美貌バいろいろ   作:SunGenuin(佐藤)

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「種牡馬入り後、初年度が生まれる前に早逝してしまったサンジェの世界線」
の話です。
前にも似たような話
https://syosetu.org/novel/270791/46.html
を書きましたが、それとはまた別タイプの話です。
繋がってないです。

すごい馬が喋ります。
虹の向こう側の話なのでお亡くなりになった馬が多数出てきますが基本コメディです。
マックイーンさんはめっちゃエセ関西弁。


【IF】【馬】健やかであることを望む

『へえ、自分、サンデーさんの息子なん? どえらいべっぴんさんや』

『な? 俺の血なんて一滴も入ってなさそうな顔で笑えるだろ?』

『おん。初対面の時のアンタの顔、だいぶ笑えんかったからな』

『おっと、俺に飛び火するなんて聞いてねえぜマックイーン』

『タハハハハハハ』

『ガハハハハハハ』

 

 笑い事じゃねえんだよ。

 本当に笑い事じゃねえんだよおっさんどもがよ……!

 

『おっさんン? 偉大なるパパに向かっておっさんとか言ったか〜?』

『あィタァッ!! 痛い痛い痛い!!!! 締まってっから!! 首ッ!! 首折れる折れるッ!!』

『大丈夫、ここは首が折れても修復されるからな。実験済みだ』

『ウソでしょ……!?!?』

 

 ヘッドロックを、いや首を伸ばしてるからネックロック?

 ノータイムで喰らった暴力にふらつきながらもなんとか離れる。

 修復がどうのこうの以前に、ほぼ初対面の馬相手に速攻で暴力に訴えるのよくのないと思うよほんとに。

 ここがトレセンだったら厩務員にとっ捕まってるから、それだけのことやってるからあ!!

 

 おっさんども、いや、父を名乗る不審馬とそのツレから距離をとりながら、俺は重い息を吐いた。

 ほぼゲロと一緒の重さ。

 

『オエッオッオッオオッ!!』

『最後オットセイになってないっスか?』

 

 おだまりラインクラフトちゃん!!!!

 えっていうかクラフトちゃんオットセイ知ってんの!?!?

 

『ププ〜、なんだよクソガキ〜! 牝馬(おんな)のケツに敷かれてやんの!! プークスクス』

『おお、アンタも似たようなもんやったやん』

『おだまりマックイーン!! 俺は紳士なだけだっての!!』

『……おい、俺とクラフトちゃんの前でにゃんつくなジジイども!』

『にゃ……なんだって?』

 

 ぶりっ子すんなってんだよ!

 え〜やだ怖ァい、とか言いながら互いの馬体をドスドスぶつけ合って戯れる白と黒の馬を、俺はうんざりとした気分で見た。

 方や父馬、方やそのトモダチ。

 どっちもいい年齢だってのにどっちがガキなのか。

 は〜、なんでこうなったんだろ。

 いやまじでなんでこうなったんだ?

 最初はこんなんじゃなかったはず。

 

 ……いやこんなんだったわ。

 こんなんだったねクラフトちゃん。

 解ったからその「牡馬ってほんと……バカ」みたいな目やめぇや。

 違うもん、俺はこいつらと違うんだもん!!

 

『いいんスよ、心が若いって良い事っスもんね』

『ディスってないか? 普通にディスってないか?』

 

 一周まわって悟りの境地に達しつつあるクラフトちゃんに泣きつつ、ここまでの流れを3行で振り返ると、ざっとこんな感じだ。

 

 俺、サンジェニュイン! 5歳の秋に心不全で死ぬ!

 虹の向こう側に着いてラインクラフトちゃんとハッピーライフ!

 そしたら父馬を名乗る不審馬に遭遇ちゃった!?

 たいへ〜ん! 通報通報!

 したのに関西弁を操る謎の芦毛馬も来ちゃっても〜大変!

 これからどうなっちゃうの〜〜!?

 イマココ!!!!

 

 あれっ7行だわ……まあいっか。

 もっと詳しく話したほうがいいのかもしれないけど、そうすると大体1万文字くらい使いそうなので今回は省略。

 仮に付け加えるとしたら、引退して種牡馬入りしたけど初年度の誕生を見ることも無く死んじゃった、という事くらいか。

 いやあまさか心不全で旅立つことになるとはなあ。

 馬生も何が起こるかわからんね。

 

 虹の向こう側こと『ここ』に着いた時は茫然自失になっちゃったが、ひと足早くここに着いたクラフトちゃんと戯れながら過ごしてるうちに元気になった。

 死んでしまったものはしゃーない。

 子供見たかったし走ってるところも見たかったけど、嘆いても生き返る訳じゃないからな。

 一世代だけだとしても、そしてその顔も走りも見ることが出来なかったとしても。

 血だけでも遺せた事に意味がある。

 あとは目黒さんたちが上手いことやってくれると信じて、俺はセカンド、いや、サードライフ(死後)を楽しんでいた。

 

 事が起きたのはサードライフを送り始めてから体感数ヶ月が過ぎた頃のこと。

 当初、俺はクラフトちゃん以外にトモダチや知り合いがいないこともあって、彼女にずいぶんとお世話になっていた。

 いやまあ今も世話になってるんですけどね!

 それ以上に世話になっていたというか。

 そもそも論なんだが、牧場時代から母馬とさえ没交渉で1頭ぼっち極めてたんだぞ、俺は。

 会話した事あるのも歳の近いガンジョウメイバ先輩やハルノメガミヨ先輩、同世代のカネヒキリくんたちなわけで、そんで俺も若くして儚くなった訳で。

 だからマジのガチで知り合いがいない。

 探せば多分血縁者はいる、と思う。

 うん、いるな、絶対いるけども。

 けどわざわざ探し出してまで会話したい気持ちも無かったので、しばらくクラフトちゃんにべったりしてたわけだ。

 彼女がいない時は草原でゴロゴロしたり、現世にいるMFFことマイフェイバリットフレンズなカネヒキリくんたちに心の中で語りかけたり、有意義に過ごした。

 

 ただ数ヶ月が経った今日この頃にもなると、俺はラインクラフトちゃん以外にもクラフトちゃんの父馬、エンドスウィープさんとも話すようになっていた。

 エンドスウィープさんは、俺らが産まれた年にこっちに来たらしい。

 シャトル種牡馬として日本とオーストラリアを行き来しながら多数の産駒を遺し、ラインクラフトちゃん以外にもたとえばスイープトウショウといった名牝を送り出している。

 はえ〜すっご……ってエッ、スイープトウショウとラインクラフトちゃん同父だったのかよ!?

 全然性格違……いやクラフトちゃんも滅茶苦茶頑固な所あるし案外似てる……?

 とか思いつつクラフトちゃんとエンドスウィープさんの会話を見守ったりもした。

 

 ちなみにエンドスウィープさんとの初対面では、俺はめちゃくちゃ睨まれた。

 可愛いお嬢さんにじゃれつくヒモを見る親って感じの憎しみだったな、アレは。

 ただそれもほんの一瞬のことで、俺の顔をハッキリと認識した瞬間に憎悪が掻き消え、ぽかんとした顔で俺をガン見してた。

 数秒くらいフリーズもしてた。

 そんで回復したかと思えば、心底不思議そうな顔を俺に向けてから口を開いたのだ。

 

『……? 顔がいい……』

 

 あっ……こっちの牡馬にも効くんだこの顔……と思ったよな。

 俺が死んだら効力失うのかと思ってたから予想外だわマジでな。

 でもエンドスウィープさんは『顔がいい』botになっただけで済んだからセーフ。

 酷い時はすっごいケツ追われるしケツタッチもされるからね、コレ。

 顔がいいと連呼されるくらいなら全然オッケーです。

 しばらく経つと普通に会話できるようになったし。

 

『本当に顔がいいな君……さすが我が娘というべきか牡の趣味が良……えっサンデーサイレンスさんのご子息!? ── お父上には本ッ当に苦労しました』

 

 ニコニコと話し始めたのに急にスンッとなってビビり散らかしたわ。

 急転直下すぎるだろ。

 俺の父馬が気性激しいってのは、世話になってた社来スタリオンステーションことSSSでフジキセキさんたちにも聞いてたからある程度は知ってたけど。

 口悪く親父の昔話しつつも、フジキセキさんたちはいつもにこやかだったからな。

 真顔になるって一体何があったんだよ、と思って詳しい話聞くと、俺の父馬サンデーサイレンスとエンドスウィープさんもSSSで一緒に暮らしていたらしい。

 で、そこで度々小競り合いがあったり、なくても常時周りを威嚇する父馬から受けるストレスは、それはそれはとんでもなかったそうだ。

 フジキセキさんだけでなく人間のテキたちも言ってたけど、俺の父馬はとんでもなく気性が激しかったとかで、同僚の馬たちとの仲もよろしくなかったんだそう。

 父馬に苦手意識持ってた馬はかなりいたんだって。

 別に嫌いではないんだけど、と前置きしつつ、エンドスウィープさんはため息を吐いて言葉を続けた。

 

『気難しい彼とまともに付き合えたのは、後にも先にもメジロマックイーンさんただ1頭だけだったよ』

 

 おお、父馬があんまりにもヤバく言われるから心配してたが、トモダチはいたようで本当に良かった!

 ……なんかトモダチの名前聞いたことあるけど勘違いだよね!

 うんうん。

 ちょっと現実逃避しつつ、俺はそれからもちょくちょく、エンドスウィープさんと話すようになった。

 ケツを追ってこない牡馬なんて久々だ。すっごい平和。

 牡馬なしで、牡馬がいてもこんな穏やかな生活は陽来暮らし以来のことだよ、ほんと。

 種牡馬入りした後も隣の放牧地にディープインパクトがいたし、たびたび『元気ない牡馬の目の前』を通る仕事もさせられてたので。

 昔、ラインクラフトちゃんがここを『良いところ』と表した時に言っていた、誰も戻ってこない、が今となっては良く解る。

 快適空間だな〜、納得だわマジで。

 

  ── そう思っていた時期が俺にもありました。

 

 ほのぼのスローライフは今日で終わりだ! と言わんばかりの勢いで、突然絡んできたやべ〜形相のウッマにケツタッチされたんだよ!!

 しかもそれが父馬ってさあ!!

 俺の輝かんばかりの青目でおわかりいただけるだろうか、この絶望を。

 死んだ後もオッス! な馬に絡まれるとか聞いてないんだよなあ!!

 

『う〜ん、死んだからこそ、って気もするっスけどね』

 

 エッそれはどういう。

 

『や、単純な話っスよ。ほら、サンジェニュインくんのツラってよく【神が作った?】て聞かれるほどピカピカじゃないっスか。ここって神も住んでるらしいから、より影響力が強いんじゃないスか?』

 

 な、なるほど……!!

 目からウロコだけどその説あるわ!!!!

 

 全ッ然自慢にならないけども、この顔が神お手製なのは事実だからな。

 あの邪神と呼んでも全然過言じゃない神の仕業で、めちゃくちゃ牡馬にモテるフェロモンの副作用、みたいなもんで得た美貌ですから、これ。

 しかも呪いの大元が「牡馬と一発」だかもんな。

 生きてた頃はその呪いでどんだけ大変だったことか。

 ほぼほぼ他馬の下半身に圧迫される馬生と言ってもおかしくはなかったぞ!

 あっ、念の為言っとくが【圧迫】と言っても精神的にって話であって俺のケツは圧迫されてないからな!

 そこらへん勘違いしないでよねッ!!

 

『誰に言い訳してるんスか?』

『全世界1万人はいるかもしれない俺のファンに……』

『へえ、数字がサンジェニュインくんの知名度に対しては謙虚っスね』

 

 有馬記念のファン投票は16万票でしたテヘヘ。

 

『んん、舌出しするとアホ感際立つっスね』

『ディスが止まんねえなクラフトちゃん』

 

 どした? 泣くぞ? 泣き喚くぞ?

 もうちょっと俺に優しくしてちょうだいよ。

 そう言って心なしか眉、や眉ないけど眉的な顔面の筋肉を下げたら、クラフトちゃんがフッと笑って言った。

 

『ディスコミュニケーション』

『多分だけど意味が違うんじゃねえかなあ!?』

 

 ヒヒーン!

 

『っふふ、ジョークっスよ。……それよりおじいちゃんたちのことどうにかしないと』

 

 やべっ忘れてた。

 すっかり頭から消して過去回想モードに入ってたわ。

 ダメだな自分に集中すると周り見れなくなる、反省。

 さて放置してたおっさんどもは、と恐る恐る横を見ると、おっさんどもはおっさんどもでまだ戯れてたからセーフ。

 

 いやなんでまだ戯れてんだ?

 仲良しか?

 仲良しなんだろうなあ俺もカネヒキリくんに会いたいぞ。

 ドバイで別れた以来なんだぜこっちは。

 早く会いたいけど、いや、やっぱいいや。

 カネヒキリくんにはあと30年くらい長生きして貰わんと。

 いろんなものを見て、体験して、それで蓄積された思い出とかを、カネヒキリくんの口から聞きてえな。

 今はそれが死後の数少ない楽しみだし!

 

 それはれとして、俺はトモダチとキャッキャッできないのに戯れてるおっさんどもを見て……なんかだんだん腹たってきた。

 

『あのさあ、おっさんたち ── 』

『あ゙?』

 

 いや顔怖すぎるだろ。

 ヤのつく自由業の馬?

 

『ああもう ── おじさまたち、自己紹介くらいしてくれませんかね! 自己紹介はコミュニケーションの始まりなんで』

 

 これくらいは流石に馬界でも一般常識だよな?

 

 俺がそう言うと、芦毛の馬は驚いたように片目をぴくりと動かし、青鹿毛の馬はゆらりと揺れながら俺に向き合った。

 うわさっきより目つき悪ッ!!

 魔王か何かかな?

 

『……おいおい、ずいぶんお利口なセリフを言ってくれるじゃねえかよ。母馬譲りか? ……見たらわかんだろ。喜べ、お父様だぞクソガキ』

『……ふん、俺と見た目掠ってなくてわッかんねえわクソ親父』

『んだとゴルァ!! 親への口の利き方じゃねえな表でろや!!』

『上等だゴルァ!! 息子のケツタッチしてんじゃねえぞ!!』

 

 現役時代は馬体保護のために絶対これだけはやらんとこ、と決めていた、テキも太鼓判を押した俺の脚を見せつけてやる!!!!

 

『あれぇ!? なんかキレるの早くないっスか!? 秒で喧嘩になるのやめるっスよ、もう!!』

『タハハ、あ〜んな温和そうな顔してやっぱサンデーさんの息仔やんけ! なに、いつもこうなんか、お嬢さん?』

『いやそんなことは、あ、ああー、うん、いや、あぁ、まあ結構短気なんスよね、うん。基本はのほほんとしたとねっこメンタルなんスけど、意識してる馬相手だとずっとピリピリっスよ。けどまあ、キレてもとねっこの口喧嘩レベルなんで、大目に見てもらえると助かるっス』

『ほーん。なんやぁ君も苦労しとるな。……── ちなみにやが、サンデーさんは【本気(マジ)】や。当然、脚も頭も、歯も出るで』

『えっ』

 

 昭和生まれには負けん……えっギリ平成?

 ウソダァ!!

 SSSで知り合いになったフジキセキさんの年齢から逆算すると、親父は遅くても1991年にはSSS入りしてることになる。

 平成は1990年スタートだからダウトなんだよなあ!!

 

『テメェ……父親舐めんなよ? お前らなまっちょろい時代の馬とは違う……自分を守るためなら()()()()使()()()馬なんだよ俺は。── 喰らえ、ヘイロー譲り!!!!』

『ぎゃあ!? けっ、ケツ……親父が俺のケツ噛んだァ!!!! クラフトちゃあん!!!!』

 

 さすがにケツはダメだろケツは!!!!

 世界一デリケートな箇所だろ!!!!

 命の次に大切な箇所だよって母馬や人間たちから習わなかったのかよ!?!?

 

『知らねえなァ!! いじめ、主取、病気に馬運車事故長期入院、このうちのどっかでは言われてたかも知んねえ!!』

 

 エッ!?!?

 

『えっえっそういう壮絶過去知らんかったデリカシーなかったごめんなさい!?!?』

 

『おお、すごいな、謝れるんや』

『根はすごい素直なんスよ』

『なんでお嬢さんが得意気なん?』

 

 うぅ……やったことへの否定と人格・産まれ育ちへの中傷は別物だって俺、ちゃんとわかってます。

 超えちゃいけないラインってあるよな。

 如何に俺のケツを噛んだ親父だとしてもアカン。

 これは素直に謝るべきだから……。

 

『ふん……て、てめえこそ周りの先輩馬への挨拶もなく数ヶ月たァどんな教育を受けた?』

 

 ぷいっと顔を逸らしながら聞いてくる親父。

 えっどういうって。

 

『俺、母馬には育児放棄されてて』

『エッ』

 

 育児放棄、ネグレクト、とにかく俺に、弟も含めて仔に関心がなかった。

 関心が持てなかった、の方が正しいんかな?

 でも正直、母馬の件は仕方なかったな、って今は思ってるんだよ。

 後から聞いた話なんだけどさ、俺の母馬ってば、アメリカでのんびり一般家庭のペットやってたってのに、急に繁殖に駆り出されたらしいじゃん。

 俺だって初めての交配はすっごい緊張したし、それでも繁殖の重要性は理解できてたから受け入れられたけど。

 中身元人間ですから。

 

 でも母馬は違うじゃん。

 純粋な馬でさ、大好きなヒトたちから引き離されて、繁殖牝馬としての仕事を求められて。

 しかもだよ、ただでさえ初めての妊娠でストレスだったのに、予定日を大幅にすぎての初産なわけよ。

 で、産まれたのが自分に似ても似つかぬ突然変異の白毛じゃ、育てる気もしなかっただろうなあ、って。

 今となったら解る。

 母馬にも苦労があったのだと。

 

『生産牧場じゃ他に同世代の馬とかもいなかったし、トレセン入りした後なんか、この白毛と顔で他馬には追いかけ回されてたから、交流とかそう言うのはちょっと、わかんねえんだよなァ……』

『エッエッ』

 

 なんか焦ったように前脚を掻き始めた親父を横目に、俺は首を傾げた。

 まあ中身が人間でさえなければ本能に身を任せて、みたいなこともできたかもしれんけど。

 なまじ人間の記憶がしっかり残ってたからあんまり。

 え? 人間入ってるなら逆に考えてコミュニケーション取りにいけるだろって?

 ……逆の立場になって考えて欲しいんですけど、鼻息荒くケツ追っかけてくる相手と冷静に話せるかってんだよ。

 まあ、MFFカネヒキリくんやクラフトちゃんたちのおかげもあって、陽来時代よりはだいぶ社交的になったと思うんけども?

 欧州遠征の時はパンジャンマックスやプライドさんたちともおしゃべりできたし?

 SSSに入ったあとは頼れる寮長ことボス馬フジキセキさんやキンカメさん、クロフネさんと、ケツはガン見してくるしジュニアもコンニチハするけど追いかけては来ない、そういう理解ある同僚たちもいた。

 彼らからも馬界の常識を教えてもらったりしてたし、そこまで無知ってわけでもないんだけども。

 

『えぇ……なんやねん、こいつら、親仔揃って壮絶過去持ちなんかーい』

『あの、マックイーンさん、うちのおじいちゃん、なんかすごい【やらかした】って顔してるんスけど』

『あー、まあ。サンデーさんって、口は悪いし手も歯も出るんやけども。性格までも終わってるわけとちゃうからな。まあ謝れるかどうかは別もんやけど! あっちも根がとねっこやねん、捻くれてるし』

 

『……マックイーン、それから孫。ちょいちょい余計な一言挟むのやめろ、気が散りそうになるから。というかもう散ってるから』

『ハ? 散らせてやってんねん、感謝せえ』

 

 何やらコソコソと話しているクラフトちゃんとマックイーンさんに割り入るように口を挟んだ親父は、不敵な感じに鼻息を吐いたマックイーンさんを前に撃沈した。

 つ、強……さっきまでオラオラと突っかかってきたのが嘘かのように大人しくなってやがる……!

 親父の荒々しさに気を取られたからか、すっかり大人しいと思い込んでしまったが、いや、こっちもこっちで気が強いな。

 そんで親父は口喧嘩じゃ絶ッ対ェこの馬に勝てねえんだな。

 

 そういや前、フジキセキさんから親父とその親友の話を聞いたことがあるけど、確か親父とマックイーンさんは1歳差だったはず。

 歳上なのは親父のほうだって聞いてるけど、これ、完全に尻に敷かれてやがるよ。

 

 えぇ、とドン引きしていると、親父がキッ、と俺を睨んだ。

 

『俺は尻に敷かれてるんじゃねえ! 親友の優しさに感動してるだけだバーカッ!!』

 

 なんだとぉ!!

 

『バカって言ったヤツがバカなんだよあんぽんたんっ!! おひたし!!!!』

『サンジェニュインくん、いくらなんでも語彙力が雑魚すぎないっスか?』

『サンデーさんならもっと醜悪な悪口のひとつやふたつ、ぶちかましてるで、絶対』

 

 おだまりラインクラフトちゃん!!

 あとマックイーンさん!!

 さっきまでピリピリだった俺の親父の戦闘モードがゴリゴリ削られてっから!!

 気ぃ抜けてきてるからッ!!

 

『だいたい、サンジェニュインくんは口喧嘩に向いてないんスよ。まわりがふわふわした牡馬どもばっかりだったから』

『そんなことない。レスバならヴァーミリアンと磨いた』

『そのヴァーミリアンくんだってなんだかんだってお坊ちゃん育ちっスよ? 喧嘩になったって下卑たことは言ってこないし、脚だって出されたことないでしょ』

『ぐぬぬ……性癖の圧はめっちゃ掛けられた!!!!』

『けど言葉選びはフワッフワだったんじゃないスか?』

 

 そう言われてヴァーミリアンとの会話を思い出してみる。

 初めて会ったときは確か──。

 

【ケッ、ニコニコ笑ってんじゃねえぞ、この可愛い子ちゃんが! いくら馬体が最高にセクシーでキュートな瞳してるからって俺様は負けねえからな!!】

 

 ……まあ、ここまではセーフか?

 普通に嫌味っぽい感じで。

 ケッ、とか言ってるし。

 

【レースとなりゃそのプリティフェイスが多少はクールガイなツラに変わってるかもしれねえが、おキレーなままじゃ勝てねえレースもあるんだよ】

 

 ……結構ディスられてる、よな、うん、ウン?

 

【そのふわふわでスリスリしたくなるような真っ白な身体を汚されたくなかったらとっととおうちに帰ってママのおっぱいでも吸ってな! 観光牧場で手厚く世話されながらたんまりにんじんもらってる方がお似合いだぜ! ッハハハ!!】

 

 あばばば!!

 結構ふわふわな言葉選びだ!!!!

 声の低さと勢いと形相に押されがちだったけど、よく考えたらアイツ初っ端からふわっした罵倒しかしてねえな!!

 

『ね? 喧嘩するにしても互いの言葉選びがふわふわなんスから、向いてないの、サンジェニュインくんには』

『そ、そんな……俺は格好良く口撃してたつもりなのに……!?』

『今回もおじいちゃん手加減してくれてるんスよ、たぶん。ねえ、マックイーンさん?』

 

 クラフトちゃんの言葉にマックイーンさんが頷いた。

 

『西海岸の雑草魂詰め合わせパックみたいなもんやからなあ、サンデーさんは』

『……マックイーン、それディス?』

『アホ抜かせ、褒めてんねん』

『なら良いや!』

『なぁ、こういう素直さもあるんで悪い馬でもない。ちょっとばかし罵詈雑言に精通してて脚も歯もすぐ出るだけや、安心せえ』

『全然安心出来なく無い? マックイーンさんの感覚バグってね?? ……後ろでドヤ顔してる親父腹立つーッ!!』

 

 ちょっとこれマックイーンさん天然入ってるんじゃ無いかなあ。

 それかとんでもない修羅育ちかの二択だわ。

 俺のケツ噛んだ親父を見てもなお『安心せえ』言ってくるのはレベチだろ。

 そういや、フジキセキさんが親父たちはSSSでであってからそこそこ長く一緒だった、なんなら親父が死ぬまでずっと一緒だった、みたいなこと言ってたな。

 マックイーンさんが親父のヤバさに感化された可能性もある。うん、あるな。

 

 そうやって俺がうんうんと頷いていると、親父が思わずといったように笑って、それから口を開いた。

 

『出会った頃からマックイーンは自由だったし、あいつが吹かす風はいつだって自由そのものだった。俺に影響されるまでも無い、どころか、影響なんかされるもんか』

 

 自由とはメジロマックイーンを指した。

 少なくとも、親父、サンデーサイレンスの中では揺るぎなく、確固たる事実だ。

 

 その堂々たる立ち居振る舞い。

 なんびとも彼の進む先を阻むことならず、損なうことまかり成らず、おのれをおのれと主張し続ける生き方。

 愛されることに慣れている。

 されど驕り高ぶる事なく、期待を無為にはしない。

 愛された者特有の尊大さは、本来ならサンデーサイレンスの好むところでは無かった。

 むしろ嫌いだ。

 その満ち足りた半生を写し込んだような態度に、かつて競い合った赤毛を嫌でも想起させる。

 当然威嚇もした、怒鳴りもした、考え得る限りの罵詈雑言を浴びせ、辛く当たったりもしたのに。

 

  ── あの憎たらしい赤毛なら、きっと言い返してきただろう。

 

 だが、遠き異国の地で気を張るサンデーサイレンスの精一杯の虚勢など切り捨てて、メジロマックイーンはどこまでもメジロマックイーンだった。

 他者の影響などその命に障り無い、と言外に伝えてくる、強烈なまでの自負!

 今まで見たこともないその強さに、サンデーサイレンスは焦がれた。

 どこにこんな感情があったのかと驚くほど、求め、欲し、仰ぎ見た。

 その目を輝かせるのは、間違いなくメジロマックイーンへの【情景】だった。

 

 憧れている。好いている。特別に感じている。

 1つ下の、血統も毛色も脚質も、戦場だって違うし生まれ育った環境も違う、その牡馬が。

 母国から離れ、知る者もいない大地で、唯一心を預けるに値する相手なのだ。

 他の馬はいらなかった。

 メジロマックイーンがサンデーサイレンスの心を持ってくれていれば十分だったから。

 彼がそれを持ってくれている間は、サンデーサイレンスも自由の風を吹かせている、そんな気になれた。

 

 言うだけ言って親父は、遠くを見るような、いや、眩しいものを見るような顔をしていた。

 視線の向く先には、この状態にすっかり飽きてしまったのか、マックイーンさんが草を食んでいる。

 自由の風とは言っても、いくらなんでもマイペースすぎるだろ。

 そう思ったけど、俺は突っ込む気にもなれず『あっそぉ……』と気の抜けた言葉だけを返した。

 

 そのどうしようもないほど真っ直ぐな友情に、俺も身に覚えがあったので。

 

『……そういや、おじいちゃんたちは何しにこっち来たんスか?』

『そうそうそれそれそれ!! すっかり脱線したけど話の本線はこれだろ!! 何しに来たんだあんたら!?』

 

 気まずい空気を打ち消すように口を開いたクラフトちゃんに痺れる。

 さすが俺たちのラインクラフトちゃんだぜ!!

 

『何って、あー……』

 

 一方の親父は煮え切らない様子でチラチラとマックイーンさんを見ていた。

 が、マックイーンさんも一度目線を合わせただけで肩を竦ませる。

 お前の口から言えよって感じだ。

 それでも親父がもごもごと口ごもるもんで、呆れたようにマックイーンさんが話し出した。

 

『サンデーさんな、息子が早逝してこっちに渡ってきたって噂聞いたもんで、ずっとそわそわしててん』

『マックイーン!』

『アンタが自分で言わんと俺が言うハメになってんけど』

 

 マックイーンさんに睨み付けられ、親父はぐっと押し黙った。

 

『自分らもそこそこ生きたし、こっちに子供がいるのなんて今更だけど、それでもまあ、やっぱり気になる。……俺の仔、走り抜いた仔、ただ産まれただけの仔』

 

 もう痛いくないか、辛くないか。

 その最期がどんな終わり方だとしても、一度も会った事の無い産駒だとしても。

 何のしがらみも無いこの場所に辿り着いた仔が、ちゃんと立っているところが見たいと望む。

 それが親心なのだと、他馬よりも白っぽい葦毛を風になびかせながら、マックイーンさんは言った。

 そして──。

 

『仔よ、よくぞここまで駆けて来たと、褒めてやりたい気もすんねん』

 

 ニヤリ、マックイーンさんが笑う。

 親父は眉間に皺を寄せたまま、ハーッとどでかいため息を吐いた。

 真横のクラフトちゃんは『そういや自分も言われたっスね』とか言ってるけど、それもまともに耳に入らない。

 ただ小さな呼吸音を鳴らす親父が、忌々しそうに、どこか諦めたように口を開くのを、じっと待っていた。

 

『……駆け足にもほどがあんだろ、ばか息子』

 

  ── ああ、親父は本当に、素直じゃないらしい。

 

 早逝して悲しい、って、そんな気持ちを零すだけで、こんなに遠回りをして。

 怒鳴りつけられたのは嫌だし、ケツ噛まれたのだって許してないし、性格はきっと合わないんだろうけど。

 けど、今、すごくよく分かる。

 

 この馬が俺の父親なんだ。

 この馬の血が全身の半分を満たしていた。

 この馬の仔として産まれ、駆け、立ち止まり、そして散る。

 

 いつだったか目黒さんが言っていた。

 競馬において、親の価値を証明できるのは仔だけなのだ、と。

 現役時代、鮮烈なまでの輝きを放ち、その光でヒトを魅了し、遠く異国で種牡馬として望まれた馬。

 その馬が親としてどれほど優れていたか、既に何十頭、何百頭もの産駒たちが示している。

 俺は、その1頭になれただろうか。

 サンデーサイレンスが命を削って繋ぐだけの価値を、俺は、この馬に魅せることができたのだろうか。

 よく分からないけれど、ひとつだけわかることがある。

 

 俺もいつか、親父と同じ目で、俺の仔を迎える事になるのだろう。

 

 願わくばそれはずっとずっと先の、遠い未来であってほしいと思うのだ。

 老い、朽ちて、その後で迎えよう。

 仔よ、よくぞここまで駆けて来た、と。

 涙の膜を張り、揺らし、それでも目を逸らすことなく。

 

 俺もきっと、言うから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  ── 4年後。

 

『ここ、は……? え、あなたは……まさか、親父殿……?』

『あ"あ"あ"あ"!?!? 来るのが早ぇよばかぁぁああああ!!!!』

 

 最初で最期の世代から早々に渡ってきた産駒を見て俺が大泣きするのは、また別の話。

 

 

 




性格が似てるようで生まれ育ちの環境が違うので反発しあっちゃう親仔
もしSSさんが自己証明と運命への挑戦を掲げて走っていたのなら、サンジェは人間が自分を愛したのは間違いじゃ無かったことを証明するために走っていた
なので本当に前提が違う2頭だけど、特定の人間に愛されてきたという経緯は近しい部分があるので共感する部分は普通にある
ただどっちも素直じゃないのですぐ喧嘩になる(確信)

サンデーサイレンスさん 牡 享年16
西海岸生まれ西海岸育ちの叩き上げ
虐待されてたり病気になったり事故に遭ったりと壮絶な生い立ちだが、人間すべてを憎んでるとかそういう事情は無く、むしろ自分のために奔走してきた人間の事は好き
博く愛するタイプというよりは、特定の誰かにクソデカハートを預けるタイプ
もう少し時間があったら某赤毛馬とも打ち解けたかも知れないがそうはならなかった
頑固で『自分』というモノをブレず掲げているメジロマックイーンに「自分には無いもの、求めているが手に入らなかったもの」を見つけ、以降自分のクソデカハートをマックイーン口座に全部預けた

メジロマックイーンさん 牡 享年19
メジロにメジロを重ねたTHE・メジロの馬
天皇賞馬の父と祖父を持ち、生まれた瞬間から「そうあれかし」と望まれてきた自己肯定感激強ホース
俺は俺!! お前はお前!! 好きにせえ俺の命に障らんかぎり!!!!
どちらかと言えばサンジェニュインとの方がスタンスは近いが騎手トークではいつも「ゲェッ!!ハジメェ!?」と言って逃げる
サンデーサイレンスを始めクセ強牡馬に好かれる傾向アリ
種牡馬時代はなかなか結果を残せなかったものの、サンジェから「マックイーンさんの孫、GⅠ勝ってましたよ(ドリームジャーニー)」と言われ周囲がビビるほど喜ぶ
一応自分が年下ということで他馬の前では「サンデーさん」と呼んでるが2頭きりの時は呼び捨てがデフォ

ラインクラフトちゃん 牝 享年4
口喧嘩とねっこレベルなサンジェを世話してくれる最高のフレンズにして姐さん
暇な時はサンジェと一緒にひなたぼっこをしてくれる
も~仕方ないっスねサンジェニュインくんは、でだいたい手伝ってくれるからサンジェはクラフトちゃんが変な輩に絡まれないか心配
なんだかんだで相手してくれるのはサンジェだからなので無問題
最近、父馬エンドスウィープさんにサンジェとの仲を勘違いされてるのが悩み

タイヨウマツリカ 牡 享年3
日本ダービーハナ差1cm2着と滅茶苦茶惜しいレースの直後に落馬し虹の橋を渡ってきた
こっちに来た産駒最速の1頭目
出会い頭サンジェに大泣きされるわ事情を説明したらさらに大泣きされるわで大変だった

サンジェニュイン 牡 享年5
俺たちのウッマ
口喧嘩の時の語彙力、罵詈雑言レベルはとねっこ以下
なんだかんだいって周りみんなお坊ちゃんとお嬢様しかいなかったタイプ
この後親父さんの本気の罵倒を聞いて泣く
まさかカネヒキリくんよりも先に産駒に会うことになるとは思わずこちらでも泣く
カネヒキリくんが想定よりも早くこっちにやって来てこれでも泣く



先月ヴァーミリアン号が虹の橋を渡り、その事実もまだ受け入れられていないのに、今月はデルタブルース号が橋を渡ってしまった。
悲しいことが続くけど、虹の向こう側では馬たちは楽しく過ごしているんだと思うことで日々を慰めてる。
全馬、長生きしてくれ……!!

第◇回サンジェニュインのお嫁さんレース(敬称略)

  • エアグルーヴ
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  • ウオッカ
  • カレンチャン
  • 海外牝馬組
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