普通に1話7500文字を超えたので1話だけ収録です。
アンケート、サンジェニュインと配合したことある娘さんで組んでます。
エアグルーヴさんとハルウララちゃんのマッチレースみたいになっててちょっとフフッてなりました。
本編未登場のカレンチャンさんがウオッカさんより伸びてるのはサントゥナイトの影響かな?
③カネヒキリくんとフジキセキさんが並んでるところが大好きなサンジェニュインの話
「クッキーとケーキを焼いてきた。……サンジェニュイン、プレーンとココア、チョコチップと、こちらはキャロットケーキだ」
クッキーは50枚までだぞ、と続けたカネヒキリくんにウンウンと頷く。
くす、と小さな笑い声を漏らしたフジキセキさんは、微笑ましいものを見るような目つきでオレを ──
「……寮長も、どうぞ」
「私にも? ありがとう、カネヒキリ。いつもサンが美味しい、美味しいと言うものだから、食べてみたかったんだ」
無言で紅茶をサーブするカネヒキリくんだけど、ズッ友たるオレの目はごまかせない。
ちょっと動揺したように右手を震わせ、注がれていた紅茶の表面が少し揺れていた。
……照れてる。んふふ、照れてる!
フジキセキさんも気付いたのか、さっきよりもさらに頬を緩めて紅茶を受け取っていた。
「……オレね、オレ、ふたりがそうやって並んでお茶飲んでるとこをさ、見るの好きなんだ」
んふっふ、と笑ったオレに、カネヒキリくんとフジキセキさんが顔を見合わせる。
どちらからともなく視線を外すと、フジキセキさんがちいさく苦笑いを浮かべた。
「私はね、君も入れて3人で飲むお茶も好きなんだよ」
伏し目がちにそう言ったフジキセキさんに呼応するように、カネヒキリくんの頬がゆるりと持ち上がる。
溌剌とした色白肌に黒くて艶やかな髪を持つフジキセキさんと、健康的な小麦肌に明るい栗毛のカネヒキリくん。
こうして並んでみてもふたりは似てない。
けれど、笑い方はとてもよく似ている。
オレのとびきり好きな笑い方に。
今となってはもう遠い記憶だ。
けど、覚えている。
よく来てくれたね、と微笑んでくれた顔を、確かに覚えている。
知らない馬だらけのその場所で、初めて声を掛けてくれた馬。
青鹿毛の馬体がゆるりと揺れながら立ち、呆然として見つめる俺に怒るでもなく手招いてくれた。
いや、手はないので手招くっていうか、前脚を掻くっていうか。
とにかく『こっちおいで』と言わんばかりに俺を誘ってくれて、それとなく面倒を見てくれた年上の種牡馬。
『僕はフジキセキ。ここでは結構年長の方でね、まとめ役なんかもやらせて貰ってる』
初対面のはずがどうしてか、その横顔に親近感が浮かんで仕方なくて、相手が牡馬なのも忘れて普通に懐いてしまった。
油断しちゃ駄目だ、とは思ってたのに。
良い人、いや良い馬ぶりを自然と感じ取ったから? とも思ったが、その答えは案外すぐにわかった。
「お、なんやサンジェ、早くもフジキセキと仲良うなって。あれかな、やっぱ馬にもわかってまうんかなあ。── この馬がトモダチの親や、て」
そう、フジキセキさんは親だった。
誰のって、俺の唯一無二の親友・カネヒキリくんの。
それを知ってからはもう警戒心なんてさよならバイバイ。
同父だし、カネヒキリくんの父馬だし、優しいし、襲ってこないしで懐く理由は十分。
まあちょっとばかし視線が強いのと、時々ケツに全集中向けられる事はあったけど、逆を言えばそれだけで済んでる。
フジキセキさんは、俺の新しい拠点である社来SS ── 社来スタリオンステーションの有力馬として名を連ね、ボス馬的ポジションで種牡馬たちをまとめているらしい。
入厩後間もなくして知り合ったクロフネさんやキングカメハメハさん曰く、普段から頼りになる立派なボスなんだそうだ。
そのフジキセキさんに目を掛けて貰えてるおかげで、俺は新入りでありながらいじめられることもなく、平穏無事に種牡馬ライフを謳歌しているってわけだ。
ケツはガン見されるし、かわいこちゃんかわいこちゃん、と柵越しに呼ばれてハァハァされたりするけど、それくらいは許容範囲内。
こちとらトレセンのオッスどもに日頃囲まれ追いかけ回され、身体中をじっとりと見つめられてきた牡馬やぞ、見られるくらいなんじゃい!!
極端に言えば触られなきゃセーフだと思ってるから。
カネヒキリくんもきっと同じこというはず。おそらく。たぶん。メイビー。
そんなこんなで、カネヒキリくんがスタッドインするまでは1頭ぼっちの厩舎暮らしだったけど、フジキセキさんたちのおかげで放牧地にいる時は寂しいこともなく楽しくやってこれたわけだ。
そのまま、カネヒキリくんが来た後も引き続き、って思ってたんだけどなあ。
2011年、長めの競走馬生活にピリオドを打ち、ようやく第2の馬生に入ったカネヒキリくんと入れ違うように、フジキセキさんは社来SSを去った。
行き先は社来ファーム・
俺の生産牧場へ、正しくは併設されているリハビリテーション施設へ、療養生活に入るためだった。
というのも、代表産駒の1頭でもあるカネヒキリくんを始め、多くの産駒が活躍を挙げたことで種付け数は年々増加、人気も鰻上りのフジキセキさん。
年200頭前後の種付けを数年熟していた影響が出たのか、ここ最近は体調を崩すことも増えていた。
後継種牡馬として目されていたカネヒキリくんが入ってきたこの機会に、種牡馬を休業して療養に集中することとなったのだ。
これまで一生懸命働いていたフジキセキさんのやっとの休暇なので、それ自体は俺も大歓迎。
俺の実家は本当に良いところなので、めっちゃリラックスして過ごして欲しい、その気持ちは本物だ。
本物、なのだが、せめて一目くらいカネヒキリくんに会わせてあげたかった。
それでもいつか元気になってまた社台SSに戻ってくるだろうから。
そう信じて馬運車に乗り込むフジキセキさんを見送ったわけだけど、それが最期に見たフジキセキさんの姿となってしまった。
気付けば療養開始してからあっという間に3年の月日が経ち、カネヒキリくんの産駒がメイクデビューを迎え、フジキセキさんのラストクロップが皐月賞を制した頃。
フジキセキさんは復帰することなく種牡馬を引退。
功労馬繋養施設が併設されている社来ブルーグラスファームへとそのまま引っ越していった。
そうして2015年12月28日。
フジキセキさんは頚椎損傷で亡くなった。まだ23歳だった。
その翌年の2016年1月某日。
カネヒキリくんの初年度産駒・ハートオブイマジニングが、2015年のアメリカ三冠、BCクラシック制覇を評価され、エクリプ賞年度代表馬となった。
コメントをもらいに牧場へと集まった記者たちを前に放った、社来SSの場長・徳田さんの言葉を覚えている。
「フジキセキにはたくさんのものを貰いました。そのうちどれくらい返せたか、返しきれたのか想像できません。それでも。それでも最期に、直系孫の勇姿を共に見ることが出来て、本当に良かったと思っています」
やはり、血は絆だと思う。
何よりも強く、何よりも濃く。
俺たち馬が人間に遺すことの出来る、そして証明することの出来るもっとも確からしいもの。
薄まることのない血の輝きが、フジキセキさんが死してもなお、多くのヒトの心を慰めているのが、何よりもの証拠だった。
それから数ヶ月後。
冬に渡って逝ったフジキセキさんから少し後。
春の終わりと、夏の始まりの真ん中を見つめながら、カネヒキリくんもまた、虹の橋を渡っていった。
痛みを耐え、苦しみを耐え、俺に忘れることの出来ない声を遺して。
栗毛の馬体が浅い呼吸を止め、大好きだった彼の瞳がゆっくりと曇り始めた時に沸き上がった、あのどうしようもない寂しさ。苦しさ。悔しさ。
── ああ、やっぱりどうにか会わせたかったな。
カネヒキリくんとフジキセキさんを。
2頭が並んでいる姿が見たかった。
心清らかで、何に臆することもなく立ち、俺と共に歩んでくれた2頭のことを忘れた日はない。
会わせたかった。会って欲しかった。並んで欲しかった。
だいすきなヒトたちが笑い合っている姿を見るのが好きだという、それと同じ温度感で、並び微笑み会う2頭を一瞬でも見たかったんだ、と。
カネヒキリくんもフジキセキさんも、馬としては無知で常識を知らない俺にいろんなものを教えてくれた。
嫌がることもなく、厭うわけでもなく、かと言って押さえつけるでもない。
俺が望んだときにだけそっと差し出された温かさを、この魂が覚えている。
馬界の常識、馬界のあるある、馬界でのタブー、エトセトラ。
フジキセキさんからは、俺が生まれてから暫くして死んだという父馬の話を聞いた。
アメリカで現役生活を送り、種牡馬になるためだけに日本に来たという、青鹿毛の父の話を。
『僕と同じ毛色でね。少し怒りっぽくて、好き嫌いが多くて、恐ろしい馬ではあったんだけども。とても仲の良い馬とは隣合う放牧地でいつも見つめ合っていて……そういうところは少し親近感がわくような、そういう御方だったな』
会ったこともないその馬がどんな性格で、どんなエピソードがあって、どんな風に虹の橋を渡っていったのかを。
時には他の馬にも声を掛けて話を聞かせてくれた。
フジキセキさんと父馬は顔も性格も似ていないようだけど、そのドッシリと構えた立ち姿は俺に、会ったこともない父馬を連想させるには十分だった。
話を聞く度、胸がどこか、ふわっとした気持ちになる。
その心地良いふわっと感を、できたらカネヒキリくんにも、そしてフジキセキさんにも味わって欲しかった。
取り返すことの出来ない願望は、1頭きりになったときによく浮かんだ。
生きている内では叶うことのないモノだからこそ、ただひたすらに苦しかった。
『虹の向こう側でちゃんと出会えてるかな』
フジキセキさんにはしつこいくらいカネヒキリくんの話をした。
どれほど彼に助けられてきたか、彼がいたおかげで孤独な現役生活を送らずに済んだのかを、とつとつと語った日々を覚えている。
フジキセキさんは忘れっぽい馬ではないので、きっと覚えてくれているだろう。
すこしだけしっとりと暗めの栗毛で、眼力が強くて、細い雷のような流星を持っていて ── ねえ、覚えていますよね、フジキセキさん。
『何度も言われすぎて、会ったこともないのに驚くほど簡単に想像できるよ。実は会ったことあるんじゃないかな』
苦笑いを浮かべながらもそうとまで言ってくれたのだから大丈夫だ。
問題はカネヒキリくんだな。
父馬の特徴なんてもちろん知らないだろうから、フジキセキさんに声を掛けられても信じてくれるかはだいぶ五分五分。
結構理性的で疑り深いウッマなのだ、カネヒキリくんは。
一応は俺という共通の馬が間にいるので、なんだったら俺の珍エピソードでもフジキセキさんに聞いて、楽しい虹の橋ライフを送っていて欲しいものだ。
その楽しい声を印代わり、俺はきっと、あなたたちを見つけるから。
そんなことを思っていたのが今から十数年前。
俺ことオレ、サンジェニュインは、物理ぴょいできなかった弊害なのか再転生。
虹の橋を渡っている途中で落とし穴にハマり落ちて、今度はウマ娘ワールドへと、ウマ娘のサンジェニュインとして生まれた。
真っ白い肌と髪にまんまるおめめは青色。
手に取った鏡には自画自賛を超えてたったひとつの真実が映る。
とんでも美幼女という真実がな!
これケツ危ないんじゃ……いやウマ娘ワールドだしセーフかもな。
みんな『娘』なわけだし。
うんうん、とひとり納得した後は至極普通に過ごした。
ちょっとそこいらの幼女より賢さのステータスが上なだけの一般ウマ娘である。
社来ファーム・陽来もといアキキタ地区に住まう元気な2歳児だ。
ふたりの父親と、やたら目黒さんに似てる近所のおじさんことメグミさん、その他やたら陽来で見たメンツいっぱいの環境で過ごしている。
このアキキタは地区全体でリハビリテーション施設を運営していて、父ちゃんたちは年がら年中大忙し。
ネコの手もウマ娘の手も借りたいだろうが、あいにく俺はぷくぷくおてての2歳児なので手伝えない。
無力だ……この身体……!
おっきくなったらいっぱい手伝う事を滅茶苦茶誓った。
唯一良かったことと言えば、多忙の父ちゃんたちがオレを預けに行った保育所に、同じく預けられていたカネヒキリくんがいたことだろう。
魂感覚で言えば十数年ぶりのカネヒキリくんだったので、マジテンアゲ状態ってやつのままカネヒキリくんに泣いてしがみついてしまった。
勢いでほっぺたまですりすりしたら、さすがにビックリしすぎたのかカネヒキリくん気絶しちゃったしな。
いやー反省、反省。
しかも彼女に取ってはこれが初対面だろうに、大変申し訳ないことをしてしまった。
そう、初対面。
だってカネヒキリくん、記憶無いだろうしな。
別に本人に聞いたわけじゃないんだけど、態度で分かるというか。
いくら恥ずかしがり屋のカネヒキリくんと言えど、記憶があるならオレの名前を呼んでくれるはずなのだ。
言っておくが約束を交わしたわけではない。
ないけど、カネヒキリくんならきっと、躊躇うことなく名前を呼ぶだろうなと思っていた。
虹の橋を渡るギリギリまでオレの、俺の名前を呼んでくれた彼の魂を、その記憶ごと継いでいるのなら。
しかし俺は知っている。
ウマ娘とは、異世界の名馬の魂を持って生まれてくる。
それは魂だったりその数奇な運命だったりするだけであって、記憶はまた別だ。
オレが記憶を持ったままなのは、オレが元人間で、そんでもって虹の橋を渡りきる前に魂ごと落とし穴へとハマったせいだと思ってる。
たぶんなんだが、あの落とし穴は通常、橋を渡りきるときに魂の一部だけを落とす用途があったんじゃないかな。
ただ何の因果か、それとも元人間なのが影響したのか、まるごとウマ娘ワールドに来た事で記憶そのまま保有してしまったのかもしれない。
もちろんオレのただの妄想だし、存命の馬がウマ娘になるパターンはどう説明すんだって話になるから、これに関してはまた後日。
けど、オレ以外こんな風に記憶を引き継いでいるヤツはほぼほぼ居ないだろうな、というのは確信している。
アニメ版でもアプリ版でも、馬のことを知っている者はおろか、その記憶を保持したままのウマ娘なんて出ていなかったからだ。
まあ俺の知識がリリース直後の2ヶ月ちょいしかないので、その間にいろいろ情報が更新されたのかもしれないが。
2025年時点で一緒にウマ娘を遊んでた芝木くんも、ガチャと育成はさせてくれるんだけどストーリーは全部スキップなんだよな。
だから内容がわからんけど、一応はほぼ確定の仮定として、カネヒキリくんは何も覚えていない純粋ウマ娘ちゃんってことにしている。
見知らぬ幼女に名乗ってもいない名前を呼ばれた挙句、許しもなく抱きしめられたとか第一印象最悪でもおかしくなかったが、穏当な性格はそのまま引き継いだのか柔らかい頷きで許して貰った。
それ以来ズッ友としてエターナルフォーエバーすべくずっと一緒だ。
食って寝て走って食って走って食って寝て、を繰り返して十数年。
トレセン学園に入ったオレは、ふと、今ならあの願望を果たせるんじゃないか、と思った。
生きている内には叶わないから、と仕舞い込んで、けれど決して忘れることの出来なかったあの。
「カネヒキリくんとフジキセキさんを会わせたい」
会ってどうするんだ、ってツッコミがオレの
わかってる。確かにもう会う理由もなければ会わせても当人たちも意味がわからないだろう、なんてことくらい。
何も感じないかもしれない。同寮の先輩後輩以上の感情は育たないかもしれない。
不安になればいくらでも浮かぶそれらは、けれど心配にはならなかった。
だって、ウマ娘には感じ取れるじゃんか。
馬だった頃に繋いだ縁、血という絆は完全には失われない。
オレが日野トレーナーに抗いようのない『運命的ななにか』を感じたように、ふたりも互いに感じるだろう。
決して他人ではないような、どうしても何か気になるような、そんな気持ちを。
それにあの感覚は、馬だった頃にフジキセキさんから父馬の話を聞かされていた時のものによく似ている。
なおのこと会わせたい。
会わせて、感じて欲しい。
目の前のひとに感じる浅からぬ縁を、それを手にしたときの感動を!
だからオレはふたりをお茶会に誘う。
なんでこの組み合わせ? と不思議がられても。
フジキセキさんが困惑していても。
カネヒキリくんが戸惑っていても。
ふたりの手を引いて、椅子に座らせる。
前に、一度だけフジキセキさんに聞かれたことがある。
「なんで私とお茶を?」
同じ寮の寮長と寮生、それ以上の関わりはないはずだと、言外に言っているのは伝わった。
それに頷き返して、オレは言う。
「後悔のない生き方をしたいから」
そう、後悔のない生き方を、オレが。
あなたたちふたりを会わせることもできず、どちらにも世話になったのだとまともに伝えることも出来ずに終わったことを、後悔しているから。
エゴなのは分かってる。
自分勝手なのも理解している。
それでも貫き通す。
触れてみなければ分からない情動を知らないまま別れる、そんなのはもう嫌だから。
「オレ、カネヒキリくんが大好き」
ごふっ、とカネヒキリくんが咽せたのか口元を覆った。
それにティッシュボックスを渡しながら、オレはフジキセキさんを見た。
「フジキセキさんのことも大好き」
ん、とフジキセキさんが唇を一文字に結んだ。
ごくり、と嚥下したのは唾か、口の中に残った紅茶か。
どっちでもいい。どうでもいい。
ただ、オレの目を見て。嘘偽りなんかない。
オレは、オレはね、ふたりが大好き。
「ふたりが何をしたという自覚なんかなくていい。大好きだ、だから一緒にいたいし、一緒に居るところを見るのが好きだ」
記憶は副次的なモノだ。
魂にすべてが詰まっている。
その魂は、オレに溢れんばかりのものを与え、その魂を包み込んだ命から、オレにカネヒキリくんというかけがえのない友を巡り合わせてくれた。
それに、ウマ娘のフジキセキさんだってオレにいろんなものを与えてくれている。
いくらセキュリティを厳重にしているとは言え、寮内を歩いていれば他のウマ娘にだって会う。
けど、寮内で執拗に声かけされたり囲まれたりしたことはない。
裏で、フジキセキさんが厳しく取り締まってくれているのを知っているから。
あなたはそれを『寮内の風紀のため』といくらでも言うことができる。
だとしてもオレにとってはそれだけのことじゃない。それだけで済む話ではない。
もう十二分に、また、与えてくれた。
「栗東寮が好きだ。あなたが治め、尊敬する先輩方もいて、そして愛する友と暮らす、この寮が」
── 俺、ここも好きですよ。フジキセキさんが治めてて、尊敬できる先輩もいて、いつかだいすきなトモダチと一緒に暮らす、この場所が。
「だいすきなんだ」
何度聞かれたって同じ事を言うだろう。
耳にたこができるくらいにな。
それが嫌なら、迷った顔で「どうして?」など聞かないで。
目でそう訴えかけると、フジキセキさんはフーッと深く息を吐いた。
「……君がなんであんなに過保護にされているかがわかった。頼むから、ほかの娘にはむやみやたらと『大好き』なんて言ってはいけないよ」
「大好きなひとにしかいわないので大丈夫です」
うっ、と小さい呻き声を挙げて、フジキセキさんと、それからカネヒキリくんはテーブルに突っ伏した。
タイミングも仕草もまったく同じで、それがどうしてか、本当におかしくなって、オレは笑った。
◇ おまけ ◇
読まなくても全然物語に支障は無いです。
サンジェニュインにとっての好意の解釈の話です。
サンジェニュインの好きはかなり一方的です。
本人が好きと思えばずっと好き。自身が損なわれない限り、割と何をされても好きです。
それまでサンジェニュイン自身が与えられてきた愛情が、求める以前に与えられていたものなので、愛とは求めるより与えるもので、そして与えられたらそれに相応しく生きるべきと考えています。
彼が人だった頃、彼を最も愛したのは母親で、それは彼がどう生きようが揺らぐことのない完全体の愛でした。だから彼は周りにどう貶されても関係ない。だってどう言われても自分は母親に愛されているので。それで十分だったので。
二番目は幼馴染です。それは不変の友愛で、こちらも揺らぐことのない完全体の愛でした。人だった頃、彼がトモダチとして想い浮かべる唯一無二がこの幼馴染です。
馬になってからは生産牧場の人間が居ました。こちらもまた、たった1頭だけの生産馬へあらゆる情熱をつぎ込み、愛し、育ててきました。トレセンにはテキが、厩務員が、騎手が。命を賭けた仕事だからこその沸騰するほどの愛が、サンジェニュインという生命体にとっての愛になりました。
極めつけは、同族である『カネヒキリ』との関係性です。
美貌馬におけるカネヒキリという馬はサンジェニュインに何も求めませんでした。その友愛に見返りを求めず、無言でも側にいて、決して目を逸らさなかった。サンジェニュインが当初は彼に対して喧嘩腰だったとしてもです。
言うなれば、2頭の愛し方はすこし似ていました。
お互いが想像も自覚もできない部分で綺麗にピースがハマったのです。そして厄介な事に、カネヒキリは好きから嫌いに反転出来ますが、サンジェニュインは反転できないタイプなので、極端な話カネヒキリがサンジェニュインを嫌いになっても感情は変わりません。
サンジェニュインの愛に、相手側の感情は割と重要ではないので。
第◇回サンジェニュインのお嫁さんレース(敬称略)
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エアグルーヴ
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ハルウララ
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ウオッカ
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カレンチャン
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海外牝馬組