僕と兄貴と銀河天使と   作:HIGU.V

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第4話 体重は70超えました。

 

 

 

ラクレットが『エタニティーソード』から降りて彼らに合流したのは、ちとせがタクトの発言により一時停止したものの、フォルテが諭したことにより何とか再起動したあたりだった。なぜならば、彼は『ケーゼクーヘン』から送られてきた自分の荷物の確認をしていたのだ。大したものが入っているわけでもないが、放置するわけにはいかないのである。とりあえず邪魔にならないように端に避けてから、彼らのもとに向かったのだ。

 

 

「皆さん、お久しぶりです!! 」

 

 

元気よくそう挨拶したラクレット。一応やましいことはしていないのだが、なんとなく無駄に声が大きくなってしまう。こう一応仕組んだといえば仕組んだことであるからだ。

 

 

「おお、久しぶりだね、来ていたなら言ってくれればよかったのに」

 

「そうですよ~」

 

「いえ、せっかくのお二人のデートでしたから邪魔をするのもどうかと思って……」

 

 

とまあ、そういう具合である。彼ら二人が全く気にしていないのは、別に彼らの関係が冷めているといったわけではなく、本心から気にしていないのだ。それを察したからこそのラクレットは連絡を取らなかったのであるが。それを傍目で見ていて、なんとなく理解したフォルテは、苦笑しつつラクレットに歩み寄る。

 

 

「いや~、さっきは助かったよ、相変わらず腕は鈍って無いみたいだね? 」

 

「フォルテさんこそ、また1段と操縦が上手くなっていましたよ。あとで操作ログ見せてくださいよ」

 

「そういう所まで気にするとは、相変わらず勉強熱心なことで、別にかまわないけどね」

 

 

ラクレットはどうにもまだ、エンジェル隊との会話が、と言うより異性との会話全般であるが、不得意と言うか、自然ではない。これは元来の女性に対する微妙な恐怖症と言うかそういったものからきているのだが、一応話す大義名分や目的があれば平気なのだが、自分から話をしていくのは微妙に苦手だ。故にフォルテからの話題ふりであったが、予想ままの反応が返ってきて、安心するフォルテだった。

そんな中、ちとせがラクレットに近づく。一応お互い初対面という事になるので礼儀正しく相対した。

 

 

「あの……先ほどはありがとうございました」

 

「ああ、いえ。こちらは責務を果たしただけですから」

 

「それでも、やはりカバー役がいるといないとでは、重圧が違いましたので」

 

「そうですか……それならばよかったのですが」

 

「おいおい、あんたら、そんな謙遜し合ってないで、お互いの名前くらい名乗ったらどうだい? 」

 

 

ぐだぐだになりそうだったので、それを止めようとするフォルテ。実はちとせとラクレットは互いに同じような感情を抱いているのだ。

まずラクレットの場合、ちとせは途中入隊とはいえ、エンジェル隊の一員だ。これだけですでに頭が上がらなくなるというのに加えて、彼女の乗っている機体『シャープシューター』はゲームでこそ微妙な性能だったが、その性能の中最後まで生き残ったという事は、逆に操縦者の腕がかなり高いレベルであると同時に、ほかの隊員より短い期間でそのレベルまで習熟した彼女は、並大抵の人物ではないとまで考えている。加えて、その遠距離からの狙撃による一方的な攻撃ができるといったスタイルは、彼の機体とは正反対のコンセプトだ。そんなことが絶対できない彼はそこも個人的に尊敬している。あとは彼が予想していたよりもずっと、ちとせが美少女然していたとうところか、彼は黒髪ロング……というよりも髪の長い年上の女性が好きなのである。

 

 

そしてちとせだが、彼女もラクレットと同じくエンジェル隊に対する尊敬の念を持っていた。真面目な軍人気質で、軍の士官学校で首席だった彼女は先達に多くの関心と尊敬の念を持っているのは別段おかしいことではないだろう。そして先の内乱が終結した際に、民間人で表彰されたという稀有な人物のことを彼女は知った。彼は若干14歳という自分よりも幼い年齢で、あの紋章機を操るエンジェル隊と同等の活躍をして、公の舞台に出ることのできない彼女らの分も表彰を受けたのだ。14歳と言ったら自分はまだ軍学校の生徒としてもひよっこだったであろう。そんな年齢でそこらへの軍人より大きな表彰を得るなど、しかもそれが本人の類い稀なる戦闘機操縦技術によるものとなれば、この度紋章機を操るエンジェル隊の一員となった自分も見習う必要があるのだろうということだ。

 

さらにお互い、真面目に分類される個性を持っているのだから、互いに遠慮し合って、話が進まないのである。ある意味相性が悪くて、同時に最適な相性でもあるのだ。

 

 

「あ、申し遅れました。この度エンジェル隊に配属された烏丸ちとせと申します。階級は少尉、『シャープシューター』のパイロットとして配属されました」

 

「元エルシオール戦闘機部隊隊長、現白き月近衛部隊配属予定、ラクレット・ヴァルターです。まあどうやら、そう行きそうにありませんが……」

 

 

背筋を伸ばし、教本に載っていそうな敬礼をして、名乗るちとせと、それに若干もたつきながらも敬礼を返して名乗るラクレット。なんとなく二人の力関係を象徴しているような気もするが、誰も気づいていなかった。ともかく自己紹介が終わった彼らは、ひとまずブリッジへと移動することにしたのだが、そこでもまた、ブリッジクルーとの再開でのひと悶着がおこる。まあそれも当然なので、置いておくとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

「さて、タクト……お前、エルシオールに戻ってきたという事は、司令官をやるってことでいいのだな? 」

 

「ああ、オレはミルフィーと一緒ならどこだっていい、それに、オレがここにいなくちゃならないって、そんな気がするんだ」

 

「恐ろしいことに、お前の勘はなんだかんだで当たるからな……まあいい、仕事は前と変わらんからよろしく頼むぞ、どうせすることなんて大したことないんだからな」

 

 

レスターは、いつものように腕を組みながらやや皮肉気にそう言った。なにせ、この船の司令の仕事は本当にタクトが必要な分だけの、書類にサインをすること。しかも本当に必要性があるものだけをレスターが判断しているので、本人読んでない。艦内を巡回して、クルー特にエンジェル隊の面々とすごし、彼女らのテンションを高く保つこと。艦の方針を上の命令に沿って決めること。戦闘の際の指揮を執ること。これだけである。

誰にでもできるわけではないが、簡単な仕事だ。レスターの、司令官、副司令官としての事務仕事、ブリッジに詰めて航行に問題がないかの監視兼指示。戦闘後の被害を計算し、補給の要請と、あらゆる雑務をこなすという仕事ぶりだ。

 

解りやすくいうならば、国に一人欲しい英雄と、艦に一人欲しい補佐である。両方とも大事であろう。

 

 

「じゃあ、ミルフィーはどうする?」

 

「ミルフィーか……紋章機に乗れないのならば、清掃員かキッチンのスタッフとして働いてもらおうか、それで構わないか?」

 

「はい、わかりました、レスターさん」

 

「ああ、まあなんかの拍子で、乗れるようになったのならば、また考え直すがな」

 

 

所属上はまだ、エンジェル隊だからな。とレスターはつぶやきつつ、右手でコンソールを操作する。ミルフィーは前回のエオニア……ではなく『黒き月』との最終決戦時の戦闘以来、紋章機を動かせなくなっている。彼女のその時に願ったことが原因かもしれないとみられているが、実際のところは不明だ。それでも理論上動かせる人物が存在しない『ラッキースター』を最も動かせる可能性が高いので、軍を抜けたのではなく予備役のような扱いだったのである。

ちなみに、なぜ『ラッキースター』が理論上動かせる人物がいないかというと、彼女の機体はそもそも『クロノストリングエンジン』を1つしか載せていない。その為に動かすのには常に不安定な『クロノストリングエンジン』からエネルギーを『H.A.L.Oシステム』により引っ張ってくる必要がある。高性能な機体である理由はほかの機体よりも多く物がつめたからなのである。

そしてそんなことができる確率は、頭が悪くなるレベルで低い。他の紋章機ですら数十億分の1とされている中。『ラッキースター』は百分率で0.の後に続く0の数がトランスバール本星の人口より多いそうだ。彼女以外に動かせる人物が現在銀河中に5人しかいないのである。もちろんその5人はエンジェル隊のメンバーだが、動かせるだけであって、とても戦闘可能な速度で飛ぶことができないありさまだ。という訳で、彼女は軍から離れられなかったのだ。

考えてみてほしい、サイコロの出目が95以上なら紋章機は動く。ラッキースター以外の機体は10面サイコロを10個振る判定であるが、ラッキースターは100面を1回の判定だ。エンジェル隊に選ばれる人間が持っている適正は10面ダイスで必ず9以上を出せるものだ。適正が高ければより10が出る確率がある。さらにテンションが高ければダイスの追加(稼働数の上昇)もあり得る。事実適性を持ったエンジェル隊は自分のテンションを高める方法を習得していくので実際には基本的に11個振っている。しかしラッキースターは100面を1回である。もちろん彼女も同様に90以上はでる。しかしこの判定を毎ターン行うとしたら? 彼女にはダイスの追加はあり得ないのだ。他のエンジェル隊の平常テンションでの裁定で目は99であり、問題なく動く。しかし彼女は常に次の瞬間止まるかもしれない1つを使い続けているのだ。まあ、ありえないことなのである。

 

 

暫く続けていたが、操作が終わったのかレスターは僅かにその銀色の髪を揺らしながら、ラクレットに向き直る。あいかわらず、動作の一つ一つが無意識に格好良いなー、なんて考えながらラクレットも姿勢を正す。もはや嫉妬とかの境地は疾の昔に過ぎ去っている。

 

 

「それでラクレット、お前はどうする? 白き月の近衛に配属希望だったのだろう? 」

 

「ええ、ですが、それは『エルシオール』に乗れない状況でしたから。僕が居て良いのでしたら、戦闘機部隊に再配属していただければ」

 

「なるほど、確かにエルシオールは長期の調査任務に就いていたからな。解った、次のルフト宰相との通信時に正式に配属扱いにしよう、細かいことはその時までに決めておく」

 

「はっ! 了解です、クールダラス副司令」

 

 

以前のように、笑顔ながらの敬礼ではなく、おおよそ2か月の間に身に着けた、正しい皇国軍式のそれだ。この半年で身長が数センチ伸び、175に届くか、届かないかといった高さになった彼の敬礼は、なかなか様になっていた。もともと肩幅もあり、体格の良い彼は軍人だと名乗っても違和感なく溶け込めるであろう。

 

 

「ふっ、ああ頼んだぞ、それじゃあタクト、ここは俺に任せて、お前は茶でも飲んで来い、言われなくてもそうするだろうから、先に言っといてやる」

 

「了解―! それじゃあ、皆行こうか? 」

 

 

ラクレットを見て若干の笑みを浮かべたレスターは、タクトに向かって投げやりにそう言った。やれと言われても仕事をしないタクトは、こうするのが一番良いことを、悲しいことに経験則で分かってしまっているのだ。対照的にタクトは嬉しそうに、声を弾ませている。

しかし、今日の彼は一味違った、最後に何か思いついた様子で、フォルテの方を一瞬見た後、タクトの懐に視線を写した。すると、一瞬で理解したのか、タクトをたった一言で凍りつかせる言葉がフォルテから放たれた。

 

 

「お? もしかして、司令官復帰祝いにタクトの奢りかい? ちとせ、ミルフィー良い司令を持つと良いものだねぇ」

 

 

ことあるごとに、エンジェル隊はタクトにたかっているのだが、今回もそういった半分からかいも兼ねて言った言葉であろう。レスターからの提案でもあるが、半ば冗談ではある。しかし新司令として新しい部下のちとせの前では良いところを見せたいタクトは、一瞬言葉に詰まってしまう。しばらくアルバイトで食いつないでいた彼はあまり懐の余裕がない、具体的には大佐をやっていたころよりも大分厳しい。もちろん貯蓄はあるが、それでもやはりお金の価値は平等なのだ。軍を抜ける前に准将になったが、わがままでそれは相殺されているし、退役金などは全部皇国の復興資金に行っている。フリーター程度の財力しかないのが現実であった。タクトは一瞬ミルフィーの方をちらりと期待気に見るものの、当のミルフィーは全く意図を理解ししてないようで

 

 

「わぁ!タクトさん私久しぶりにここのショートケーキが食べたかったんですよ。ちとせは何が好きなの?」

 

「え? 私ですか……あの、そもそも上官に支払いを強制するというのは……」

 

「ココ、アルモ、二人ともついて行っていいぞ、残りの作業はまとめるだけだからな、後は俺一人いれば事足りるし、そろそろ交代の時間だったろ? なに、少しくらい早く切り上げても問題は無い」

 

「本当ですか!! 副指令ありがとうございます!! 」

 

「私としては……副指令もいた方が……その……」

 

 

ああ、積んだな、タクトはその言葉を聞いて理解した。

 

そう、そこにお茶会があったのならば、参加するのは当然だろうか。

司令官ならば、クルーの期待を断れるはずがない、故に同席しない余地はない。

信頼する親友と部下の顔を見れば、『してやったり』と。そう、かいてある。

ああ、オレはアホかと、────馬鹿かと。

久しぶりだからという理由ごときで、普段は後から合流するティーラウンジに、行こうと誘うだなんて────。

否、久しぶりの再開、それは断じて言葉通りの価値しかないわけが、ない。

「ヨーシ私ハ、軽食メニュー片ッ端カラ頼ンジャウゾー」

もう、見てられない。

君たち、オレの財布はくれてやるから────即座にこの場所から離れよう。

元より、オレがレスターの策から逃れられるはずなどないのだから────!

 

 

そんなくだらない思考が一瞬流れて、タクトは若干すすけた背中を見せつつ、その場の全員を引き連れ、ティーラウンジに向かった。直、結局会計は所持金では足りなくなり、一部をラクレットが立て替えていた。そんな男性陣の注文はコーヒー2杯だったが、途中から遠慮が減ったちとせも加わったのが原因だろう。

 

最も多少ちとせと打ち解けたという回収もあったのが救いだった。

 


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