僕と兄貴と銀河天使と   作:HIGU.V

11 / 98
閑話 ラクレットの一日

ラクレットの朝は早い。

 

 

「朝……眠い」

 

 

エルシオールの時間で午前5時には起床するのだ。その後15分で着替えと洗顔などの身だしなみを一通り整え、展望公園に走りこみに行く。朝の走りこみは彼が小さいころから続けている習慣だ。クリオム星系にいたころから家の周りから、近所の駄菓子など、町中を縦横無尽で走り回っていたのだ。距離や時間といったものを決めてはいない上に目標もないのだが、オリ主と言ったら、早朝ランニング。という謎の自分ルールを決めてこなしている。運が良い事に彼の体は中々にスペックが高く生まれた為に、そこまで苦に感じる事はなかった。

 

2,3kmほど軽く流した後に、愛剣である求めの形をしたレプリカ、刃はつぶしてある摸造刀の素振りを始める。使用者の体重の10パーセントになる仕組みのそれは非常に重く、全力で殴れば鈍器になる程だ。

こちらも特に決まった型はなく、というより、彼に剣の知識などはないので、本当に振っているだけである。彼はこのように剣の素振りをすることを単純に筋トレ程度にしか考えていないのだ。もはや、人間が軽々と片手で振り回せるような重さではないのだが……彼は気付いていない。

 

 

「む、ラクレットか、今日も無茶苦茶に振り回しているのか」

 

「おはようございます、副指令」

 

 

早朝の公園では稀に夜勤明けのレスターと遭遇することがある。レスターは、夜勤明けにクロノドライブ中のしばらくの安全が確保されている時、フェンシングの型の稽古や、ランニングなどを行っている。そうでない場合は軽いクールダウンやリフレッシュも兼ねて、競歩ほどの速度で講演を1周するだけだが。彼は士官であり、体を鍛える必要はそこまで無いのだが、軍人であり生真面目なレスターは日々欠かさずトレーニングを重ねているのだ。余談だが、彼がいくら誘っても参加しない彼の上司は、この時間睡眠を貪っている。

 

 

「身体能力は高いみたいだが、使い方がなっていなければ意味が無い。一度本格的に鍛えてみたらどうだ?」

 

「そうですね。力があろうと、その使い方を間違えれば傷つけてしまう」

 

「ん? ともかく、もしオレが時間があったら、少しくらい格闘術の手ほどきは教えることができるぞ」

 

「ええ、きっと僕が覚えるのは名も無き戦闘法、敵を倒すのにたいそうな技などいらないのですから」

 

 

微妙に食い合っていないのだが、徹夜明けのレスターはどうでも良いような細かいことには反応せずにラクレットを誘った。タクトの分の面倒な仕事も変わりにやっていていて、多忙を極める彼だが、最近は一部をラクレットが手伝っているので少しだけ緩和されたのである。そのため時間が無いこともなかったのだ。勿論特別な教育を受けたわけでは無いラクレットができるのはそれこそ備品の数字合わせといったものであるが。

 

 

 

 

 

その後自室に戻り、シャワーを浴びた後に、部屋の前で朝の点呼があるのでそれを済ます。ちなみに彼の部屋は、エンジェル達と同じ階層にあるが、少し離れている。空き部屋というか倉庫として利用していたものに彼は住んでいるのだ。その後はお待ちかねの朝食だ。朝食はまだ空いている内に食べるのが彼の日課で、点呼が終わり次第すぐに向かう。注文した日替わりの定食を食べると、歯を磨きに部屋に戻る、彼は、起きた直後と、朝食を食べてからと二回歯を磨くのだ。

 

 

「正直、世の中に虫歯ほど恐ろしい生活病は無いと思う」

 

 

これが彼の持論である。言っている事はまともだが、空気が読めていないともいえる。

エンジェル隊や、彼の所属する戦闘機部隊は基本的に、通常の業務は無い。常に万全のコンディションでいるのが仕事のようなものだ。そのためにエンジェル隊の面々は思い思いの方法で暇をつぶす。

待機を目地られている時、彼はまず自身の戦闘機の整備に向かう。基本的に整備班の者達が行っているのだが、彼自身が整備の後に一度システムの調整をするのだ。自分に合った微調整が必要なので、面倒であるが楽しんでこなせる業務でもあった。

それが終わると今度はシミュレータールームに向かう。そこで彼は自身の戦闘機の設定で、いろいろな状況に対応できるように訓練を行う。基本的にこれは現在クロノドライブ中で、敵襲の心配がないからできることで、通常空間を航行中のときはオミットされる。シミュレーターとはいえかなり体力を使うものなのだ。

一通りシミュレーターを動かした彼は、一度自室に戻りシャワーを浴びる。昼食までに時間がある場合は、彼の持ち込んだ私物ではなく、ここで購入したギターの練習をする。彼は、オリ主たるものギターは基本という考えの下に8歳から練習を始めたのである。しかしながら、彼にはこの方向に、壊滅的なまでに才能は無かった。最近ようやく指をつらないで弦を押さえられるようになったくらいだ。

一度音楽の教師に見てもらったところ、1世紀に一人の天才だといわれたくらいである。負の方向でだが。不器用か否かで判断するならば不器用である彼は繊細な指の力加減が必要である楽器の演奏が苦手なのだ。操縦レバーの傾きといったものは骨まで浸透させるように、すぐに覚えられるので、不思議ではある。

 

昼食を食べた後は、レスターからもらった書類仕事である。彼は、基本的に暇であることが嫌いな人物だったので、何かすることはないかと聞いてみたところ、備品などの整理や、艦内のクルーの苦情などをまとめるなど、事務的な仕事を頼まれたのである。

 

早く終わると、その日は彼の趣味である料理や、ジグソーパズル、最近だと無地の500ピースのタイムトライアルであるが、そういった物で時間を潰す。料理のほうは、家庭科でAを取れるくらいであるが、ミルフィーユがいる以上、彼の料理を誰かに振舞うことは無いであろう。おそらく食べても評価は「普通、可もなく不可もなく」といった評価であろうから。この料理も転生してから始めた趣味であり、オリ主はヒロインを餌付けできなければだめだという思考の元に始まったものだ。成果は前述の通り一人暮しには困らない無難な物というレベルで、得意料理はないが、野菜の皮むきなどには自信があるそうだ。

今のところ食べさせたい相手はいない彼であるが。まれに時間が合えば、ミルフィーに料理を教わりに行ったりする。まだまだ、彼女の腕には遠く及ばないラクレットには学ぶべきことが多いのだ。

 

 

「ラクレット君は、お母さんの手伝いしてたのかな?」

 

「ええ、ですが母が大層な家事好きでしてあまり手伝うと泣いてしまいまして」

 

「そうなんだー。私はお母さんと一緒にお菓子作りとかをしてたの。それを妹がおいしいって言ってくれて。それがうれしくて何度も作ってたら何時の間にかお料理とかが好きになって」

 

「妹さんですか?」

 

「うん、私と違ってしっかり者のいい子なの。7つも下なんだけどね」

 

「そうですか。きっと、かわいらしい娘なんでしょうね」

 

 

その後は、宇宙クジラに会いに行く。彼が順番に仲の良いクルーの名前を挙げよといわれたら、間違いなく最初にクロミエと答えるであろう。次に梅さん、レスターと続く。だいぶ肉体に精神を引っ張られている彼は、おそらく後数年したら、『またやってしまったぁ!』 と後悔することになるであろう。主に中二的な意味で。

要するに14歳のラクレットと、年齢がひとつしか変わらない上に、同姓?(両性具有である可能性もあり確証は持てない)であるクロミエとは仲がいいのだ。

体を鍛えるのは好きだが、基本趣味がインドア派のラクレットと、誰がどう見ても草食系かつ、おとなしいクロミエは地味に話が合うのだ。彼らは宇宙クジラの世話をしたり、動物達の世話をしながら、軽く雑談をするのだ。その後、一通り終えたら、動物達を眺めるヴァニラを二人で眺めながらまた雑談を続ける。

話題は主にクロミエが動物について話せば、ラクレットが地球にいたいきものを、古代生物図鑑を読んで知ったということで話す。生前ドキュメンタリー番組が好きだった彼は、地味に知識が豊富だ。稀にヴァニラが二人の話をそばで聞いてることもある。

かなり平和なひと時であり。ヴァニラちゃん親衛隊の面々はそれを遠くから見つめてただ和むのだ。

 

 

「そういえば、クロミエ」

 

「なんですか?」

 

「宇宙クジラって、オスなのか? メスなのか?というか、そもそも生殖機能を持っているのか? 」

 

「……聞いてみますか?」

 

「いや、別にいいぞ。お前が知らないなら僕が知るべきじゃないだろう。昔のクジラは、普通に子供生んで育ててたからな」

 

「そうなんですか。まあ宇宙クジラは特別ですから」

 

「クジラとイルカの差って、タカとワシみたいに大きさでしかないらしいよ」

 

「なぜそんなにアバウトなんでしょうね?」

 

「さあ?」

 

「……。(……大きく育ったイルカはどうなるんでしょうか?)」

 

 

 

「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「(悩んでるヴァニラちゃん可憐だ、あぁ貴方は天使だ)」」」」」」」」」」」」」」」」」」」

 

 

夕食を食べた後はその日の気分ですることが変わる。艦内を散歩したり、トレーニングルームで筋トレをしたり、ジグソーパズルをしたり、おおむね普通である。家にいたころは、ゲームなどを、とことんやりこみしていたが、ここに持ち込んだのは、摸造刀『求め』と、最低限の生活用品、加えてポケットに入っていたジグソーパズルだけなのだ。ゲームを持ち込んでおけばよかったと心の底から後悔している彼である。

最近はまっている『トランスバールの森の中』という学園育成ゲームの続きがやりたくてたまらないのである。

 

その後3回目のシャワーを浴び、就寝する。遅くても11時には寝るのが彼である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

全く持って、エンジェル隊のメンバーと仲良くなると豪語していた人物の行動では無い事に、全く疑問を持たないのである。

彼は、原作イベント以外にはほとんど関与しないのであった。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。