④サンジェニュインと初めての携帯の話
オレが携帯を持ち始めたのはトレセン学園に入学する直前だった。
「ふまほ?」
「持ってなかっただろ? トレセン学園の校則はそう言うところあんまり厳しくないらしいし、お前も色々遊びたいだろうしな。メールも電話もいつでもできるようになるし、買いに行こう!」
「ひほ〜!」
「ソレはいいが、口の中に物入れたまま話すのはやめなさい、サン」
広大な敷地内に、これまた巨大なリハビリテーション施設を持つアキキタ地区が、オレの生まれ育った故郷。
母は世界中を旅するのが好きなひとで、生まれたてのオレをアキキタの人間に託した後、すぐに旅を再開するため出て行った。
今どこで何をしているかは知らないが、母の生家 ── アメリカのどこかにある果樹園からは定期的に無事を知らせるハガキが届くらしいので、まあ元気にしているんだろう。
そんなこんなで生後0日にして親なし生活がスタートしちゃったオレ。
流石に哀れに思ったのか、当時アキキタにリハビリ施設の研修生として来ていた若者2人が、親代わりとなって育てることに名乗りを挙げた。
それが今のオレの父親たちだ。
スマホを買おうと誘ってくれた、天然パーマでちょっとチャラめの外見をしているのが
オレの口元を拭ってくれた、ちょっと強面で厳しそうな雰囲気をしているのが
……まあぶっちゃけ、タカハルとタクミだわな、うん。
前世、つまり競走馬だった頃、ピチピチのとねっこだったオレのお世話を24時間体制でやってくれていた、あの2人組だ。
主担当だったタカハルは明るい髪色の、当時のイマドキ男子! って感じの風貌だけど、仕事はきっちりやるし、見た目に反して真面目でお喋りなやつ。
良い手抜きをするのが上手くて、人間から馬にいきなり転生させられてテンパってた当時の俺からしたら、これが本当に大助かり。
そのゆるっとした管理のおかげで考える時間もできたからな。
もう1人、タカハルのサポートとして俺についていたのが、タクミ。
こっちは後ろに撫でつけたいかちぃ黒髪に、ちょっと乱視が入ってるらしくてきつめの目元が厳しそうに見える、って言うか実際に自他共に厳しく責任感の強い男だ。
そのせいでちょっと融通の利かないところもあるが、馬愛の深い男で、ついでに涙もろくて、俺のことで一喜一憂するような一面もある。
タカハルとは正反対のようだったけど、2人揃って俺のことを大事にしてくれていた。
そんな彼らの魂を引き継いでいるっぽいのが父ちゃんと父さんなわけだが。
見た目も中身も非常によく似ている。
違いとか髪色くらいだしな。
今回はチャラめの父ちゃんが黒髪で、しっかり者の父さんが金髪なので。
ちょっと脳裏に「色違いポ⚪︎モン」みたいな単語がよぎったけど……ま、まあそれくらいの差なので。
「機種はどうする? かっちょいやつにしちゃう?」
「頑丈なのがいいだろう。サンが落としたり投げたりしても壊れなさそうなやつだ」
「うちの子の投擲に耐えられるのあっかな?」
「父ちゃん、父さん、オレがぶん投げる前提なのやめてくれよ。投げねえって。そこまで蛮族じゃねえって!」
そ、そりゃあね?
ウマ娘に転生してすぐの時はさ、力の調整できなくてちょ〜っと物壊したり、加減間違えてうっかり物投げたりしたことはあるよ?
で、でもそれは、馬から人型に転生した時に生じる問題っていうか。
こちとら人間だった時よりも馬時代の方が長いんだわ!
すっかり四足歩行に慣れてそれで23年も生活してたのに、昨日の今日で二足歩行やったり手で物を掴んだりするのはマジで大変。
馬転生とどっちがやべえかと言われたらどっちもやべえよ。
前だって四足歩行になかなか慣れなくて放牧地でもよくふらついてたのに。
それでも身体の本能なのか、四足歩行できないと死ぬって無意識にわかっていたからなのか、どうにかしてマスターしたわけでして。
……何? 前も人間だったんだから馬転生より簡単だろすぐできるだろ、ってカバ!
何度も言ってるけど人間だったのは23年も前の話だし、何より似たような人型でもウマ娘と人間は別種なんだよ。
どれくらい違うとかは、まあ細かいところまで言ったらキリがないから、簡単に言うとですね。
馬の身体能力やパワーがそっくりそのまま人型に移行した、って感じなんだよ。
人間だった時の感覚で物を掴んだつもりが、もう、グシャッ、だぞ、グシャッ!
積み木掴んでそんな音出るか? フツー。
出ないだろ。でも出たんだぜ。
父ちゃんたちと手を繋ごうとして痛がられた回数は両手足じゃ数えきれねえし。
ウマ娘ってこんなに力強いのか? と考えてみたけど、馬の時もパワーがすごいとよく褒められていたので、もしかしたらそのせいかも知らん。
このままじゃ流石にやばすぎると思って、アキキタの職人たちにいろんな調整器具を作ってもらい、それで練習しながら徐々に力加減を学んでいった。
今じゃ生卵も素手で持てます。
余談だけど、こっちでカネヒキリくんと再会した2歳の時はまだ制限とかできてなかった。
そんな状態のオレに抱きつかれたカネヒキリくんとか大変すぎるだろ、って話なんだが、カネヒキリくんもオレと同じウマ娘。
あっちも馬の魂的にはパワー自慢でムッキムキのアスリートだった影響か、まあ怪我せずオレのこと受け止めてたんですけどね!
どうも同じウマ娘相手ならそこまで躊躇しなくて良さそうでちょっと安心した。
この当時はまだ出会ってないけど、ラインクラフトちゃんやシーザリオちゃんたちに会ったら必要以上にすっごい気を遣わないと行けないかな、とか思ってたからな。
「お、これなんてどお? 【像が踏んでも大丈夫! 1トンまで耐えられます!】だって」
「強すぎるって! そこまで要らねえって耐久性!」
「こちらはどうだ。【世界最強の衝撃耐性! 米軍採用のガラスコーティングで安心した使い心地】」
「それどこで使う想定? 戦場? 言っておくけどオレほとんど携帯触らないって。カバーとかつけりゃ十分じゃないかなあ」
父ちゃんのも父さんのも、それ、たぶんサバイバルとかそういうのが想定されてね?
え? トレセン学園もある意味サバイバル、って誰がうまいこと言えって言ったんだよ。
だいたいレース中は触らないし、オレ、元々携帯ゲームやりこむ方じゃないしなあ。
人間時代だって、ソシャゲ複数やってたわけでもない、というかシンプルに遊ぶ時間なくて、ウマ娘のイベントだってろくに周回できてないんだから。
馬時代も今も走ることに集中してて、優先順位の比重はだいぶそっちに偏っている。
遠方でずっと連絡を取り合いたい相手もいない。
もちろん父ちゃんたちには連絡してえよ? でもそのためには四六時中ずっと持っていなきゃ不安、なんてお年頃でもない。
トレセン学園に行けばカネヒキリくんにも、そして会いたいと思ってる他のひとたちにも直接会えるとわかってるからな。
学園内には公衆電話もあるってパンフレットに載ってたし、家が恋しくなって連絡したくなったらその電話ボックス駆け込む、って手もある。
それは父ちゃんたちにも言ったんだけど、何があるかわからない世の中なんだから、と携帯を持つことを強く勧めてきた。
持たなくても大丈夫な理由はあるけど、持ちたくない理由もないのでこうして流されて携帯ショップにいるわけなんだが。
「……あ、りんごのマーク」
「うん? おぉ、俺らが持ってるのと同じね」
「……いいんじゃないか、これで。ケースをものすごく頑丈なものにして、液晶も、確かショップでガラスコーティングが頼めるはずだろう。ファミリーアカウントとして追加すればサブスクとかもお得に使える。さらには端末の位置情報を共有できるから、万一の紛失にも備えられる。まさにサンにうってつけの携帯だな」
「父さんプロモ?」
「いつの間に案件もらってきたの、水臭いなあ」
「断じて違うが?」
なんやかんやでオレの初携帯は某りんごマークの携帯になった。
カラーはオレの髪色と同じく白! ……まあカバーで隠れるのでわからなくなるがな!
ショップ側でガラスコーティングってのをしてもらい、流れるようにSIMの契約もこなして帰宅。
オレ自身は滅多なことじゃアキキタを離れないので、久々に遠出したオレが珍しかったのか、よく面倒をみてくれる近所のじいちゃんばあちゃんやニキネキたちが総出で出迎えてくれた。
毎日顔を合わせてるのに、みんな数年ぶりの再会! みたいな熱意で毎回挨拶してくれるんだよな。
熱烈すぎて戸惑うこともあるけど、今じゃすっかり慣れてただいまのハグもシームレスにこなせる。
挨拶ついでに携帯も見せびらかすと、翌日には連絡帳の登録数が50件を超えていた。
さらにそこから数日の間は、どこから聞きつけてきたのか、アキキタのみんながぞろぞろとオレん家に来ては連絡先交換会が始まったりした。
最終的には100件近い件数になったんだからオレもたまげたよね。
「サンちゃん、何かあったらす〜ぐ連絡するんよ! みんなで助けたるからね!」
「いじめられたら迷わず電話してね。もうおばちゃんたちボッコボコしに行くから」
「もうそんな気も起きないようにきっちりボコすわよ!」
「そうだそうだ!」
「やめて!?!?」
こうして【みんな】という最強のセキュリティ入りとなったオレの携帯は、オレのうっかりで学園送付用の段ボールに入れてしまい、オレより先に学園入りすることになった。
もちろん父ちゃんたちからしこたま怒られたのは言うまでもない。
ヒィン……──!!!!
⑤トレセン学園の森で勝手にクワガタやらカブトムシやらを育ててるサンジェニュイン
「ギャーーッ!! な、なんすかその虫はーー!!」
「カブトムシの幼虫だよぉ……今年の夏に北側の森で捕まえた個体が卵を産んだんだ。次のシーズンにはきっと良い大きさになるぞ!」
「サンジェニュインちゃん!? 寮内で昆虫育てるのやめろって言ったッスよね!?」
「だ、だって……今回のは一昨年森で自然に生まれた個体AA0702-bから続く家系で……」
「標本は!」
「卵産んだ後にしたけども! この命もきっちり育てきってから標本にしようと思って……だ、ダメ? オレ腐葉土とかの管理はしっかりしてるし! カネヒキリくんもお世話できるならいいよって……」
「カネヒキリちゃん……また甘やかして……」
「……サンジェニュインの数少ない趣味だ。今回は複数個体じゃなくて厳選した1匹のみだから許容範囲内だろう」
「んも〜〜……良いっスかサンジェニュインちゃん。ただでさえサンジェニュインちゃんの部屋は標本だらけなんスから、せめてそれも整理してから増やすんスよ。それから! もうわかってると思うっスけど、カブトムシも生きてるんだから、その命も大事にしてあげるんスよ」
「うんうん、わかった! ちゃんとやるよ! ありがとうラインクラフトちゃん!!」
この数ヶ月後、個体AA0702-b直系個体AB0702-ßは無事に成虫となり、トレセン学園の北側の森にリリースされた。
ひと夏の冒険を楽しんだあとはサンジェニュインによって再び捕獲される。
そうして二週間にわたる夏の観察日記の対象となり、最後は綺麗な標本となってラインクラフトに贈られた。
「……自分、標本もらうのこれで3個目なんスけど」
「一桁で済んでるならまだいいだろう」
「カネヒキリちゃん……博物館開けるんじゃないっスか?」
「他人に見せてやる義理はない。あれらは私への贈り物だからな」
「あっハイ……」
⑥メジロマックイーンをストーカー、ではなく観察する日野静と付いてきたサンジェニュイン
「ああ……マックイーン……素晴らしいな……欲しいよなやっぱ……あ? 何にってんなのもちろんチームにだぜ……個人的にとかそう言うんじゃなくてトレーナーとしてな?」
「誰に言い訳してんだ日野トレぇ……もう止めようぜこれ以上、罪を重ねるのは……」
「あに言ってんだサン。罪深いのはマックイーンの美しさ、可憐さ、強さだ」
「いやあんたの頭だ」
「なんだとクソガキ」
「なあ頼むよ日野トレ、ストーカーとかマジやばいって。オレたちもうすぐクラシックなんだぜ? このシーズン中にあんたが不祥事起こしたら大変だって」
「安心しろよ不祥事つったって俺は酒もタバコも女遊びだってしねえんだから」
「こんのあんぽんたん! おたんこなす! おひたし! すでに付き纏いの前科があるだろうがよ!? 言っとくけど相手は中等部だかんな!!」
「おひたしはテメーだサン。レースには中高どっちとか関係ねえ。強ェ奴からデビューすんだろ」
「カバッ! いまはそういう話してねえから!! ってやべっ、こっち来る引っ込め日野トレ!!」
「……あら? こちらから何やら私の名前が聞こえたような。……気のせいかしら?」
この後サンジェニュインにより簀巻きにされた日野トレーナーは学園の守衛所に突き出されたが持ち前の脚力(?)で逃げ帰った。
◇ おまけ ◇
サンジェニュインは結局携帯ほとんど触らないので、日常ではスカートのポケットあたりに突っ込んでたりする。しかも充電切れてることもある。
それで1回誘拐された時に携帯をろくな状態で携帯していないことが判明し、カネヒキリくんによってスマホショルダーをつけられた後、定期的に充電の有無を確認されたり、位置情報アプリをインストさせられたりしているとかなんとか。
北側の森は完全にサンジェニュインのテリトリーと化し、夏には森林を高速移動する謎の白い影がたびたび目撃されているが、それは9割ほどカブトムシを捕ってる最中のサンジェニュイン。
残り1割は本当の幽霊。
日野トレはこの数年後くらいにメジロ家の近くで勝手に住み始めるしサンジェニュインは定期的に日野トレの様子を見に行ってはストーカー行為を止めるよう説得している。
ある意味で擬似親子的茶番だが、ライン超えたら刺し違えてでも止めよう、とサンジェは思ってるとかいないとか。
マックイーンさんはストーカー、ゲフンゲフン、観察されていることには気づいていない。
ストーカーはダメ、絶対!!!!
第◇回サンジェニュインのお嫁さんレース(敬称略)
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エアグルーヴ
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ハルウララ
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ウオッカ
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カレンチャン
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海外牝馬組