先の戦闘から一晩経ち、『エルシオール』内につかの間の平和が取り戻された頃、エンジェル隊とタクト、ラクレットはティーラウンジでお茶と洒落込んでいた。エオニアとの戦いでは、最も大きいテーブルは6人掛けだったのだが、今は誰が揃えたのか、8人が囲える大きな丸いテーブルがあった。
戦闘の後、ルフトに通信をつないで、レナ星系で補給を受けるように指示を受け、同時に送信しておいたデータの重要度を確認し合ったのだが、残念なことにこれ以上の増援を送ってもらうのは不可能とのこと。『エルシオール』はクロノドライブの緑色の空間を進みながらレナ星系へと向かっている。
まあ要は仕事がないわけで、全員で再会を祝してお茶会をしようという訳である。おきまりな近況を確認しあったり、ラクレットが軍に正式に入り、名実ともにエンジェル隊に逆らえなくなったことを茶化したりと、いつものように大変にぎやかな会話となっていたのだが、当然のごとくタクトとミルフィーの関係について話が飛んだ。
色恋話と噂は、この年代の少女たちにとっては、ビタミン剤であり、格好のデザートであるからして、至極当然な流れであろう。
「それで、タクトさんはミルフィーさんとはどうなんですの? 」
「あ、そうそう、ミルフィーからメールで聞いてはいたけど、やっぱり本人の口から聞かないとね」
「そーいや、目の前でいちゃついているのは見るけど、家ではどーだったんだい? タクト」
というわけで、すでに何度も話している惚気……説明を繰り返す。
「オレはミルフィーと一緒にいられれば、それで満足だったからね。キスもまだだし、二人でのんびりしていたよ。ね? 」
「はい、私もタクトさんのお弁当作って、デートに行って、それで幸せでしたし」
自然にタクトに返事をするミルフィー、やはりこの二人は最高の恋人同士なのかもしれない。あの、ミルフィーの紋章機独断専行の後も、すぐに関係を進展させるわけでもなく、お互いのペースで歩いて行こうと元鞘に落ち着いたのだ。最も、それに納得し合っているのは本人たちだけのような、ある種特殊な関係であり、当然のごとく周囲からの反応は
「……あら、まぁ……どーやら私の予想とはだいぶ……」
「え~~~!! なに、ちょっと、タクト! あんたまだキスもしてないの!! 」
「あ~やっぱり、そうだったかい」
三者三様の反応にもはや癖となっている、左手で頭をかく動作をするタクト。彼からすれば別段おかしなことをしてないし、同時に自分が世間的に微妙におかしいことも知っているからである。
「うん、今は満足しているからね」
「私もタクトさんと約束していますから……」
ねー と顔を見合わせながら笑いあう二人、本当に一人身にはつらい光景だろう。そんな中ラクレットはいつものブラックコーヒーをさらに濃くしてもらって正解だったと一人心の中で頷いていた。そんな、二人のあま~い光景を見たランファは、ふと疑問を抱き二人に問いかける
「ねえ、タクト。アンタはミルフィーのどこが好きなの? 」
「え? 」
「いや、単純にこの天然幸運娘の何処が好きなのっていう話よ」
タクトは、ミルフィーのことが好きだというアピールはしているのだが、実際どこが好きなのかを話したことがないのである。まあ、そうそう話すことでもないと思うのだが。その質問に対して、悩むような仕草を見せつつも、律儀に答えようとするタクト。まああまり気にしていないだけなのだが。
「うーん、やっぱり笑顔かなー。ミルフィーの笑顔を見ていると、なんだかこっちも元気を貰えるんだ」
「ハイハイ、ごちそうさまですわ」
「本当よー、にしても案の定ね、こいつと違って」
聞いてきたのに、ノーサンキューな態度を取るランファとミント。常識的にどうかと思われるが同時に感情的に納得のいく反応である。逆にタクトは、ランファのもらした科白に反応したようだ。
「え? ラクレットがなんか言っていたのかい? 」
「ああ、こいつ私たち全員に惚れているから」
「ええ、それはもう熱烈な告白をいただきましたわ」
「そうそう、いやーあれは傑作だった」
「男性から思いを告げられたのは初めてです」
「あ、そういえば私も!! ってあれ? 告白だったの? 」
ラクレットにとって忘れたい思い出を掘り返されて、彼は必死に平静を装いつつ珈琲を口に運ぶ。カップをつかんでいる右手の小指がピンと立つという、普段は意図的に消している癖が出ているのが彼の動揺を現しているだろう。というより、その話を誰かにするのは反則ではないか? と内心涙目なのである。
そして、これに驚くのはちとせとタクトだ。タクトは、いつの間にそんなことをしていたんだという、単純な事実に。ちとせは、普通にいい少年だと思っていた彼が実はものすごく手が早く浮気性な人物のように見えてきて。
「そうよーミルフィー、ほら、ラクレット言ってみなさい、あの時のセリフ」
「ちなみに、録音しておりますので、お忘れのようでしたら、私が再生しますわ……全員分」
「言います……言いますから勘弁ください……」
内心どころか、完全に涙目になりつつラクレットはそう呟くしかなかった。彼はもう、エンジェル隊の自他ともに認める玩具だからだ。ラクレットは、ミルフィーの方に向き直って、深呼吸する。相変らず良くわかっていないミルフィーのニコニコ顔に気圧されて、タイミングがつかみにくいのだ。
「なあなあ、いったいどういう状況だったんだい? 」
「フォルテさんが、彼の本心を明かした時に課したイニシエーションですわ、なんでも私たち全員に憧れに似た感情を持っていたそうで、どういった所に魅了されたかを全員に言うという」
「ああ、なるほど……」
その間に、ミントにこっそり尋ねるタクト、ラクレットが自発的に告白をするなど考えられなかったのだ、それも全員に。ラクレットにとって不運だったのは、タクトが別に自分の彼女に年下の従兄弟で部下が告白しようと、(それが遊びだと知っていれば)一切抵抗がない人物だったことだろう。そして、不幸中の幸いが、今のタクトとミントの内緒話をちとせが聞き耳を立てて、納得していたことだ。
「僕は、ミルフィーさんの流し目に惹かれました。格納庫を歩いている時、振り返りざまにその桃色のきれいな髪をなびかせながら、色っぽくこちらを向いた表情に心臓が高鳴り、しばらく釘付けになってしまう程でした」
そして、その微妙に注意がそれている瞬間を感じ取り、ラクレットはミルフィーにその思いを告げた。話は少々脇に連れるが、彼の言っている流し目はMoonlit LoversのOPで順番に出てくるエンジェル隊の一番最初のシーンのことだ。あれが印象に残っている人は多いであろう。ラクレットもその一人だったという訳だ。気になる人は確認してみることをお勧めする。PS版も出ており、非常にお手軽だ。
「わー、私って流し目できたんだー」
「ミルフィー、そのリアクションはどうかと思うがね、前とまるっきり同じだよ」
「はい、確かにミルフィーさんは前回もそのような反応をしていた記憶があります」
「なろほど、流し目ね、確かにミルフィーがしたらすごく魅力的かもしれない」
「本当ですか? それじゃあ今度やってみますね、流し目」
「はいはい、ごちそうさまですわ」
「本当、おなかいっぱいで胸焼けしそうよ。あ、店員さんアイスティー追加、タクトの伝票に」
本当にいつも通り和気あいあいとした、『エルシオール』のひと時だった。
こんな感じですごし、あっという間にレナ星系の指定された補給ポイントに到達する。
「ラクレットさん、複数の女性に同時に好意を抱くのは……あまり褒められたことではありませんよ? 」
「ですから、恋慕でなく、憧れですって!! 」
実に平和であった。
「ドライブアウトします」
「周辺をスキャンしろ……まあ恐らく平気だろうが……」
無事補給の為に指定されたポイントにたどり着いた『エルシオール』 彼らはすぐに周辺宙域を探るが、一応重要な軍事拠点の近くで、警備がしっかりした場所だ。故にそこまで過敏な警戒が必要な地域ではなかったのだ。
現に────
「前方5000に補給艦、並びに護衛艦3隻を確認、通信入りました」
「繋いでくれ」
目と鼻の先に、補給してくれる艦があったからである。とりあえず、細かい話は後回しにして、さっそく補給に入るのであった。しかし、ここで『エルシオール』は思わぬ懐かしき来客を迎えることになる。
話の調整の為に、数人の人員がシャトルで『エルシオール』に来る手はずになっており、司令であるタクトはで迎えのため格納庫にいた。今か今かとシャトルから降りてくるのを待っていると、シャトルのドアが目の前で開き、中から凛とした、高貴なるものの雰囲気を漂わせた、少女が降りてきた
現在の皇国の最高指導者であり、歴代でも最年少で即位した女皇。シヴァ・トランスバール女皇陛下である。
『エルシオール』が騒然としたのは言うまではないが、驚くのはこれだけでは早い補給品の項目の中に、こういった1文があったのだから
────クロノブレイクキャノン 一門と
「久しいな、マイヤーズよ」
「そうですね、オレの叙勲の儀以来ですから」
「別に、そなたのだけという訳ではなかったのだがな」
現在、タクトとシヴァ女皇は二人で『エルシオール』の中を歩いている。レスターは補給関連の調整をしており、シヴァ女皇の部屋は急ピッチで掃除中であるが故、女皇を一人にしておくわけにもいかず、タクトが相手をしているのだ。もっとも成るべくしてこうなったわけであるが。
『エルシオール』に増援を送ることはできない、なぜなら戦力が手いっぱいだからだ。ならば、クロノブレイクキャノンを送ろう、そうすれば攻撃力と言った面での不安は消える。ロストテクノロジー云々の話もあるので、現在皇国を慰問中のシヴァ女皇陛下も合流していただければ、ロストテクノロジーの権威も送れて、その護衛の戦力も回せて一石二鳥だからだ。そういった理由で、今回の補給となったのである。
「にしても、まさか女皇様が来るとは思ってもいませんでしたよ」
「皇国、いやシャトヤーン様は例のメッセージを重く見ている。故に私が来たのだ」
「中央の方ではルフト先生が地獄を見ているのか……」
もはや、タクトたちを驚かせることが日課になってきたルフトは、現在馬車馬のごとく働いている。これも皇国の明日のためである。
二人は、そのままティーラウンジまで足を運んだ。その場所ではちょうどエンジェル隊がお茶をしているからだ。彼女たちはまだ、シヴァがこの船に乗っていることを知らない、結構悪戯好きの側面があるシヴァはタクトの後ろに隠れるようにして、近づいた。
「やあ、みんないつものようにお茶会かい? 」
「そうよー、今日も平和におやつの時間よ。もうすぐ担当の二人が作って持ってくるから」
「ええ、日々の日課をこなすことも軍人の仕事ですわ」
「先輩方が私も同席して良いとの事でしたので」
「そんな、いちいち気にする必要ないよ、ちとせ。何せ私たちは」
「仲間ですから」
「ふむ、良いことだ。エンジェル隊が変わりなくてうれしく思うぞ」
いつも通りのやり取りをする5人に、ナチュラルに混ざりこむシヴァ。ヴァニラの言葉にそうそう、と首を縦に振りつつ同意する3人の動きが同じタイミングで止まる様は中々に笑えるものだった。
「って、えぇぇ~~!! シヴァ皇子……じゃなった女皇陛下!!」
「どうしてこちらに!?」
「なに、慰問の途中に合流したまでだ、なかなか興味深い話になっているようだからな」
悪びれもせず、しれっとそう言い放るそれは、女皇のそれではなく、悪戯好きな少女の(それでもかなり気品とオーラは出ている)ものだった。自身の性別を明らかにしてから微妙はっちゃけている彼女である。そこに、お菓子が完成したので持ってきたミルフィーと、その手伝いをしていたラクレットが合流する。
特に驚くしぐさを見せずに、お久しぶりですーとニコニコ笑顔で答えるのと、礼儀正しく一礼して挨拶するその二人になんとか場の空気が元に戻りつつあった。緊張で一杯一杯のちとせを除いては。
「ふむ、彼女がエンジェル隊の新隊員か、確か烏丸ちとせと言ったな」
「っはははははい!! エンジェル隊に所属しております烏丸ちとせ少尉です!! 」
「そう堅く成らなくともよい、私もそこまで気にする方ではないし、何よりここは『エルシオール』だ。このゆるゆるのマイヤーズが指揮する艦だからな」
「ゆるゆるはひどいですよ、女皇陛下」
「事実ではないか」
和やかに会話を進めるものの、やはり初対面であるちとせは限界が近い。シヴァもそれを察したのか、適度にスルーして、ラクレットの方を向く。
「で、ヴァルターよ、久しいな」
「ええ、叙勲の儀において陛下のご尊顔を拝見して以来です」
微妙に言葉遣いが怪しい中丁寧に答えるラクレット。シヴァはその彼を見て意味深に頷く
「ふむ、前の戦ではあまり顔を合せなかったが、今回は正式な軍人だ、私の為に働いてもらうからな」
「この身は陛下の卑しき僕である故、陛下の力に成るように、微力ながら努力を惜しまないつもりです」
「お前は面白いな、これならば前からもっと話しかけておけばよかったかもしれん」
どうやら、ラクレットを気に入ったようで、シヴァ皇子はご満悦で、ティーラウンジを後にした。入口の所で侍女が控えており、彼女に合流し、部屋に向かったのであろう。長旅の疲れを休める必要があるからだ。最も今も旅の道中だが。
なお、ちとせは気絶ことしなかったものの、かなりぎりぎりで、ミルフィーのお菓子の味が分からなくて悲しそうにしていた。
さて、ルフト宰相、将軍 は皇国において最も優秀と言っても過言ではないとされる軍人だ。彼が白き月の防衛司令なんという名誉職に就いていたのは、貴族出身者の嫉妬による左遷であり、仮に彼がそう……貴族の妾の子だったとすれば、軍においてトップに君臨したであろう。それぐらい優秀な人物だ。
そう、そんな彼は常に二手先三手先を読んで行動している。
そんな彼が仮にとある案を実行しようとしていたとする。
そして、それをより迅速に実行する術があったのなら、これはもう、そうするしかないのである。何が言いたいかと言うと 護衛艦隊のザーブ級戦艦ひとつに、乗っていたのだ
ラクレットに軍人としての心構えを叩き込む人員が
そう、これより、ラクレットの受難が始まる