美貌バいろいろ   作:SunGenuin(佐藤)

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走れメロスに文体似せつつ、無知シチュフェチ疑惑のあるハーツクライさんにキレてるカネヒキリくんがメインの話です。
当社比カネヒキリくんが一生分くらい喋ります。
サンジェは一言も喋らないどころか登場しませんがサンジェの話題です。

友情出演:
ディープインパクトさん、ヴァーミリ院、完全に巻き込まれたキングカメハメハさん


【馬】走れカネス

 カネヒキリは激怒した。

 必ず、かの無知シチュフェチを除かなければならぬと決意した。

 カネヒキリには無知シチュが(わか)らぬ。

 カネヒキリは、ダート馬である。

 砂上を支配し、やたら顔の良い親友と戯れながら暮らして来た。

 なので、親友の顔とケツ事情には馬一倍に敏感であった。

 

 今日未明、カネヒキリは馬房から出て、厩舎を抜け、さほど離れていない放牧地へとやって来た。

 カネヒキリには父馬も、母馬もない。特別添いたい牝馬もない。

 5ヶ月くらい年下の、ぞっとするほど顔の良い親友と2頭暮らしだ。

 この親友は、海を挟んで遠く離れた異国で、今も懸命に仕事をしていた。

 帰国も間近なのである。

 カネヒキリは、それゆえ、親友の帰国前にコトを片付けに、はるばる放牧地にやって来たのだ。

 まず日光浴で身を清め、それから隣の放牧地をギラギラと見つめた。

 カネヒキリには不倶戴天の敵があった。

 ハーツクライである。

 今はこの社来スタリオンステーションで、種牡馬をしている。

 その敵を、これからぶちのめすつもりなのだ。

 久しく会わなかったのだから、決着を付けるのが楽しみである。

 

 歩いている内にカネヒキリは、放牧地の様子を怪しく思った。

 ピリピリしている。

 もう既に日も昇り、放牧地の明るいのはあたりまえだが、けれども、なんだか、朝のせいばかりではなく、放牧地全体が、やけに刺々しい。

 怒れるカネヒキリも、だんだんとボルテージが上がってきた。

 手綱を引いていた人間を振り切り、手前放牧地の馬に、何かあったのか、以前親友と来た時は、朝でも皆が嘶いて嘶いて、放牧地はほがらかであったはずだが、と質問した。

 馬は、目をつり上げて前脚を掻いた。答えるつもりはないらしい。

 しばらく歩いて別の馬に会い、今度はもっと語勢を強くして質問した。

 馬はまたも答えなかった。

 カネヒキリはふざけんじゃねえ聞いてんだぞ答えろと質問を重ねた。

 馬は、辺りをはばかる低声で、わずかに答えた。

 

『ディープインパクトが、喧嘩している』

『なぜ喧嘩している』

『他馬が誰それを貶したと言うが、誰もそんな、貶すなんて真似はしていない』

『意味が分からない最初から説明しろ』

『……奥の放牧地で、ディープインパクトとヴァーミリアンと、キングカメハメハと、それからハーツクライが対峙している』

『驚いた。下手馬(げしゅうま)はハーツクライだな』

『えっ、いやそこまでは言ってないが……断定的すぎないか? もう最初から決めつけてなかったか? いやあ、まあ、ちょっとハーツクライがサンジェニュインの鬣を噛んだどうとかの話はしていたが』

 

 聞いて、カネヒキリは激怒した。

 

『呆れた馬だ。生かしておけぬ』

 

 カネヒキリはやはりキレていた。

 昂ぶった感情のままで、のそのそと与えられた放牧地に入っていった。

 たちまち彼は、ぶち切れているディープインパクトと目が合った。

 視線で何用かと尋ねられて、カネヒキリの目から怒りが感じ取れたので、騒ぎが大きくなってしまった。

 カネヒキリはハーツクライの前に引き出された。

 

『何故怒っているのか。私には見当も付かないな、カネヒキリ?』

 

 ひとつ年上のハーツクライは静かに、けれども威厳をもって問い詰めた。

 その馬の顔は笑っていて、二つの耳は楽しげに揺れていた。

 面白がっている、反省の気持ちなど無く、戯れに思っている。

 カネヒキリの形良い口元が大きく開いた。

 

『アンタよくもサンジェニュインにあることないこと言いやがって……ド変態が……世情に疎いサンジェニュインを惑わせるのは楽しかったか? ア"ァ"?』

 

 とカネヒキリは、声を荒げて答えた。

 近年稀に見る饒舌である。

 

『……まあ、可愛くはあったな』

 

 ハーツクライは、微笑んだ。

 

『まさかああもう素直に信じてくれるとは、私も想定外だった。一寸(ちょっと)した揶揄(からか)いのつもりだったのだが。はっきり言って癒やされたし、鬣から良い匂いがした』

『言うな!!!!』

 

 とカネヒキリは、いきりたって反駁した。

 おそらく全馬の中で最も近い距離で生活しながら鬣を噛んだことの無い、清く正しいサラブレッドたるカネヒキリの、魂の籠もった叫びだった。

 

『無知につけ込んで好き放題するのは、最も恥ずべき悪徳だ。これだから04世代は困る。乱心か?』

『待ってくれそれ俺も含まれてないか? 風評被害じゃないか?』

 

 キングカメハメハが慌てたように口を挟んだが、それをヴァーミリアンが咎めた。

 

『あんたもそこの鹿毛と同じでサンジェニュインの鬣噛んだらしいじゃねえかディープからネタは上がってんだよ!』

『あっそれは……噛んでくれって鬣だったからつい……』

 

 項垂れるキングカメハメハを、ディープインパクトが冷めた目で見た。

 

『……本当に信じられない。僕らはなるべく刺激しないよう距離を取ってきたというのに。追いかけ回してもお触りだけは厳禁だったのに』

『お前達の奥手ぶりをこちらの所為にされても困る。ああ、顔を合わせるだけで逆上せるのだったか? 初々しい限りだ、英雄殿』

『……もう一度ジャパンカップしてやろうか』

『望むところだ。有馬記念を再現しても私は一向にかまわないぞ』

 

 醜い。まったくもって醜い争いが乱発されている。

 心底大きなため息を零したカネヒキリを、キングカメハメハが視線だけで追った。

 その醜い争いに頭から突っ込んでいったのはカネヒキリ本馬だろうに。

 

『各馬の遺恨なんぞ知らん。勝手に乳繰り合って勝手に潰し合え。兎も角俺が言いたいのは、金輪際、サンジェニュインに妙なことを吹き込むなって事だ。戯れに鬣を噛まれたり添寝されたり鼻先を食まれたり耳を食まれたり顔をスリスリされる俺の身にもなってみろ』

『……お前なんで今自慢した?』

『耳腐ってるのか? 文句を言ってるんだ俺は』

『クソがッ!!!! 俺様だって鼻チューまでしかしたことないのに!!!!』

 

 全馬の中で最もサンジェニュインと親しいだろうカネヒキリから繰り出された渾身の一撃に、ヴァーミリアンの矛先が変わった。

 もはや無知シチュ先輩組はどうでもよかった。

 目の前に居るカネヒキリを除かなければならぬと決意していた。

 

『カネヒキリのことは後回しだよヴァーミリアン。先にハーツクライだ……放置したら次はどんなことをサンジェニュインに言うか分かったものじゃないよ』

『やめてくれないか、私を年下につけ込む年上下衆のように扱うのは』

『半ば事実ですよね、センパイ? だいたい、初対面だった最初の有馬記念から気に入らなかったんだ。当り前のようにサンジェニュインに声を掛け、あまつさえた、たた、鬣をッ……!』

 

 真っ赤になったディープインパクトの姿にハーツクライが口を開く。

 

『……呆れた。童貞じゃあるまいに、グルーミングなんて長い付き合いの馬がいれば1度くらいは体験するだろう』

 

 軽く頭を傾けて続けたハーツクライの発言を、カネヒキリがバサリと斬った。

 

『なかった』

『は?』

『その1度がサンジェニュインにはなかった』

 

 びっくりするほど、ただの1度も存在しなかった。

 サンジェニュインは栗東トレセンに来るまで馬のコミュニティを知らずに生きている。

 かの馬にとっては知らないものだらけの世界で、他馬の様子を見聞きしたり、与えられた情報が全てになる。

 だからカネヒキリは許せなかった。

 戯れでも、揶揄いでも、コレじゃなかったらどうでもいい。

 サンジェニュインは弱い馬ではないので自力で解決できるしそうであることを誇っている。

 だがコミュニティの中で生きていれば身につく『常識』に関してだけは、サンジェニュインが1頭で対処することはできない。

 

『確かに抜けている時もある。幼稚に思う時もある。だがそれら全てがサンジェニュインの持つ魅力の一部であり、阿呆なのではなく無垢なだけだ。知ろうとする努力はある。だから、妙なことは教えないで欲しい。教えるならそれは正しい情報で、正しく扱われるようにして欲しい。……サンジェニュインは警戒心が強い。誰彼無しに情報を鵜呑みにはしない。ということはアンタは、サンジェニュインが信ずるに値すると定めた馬なわけだ』

 

 ハッとしたような表情でハーツクライは顔を上げた。

 カネヒキリの言う『信ずるに値する』に、ディープインパクトとヴァーミリアンが歯噛みする。

 結局の所、2頭がハーツクライに突っかかった一番の理由はここにある。

 出会いはハーツクライよりも先で、共に過ごした時間も競った回数もハーツクライより上だった。

 にもかかわらずサンジェニュインは、ハーツクライの情報を疑うこと無く実践するほどにかの馬を信頼している。

 いくら初動を間違えたとはいえ、未だに警戒されている2頭から見れば、欲しい信頼を受けながらそれを揶揄いに利用しているようにしか見えなかった。

 

 もちろん、ハーツクライの真意は違う。

 同世代である3頭と異なってサンジェニュインの裏事情までは知らず、本当に、よくある直ぐに解ける冗談のつもりだった。

 むしろあっさりと信じてしまったことに動揺すらしていた。

 そんなことはわかっているが、それはそれとして、カネヒキリはハーツクライに怒りが沸くし、サンジェニュインの親友として止める権利があると思っている。

 最も近しい場所で呼吸をしてきて、1度もサンジェニュインに嘘を吐いてこなかったカネヒキリを、その親友本人が強く評価しているから、だから。

 

『サンジェニュインの努力ではどうしようもなかった無知さを理由に彼を誑かすのは、どうかやめてほしい』

 

 とカネヒキリは、ひとかけらも揺らぐこと無い意志でハーツクライを見つめた。

 

『……承知した。後ほどサンジェニュインの誤解も解こう』

 

 真摯な声色でそう返したハーツクライに、近くで様子を見守っていたキングカメハメハがホッと息を吐いた。

 一時はどうなることかと思ったが、どうやら丸く収まりそうだ。

 ディープインパクトとヴァーミリアンにはまだ燻った感情があるだろうが、ここで共に過ごす内に、それも溶けていくだろう。

 青々とした夏空を見上げながら、今日は平穏に過ごせそうだ、と微笑んだ。

 

『それはそれとして鬣を噛んだのは許せないから二度とサンジェニュインに近づかないで欲しい』

『だが断る』

 

 カネヒキリはひどく激高した。

 

 

 




一方その頃サンジェニュインは、異国の大地で盛大なくしゃみをしていた。
「誰かが俺の噂してる……ズズーっ」


カネヒキリくん 牡9
種牡馬1年目
ドバイから5年越しに無知シチュフェチを除かねばならぬ、と思って突撃した
サンジェと同じ厩舎で隣合う馬房で暮らしてるラッキーホース
ちゃんとサンジェがアホなのを理解した上で顔と存在に「はわわ……」してる
この後サンジェのグルーミングに対する誤解は解けたが、カネヒキリくんはサンジェの特別親しい馬枠に堂々と君臨しているのでグルーミングからは逃れられない

ハーツクライさん 牡10
種牡馬5年目
基本武士な感じだけどたまにお茶目に揶揄ってくる近所のお兄さん枠
今回はサンジェが馬コミュニティに属さず暮らして来たことを知らなかったから起きた事故
それはそれとして鬣ハムハムしたことは確かなのでドバイでのユートピアさんの反応は正常
今後も元気にサンジェを揶揄い後輩組から襲撃される

キングカメハメハさん 牡10
種牡馬7年目
完全に無関係。ハーツクライさんのストッパーとして付いてきた。
でもサンジェが種牡馬入りしてすぐの頃にサンジェの鬣ハムハムした前科は本当にある。

ディープインパクトさん 牡9
種牡馬5年目
実は05世代同期牡馬たちで鉄壁の「サン触るべからず同盟」を築いている。
が、皐月賞で腹ツンツンしたり有馬記念で無口グイグイした前科もある。
それでもケツタッチはしてこなかったし馬っ気も出さなかったのにそんな僕よりもハーツクライの方が信頼度上なのはおかしいよ……してた
そのうちツンツンはされるけど普通に会話できるようになる

ヴァーミリアン 牡9
種牡馬1年目
2歳時に鼻チューしたことはあるがそれ以降同盟に準じて一切お触りしてこなかった鋼のメンタルを持っている
なお顔はギリッギリまで寄せているのでアウト寄りのセーフって感じ
この後サンジェとある約束を交わし、唯一それを叶えてくれる

サンジェニュイン 牡9
またしても何も知らないオッス馬
今フランスで元気にハッスルハッスル!!してるところ
帰ってきたハーツクライさんからグルーミングの事実を伝えられるが
「特別仲良い相手だけ、ってことは……カネヒキリくんにはして良い、ってコト……!?」
ということでカネヒキリくんは定期的にハムられることになる

第◇回サンジェニュインのお嫁さんレース(敬称略)

  • エアグルーヴ
  • ハルウララ
  • ウオッカ
  • カレンチャン
  • 海外牝馬組
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