美貌バいろいろ   作:SunGenuin(佐藤)

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日本馬なのに古馬G1は有馬記念しか経験がなく、逆に欧州G1は5戦してるトンチキ馬・サンジェニュインと、その血を濃く継いだ海外の産駒たちのやりとり。
本編や番外編でお馴染みのサニファの他、名前だけは出したかもしれないその他の産駒とのやりとりもあります。
この回限定の特殊設定があります。


【ネタ】【馬】父と仔

 心の間── ここはすべての馬が心の中に持つ特別な空間。

 基本は眠ってる最中に夢という形で繋がる場所だが、種牡馬入りすると自由に接続できるようになる、簡単に言えばなんでもありなご都合空間である。

 

 種牡馬入りして約6年。

 初年度産駒がクラシックシーズンを迎えた俺ことサンジェニュインもまた、このなんでもありな特別空間に接続できる1頭だ。

 初めて繋がった時は種牡馬が集まった集会みたいなもんだったけど、そこで先輩種牡馬たちに産駒たちと繋がる方法を教えてもらい今に至る。

 今に至るっていうか、基本3歳以上の馬としか接続できないので、ようやくできるようになったというか。

 自分の手元で育てた産駒数頭のことは知ってるけど、さすがに全頭の面倒は見たことないので、この謎空間を使って会話してみようと思う。

 せっかく生まれた我が子だ。

 前世は母ちゃんと俺と、それから幼馴染だけで他に兄弟も家族もいなかったからか、俺は自分でも思っている以上に産駒に興味がある。

 いや、興味というか、これが父性というべきなのか……?

 種付しておわりが当たり前の種牡馬界において、自分で子供を育てることに一種のこだわり、執着があった。

 たとえ短期間だったとしても、この世に頼れる、見本になる、母馬以外の肉親がいるということを我が子に知ってほしいという『欲』があるのだ。

 俺にも母馬はいたがわずか1日で離れた。教えられたことは四足で立つ以外になく、父馬とは一目も会うことなく死に別れている。

 幼駒の時周りに他の成熟した大人は無く、人間による完全人工飼育だった。

 これが俺には丁度良かったけど、欠点ももちろんある。

 人間のもとで、人間だった知識を活かして生きてきた俺には、恐ろしいほどに馬の常識が欠けているのだ。

 そのせいで結構苦労した。

 いやもうマジで。常識知らずだとすぐ騙されちゃうし。

 産駒には俺のような苦労をしてほしくないんだ。

 楽をして生きろ、とまでは思わないけど、いらない苦労は背負わんでいいと思う。こういうのを親心っていうんだろうか?

 

 ……まあ一番の理由は、俺の初年度産駒が各育成牧場に入った後、目黒さんから聞いたある話がきっかけなんだけどな!

 

「そういやサンジェニュイン、お前の仔もお前みたいにモテるタイプらしいぞ」

 

 初めて聞いた時は気絶するかと思ったぜまったく。

 あの邪神から与えられし呪いというかデバフというか、とにかく最悪の特典としかいいようのない()()

 アレが我が仔にまで引き継がれるとは思わんだろふつうさあ!

 俺に訳ありで付与されたものだし、半弟であるアセンドトゥザサンには引き継がれてなかったからセーフだと思ったのに……!!

 

 こうなっては何がなんでも我が仔と話さなければならない。

 馬界の常識を伝える、それ以前にオッスどもからケツを守る術を教えるのだ!

 

 ということで、数ヶ月かけて産駒と心の間をつなげることに成功した。

 我が仔たちは国内外問わずクラシックシーズンに果敢に挑戦しているため、伝えたいことも聞きたいことも山のようにある。

 国内にいる産駒にはつなげやすいから話もしやすいが、困ったことに海外は距離の問題なのかうまく接続できないのが厄介だわ。

 俺が繁忙期の時はそれどころじゃないせいで、初夏になってやっと接続完了だし。

 

 っと、愚痴を言ってる場合じゃないな。

 さあスイートマイキッズ!

 お父ちゃんと話そう!!

 

 これは、俺と、俺の産駒の会話の記録である。

 

 

 

 Case.1 ルミナスヘリシオ(2011仏国二冠:ジョッケクルブ賞、パリ大賞典)

 

 初年度産駒の1頭であり、フランスを主戦場としているルミナスヘリシオは、同国における俺の代表産駒だ。

 身体がそこまで強くないみたいで、3歳の春になってデビューした。

 俺の産駒の6割がそうであるように、ルミナスも純白の馬体を持ち、でも目はすこし茶色みがある褐色っぽい色をしている。

 白毛に魚目、青目というのはめちゃくちゃ珍しいらしく、産駒の中でも俺以外だとイギリスにいる1頭だけというレアっぷり。

 それで言うと俺の産駒としてはごく一般的な馬であるルミナスに心の間を接続したのには理由がある。

 

「デビューは遅れましたがジョッケクルブには出走できそうです。お待たせして申し訳ありません、お父様」

 

 そう、ジョッケクルブ── フランス版ダービー。

 確かにデビューこそ遅れたがルミナスはそこから連勝し、仏ダービーに駒を進めたのだ!

 日本と違ってクラシックでもフルゲートになることは少ないらしい海外とはいえ、優駿を決める大事なレースに出走できるのは素晴らしいことだ。

 すごい! がんばった! 父ちゃんは嬉しい!

 だというのに、ルミナスは首を低くして俺を見ていた。

 

「なぁんで申し訳なさそうな顔すっかなあ。ルミナスは頑張ったよ。むしろよくここまで持ち直せたなって父ちゃん嬉しいんだぞ!? 本当によく頑張った。お腹は大丈夫か? 無理するな、なんて俺は言えた立場じゃないけど、大怪我だけはしないように気をつけてな。ヒトが悲しむのはもちろん、父ちゃんもとても悲しい」

「ハイ、気をつけます。……それで、なのですが。G1レースに出るのも初めてだし、お父様から何かアドバイスがいただけたら嬉しいな、と」

 

 よしきた、それが目的と言っても過言じゃねえ!

 とはいえだ。

 

「う、う〜ん、アドバイスか、アドバイスね、うん、はい」

 

 苦手なんだよな、アドバイスするの。

 それ目的で来てるのに。昔っからこうなんだよなあ。

 そういや現役の頃もウオッカに言われたなあ。

 ただ俺こういうの本当に上手くないしな。アンに聞かれたときも「まっすぐ走れ」しか言えんかった。

 ……いや、頼ってもらったし父親としては仔にいいところ見せたいし!

 

「クラシックシーズンは日本で走ってたから直接的なアドバイスは難しいかもだけど、父ちゃん頑張ってみるわ。ちなみに、ジョッケクルブって競馬場どこだっけ?」

「シャンティイです」

「あっ、シャンティイ!? ごめん前言撤回するわ。確かにレースでは走ったことないけど調教で走ったことあるコースだな。これなら父ちゃんにも言えることあるわ」

 

 ガネー賞とサンクルー大賞典に出走するため、しばらくの間シャンティイ競馬場近くの厩舎に入ってたからな、俺は。

 結局シャンティイ競馬場のレースに出ることは無かったけど、あの弾力性があって深く走り甲斐のある芝が俺は大好きだ。

 

「……え〜っと、確か目黒さん曰くシャンティイの高低差は10mくらいだけど、そこまで気にならない差のはず。お前は俺に似て馬体が大きいから、注意点はやっぱりコーナーカーブだな。このコースは何といっても外枠から先にカーブが来るっていうトンデモコースだから、枠順が外になったからって安心せず、鞍上が出す指示をきっちり聞くことだ」

 

 人間たちの中にはたまに「騎手なんてただの置物。強い馬は誰が乗ってようが強い」とのたまうやつがいる。

 が、今や馬として順応しきった俺からしてみれば、騎手ってのはレースにおける大切な指針だ。

 旅にたとえるならそれはコンパス。針が狂ってちゃどんな乗り物でも目的地に着くことはない。

 俺ら馬にはどこをどう走るかなんてわからないんだから。

 ペース配分も、どこでスパートをかけるかも、自らの脚の動き1つとっても、そこに騎手の存在は必要だ。

 過去、自在に走った、と言われた馬は数頭いる。

 けれど彼等の『自由さ』はその鞍上あってこその自由だ。

 馬が如何に優秀であるかを見抜き、悟り、覚悟を決めて乗った騎手がいたからこその活躍がそこにある。

 馬を深く信じる騎手だったからこそ。

 騎手にレースを教えたと謳われた皇帝シンボリルドルフも、スーパーカーと称されたマルゼンスキーも、世紀末覇王テイエムオペラーだって走り抜いたんだ。

 確かに人間は重いし背負ってない方が速く走れるが、それはレースという枠組みを除いた時だ。

 レースにおいては、この騎手といかに呼吸を合わせ、その指示を汲み取って走ることが勝利の鍵になる。

 どれほど能力に満ちていても、呼吸が合わず馬群を抜け出せず、そうして沈む人馬はいるのだから。

 言葉がわかんなくても、人間を疑って暴走するようなことにだけはなってほしくないし、どうせなら人間を信じて満足して走って欲しい。

 ……それができず暴れた果てに負けた時、俺ら馬だってきっと、悔しく思うのだから。

 

「お父様? 如何されましたか」

「いや……4コーナー目が1番角度キツイから、もう最初から膨らむ覚悟で行った方がいいかもな。直線の上り坂は根性勝負になるけど、後続に差を縮められても諦めず走り切るんだぞ! 父ちゃんとの約束だ!」

「後続にピッタリ張り付かれたら逸走してもいいですか?」

「だめです。あっ、でもうまだっちされそうになったらオッケーです」

「やったー! です!」

 

 ふんす、と鼻息を吐いた姿が、デビュー前の自分にちょっと似てるなあ、と思った。

 

 

 

 

────────────────

 

 ルミナスヘリシオとの会話が終わって1年。

 その間にいろんな産駒と話をした。

 この1年の間に、会話した初年度産駒のうち何頭かは競馬を引退し、繁殖なり乗馬になったりしている。

 俺の仔は白毛というのもあって乗馬としてもそれなりに需要がある。一般家庭のペットとしても、と聞いた時はびっくりしたけどな。

 馬を一般家庭で飼うって。相当難しくね?

 まあともかく。数頭、俺より先に虹の向こう側に渡ってしまった産駒を除いては、俺の仔は良い待遇で迎えてもらえているようだ。

 しかしそれで気が抜けることはない。

 現役の産駒の方がまだまだ多いし、2世代目、3世代目の産駒もこれからどんどんデビューしていくのだから。

 今年も戦う産駒たちを応援するため、俺は心の間を繋いだ。

 

 

 

 Case.2 サニーファンタスティック(2011英国三冠)

 

「お父様にご報告申し上げます。本年のKGVI&QEへの出走決定しました。前年の三冠に引き続き、今年もお父様の代表産駒として恥ずかしくない戦績を収めてみせます」

「うん、去年の三冠達成で父ちゃんはもうめちゃめちゃ嬉しいよ。同時に目ん玉も飛び出たけど。強すぎだよお前」

 

 目の前で恭しく首を垂れるのも俺の初年度産駒の1頭。

 イギリスを主戦場とするサニーファンタスティックだ。

 3歳だった昨年は41年ぶりのイギリス三冠馬になる等、父たる俺がテレビ前で「はえ〜、すっご……」しか言えなくなるほど強い。

 繁殖とはその親より優れた馬を生み出すために行われる、とは目黒さんの言葉だけど、それにしても(おや)より強い馬現われるの早すぎだろ!

 俺も、一緒に走ってきた同期のディープインパクトだって獲得できなかった三冠馬の称号を、サニファは堂々と掲げている。

 この仔が同期の中で抜きん出ているのは、まあ親の贔屓目抜きにしてもあるかもしれないが、だからといってその世代が弱いわけじゃない。

 むしろ2歳時にサニファが負けたフランケルという馬は、その後、2000ギニーでサニファがリベンジして以降もサニファ以外に負けていないスターホースだ。

 競馬のアップデートってハイスピードなんだなあ、と父ちゃん、びっくりしたよ。

 ちなみにサニファは今いる産駒の中で唯一、俺と同じく白毛に青い目をしている。

 自分で言うのもなんだが、俺のクローンかと見紛うほどの美貌馬だ。

 そのせいか、俺と同じくらい牡馬に追われてると聞いて、その、はい……ご、ごめんなさい……!

 

「……そ、それにしてもKGVI&QEかあ。父ちゃんも4歳の夏に出たんだぞ〜! なんかもう懐かしいわ」

 

 何年前だよ……えっ6年前……!? 時間の流れ速すぎだわ。

 

「7月開催だから暑いかと思ったけど、あそこは夏でも涼しいから夏バテはしなさそう。でもなサニファ、空模様と牝馬心は移ろいやすいから体調管理には気をつけて、水分と塩分補給はしっかりするんだぞ」

「もちろんです、お父様。当日を万全の状態で迎えるため、つきましてはご指導ご鞭撻のほど」

 

 うんうん、父ちゃんもそれ目的で来てるからな!

 今回は俺も出走したレースってこともあって伝えられる内容は多い。

 何より、サニファだけじゃなくてここに出走する全産駒には絶対に注意しようと思ってたから、良い機会だ。

 

「KGVI&QESが開催されるのはアスコット競馬場なわけだが、ここは確か、イギリスのクラシックには使われないから……サニファは初めてか。父ちゃん、アスコットに出る産駒には絶対、絶対言おうと思ってたことがあってさあ」

 

 首を傾げるサニファに俺はニッコリ笑った。

 

「大外になっても油断するな」

「……はあ」

「大外になっても油断するな。はい復唱」

「えっ……お、大外になっても油断するな……?」

「もっと大きな声で。はきはきと」

「大外になっても油断するな!」

 

 はい上出来。

 そうです。大外になっても油断するな!

 

「アスコットは本当にあかん。俺らの脚に、いや俺らの体質から来る戦法には不向きすぎるんだよ。アスコットのコースで特徴的なのはスタートからの上り坂と、のぼり終わった後の下り坂、それによる約22mの高低差なんだけど、正直サニファは父ちゃんと同じで坂は障害にならないタイプだからほぼ気にしなくていい。それよりも問題はコーナーカーブだ」

 

 あれが合法とは恐れ入るぜ。

 あんなんカーブって名乗っちゃダメだよ、鋭角って言ってくんないとさあ!

 俺はすっかり完治したはずの右後脚を震わせた。

 大怪我はしなかったけど、あの紙でスパッときれた指のジンジンとした痛み、みたいなのは結構不快。

 俺は中身人間入りだからなんとかなったけど、純粋馬の産駒たちはその不快さに気取られて心を乱されるかも知れない。

 

「いいか、サニファ。アスコットのコースはとにかく角がキツい。もしトップスピードのまま曲がろうとするなら大外ギリッギリまで行かないと怪我する。お前にも言えることだが、俺たちはカーブで減速して曲がる、という芸当ができない。だから父ちゃん当時は右後脚ざっくりいったし。……コーナーカーブにはよくよく気をつけて走るんだ。そこさえ抜ければ、あとはもう直線で加速してけば勝てる! ターボ師匠もそうだと言ってる!」

「ターボ師匠……?」

「諦めずに逃げる父ちゃんの心の中の師匠だよ。……サニファ、お前もそうだけど、父ちゃんの特質を継いだことでお前たちには本当に苦労をかける。オッス共に追われるのは苦痛だろうけど、逃げ切ったその先で、父ちゃんは待ってるよ」

 

 だから、ここまでちゃんと、走っておいで。

 

「はい、お父様!」

 

 サニファの自信に満ちた横顔は、あの日の俺に良く似ていた。

 

 

 

 

────────────────

 

 サニファに会ってからさらに1年が経ち、俺は再びフランスに来ていた。

 ちなみにサニファは去年KGVI&QESを無事に制覇。

 凱旋門賞にもチャレンジしてくれる予定だったけど熱発回避で、今年はイギリス長距離三冠を目指すらしい。

 その三冠チャレンジ中にも凱旋門賞目指すらしいから、それも楽しみだ。

 でも今年はサニファだけじゃなくて、何頭かの産駒が凱旋門賞にチャレンジしてくれるらしい。

 アイルランド、イギリス、アメリカ、ドイツの産駒を順に巡り、こうして今はフランスってわけだ。

 全頭出走は難しいかも知れないけど、1頭でも多く凱旋門賞にチャレンジしてくれたら、やっぱり父としてはうれしい。

 ……よし、父ちゃん頑張るぞ!!

 

 

 

 Case.3 Blanche Blanche (2013凱旋門賞馬)

 

「レガシーカップを勝ったので凱旋門賞への出走が決まりました。フランス2000ギニーからなかなか重賞で勝てずすみませんでした、お父様」

 

 漆黒の馬体を光らせる目の前の産駒は、俺の3世代目で、初のフランス2000ギニー勝ち馬。

 前に仏クラシックを勝ったのはダービーを勝った初年度のルミナスだから、1年空いての制覇だ。

 同世代には他にも活躍馬がいたけど、俺がこいつ── ブランに会いに来たのは、凱旋門賞に出走する、それ以前に調子を見に来たってのがある。

 このブラン、自分で言っていたようにフランス2000ギニー以降は勝ち鞍がなかった。

 とは言っても惨敗だったわけではなく。

 掲示板には毎回には毎回名前が残る、惜しい競馬が続いていた。

 中身が人間入りの俺でさえ、ディープインパクト相手に惜敗続きだったときは悔しくて苦しくて、すごく落ち込んだりもしたから。

 ブランの心が折れていないか、それを心配して心を繋いだ。

 

「ブラン、父ちゃんに怒られるとでも思ったんか?」

「だって、他の仔はもっと上手く……」

 

 確かに、ブランの同世代でもっと活躍している産駒は他にもいる。

 だからなんだっていうんだ。

 その仔とブランとでは条件も違うし、目指すレースも違う。

 必ずしも同じように走る必要は無いんだから。

 

「そりゃね、競馬はレース結果がすべてだ。優勝劣敗の世界だし、どれくらい頑張ろうが1着にならなければ勝ちとは言えねえよ。けどお前は必死に走って力を示してそこにいる。走ってきた事実が消えることはないし、積み重ねた経験値がなくなったことにはならない」

 

 5着から4着へ。

 3着から2着へ。

 着実に順位をあげるその道程で得た力が、いつかのお前の勝利を支えるだろう。

 

「今年の仏ダービー馬の、アンテロ? は2000ギニーでは3着だったって聞いた。当日の人気はお前よりも低かった。けど勝った。それはアンテロが積み重ねた経験値を活かして来たからだ。それにお前だって仏ダービーは2着で、その背中を必死に追って駆けたんだよ。それは絶対に無駄にならない」

 

 KGVI&QES、インターナショナルSに挑戦して、しかし勝てず。

 現地の前哨戦には調整が間に合わず。

 苦肉の策で出走したレガシーカップ── 旧・アークトライアルはG3の前哨戦。

 フランスですらない、イギリスで開催される珍しいトライアルレースからは、これまで凱旋門賞勝ち馬は出ていない。

 このレースが前哨戦であることすら知らないファンも多いほど、縁遠いレースを、でも、ブランは勝ちきった。

 

「どれほど遠く忘れられたレースだったとしても、これはれっきとした凱旋門賞のトライアルレース。そこを勝って凱旋門賞に挑むんだから、自信を持て!」

 

 これまで凱旋門賞勝ち馬が出てないからなんだ。

 俺だってこれまで勝ち馬がでなかった国から出た覇者やぞ!

 結果は、お前が作れば良いし、お前が史上初の勝ち馬になれば良い!

 

 ブランは潤んだ目をまっすぐと俺に向けて、しっかりと頷いた。

 

「はい……はい、お父様! 勝つためにもついでにパリロンシャンのコースと出走する日本馬の情報、それから逃げ馬を轢き潰す方法を教えてください!」

「欲張りすぎィ!?」

 

 この立ち直りの早さ、誰に似たんだろうなあ。

 

 そういやブランは差し馬だけど、これにも毛色が影響してるんだろうか。

 俺の産駒は、白毛だとまあ、俺と同じように逃げないとケツがね……ということで大逃げ一択になりがちなんだが、そうじゃない産駒の選択は結構広いんだよな。

 まあ俺もデビュー前は差しの練習して上手くいってたし、もしかしたらこの毛色とケツ追いがなければ、俺も差しで行ってたのかもしれん。

 今となっては全部タラレバなんだけどな。

 

「ルミナスの時はケツ追われて大変、って話聞いてたけど、お前そこんとこは大丈夫か?」

「んー、鼻息荒くケツを追い回された記憶はないです……あ、でも牝馬からはすごくモテますよ。この前、発情期がきた牝馬に追いかけ回されて大変でした。いきなりパパにされるかと怯えましたね」

「俺たち白毛牡馬のモテる体質とお前のソレ、足して半分くらいにできたらいいのにな」

 

 極端なんだよな、モテる対象が。

 

「……っと、茶番してる場合じゃないな。日本馬の情報はさすがに教えられないけど、凱旋門賞のコース情報だけは教えるぞ! 父ちゃんもそれが目的の半分だし」

 

 凱旋門賞が開催されるのはパリロンシャン競馬場。

 俺が欧州で初めて制したガネー賞の舞台もここだった。

 コースレイアウトが本当に最高としかいいようがない。

 カーブは非常に緩やかだし、そもそもコースの幅があって曲がりやすい。

 内になろうが外になろうが俺らの脚的には不利のない競馬場も珍しいぞマジで。

 

「逃げでも差しでも俺らが最後の最後にスパート掛けるのは変わらんからな。そのトップスピードを減速させることなく活かせる最高のコースだぜ」

「なるほど。……トチ狂ったスピードとパワー持ちのお父様がおっしゃると妙な説得力がありますね」

「おっと? 急に生意気になったじゃねえか」

「それほどでもないです」

 

 褒めてねえよ。

 

「……で、続きな。パリロンシャンの高低差は10mくらいでシャンティイとはあんまり変わらんな。シャンティイ走ったことあるよな?」

「ハイ」

 

 シャンティイ競馬場ではダービーが開催されるからな。

 そこを走ったことがあるブランにはパリロンシャンの坂も気にならないと思う。

 馬場だって、土地柄雨が降りやすいから基本的に濡れてるけど、コレもパワーがあるタイプのブランには苦にならない。

 

「重馬場や洋芝で俺が逃げる、ってなると、俺のスピードに他馬が釣られてハイペースになりがちだが、ブランは差し馬だし多分結構ゆったり進むんじゃないか。ポジション取りさえ間違えなければ、お前の末脚は終盤でも十分伸びる。逆に周りが遅すぎてお前が前に立ってしまった場合は、いっそ割り切って逃げ切っちゃいな!」

「ゲート苦手なんでちょっとそれは」

 

 ……あ~、そういやこいつ何回か出遅れしてたな。

 お前本当によかったよ白毛じゃなくて。

 

「それでお父様、日本馬の情報なんですけど」

「や、さすがに教えらんねえよ」

「そこをなんとか。出走予定馬だけでもいいんで」

 

 粘るなあ。

 この貪欲さ、間違いなく俺の産駒だわ。

 そうだなあ、使えるもんはなんでも使うよな。

 不正にならん限り、神頼みだってしてきたんだぜ父ちゃんは。

 や、正しくは父ちゃんのテキが、だけど。

 

「あくまで予定、予定ってだけだぞ? 今年も去年同様、オルフェーヴルって言う日本の三冠馬が出ることになってる。けど、簡単には勝てないと思うぜ? ……だから、最後まで諦めず、戦い切るんだぞ!」

「……はい、お父様! 全員潰して勝ちます!」

「言動が物騒なんだよなあ!」







ルミナスヘリシオ 牡
フランス二冠馬
身体弱いけど頑張って走って来た
種牡馬入り後もたびたび休養を挟みつつ血を残してる

サニーファンタスティック 牡
イギリス三冠馬
サンジェクローン並に似てる
結局凱旋門賞には1度も出走できず次に心の間を繋いだ時大泣きしていた

ブランシュブランシュ 牡
凱旋門賞馬
落ち込むときはとことん落ち込むが開き直るのも早い
産駒がなかなか振るわずぼちぼち功労馬入りする予定

第◇回サンジェニュインのお嫁さんレース(敬称略)

  • エアグルーヴ
  • ハルウララ
  • ウオッカ
  • カレンチャン
  • 海外牝馬組
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