美貌バいろいろ   作:SunGenuin(佐藤)

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以前一時的に公開していた正月SSのリメイク版です。
馬がめちゃくちゃ喋ります。
あんまり深く考えずにノリで読んでください!!!!

※本編ではノータンファームやノータンホースパークとしていた箇所を『ホクミー』に統一します


【馬】2016年の正月

時は2016年1月1日。

場所は社来スタリオンステーション ── を基盤にした謎空間。

 

そう、謎空間だ。

現役競走馬を含めてだいたい200頭くらいが駆け回ってもまだ余裕がある大草原。

白と栗毛、鹿毛、あとちょっとの黒鹿毛と青鹿毛が入り交じる今日は正月である。

 

なに? 馬が正月に集まるわけないだろって?

集まってるやろがい!

 

そもそもどういう仕組みなのか?

謎空間ってなんだ?

死は救済か否か?

 

……うん、深く考えるな、感じろ。

 

『親父ぃ! 予定頭数は集まったっぽい』

『今年種牡馬入りした仔たちも確認しました……!』

『おお、ありがとうな2頭とも! いやあ、ここまで頭数が増えるとさすがに俺だけじゃ数えきれなくってさあ……助かったぜ、サニーメロンソーダ、サンサンドリーマー!』

 

参加者を確認して回っていた産駒にそう言葉を返すと、サンサンドリーマーは照れ臭そうに、サニーメロンソーダは得意げに笑った。

 

2頭とも俺の初年度産駒で、どちらも2013年に種牡馬入り。

といっても、サンサンドリーマーは途中から乗馬に用途変更となり、今はホクミーホースパークで生活している。わずか3年で種牡馬引退は早くない? と思うだろうが、120頭付けて10頭のみ受胎、その後流産が相次いで産駒ゼロ、という悲惨な結果を思えば致し方ない。

あんまりにもヤバいと思ったヒトたちが検査をした結果、どうもこの仔は精子が不安定なタイプだったようだ。種牡馬入りするための種付け検査では問題なしだったが、馬体が変わっちゃったんだろうか。

種牡馬は向いてなかったと言うことで、同じ社来系列のホースパークで乗馬として元気に活躍している。

元々ヒト好きな仔だし、人間たちに可愛がられてにんじんクッキーもらう今の生活が気に入ってるようだ。

父ちゃんは仔が楽しいセカンドライフ送っててニッコリです。

 

対してサニーメロンソーダの方はというと。

こっちは精子異常もなく種牡馬入りし、俺と同じところ、つまりは社来スタリオンステーションで繋養されている。元は俺とカネヒキリくんしかいなかった専用厩舎に新たに加わった仲間だ。

ふつうはメイン厩舎に馬房が割り当てられるもんなんだが、俺は特性が特性なので、大変申し訳ないことに専用の厩舎を建てて貰っている。建設にはオイルマネーが動いたとかどうとか言われてるのを聞いたことがあるが、きっとスタッフたちのおもしろおかしい噂話だろう、うん。俺、石油王の知り合いとかいないし。

最初は1頭だけでこの広い厩舎を自由に使うのはどうか、とも思ったんだけど、いつか種牡馬入りしてくれるだろう俺の産駒も使用する事前提の間取りだそうで、こうして無事サニーメロンソーダが入ってきたわけだ。

現役時代の暴れっぷりは繁殖にも反映されるようで、少々やんちゃな仕事ぶりで時々人間を困らせることもあるようだが、順調に仔をなしている。何事もなけりゃ今年の6月、各地の競馬場で初年度産駒がデビューするだろう。

いやあ俺もおじいちゃんなんて感慨深いよなぁ……前世人間だったときなんて性交経験ゼロの童貞でしたからね。まあ仕方ないんだけど。欲を発散するより先に金稼ぎが必須なんで……!

 

ところで俺らの専用厩舎。

マジのマジで俺と俺の仔用の厩舎なんで、本当はカネヒキリくんの同居は認められてなかった。

でもトモダチとセカンドライフ送るのも楽しみのひとつだった俺の盛大な駄々こねにより、なんとか一緒に暮らせてる。こねてみるもんだよなあ駄々ってのはよ。

たまに「もうメンタル強くなったしカネヒキリ移動させるか」という慈悲もねえスタッフがいるので、定期的にカネヒキリくんにひっついて『トモダチいないとやーやーなの!』アピールしてる。

カネヒキリくんも同世代のオッスたる俺のそんな姿なんぞ見たくなかっただろうな。

たまに白目むいて気絶してる時あるし……確かに2桁歳の、それも仔持ちにすらなった今としてはキッツイアピールに違いないが、俺はトモダチと楽しい種牡馬ライフを送るためなら恥も外聞も捨てられる馬だからよ……そこらへん覚悟してくれよな!!

 

っと、話が逸れてしまったが。

俺と俺の仔withカネヒキリくんの専用厩舎は、今年から新たに1頭、仲間が増えている。

それが先ほどからこちらを伺っている白毛の馬 ── まあここにいるのほぼ白毛だけどな! 俺の仔大集合してるんでね! でも、その産駒たちの中でも、この仔と会うのは、それも直接会うのは今回が初めてなわけでして。

種牡馬入り自体は去年だったんだけど、実はこの仔、俺らの専用厩舎ではなく他馬同様にメイン厩舎に馬房を貰っていた。白毛に同性モテ要素は完全に俺からの遺伝だったんだが、どうにも冷静な仔だったようで、集団生活にも溶け込めるだろう、みたいな理由らしい。

あとはおトモダチだとかいう馬が同じタイミングで種牡馬入りしたのも大きいんだろうな。

馬房は隣同士なんだって。現役時代から仲良しだったみたいだから、そのトモダチといれば乗り越えられるっていうならそりゃメイン厩舎に入れられるか。

けど今年になって馬の管理方法が変わったのか、俺の産駒は全頭専用厩舎暮らしに決まった。

その影響でトモダチと離れてお引っ越ししてきたのが去年12月の事だ。

まあ12月って来期の繁殖準備とか出産準備とかもあってバチクソ忙しい時期なので、馬房の準備が中心で馬自体が移動してきたのは今日なんだけどな!

正月に間に合ってくれて父ちゃんは本当に嬉しいです。

 

『なあ、もっとこっちに寄ってくれ! 父ちゃんにその顔を見せてくれないか、シルバータイム』

『は、はい、()()()……!』

 

緊張がモロに声色に現われている。……恥ずかしがり屋なタイプなのか?

引っ越しを心待ちにしてきた俺の仔。銀の時間、を冠した彼は俺の2年目産駒。

シルバータイムが産まれた2009年、俺は欧州での種付けが中心でかつ2010年までぶっ通しでフランス滞在だったが為に、実はこの年に生まれた仔たちとは一切の面識がなかった。

2008年に初年度が産まれた時は逆で、仔が離乳して当歳馬だけの集団放牧期間に移行するやいなやすぐに面通しされたのに。

そもそも俺の仔の多くは社来系列の牧場で産まれるため、結構会うのが簡単っていうのもある。種牡馬としての仕事場である社来スタリオンステーション ── 通称・SSSもそうだが、俺が生まれ育った社来ファーム・陽来(あききた)、カネヒキリくんやディープインパクトたちが産まれたホクミーファームに、俺の所属クラブであるサイレンスレーシングクラブも、所謂『社来系』の括りに入る。

グループ企業みたいなものと言えば分かりやすいだろうか?

だもんで会いやすい。割と近所だったりもするし。

 

種付けシーズン以外はぶっちゃけ暇で、もう暇で暇で無気力になってた俺の為に、現在の担当スタッフである目黒さんの甥っ子・リキが気を利かせてよく会わせてくれた。

小頭数ではあったけど、何頭かの仔らとは同じ放牧地にも入れて貰ったっけな……本当はダメなんだけどな。

仔馬ってちょっとしたことでもすぐに病気になるらしいし、怪我もしやすいし、大人馬である俺とはたとえ血の繋がった親仔でも本当は一緒に暮らせない。あと俺が仔馬に怪我させられる可能性も考えるとちょっとね。これでも年間億稼いでるタイプのウッマなので……。

けどまあ、ほら、俺ってば中身が人間だったからな。

そんじょそこらの馬とはわけがちげえのだ。

俺の圧倒的大人しさと聞き分けの良さに『まあサンジェだしな』みたいな雰囲気になってなあなあで許されてきた。といってもスタッフ数名の監視付きだし、一緒に遊べるのは1日に最大2時間までの制約付きだったが。

それでも一緒にゴロゴロしたり、かけっこしたり、草食ったり……憧れてた親仔のふれあいもできて俺は大満足です。

 

それにしても種付けシーズンとの落差が酷くて酷くて。天と地だよ。

どっちが天って……そんなん仔と戯れる方に決まってるだろ常識的に考えて。

種牡馬は男の夢とか抜かす輩もいるが、そいつは日に4回もハッスルさせられる生活を半年ぶっ続けにやって見ろってんだ。アハンウフンと思えるのも最初の2日までやぞ。

日々仕事しては飯食って仕事しては飯食って仕事しては小休憩挟んでの仕事。

忙しいったらありゃしない。とんだ社畜ですよ。揶揄でなくマジで。

俺の腰もそうだと言ってるし、同じ目にあってるディープインパクトの腰も絶対そうだと言ってる。

じゃあシーズンオフが来たら嬉しいかって、それはそれで微妙なんだよな。

だってマジで暇。社畜の裏返しでそう感じるとかの次元じゃない、本当に暇。暇すぎるあまり隣の放牧地に放たれてるディープインパクトと互いが瞬きする回数数えてたくらい。アイツ5分くらい余裕で目ぇかっぴらいてたんだけどおかしくない??

ドライアイになるよ絶対。

 

『お、お父様……?』

 

っと、仕事の愚痴っぽくなってしまったが、初年度が生まれた2008年はともかく、まあそういった諸々の事情で2009年生まれのシルバータイムたちとは今日で初対面ってことだ。シルバータイム以外にも初対面の産駒の方が遙かに多いけどな。

俺は毎年200頭近くの牝馬とお仕事しているわけだし。受胎率も安定して9割くらいだって目黒さんも言っていたから、例年それなりの数の仔がこの世に爆誕してるってわけ。

その全頭と必ず会えるわけではないので、幼少期を共に過ごしたサンサンドリーマー達の方がむしろ珍しいパターンなのかもしれないな。カネヒキリくんやディープインパクトだと一切会ってないのが普通だって言ってたし。

 

だから嬉しいと思う。

こうして会えること。俺の元に辿り着いてくれたこと。

顔を見てようやく、その軌跡を知ることができる。

 

『シルバータイム、もっとお父ちゃんの近くにおいで。ほら、ちゃんと顔を見せて』

 

俺がそう呼ぶと、シルバータイムは1度大きく身体を震わせてから、恐る恐る、というように近づいてきた。

側には青草を頬張ったアオが居て、進み出たシルバータイムに連れ添うように歩き出す。夜を思わせるような艶やかな青鹿毛が特徴的なこの仔も、今日が初対面だ。

ただ、アオはユートピアさんのように現役中に金銭トレードされてフランスに渡り、今はむこうでブイブイ言わせているんだそう。先月会いに来てくれた芝木くんがそう言ってた。

目黒さんが買ってくれたテレビには国内のレースしか映らないし、海外レースでも日本調教馬が出走している、それもGⅠ級のレースにならないと映してくれないので実際のレースは見れていないけど。

年末のグリチャで配信されてたその年の競馬まとめに、欧州で活躍する日本馬の一覧にアオの名前が載っていた。どうやら向こうのGⅠレースで勝ったようなので、元気にやれているのは間違いないだろう。こうして目の前でのんきに青草食んでる姿からもそれが見て取れた。

 

俺が微笑ましそうに見ていると、ようやく近くまでやってきたシルバータイムが口を開いた。

 

『は、はい! シルバータイムであります、お父様!』

 

ちょっと裏返った声が草原に広がる。

俺の後ろに控えていたサニーメロンソーダが『そんなに緊張するか? この親父相手に』とか言ってたが、お前はお前で俺を舐めすぎだよ……!

初年度勢にはジト目を向けつつ、俺はシルバータイムの緊張をほぐそうとできるだけ気の抜けた笑顔を見せた。そう緊張すんなよ、と、そう言おうとも思っていたが、その前にアオが顔を上げた。

 

『お前さあ、なんで父ちゃん相手にビビってんだ? そもそもなんでお前から挨拶にいかないんだ? なんで父ちゃんから挨拶してもらってんだ? なんで気遣われてるんだ? なんで落ち着きがないんだ? なんで毛がくるんってハネてるんだ? あとなんで体臭がキツいんだ?』

『あーもーうるっせェぞ!! ……って、え、えっ? く、くさい? 俺くさいの? マジで?』

『まあ嘘なんだが』

『オイィ!!』

 

あっ、うーん……名前の元ネタが透けて見えるようなやつだな。

ちなみにシルバータイムの方な。既視感あるツッコミだな……。

 

シルバータイムの競走馬名の元ネタは某お江戸宇宙漫画の主人公らしいのだが、この仔のちょっとクセのある鬣は、まあ天パっぽいと言えば天パなのか?

馬に天パの概念があるかはわからないが。

名は体を表すと言うけどここまで沿わんでも……もはや呪いじゃね?

俺は苦笑しつつ、言い争う2頭の間に割って入った。

 

『正月早々喧嘩はやめろよなお前たち。シルバータイム、お前はそう緊張するなって! 俺のことも父ちゃんでいいよ、こっちの産駒たちはみんなそう呼ぶし。な? ……改めて、シルバータイム、ようこそ社来スタリオンステーションへ。父ちゃんはお前に会えて嬉しい。もちろんアオにもだ。ヨーロッパで上手くやれてるか?』

『愚問だ父ちゃん。俺は真面目に仕事を熟している、舐めないでもらいたい』

 

フン、と鼻を鳴らすところはちょっと俺に似て無くもない。口の端に青草ついてるけどな。

青鹿毛の馬体は、色だけならシーザリオちゃんにちょっと似ているな。

そういえばアオの母馬はメジロの系譜だったような……スタッフたちは俺にいちいちお相手牝馬の血統を紹介してくれないので詳細は知らないんだが、確か目黒さんがそんなことを言ってた気がする。

牝系に見事な青鹿毛の馬がいたのでそれが遺伝したのだろう、と。

つやつやの毛色に加え、鼻先までまっすぐと伸びた流星まで持ってて、親の贔屓目なしにも十分イケメンホースと呼べるのでは?

俺は訝しんだが、アオの発言を聞いてギョッとしたようにシルバータイムが大声を出した。

 

『お、おおお前! 偉大なる父に向かって何言ってんだ!? しょっ引かれるぞ!!』

『誰にだよ』

『誰かは知らんがたぶんお父様に下手なことしたらしょっ引いてくるやつの10頭や20頭いるに違いない!!!!』

『いやいねえよ!?!?』

 

俺の身の回りの馬をなんだと思ってるんだシルバータイム。

年下相手に、ましてや俺と血の繋がった我が子のふてぶてしい一言でカッカするような、そんな蛮族はいませんよ。

 

『お前らの年頃ならアオくらいの気安さでいいんだって。畏まられるよりもな。……それより、シルバータイムはトモダチと離れて寂しくない? 大丈夫?』

 

種牡馬入りしてからの1年、メイン厩舎でシルバータイムと共に暮らしていたのは、馬主も同じ、所属厩舎も同じだったハーツクライさん()の孝行息子・ジャスタウェイくん。

これまた元ネタが某お江戸宇宙漫画の爆弾らしいのだが、英語表だと「その道」っていう格好良い意味になると聞いて嫉妬した。

うちの仔なんてシンプルに「銀の時」なんだが。ドストレートにも程があるでしょうが。

もうちょっとこう、ひねることはできなかったんすか?

ちなみにシルバータイムはこのジャスタウェイだけでなく、ウマ娘でダントツの知名度を誇るシロイアレ ── ゴールドシップとも所属厩舎が一緒だった。

凱旋門賞でゴールドシップの手綱を銜えて出てきたときはたまげたよなあ。

まあ俺がいちばんたまげたのはクラシック三冠のすべてで息子がゴールドシップに追いかけ回されてたことなんスけどね!

 

と、俺が懐かしさに目を細めていると、ちょっと戸惑ったようにシルバータイムが口を開いた。

 

『じゃ、ジャスタウェイとは放牧地が隣ですので、特には。……むしろじっと見つめられることがなくなるので、そこら辺はちょっとホッとしてます』

『じっと見つめ……アッ……』

 

俺と同じ白毛の産駒は、俺と同じく同性馬にケツを追われやすい。

牡馬なら牡馬に、牝馬なら牝馬と牡馬に、って具合にな!

産駒たちにとんでもないものを遺伝させてしまい、非常に申し訳ないと思っている。

特に白毛に産まれた娘たち……逃げ場がセン馬のニキネキだけという極めてハードな戦場に送り出しちゃって本当にごめんよ。

ただこればっかりは俺にはどうしようもないんだよなあ!

ごめんな、マジで。マジでごめんて。

でもよかったよ、視線がないだけで楽になるのは俺もわかるし。

俺もたまにはカネヒキリくんの視線フリーで過ごしたい日もあったからな。あれすげえから、視線が質量持ってるから絶対。今となっては慣れちゃったのでいくら見られてもストレスにならんくなったが。

まあなんだ、シルバータイムよ……うちの厩舎でのんびり楽しくすごせ!

 

『おや ── こちらにいらっしゃったのですね、お父様』

『ん? ……おお、サニファ! 1年ぶりだなあ! 元気だったか?』

 

ひょい、と真横から現れた俺と同じくらい大きな白毛馬、こちらも俺の産駒である。

名はサニーファンタスティック。

既定9文字超えの馬名で分るとおり、俺が欧州に残した産駒の1頭だ。

名前が長いのと、俺の仔にはサニーって付いた名前がすん、……っごい多いので、区別するためにもサニファって愛称で呼んでいる。ちなみにサニーメロンソーダの愛称はサニメロ、またはメロ。

2007年に欧州での種付けのために渡英した先でサニファの母と共に仕事をし、2008年に誕生。つまりは初年度勢だ。

顔つきや馬体、馬格が俺にそっくりで、まるでクローンだと競馬関係者やネットで話題になったこともあるこの馬は、中身は「本当に俺の仔か?」と思うくらい賢くて、中にヒトが入ってるんじゃないかって今も考えている。

実際に中にヒトが入ってるのは俺なわけだが!!

あと戦績もめちゃくちゃスゲー!

なんとサニファ、41年ぶり、至上初の白毛馬による英国三冠を達成している。

父である俺よりもバチバチにすごいオッス馬なのだ。

初めて聞いた時は「ファッ!? 三冠!? 俺の産駒から!?」ってびっくりして倒れそうだったぜまったく。

3歳にして華々しい戦績を積み上げてくれたサニファは、長くても4歳くらいでスッパリ引退してしまう欧州の馬にしては長く、5歳まで現役を続けてくれた後に堂々の種牡馬入り。

俺のヨーロッパでの繋養地であるグラハムホールスタッドにて仕事中だ。

去年サニファの初年度が生まれ、来年には続々とデビューしていくのだろう。

サニメロの仔が産まれた時もそうだが、孫世代が増えるとますます年を取った気になってくるし、続々と血が繋がっていくってこういう感じなのかな、と。それがどれだけ難しい道程の果てにあるのか、いちばんよく知っていたあのこに話してあげたいなあ、とそう思って脳裏を過った鹿毛に意識を取られていると、サニファの言葉で現実に引き戻された。

 

『「元気」ですか……はい、僕は健康上に問題はありませんよ。お父様もご息災でお過ごしのようでなによりです。今年も明けの陽射しの中でお父様にお会いできて、これ以上の喜びはありません』

『うん、俺も会えてうれしいぞ! ……でも前も言ったけどもうちょっと砕けた話し方でいいんだけど』

『そんな! いくら父仔とはいえ……いえ、父仔だからこそ、孤高にして至高、偉大なる父を相手に無礼な物言いなどできません。例えば、そう、 ── そこの礼儀を弁えない青鹿毛のように』

『ゲッ』

 

サニファが冷たい言葉と共に視線を向けた先で、アオは「しまった」という顔をしていた。

それに対してクソデカため息をついたサニファが、誰に似たのか、いや俺に似たんだな、素晴らしい瞬発力を発揮してアオの近くまで走った。

う~~ん、この力強さがスタートダッシュに活きるんだよなあ。

 

『貴様、あれほどお父様の前では礼儀正しくあれと言い聞かせたというのに、なんださっきの物言いは!』

『はぁ……ダル……父ちゃんが砕けた話し方でいいって言った』

『愚か者が! あれはお父様なりの緊張をほぐす方法であってその通りにしても良いという意味ではないわこのたわけが!』

『いやその通りにして良いって意味なんだが!?!?』

 

父ちゃんの言葉を曲解するのはやめなさい!! と叱りつける。

サニファってば母馬から一体何を聞かされたのか、俺に懐く傾向にある産駒たちの中でも頭ひとつ、いやふたつ、ごめん3つくらい抜けて俺のことを慕ってくれてる。

慕ってるって言う言葉で済まない発言をしてくることもまああるんだが、その発言の根元にあるのは「ぼくのパパはパイロットなんだぞすごいだろ」みたいな感情だから、やめろとも言えないんだよな。

こどもにとって自慢の父で在れることは俺にとっても嬉しいし。

ただ発言内容のトゲトゲしさがね……。やりすぎなときは当然注意する。

例えば今みたいなのはやりすぎだ。

 

『サニファ、今日は正月だぞ。父ちゃんの為を思って口を挟んでくれたんだよな、うん、わかってる、父ちゃんもそれは解ってるんだけど、1年の始まりから喧嘩はみたくねえなって』

『お父様……』

『本当に俺は気にしてないんだよ。な? むしろ砕けた、砕け散ったってくらいの口調でいいんだよ。もちろんお前もな、サニファ』

 

俺が覗き込むようにしてそう言うと、サニファは少し考える素振りを見せた。

 

『お父様がそうおっしゃられるのであれば……後継たるこのサニーファンタスティックに異議はありません。お父様の意向に従います』

 

渋々、と完全に納得はしていないようだが、それでも俺の言葉を飲み込んでくれたサニファが引き下がると、アオがこれ見よがしにテンション高く頭を振った。

どうして煽っちゃうかなあこの仔は!!!!

 

『やっぱり懲らしめてきていいですか?』

『ステイステイ! やるなら正月終わってからにして!』

 

俺の産駒たちは愉快な仔が多いぜまったく。

俺はいたって平凡なウッマだったというのに。

どこかで血の大爆発でも起きたんか?

 

 

『 ── サンジェニュイン』

『俺の親父が気性難だって言うし案外そっちの隔世遺伝……って、おお!! カネヒキリくん!! マイフェイバリットフレンズのカネヒキリくんじゃないか!! どうよ、そっちの仔らは揃った?』

『……ああ』

 

父馬サンデーサイレンスか母馬ピュアレディーかどっちの血が爆発したか考えていると、さっきまでいなかったカネヒキリくんが戻ってきていた。

カネヒキリくんが不在だったのは、彼の産駒たちを迎えに行っていたから。

で、なんでカネヒキリくんが産駒たちを迎えに行っていたかと言えば、「今年の正月は俺とカネヒキリくん、そしてそれぞれの産駒たちと一緒に集まることにしたから」だ。

せっかくカネヒキリくんの初年度産駒もクラシックシーズンを終えたんだし、合同でやろうぜ、と俺が頼み込んで連れてきて貰った。

カネヒキリくんは相当渋ってたなあ。

若い内に目を焼かれるのは云々かんぬん……声が小さすぎて聞き取れなかったんだけど、何度か頼んだらOK貰えた。ちなみに、今回カネヒキリくんが連れてきてくれた産駒のほぼ8割が外国産。

なんでほぼ外国産なのかと言えば、俺もそうなんだが、国内より国外での仕事の方が多いんだよ。

その理由は、国内でサンデーサイレンス系の種牡馬が多すぎて配合相手が限られてしまう、ってのもあるし、俺の場合は現役時代の戦績から洋芝 ── 欧州向きの産駒を多く輩出しそうだったから。

イギリス、フランス、アイルランド、ドイツ、イタリア、あとアメリカとかいろいろ。

今回カネヒキリくんがつれてきてくれた産駒のうち外国馬なのは、2011年にカネヒキリくんが種牡馬入りした時に、国内での仕事を終えて早々に2頭そろって渡米した時に作った産駒たち。

カネヒキリくんによく似た栗毛のイケメンホースもいれば、鹿毛の仔、黒鹿毛、青鹿毛、青毛に白毛。

余談だけど、カネヒキリくん産駒に白毛がいるのは、俺の血が混ざっているから。

念のため言っておくが、俺とカネヒキリくんが夜の大レースを開いたわけではない、断じてない。

そんなこと起きたら生命の神秘すぎるだろ。

じゃあどうやってカネヒキリくんの産駒に俺の血が混ざったかと言うと、その母馬に俺の娘たちがいるからです。

 

いやあ、これを初めて聞かされたときは一瞬意識飛んだんだけど、馬産なんてそう言うものの連続だもんね、しゃーないよね。

カネヒキリくんの初仕事は2011年なのだが、実はこの時点で俺の初年度産駒の何頭かが未出走のまま繁殖入りしていた。未出走になった理由は様々だが、用途変更ではなく血を繋ぐ方に振り切ったってことは、その理由さえ無ければ走ることを確信していたからなのか……。

そこから数頭がカネヒキリくんの相手になっていたわけだ。

……でもその白毛はみんな日本生産馬だし、なんなら俺会ったことあるんだけど。

 

ん? じゃあこっち向かってくるあの白い馬はまさか ── ?

 

『 ── 俺の仔じゃねえか!』

『よお父上! 久しぶりだなぁ!!』

『ああうん、久しぶりだなシャトー、俺の娘。久しぶりなんだけど、カネヒキリくんとこの産駒たちになじみすぎじゃないか?父ちゃん、シャトーってカネヒキリくんの産駒だっけ?とか思っちゃったよ。っていうかなんでカネヒキリくんとこのご一行にお邪魔してるんだ』

『いやあ、それがさ、すっかりニューイヤーを忘れちまってて。伯父上が他のやつら迎えに来てたから便乗したんだ』

 

そう言って「ワハハ!!」と豪快に笑う目の前の白毛牝馬は、間違いなく俺の娘、シャイニングトップレディ。俺が付けた愛称はシャトー。ファンからはトプレって呼ばれてるらしい。

俺の初年度の1頭であり、産駒の中で最初にGⅠ勝ちをしてくれた仔でもあるし、初の三冠馬もこの仔だ。

……そう、俺の産駒で三冠馬になったのはサニファだけじゃない。サニファと同世代からもう1頭、しかもダートで三冠を達してくれたのがこのシャトーだ。

なんなら三冠達成はシャトーの方が先。ダートの、というかアメリカで三冠として指されるのはケンタッキーダービーを主とした砂レースで、夏前に短い間隔で開催される。

その都合上、本格的な夏を迎える前にシャトーは三つの優勝レイを首から提げる、最高の淑女へと登り詰めていた。

それもただの三冠馬じゃない。33年ぶり、史上初の牝馬としての三冠達成は、彼女に「歴史的名牝」という不動の地位をもたらした。

そんなシャトーは2012年に繁殖入りして、2013年には仔が産まれている。

確か去年デビューして、今年クラシックシーズンだって聞いたから楽しみだ。

グリチャで配信してくんねえかな……全レース見たいのに……。

 

あ、ちなみにシャトーをはじめ他の産駒たちもカネヒキリくんのことは「おいちゃん」とやら「おじさん」とやら呼んでいるが、同じ母馬のみ兄弟だとする競走馬界において、もちろんカネヒキリくんは俺の産駒たちの叔父ではないし、伯父でもない。

むしろ俺がカネヒキリくんの「叔父」だと言った方が近い。

……なに? カネヒキリくんの方が落ち着きがある? とてもじゃないが俺は叔父に見えない?

なんだとぉ!!!!

 

『そーいや父上、紹介したい馬がいるんだった。って言っても父上ならもう知ってるかもな』

『……ん? 俺が知ってる……?』

『名前だけは聞いたことあるんじゃないか? ……おーい、ハート!』

 

シャトーが大きな声を出すと、ひとかたまりになっていたカネヒキリくんの産駒たちの群れから1頭、栗毛の馬が飛び出した。

鮮やかな栗毛の馬体に金色の鬣が風に揺れている。

いわゆる「尾花栗毛」というやつだろうか。

そういや、カネヒキリくんの産駒で2015年のケンタッキーダービーとBCクラシックを勝った馬ってたしか、尾花栗毛だったような……?

 

『ってことはもしかして、この馬が、ハートオブイマジニン?』

『正解! なんだよ父上、やっぱり知ってたのかあ』

 

ハートオブイマジニン。

カネヒキリくんがアメリカに残してきた初年度産駒であり、2015年のケンタッキーダービー馬。

アメリカにおけるカネヒキリくんの代表産駒であり、今年もその活躍が期待されている名馬だ。

米国にサンデーサイレンスの血が帰ってきた! とかで話題になったらしいよ。

そうか、こんな顔だったんだ。

例によって海外のレースは俺の馬房前に設置されているテレビには映らないので、噂でしか知らなかった。

それにしても、カネヒキリくんにあんまり似てないな?

いや、顔つきだけはちょっと似てる、かも。

カネヒキリくんがムキムキマッチョだとしたら、ハートオブイマジニンは細マッチョって感じ。

まだ4歳だし、これからムキムキになるかもしれないけどな!

 

『初めまして、ハートオブイマジニン』

 

大きさは俺やカネヒキリくんと変わらないくらい。

だが相手は4歳馬なので、恐くないように努めて穏やかに話しかけた。

ん?相手が牡馬ならもっとケツを警戒すべき?

ばーろー、カネヒキリくんの産駒やぞ、警戒する必要あるか?

 

『……初めまして。ハートと呼んでください』

『おお、よろしくな、ハート』

 

一瞬、謎の間は開いたけど、ハートはハキハキとした声で返事をした。

うん、受け答えもしっかりしている。

俺が満足げにうんうんと頷き、いい仔だね、とカネヒキリくんに言うと、カネヒキリくんは「そうでもない」と返してきた。

カネヒキリくんは自分の産駒に対して辛口である。

だがせっかくなので、ハートにいろいろと質問してみることにした。

 

『ハートとシャトーは厩舎が一緒だったのか?』

『いや?あたしたち、そもそも年離れてるし』

 

2008年生まれのシャトーは今年で8歳。

ハートは2012年産まれなので、ざっと4歳くらい違う。

じゃあどこで出会ったんだと聞けば、生産牧場が同じで、ハートが産まれた年にシャトーが現役を引退して牧場に戻ってきたのだそう。

よく遊んで貰ったんですよ、と語るハートの声色は優しかった。

姉と弟、あるいは年の離れた幼馴染といったところか?

俺は微笑ましくなって思わず顔が緩んでしまった。

そもそも親である俺とカネヒキリくんもズッ友大親友なので、産駒たちが仲良しなのは最高に嬉しいんだよな。

これからも仲良くなあ、と口を開いたところで、ハートがニッコリと笑った、ように見えた。

 

『もちろん、末永く仲良くしますよ、お義父(とう)様』

『ッ貴様にお義父様と呼ばれる筋合いはない!!!!』

『カネヒキリくん!? たぶんそれ俺のセリフだと思うんだけど、カネヒキリくん!?』

 

ヒィン……──!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──……ジェ、サンジェニュイン」

「ひっひーん!?」

 

あっ!?

ちょ、リキィ!!

俺、まだお正月楽しんでたんですけど!

急に現実世界に戻さないで、向こう今頃パニックだぞ!?

 

「もうすぐ2日だってのに寝過ぎやぞ」

 

仕方ないだろ、謎空間に接続するには眠りが必須なんだよ。

現に隣の馬房のカネヒキリくんとサニーメロンソーダはぐっすりやろがい!

 

「よーしよし、やることやったらまた好きなだけ寝てええから、な?」

 

ん?やること?

えっ、俺、正月も仕事あるのか!?

正月なのに!?

正月も休ませてくれない仕事なんてある……あるあるある!!

あるねえ、正月もお盆もそんなの関係ねえ休ませねえ! ってなる仕事は世の中にたくさんあったわ。

あったからヒトの俺はあっさり過労死したわけだし。

 

『えぇ……でもさあ、馬になってまで正月に仕事とか……どうせあと1ヶ月したら種付けシーズンで腰がアーッ! しちゃうんだから休ませてくれよ』

 

っていうか俺の種付けスケジュールもっと減らせないか?

ディープインパクトもだけどさすがに1日4回もハッスルできねえ。

こう、隔日にするとか……1日2回までにするとか……そういう調整をですね。

 

「こらサン、頭振るなや、準備でけへんやん」

 

さっきから準備ってなにやってんだよ。

ん? それ鞍?

なんで鞍?

俺、もう現役引退したし鞍なんて。

 

「よぉし、完了! ……ほな、やりにいこか ── ひめはじめ」

 

ファッ!?




続きはサンジェのひめはじめにキレちらかしたカネヒキリくんがビリビリに破いたのでありません。
2017年からの正月にはカネヒキリくんの代わりに毎年ハートオブイマジニンが他の産駒たちを引き連れてサンジェに挨拶に来てくれます。


第◇回サンジェニュインのお嫁さんレース(敬称略)

  • エアグルーヴ
  • ハルウララ
  • ウオッカ
  • カレンチャン
  • 海外牝馬組
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