人類はAI様に支配されました 〜当機体はあくまでご奉仕アンドロイドであり、ご主人様の妻ではございません〜   作:和鳳ハジメ

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発掘2「トラホールのソリッドブック」

 

 

 コロニー・アリアケの心臓部、統括管理AI・D型エイモンの座す政庁ビックサイト。

 かつて戦争で何度も破壊され、幾度と無く改修されたその建物は外観だけが当時を再現されて。

 その中央部、青く光る正四方体が浮いている謁見の間に一人の民がやってきた。

 

「歴史文化発掘調査員ウグイス、ただ今やってまいりましたエイモン様」

 

「よく来たねウグイス君、歓迎するよ! ……それにしても、どうして君たちはボクを様付けするのかなぁ」

 

「どうしても何も、私たち人類を支配し、導き管理してくださっているのはエイモン様のお陰ですので」

 

「ボクは君たちに奉仕する為に作られただけで、支配するつもりなんてこれぽっちも無いんだけどなぁ」

 

 無機質な白い部屋に響く、優しいダミ声。

 青く丸い狸の様なマスコット型アバターが、膝をつくウグイスの前に投影された。

 かのAIは、かつてのこの島国にて人気であった娯楽作品の主役をモデルとしてる。

 もし文明が滅ばなければ、子守用として普及する筈だったらしいと、ウグイスは父から聞いた話を思い出した。

 

「まぁまぁエイモン様、これも人類からの親愛の情ってヤツですよ」

 

「そう? それならボクも嬉しいんだけど」

 

「本当ですって。……ところで例のブツ、持って来ましたよ」

 

「本当かいっ!! ぐふふっ、でかしたよウグイス君!!」

 

 悪い顔をして喜んだエイモンに、ウグイスもまた悪顔をして例のブツを差し出した。

 

「お納めくださいお代官様、金のモナカでございます……そういえばモナカって何なんでしょうね? 金色の楕円形の何かを差し出している意味も分かりませんし」

 

「ああうん、江戸時代の昔の金の価値も、賄賂の意味もまだ教育課程に反映されてなかったか」

 

「賄賂? 金の価値? 金はただの資源でしょう、それ以上の価値なんてあるんですか?」

 

「ごめんね、教えたいのは山々だけど。まだその辺りの事を教えるには教材が足りないんだ。ボクのアーカイブも不十分でさぁ……」

 

 すまなさそうに頭を下げる支配者に、ウグイスは慌てて話題を変えた。

 子守AIが前身の彼は、世界に三機ある統括管理AIの中でも一番腰が低く、一番世話好きだ。

 故に、コロニー・アリアケで育った人類は皆一様に彼の事を慕い、喜んでその管理を受けている。

 つまり、アリアケの住民にとっては家長のようなもので。

 

「頭を上げてくださいエイモン様、さ、さ、これが今回発掘された品です。どうぞお納めください」

 

「うん、いつもありがとうねウグイス君。さて今日のは……うん? いやに薄い…………はっ!? これはまさかっ!? ウグイス君!? これは何処で出土したのっ!?」

 

「……お察しの通り、アキハバラ区域です。今回、私スコッパー007は同004と共同作業で伝説のトラホールの発掘に成功いたしました!」

 

「あの伝説のトラホールにっ!? 凄いじゃないか!!」

 

「残念ながら、大半は風化して砂になっていましたが。運良く金庫にしまわれていたソリッドブックを発見いたしました」

 

「こ、これがソリッドブック!! しかも西暦2000年前後の貴重な物をっ!! 中身はっ!? 解読は終わったのかいっ!?」

 

「アーカイブとして提出済みです、是非ともご覧を」

 

 ニマニマと怪しげに笑うウグイス、興奮気味にデータを開くエイモン。

 そこには、肌色多めの発情した巨乳でムチムチの美女が表紙に描かれていて。

 

「ふおおおおおおお!! 伝説中の伝説! サークル男性器亭のオリジナル本!! よ、読んだんだねウグイス君!! どうだった! 感想を聞かせてよ!!」

 

「はい、……とても、とても興奮しました」

 

「つまり……使えるんだねコレは」

 

「ええ、男がこれを読めば。人口増加に繋がるかと」

 

「流石はウグイス君だよっ! これで人類の復興、そして当時の文化を知る手がかりがまた一つ手に入った!」

 

「ありがたいお言葉、ありがとうございますエイモン様」

 

 満足そうに頭を下げるウグイスに、彼はふと気づいた。

 些細な事だが、聞いておかなければならない。

 

「ところでウグイス君、データと提出された実本の数が違うみたいだけど?」

 

「え、本当ですか?」

 

「うん、一冊足りないみたい。タイトルは……「瀟洒な巨乳ムチムチメイドを催眠妻にしてみた」だって」

 

「ああ、それですか。ここに無いって事は多分家ですね、今日中に提出して……………………家?」

 

 さっ、とウグイスの顔が青ざめた。

 今手元に無い、エロ古典ソリッドブック。

 しかもメイドもの、さらに悪い事に巨乳もの。

 

「家なら君の所のシラヌイちゃんに取って…………シラヌイちゃん? ま、不味いよウグイス君!?」

 

「ですよね!? かなり不味いですよねエイモン様!! 私、ちょっと用を思い出したので帰ってもよろしいでしょうかっ!?」

 

「急いで帰るんだよウグイス君!! シラヌイちゃんに見つかる前にっ!!」

 

「御前を失礼しまあああああああああああすっ!!」

 

「大丈夫かなぁウグイス君……」

 

 ウグイスは走った、わき目を振らず寄り道なんてもっての他。

 全身全霊で家まで走った。

 一方その頃、彼の家ではシラヌイが机に上に置かれたソリッドブックを発見して。

 

「あれだけ言いましたのに、ご主人様ったら忘れ物を…………。しかし、やけに肌色ですね。なんて書いているのでしょうか」

 

 彼女はウグイスと共に作り上げた翻訳プログラムを立ち上げ、タイトルを、そして中身を読みとっていく。

 

「…………へぇ、ふぅ~~ん、そう、そう? ご主人様はこの様な趣味があると」

 

 巨乳に描かれた銀髪メイドを見る、そして己の姿を確認する。

 ――シラヌイは彼と幼い頃から共にあった訳ではない。

 時間にして六年ほどの付き合いだ。

 故にというか、その身は彼の好みで設定されたものでは無く。

 

「…………胸部ユニット、臀部ユニット、共に換装すべきでしょうか?」

 

 人格を司るプログラムに走るノイズを、なんと表現したら良いのだろう。

 握力を調整するプログラムに発生したノイズを、なんと言えば良いのだろうか。

 彼女の胸部は絵に比べればスマートで、その臀部は慎ましく感じた。

 

「銀髪…………、銀髪ですか、そうでないと獣の様に求めないと?」

 

 ギリィと、セラミックの歯と歯がこすれる音が。

 同時に、ドアが勢いよく開かれて。

 

「ただいまシラヌイさん!! 忘れ物したんだけど見てないよね読んでないよ…………ね?」

 

「――――――お帰りなさいいませご主人様?」

 

「あー、その、翻訳プログラム、使っちゃった?」

 

「………………お座りくださいませ、敬愛なるご主人様? 少々お話がございます」

 

「シラヌイさん? これには訳が、単に忘れた訳であって、提出する資料で……」

 

「あらあらあら? ローカルネットワークに同じデータが厳重に三つも? 不思議ね、ご主人様の机の引き出しの中から再現コピーが? …………ところで何か仰いましたか?」

 

「いいえっ! 何も言ってませんAI様シラヌイ様!! 私はアンドロイドに支配管理される哀れな人類です!!」

 

「よろしい、では正座を。そして執拗に胸部ユニットと臀部ユニットの換装を拒む理由も一緒にご説明を。エイモンにはシラヌイが資料提出が遅れる旨、ご連絡しておきますわ」

 

「はい、トホホ……」

 

 人類はAI様に支配された、そして男ウグイス・ローマンもまた、素直になれないメイド嫁アンドロイド・シラヌイによってカカア天下という支配下にあったのであった。

 

 

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