僕と兄貴と銀河天使と   作:HIGU.V

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第二十六話 決戦────因縁の決着

 

 

 

 

「悪いけど、こちらも負けるわけには行かないんでね!!」

 

「クッ……集中狙いか……」

 

 

現在この宙域はまさに混戦と言うべき状況であった。エンジェル隊はヘルハウンズ隊の駆る『ダークエンジェル』と入り乱れた戦いをしている。エルシオールからは少々離れた距離であり、万一エルシオールに奇襲をかけようものなら、船に張り付く前に、背後を見せた途端に沈められるであろう距離だ。技量は高いものの、個人プレイでの攻撃が主体であるヘルハウンズ隊は、今までの戦いで急速に成長しているエンジェル隊のチームプレイにより、やや押され気味であった。

 

エルシオールには足の速いミサイル艦、高速突撃艦が襲い掛かろうとしているものの、的確にこちらの武装が届く限界の距離を維持しつつ移動し続けているエルシオールに、たいした打撃は与えられていない。その理由の大きな所は、タクトのエルシオールの動きは全てレスターに委ねるという英断の結果だ。

 

戦闘前に自分はエンジェル隊の指揮に専念したいから、エルシオールの行動の全ては任せると言い出したのだ。当然レスターは動揺したものの、タクトの真剣な表情に押されて、その役目を負うことにしたのである。レスターは敵の今日までの戦闘時の動きから、敵AIが持っている行動原理をある程度把握しつつあった。そして、今までの戦闘において最もエルシオールの火器の管制に口を出していたのはレスターであり、『被害を最小限に抑えてほしい』というタクトのオーダーに答える最高の存在でもあった。

もちろん軍人であるレスターをもって『貧弱』と呼ばれるエルシオールの火器だけで、敵を倒せるわけではない。装甲の比較的薄いミサイル艦一つ落とすのにすら、手間取るのだ。しかし、それを補っているのが

 

 

「敵機撃墜。レスターさん、次の標的は」

 

「高速突撃艦Cだ、ミサイル艦Fはこちらで対処する。40秒以内に頼む」

 

「了解しました!!」

 

 

エルシオール防衛の任についているラクレットだ。今回のエオニアの旗艦や、戦闘母船という『エタニティーソード』に相性のいい『超火力鈍足重装甲』の敵と、敵紋章機『ダークエンジェル』のような極端に悪い『高速高軌道』の敵が居るこの戦場において、最前線での切り込み隊長的命令が下るかと思ったのだが、その考えは裏切られ、エルシオール防衛に回された。ついでに優先排除目標である、『ダークエンジェル』が片付くまでは、レスターに指揮権を任せているのだ。

 

リーチの短い『エタニティーソード』はスピードを活かして接近するのが常だが、相手が接近してくる上に、エルシオールよりも攻撃優先度が低く設定されているので、ターゲットにされにくく、見事に持ち味の高い攻撃力を活用していた。開戦直後に数隻の艦を落としてからは、エオニアが指示したのか、そういうAIなのか、ある程度攻撃対象になっているようで、スコアは伸び悩んでいるものの、時間稼ぎつつ、エルシオールの被害は最小限にするという任務は見事達成されていた。

 

 

 

「っく、なぜだ!! 同じ『月製の戦闘機』、性能に差は無いはず……それならば、技量に勝る僕が押されるはずが無い」

 

「慢心が過ぎましてよ。だいたい「技量で勝っている」という主張にしがみ付いているようですが、私たちに勝てたことが無いという事実が、それすら肯定されないと言うことに気付きませんこと? 」

 

 

自称貴族出身のリセルヴァは、目の敵にしているミントの機体からの攻撃を受け、右翼のスラスターが機能を停止したことに悪態をつく。ミントはそれこそ、そよ風を受けたかのような、飄々とした冷ややかな表情で口撃し追い討ちをかけている。すると怒りで赤く染まっていた彼の顔はさらに恥辱が加わったのか、真っ赤と形容するしかない顔色になる。

まるで、湯沸かし器のようですわね。と結局の所、プライドばかりが高く、短気であるリセルヴァに対して心の中で呟き、ヴァニラのフォローに入る。タクトから指示が来たのだ。

 

 

「ヴァニラ・Hのクセに生意気だぞー、ちくしょう!! 」

 

「うるさい」

 

 

凛としたその良く通る声にベルモットは一瞬ひるんでしまうものの、手の動きは止めず彼女の機体『ハーベスター』の隙を窺う。毎回彼は攻撃力の低いものの、味方を補修してしまうと言う厄介な彼女の機体を、最優先に排除しようとする。しかし攻撃がメインではない彼女の機体は、回避に専念することが多く、なかなか削りきれずに手の余った別の紋章機に落とされると言うパターンで毎度沈んできた。

 

今回は『ダークエンジェル』という、強力な自機に搭乗しているため、果敢に攻めていたのだが、何時も以上に優れた回避能力と的確な誘導ミサイルによる中距離攻撃により、むしろこちらの損害が増してきているのだ。彼は、そのまま『ハーべスター』の周囲を旋回しつつ散発的に攻撃を加えようと、ペダルを踏み込むのだが、警戒してなかった『トリックマスター』の『フライヤー』による攻撃でエンジン部分に攻撃を食らってしまい、機体出力を大幅に落としてしまうのだった。

ヴァニラは多少損耗していた『トリックマスター』の補修の為に機体をそちらに向ける、ランファとミルフィーの戦いを横目に見つつ。

 

 

 

「うぉぉぉ!! さすがはオレの好敵手《ライバル》いや、友《ライバル》だな!! だが、オレもそう簡単にやられはせん!! 」

 

「煩いし、しつこいし、暑苦しいのよ!! 宇宙空間に出て頭冷やしてきなさい!! 」

 

「ミルフィー、君にはあんな男より僕のほうが相応しい、さあ僕の胸に飛び込んでおいで」

 

「遠慮します!! 私にはタクトさん以外にいないんだから! 」

 

 

こちらの4人はそれぞれ自分の機体の速度を活かした高速戦闘で鎬を削っていた。他のヘルハウンズ隊とは違い、かなり拮抗した戦いである。その理由のひとつに、初っ端にレッド・アイを落としたことにより、敵のマークがついていないフォルテの『ハッピートリガー』が介入しようにも、入り乱れすぎて誤射をしそうだという事がある。そのため、現在フォルテは近づきつつある戦闘母艦の牽制をタクトにまかされている。

 

 

「ミルフィー、上から!! バ~ンといくわよ! 」

 

「……うん! わかった!! 」

 

 

ランファは『カンフーファイター』の操縦桿を手前に思い切り倒し、機体を急上昇させる。それに右後方から『ラッキースター』が追従するのを横目で確認した後、左に旋回する。急な方向転換だが、ミルフィーは瞬時にランファの意図する所を理解したのか、真上への上昇をやや右にそらす。

ヘルハウンズの二人は自分のターゲットである機体を追う為、ランファの急上昇時点で追いかけ始めたのだが、先程まで寄り添うように飛んでいた敵機が、二手に分かれたことに一瞬のタイムラグが生まれてしまう。結局自分のターゲットをそれぞれ追いかけようと、二手に分かれようとした。

ギネスは急旋回したランファを追うために右に機体を向ける、その瞬間『カンフーファイター』の右翼部にある各スラスターの出力がまるで暴発でも起こしたかのように急上昇した。

 

 

「なんだとぉぉぉ!! 」

 

 

『カンフーファイター』はその勢いによって、滑るようにそのまま180度向きを変えた。そのタイミングで背後のエンジンは限界まで絞られ、慣性に任せて後ろ向きに進んでいる形になる。ギネスは、全ての砲門がこちらに向いている敵機に突っこむ形になったのだ。雨霰のようにミサイルと、粒子ビーム砲が降り注ぐ中、すぐさま直感で左下に避ける。

その判断は正しかったのか、一瞬のうちに弾幕からの脱出に成功するギネス、してやられた悔しさを感じるものの強敵の手強い行動により激しい興奮を覚えた。

 

 

「やるなぁぁ!! だが、オレを倒すには届かないぜぇぇ!! 」

 

「あら? 本当にそうかしら? 」

 

 

そう捲くし立てる彼に、ランファは余裕の笑みを浮かべて問いかけた。一瞬何のことだ? と考えてしまうが、その刹那で先程と同じ悪寒が背筋を走る。同時に直感が働き機体を動かそうとした。しかし、二度も幸運は続かなかったのか、機体の前方に突如桃色の壁が現れた。

 

「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! 」

 

「やったよ!! ランファ!! 」

 

 

そのピンクの壁の正体は、『ラッキースター』の特殊兵装ハイパーキャノンだった。ギネスは自ら砲撃に飲まれに行ってしまい、機体を大きく損傷させてしまうのだった。ランファは先程、ミルフィーに特殊兵装を使うように遠回しに指示したのだが、それが順調に事を運んだようで、見事にギネスを落とせた。

 

 

「それじゃあ、こっちも行くわよ!!アンカークロー!! 」

 

 

あとは、こちらの仕事だといわんばかりにランファはエンジンを再び動かし、瞬時にトップスピードにすると、電磁式ワイヤーアンカーを伸ばし、ミルフィーの後ろに張り付いて、今まさに攻撃を仕掛けようとしているカミュの機体を殴りつける。

 

「っく!! ミルフィー以外の人間にやられるとはね……」

 

「あんたらは、個人に固執しすぎなのよ!! ヘルハウンズじゃなくてヘルストーカーズの方があってたんじゃない? 」

 

 

カミュの機体も戦闘続行は難しい損害を受けたようで、宙域から離脱しようとしている。完全に芯を捕らえたつもりのランファだったが、敵もとっさに回避行動をとったのだろう。

しかし、これでどうにかヘルハウンズ隊の撃退に成功した。

 

 

「よし、みんなエルシオールはこれから、『旗艦ゼル』を最優先排除対象にする。レスターは引き続きエルシオールを頼む。ラクレットは早速で悪いけど、フォルテが牽制している敵に止めを。ヴァニラは距離をとりつつ、ラクレットのカバーを。他の皆はいったん補給に戻ってくれ、一気に決める」

 

────了解!!

 

6つの声による返事を聞きながら、タクトは補給の後にどうやって仕掛けるかの4つ目の策を考え始めている。とりあえず、ラクレットが母艦を落とせるかにかかっているなと、結論をつけたタイミングでレスターから声がかかる。

 

 

「そういうつもりなら……操舵主!! 進路を2時方向に変更、足の遅い『ハッピートリガー』を迎えにいくぞ!……その方が都合が良いだろう? 」

 

「ああ、頼む」

 

「フッ、どうせ俺がこうすることを含めて考えてるんだろ? 」

 

「さぁ? どうだろうね? 」

 

 

戦闘は早くも佳境に入ろうとしていた。

 

 

 

 

 

「ヴァニラさん!! 右上から仕掛けますから誘導ミサイルをお願いします! 」

 

「わかりました、お気をつけて」

 

 

ラクレットは宣言と同時に機体を移動形態に変更し、黒翼を羽ばたかせる。ここには大気はないが、翼は『H.A.L.Oシステム』により、統制された『クロノストリングエンジン』からのエネルギーを糧にして驚異的な加速を得る。黒い羽を軌跡に残しつつ『エタニティーソード』は今までに無いほどの速度で敵の母艦に迫る。

 

敵の圧倒的な大きさに、目視では距離感がおかしくなってしまう。そう考えたラクレットは表示される彼我の距離を元に到着までに時間を算出する。しかし、一瞬思考を割いた事により、眼前に迫るレールガンによる迎撃を回避し遅れた。

 

 

「っぐ!!……シールド出力の低下だって? んなこと、判ってるっつーの!! 」

 

 

当たり所が悪かったのか、急激にシールドが減衰してしまう。しかし、彼が勢いをとめることは無かった。信じて預ける背中には無敵の癒し手がいるのだから。

 

 

「癒しの波動を……リペアウェーブ」

 

「ありがとうございっ! ます!! 」

 

 

『ハーベスター』の特殊兵装リペアウェーブだ。コレによって散布されたナノマシンでラクレットの機体は応急処置的な補修を受けたのだ。しかし、ヴァニラの機体は少々特殊兵装を発動するためにテンションが足りなかったのか、エネルギーで無理矢理代用したようで、一度補給に戻らざるを得なくなった。ヴァニラに向いていた攻撃や、ミサイルの援護を迎撃するための攻撃分が全てこちらに向く。砲門の数は剣を数に入れてもやっと2対120といったところだ。いくら回避に優れる『エタニティーソード』でも戦闘母艦に単騎でつっこむのは大変困難であった。

だが、今のラクレットは違う、シャトヤーンの力により、機体の性能をより引き出すことに成功した彼は、機体をあえて速度の劣る攻撃形態に変更し、さらに距離を詰める。ミサイルなら回避し、レーザーやビームならば剣で受け止め、レールガンなら斜線からそれる。そう言葉にすると単純だが、技量的には神がかりなその行為を、彼は額を汗でいっぱいにしつつこなす。

このような離れ業が出来るのは、リミッターが外されたことにより『H.A.L.Oシステム』の持つ予知能力が、ラクレット自身の予知能力と強烈なシナジーを起こし、一瞬の後の光景を脳に焼き付けているからだ。ラクレットは今、その事を自覚していないが自分の近くに入る情報に対処するように動かしている。それこそが最適な行動になり、攻撃を躱して、接近を許しているのだ。土壇場になって、このようなことができるようになるあたり、彼にも戦闘機乗りとしての才能はあったのであろう。

 

攻撃を紙一重で捌き続け、なんとか懐に入る。敵艦の表面ギリギリにへばりつき、剣を敵方向に向けて縦横無尽に飛び回る。片端から砲門を無効にしているのだが、この母艦には、フレンドリーファイアーや、誤射防止のためのシステムが入っていないのか、自らにも損害を与えるのにもかかわらず、兵器で『エタニティーソード』目掛けて攻撃をかまして来ているせいで、シールドがどんどん目減りしてゆく。機体が傷つく中、彼はそれでも敵の表面で暴れまわる。手の甲や頬が焼けるように熱い、しかし今はそんなことなど、もはや構いもしなかった。

なにせ、それすらもラクレットにとっては都合のいいものだった。『攻撃を、受ける、躱す、与える』それらの行動によりパイロットというものは自分が戦闘していることを実感する。戦闘の渦中においてテンションが限界まで上がるのだ。

 

 

「『エタニティーソード』力を貸してくれ……僕は、希望をつなぐ力になるんだっ! うおおぉぉっっ! 」

 

 

彼は純真な天使でもなければ、伝説の勇者でもない。祈って奇跡が起こるわけでもないし、神から祝福された幸運も無い。一人で全ての敵を倒す覇者の資格も、自分だけができる特殊な能力もない。だが、それでも────誰かの力に成りたいという願望だけは本物だ。『H.A.L.Oシステム』はその願望によってより高い出力をくみ出すことすら可能なのだ。

 

 

「コネクティドゥッ! ウィル!!」

 

 

両の手に持つ双剣をあわせ、一つの巨大な剣と成す。何の面白みもない、右から左への一閃を振りぬいた。その斬撃により母艦は一刀両断されるが、まだ彼の勢いは止まらない。そのまま自分が切り開いた母艦内部を突っ切り、その後ろに構えていたもう一つの母艦までもが彼の剣の間合いだった。

 

 

「消え去れぇぇっっ!!」

 

 

機体の左肩の後ろでためを作り、その勢いで2つ目の母艦を断つ。それは彼の機体の成せる最高の攻撃であった。後に残るのは、四散した敵母艦二つ分の残骸と呼ぶべきジャンクのみだった。

 

 

 

「……目標、沈黙……戦闘母艦はこれで全滅です……次の……指示を……」

 

「いや、後は数隻の高速突撃艦と旗艦だけだ。エンジェル隊の調子は万全。一端補給に戻ってくれ」

 

「……了解……しました」

 

 

タクトはラクレットの予想以上の戦果に内心舌を巻いていた。損害を与えられれば良し。特殊兵装が決まれば、沈む寸前まで追い詰められるであろうと思っていたが。まさか沈める、しかも2隻いた両方をとは思わなかったのだ。だが。それによりもはやエオニアは、一時的に撤退をすべきであろう所まで戦力を失ってしまっている。

「逃がしはしない……」

タクトは心の中でそう強く唱えた。

 

 

「お疲れ様です」

 

「露払いは十分。後はアタシたちにまかせなさい!! 」

 

「少々見直しましたわ」

 

「私たちを守ると豪語するだけのことはあるね」

 

「すごかったです!! 」

 

「……ありがとうございます。それでは後は頼みます」

 

 

エンジェル隊からも、今のラクレットを褒め称える言葉が絶えなかった。ラクレットはそれらをかみ締めながら、『まだ始まったばかり』であるこの戦場の戦闘で、これだけの疲労感は正直まずいかもしれないと内心焦るのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




Q あれ、初登場より活躍してない?

A 今回は別に勝負を楽にしただけで、勝利を掴む決定打になったわけではない。

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