僕と兄貴と銀河天使と   作:HIGU.V

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第12話 解説による相互理解

 

 

 

 

タクトたちがなんとか、戦闘宙域から脱出した後、クルーの表情は晴れなかった。結局のところ、護衛戦艦は役割を果たしたのだが、それでも囮にして逃げざるを得ない状況になってしまったのだから。

しかも今回の敵はどうやら人間ではない、別の生命体のようだという事実も彼らの心に重くのしかかっている。これはタクトの『みんなを信じているからこそ俺はみんなから信じてもらえる』といった方針による、戦闘時の通信の公開による弊害であろう。こういった重苦しい空気が少しずつ艦内に蔓延してきていた。

 

それとは別に、『エルシオール』首脳部にはすべきことがある。彼らは先ほど敵の不思議なフィールドを解除させ、なおかつ自分たちをここまで導いた存在である、紅い宝玉のような何かの部品を回収し終わったのだ。

その中にはおそらく敵について自分たちよりも見識の深い人物がいる。その人物の協力さえ得られれば、この状況を打破できるかもしれないと考えたタクトは、危険もあるから控えるべきではというレスターの進言を柔らかに否定して、一先ず『白き月』に状況を伝えるように指示を出して倉庫に向かっていた。

 

 

同様に現在の戦闘で、戦略的目標を破壊できなかったエンジェル隊の表情は晴れない。しかしながら、彼女たちはそれを表に出さないでいた。先ほど護衛戦艦を置き去りにしなければいけないという事態から、取り乱していたラクレットの様子がおかしい。確かにあの戦艦のクルーと彼は信頼関係を築いてきた。この短い期間の間にある種の連帯感と共感を覚えることができたのである。

 

それは決して悪いことではない、しかしそれを引きずり続けるというのは良いことではない。故に取り乱していた彼の様子が変わったのがいい傾向ではあるのだが、彼が思いつめられた時に見せるどこまでも冷徹で無表情が今も彼女たちの目の前にあるのだ。

そう、彼の表情が凍りついたのは、謎の紅の物質による『エルシオール』を導く通信が入ってからだ。

その声は若い男の声で少年から青年になる合間の色気を感じさせていたのだが、別にそれが何というわけでもないであろう。エンジェル隊は、なかなか出てこないラクレットを、『エタニティーソード』の下で待っていた。

しばらくすると、搭乗時は欠かさず携帯している愛剣を持たずに彼は降りてきた。それがどういった意味を持っているのかはわからなかったが、ともかく今は先ほどの紅の物質が気にかかるので、先を急ぐことにした

 

格納庫ではなく、倉庫にそれは収納されている。大きさはそれなりのものだ、荷物コンテナ1つ半くらいの高さがある。よく見ると結構な透明度を持っているようでいて、実際は輝いているだけという全く以て見たことのない材質でできており、一部関係者以外は倉庫に入れないでいる。この場に今いるのは、エンジェル隊、タクト、ラクレット、シヴァ女皇のみだ。

 

 

「エンジェル隊、戦闘機部隊集合したよ」

 

「ああ……把握したよフォルテ」

 

 

フォルテのその言葉に返事する間も、タクトはそれから目を離さずにいた。するとそれを待っていたかのように、宝石のようなそれが一瞬強く輝く。思わず目を手で覆うのだが、なぜか眩しさというものを感じないその光に戸惑う。そして光がやむとそこには、一組の男女が立っていた。少女の身の丈は小さく10かそこらの子供の様だ、そして、その姿は見の覚えがあるそれだった。男の方は、20前後くらいで、背はやや低め、白衣を着て眼鏡をかけている美少年と美青年の合間のそれだった。

 

 

「で、『白き月』の管理者はどこ? 時間が無いの早くして」

 

「は? 」

 

 

名前を名乗る時間も、自分達を説明する時間も詰問する時間もないまま、いきなり少女の方が話し始める。

 

 

「まず、男ではないから、そこの二人は論外ね」

 

「そうだな、だが声に出すのはどうかと思うぞ、もっと言うと今この場に彼女はいない……この艦に『白き月』の管理者はいるか? 君たちでいうところのシャトヤーン様だ」

 

「すまない……まず先に君たちが何か説明してくれないか? 」

 

 

もっともな疑問を投げかけるタクト、それに対してあからさまに不機嫌そうな顔になる少女と、皮肉気に笑う眼鏡の男。しかし、男の方は話が分かるのか、すぐにでも反論しそうな少女の口に左手を翳し押し止めて、一歩前に出る。

 

 

「そうだな、ここで10分使い相互理解に努めた方が、この後の話も早く進む。まずこの少女だが……」

 

「ノアよ、『黒き月』の管理者、早く『白き月』の管理者を出しなさい」

 

「おっと! 質問はこっちが名乗り終わってからにしてくれ、きりがない」

 

 

少女────ノアのその発言のタイミングで、数人が息をのんだ。詰問しようと一歩前に出たが、その勢いを上手くいなされてしまった。眼鏡の男はそのままラクレットの方を見据えながら、口を開いた。

 

 

「俺の名前は、カマンベール……今は『黒き月』の研究をしているが、それまで何をしていたかは、そこのそいつがよく知っているはずだ」

 

 

右手を前に伸ばし、ラクレットを指さすカマンベール。全員の視線がラクレットに集まる。ラクレットは既に完全に冷え切っている頭を起動させる。先の護衛戦艦のカトフェル達の犠牲による動揺など欠片も見えない、そんな異常性も周りの人間からすれば些細なこと、今のカマンベールの発言の方が注目されている。

 

 

「ええ、お久しぶりです兄さん、お変わりないようで何より、それと任務ご苦労様です」

 

「……ああ。久しぶりだな、弟よ」

 

 

きっちり30度頭を下げて、機械のように精密な動作で戻るラクレット。それに対して、受け取るものがあったのか、一瞬で何かを思考しラクレットに合わせるように答える。演劇の芹生合わせのような違和感があったが、誰もそんな事より発言の意味について頭を巡らせていた。

 

 

「おいおい……どういうことだい?」

 

「兄さんって……アンタまさか!! 」

 

「ええ、彼は僕の兄です、下の。3人兄弟ですから」

 

 

瞬時に驚きの波がそこから広がっていく。彼のそのあまりにも平坦な態度にも疑問を抱かずに、その事実だけを見ての反応だ。まあ無理もないであろう。なぜならば、自分たちにとって全く訳の分からない存在が実は、ラクレットの兄だったのだから。それこそ実は

他文明に属する人類だといわれても納得できるような存在だったのだから。

 

 

「で、なんか長くなりそうだから先に聞きたいのだけど、ここに『白き月』の管理者はいないのね? 」

 

「シャトヤーン様は、現在『白き月』にいる、故に私が直々に「あーはいはい、いないのが分かればそれでいいわ。カマンベール相互理解とやらを深めていて頂戴、私は策を考えているから」

 

 

シヴァ女皇がそう説明しようとすれば、即座に彼女は割り込んで言いたいだけ言うと、そのまま紅のコアの中に戻っていった。自分の話を遮られるという経験があまりない彼女にとっては、ショックだったのか呆然としていた。

 

 

「あー、はいはい。わかったよ、とりあえず、何から話すべきか……」

 

 

カマンベールはマイペースなノアに慣れているのか、直ぐに話し始めようとする。とにかく疑問や疑念、そして陰謀から疑心さらに自分勝手な行動と、大変場が混沌としてくる。そして、その場を打ち破ったのは以外にもラクレットだった。

 

 

「皆さん、手短に説明します。この男性、カマンベール・ヴァルターは私の兄です。前皇王陛下の命により、エオニアについて行き、廃太子の動向を観察していたそうです。先の少女ノアは、おそらく『黒き月』の管理者でしょう」

 

「なっ!! ……それはいったいどういう事だ!? 」

 

「それを今から説明しましょう、まずは私の兄について」

 

 

詰問を受けても表情すら変えない彼の異常性にようやく、周りの数人が気づくが、ラクレットの表情はひたすら無を映し出している。そして彼は語りだす。

兄によって書かれた架空の真実を────

 

 

 

 

先代の皇王が出資する研究所の研究員をエオニアの元に送り込んだ。

 

この事実を知っている人物は少ない、しかし歴史上そういった事実があったことになっている。後世の歴史家もそう信じて疑っていないのだ。

 

まず、世紀の科学者カマンベール・ヴァルターは元々兵器開発の研究をしていた。当時、そういった力を欲していたエオニアが接触するのは時間の問題と思われた。この時皇王は、先手を打つことにした。そう、カマンベール・ヴァルターを秘密裏に抱き込んだのだ。

 

事実、エオニアは後に反乱を起こしてすぐに鎮圧された。その際に、対外的にエオニアについて行ってもおかしくなさそうな彼を送り込み、エオニアの惑星外でロストテクノロジーなどを入手した際の抑止力、要するに埋伏の計をかけたのである。何らかのアクションを起こさせないように、妨害をするわけだ。カマンベールが直前に休暇を取っていたのは、ジーダマイヤのリークしていた情報により、クーデターの起こる間に命令を受けて準備をしていたためだ。

 

もちろんこれは極秘裏にである。ジーダマイヤなどと言った軍の人間は到底知りえることではない、政府の最重要機密。カマンベールと皇王の関係はごく一部、一握りの人間しか知りえない事であった。もちろん、エオニアが出立したのち、政府の最重要機密から、機密に格下げし、信頼できる軍の高官や貴族も知りえる事とし、皇王の策謀を対外的にアピールするつもりであった。

 

しかしながら、ここで誤算が発生する。彼の顔がテレビ局のゲリラ的な取材により発覚してしまったのだ。そのため、この計画を表にした場合、寄付金を受けた皇王が後付で取り繕ったように見えてしまう。これは、策としては下策だ。故に、この策は表にせずに、そのまま皇王とその周りの一部だけが知りうることとなった。

 

 

 

「この直属の命令は、その際にもらったものです。まだ幼かった僕は、このことを知りませんでした。ですが万が一生存していた場合に、社会的な信用のある立場の僕がこの指令書を提示すればよいと、長兄がもしこのような事態になった場合渡すようにと……」

 

 

そういって、ラクレットは、皇王の直筆によるサインが入った命令書を提示した。これは偽装されたものではなく本物であることが一目瞭然であるもので、彼の発言の信憑性を高めている。

 

 

「そ、そんなことが……なるほど、父上の策略か……」

 

「ええ、勅命をうけた俺は、エオニアの下で働いていた。だが、『黒き月』を発見して、その制御を得るためのインターフェイスを味方に付けたエオニアは、俺を幽閉した」

 

「そして、決戦時、エオニアが死に、拘束が弱まった時に、『黒き月』のコアにたどり着き、そこに身を隠していたのか……」

 

 

そう、筋道は通っている。この皇王の勅命を示す書類が、圧倒的な効力を持ちこの筋書きを後押ししている。そう、女皇であるシヴァも納得してしまう程だ。前王がエオニアへの抑止力に部下に監視役を紛れ込ませるのも、優秀であるからそれを感づきつつも登用していたエオニアがいるのも、黒き月を見つけたエオニアがもう用済みだと黒き月に幽閉し研究成果を上げないと命はないと生殺与奪を握るのも、全て違和感のあるものだが、納得できない話ではない。

 

 

 

もちろん上は架空の事実、歴史の教科書に載っている虚構だ。

 

当然ながら、カマンベールは自分の意志で着いて行っている。エオニアに拘束されていたのではなく、自分から『黒き月』に入って出てこなかった。

 

しかし、彼らは信じた皇王の勅命は、それだけの価値がある。

 

それを偽造するなど、偽造できるなどありえないからだ。そう、シヴァは自分自身が清く正しい皇であるからこそ、そういった発想に持って行けなかった。もちろん勅命事態は本物だ。しかし、それ自体が本当に皇王が考え、出したものなのかは別である。

 

 

歴史の闇に消え去った真実はこうである

 

皇国や白き月よりも、強力な兵器を開発しようとしているように見えたカマンベールの思想は、やや危険だったために追放する名分がほしかっただけであったのだ。そのため、エオニア追放に合わせて危険思想を持つ民間人という事で何らかの罪で拘束する予定だった。その当時彼は16歳だが、皇国の刑罰は15から適応されるのだ。

 

しかし、彼が自らエオニアについていくという事となったために、カマンベールにはそういった罪が適応されなかった。そう、それだけ。皇王など一切関与していない。しかし、それならばなぜ勅命などが残っているのか、それは簡単だ

 

当時、カマンベールの一連の騒動の際に、本星へとエメンタールがわざわざ、父親についっていった理由がそれなのだ。そう、彼は勅命を偽造したのだ。厳密には大量の寄付により、貴族の高官の一部を通して、そういった命令を出させたのだ。

 

『カマンベール・ヴァルターは皇王の命令で、国外に追放されるエオニアへの毒として同行する予定だった』

 

という事実に塗り替えるために。

 

 

 

『うむ委細承知したぞ。しかし、なぜわざわざこのようなことを? 』

 

『弟がせめて、反逆者にならないようにですよ……兄からできるせめてもの手向けです』

 

『そうか……皇王陛下には私から通しておこう、なに丁度ほとぼりを冷ますまで隠居する星がほしかったのだからな』

 

『ありがとうございます』

 

 

とまぁ、こんな感じだ。

当時の皇王は大変な好色家として有名であった。加えて無理やりその座についたため市民からの評価も支持も人気も低い。そのため自分を支援する貴族には大変甘い。他にも金を持っている商会や組合も献金すれば甘い汁が吸えたという状況でった。

 

そういった綻びをうまくついてやれば、多少の政治的な力学は動く。なんせもう会うこともないであろう、実質死刑と同じような扱いを受けた人物のバックストーリーを変更するだけ。そう、言うならばすでに焼却された死体の死因を大量出血から、心臓麻痺に書類上で書き変えるようなものだ。

 

これは兄が、万が一カマンベールが戻ってきた場合、自分の手足として動かすために、手綱をかけるために仕組んだ恩。エオニアの思想に染まっていても、エオニアと共に死んでも、『黒き月』と共に砕け散っても成り立たない、お遊びのような策。だから、読めない。優秀な思考回路を持っている人間は、それをまず否定してしまう。

 

策として成り立っていない、この戯れに過ぎない行動があったなんて、想像の範疇外。完璧な未来予測でもできない限り、成就するはずのない偶然。

それを自分から行うなどは、狂人以外に他ならないからだ。

 

 

歴史上の事実となる嘘。その嘘がどうして存在しているかの陰謀、そしてそれすらも違っている、本人の意志だったという事実。その2重の蓋に覆われた真実にたどり着ける者はいないのだ。たとえ、少々の疑いを持っている、タクトや、フォルテだってだ。

 

もちろん、この策の最大の弱点はミント・ブラマンシュだ。読心と言う能力は、こういったことすべてを凌駕する。策をいくら重ねても、裏側から覗きこまれるのだから。それに対抗するには自己暗示などの催眠といった物しかない。事実機密情報はそうやって管理されている。だが、催眠を受ける余裕などカマンベールには存在していなかった。

しかし、それすら対策済みであった。この策をラクレットが知ったのは、つい先ほど、渡されていたデータを解凍したからだ。出立前にラクレットはエメンタールから『カマンベールを発見したら読め』と言い含められていた。

そう、事前には一切知らされていない。ラクレットだって心の底から、実は皇王による勅命だと思い込んでいる。兄からの手紙は自分の意志でついて行ったとあるが、それこそこの策を成功させるためのフェイクと信じ込んでいるのだ。さらにそこには日本語で説明が書かれており、ラクレットの思考を強制的に日本語にしているのだ。

対するカマンベールは全ての思考を日本語と英語によって行っている。最近トランスバールの標準言語で思考し始めたラクレットと違い、研究者として自分の頭で考えるときは自分の使いやすい言語を使う癖のついたカマンベールは、当然のごとくミントに思考をよまれることはない。

そして最後に、全員が話を理解しようと整理している間に、弟に近づき、久しぶりの再会を演出している兄は、ラクレットが読み上げている資料の外縁を囲っている意匠のように細工された古代文字────日本語でより詳細なこの策を理解した。

 

そう、これにより事実にほころびが発生することなどない。ラクレットが失策をしようにも、その失敗をするだけの事実を知らない。カマンベールが自らが不利になる為に、失言をすることなどないのであるから。

 

 

「まあ、そういうわけだ。今は別に俺のことが信じられなくてもいい、信用なら後で勝ち取っていく。それより重要なのは目先の事だろ?」

 

「ええ、一応これで兄の身分は保証されました。今後の話をしましょう」

 

 

 

そういって話題の転換を図る二人、疑念の目を完全に取り除けたわけではないが、それでもこの非常時ならば、話を実行せざるを得ない。

 

 

そう、重大な説明すべき話題は

・ラクレットの兄と名乗った人物の正体

・先ほどの敵の正体と狙い

・先ほどの少女の正体と目的

の3つもあるのだから。

 

 

 

「それじゃあ、さっきの女の子について聞いていいかい? 」

 

 

ようやくペースを取り戻してきたのか、会話の主導権を握ろうと舵を切り出すタクト。もう後は流れに任せるままでいいラクレットは、力が抜けたのか、椅子に腰かけている。ちなみに長い話になるからと、司令室まで移動している。

 

 

「ああ、質問してそれに答える方が早いだろうな」

 

「よし、それじゃあまず、オレはあの娘を前に見たことあるんだ。黒き月を管理している少女だったんだけど……」

 

「先に少し出した、インターフェイスのことだな。本体である彼女は、ずっとコールドスリープを施されてコアの中で眠りについていた」

 

 

余裕綽々でそう答えるカマンベール、態度は大人のそれだが実は身長がランファよりも小さく160cmと数ミリしかなく、白衣を着た子供と言ったように見えるのはご愛嬌か。正直ラクレットとどちらが年上に見えるかと聞かれれば悩んでしまうレベルだ。7つの年の差があり彼はタクトと同い年なのだが……そして、その発言を聞いて真っ先に反応したのはシヴァ女皇陛下であった。

 

 

「まて!! それはつまり 『黒き月』の起こした被害は関与していないから関係ないと言い張るつもりか! 」

 

 

彼女は女皇として、『黒き月』の残した皇国への傷跡は絶対に忘れてはいけないものととらえている。それは当然であろう。『黒き月』がなければあれだけ莫大な被害を出すこともなかったのだから。

 

 

「その点については、ノア自身に聞いてくれ、彼女にも目的があったんだ。そして俺はそれに協力したいと思っている」

 

「目的? ……目的だと!! 皇国の罪なき市民の命を使ってでも果たさねばならない目的など!! 」

 

「陛下、少々落ち着いてください」

 

 

タクトの取り成しに、熱くなりすぎたシヴァは一瞬で我に返る。そう今はそんな禅問答をしている時間ではないのだ。直ぐに顔をあげ、カマンベールに向き直る。そう今必要なのは情報だ。

 

 

「あいつの心の内まで知りたいなら直接さしで話すといいさ、それで、ノアについてほかに質問はあるか? 」

 

「……彼女は何者なんだい? 具体的には」

 

「俺の知る限りだと、先文明であるEDEN時代の人間だ。外敵に備えるために作られた『黒き月』の管理者だ」

 

「外敵? それってさっき言っていた……」

 

 

「ああ、ヴァル・ファスク 人間を超越した寿命と能力を持つ異種族な存在だ。皇国の敵になるのだろうな……」

 

 

 

そう語る彼の表情は硬かった。それがヴァル・ファスクという存在の大きさを物語っていた。

 


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