僕と兄貴と銀河天使と   作:HIGU.V

59 / 98
第2話 中間管理職の悩み

 

 

 

 

 

ヴァル・ファスクという種族は、カテゴライズ的には『人』だ。このカテゴリー分けは誰が決めたものかは知らないが、一応人族ヴァル・ファスクという事になる。旧暦の時代には『妖精』や『翼人』、『ナノマシン生命体』といったものも存在していたため、それらに比べれば人間に近いのであろう。当然のごとく、生命体として繁殖し、子孫を残していく、そういった1種族だ。

さて、そういった種族はもちろんそれなりの目的意識を持って生きている。人間だってそうだ。基本的には個々人がより発展、成長して良く生きていきたいと思って暮らしている。その為の社会という集合体が生まれ、国という管理システムが生まれる。

 

ヴァル・ファスクは、種としての繁栄と、個人がいかに優位な存在であるかという目的の為に生きている。現在彼らの長であるゲルンは、この銀河を支配するところから始めるつもりであり、一応表だって彼に敵対する者はおらず、概ねその道でヴァル・ファスクは動いている。彼等からすれば、基本的にいかに効率よく自分の覇道を築くかが問題であり、ゲルンに従えることにそれを見出している者は大人しく従い、そうでないものは、一角の地位を手に入れてから、自分の意見を言った方が効率の良いことを知っており、懸命に働くのである。

しかし、そんな一丸としたヴァル・ファスクもこのところ、やや問題があった。それは元老院にでき始めた新たな派閥だ。通称『和平派』『保守派』などと言われているが、彼らは主流である、『銀河を統制するというゲルンの主張』を真っ向から否定しているわけではないのだが、少々意見が違う。

簡単に言うのならば、完全な支配、ゲルンの言葉を借りるとすれば、家畜化。そういったものに対してそこまでする必要があるのか?といった疑問定時を行うグループだ。

こういった思想自体は、別段弾圧の対象ではない、種としてみればそういったブレーキ役の存在意義と言うのは悪いものではないからだ。しかし、重要なのは基本的に自分自身に自信があるものが多い彼らが、どういった経緯でそのような思想に行きついたか、という事であろう。

 

 

彼らの主張の骨幹部は大きく分けると2つの理由からなっている。トランスバール皇国の発明品の技術力の高さ、戦犯ダイゴが敵に協力している可能性があるということだ。

 

前者は単純に、敵国であるトランスバール皇国がかなり高い技術水準を有していることだ。ネフューリアだけがかの国に密偵として放たれていたわけではない。他にも数人のヴァル・ファスクが皇国で活動をしていたわけだ。その中の数名が十数年ほど前から、自分たちも持っていないような、独創的な発想に基づいたシステムやものが立て続けに生まれていったのを観測している。軍事面だけ見ても、無人艦隊を後方で同時に指揮することができるシステムを作り上げられたのは、ヴァル・ファスクの戦闘スタイルである足りない数を質による数の上乗せで補うといったものを、前提から覆されかねないものだ。世論を無人艦隊脅威論で煽り広く採用されない様に必死に工作し、大々的な採用は見送られたが、数で劣るヴァル・ファスクにとってこれ以上の数の差は死活問題だったのだ。

 

そして、もう一つ、戦犯ダイゴの存在だ。こちらは前者ほど問題としてみていないものもいれば、前者より重く見ている者もいる。これはヴァル・ファスクとして自分の能力、種としての能力に自信のあるものほど警戒するといった傾向だ。敵にヴァル・ファスクの内情を知った、耄碌したとされるまでは、最も優秀であったヴァル・ファスクの一人が存在するのだ。最悪の場合、Vチップを無効化する兵器などを作られてしまえば、状況は最終兵器の完成を待たずにこちらの敗北もありうる。

 

それを踏まえると

 

『完全な屈服をして余計な反発を生むよりも、普通に従えるだけでいいのでは? 』

 

そういったのが、彼等の主張だ。単純に支配して技術などを取り合あげ、教育を制限し、人材を弱めることを1世紀ほど続ければ、文明は緩やかに衰退していく。そうしてからの家畜化のほうが、反発も少ない。すでに数百年待っているのだ、対して変わらないであろう。そういうわけだ。

 

このような意見が、数人から連名で提出され、議題として挙げられた結果、過半数を占める元老院のヴァル・ファスクがその意見に鞍替えをしたのである。元来彼らは、思考を停止しはしないものの、自分の思考が正しいとして行動している。しかし、別の考えや理念が出たときにそれを否定するのではなく、きちんと一度考えるのである。故に彼らは比較的考えをころころと変えたりする。今回のもそういった要因から成っているのだ。何せ彼らは感情といった物ではなく、理と利によってのみ動くのだから。

 

 

「以上が元老院の意見だ、王よ」

 

「ふん……一理ないこともないが……最終兵器の開発が予想よりも遅れているのが、問題であるのか……まあいい、当面はこのままいく」

 

「その言葉、お忘れなきように……」

 

 

ゲルンはその言葉を背に議会室を後にした。彼の腹心にこれからの指示を出すためであろう。元老院の意見が王と食い違っても、元老院は別段王に対して何かをするわけでは無い。彼らの役目は警鐘を鳴らすことであり、王の行動を阻害することは本意ではない。しかし、こうやって警鐘を鳴らしなおかつ王が無視し、失敗した場合。その時は王に対して強硬な措置を取ることもできるわけである。この度、ゲルンが彼の意志を強行したのは今後彼にとって不利な事実足りえるかもしれないのだが、素で優秀なヴァル・ファスクからすれば、些事であるともいえる。

 

 

さて、そういったやり取りがあった後も、元老院はだれもその席を立つ事はなかった。彼らはある人物を呼び出しており、その到着を待っているのだ。コンコンと2度規則正しいノックの音の後、木製の扉が開いた。このような旧式な扉と入室方法は、テロ対策というよりも、何かしらの要因で何者かにコントロール権が剥奪された時の為の措置だ。通常の電子制御されたドアもあるのだが、彼はそちらのドアから来たのである。

 

 

「入れ……」

 

「元老院直属特機師団長ヴァイン、ただいまここに……」

 

 

ドアを開けて入ってきたのは、十代前半に見える年若い少年────の外見を持ったヴァル・ファスクであり、外見と年齢は必ずしも一致しているわけではない。彼はその仰々しい肩書からして、そのような年齢であるわけがないのであろう。

 

 

「EDENからわざわざご苦労だった、任務を言い渡す」

 

「なんなりと……」

 

「貴官に命じておいた任務、トランスバール皇国最精鋭の艦『エルシオール』に対し潜入し、奴等の強さの秘密を探るとともに、妨害工作を行う。同時に敵の決戦兵器の無効化、可能ならば奪取……それが変更になった」

 

「っ! では、新たな任務は? 」

 

 

ヴァル・ファスクにしては珍しく、ヴァインの表情にはわずかな動揺が走る。そもそも彼の普段の任務は、彼らが唯一脅威としてみている、銀河中のあらゆる英知が集う『ライブラリーの管理者』一族の生き残りの監視であり、要するに人間と関わりを持つ仕事なのだ。

なぜ、そのような危険なものを扱える一族をわざわざ殺し根絶やしにせず、監視などと言った手段を用いるのか、それにもきちんと理由がある。最後の一人であるその少女が死ねば、ライブラリーは新たな管理者を、EDENの血を受けづくものから『ランダムに選ぶ』のである。そういった自己保存機能が付いているのだ。その為無力な少女を1人のこし、管理下に置けるのならば、手元にあった方が監視が行き届き安全なのである。

 

 

「無理に妨害工作をする必要はない、我らは敵の理解、観察が圧倒的に足りていない。よって、貴官の任務を、偵察および観察による敵の強さの理解に努めることに限定する」

 

「了解しました」

 

「既に指示の通りEDEN製の艦でここまで来ているのであろう? 管理者を連れて」

 

「はい、現在艦に戦闘痕をつけている所かと」

 

 

彼等の元々の作戦では、正真正銘EDEN人のライブラリー管理者と、その弟に成りすましたヴァインの二人が、おそらく調査に来るであろう『エルシオール』に『EDEN人の姉弟』として潜入し、妨害工作する手はずだったのだ。しかし、潜入までの流れは変更の必要がないが、任務は変更された。潜入後、人間を観察し心を探れという事になったのだ。

 

 

「では、もう下がってよいぞ。出立までは、『姉』の面倒でも見ていろ、入念にな」

 

「了解しました……」

 

 

その言葉を聞くとヴァインは、音もなく部屋を退出した。彼が考えるべきことは山のようにとは言わないものの、決して少なくはないのだ。彼は高速で頭を働かせながらも、目的の部屋にたどり着く。そこは捕虜を収容しておく部屋だ。

 

 

「やあ、姉さん……気分はどうだい? 」

 

「……ヴァイン」

 

 

その部屋の簡素なベッドに腰掛け、うつろな瞳で少年の顔を見る退廃的な美少女。彼女の金色の髪は誰が手入れしているのか、柔らかい輝きを失っていないし、服装もEDENに住む人々が好む、ゆったりとした薄い水色のドレスだ。彼が姉と言った、少女の名前はルシャーティ。件のEDENのライブラリー管理者である。

 

彼女の隣に座り、自分の膝の上に両手を置き、これからのことについて深く考えることにする。既に隣の女への洗脳は完了している。監視の隙をついて自分が助け出したという設定だ。いま少し虚ろなのはその洗脳が完了して認識力が低下しているからである。

 

そう、問題は、課題は別の所にある。

 

 

「『心』ね……全く、ご老人方が分からないことを、この僕に理解して来いとは……いやだからこそか……」

 

 

彼に課された任務とは、存在を確認されているが、全く持って解明できてない理解はできるが納得できないことだ。心、人間にはかなり尊く、素晴らしいものと賛美されてきたようだが、ヴァル・ファスクにとっては全く持って理解に苦しむもの。

愛や情など、そういったものはまだ理解できる。長期間行動を共にすることによってわいてしまう愛着だ。自分の趣味や嗜好を理解している存在のほうが、意図を伝えるのに手間が省けるという事であろう。子孫を残すという行為にそれが絡んでくる理由はわからない。

 

基本的に後継者がほしくなったものが、自分の遺伝子を提供し、それを優秀な異性と人工的に授精させることで誕生する種族なのだから。もちろん、そういった行為の快楽を生きる目的としているヴァル・ファスクもいる為、一概には言えないが。母親の腹から生まれてくるヴァル・ファスクは全体数のほんの数%にしか過ぎない。

 

しかし、心の動き、感情に左右され一貫性がない行動、そのすべてを理屈で持って考えるのは、かなり困難だ。だからこそ、ヴァル・ファスクはある存在にかけている。

 

 

「『ラクレット・ヴァルター』ヴァル・ファスクの血は1/64、7代も人間と血を混ぜた混血……しかし、先祖帰りにより、ほぼ純血の半分と同程度の能力を持つ男」

 

 

それが、ラクレット・ヴァルターの存在だ。当然敵の情報などすでに入っている。旗艦『エルシオール』とそれを守護する6機の紋章機および1機の練習用機体(人間の言葉で言うところの『エタニティーソード』)率いる将はタクト・マイヤーズ、副官のレスター・クルダラス。エンジェル隊と呼ばれる特務組織。そして、裏切り者ダイゴの子孫で混血のラクレット・ヴァルター。この9人は前線に出てくる人員の中では要警戒とされている。

 

戦犯ダイゴは、そもそも人間に対して一定の利用価値を認めたヴァル・ファスクであり、そこまで珍しい存在ではないのだ。心についても持論はあっても理解はしていないであろうというのが一般的な見方なのだ。その点ラクレット・ヴァルターは、多くのヴァル・ファスクの興味対象となっている。

 

採取したサンプルや、強制的に作られた混血ヴァル・ファスクを用いた実験からして、ヴァル・ファスクの能力は、1/2程度までならば、訓練さえ受ければそれなりの運用ができる事が判明している。しかし、そうして作られたハーフが練習機を動かすことは不可能であった。

しかし、ラクレット・ヴァルターは感情によって増幅されるであろう機構『H.A.L.Oシステム』(有機能人工脳連接装置)の適性を持ち、練習機を運用して見せた。あの練習機は

 

『完璧なヴァル・ファスクとしての制御能力により、重力操作をVチップ経由で行い、クロノストリングの不安定なエネルギーをある程度効率化して運用する』

 

と言う方法でのみ、ヴァル・ファスクは動かすことができたのだ。

遥かな過去には

 

『人間を中に乗せ、H.A.L.Oシステムでエネルギーを発生させる。それをヴァル・ファスクが外側からコントロールする』

 

といった方法で動かすこともできたようだが、ラクレットはそれを一人で、つまり、ヴァル・ファスクでありながら

 

『H.A.L.Oシステムによるエネルギーの安定した放出を促し、それを不完全なヴァル・ファスクの能力で統制、効率化、強化して飛ばしている』

 

のだ。それはつまり、感情という事を理解している。心を持ったヴァル・ファスクの一種の形ではないのか?既に種族として完成しているヴァル・ファスクの次のステージへの手がかりなのではないか? そう言った意見が実しやかにささやかれている。

 

事実、ヴァインは職務上心と言うものに最も触れることの多いヴァル・ファスクであった。しかし、彼には練習機に乗り込んでの操作はできたものの、結局Vチップに頼ったものであり。H.A.L.Oシステム自体は動いてくれなかった。(H.A.L.Oシステムへの適性は彼等には理解できない、なぜならば感情の差というものが分からない上に、個々人に技術で埋められないほど大きな適性があるシステムという存在が理解の外にあるから)

 

 

現に、ネフューリアは、ラクレット・ヴァルターに興味を持っていたようで、先の侵攻戦で、それなりに敵視、重要視していたようだが、結局彼女はその心によって敗北した。

 

 

「っく!! 全く、『心』とは理不尽なものだな!! 」

 

 

彼がそう悪態をつくのも仕方があるまい、なぜならば、彼等の敵は、此方の完璧と言える計画を『奇跡』と人間の言葉で言われる、『極端な偶然の連続』によって打ち破っているのだから。

そんな思考の渦に飲みこまれて、最近なぜか身についてしまった癖である、爪を噛むという『極めて不毛で無意味な』行為をしていると、意識の外から腕が伸びてきて、彼の左腕と右肩を掴まれ。左側に引き寄せられる。

 

軍人としての教育も受けている彼ならば、振り払うことも可能であろう力だったが、そのまま流れに身を任せてしまうヴァイン。

 

 

「爪を噛んではいけませんよ。ヴァイン」

 

 

彼は気が付くと、顔の左側を柔らかくいい匂いのするものに乗せられていた。小柄な彼でも、身長こそ高いが、彼よりも華奢な少女の膝に頭を乗せているはどうかとなんて彼は考えたりはしない。

ただ、なぜ自分がこの女の膝に頭を乗せられているのか? この女が、なぜそのようなことをしたのか? そして、なぜ自分の呼吸や心拍数が変化したのか? である。

 

 

「考え事はいいですが、根の詰め過ぎはよくありませんよ」

 

「はい……姉さん」

 

 

確かに連続的な思考活動は、思考の効率を下げる。そう理解した彼は、なぜか自分が最も緊張状態から解放される場所にいるのだろうかと考えながら、脳を休息状態にすべく意識を手放すことにした。

彼が、その疑問ときちんと向き合う日が来るのかを知る者はいない。ここにいるのは、弟と認識させられた男の頭を優しく撫でる、哀れな偽物の姉だけなのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「王様!! あの糞野郎の子孫が、こっちに来るんだって?」

 

「ふん、お前か……」

 

 

王の部屋、要するにここ数百年の間ゲルンの部屋として使われている部屋であるが、そこに一人のヴァル・ファスクが訪ねてきていた。ヴァル・ファスクにしては荒々しい言葉使いであるが、これは彼にとっての『理と利』が、『荒い口調により周りの人間を遠ざけ、恐れさせた方が効率的に目的を果たせる』としたからである。

事実、彼に近づく者はかなり少ない……と言うよりも皆無だ。彼はこの、王の部屋に土足、無断で入りこめるような地位を手に入れるまで、かなりの功績を上げてきたのだが、それも彼の目的のためでしかない。故に彼を支持する派閥など欲しくないのだ。彼の口調に怖気づいた者はいないが、彼が取り巻きを快く思わない主義という事察した者は多く、周りは近づかなかったわけだ。

 

 

「まあ、その通りであろう。その前提によって我は動くつもりでいる。元老院の横やりで、少々手筈は変わってしまったが、潜入させるという事は変わっておらんのだがな」

 

「ああ、ヴァインのガキが、久しぶりに女の御守り以外の仕事を押し付けられたんだっけか? 」

 

 

そんな、敬いと言ったものを感じない口調だが、ゲルンは別段気にしていない。と言うより、謀反の心があるものを登用しているのに、この程度で何か問題があるわけでもないのだ。その言葉を言い放っている人物は、人間で言うと30代と言った外見であるが、実年齢など、そこから推し量れるわけがなかった。

 

 

「ようやく、オレのやりたかったことが、出来るってわけだぁ」

 

「ふん、兄の不始末をつける弟か……カースマルツゥよ……貴様がその目的の為に積み重ねた功績は評価に値するが、もしダイゴがすでに死んでいたらどうするつもりだったのだ? 」

 

 

王にカースマルツゥと呼ばれた男。そいつは、その質問に対して猛禽類のような獰猛な表情を浮かべながら、愉悦に浸るように答える。長い年月、待ち続けた願いがかなうのだ。ヴァル・ファスクを捨てた兄の血脈が、ヴァル・ファスクに噛みこうとしている、それを完膚なきまでに叩き潰すのが、彼の最大公の利なのだから。

 

そもそも、ゲルン達ヴァル・ファスクは、ダイゴが600年もの間何もアクションを起こしてこなかったことをかなり疑問視している。彼等からすれば、自分の考えと真っ向から違う勢力が存在するのならば、たとえその相手の方が強大でも、力を蓄えて対抗するのが普通なのだから。

しかし、ダイゴはクロノ・クェイクによって衰退した人間に救いの手を差し出し、その後は出会った女性と幸せに暮らしていただけだった。ヴァル・ファスクは、ダイゴが心を、感情を理解したなどとは考えていない。彼は優秀なヴァル・ファスクだったのだから。その効率的なものを捨ててまで何かを得るものなどない。というのが彼らのスタンダードなのだから。

しかし、現実はこうだ、仮にダイゴの家系にラクレットたち三兄弟が生まれなかったら、戦争にだって一切関与してこなかったであろう。そしてその存在を調査することが無ければ恐らく銀河が終わるまでタダイゴの生存を知ることはなかったであろう。

そう、ヴァル・ファスクが考えた『ダイゴが作り上げた勢力との戦争』と結果的には似通ったが、過程は大きく違っているのだ。

 

 

「そん時はきっと、それはそれで喜んでいただろうさ。まあ、ここまで王様の傍には居なかっただろうがよぉ」

 

「ふん……まあ良い、ヴァインの任は、どうやら偵察にとどめられているようだが……お前のさじ加減で────好きなようにやれ」

 

「それはありがてぇな。王様ぁ」

 

 

カースマルツゥは、その言動から人を寄せ付けることはしない。彼が主に行ってきたのは、銀河の辺境の原住民の駆除だ。殆ど文明を持たない彼らを、気象操作などのテクノロジーを使い神のように崇められた後は、生贄などと評して殺す。やっている事は酷いのだが、皇国も同じようなことをして勢力を拡大していた以上、頭ごなしに批判は出来ないものだ。

そう言った業務をこなしている間、白き月と出会った皇国のようなものがないとは限らないのだが、その可能性は限りなく低い。当時のEDENのライブラリーの英知を結集しても月サイズの天体は2つが限度であったと調査報告書にはまとめられているのだから。

結局彼のやっていることは一方的な虐殺に過ぎない。

彼は、誰かの怨嗟の叫びを見ることによって、一種のカタルシスを感じるという、ある意味心と言うものに近づいているヴァル・ファスクであった。

 

 

「それじゃあ、俺は行くぜぇ。ダイゴとそのガキどもを駆除しにな。ヴァインのガキは有難く使わせてもらうぜ」

 

「ああ、せいぜい余の為に動けよ」

 

 

こうして、ヴァル・ファスクの中でも最悪な存在が動き出したのを知る人物は少ない。

しかし、確実に歴史は動いている、誰も見たことのない方向へと。

 

 

 

 





カースマルツゥはお察しの通りチーズの名前ですが
絶対に検索しない方がいいです!
作者はしばらく食欲がなくなりました。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。