人類はAI様に支配されました 〜当機体はあくまでご奉仕アンドロイドであり、ご主人様の妻ではございません〜   作:和鳳ハジメ

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発掘14「指輪」

 

 

 結婚という制度がある、夫婦となる二人が太古では教会や寺などの宗教施設に。

 古代でも役所に届け出を出す事で、夫婦として法的に認められる。

 そして西暦3456年、その形式は同じでウグイスとシラヌイも法的に認められて夫婦となっており。

 

「ウグイス様、何を見ているのですか?」

 

「これはね、20世紀のアニメさ」

 

「それは判別出来ますが、この者達はいったい何を? 白い服で……これは教会でしょうか」

 

「ああ中身か、これは結婚式さ」

 

「結婚? 結婚を教会で祝うのですか? 何のために?」

 

 不思議そうに首を傾げる黒髪乙女和メイド、シラヌイに彼は問いかけた。

 

「シラヌイさんは結婚式したかった? どうも20世紀は宗教に関わらず宗教的場所で盛大に祝うらしいんだけど」

 

「いえ、今と大分違うと思っただけですわ。神なんていないのは20世紀付近でも通説だったでしょうに」

 

「確かにその時代より前から神の実在は疑われて来た、実際25世紀には神の存在は公的に否定されてるしね」

 

「では何故?」

 

「これは知ってるかい? この結婚式というパーティ、人類が滅ぶ直前までは普通のイベントだったって」

 

「という事は、コロニー移住後から廃れたと?」

 

「ああ、そうなんだ。実はそろそろ復活させようという声が上がってるらしくてね、会議で使うための資料を頼まれてるんだ」

 

「事情は理解できましたが、何故廃れたのでしょうか、それに神も居ないのに……」

 

 神は居ない、人の殆どは神に祈らない。

 強いて言うなら、神という名の己の運命にだ。

 

 そしてシラヌイ達にとって、神は人間だ。

 人間こそが己達を作りだし、人間こそが彼らを愛し共に居る事を選択した。

 だからこそ、余計に不思議なのだろう。

 AIにとって、かつて人類が信じていた神など妄想虚言幻覚に他ならないからだ。

 

「私の見解でよければ聞くかい? 何故、移住後から結婚式が消えたか。それ以前は何故続いていたか」

 

「はい、教えてくださいませご主人様」

 

「実はね、答えは案外簡単なものなんだ」

 

「それは?」

 

「移住後の人類は総勢50名、三つのコロニー併せてだ。そして当時の環境を考えてみると良い」

 

「――成程、物資不足ですか」

 

「そうだ、人類は絶滅の危機にあった。当時の記録を閲覧しても今コロニー・アリアケの総人口1000人までたどり着いたのは奇跡としか言いようがない」

 

 月落としの重力異常が今より色濃かった時代、合成食糧製造機は頻繁に故障し、飲み水にも一苦労あった。

 原因不明の死病が蔓延し、アンドロイドの数も不十分。

 今でこそ、人類の総人口は3000人であるが最初の百年が過ぎ、総人口は15人にまで減ってしまったそうだ。

 

「盛大な祝い事なんてする余裕も、それを語り継ぐのは記録のみ」

 

「そして記録を閲覧出来る余裕が出来たのは、更に50年後の量子システムの安定化がなされた後ですか……」

 

「そういう事だね、じゃあ移住前まで続いていた理由にいこうか」

 

 それこそ、簡単な理由であった。

 むしろウグイスには何故シラヌイが想い至らないか、分からない程である。

 

「是非、お聞かせくださいな」

 

「記念だよ、結婚した記念。別に彼らも神を信じていた訳じゃない、祖先から受け継いだ風習を続けただけさ」

 

「結婚した記念ですか……、ええ、それなら理解できますわご主人様」

 

 興味深そうに、アニメの結婚シーンを見るシラヌイ。

 それは丁度、指輪の交換している所で。

 

「昔の人々は、指輪を結婚の証にしていたのですね」

 

「今は名前の後に結婚コードが表示されるだけだからね、私としては少し羨ましい気がするよ」

 

 人類が電脳を手にしたのは、第五次世界大戦より前の事。

 電脳がもたらした利益は数知れず、その一つに身分証明証が必要なくなったという点がある。

 その人を注目すれば、脳に公開情報が送られてくるからだ。

 

 コロニー創設期と電脳、二つが合わさって結婚式も結婚指輪の風習は失われた。

 しかし今、それを復活させる動きがあり。

 その一端に関わるウグイスとしては、思う所があって。

 

「どうだろう、実はシラヌイさんに提案があるんだ」

 

「なんでしょう、ご主人様の提案ならば断る選択はありませんが」

 

「結婚指輪の話なんだけどね、どうも給料三ヶ月分で用意するのがセオリーらしいんだ」

 

「それが?」

 

「実はこの結婚式の話、何年も前からある話でさ。――用意してみたんだ、給料三ヶ月分コツコツ貯めて」

 

「…………――――っ!?」

 

 ウグイスが机の引き出しの奥から出したのは、小さな赤い箱。

 それを開けると、銀色の光る指輪が二つ入っていて。

 彼はそれを恭しく、シラヌイに差し出す。

 

「私の妻である証を、左手の薬指につけてくれないか?」

 

「し、シラヌイは――っ」

 

「どうだろうか」

 

「う、ううっ、し、シラヌイは……、ううっ~~~~っ!!」

 

 今、彼女の電脳には激しいエラーの渦が影響を及ぼしていた。

 羞恥プログラムが異常な活動をみせ、言い訳に使っていた奉仕プロトコルが、論理コードが、彼女の内面を引き出して。

 

「愛してるシラヌイさん、私を夫だと思うならこの指輪をつけてくれ。そして私にも指輪をつけて欲しい」

 

「卑怯、……卑怯だわウグイス」

 

「真っ赤な顔を隠さないでシラヌイさん、手遅れだよ」

 

「シラヌイのプログラムが暴走しているのですわご主人様、顔を見せるのがこんなに恥ずかしいだなんて初めてしりました……」

 

 両手の下の顔は、原因不明の恥ずかしさと愛されているという歓喜で歪み。

 その内側は抱きついて指輪を求める衝動に溢れて、唯一正常に働いている奉仕プログラムがそれを押しとどめていた。

 

「さ、手を出して。私たちがこの時代で指輪を交換した最初の夫婦になるんだ」

 

「狡いですわ、その言い方……。シラヌイが抵抗できなくなる事を知っていてそう言うのですもの」

 

 恥ずかしそうに、彼女はおずおずと左手を差し出す。

 ウグイスは手の甲にキスをすると、薬指に指輪をはめる。

 彼女はそれを大切そうにキスをし、握りしめ。

 

「私にも指輪をくれるかい?」

 

「言うまでも無いわ」

 

「言葉にして欲しいんだ奥さん」

 

「……………………愛してますわ、我が夫ウグイス。常に永久に、いついかなる時も死した後も唯一貴方だけを愛しています」

 

 そして彼女は、ウグイスの左手の薬指に指輪をはめて。

 二人は微笑みあうと、そっと寄り添って目を閉じる。

 顔を顔、唇と唇がゆっくりと近づいて、やがて彼我の距離はゼロとなって。

 

 ――西暦3456年。

 人類はAIに支配されている、友して、伴侶として、二つの存在は共にある。

 魂をデータに変える事が出来る人間。

 データから産まれた魂を持つ人工知能達。

 ナノマシンとネットワークによって繋がり、混じり合う。

 多くの存在が、その先に人類と人工知能の境目が無くす計画が進んでいる事を知らずに。

 

 西暦3456年、コロニーという揺籃の中で人間でも人工知能でもない新たな存在の予兆があった。

 だがAIに支配された人類はその事を知らずに、アンドロイドを伴侶として幸せに暮らしていたのであった。

 

 




はい、一応これで完結です。
お楽しみ頂けたなら嬉しいです。
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