僕と兄貴と銀河天使と   作:HIGU.V

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第17話 先遣隊

 

 

 

「敵に旗艦反応なし、どうやら先遣隊の様です!! 」

 

 

来襲してきた敵の艦隊はどうやら敵の本陣ではなかったようで、様子見の先遣隊────足の速い艦で構成された部隊だった。本星であり、最終防衛戦までこの艦が来たのは、シヴァ陛下の英断に起因している。彼女はオ・ガウブが出てきた場合味方の艦隊がただの棺桶になることを理解し、警戒網を張るに留め、皇国本星の最短ルート以外での戦闘を割けるようにルフトに厳命したのだ。

もちろん、無差別に人の住んでいる惑星やステーションを襲撃された場合、玉砕覚悟で時間稼ぎをする必要があるが、無駄な戦闘を割けるようにしたのである。その結果先遣隊が妨害されずに到達してしまったのである。

 

 

「皆、落ち着け、冷静に対処すれば、そこまで問題のある敵じゃない」

 

「そうですわね、以前は余裕で蹴散らしていた敵ですもの」

 

「油断は禁物だがね、負けるような敵ではないさね」

 

「そうよ!! 私たちは銀河最強のエンジェル隊なんだから! 」

 

 

タクトの言葉に、士気を取り戻す面々。一度大敗をしているが、その前の遭遇戦ではそれぞれ数隻を相手に十分戦えていたような戦力なのだ。敵の母艦すらいないのだから、数が多くとも十分対処ができる数だ。

とりあえず、現状『エルシオール』が向き合っている敵艦の数はおおよそ30。冷静に考えれば、泣きたくなるような数ではあるが、味方の援軍として5隻のザーブ級最新戦艦が味方に付いており、エンジェルフェザーを解放した紋章機6機と同様に翼のはえた『エタニティーソード』と正直お釣りがくるレベルの戦力である。

 

もちろん敵の戦力の増援が来る可能性もあり、味方の艦隊の多くは先に述べた防衛のために出払っており、味方のこれ以上の増援はあまり望めない。もちろんこの最終防衛線を構築しているのもあるし、他の方面軍の援軍に向かっているのだ。

 

 

「それじゃあ、護衛艦の皆さん、速度の関係で我々が先行しますので、撃ち漏らしの掃討よろしくお願いします」

 

「了解した」

 

 

護衛艦隊を率いるレジー大佐にそう命令をするタクト。彼は先の内戦で大佐になったためタクトの方が先任なのである。加えて護衛する側とされる側というよりも、エンジェル隊を指揮するタクトに合わせた方がより迅速な対応ができるのだ。

 

 

「エンジェル隊、戦闘機部隊 出撃!! 」

 

────了解!!

 

 

そして、『エルシオール』から7機の機体が発進し敵に向かって進撃を始める。主な敵が高速戦艦であるため、ランファとラクレットの同時攻撃による攪乱はさして効果的ではない。しかし、それぞれがたいまんを張っても十分倒しきれる敵ではある。1隻当たりの武装と装甲が大したことが無い為だ。むろん主砲に当ればひとたまりもないが、紋章機の速度では無視できるものだ。

 

 

「ランファとミント、ヴァニラとちとせ、ラクレットとフォルテで3組に別れて、それぞれ右、右中間、左中間に進んでくれ、基本的には近くの敵を片方が引き付けて、もう片方で止めを。ミルフィーは左の方向に行って、暴れてきてくれ」

 

「えー、私だけ一人ですかー? 」

 

「あんた、いま好調なんだから良いじゃない別に」

 

 

しかし、一応念には念を入れて、2機で1ペアの単位として運用することにしたタクト。ミルフィーは数と能力の関係上一人になるが、アバウトな指示で危なくなったら戻ってくるように言っただけと、彼女に任すような命令だ。まあ、今の彼女は単体では最強クラスなのだからあまり問題は無いのだが、ミルフィーとしては少々複雑な心境である。

 

文句を言っても一応は司令官のタクトの命令に従わないわけにはいかないわけで、指示された通りの行動を始める各機。最初こそ久々の(ちとせにとっては初めての)エンジェルフェザーを展開した全力機動に若干戸惑っていたが、ものの数分で勘を取り戻して、破竹の勢いで敵を刈り続けていた。

 

戦場の動きは、ランファが接近し敵を複数集め、引き寄せたところにミントがフライヤーによる攻撃の雨を降らせる。ヴァニラが回避を生かして敵を誘導し、それをちとせが的確に機関部を狙撃していく。ラクレットが密着し砲台を落とし、それをフォルテが撃ち合いで沈める。そういったパターンが既に形成されていた。実際コンビネーションとしては最適であろう。もちろんミルフィーは一人で圧倒的な戦火をあげているのだが、やはりどこか危なっかしい。

なんというか、強力で大味な攻撃を主にしているわけで、攻撃が命中しなかった場合、自分の速度も相まってかかなり近づいてしまうことになるのだ。もともと、速度、攻撃、射程、回避が押し並べて高い機体が強化されているので、まさに万能な機体なのであるのだが、どうにも隙が大きい。まあ、相手にしている敵の数が多いので当たり前なのだが。そう言った不安定さこそが彼女の魅力であり元味でもある。

 

 

「司令!! 敵増援です。同型の高速戦艦が20、戦艦が3隻、空母1隻です」

 

「うーん、場所はミルフィーとフォルテ達の方か……よし、フォルテはミルフィーの援護に回ってくれ。ラクレットはそのまま無理をしない程度に敵の足止めを頼むよ。他の皆も戦線を左に移すよ。護衛艦の皆さんは右側をお願いします」

 

 

敵に合わせて逐次陣形を変更し応対していくのは下策であるが、此方の撃破のペースが完全に出現のペースを上回っている現状、あまり問題は無い。そもそもこのメンバーで打ち破ることのできない策を先遣隊が持っているとは考え難く、どの道敵をすべて殲滅させる必要があるのだ。

 

 

「了解だよ、ミルフィー止めは任せな!! 」

 

 

「はーい!! それじゃあパーンと行きますよ!! ハイパーキャノン!! 」

 

 

圧倒的なエネルギーを持った光線が発せられ、直線状にいた数隻の艦を丸ごと薙ぎ払う。止めを任せろと言われたからか、破壊よりも拡散を重視しているのか機体を左右にそらしながらの砲撃である。まあこのビームは曲がるわけだが。そして、かろうじて生き残った艦に対しては、フォルテの『ハッピートリガー』からミサイルと銃弾の嵐が降り注ぎ機能を停止する。

他のエンジェル隊も、戦線を維持しながら指示された方向に移動を始める。戦いは順調だった。

 

 

ラクレットは相も変わらず、効率よく敵の懐に潜り込み、攻撃をよんで回避し、返す刀で砲台を沈める。と言った単調作業を繰り返していた。今回は足止めがメインのため、砲台を6割ほど落としたら、次の高速戦艦を狙いより多くの敵の自分に対する危険度をあげて、要はタゲを取る行為を務めていた。

今の彼はひたすらに機械的に最適な行動をしているだけであり。一種の機械のような存在だ。最もものすごく精密で優秀なCPUを搭載した機械ではあるが。おおよそ6隻ほどの艦の群れができ、ヒット&アウェイで引き付けながら。これくらいが限界だと判断し、これ以上敵にちょっかいを出すことをやめていた。

一応自分のキャパシティをわきまえているのだ。相も変わらず機械的な動きで敵を捌いてゆくラクレット。長期戦上等であるので、攻撃目標は敵の砲台のみだ。故に徐々に敵の攻撃が鈍くなってゆくのが手に取るようにわかる。しかしだからと言ってこれ以上無理に敵艦を増やす行為をせずに、ただひたすら目の前の敵を慎重に削ってゆく。1%以上の確率があるのならば、彼は危険な行為をしない。それが機械的な動きをしている彼の判断だ。

 

そう1% 100回に1回程度の確率までしか彼は見ることはしない。故に、いやだからこそ彼は手痛い失敗を犯してしまう。そう、彼が粗方の砲台をそぎ落とした艦を落とすべく、最後の攻勢を加えようと接近した時だ。彼の鋭い左の刃は敵の機関部を切り裂いた。その時機体の少し後方で突如巨大な爆発が起こったのだ。

 

 

「っくあぁ!! 」

 

 

無人艦とは言え、いくつかの艦には緊急時に人を乗せても良いように空気は積んである。そう、機関部を切る少し手前の部分に置いてあった何らかのものに刃が届き、それを切り裂いた結果、大きな爆発を発生させてしまったのだ。この現象はおおよそ0.2%で起こりうると計算されており、なおかつエオニア戦役において1度観測されているのだ。

しかし、今の彼はその危険性がほぼ眼中にない状況にあった。1度その爆発に巻き込まれてからは、斬撃を与えた後相手の爆発があってもいいように気を張っていたりシールドの出力を上げたりとしていたのだが、長く期間が空き徐々にその習慣が廃れていった。

これは彼が悪い事ではないのだ。単純にあまりにも起こりえないことに対して警戒するリソースを割くくらいならば、他の行動をした方が効率が良いと判断するのはおかしくない。だが、それ故に彼は完全に予想外の衝撃を貰ったことになる。もちろんそんな爆発で削れるシールドは微々たるものだ。クロノストリング搭載機は伊達ではない。しかし轟音と閃光そして衝撃により一瞬、そう本当に一瞬だ。その刹那の時間、彼の機体の操作が疎かになる。その瞬間を敵が見落とすわけがなかった。この戦場での弾丸の速度は亞光速であり、相対速度は過去の地球上の戦場よりもむしろ緩やかであるが、絶対速度においては凄まじいものがあるのだ。今の攻撃受け敵A.Iから切り捨てられる判断のされた戦艦。それに被弾してもすでに構わないのか、一切気にせず周囲の敵戦艦群は攻撃を仕掛けてくる。攻撃の質が動く点を狙う物から、点の周囲の空間を狙いものに切り替わったのである。

 

 

「クソ!! 」

 

 

瞬間的に降り注ぐ攻撃。まだシールドに余裕はあるが、それでも無視できるものではない何より衝撃が連続し先ほどの閃光もあってかうまく体が動いてくれない。操縦時に5感の機能が上昇しているのも相成って、スタングレネードを食らった気分なのだ。何とか出力を上げてその場を離脱しようと速度あげる。

 

だが、それが彼の最大の失策だった。

 

彼が飛び出した空間。それは敵の戦艦、そう先ほどまで相手にしていた高速戦艦とは違う重装甲重火力の戦艦。その正面だった。

 

 

「な!! やば」

 

 

あまりの事態に完全に対応が遅れてしまうラクレット。気づいたタイミングで全力で回避をしていれば、まだ『戦闘不能』で間に合ったかもしれない。しかし、それをする前に頭の中の自分が、冷静に完全な回避は、戦闘続行は不可能、終わったな。と判断を下した。それが一瞬彼の動きを遅らせた。

巨大な砲門に光が集まっていく光景がスローモーションで見える。すでに敵の側面のレーザーとミサイル、レールガンは発射されている。それだけならば耐えられるだろうが、先ほどのダメージと主砲も鑑みれば、シールドのほぼすべてが消え去るであろう。

そんな判断をさらに頭の中で誰かが下し操縦桿を握る手の力を抜いた時。タクトから、自分の名前を叫ぶような声を聴いた時。彼の視界は捉えた。

 

 

 

 

 

 

砲撃を食らい、爆発する敵の戦艦の姿を

 

そして、その戦艦に攻撃を加えた、味方の戦艦の姿を

 

何度も何度も訪れ、そして地獄を見たその戦艦の姿を

 

 

 

 

「こちら、カトフェル。援軍に来たぞ、エルシオール」

 

 

 

 

 

結局その後、再会を祝うよりも前に、敵を文字通り全滅させ、カトフェル少佐はシャトルで白き月まで来た。司令とほかのクルーはそのまま第1方面軍の修理ドックに向かった。すでに運用ぎりぎりまで傷を負っていたのである。

 

あの別離の後、エルシオールがドライブアウトした後、敵旗艦はすぐに攻撃をやめ、どこかにドライブアウトしていった。その結果ドライブアウトすることができ、敵の残していった戦艦を振り切り逃走に成功した。この戦艦の他に2隻いたのだが、それらは、ダメージがひどく、近隣の基地に向かっていた。比較的といっても相対的ではあるが、被害の小さかったカトフェルたちの艦は本星に向かっていった。

 

通信機能を使い、周囲の基地と連絡を取ろうとしたのだが、エルシオールはかなり優秀な機器を搭載しているので可能だが、この時代の戦艦は基本的に超々距離の通信ができないのと、多くの『軍事基地』が壊滅しており、本星と連絡を取ることができず、ここまで戻ってきたのである。

 

 

「以上が我々の報告です」

 

「うむ、カトフェルよ、よくぞ生き残って戻ってきてくれた」

 

 

シヴァ女皇に労いの言葉をかけられる、カトフェル。敵地で殿を務め、その後無事生還したのだから、それは当然であろう。皇国としても、先の大戦で失った人員が多く、教導もこなせる優秀な人物は重要であるのだ。

 

 

「最終決戦では、こちらが新たに戦艦を用意するので、その指揮にあたってほしい。司令には約束通り、地上に降り大将職をしてもらうからのう。新司令は君だが、クルーも君なら納得するであろう」

 

「司令はそれだけを嫌がっていましたよ、帰還にあたって」

 

 

戦艦の艦長で司令は、今回の任務を最後に地上に降りるように将軍となったルフトと約束をしていた。本人はここまで来たら死ぬまで艦に乗っていたいといっていたのだが、ルフトに懇願され、地上に降りることとなったのだ。

 

 

「それで、ヴァルター少尉と話をしたいのですが」

 

「うむ、彼なら今エルシオールにいるであろう、そうじゃろ、タクト?」

 

「あ、はい。さっきの戦闘の後、堪えたのか部屋に戻っているはずです」

 

 

本当ならば、ラクレットもこの場に来るのであろうが、彼は先ほどの戦闘で自分の力を過信していたことに気がついて、カトフェルに合わせる顔がないと、部屋に閉じこもってしまった。タクトも1度は声をかけたのだが、一人にしてほしいといわれ、白き月に呼ばれていたのでここに来たのである。

先ほど死にかけたので、エンジェル隊も心配をしていたのだが、やんわり今は一人にしておいてやるべきと言い含めてきたのだ。タクトもカトフェルならば、ラクレットも話をせざるを得ないだろうと考え、彼をエルシオールまで案内するのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「入るぞ、ヴァルター少尉」

 

「…………少佐」

 

「ふむ、片付いているな」

 

 

ここはラクレットの部屋。先の通りカトフェルはエルシオールのラクレットの部屋を訪ねていた。やはり、奇跡の生還を果たしたことになっている恩人を部屋に入れないわけにはいかず、ラクレットは扉を開いて招き入れていた。何時もに比べて少し表情に陰のあるラクレット。今の彼は感情が死んだ機械というよりも、誤作動を起こした機械の前で頭を抱えている経営者といったところだ。

 

 

「さて、よくここまで生き残ったな」

 

「はい、少佐のご教授の賜です」

 

「そうか、それにしては先ほどの戦闘において、ずいぶん無様な醜態をさらしていたようだが」

 

「申し訳ありません」

 

 

一切の迷いなくラクレットの傷口を切り開いてゆくカトフェル、傷口の膿を出すといった点では正しいのだが、やや性急であったと言わざるを得ないであろう。その証拠にラクレットの表情がまた凍ってしまう。といっても一瞬だが

 

 

「指揮をしていた、マイヤーズ大佐とも話をしたが、やはり無理をさせていたかもしれないと悔やんでいたぞ。貴様には自分のできる分を理解して動くようにと教えたつもりだったのだがな」

 

「はい……」

 

「ここ数日の貴様の行動は聞いた。気でも狂ったか? シミュレーターの稼働時間が2日で12時間とはどういうことだ」

 

「………」

 

「スタンドアローンの物も利用して、ログを少なく見せかけていたようだな。全く、変なところで知恵が回ることで」

 

 

どんどん指摘されてゆき、しまいには黙ってしまうラクレット。貴方達が死んだので、その分頑張っていましたなんて言えるわけがない。そもそも軍隊はそうやってひとりが責任を負う場所ではないのだから。

 

 

「大佐はな、かなり心配していたぞ、だが口を出せるような状況でなかったそうだ。その点に関しては私にも責任はあるが、それは作戦行動だったからでもある………この艦は甘い、いやそれが悪いことではないのだが、こういった時にお前のような奴がいると、逆効果になってしまうのだ。わかるであろう? 」

 

「はい」

 

 

カトフェルは別にマイヤーズのやり方を否定しているわけではない。こういった抜くところは抜き、締めるべきところではきちんと締めるという方法はきちんと運用できれば、かなりの効率を生むことは重々承知している。しかし、ラクレットのような一つのことに固執して無茶をしてしまう人物には、あまりあっていない。

 

実際ラクレットが、戦艦での扱きに堪えられたのは彼がキチキチの規律に若干の居心地の良さを感じたからだ。いわゆる指示待ち人間ゆとり世代の気質がある彼は、こまめに命令を受けるような場所で訓練を受けることがちょうどよかったのだ。もちろん、最終的には自分で考え臨機応変に応対することが求められるが。

 

 

「貴様にはまず、自分を守ること理解することを教えたが、間違っていたようだ」

 

「と言いますと? 」

 

「ラクレット、お前は……仲間を信用しているが、信頼していないだろ」

 

 

正面から目を見据えて、そう言い放つカトフェル。ラクレットは今度こそ本当に表情が人間的に凍りついた

 

 

 

 

一度ラクレット・ヴァルターという人物について振り返ってみよう。彼は何らかの要因で別の人生という記憶を持って生まれた。年の離れた兄二人と両親に囲まれて育った彼は5歳の時その家に伝わる風習で、エタニティーソードを起動させてしまう。そのせいでただでさえあった増長が肥大化し、自分こそが主人公であるといった英雄願望で固まってしまう。

しかし、先の大戦で戦ううちに、自分の中にあった矛盾と、『人の死』に気づいて一度記憶がリセットされる。その後それを取り戻した彼は反省し。エンジェル隊の力になり、彼女たちを助け守りたいと望むようになった。

その後先の大戦で活躍し、表彰を受けた彼は、今回の戦いに偶然が重なる形で参戦し、初めて味方を失う経験を経て、成長するわけでもなく、心を閉ざし訓練に励むことにした。結果戦い方が機械的になり、過去に犯した過ちの轍を踏むこととなった。

 

彼の本質は、誰かのため、特に親しい人のために動くことだ。改心した時の彼も、エンジェル隊を守りたい、おこがましいですが と言っており、お互いに対等な位置に立つというよりも 上位の者に対して仕える様な姿勢だった。

 

そう、彼は誰かに頼るという行為が苦手だ。促されてならばともかく、自発的に行うといったことができてない。

 

これは彼の自分に対する過小評価からも来ている。エンジェル隊やタクトたちに対する崇拝のような感情、神格化してしまった思いがそれと相乗効果を起こしてしまっているのだ。

そうでなくとも、人を信用するのに時間がかかり、信用したらしたで、迷惑をかけて自分への心証を悪くしたくないという一心が出てきてしまう。その結果頼ることをしなくなる。

人に中々なつかない大型犬といった所か。問題なのはなついた後、飼い主に嫌われたくないのか、良い子でい過ぎてしまう。非常に面倒な負のサイクルの中に彼はあるのだ。

 

 

「お前は、自分を低く見すぎだ。いや嫌われたくないのか? ともかく誰かに物事を頼もうとしていない。信じて頼っていないのだ」

 

「そ……そんなことは……」

 

「仲間と信頼できているのならば、たとえ意味がなくとも不合理でも、誰かに泣き付くべきだった。まだ14なお前はそれをする権利があったはずだ。兄と再会したのだろう? 」

 

 

ラクレット的には兄はあまり関係が深いわけではないので除外してもいいのだが、そのとおりである。考えても見てほしい、短期間とはいえ、大きく世話になった人物が、自分たちをかばって安否が不明な状況になったのだ。

 

大人であっても誰かに支えられて立っていられるような状況。そんな中、傷のなめあいすらせずに、自分を責め、自分の力のなさを嘆き、無茶苦茶なメニューで訓練を開始した彼は、はたして誰かを頼ることができていたのだろうか?

 

答えは否だ。仲間のことを信じることはできている。支えになることはできているし。どうしようもない状況に陥ったら、それを回避しなければ回りごと被害を受けるのならば協力を要請できた。

 

しかし、真に自分のために、言い方は悪いが、仲間を『利用する』ことができたのか?

それは彼ができていなかったことだ。自分の為に好きな人の力を使う。それができない人間だ。決して珍しい存在ではないが、このエルシオールにおいては問題があった。

 

 

 

「お前は少し自分に自信を持つところから始めるべきだな」

 

「……昔は過剰なほど自信があったのですが、打ち砕かれて以来は正直……」

 

 

そう答えるラクレット。

いきなり頼れと言われても難しいものがある。彼の場合は自分なんかが迷惑をかけてもいいのだろうか? といった状況だ。

 

故に自分に自信を持てとカトフェルは言った。そうすれば彼の場合ある程度の好転は起きるであろうから。

 

 

「ともかく、明後日には決戦だからな。自分の中でそれまでに答えを出す必要があるだろうな」

 

「………はい」

 

「マイヤーズ大佐、エンジェル隊、ほかのクルーたちにも、卑屈にならない程度に謝っておけよ。彼らは貴様を心配してくれたのだからな」

 

 

そういって立ち上がるカトフェル。彼もこの後クルーと合流して、戦艦の指揮をする準備をしなければならないのだ。決して暇な時間を過ごせるわけじゃないのである。

 

 

「今日はもう休め、明日は言われた通りにしろ。これは命令だ」

 

「……了解です」

 

 

カトフェルは最後にそういうとラクレットの部屋を後にした。

ラクレットは閉まった扉を見つめながら思案にふけるのだった。

 

意識の在り方は変えた。力もつけた。

彼に足りない物、それは力の運用なのである。

 

 


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