僕と兄貴と銀河天使と   作:HIGU.V

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IFEND2  ミント編1 後編

 

 

 

 

 

 

 

 

「どこから……聞いていましたか? 」

 

「エメンタールさんから通信があって……もうすぐ通信するから見つけても後ろで控えていろと……」

 

「最初からですか……」

 

 

ラクレットは、一気に頭のギアが切り替わったことを自覚するほど、頭をつかう羽目になっていた。緊急事態! エマージェンシー! コードレッド! アップルジャック! どれが正しいのだっけ? 等とどうでも良い思考もあったが。

とりあえず文句を言おうと、振り向いた頭を元に戻すと、すでに憎きあんちくしょうは既に通信を切っていた。エスケープであろう。ウィンドウには文字チャット機能を使って『暗示はもう解けていると思うよ』と書かれていた。

 

 

「で……ですが、あの……」

 

「な、なんでしょう……?」

 

 

この状況で、言うのを躊躇われる様な事ってなんなんだよとラクレットは内心戦々恐々としているラクレットだが。頬を朱く染めた彼女の、小さく愛らしい唇から紡ぎだされる言葉は、彼の予想していたものとは幾分か違うものだった。

 

 

「自覚あるよ……の後の告白あたりから……次の告白まであまり頭に入ってきませんでした……」

 

「あー、それじゃあ、説明しなおしますね」

 

 

とりあえず、ラクレットは婚約の裏事情について詳細に説明し始めることにした。この婚約はあくまで仮初の物であること。兄とダルノーさんもその辺を解っていて、一切結婚の強制力はないこと。しかし、風除けにでも、火の粉から守る頭巾にでも使ってくれていいこと。ミントさんが成人したら解消されるので安心してほしいこと、またそれより早くてもそちらの都合で解消してもらって構わない事を伝える。

 

その間にどんどんミントの表情に落ち着きが取り戻され、いつもの含みある天使の微笑と言った表情になった。それに彼は気づけなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

聡明な読者諸君なら、ここで彼が打つべき行動は、その部分の説明ではないだろと思っているであろう。もし、ラクレットの甘々な展開を期待している人物がいたら、頭を抱えているであろう。しかし、外伝とはいえ、こいつはラクレットだ。押しが圧倒的に足りていない。絶望的な欠如、欠損。

 

ここでは、自分がいかにミントの事を好きだったかを説くところだ。事実、告白されたことで動揺しているのならば、そこをさらに畳み掛けるように

 

 

「さっきの言葉は、嘘じゃない……俺の気持ちは本物だ」

 

などの科白を吐くことによって、僅かでも+の好感度があるか、顔が良ければ、好感度が大幅アップだ。ミルフィーユ・S 的には壁ドンである。そうでなくとも、言い方は悪いが、

 

 

「私は愛するあなたの為に、見返りを顧みずに、嫌われる覚悟で行動し、愛を示しました。その結果寒空の下一晩待ちぼうけもしました。それでもあなたが好きです」

 

 

というわけだ。物語の補正がかかれば一発で落ちる。主人公でなくても、物語の登場人物がやれば、絶対に相手の気持ちを一身に受けられる。そういうシチュエーションだ。直前の本人がいないからこそできる、素直で赤裸々な告白と言うのもポイントが高い。それを勘定に含めるのならば、もはや必中。これで落ちないのは、実は悲しい過去があって、それの解決がまだ。くらいのレベルで、たとえ敵対している関係でも落ちる。そんなシチュエーションだったのだ。

 

しかし、あろうことか、ラクレットの説明は、婚約についての説明だった。悪手の極み、ここは攻めるところだった。確かに「あなたを苦しめていたものは、貴方を守るために私が傷ついて作ったものです」はそれなりに効果的だが、しかしながら、今のミントは告白に動揺しているのだから、そこについて言及してやればよかったのだ。

実は今まであれだけモーションをかけていても、直接『好きだ』とだけは言えなかったラクレットである。先ほどの赤裸々な暴露で、初めて気持ちをストレートに口にしたわけなのだ。アプローチはしていたが、その言葉だけは言えなかったのだ。理由は察してほしい。

 

さて、視点を元に戻そう、ミントは微笑を浮かべながらも、ラクレットをしっかり見つめて、問いかけてきた。

 

 

「どうして、私には言ってくださいませんでしたの? 」

 

「そういう約束でしたし……」

 

「……約束の場所に、約束の時間に来なかったことは謝りますわ、ですが、やり方が悪質とは思いませんの? 」

 

 

笑みをそのままにミントは言葉のトーンを少しだけ下げる。ラクレットは急激に嫌な予感を感じるものの、逃げるわけにはいかないので、とりあえず話を聞く。

 

 

「私は、この件で相当なストレスを感じましたわ、正直に言いますとあなたの過剰なアプローチもこの板挟みのデートも、かなり不快でしたの」

 

「……は、はい……すみません」

 

「謝れば済むとお思いで? 」

 

 

ああ、やはりこうだよな。話のようにうまく行くわけがないよな……

 

などとラクレットは思いながら、ミントに向き直り頭を下げる。正直内面ではボロボロと泣きたいのを必死にこらえている。これだけの事をしたのだから、少しは報われたいという下心があったのかもしれない。

少しくらいは、ドラマや少女漫画の登場人物のような行動に憧れていたのかもしれない。それでもそのいやしい自分にも涙が出てくる。しかし絶対に表情に出して、ミントに罪悪感を与えるわけにはいかないと決意し、顔だけは申し訳ない様なものを取り繕っていた。まあ、自業自得なわけだが。

 

 

「せめて、こんな一日待つという行為を『される』方の身にもなってくださいまし、連絡の一つを寄越そうと動くのが、最低限の礼儀ですわ」

 

「……はい、面目次第もありません……」

 

 

ジャミングを受けていたし、待つのは僕の自由だろとは考えず、というか涙をこらえるのに必死で考える余裕すら起きずに、ひたすら彼は謝罪をしたのだった。ミントからの説教に彼は一切の理不尽さを感じず、ただひたすら自分がミントを好きで入れればいいという傲慢と思っている思考を拭えないでいた。

ここまで言われても、悪いのは不甲斐ない自分だという風に彼の中で帰結してしまっているのだ。もはや完全に歪とかそういうものではなく精神的な疾患を疑うべきなのだが、結局彼は最後までミントに対して怒りも不条理さも感じることなかった。

 

 

「全く、だいだい貴方は普段から────」

 

 

結局、ミントは婚約者であること自体には同意し、しかし周囲から怪しまれない程度の態度はとるが、そちらから求められても一切応じないという条件を加えて、解決した。ラクレットは、ミントが先にその場を後にし、戻った後、ぽろぽろと伝う涙を拭うのに精一杯で、しばらく動けずにいた。

 

 

 

 

 

だからそのままベンチで泣き疲れて寝てしまっても気づかない。誰かが寝入ったことを思考を確認してから戻ってきて、その頭を膝に乗せて優しく撫でていたことを。暗示が解けて、ほぼすべての思考が筒抜けだったことも。顔を真っ赤にしながらその“誰かは”そっと、一言お礼を言うと、呼びつけておいた商会の男手が来るまで寝顔を眺めていた。

 

 

「あそこで、告白してくださると、思っていましたのに……まったくこの人は……甲斐性無しが過ぎますわ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「と、いう訳で、私の婚約者を紹介しますわ」

 

「……この度、ミント・ブラマンシュの婚約者になりました、ラクレット・ヴァルターです」

 

 

その言葉に、ランファは手にしていた本をその場に落とし、フォルテはモノクルがずり落ちるも直すことができず、ちとせとヴァニラは一瞬動きを固めてしまい、ミルフィーはおめでとーと拍手をした。タクトは呆然とミントの顔を眺めており、一瞬にして場はカオスと化した。以上がその日の夕方の出来事であるが。当然のごとく追及が来た。

 

ミントが自室で目の覚めたラクレットを連れて、エンジェル隊がお茶しているティーラウンジに引っぱって来たのだ。その間に軽くこの後の説明はしているので、まずはお披露目である。当然のごとく、全員から追及が来るわけだ。まあ、ミントもその辺は、よーく解っている。なにせ、ラクレットだ。エンジェル隊からすれば恋愛対象と言うものに認定することがおかしい代名詞として、血縁、同性、ラクレット、と上がるレベルだ。

 

 

「ちょ!! ちょっと!! 全く持って、これっぽっちも訳が分からないわよ!! 」

 

「実は、今までの婚約者騒ぎはすべて、このラクレットさんが自作自演していましたの。そういったわけで、二十歳になったら自動的に解消される婚約ですが、お受けすることにしましたわ」

 

「結果、チーズ商会と、ブラマンシュ商会はより密接な関係として商売をするそうです」

 

 

まあ、軽く説明するのならば、この位であろう。この説明だと、ラクレットがミントを嵌める為に、婚約者になるというように裏から圧力をかけ、それを見破り、食い破ったミントによるミント優位な形で落ち着くようになったともとれる。そうするとエンジェル隊のラクレットの株はまあ下がるわけだが、そこまで誰かさんが狙っているのかどうかは、誰にもわからない。

 

 

「へー、そう言う訳だったのね……」

 

「うーん、良くわからないけど、おめでとーミント、ラクレット君」

 

「そうだね、ここは二人を祝福しようじゃないか、面倒だし」

 

「あら? 私は先ほど申し上げましたわ、数年で自動的に解消されると」

 

「先のことなんてどうなるかわからないさね」

 

 

とりあえず、一先ず納得したのか、普通のテンションでの会話に戻るエンジェル隊とタクト。ラクレットに対してちとせが疑念の視線を送っている以外、全員が会話に参加し、ミントがそれにこたえるといった形であった。

 

 

「あら、ちとせさん、私の婚約者が、何かご迷惑をおかけしましたか? 」

 

「あ、いえ……ただ、先輩も……その……妥協しましたね」

 

「ビジネスパートナーとしての関係でも最良の選択ですわ」

 

 

にっこりほほ笑む彼女の笑顔の真意を見抜けていた人物はどれだけいたであろうか。

 

 

 

さて、そこから少々時間が経過する。

 

エンジェル隊は、とある式典パーティーに参加することになった。当然のごとくマイヤーズ夫妻(仮)の二人は舞台の華だが、ほかのエンジェル隊にも当然引く手数多の誘いが来るわけだ。

ヴァニラはともかく、ちとせは真面目に応対し可能な限りダンスを踊り、ランファも概ねちとせと同じだが、本人もある程度楽しんでおり、フォルテは隅のほうで一人杯を傾け、たまに来る誘いを軽く受け流していた。

 

さて、ミントはどうかというと

 

 

「エンジェル隊の方ですね、どうかこの私めと一曲…」

 

「あら、申し訳ございませんけど、私婚約者がおりますの」

 

 

そのセリフとともに、右後方に、料理の皿と飲み物の乗ったトレーを右手に置き、特に着飾ったわけでもなく、一見給仕のようにも見える男性を指さす。そうして怯んだ合間に、ミントはその場を後にし、ラクレットは彼女に続く。

 

彼女が、のどが渇きましたわ、といえば、すぐにグラスを手渡し、冷えていませんわね、と言われれば新しいものに変える。

 

給仕というよりも、従者の行動にも見えるわけだが、何かしら名前のある人物の前や、先ほどのような人物の前では、可能な限り、婚約者として売り込んでおく。そうすれば、今まで鬱陶しかった方々の見事な風よけとして作用してくれるのである。

 

もちろん、彼女と父親と彼の兄によって、公にさらされた事実ではあるが、それでもミントを狙ってくる人物は多いわけで、ミントからすれば役に立つものだった。

なにせ、家名は素晴らしいが、お金のない貴族さんからすれば、ミントほど有用な娘はいないわけであるのだから。

 

そしてそれは逆もいえるのだが、『何故か』最近はラクレットにもそのような話が一切来なくなってきている。少し前までは時が経つにつれ比例して増加していたのだが、婚約を公にした時を境にぱったりと来なくなったのだ。ラクレットはそれを、自分が男性であるからと納得している。

ダルノーは娘の手際の良さに商会は今後も安泰だと複雑な心境で残したのは、関係ない話であろう。

 

 

最近の二人の関係はこのような、パーティーの会場でなくとも、このような形であった。

時間のある時は、ミントの後ろに控えて、彼女の要望には即時対応。エンジェル隊のほかのメンバーが多くそろったときは、ミントもあまり言わないが、そうではないときはやりたい放題で、客観的に見て都合の良いパシリみたいなものだった。

ラクレットはそれに文句があるわけでもないが、それが少しばかり寂しかった。自業自得とはいえ、ミントからは使用人のように扱われているのだ。まあ、かまってもらえて嬉しくはあるが、それだけでは満足できないのが男の性でもある。

 

そんなことを思いつつ、今日はもう自由にしてよいと先ほど言われ、一人バルコニーに出て、空を眺めていた。片手にはつまみとしてとってきたチーズで、手すりには自分のグラスを置いてある。中身はジュースであるが。

 

ただ、無心で華やかなパーティー会場に背を向けて、一人空を見上げて晩餐をする男。形だけの婚約者はいるが、相互に思いは向き合っていない上に、その婚約者の存在故、恋人を作ることもできないし、婚約者に手を出すわけにもいかない。

 

彼の今の状況はそんな感じだ。自分自身に対して、薄く暗く嗤っていると、不意に背後のガラスのドアが開きだれかがこの場に来たことがわかる。

 

 

「……このような、所で、何をしているのですか? 」

 

「あ、いえ……少々考え事を」

 

 

小柄な体に、緑の髪を揺らしながら、いつもの格好で彼女はバルコニーに出てきた。ラクレットは彼女に向き直り、そう答える。

 

 

「……ラクレットさんに、お聞きしたいことがあります」

 

「……なんでしょうか? 」

 

 

女性が体を冷やすのはよくないと説得しようとしたのだが、すぐだからと押されて、聞くことにする。先ほどまで開いていた、カーテンは彼女が来た時に何かの拍子で閉じたのか、しまっており、やや暗い。なので、明かりを背に立つ彼女の表情はあまりよく見えないのだが、大変にシリアスな空気だということを彼は感じ取った。

 

 

「なぜ、ミントさんを、そこまで好きなのですか? 」

 

 

彼女の質問は、彼と婚約者の関係を真に見ている人物からすれば、当然の疑問であろう。片側は多くのメリットを得ていて、もう片方はほぼまったくもってリターンを得ていない。

そばにいられるだけで良いと、少し前まで言っていた銀河最強夫婦も、ラクレットの行動理念は全くもって理解することができなかった。客観的に見て、振られた女に尽くしているのだから、見返りがないと理解したうえで。

しかしラクレットは、いい機会かと思い自分の胸の内を、この小柄な少女に打ち明けることとした。

 

 

「昔の話です……自分はですね、高台にいたんです。意味は分からないとは思いますが、高台から『見上げていた』」

 

「……」

 

「誰よりも自分は尊いものだと感じ、周りのことを見ることをせず、好き勝手に行動し、星を崇めていた。だけど、彼女は僕のその行為を正してくれた」

 

「………」

 

「下に降りて、周りを見れば、僕は多くの人と関わりを持てることが分かった。星でさえこちらのほうがよく見えた。その景色を暮れるきっかけになった。だから、僕は彼女を愛している」

 

「!!………」

 

 

息をのむ声が聞こえるものの、ラクレットはそのえらく抽象的な話を続ける。

 

 

「どうして高台にいたのか、そんなことを気にせずに、僕に人とのかかわりをもう一度教えてくれた、彼女は、僕にとっては恩人だから、大好きですし、恩もあります。だから、どんなに冷たくされても、距離を取られようと、僕は変わらず貴方が好きです、愛しています………て、あれ? ヴァニラさんに言っても仕方ないのに……すみません」

 

「…………………そうですね……中に戻ります」

 

「それがいいですよ、ここは寒い、女性の居るところではありません」

 

 

それだけ言うと、彼女は中に戻っていった。

ややぎこちない様子だったことにも、先ほどこの会場にはドレスを着て来ていたのに、普段のエンジェル隊の制服であったことにも、いつも肩にのせているナノマシンの小動物がいないことにも。ラクレットは気づくことができなかったが、不思議と気分は晴れやかだった。

 

だから、背中を向けたカーテン越しに緑の光が溢れ、影が少しばかり小さくなり、誰かが小走りに去って行ったことも当然のごとく気づかなかった。

そして彼は最後まで思い出すことはなかった。ナノマシンには変身能力があることを。その事に気が付いたのはずっと後、仕掛け人自らが彼の膝の上で教えてくれた時である。

 

 

 

 

 

 

 

またまた少し時が経過する。

ミントのラクレットに対する態度は少しばかり軟化し、パシリのようには使わなくなった。ただ、自室で本を読むときに、そばにラクレットを控えさせ、肩やふくらはぎをマッサージさせたり(ラクレットはマッサージ師の資格をエオニアの乱前に取得している、ミントはこれを聞き出した)材料を渡しお茶菓子を作らせたり(なぜか一人から二人分で食べきれる分だけ)紅茶を入れさせたり(ミントがラクレットに叩き込み、エメンタールからも指導を受けた)とさせていた。そうでないときは、ソファーでラクレット自身も読書していた。

 

さて、そこでミントはいきなり話を切り出した。

 

 

「ラクレットさん、私たち、一応婚約者ですわよね? 」

 

「はい、そういうことになりますね」

 

「でしたら、敬語ではなく、普通に口をきいてはいただけないのでしょうか? 最近そう言った所を疑われておりまして」

 

 

普段のミントからすれば、そんな他人の風評なぞ、気にしても仕方がないと一蹴しそうなのに、なぜかそのような話が飛んできて実感面喰ってしまうラクレット。

 

 

「そのような、恐れ多いこと、自分にはとてもできません」

 

 

何それ怖いといいたそうな表情のラクレット、逆に口調が固くなっている。そもそも今でさえ同じソファーで肩が触れ合うほどの距離にいるのだ。それが大変畏れ多く感じているのだ。最も身長差も相成って肩が触れ合っていないが。

 

 

「そういわずに、ほら、一度呼び捨てで読んでみてくださいまし さん、はい 『ミント』」

 

「み………みん……と……さん」

 

 

いつもとはどこか違うテンションで押しの強いミントにラクレットは苦心しつつも、彼女の要望をこなせないことに若干の反省の念とあきらめを抱いているわけだ。だから彼は彼女が今読んでいる本がランファから貸してもらった恋愛小説だということは知らない。

 

『年下の素直ではない、若干擦れた少年が、包容力ある女性に惹かれるも、うまく自分の感情を相手に伝えることができず、すれ違いながらも最後に結ばれる』というありふれた話ではあるのだが、少し前にチーズ商会傘下の会社によるアニメ化が決まり、主人公の少年がヒロインを呼び捨てにするPVが大変好評だったのである。

 

 

「もう少し自信を持って、砕けた口調でお願いしたいのですが……」

 

「やっぱり無理ですよ、そのようなこと……っと、失礼」

 

 

ミントのダメ出しに応対していると、ラクレットの通信端末に呼び出しが入る。一言謝ってからラクレットは応対すると、画面の向こうにいたのは自分の親友であるクロミエだった。

 

 

「ラクレットさーん」

 

「あ? なんだよ クロミエ」

 

「いえ、僕の帽子どこだか知りません?」

 

 

言われると確かに、いつものトレードマークである緑色の帽子を彼はかぶっていない。ラクレットは少しだけ考えると、すぐに結論が出たのかクロミエに対して答えを示した。

 

 

「それなら昨日。僕の部屋で脱いで そのまま寝て起きてそのまんまだろうがよ。大丈夫かよボケが始まったのか?」

 

「そうでした、ありがとうございます。いつもすみませんね」

 

 

ラクレットは昨日もミントの部屋にいたのだが、その場を後にした帰り道で、クロミエと出会い、そのまま流れでドキュメンタリー番組を見ることになった。

ソファーに座って二人で肩を寄せ合って見ていたのだが、途中でクロミエがラクレットの肩を枕に寝てしまい。お泊りとなってしまったのだ。

自分は最後まで見た後、少し狭いがベッドに小柄なクロミエを抱え上げて寝かせ、自身はその横でクロミエに腕枕をしながら寝ていたのだ。

そんなことをぼーっと『考え』ながら、ラクレットはクロミエにそう返した。

 

 

「いや、別に気にスンナ、鍵開けに部屋に戻るから、少し待ってろ」

 

「ありがとうございます。それでは」

 

「ああ、後でな」

 

 

普通に通信が切れ、ラクレットはミントのほうを振り向くと、彼女はその場にいない。即座に首を下に向けると、いつの間にか自分の膝の間に彼女は立っており、目線が同じ高さにあった。いつもの笑みを浮かべていた。

 

 

「あ、ミントさん、そういうわけで部屋に戻ります。すぐに戻ってきますので何かあったらその時にお申し付けくださいませ」

 

「…………」

 

「いた!! なんで手の甲をつねるんですか」

 

「知りませんわ!! 戻ってきたら、いつものを作ってくださいまし!! 」

 

「かしこまりました。それでは失礼いたします」

 

 

ラクレットはそう言ってミントの部屋を後にした。ドアが閉まった後。ミントがお客様対応って、この差はなんなんですの!? と叫んでいたことを彼は知らなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




続くよー。次回じゃないですが。
Arcadiaの方には全部ありますけど。

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