僕と兄貴と銀河天使と   作:HIGU.V

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第二十七話 決戦────クロノブレイクキャノン

 

 

 

 

「くっ……予想以上に損耗が激しい、ここは一端前線を下げるぞ。各旗艦に通達せよ、可能な限り相手に損傷を与えつつポイントAWh14まで後退せよ」

 

────copy that.

 

 

台詞からは、劣勢であることが察せられるが、正統トランスバール皇国軍のトップ エオニア────彼の表情は涼しいとまでは行かないものの、まだ余裕はあった。なにせ、自分は打つ出の小槌の如き『黒き月』を従える正統なる皇族なのだ。事実『黒き月』の中には無人攻撃衛星を筆頭に伏せられたカードもある。もっと単純に自分の後ろにはおよそ"2"方面軍分の艦隊が控えている。

彼は自分の肉声を認識する管制システムで全艦に指示を飛ばした。通信役のオペレーターもいるが、その人員は現在自分のダメージを計算している所だったのである。

 

 

「今はいきがっていると良い、エルシオールよ……所詮は1隻と6機、そちらに勝ち目などッ!! 」

 

 

しかし、そのエオニアの余裕の宣言を妨害するかのごとく、アラーム音が鳴り響く。すぐさま手元のコンソールを操り原因を探る。するとそこには驚愕の事実が書かれていた。

 

 

「馬鹿な……! あの状況から……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「司令! 援軍です! 当艦の11時方向、敵戦艦群の左側面に多数のドライブアウト反応を確認しました」

 

ルフト率いる援軍の到着であるドライブアウトと同時に行われた集中砲火はエオニア軍に甚大な被害をもたらした。

 

 

 

 

「どうにか間に合ったようじゃの。タクト、シヴァ皇子は無事かの?」

 

────ルフト准将!

 

 

ドライブアウトし現れた戦艦を率いていたのはルフトだった。もう何度目か判らない彼の突然の出現に、タクトとレスターは驚く。ルフトが率いている艦隊は数にしておよそ180隻といった所か、そのいずれもが皇国の最新鋭ザーブ級戦艦とパーメル級巡洋艦であり、エオニアのおおよそ300隻の戦艦の背後からレーザーとミサイルの嵐を浴びせたのだった。

数の上ではまだこちらが不利だが、無人艦隊と侮る人員がいない今は、無人艦よりも確実に質で勝っているであろう。これでタクト達はエオニアの旗艦に集中することが出来る。

 

 

「エロスン大佐はいい仕事をした、これは戦後に褒章をやらんとな……ともかく、有象無象はわし等に任せておけ」

 

「はい!」

 

「了解です」

 

 

ルフト准将がここまでの戦力と共に来られたのは、エロスン大佐が必死で戦力の調整、人員の再配置等の諸々の雑事を、言葉どおりの不眠不休で身を粉にして処理してきたからである。そんな彼は

 

 

「旗艦殺し《フラグ・ブレイカー》によろしくと伝えてください」

 

 

と言って倒れ、ファーゴに残留した、戦闘には支障あるが、問題なく動く艦で寝込んでいる。タクトは通信を切るとエオニアの旗艦を追いかけるエンジェル隊の動きに意識を裂くのであった。

 

 

 

 

「くそっ! 黒き月!! 応答しろ! 」

 

「なぜだぁぁ!! なんで返事が無い! 」

 

「この僕が……こんな所で終わろうというのか! 」

 

「……剣は、折れた」

 

「ちくしょぉ! オイラ死にたくない!! 」

 

 

ヘルハウンズ隊はちょうど黒き月に向かっていた所で、ルフトの援軍と自分の艦隊の弾幕の中を航行している。運の悪いことに彼らを挟むような位置に援軍が出現したのである。ただでさえ損傷を受けているのにもかかわらず、このような環境では10分と持たずに宇宙の埃と成ってしまうであろう。『黒き月』はいくら呼びかけてもこちらの応答に答えようとはしない。彼らの心の中は暗雲に満たされていた。

 

 

「黒き月!! 応答しろ! ノア! 」

 

 

もはや、死有るのみか。そのような言葉が頭の中で囁かれた時、急に彼らの通信スクリーンに、金髪の美少女が映し出される。それは、彼らも良く知る人物、ノアだった。彼らは彼女からこの機体を渡されたのだ。普段彼女は『黒き月』かエオニアの旗艦のどちらかにいるのだが、今日は戦闘をする為『黒き月』にいるようエオニアから言いつけられていた。つまりは『黒き月』からの通信である。

 

 

「力が欲しいの? 」

 

 

口をそろえてその言葉を肯定する。彼らは今を生き残るためならば、エオニアに謀反を起こしても良いとすら思っていた。もっとも彼らは忠誠心が高いわけではなく、エオニアからも忠臣との扱いは受けていなかったのだが。事実リセルヴァなどは将来的に皇座を簒奪するつもりでいたのだから。

彼女は彼らの返答が予期していたものと同じだったのか、薄く微笑みを浮かべる、まるで自分のお気に入りのおもちゃを自慢する、無垢なる少女の様な表情を浮かべ、口を開いた。

 

 

「どんなことをしても?」

 

 

────そうだ!だから早く助けてくれ!!

 

 

そう言って彼らは、悪魔の契約書にサインをした。そして、ノアの口元が吊り上がりそれは始まった。

 

 

 

『ダークエンジェル』のパイロット座席の後ろから数本の触手の様な管が伸びる。それの先端は針のように鋭く尖っており、大きく撓り彼らの首筋に狙いを定めた。彼らが後ろを振り向こうとした時には全てが終わっていた。首筋にズブリと刺さった管は彼らをダークエンジェルと結合させる。彼らの神経という神経は『ダークエンジェル』と同化してしまったのだ。変化は一瞬だった、彼らは自分が人間という種が手に出来るであろう、個としての力の領分を侵した。結果、圧倒的な全能感と共に彼らは自分というものを失ったのである。

ヘルハウンズ隊を取り込んだ『ダークエンジェル』は自身の形状を変化させる。人間であったから必要であったキャノピーは、分厚い金属の装甲に覆われ、Gに対するキャンセラー等も外され、エンジンの出力をダイレクトに外に伝える機構などにシステムが書き換えられた。完全に無人機としての仕様に切り替えられたのだ。同時にパイロットであった彼ら、いや彼らの脳は戦闘機用のAIとして働くモノに成り下がった。彼らが培って来た技術は、単なる情報として置換され、記憶から記録に変換。つまりは生体コンピューターだ。

彼らは今ただ敵を倒すという目的でのみ戦闘を行う、殺戮マシーンとなった。そこに死への恐怖や生への執着は微塵もなく、あるのは命令を遂行するという命題のみだった。

 

 

 

 

「ヘルハウンズ隊の、戦闘機が反転してこちらに向かって来てます!! 速度は……先程よりも格段に速くなっています!! 」

 

「なんだとっ! 」

 

 

エルシオールはいち早く、彼らの接近を察知していた。何せエオニアとの進路に割り込むように接近する戦闘機が5機あったからだ。すぐに正体を予想することが出来た。しかし、予想外の速度にタクトは解析を急がせた。

 

 

「司令! あの機体中に人間を乗せる機構が全てオミットされています。形状はほぼ同じようですが」

 

「そんな……生体反応は、確かにあるのに……」

 

 

ココとアルモはいきなりの事態に戸惑っているようで、表情は不安げだ。タクトは冷静に、すでに繋いであった整備班のクレータのウィンドウに顔を向けた。彼女は苦虫を噛み潰したような顔をして、タクトに答えた。

 

 

「……おそらく、人間の体を取り込んで動いているのでしょう。人間の脳はそれだけで優秀なコンピューターですから……おそらく、彼らはもう……」

 

「くそっ! エオニアめ……自分の部下すら駒のように使うというのか!」

 

 

タクトは医務室に待機しているケーラに繋ぐ、事態を軽く説明し彼はこう問うた。

 

 

「この状態の彼らを、元に戻すことは可能ですか?」

 

「正直難しい……いえ、不可能でしょうね……すでに機械と同化してしまっているもの……」

 

 

ケーラは、憂いを帯びた表情で、タクトに気まずそうに話した。自分の医療に携わるものとしての限界を見せられたような気がしたのだ。彼女に責任は塵芥一つほども無いのに、気に病んでしまっているのだ。

 

 

「そうですか……皆、あんな奴等でも顔見知りだ。楽にしてやるぞ」

 

 

タクトは、ケーラとの通信を終えると、前を向き強く宣言する。自分達が、倒してやらなければ、彼らは救われないし、何よりこちらが危ないのだ。エンジェル隊の面々も理解しているのか、その言葉に強く頷く。

 

 

「エンジェル隊! 戦闘開始!! 」

 

────了解!!

 

 

10機の機体が宇宙で絡み合う、最後の戦闘が始まった。

 

 

 

 

「『エタニティーソード』の収容を確認、右腕部の損傷の応急処置を急ぐわよ!! 」

 

───了解!

 

 

格納庫では整備のために戻った『エタニティーソード』を取り囲むように整備班の面々が作業を開始していた。彼の機体は腕の部分の劣化が激しいのだ、先程の特殊兵装の連続での使用が響いているのか、即急に処置が必要であった。

 

 

「ラクレット君、右腕を持ち上げるように操作をお願い」

 

「…………急いで、下さい」

 

 

クレータはラクレットに指示を出すものの、戻ってきたのは熱病に魘されたような上ずった声だった。しかも内容はこちらの言っていることを理解している様子ではない。ここに来てクレータはラクレットの様子がおかしいことに気付き、コックピットに駆け寄って強制的にハッチを開放する。

 

 

「……どうしました? 整備が終わり……ましたか?」

 

 

ラクレットはまさに疲労困憊という表現が似合いそうな様相だった。額は脂汗にまみれ、操縦桿を強く握り締めている腕は小刻みに震えている。クレータは一先ずラクレットを整備の邪魔だから、一端機体から降りてくれと強制的に『エタニティーソード』から出した。

ラクレットは両腕を整備しやすいように動かしてから、すぐに降ろされた、加えて言うと、現在の状況が今一つよくわかっていなかった。そのまま近くの手すりに邪魔にならないように腰掛けて待っていると、クレータが近くまでやってきた。

 

少し休むことで思考に余裕が出来たラクレットは、今になってようやく自分の状況を理解した。先程までの自分は、人の話を満足に聞くことすら出来てなかった。かろうじて、タクトに『一端補給に戻れ』と言われたのを覚えてはいるが、あとは早く戦線に復帰しなければならないという使命感に突き動かされていた。

 

 

「(……戦闘中満足に自己管理も出来ないなんて、なんて不甲斐無い)あの……整備はどのくらいかかりますか?」

 

「すぐに出来るわ、でも貴方は平気なの?」

 

 

そのように、軽い事故嫌悪に苛まれている彼は、クレータの問に一瞬迷ってしまった。本音を言うともうしばらく体を動かしたくない、歩くのすら億劫なのだ。もちろんコックピットに座れば、精神的にある程度の無茶はできるようになるであろうが、それでもしばらくの休息は欲しかった。だが、同時に彼の頭の中に、こんな所で自分だけ休んでいていいのか? という声が聞こえる。今は戦闘中なのだ、戦力の1割ほどの活躍はしていると自負しているラクレットが、戦線を抜けることなど、許されるのか? と責めて来るのだ。その葛藤を全て見抜いたのか、クレータはブリッジに通信を繋ぐ。

 

 

「ブリッジ、こちら格納庫、クレータです」

 

「どうした? 」

 

 

通信ウィンドウが開き、レスターの姿が映る。現在彼は、エルシオールの指揮権を得ているが、やっていることは『クロノブレイクキャノン』のチャージ完了まで敵を追尾するだけなのだ。

 

 

「『エタニティーソード』の処置はあと2分ほどで終了しますが、パイロットの疲労が激しく、戦闘続行は困難かと」

 

 

ラクレットは彼女の有無を言わさぬ報告に、顔を下に向ける。自分が情けないのだ。自分一人で戦闘続行可能だと宣言することも、少し休ませてくださいということも出来ないのだ。その様子をクレータの肩越しに見たレスターは、すぐに状況を理解したようで、振り向いてタクトに話しかける。彼は指揮をしていても、こちらの話をする余裕を常に持っているのだ。

 

 

「タクト、ラクレットの疲労が激しい、ヘルハウンズ隊との戦闘中待機でいいか? 」

 

「ああ、いいよ」

 

 

あっさりそう答えるタクト。まあ、今の性能が上がった『ダークエンジェル』相手に『エタニティーソード』は囮や時間稼ぎ程度しか出来ないという事実もあるのだが。彼の反応は淡白だった。レスターはそれを予想していたのか、ラクレットのほうを見つめて口を開く。

 

 

「だそうだ、ラクレット、あんまり一人で何でもしようとするな、戦闘母艦を2つ沈めただけで、個人としては破格の戦果だ、気にすることは無い」

 

「……ですが」

 

 

ラクレットは悔しかったのだ、敵の母艦を落としてそこでガス欠になる自分が、その後素直に、少し休ませてくれとも言えない自分が。どっちつかずで全部を自分一人で抱え込むことすら出来ないのだ。なにが、エンジェル隊を守るだ、自分が出来たのはせいぜい雑魚を減らす程度じゃないか。

 

 

「……エンジェル隊と、タクトが信じられないのか? 」

 

「そんなことはありません!! 」

 

「ならば大人しく、そこで待ってろ」

 

 

レスターはそれだけ言って通信を切った。ラクレットはとりあえず、言われたとおり休むことにする。色々思う所はあるものの、命令として言われると、少し気が楽になったのだ。事実、彼も『ダークエンジェル』なんぞと戦っても、まともに相手が出来ると思ってはいなかったからだ。

 

 

「少しはましになったようね」

 

「ええ……まあ」

 

「貴方は一人で戦っているわけじゃないんだから、すこしは他の人を頼ったら? それは別に悪いことでも恥ずかしい事でもないのよ」

 

 

クレータはラクレットにそう微笑む、彼女は彼が今迄、時間に空きが出来ると自分の機体の調整や、シミュレーターによる訓練などに費やしてきたことを一番良く知っている。格納庫に一番長い時間居る彼女は、話こそしなかったものの、『エタニティーソード』に噛り付いているラクレットの姿は良くみていたのだ。

 

 

「そうですね……整備が終わったら言ってください、それまでここにいますから」

 

「わかったわ」

 

 

 

その後、整備が終わってから十数分ほど。ヘルハウンズ隊を倒したという報告があるまで、ラクレットは自分の体の休息に勤めるのであった。

仮にそう、別の平行世界では、この時に無理に出撃したために、その疲労がたたって殉職してしまった彼もいるであろう。そういう意味で彼の決断は正しく、明日の彼は今日の彼より強くなれるのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんだろう、勝ったのに全然嬉しくない」

 

「ああ、むしろ胸がムカムカして、どうにかなっちまいそうだ」

 

エンジェル隊がヘルハウンズ隊の面々を文字通り沈めた時、ブリッジで顰め面を浮かべながらそう交わしていた。敵の人の命をモノのように見る行為もそうだが、タクトの場合は、彼らに自分の指示で止めをさしてやれと命令したこともある。別にタクトもレスターも争うことが好きだから軍に入ったわけではない。これは当たり前のことだが、むしろ争いなどなくなればいいと思っているのだ。ヘルハウンズ隊だって、傭兵部隊でエオニアに従っている奴等だったが、それでも自意識を消され、兵器のコンピューター代わりになるような最期を迎えるべきやつらではない。

タクトはもう一度、前方スクリーンの中心に聳え立つエオニアの旗艦を睨みつける、情状酌量の余地などもはや無かった。

 

 

 

「『クロノブレイクキャノン』の充填率は? 」

 

「あと10秒ほどでチャージ完了です」

 

「……レスター……撃つぞ」

 

「ああ、やっちまえ……お前なら力に酔うなんてことは無いだろうからな」

 

 

 

『クロノブレイクキャノン』をシャトヤーンから授かった時、彼ら二人はこの強大な力に惑わされたのならば、エオニアと同じだということを強く認識していた。そのためここぞという時にしか使わないでおこうという方針で、今日の戦闘をこなしてきたのだ。事実、『クロノブレイクキャノン』の充填には多大な時間を費やすので、戦略的にもそう乱発することは出来なかった。

 

 

「チャージ完了しました、いつでも撃てます!! 」

 

「わかった……目標、エオニア旗艦、『クロノブレイクキャノン』撃てぇぇ!! 」

 

 

タクトのその言葉と同時に、エルシオール下部に設置された、巨大な砲台────『クロノブレイクキャノン』から天文学的量のエネルギーが一直線に飛び出した。エオニアの数百メートルを軽く越す全長を誇る旗艦すら、余裕で優雅するそのエネルギー砲は、『黒き月』がファーゴで放ったそれとなんら謙遜のない威力であった。

エオニアの旗艦は瞬く間に莫大な光量の輝きに包まれ────消滅した。

 

 

 

 

 

 

 

「馬鹿な……ノア、私が……私こそが、真のロストテクノロジーの継承者だと言ったではないか、その私がなぜ……」

 

 

戦後証拠品として回収された、敵艦の通信記録に残っているそれが、トランスバール皇国史上、最も罪深き功績ある『人間』と後世で呼ばれる、エオニア・トランスバールの辞世の句であった。

 

 

 

 

 

 

 

「敵旗艦、消滅を確認……司令!! 」

 

「ああ、やったんだ。オレ達の勝利だ」

 

「長かったな、今日まで……といってもエルシオールに来てまだ二月もたってないが」

 

 

ブリッジの人員は、喜びの勝利よりも、一仕事終えた達成感で、安堵に包まれているといった感じだ。しかし、そんな空気を壊すように、エンジェル隊から通信が入る。ようやく争いが終わったという開放感からか、彼女たちはいつにもまして元気にあふれていた。早速祝勝会はどうしようかとの会話をしているくらいだ。切り替えが大変早いことである。

 

 

「タクト、ようやく終わったね、お疲れさん」

 

「私たちの活躍、最後の最後で掠め取られた気分ですが、無事勝利できたので、良しとしましょうか」

 

「……私たちの勝利です」

 

「ええ! これで、ようやくお休みがもらえるわ!! 」

 

「やりましたよ!! タクトさん。これで戦いは終わったんですね? 」

 

 

 

途端に賑やかになるブリッジ。いつもなら、微妙に顔をしかめるレスターだが、今ばかりは、仕方ないかといったかんじで、微妙に投げやりだ。だが、その口元はそこはかとなく吊り上がっており、珍しい彼の笑顔がそこにあった。アルモはその表情に見とれており、そのためか、ラクレットの『エタニティーソード』が出ていたことを報告し忘れていた。

 

 

「すいません、遅れました……」

 

「ああ、ラクレット、さっきはお手柄だったよ。あとは、残存戦力を叩くだけだから、あんまり気を張る必要は……」

 

 

タクトがそこまで言ったタイミングで、突如低い男性の声で広域通信が発せられた

 

 

────ククク、人間とは実に愚かだな、幼子の外見をするだけで簡単に騙される。

 

「誰だ!! 貴様は!! 」

 

 

突然の事態に一気に沸き立つ『エルシオール』。レスターは思わずその声に対して詰問するように叫んだ。

 

 

────我こそは、『黒き月』ノアという少女インターフェイスを借り、ここまで来たモノ。『白き月』よ我に答えよ。

 

 

 

その瞬間、黒き月は自身を分解するかのように広がり始めた。同時に戦闘宙域を漂っていた『白き月』は『黒き月』に引き寄せられるかの如く黒き月へと前進してゆく。

 

 

 

後にエオニアの乱と呼ばれる戦いの、正真正銘最後の戦いの火蓋が切っておろされた。

 

 

 

 

 


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