僕と兄貴と銀河天使と   作:HIGU.V

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閑話 長兄と末弟

 

 

 

 

『エーくん、お客さん来てるよ~』

 

「ああ、今いく」

 

 

通信ウィンドウが突然開き、妻のシャルドネの顔が映る。俺はもうそれに慣れているので、特に驚かないが、突然ウィンドウが開くのに慣れるまでは、結構驚いたものだ。それもまあ昔のことで、今はそんなことで驚いていたらお話にならない。

俺が今いる場所は、クリオム星系第11惑星のスペースステーションだ。ここの名義は俺ので、ここは『チーズ商会』のためのオフィスでもある。通勤に要する時間は20分ほどのかなりいい条件である。というか、個人用シャトルでわざわざ大気圏外まで毎日来てるのは、今みたいに訪れてくる宇宙船がそのまま乗り入れられるようにするためだ。その方が早いし楽だ。

 

先ほどの通信は、俺のオフィスを訪ねて来た人物がいたということで、それを伝える旨がいったん地上の俺の家を経由して、ここに来たという訳だ。本来なら秘書であり、俺のもう一人の妻である、メルローが俺の隣の机で仕事をしているので、対応してくれるんだが、今は身重であるから、地上をいったん経由してという形にしている。そしてさらにちょうど休憩中だったかなにかで、席を外していて、シャルドネが応対したのだろう。

 

そんなことを考えながら、俺は自分の部屋を後にし、宇宙船の乗り入れ口に向かう、そこまで大きくないこのステーション内だ、数分で着く。今回訪ねてきたのはブラマンシュ商会のクリオム星系担当の使いだ。俺は来季から正式にチーズ商会の会長に就任するから、これまで以上にブラマンシュ商会とは良い付き合いをしていくことになる。そのために今まで流していた商品に関して再確認をするとか、そんな感じだったと思う。まあすぐに合うから問題は無いだろう。なんで今まで会長にならなかったのだろう? 本当にそう思う。面倒なことをしてきたな。

 

 

「ミスターヴァルター、ご無沙汰しております」

 

「こちらこそ、お久しぶりです、ブライトマン支部長」

 

 

俺の予想が外れたのか、宇宙船から降りてきたのは、クリオム星系担当のブライトマン支部長その人だった。てっきり代理人を立ててくると思ったのだが、近くで用事でもあったのだろうか? とりあえず、応接間まで案内する。今このオフィスで仕事をしているのは、俺を含めて数人、このくらい自分でやらないといけないのである。次期会長でもだ。

 

 

「にしても、まさか支部長自らここにいらっしゃるとは」

 

「いえ、ちょうど本部から呼び出されていましてね、その帰りですよ」

 

 

そんな感じで、軽く会話を混ぜ合わせつつ、応接間で腰を下ろした。さすがにお茶まで自分でやるわけにはいかないので、接客用のロボットに指示を飛ばして、お茶を用意させている。そんな中俺は目の前に座る、ブライトマン支部長のことを改めて見つめなおした。

ハンク・ブライトマン 42歳。辺境と言われているクリオム星系の支部長である。ブラマンシュ商会において支部長は中々の立ち位置であるが、クリオム星系という、自治文化は進んでいるものの、位置的には本星から遠い上に、重要な資源の産出も、特殊な名産品も、観光の名所もない。支部長には成ったが、そこ止まりの男と対外的に言われている。

しかし、その実はブラマンシュ商会会長の、直々の推薦で支部長になった男だ。クリオム星系は、全くと言っていいほど注目されていない土地、それこそラクレット・ヴァルターの出生地であるくらいだ。であるが、俺のこれからの計画において、かなり重要な土地である上に、そもそもこの土地には特殊すぎる由来がある。それを踏まえると、この星系は銀河内でも無視できないレベルで重要な土地であり、それをおそらく断片的には知っている、ダルノー・ブラマンシュが任せる男である。

 

 

「いやー、にしてもチーズ商会の考える新商品や関連商品の展開は見事の一言に尽きますな。まさかお守りまでキャラクターグッズとして商品にするとは……」

 

「信心深い人からすれば、冒涜でしょうがね」

 

「いえいえ、商売人は、自分の魂以外なら何でも売るのが仕事ですから、それでこちらも大変儲けさせていただいていますから、文句などありませんよ」

 

「それは結構、こちらとしてもそちらに紹介していただいた、人形メーカーは、とてもいいものを作っていただいていますからね。」

 

「おお、そうでしたか……いや、あそことは長い付き合いでしてね、そちらの要望にお応えできたのなら幸いですよ」

 

 

まあ、この人とも数年の付き合いになるが、お互いに利害が一致してなおかつ、不動であるから、良いビジネス上の関係を築いているといえると思う。ブラマンシュ商会と言ったら、俺からすればこの人とダルーノ会長だからな。とりあえず、そのまま2,3適当な会話……といっても、一応本題とされていた、流通している商品の確認だったが、それも終わり、一瞬の沈黙が部屋を覆った。

ブライトマン支部長は、ゆっくりティーカップを口に運び、それをまたソーサーに戻すという動作をこなした後、俺に目を合わせずに、まるで世間話をするかのように、話し出した。

 

 

「いやいや、貴方がた兄弟は本当に優秀な方がそろっておりますね、末の弟さんは英雄ですからね……」

 

「ええ、末の弟は、皇王、っと女皇陛下の覚えも目出度い、先の反乱での最も貢献した人物の一人ですから」

 

 

どーやら、この人も、うちの家の事情を知っているらしい。まあ核心までは知らんだろーが、カマンベールがエオニア側に行ったという事を知っているのは察せる。星間ネットワークが復活してすぐに、皇国本星のデータバンクにアクセスして確認したが、カマンベールの情報は丸々削除されていた。おそらくあいつ本人が、データバンクを掌握した時に自分で消したのだろう。よってエオニアが追放された時のニュース時点で、あいつのことを知っていないと、あいつの存在自体がわかりえない情報となっているのだが。

 

 

「いや、本当兄としては誇らしいでしょう。旗艦殺し(フラグブレイカー)と呼ばれる、二つ名まである弟は」

 

「その名前は、彼に相応しいと兄としても思いますよ、あまり広まっていませんが、いずれ私が広めます」

 

「ラクレット君も良いお兄さんを持ちましたな」

 

 

普通に褒めているようにも聞こえるが、まあ十中八九『貴方の指示で彼が動いていたのか?』と探っているのだろう。まあ確かに、彼みたいな大きな視点で物事を見ることのできる様な人物からすれば、ラクレットの活躍は、俺のような人物の支援が在ってこそのものだと考えるのが無難……いや常識だろう。しかし、あいつがやったことに関してはほぼノータッチだ。だからこそいい動きをしてくれているのだが。

 

 

「ありがとうございます。と言っても私が何もしないで育ちましたがね」

 

 

そう返すと、向こうも微笑を浮かべ頷く。まあそういう事にしておきましょうといった感じだが、気にしないでおこう。ブライトマン支部長は話したいことを話したからなのか、そろそろ帰る支度を始めている。と言っても帽子をかぶって荷物をつかんだだけだが。

 

 

「それでは、私はそろそろ失礼させていただくとしましょう」

 

「そうですか、こちらこそ碌な御持て成しができずに申し訳ございませんね」

 

「そういえば、小耳にはさんだ話ですが……クリオムの第3惑星の衛星にあるドックでどこかの『無名の』商会の建造中の船ですが、搭載されているクロノストリングの本数が、並みの軍艦を超える本数だそうで……」

 

 

ブライトマン支部長は、ドアの付近まで歩き、ノブに手を書けたタイミングでこちらに振り向くことなく呟いた。

 

 

「ほう、それは中々面白い噂ですね、どういった方から聞きました?」

 

 

うむ、本当に面白い話だ。それはうちの紹介でも機密……というか全額俺のポケットから出ているけど、規模的に個人の所有は面倒だから商会の艦として登録する予定の艦だ。制作されているという事自体はそれなりの立場の者なら知っているが、クロノストリングの情報など、一部にしか出ていないはずだった。あとは室内施設とかの整備をすれば完成である艦だが、そういった情報は確かに隠しておいたのだから。

 

 

「いえ、ただ単に噂ですよ、ネットワーク上の根の葉もないね……」

 

「そうですか、ありがとうございます」

 

 

俺はそう言って頭を下げる、一応この後情報が洩れていないかという確認の作業を行うつもりだ。この礼そのものは本気でしているが、別にそこまで重要なことでもないが。どうせもうすぐ完成だし。ただどの辺の経路から漏れたかは少し探るかね。

 

 

「それでは失礼します。」

 

「はいわざわざお越しいただきありがとうございました。」

 

 

そう言ってブライトマン支部長はこの部屋を後にした。本来ならシャトルの発着場まで見送る必要があるのだが……なんか、そういった雰囲気じゃなかったからそのまま帰してしまった。まあ、そんなことを気にする人じゃないからいいが。

ゲームで言うムーンリットラバーズにはいるまであと数か月。俺は今も水面下での準備を続ける。いずれ始まる、俺達の介入の為に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……おい、見ろよ……あいつ……」

 

「なあ……あいつって」

 

「そうそう、テレビでやってたぞ、英雄様だ」

 

 

彼が帰ってきてすでに2週間たっているが、歩くたびに起こる周囲からの騒めきは、まだ収まらない。本人はもう慣れてしまったが、それでも気にならないわけではない。今彼がいる場所は、彼の通っている『ガラナハイスクール』のカフェテリアだ。現在彼は1年分の飛び級のため、猛勉強中なのだ。といっても、単位のためのエッセイやら、プレゼンテーションの準備やらに主な時間を取られているので、授業の勉強とは少々違うのだが。

幸い、先のクーデターの間、学校は休校になっていた。厳密には春季休暇が1か月延びたので、出席の問題は一切ない。そう、出席の問題はないのだ……

 

 

「クク、永劫の時を流離う宿命という枷をやぶりし賢者を英雄扱いとはね、これだから民衆は……」

 

「うるせぇ黙りやがれ!!」

 

 

目の前に座る、元同志の魂の根源を共有せし者(ちゅうにびょうかんじゃ) の女が付きまとわなければ何も問題ないのだ。

 

 

 

 

さて、ラクレットは、今の名前で1回、昔の名前で1回、計2回中二病をこじらせている。一度目は、まあ思春期によくある主人公願望があふれ出た結果作られた、黒歴史ノートから始まる、大変オーソドックス(?) なそれだった。学校にテロリスト、突然始まる宇宙人の侵略、そういったものが多かったのは、まあ彼の個性であろう。貧困な発想の帰結ともいえるが。

さて、それが一度弱まって(中二病は不治の病なので完治はない) 彼の名前が変わり、自分がオリ主と思い込んだことによって再発した。それはもうひどかった、今も改善していないその恰好からも察することができるであろう。詳しい内容は、彼の名誉の為に省くとして、まあともかく彼は見事に、中二病を再発させた。普通に考えて中二病を再発させることなどないように思えるかもしれない。だが考えてみてほしい、ある日突然自分だけが特別な力を持ったならば、退屈な毎日、単調な生活を一変させることができる者ならば、それを利用してしまうのは人間の性ではなかろうか? ラクレットはそうであり、なおかつ形から入る男だったわけだ。

都合が良いのか悪いのか、ハイスクールでは最低3年ほど年が離れているため、微妙に会話がかみ合わないのもあったし、彼が周りに興味を持っていなかったのもある。が、最大の要因はこのように彼の近くに邪気眼の患者がいたからであろう。

 

 

「ふむ、どうやら君も何かしかの洗礼を……いや祝福を受けたようだね、いつもの覇気(れいしりょく)がない、ひどく淀んでいる。第二形態に目覚めるには早すぎるが……何があったんだね?」

 

「……もう僕は卒業したんだよ……だから目の前でそんな黒歴史を暴くのはやめてくれよ、サニー」

 

 

彼の病を共鳴せし者、失礼。サニー・サイドアップ ラクレットの唯一と言って良い学友である。年はハイスクールの3年目で17才だが、未だに精神年齢14歳の心は堕ちた聖女な少女。ラクレットとはシンパシーを感じたという理由でつるむようになり、ラクレットの中二病を加速させた人物である。

制服はあるが改造自由であるガラナハイスクールでの、ラクレットの格好は、あいも変わらずこの学校の学生服の上に陣羽織、それと帯刀であるが、サニーはそんなものとは比較することができない。まずは眼帯、片目が実際に幼少時の火傷のせいで見えないので、眼帯自体は問題ないのだが、なんだかよくわからない紋章が黒色の眼帯の上に金色の文字で書かれている。髪の色はラクレットの紫黒色に対して、紫紺であり、首の後ろで一つに束ねている。服装は学生服なのは同じだが、なぜか他校のブレザーである。ボタンやらチェーンやらよくわからないものがついており、校則というものに正面からケンカを売っているような感じだ。

 

 

「黒歴史(ブラッククロニクル)……そんなもの存在しない、我々の生きているのはすべて運命の開拓路(トゥルーデスティニー)だからな」

 

「だから、そういうのをやめてだね……恋人でも作れよ。親御さん煩いんだろ?」

 

「……君こそハーレムを作るとかやっぱ作らないとか、言ってたくせに、結局ヘタレて戻ってきたじゃないか」

 

「それを言わないでよ……」

 

 

一応二人とも、互いの弱みを握っていることは握っているのである。ラクレットは今中二病が潜伏しているので、単純に過去の話をされるのが弱いし、サニーは実家が早く結婚しろとうるさいのに、恋人の一人もつれてこない事をちくちく、実家から言われているのだ。

サニーは17才だが、トランスバール皇国においては、年齢と結婚というものはあまり結びつけて考えられていない。早い人は10歳くらいで結婚するからだ。ゆえに十代後半になったら、親から結婚をせかされても別に珍しいことではないのだ。サニーは特に、祖父母からも曾孫の顔が早く見たいといわれているので、微妙にあせっている。その話をすると、キャラが戻ってしまうくらいに。

 

 

「お前はいいよ……幼馴染がいるじゃないか……」

 

「ああ、うん。最悪はそれで手を打つが……漆黒の聖女たるボクが、そう安々と相手を決めていいわけが……」

 

 

そのまま、微妙に惚気を始める元同志を、どっかへ行ってくれないかな……と思いつつも、ラクレットはエッセイに取り掛かった。数少ない気の知れた友人の前で。

 

 

 




サニーちゃんマジ意味深

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