の紺色以外の露出部分とか完全に溶け込んでるしな。かろうじて鼻先のピンクが見えるくらいだわ」

「アイツ本当に白いよな。ボロも特定の位置にしか出さないせいか、馬体にもシミとか汚れとかなくていつも綺麗だ」

「俺たちの手入れの賜物でもあるけどね! って、ん? なんかマイサン、こっちに戻ってきてない?」

 

 ダメですわ、タカハル、タクミ!

 今すぐ俺を厩舎に連れ帰ってくれ!

 ダメだこれ、馬着あればいけるかと思ったけど、よく考えたら馬着がカバーしてくれるのは表面だけで、お腹周りはダメですね!

 座った瞬間、俺の丸くなめらかなお腹に雪がダイレクトアタックしてきたし、マジで寒い。

 サラブレッドが寒さに強いとか迷信では? 俺は訝しんだ。

 

「ブルブル震えて……ダメだったかあ」

「マイサン、もうちょい頑張れないか? この冬に厩舎閉じこもったままだとお前、肥えるぞ?」

 

 そうは言ってもダメなもんはダメなんだよ。

 肥えるより先に凍死しそう。

 外に出ない以外の運動ならするからさ……厩舎内を往復するとかそう言うのじゃダメか?

 

「う〜ん……」

「マイサン頑固だからな。本気で帰るつもりだし、無理やり連れ出した結果そもそも外に出るのが嫌、になっても困るし」

「場長に直談判して別の方法で運動さすかあ。あ、前に温水プールで歩かせたろ? 冬の間はそれ使えないかな」

 

 温水プール!?

 この前入ったやつだな!?

 俺それがいい。

 あれは気持ちよかった……いい湯加減……身体もあったまるし運動もできるし一石二鳥じゃん、それにしようぜ!

 

「でも『また甘やかして』とか奥さんに言われそう」

「おっかさんちょっと怖いからな……でもおっかさんもマイサンのこと可愛がってるし、頼み込めば聞いてくれそう。何よりこいつに運動をさせないのはまずい。最近ますますでかくなってるじゃん」

 

 成長だな多分。

 最近食べる青草の量も増えてきてるしな!

 ちょっと自分でも『あれ俺太ってきてね?』とか思ってないんだからねっ!

 か、勘違いしないでよねっ!!

 

「身体が重くなったせいで脚を痛めたら元もこうもないからな。よし、とりあえず今日のところは厩舎内をぐるぐると回らせて、明日以降は温泉使えるか場長に確認しよう。確かリハビリで使ってる馬はいなかったはずだから、多分いける、はず!」

 

 やったー!

 俺も運動したくないわけじゃないから、あったかいところでやらせてくれるならいつも以上に頑張りますんでね、ハイ。

 

「とりあえず、今日のマイサンの飼い葉はちょっと減らすか」

 

 えっ。

 

「ろくに運動できなかったからな。そうしよう」

 

 そ、そんなあ。

 

 

 

 

 

── 数日後 ──

 

 

 あのあと結局場長の奥さんから『甘やかすな』と言われた結果、こうなりました。

 

「マイサン、頑張れ! 頑張れ!」

「あとちょっとだぞマイサン、これが終わったら温泉だぞ」

 

 雪が積もった放牧地を4周。

 それをしないと温泉に入れないルールになってしまった。

 俺がちゃんと運動してることを見守るためにタカハルとタクミが監視する中、俺は放牧地を必死に走っていた。

 まあ走ってれば寒さなんて感じな……いや寒い寒い寒い! 超寒いわ!

 早く温泉入りたい……! ヒィン……!

 

 

 

 

 

── さらに数ヶ月後 ──

 

 

「あ、もしもし、目黒ですが。……はい、はい、お忙しい中すみません、いえ、ハイ大丈夫です。サンジェニュインは健康上問題ないです。ないんですが、ちょっとお聞きしたいことがありまして。ええ、おっしゃる通り冬の間のことで。こちらでは昨晩から雪が降り始めたのですが、それからと言うもののサンジェニュインが厩舎の外に出るのを嫌がるようになりまして……ええ、あ、寒がり? ハイ、馬着を着せて連れ出す……温泉に入れてた? なるほど、わかりました。いえいえ、こちらこそお手数をおかけしてしまい、ええ、はい。テキとも相談して対応を決めます。ハイ、ありがとうございました。……サンジェニュイン、お前……」

 

 や、やめて目黒さん、それ以上は言わないで、わかってる。

 俺もわかってるんだって。そうです、なんだかんだ言って甘やかしてもらってました。

 なので雪降る中の調教は無理です。勘弁してください。

 北海道よりも寒くないとはいえ、寒いことに変わりはないんです。

 いやだから無理だって! 馬着を着込んでも雪の中はダメだって、あっ、あっ、アーッ!

 

 ヒッヒヒーンッ!







タカハル&タクミ
言わずと知れたサンジェの幼駒自体の担当スタッフ
日頃からサンジェに手を焼いてる
愛情はとてつもないくらいある

サンジェニュイン
馬着じゃ腹回りは救えないと判明し頭を抱えることになる
なお冬毛は目に見えてわかるくらいもこもこしてる
このあと早期入厩で本原厩舎にinすることになる

第◇回サンジェニュインのお嫁さんレース(敬称略)

  • エアグルーヴ
  • ハルウララ
  • ウオッカ
  • カレンチャン
  • 海外牝馬組
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