僕と兄貴と銀河天使と   作:HIGU.V

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第2部エピローグ

 

 

 

僕は、意識を覚醒される前に、すごく浅い眠りの状態に良くなる、というより最近はぼ毎回なる。元々普通にベッドに入れば、何時に起きようって強く思って寝ると、普通にその時刻に起きられた僕なのに、寝起きが悪くなったのか? と思えば、そうでもなく、このうっすら意識があるような状況が終わると、思った通りの時間に起きている。

だから、僕はこの時間帯に自分の体のチェックアップを行っている。だから、まあ起きたとき、自分のどの部分がおかしいとか感じたらストレッチしたりするわけ、そこを重点的にね。

さて、今もそうだ。僕はどういう理由で寝ているのだか、昨日何を思ってこの時間に起きる事にしたかは、この浅い意識じゃあなんかよくわからないけど。まあ、いつものように確認。

 

 

(全身に違和感はなし、両手、両足もけがはない、体幹部にもなにもない、うん問題なさそう)

 

 

さて、もうすぐ意識が戻るだろう、それにしてはいつもより意識に靄がかかっているが、あ、思い出した、これまえに気絶した時もこんな感じだった。という事は、僕気絶していたのかね?

そう思いながら、瞼を開く。ぼんやり光は感じていたから、そこまででも無いがやはり中々に眩しいね。見たことある様な天井だけど、ここは? 体を起こして周りを見ようとすると、自分の右下から声が聞こえてきた。

 

 

「おはようございます、寝坊ですよ」

 

「クロミエ……僕は、いったい……」

 

 

そっちに目を向けると、最近ますますかわいくなった、僕の親友がちょこんと椅子に座って、こっちを見ていたとりあえず体を起こす。今の声で動くのをやめていたから、まだ横になったまんまだ。

 

 

「現在、エルシオールは祝勝会の途中です。あなたは先の戦闘の後、いつものように意識を失って、回収されたので、そのままエルシオールの医務室に眠らされていました」

 

「先生は?」

 

「何時ものように疲労だと診断すると、着替えて祝勝会に向かっていきました」

 

 

なるほど、やっぱり気絶だったんだね僕。先の戦いで、結構無茶した記憶あるもんね、うん。そんな風に考えて、微妙に納得していると、クロミエが優しそうな表情で僕のほうを見て微笑みかけてくる。

 

 

「……よく、頑張りましたね」

 

「え……あ、うん」

 

 

なんか、褒められた。そういえば昨日話した時も、なんか少し様子が変だった気がするし、どうしたんだ、クロミエ? こいつはストレートに褒めるという事をあまりしない。皮肉を言われたのかと思えば褒められたりする。その逆の方が多いけど。

 

 

「今回の戦いで、前に話した通り、僕は一切関わらないつもりでした。ですから貴方への接触も自分からはなるべく少なめにしていました」

 

「ああ、前に言っていたよね」

 

 

そういえば、そうだった。クロミエは、前に黒き月から謎の音声をエルシオールが受信したとき、タクトさんにそう報告した後、僕とクジラルームで話をしたんだ。なんか、これからの話で、てっきりその音声の話をするかと思ったら、

「今回の戦い、実は何が起こるか僕は宇宙クジラから、何が起こるかをおぼろげ程度にしか聞いていませんし、あなたと関わって拗れるのも嫌ですし、あなたに介入しません」

とか言われたんだ。だから、今まで僕はクロミエに世間話はともかく、相談しに行ったりはしなかった。決戦の前日に、レスターさんたちと入れ違いに来て、なんか謝られたんだよね、よくわからないから気にするなって頭撫でただけだけど。

 

 

「結局、貴方は全部一人でやってのけました。くじけて支えられながらも、ここまで来たのは紛れもなく貴方の力です、僕は貴方を一人の友として祝福します」

 

「あ、ありがとう……なんか、調子狂うから、それで終わりでいいよ」

 

 

うん、実は人から褒められたりするの、慣れてないんだよね。いや、表面的に褒められたり、感嘆みたいな驚きが混じっているのは、もう慣れたんだけど、ストレートに来られると、結構困るのさ。

 

 

「そうですか……謙虚なところも僕は好きですよ」

 

「え、いや、だからそういうの恥ずかしいから、やめてよ、いつもと立場が逆だよ、僕、受け流すのお前みたいにうまくないから」

 

 

赤面しながら、好きなんて言われるなんて、人生で初めての経験だ。もうなんか、すごくクロミエがかわいく見えるから困る。こいつとは対等な関係でいたいのに。よく見ると部屋の明りのわりにこの周囲が暗めなのは、カーテンがかかっているからで、密室みたいになっているからなのだろう。とまあ、焦っている割に、いつもの客観的な視点が入る

 

 

って、そうだ僕はさっきの戦いで、最後に気づいたんだよ。この客観的な思考ができたり、今まであんなにうまく機体を操れたりした理由をさ。理由はわからないけれど、僕は────

 

 

「やっほー!! ラクレット、起きてるー? 」

 

「ちょっと、ランファ、声大きすぎだよ。ここ医務室なんだよ」

 

「ですが、寝ているのはラクレットさんだけですし、私たちは起こしに来たのでしてよ? 」

 

「病室ではお静かに」

 

「えーと、ああ、あのカーテンかけてるベッドだっけ」

 

「皆さんお揃いで、どうしたんですか?」

 

 

どうやらこの賑やかさ、エンジェル隊の5人が来たようだ。ちとせさんがいないのは、大方軍の自分より偉い人に捕まっちゃっているのだろう。僕と同じでまじめな人だから。または押し付けられたか。クロミエも、椅子に座りなおす……って、よく見たら体乗り出してきていたのか、通りで近いわけだ。

 

 

「あ、起きてた」

 

「ラクレット君、タクトさんがそろそろ場をわっと沸かせてほしいって」

 

「私たちは、自分に立ちに与えられた命令を全ういたしましたわ」

 

「まあ、そんなに難しいわけじゃなかったけどね」

 

「命令を守っていただきます」

 

「えーと……?」

 

 

なんか、いきなりそんな5人囲まれて矢次に囃し立てられても、何の事だかわからない。一応、客観的な僕は、僕と皆は何か命令をされていて、それを僕以外はやったから、僕もやるべきだ、というまとめをしている。うん、主語がないね。

 

 

「ラクレットさん、一発芸ですよ」

 

 

そんな中、クロミエが僕に教えてくれた、一発芸という単語で、思い出した。

 

そうだ、安請け合いしちゃったけど、というかあの状況じゃあ断れなかったけど、僕は一発芸を、お偉いさんの前でやらなくちゃいけないんだった。というか、きっとタクトさんも全員にあった仕事を考えてくれたんだろうけど。僕が一発芸というのはきっと何も思いつかなくて苦肉の策だったんだろうね。

 

 

「あ、ああ、そういえばそんなことを」

 

「それじゃあ、なんか準備もあるかもしれないし、先に戻るね」

 

 

そういって、エンジェル隊-1は帰っていく、報告だけなら通信でいいのに、何しに来たんだろう? 忘れ物でもしたのか?

 

 

「荷物でもあるなら、持つのを手伝いましょうか?」

 

「いや、別にいいよ、僕にできそうなのを今考えたけど、そんな大道具がいるようなものじゃなかったし」

 

「そうですか、それじゃあ参りましょう」

 

 

ベッドのふちに腰かけて、靴を履きながら、クロミエの話に受け答えしていると、どうやら付いて来てくれる様だ。なんか、今日はずいぶん過保護だ。そのまま、医務室を出て廊下を歩いて部屋に行く間も、ずっと隣でいつもより半歩近く寄って歩いていたし。やっぱり責任感じていたのかな?

僕はそのまま部屋につくと、必要なものをポケットに入れて、顔と髪の毛に一応の為にちょっとした手間をかけて、準備し、白き月に向かった。

 

 

「いや、クロミエ、今日はえらく優しいけど、無理しなくてもいいんだぜ? 」

 

「いえ、今日はじゃないです。今日もですよ?」

 

「そうか、まあ別にいいけどな、お前が嫌じゃなければ」

 

「それじゃあ、好きにさせてもらいますね」

 

 

するとクロミエは、そう言った途端、僕の手を握って前に出る。ああ、そうだった、急げって言われていたんだった。僕たちは、そのまま手をつなぎながら、白き月の祝勝会会場に急いだ。

 

 

 

 

 

 

 

「一番ラクレット、火を吹きます」

 

 

僕はそう宣言して、左手を大きく挙げる。そっちに注目が集まっているうちに、右手で既に握りこんでいたガス式のライターを持ちなおす。この時代、ガス式のライターなんて、四つ葉のクローバーより見ない。だからこれを選んだ。両手で覆ってガスを出して口に含む、ある程度入れたら、ライターの火を点火し、口のガスを吹き出す。

 

 

────おおおーーー!!

 

 

ど、どうやら会場は何とか受けてくれたようだ。やっぱり大道芸的な、火を噴くというパフォーマンスは外れはしないか。うん良かった。いや、結構心配だったんだ。これくらいしかできるのなかったし、何よりこんなこともあろうかと、エメンタール兄さんからガス式のライターを貰っていたのさ。

 

 

「ラクレット!! 髪の毛!! 髪の毛燃えてる!! 」

 

「え? 」

 

 

僕がどや顔で、偉そうに壇上で立っていると、タクトさんが、いきなり僕を指さして叫ぶ。

察するに髪の毛が急激な発光と、発熱を伴う酸化現象を起こしている

よーするに燃えているみたいだ。

まあ、根元の部分にはしっかりさっきかけた皮膚を火から守る液を掛けてあるし、髪の毛の先っぽが燃えているんだろう。にしてもすごいな、全然熱くない。これがトランスバールの科学力……これを凌ぐEDENを一方的に屠ったヴァル・ファスク……やはり、侮れるような敵ではないな……

 

 

「消火器持ってきました!! 」

 

「よし! 消火急げ!! 」

 

「え、あ、ちょ!!」

 

 

と、僕が考えている間に、なんか周りが消火の為に消火器を持ってきたそうでそのノズルが僕に向けられる。あ、いや、ちょっと大丈夫だって、もうすぐ燃え尽きるから!! 熱くないから!!

 

 

「ちょ!! これ!! 防火処理きちんとしてるので!! 放置してもへいk」

 

「消火!! 」

 

 

 

僕の抵抗むなしくその祝勝会の間僕は顔を真っ白にして過ごすことになった。上着も完全にダメになってしまったわけで……あ、着ていたのは軍服。部屋に戻った時に、クロミエしかいないし着替えていたんだよ、一応軍の関係者の前に行くわけだし。

 

 

 

 

 

「いやー、さっきは笑わせてもらったぜ? 」

 

「なんだよ、いいじゃないか防火処理は完ぺきだったんだ。あのまま燃やさせておけばそのうち消えたって」

 

「スプリンクラーが作動したらどうするんだよ」

 

 

僕は今クロミエが持ってきてくれた飲み物と軽食を片手に、カマンベール兄さんと壁際で話していた。当のクロミエは、どこから持ってきたのか知らない口紅を使って僕の頬や目に落書きをした後、先ほどどっかに行ってしまったし、二人だけだ。

 

 

「いやいや、まさにお前の一発芸って言った感じで、オチも付いたいい芸だったよ」

 

 

からからと笑う、カマンベール兄さんは、僕の皿のクラッカーを無許可で一つつまんで食べる。だから許可とろうよ。

 

 

「あのさ、気になっていたんだけど、兄さんこれからどーするの? 」

 

「シャトヤーン様にな……誘われたんだ。罪を償いたいのなら、ノアと一緒に研究をしませんか? って、でそれを受けるしかないと思うわけだ」

 

 

兄さんの立場はすごく微妙だ。そりゃあまあ、対外的には皇王の命令で動いていた、工作員みたいなものだけど。この人の発明した『高速遠隔同時指揮システム』 『高性能AI』 『全自動AI戦闘経験蓄積共有機構』 とか、まあすごく運用するのに容易く結果的にエオニア軍を増強させてしまう形にはなった。

ノアはもう、EDENの人間のわけで皇国の法は適用されないし、本人の関係者も生きていないわけで、どうとでもなるのだが、兄さんはれっきとした行方不明者だ。すでに家には生存確認が届いているだろうし、一部では英雄扱いかもしれないが、エオニアによって被害を受けた人々の遺族は複雑な感情であろう。だからまあ、その判断は正しいのであろう。

 

 

「あんたたち、何男同士で辛気臭い顔してるのよ」

 

「いえ、ランファさん、ラクレットさんの顔は……クスッ……いえっ……なんでもっ…ありませんわ」

 

 

そんな感じで話していると、ランファさんとミントさんが近寄ってきた。というか、ミントさん笑いすぎです。別に気にしないので思い切り笑ってくださって結構です。その可愛らしい声でどうぞ笑ってくださいな。それがせめてもの手向けになります。今の僕は、ぼさぼさの髪の毛が少し焼け縮れて、なおかつ顔が真っ白なのだ。そこにクロミエが施した赤い装飾でまるでピエロの様だ。

 

 

「何回目かわからないけど、あんたら兄弟本当似てないわね。しかもカマンベールは、タクトと同い年なんでしょ? 信じられないわ」

 

「ほっとけ、フランボワーズ……まあ、俺とこいつの身長が逆だったら、こいつに立つ瀬がないからな」

 

「ふんっ、ランファさんより小さいくせに。あと顔のことは言うなよ、今のも、いつものも」

 

 

まあ、ランファさんの疑問はもっともだ。本当僕は兄弟の中で似てないのだ。エメンタール兄さんは、父さんに似ていて、長身細身の美形。カマンベール兄さんは髪の色以外は母さんに似ていて、背も低くそれでも顔はいい。僕は髪の色は母さんだが、身長は年の割に少し高めで、ガチムチな感じ、で顔は中の下くらい?

ともかく、僕はどうしてこうなったのだろうか? いやまあ体系とか髪の色はともかく、前世とあんまり変わらないんだよね、僕の顔。子供の時の自分はそっくりだったけど、今の自分はところどころ差異はあるんだよ。彫りが深いから厳つくなっている。少し鼻も高くなったし、目の色も微妙に違うとか。

 

 

「母さんたちにも会わないとね、兄さんは」

 

「ああ、そうだな、にしてもまさか、エンジェル隊と兄弟そろって関わりあうようになるとはな」

 

「あの、少々よろしくて?」

 

 

そんな話をしていると、ミントさんが僕たちに話しかけてくる。よく考えれば、僕と兄さんの身長差って、この二人の身長差は通じるものがあるよね。

 

 

「私、実はテレパスの能力を持っていまして、今ラクレットさんが、不快なことを考えているのは、わかりましたの」

 

「へー、なるほど。俺の考えが読めなかったわけか? 」

 

 

あ、実はミントさん曰く、僕の思考最近少しずつ読めるようになってきたそうです。要するに、日本語での思考が少しずつ減ってきているってわけだね。というか、オリ主補正でもなんでもなく、日本語なだけだったわけさ。

 

 

「ええ、貴方も古代語を? 」

 

「ああ、俺はその方向の勉強もしたわけだからな、こいつよりうまいぜ? 」

 

「そうすると、あなた方3兄弟は随分優秀ですわね」

 

 

なるほど、確かにそうだ。長男は一代どころか、10年で圧倒的な規模の財を築きあげるような、人外レベルの発想の持ち主。次男は皇王直々の命令を受け敵に単身妨害任務をかけるような人物で、人間レベルでは最高クラスの研究者。三男の僕は、若干14歳にして皇国の最高クラスのパイロット、初陣で敵に単身特攻をかけたようなバカ。

 

それが、全員古代語を話すことができるというのは、何かしらの関連性を見出してもおかしくない。

 

 

「さぁな、血じゃないのか? それこそ。皇国の貴族の血を引いた途端、俺たちの父さんの家系が化けたとかさ」

 

「……そうかもしれませんわね」

 

 

ああ、またなんか疑念持たせちゃったみたいだ、どうしようか? まあ今度何とかしよう。僕はそう考えて、飲み終えてしまったので、飲み物をとってくると言ってその場を離れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、軍人である諸君も本日はゆっくり休んで、明日の文官の事後処理の手足となってもらう」

 

「ご苦労だった、諸君たちの活躍のおかげで皇国の未来があるのだ」

 

 

シヴァ女王と、ルフト将軍にそういわれて、エルシオールのエンジェル隊関係者以外のメンバーはホールを後にした。そのメンバーも、すでに白き月のシャトヤーン様のおられる部屋で、これからの話をする準備をしているのだ。僕は祝勝会が終わったら、部屋に帰ってシャワー浴びてから合流したのだ。まあ、確かにこれからのことを考える必要がある。こちらの国に敵意を持っている強敵国があり、なおかつどのくらいのスパンの戦争になるかも、敵の規模も実態もよくわかっていないのだから。

 

 

「さて、本日は本当にご苦労であった」

 

「皆さんのおかげで、皇国は守られました」

 

「まあ、その点においては感謝しているわ」

 

 

三者三様に僕たちをねぎらっている。まあ、これが本題でないことはみんなわかっているわけで、僕たちは、真剣な表情を崩さないで聞いている。ちなみにいうと、兄さんとノア、女皇陛下、シャトヤーン様、ルフト将軍が、エンジェル隊、タクトさん、レスターさん、僕と向き合うような形で立っている。

 

 

「しかし、もちろんこれで戦いが終わったわけではない」

 

「ヴァル・ファスクとの本格的な戦いが、いつの日か始まる。それが明日か10年後か、それとも600年後かわからないけれどね」

 

「まあ、少々楽観的かもしれないが、おそらくまずはこちらの情報を探るところから始めてくるだろうから、少しは時間あるだろうな」

 

「うむ……さて、諸君たちと、『エルシオール』クルーに通達すべきことがある」

 

 

そんな話を聞きながら、僕は思い出していた。ああ、そういえば確か、結局現状戦力としての『エルシオール』はする事がないわけで。ルフト将軍の話を聞いて、身構えるエンジェル隊。ま、まあこの半年間かなりこき使われていたわけで、警戒するのは当然だよね。

 

 

「そんな身構えずとも良い、お前たちにとってもいいニュースだ」

 

「うむ、エンジェル隊よ、そして『エルシオール』の全クルーは、今回の働きの褒賞として、一か月の休暇と特別給与を与える!! 」

 

「私とルフトで決めた、お前たちに対するささやかな報酬だ」

 

 

その言葉を理解するのに一瞬のタイムラグを要するものの、理解した途端沸き立つ、エンジェル隊の6人……いや、タクトが一番嬉しそうだ。うん、すごいねなんというか、ここまで部下と一緒に休暇を喜べるというのも。レスターさんも安心したような表情で、息を吐いているし、当然かもしれない。まあ僕が、こんなに冷静なのは、すでに通達が来ていて────いや自分で志願したんだけどね────知っていたからさ。

 

 

「ねぇねぇ、ラクレット君もどう? 」

 

「え? 」

 

 

どうやら考え事をしていたら、何を話していたのか聞き流してしまったようだ。相変らず子の癖は直らないな。

 

 

「だから、あんたも一緒に、休みの日程合わせて、ケーキ屋巡りに逝かないかってことよ」

 

「一月も休みがあるのですもの、そこまで難しいことではありませんわ」

 

 

あ、なるほど……ってなんかすごくうれしいな、遊びに誘われるなんてそれこそラクレット的に初めてだもの。サニーとかソルトとかは、学校で話すくらいだったしね、いや学校の周辺に娯楽ないのと家もないのが原因だけどさ。でもね、もっと早く言ってほしかったな。

 

 

「あー、諸君、申し訳ないのだが、ラクレット君は明日から本星の空軍学校で教習を受けてもらう」

 

「はい、自分から志願しました」

 

 

そう、僕はとりあえず自分がスキップした教習……というか訓練をきちんと受けなおすことにする。僕は、まだまだ基礎的な部分が弱いし、何より圧倒的に訓練の時間が足りていない。そりゃエンジェル隊みたいな特殊部隊で適性がモノを言うならともかく、僕の機体は厳密には適性がそこまで高くなくてもいいという事が分かったのだから。

そして、何よりこの懸案事項を引きずる訳にはいかないのだ。誘ってくれたことはすごくうれしいけれど、明日から半年間ほぼ休みなしの地獄の特訓が待っているのだ。いや、さすがに偶には休めるらしいけれどね。

 

 

「あら……それは残念ですわ」

 

「本当よ、よくせっかくの休みを棒にして訓練なんてできるわね」

 

「いえ、自分はまだ若輩者ですから、こうでもしないと皆さんに追いつくことも、僕の目標にも届きません」

 

「目標……ですか?」

 

「はい」

 

 

そう、僕は一度はいてしまった言葉を無理やり飲み込んでやるのだ。なかったことにしたら絶対自分が後悔するから。

 

 

「銀河最強になります。それが僕の目標です」

 

「へー、大きく出たねー」

 

「そうすると、私や先輩方はライバルという訳ですか」

 

「そうなります。半年後には轡を並べても恥じないような実力を身に着けてみせます」

 

 

まだ、僕はスタートラインにすら立っていない。自分に自信を持って、真の意味で仲間に成る為にも、僕はまず自分の実力をつける。皆さんと遊んだりできないのは悲しいけれど、それでも僕はこれからの訓練にその意味を見出したんだ。そう、僕自身が────

 

 

「えー、代わりと言ってはなんだが、ラクレット君には今通信が入っておる」

 

「え、通信ですか? 」

 

 

またもや僕の思考が妨害されるが、僕に通信なんて誰だろう? 十中八九エメンタール兄さんかと思うが、わざわざこうして言うくらいなのだから。

 

 

「ああ、まあワシとしても、子供を預かっているわけで、断るわけにもいかなかったのでな」

 

 

そう言って、通信のウィンドウを開いて何かしらの操作を入力すると、そこには見覚えがある顔が出てきた。

 

 

『ラクレット、久しぶりだな』

 

 

兄さんのような、やや細身の体つきに、兄さんよりも一回り年を感じさせる落ち着いた目と顔の老化具合……といってもどこからどう見ても30半ば、ぎりぎりおじさんと呼ばれるくらいかな? これ以上行くとおっさんとして。そんな男性の顔を見て僕たち二人は、結構驚いた。

 

 

「父さん!! どうして!! 」

 

「お、親父!? 」

 

『いや、カマンベールお前が見つかったと聞いてな、エメンタールも今のこの状況なら本星から通信ば問題ないと言ってくれて、通信しているのだよ』

 

 

どうやら父さんは兄さんと本星にいるらしい、理由はわからないけど。というか兄さん義姉さんが身重なんだから、傍に居てやれよ。そんなことを考えていると、後ろの方でささやき声が聞こえているのを、僕の耳があざとくキャッチしたので、軽く意識を割くことにする。

 

 

「ねぇねぇ、あれで、あの二人の父親って、どう思う? 」

 

「なによ、タクトあんたも聞くくらいでしょ? やっぱりそう感じたんじゃないの? 」

 

「ええ……少々若過ぎるかと思いますわ」

 

「あいつの長男がタクトの1つ上なんだろ? なんでまたこうも若いのかねぇ? 」

 

「もう、そういう血筋なんじゃないんですか? 」

 

「モッツァレラさんは、御年50才だそうです」

 

「あ……あれで50ね……あいつの所は何か間違っているわ」

 

 

いや、まあ僕もそう思うよ。今となってはある程度の推察できるけどさ。

 

 

『カマンベール、今度時間作って母さんの所にも顔出すんだぞ。ラクレットお前は軍に入るんだから、きちんと自分のことは自分でやるようにしろよ』

 

「ああ、わかっている親父。いままですまなかった。きちんとその点についてはひと段落ついたら対応するよ」

 

「いや、僕なんだかんだで自分のことできてるよ? 」

 

『それでもだ……マイヤーズ司令、いや、タクト君でいいのかな? 』

 

「叔父さんとお呼びすべきなんですかね? 」

 

 

父さんは僕に言いたいことだけ言うと、タクトさんに目線を写した。どうやら事情は把握しているらしい。というか、花嫁掻っ攫った家の名前くらい憶えてるか。父さん的には何かしらの因果を感じたのかもね。

 

 

『これからまた戦争が起こると、エメンタールから聞いている。その時私の息子を存分に使ってやってくれ。こいつは、誰かに必要とされて初めて正しいことができるやつだからな。導いてやってほしい』

 

「はい、オレ達もこいつには世話になっていますし、お安い御用ですよ」

 

 

なんか、タクトさんに頼まれているし。僕の事。いや、いいんだけどさ、なんだろう、この恥ずかしい気持ち。こういう経験ないからわからないや。

 

 

『それじゃあ、二人とも体に気を付けるんだぞ』

 

「ああ、兄貴によろしく言っておいてくれ」

 

「うん、わかった」

 

 

そう言い残して、通信のウィンドウが閉じた。相変らず自分のペースで話す人だよな。というか、それって遺伝なのかもしれない。なーんてくだらないことを僕はその時考えていた。後で分かったんだけど、遺伝というより、傾向だったんだよね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「思ったよりも、広い部屋だな」

 

 

開けて翌日。僕は軍の空軍学校に来ていた。入口で認識証を見せて、最敬礼されながらも施設を案内されて最後に、この自分がこれから使う部屋に通された。部屋はシンプルなベッドと机に、クローゼットと本棚があるだけだが、これと言って狭さを感じないような、そんな部屋だ。一応ユニットバスもついていて、キッチン以外欲しいものは全部ある。

 

 

「今日はもうお疲れでしょうから、ここでお寛ぎ下さい。食事は時間になったら食堂に来ていただければ」

 

「はい、ありがとうございます」

 

 

そう適当に返答して、案内してくれた一等兵を下がらせる。自分より年下に敬語を使うのはあんま好きな人いないだろうからさ。そうそう、実はこの訓練全く休みがないわけじゃないんだ。でもその間僕はどっかの式典に出席したり、スピーチに行ったりと、けっこう忙しかったりする。だからこそエンジェル隊の話を辞退せざるを得なかったのだ。まあ、自分で決めたことだし、後悔はしていないんだけどね。なんて思っていると、通信端末が、呼び出し音をならす。僕はそれを手に取って、エメンタール兄さんからのと確認して通話をつなぐ。

 

 

「今大丈夫か? 」

 

「うん、平気だけど? 」

 

 

いつになく真剣な表情の兄さん。この本星のどこかにいるんだろうけど、僕は場所までは聞いていない。まあ、用事があったら直接来て、連れ出していくような人だしね。別にそれでいいんだ。

 

 

「さて、第2戦お疲れ様だ」

 

「ああ、うんありがとう。でも、そんなことを言うためじゃないんでしょ? 」

 

「まぁな。その様子だと気付いたみたいだな? 」

 

「そりゃ、あれだけヒントがあればね。でも『エタニティーソード』以外に使えないのは、理由があるのかな?」

 

「その辺も、今度説明してやるよ。さすがにこの件に関しては女皇陛下に報告することがある。計画も含めてな」

 

 

そこまで言うと、僕も兄さんも一瞬無言になって、目線をもう一度合わせてから不敵に笑い合って。同じタイミングでもう一回口を開く。

 

 

「なんせ僕たち────」

 

「なにせ俺らは────」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────ヴァル・ファスクだからな

 

 

 

 

 

 

 

 

 




数日更新のお休みいただきます

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