僕と兄貴と銀河天使と   作:HIGU.V

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閑話 三男と次男の生態

 

煌びやかなライトに当てられ、それなりの座り心地の椅子に腰かけながら、ラクレットは、どうしてこうなったのだろうと、ひたすらに後悔しつつも、表面上はにこやかな好青年のように取り繕っていた。まあ、兄の商会の使いに、ホイホイついて行った時点で、予想できた結末ではあった。

段々とエスカレートしている自分のメディアの露出だ。先月は雑誌のインタビューだったのが、先々週にはポスターの撮影、先週はゴーストライターの原稿のチェック。そして今彼は皇国でも人気のトーク番組に出演している。芸能人になったならこの番組に出演するのが目標とされる様な、そんなビッグタイトルを持つ番組で、珍しくエメンタールはノータッチの企画だ。

まあ、エメンタールのチーズ商会側の広告戦略を知り、呼応した番組側からアプローチをかけてきただけであって、ラクレットの主観的には、兄の関係者からの仕事。という認識に変わりない。

 

 

「さて、本日のトランスバール・ナイトショーにお呼びしているゲストの方々は、今をときめく少年二人、片や皇国中の女性から熱いラブコールを受けている、No.1アイドルグループ、アニーズの『リッキー・カート君』 もう一人は、かの皇国の英雄やエンジェル隊と共に反逆者を打ち倒したフラグ・ブレイカー『ラクレット・ヴァルター君』です!」

 

「こんばんは」

 

「「こんばんは」」

 

 

ラクレットは、司会者である初老に差し掛かったくらいの年齢の男性に少しばかり頭を下げる。正直に言うと彼は正面の男性を知らない。このトーク番組に出演すると知ったのは今朝で、トーク番組自体は知っていたが、詳細な資料を送迎の車の中で読んだだけなのだ。そう彼は一般的な芸能への造詣が浅かったのだ。

とりあえず、隣に座っているリッキー・カートなる美少年アイドルは慣れているのか、落ち着いた様子で応対しているのでそれに習う。冷静な思考をする能力に磨きがかかっている彼には、そこまで難しいことではない。それにトーク番組は、司会者の質問に適度に答えていけば、それで足りる。ラクレットとしては有難い限りだ。

これがバラエティやクイズ番組だった場合、面白い事を言わなくてはならないので大変なのだ。

 

 

「いやー、全く方向性の違うお二人ですが、実は同い年だそうで。今の皇国の若い世代の期待の星ですね」

 

「はい、僕とラクレットさんは、誕生日が4日違いみたいで、二人とも先月15になりました」

 

「ほー、15歳ですか……」

 

 

司会者の男の視線をラクレットはその身でひしひしと感じている。まあ、言いたいことはわかるのだ。自分はどう見ても15歳と言った年の体ではない。20代の前半位の成長具合……もとい成熟具合だ。具体的にはマッチョなアメリカンを黒髪黒目にすればおおよそあっている。体重は80を超え、身長も180に迫る勢い。完全な逆三角形の体型で軍人だという事が一目でわかる。肌は浅黒く日焼けしておりリゾート惑星でアロハシャツ来て警備任務してました。と言えば信じてしまうであろうというほどだ。1年前の自分もだいぶアレだったが、今や完全に年齢詐称だ。

まあ、仮説を立てるとすれば、自分の体の完成形に体が近づいているのだろう。ヴァル・ファスクは長い時間をその体で過ごすそうで、次兄も15あたりで成長が止まり160くらいの小柄な体。長兄も早熟だった。ならば自分もヴァル・ファスク的にそろそろ成長が止まると考えている。

結局彼はもう一回り体が大きくなり、高さはレスターと同じくらいになるのだが、肩幅が周囲の人間で最も広くなる。ガチムチの代名詞的存在になるのだが、「軍人だから、それくらいの方がいいじゃないか!!」が彼の主張である。閑話休題。話を戻そう。

もう一人の美少年アイドル、リッキー・カート君はその真逆を行ってると言えよう。成長遅延薬でもやっているのかという程、幼い印象だ。12,3歳くらいにも見えるが、醸し出す雰囲気が、少年と青年の合間と言った、なんとなく背徳的で退廃的な感じがするアイドルであり、お姉さま方のハートをキャッチするのが分かる気がするイケメンだ。ラクレットはクロミエが男っぽくなったらこんな感じかもしれないと脳内で評価した。

 

とりあえず、発言してみる。

 

 

「まあ、自分は軍人ですから……それに早熟の家系なんですよ」

 

「なるほど、確かに軍人だったら、そのぐらいタフな体でないといけませんね」

 

「僕ももうちょっと体力が欲しいですね、今はバク宙とかバク転がある激しいダンスを踊ると、かなり息があがってしまいますから」

 

 

なんか、リッキー君がフォローしてくれたので、ラクレットは心の中で感謝をしつつ、司会者に向き直る。とりあえず生放送じゃないから、良く考えたらそこまで緊張するわけでもないのだ。そう自分に言い聞かせる。

 

 

「リッキー君もラクレット君も、皇国においてすごい人気の若い世代という事で、お互いに何か意識し合ったりとか、そう言うのは無いんですかね?」

 

「こういう場で言うと、安っぽく見えちゃうかもしれませんが、僕ラクレットさんのファンなんですよ。やっぱ僕も男だから、皇国の英雄とか、無敵のエースとかには憧れ無いわけないじゃないですか」

 

「ありがとうございます。僕は逆にそういった芸能界とかそういう方向で活躍しているリッキー君の方がすごいと思うんですけどね」

 

 

今日までクレータを筆頭に整備班にファンが多数存在しているアイドル程度の認識でしか知らなかったアイドルに、何故か尊敬されていたのでとりあえず当たり障りない文句を返す。

 

 

「実は僕、彼のお兄さんに、曲と詞を書いてもらったことがあるんですよ」

 

「ほう、なんていう曲ですか? 」

 

「いえ、実は曲を書いたことは明かしてもいいけど、曲名と名前は明かすなって言われていて……本当は、何曲も別名義で書いてもらっているんですけどね。あ、ここカットで」

 

 

あの兄は本当何をやりたいのだろう? とラクレットは疑問に持ちつつ、自分からも何か話を振ろうと頭をめぐらす。控室で読んでいた台本には、最初は機密に抵触しない程度で、戦争の実体験を話してもらえれば とあった。

 

 

「ラクレット君は、この前……といっても、もう1年前だけど『エオニアの乱』と、この前の戦争で活躍したわけですが。その前は普通の学生だったそうですね。こう、どうして自分からそういった戦いに身を投じたんですかね?」

 

 

丁度水を向けられたので、話すことにする。ラクレットがいろんな意味で普通の学生ではなかったことは、スルーしてくれているみたいなので、有難く乗ることにする。主に飛び級とか黒歴史とか。

 

 

「自分は、幼いころ家に代々伝わる『ロストテクノロジー」まあ、紋章機のようなものですね。それを動かしてしまいまして。その結果白き月のシャトヤーン聖母様に謁見したのですが、その時にですね。自分はこの人の為に剣を捧げたいと思いました。それで、先の大戦の時、近くにエルシオールが来た時。無我夢中で馳せ参じました、後は成り行きです」

 

「なるほど……聖母様に謁見したのが切掛けですか」

 

「はい、自分は戦う事しか能がない、そんな無力で無骨な個人ですからね。英雄のタクトさん、聡明な女皇陛下といった人物の下で、使われることに喜びを覚えるわけです」

 

「ほー……なんというか、騎士ですね」

 

「そんな大層なものではありません。自分は皇国の人間として、陛下と聖母様の為に自分の力を生かしているだけです。誰かを楽しませたりする能力だって、それはとっても素敵な事でしょう。僕にはそういった能力がないわけで、誰かの為に一番前で戦うことが一番適していると思うんです。そのうち何かを見つけられたら、自分を必要としてくれるモノ、自分が生かせる場所。今度はそれをして生きたいです」

 

 

ラクレットの考えはそういう事なのである。まあ今だからこそ言えることなのであるが。この1年、多くの経験をしたラクレットは、かなり成長した。これから起こる決戦もきっと大丈夫だと信じているのだ。

 

 

「いやー、二人とも若いのに大変立派ですね。何か特別なことってしているんですか? 」

 

「僕は毎日お仕事か、それがない日は歌やダンス、お芝居の練習ですね」

 

「やはり、継続が力と言った所で? 」

 

「はい、そうですね。応援してくれる人たちの為に、もっと努力をして、昨日より成長した自分を見せられれば、そういつも思っています」

 

 

爽やかに笑うリッキー君に、ラクレットはなんとなく長兄を重ねてみてしまった。なんとなく、計算でやっているように見えたのである。まあ、人に愛される才能があるリッキーはそれすらも嫌味を覚えないでやってのけるのだが。

自分が愛されるべき存在だと自覚し、そうであるための努力を惜しまない。そう考えれば交換に値するであろう。全て才能だけで無自覚にやってのける人間よりは何百倍もましだ。

 

 

「ラクレット君は確か、空軍学校で訓練を受けているんですよね? 」

 

「はい、昨日も訓練でした。今日は休日でして、朝一で移動してきました」

 

ラクレットの普段の生活は、基本的に訓練で埋まっている。ヴァル・ファスクという自覚を持って以来、『H.A.L.Oシステム』で『クロノストリングエンジン』に干渉し発生したエネルギーを、能力を使用し『Vチップ』を介し、最適化するというという行為を無意識的でなく、意識的に行うことができるようになった。

これは、大きな進歩であり、『エタニティーソード』出力が目に見えて上がったわけだが、今度は別の問題も浮上した。それは、エネルギー変換に意識を割いてしまうので、操縦の方が微妙におろそかになってしまうという事だ。

今まで無意識で行ってきたことを、意識的に行えるようになったので、それを無意識レベルで行えるように熟練する必要があるのだ。

感覚的にはランニングのフォームの矯正に近いか。足の速い少年がいて、彼が今まで行ってきた走りのフォームを改良したものを習得したが、フォームを意識してしまい、うまく走れないので、それを体に慣らすために練習をするといった形だ。

 

半年ほどの訓練で、漸くモノに成りかかっているので、期限まであとどれだけだか分からない現状、こうやって体を休めると決めた日以外は、一日も欠かさず訓練に打ち込んでいるのだ。

 

結局其の後の収録も順調に進み、ラクレットは個人的にリッキー君と友好を結びサインを交換したり、そのサインを、放送を見ていた整備班クルーに持っていかれたりするのだが、その話は今度でいいだろう。

 

ラクレットにしては珍しく、番組の収録中にオチがつかなかったのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アンタの発明って本当、軍関連よね」

 

「そっちだって、兵器開発じゃないか」

 

「専攻は民俗学よ。ただ、工学にも強いだけ」

 

 

白き月の奥、凍結された兵器開発工場の隣にある研究室で、一組の男女が会話をしている。一応立ち入りが禁止されている区域であり、この場には二人しかいない。入ってこられる人間が、彼ら二人に加えて、もう一人しかいないのだから当然と言えば当然か。

彼等は、しばらくここを留守にするので、連日引きこもった後片付けをしているのだ。身の回りに微妙に無頓着な研究者気質な彼らにしても、帰ってきた場所がごみ屋敷で虫がいるのは勘弁したいのだ。普通の区域なら清掃ロボットがいるが、この区域は閉鎖されているため、片付ける『物』がいないのだ。

まあ、空気清浄器はあるので、最悪な事態には陥らないであろうが、それでも片づけるきっかけが欲しかったのだ。食べ残し等をゴミ袋に詰め、少し歩いたところにある、動いているゴミ箱に入れれば、後は自動でやってくれるのでそこまで苦ではないのだが、熱中すると二人ともそれしか見えなくなるために、それなるの量が溜まっているのだ。

 

 

「それで、なんで私がアンタの帰省に付き合わなきゃいけないのよ」

 

「別について来いとは言ってない。ついてくるかと誘って頷いたのはそっちだ」

 

 

ようやくカマンベールが目立たずにクリオム星系に変える目途が立ったので、帰省のために準備しているわけだ。カマンベールは、研究も行き詰っているというか、これ以上の進捗もなさそうなので、ノアを気分転換にどうかと誘ったのに対し、一人では寂しいだろうからとついていってあげると答え、同行を決めたのである。

 

 

「ねぇ、アンタの家族ってどんな人よ」

 

「別に普通だよ、弟は知ってるだろ? 兄貴にしたって、俺がここで働けるために色々してくれたみたいだし、両親も金はあるけど普通に暮らしてる」

 

「普通、ね……」

 

 

ノアは数日前に聞いた、彼の先祖の話について、エメンタールから口止めをされている。カマンベールは一切ヴァル・ファスクに関係した情報を持ってないどころか、自分がそうであると知らないのだ。ただでさえ微妙な立場の彼にそんな事実を突き付けてしまえば、不都合が起きうる可能性もあり、くれぐれも明かさないようにと仰せつかっているわけだ。

 

2時間にも満たない僅かな対談だったが、それでもノアが得た情報は大きかった。彼らの政治形態、文化、一般的な価値観。そして何よりも科学力と、特殊能力の正体。そういったものを知ることができたのは大きい。敵の本拠地の地理は地図のデータこそ消失してしまったらしいが、大まかなものを再現したデータを入手できたのは大きかった。

最大の懸念事項である、敵の持っている災厄────決戦兵器については、信じられないが、現状取りうる手段を模索するので精一杯だ。せっかく強力な兵器を作っても乗っ取られるリスクがないという情報を得たのに、さらに大きな問題を抱えてしまったのだから。

とりあえず、数日頭を悩ませて、新型衛星兵器や、『エルシオール』に搭載している者を参考にカマンベールと共同で考えた『量産型高性能レーダー』を作り調査船団を第2次調査船団を組織するなどの方策を上げたがそれ以上は今できることがなく、クリオム星系に何らかの手がかりがないかと言う名目で小旅行に行くことを彼女は決めたのだ。

 

彼女は、自分の祖国であるEDEN文明をヴァル・ファスクに滅ぼされた、直接的な被害者である。皇国にもすでにネフューリアによって大切な人を亡くした人物は多くいる。最も彼女は軍施設と艦隊しか襲撃しなかったため、民間人に被害はほぼないのだが、それでも多くの軍人が英霊となった。

そんなヴァル・ファスクに対して恨みがないと言ったら嘘になるが、彼女はヴァル・ファスクだから憎むといった単純な思考に陥れるほど愚かでなく、祖国を失った悲劇のヒロインとなるほど、自分に酔ってもなかった。

聡明な彼女は、自分ができる事を理解している。それはヴァル・ファスクによる危機をなくし、平和を作るという形での終結だ。

 

だから、彼女は話を聞いた後ダイゴを責めることはしなかったし、カマンベールやラクレットにも接する態度を変えることはなかった。ヴァル・ファスクであること自体は、彼女にとって嫌悪する理由成りえないのだ。

 

 

「5年ぶり……いやもう6年だな、直接会うのはその位ぶりになるんだ」

 

「そう、良かったじゃない」

 

「……あ、ごめん」

 

「いいわ、別にもう気にしてないもの。それに管理者になった時に、十分別れは言ってきたから」

 

 

眼鏡の奥の瞳が、少し反省したような色を見せるのだが、ノアは別段気にした様子もなく、そう言った。彼女はすでに人間が生きる様な年月をはるかに超えて生きている。正確な年齢は黒き月の稼動時間から見るに618歳と言った所だ。内、意識があった年月は10年と少しなわけだが、それでも同年代の体の少女よりずっと精神年齢は上だ。

完全に割り切っているので本当に気にしていないのだが、カマンベールはそう見なかったのか、ゴミ袋に机の上の不要なものを片っ端から詰めるノアに後ろから近づき、右手を頭に乗せた。

 

 

「ちょ、ちょっと! なにしてんのよ!! 」

 

「いや……なんとなく、こうしてやりたくなった……」

 

「……全く、片付けが進まないじゃない……」

 

 

そう言いつつも黙って撫でられる行為を受け入れる彼女と、言われつつ止めない彼は目の前のスクリーンがスクリーンセーバーを出すまで、そのままくっ付いていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 




ラクレットは対イケメン用のニコポ持ち
カマンベールは対インテリ用のナデポ持ち

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