この話は当SSの本筋には一切関係ありません
一部キャラの都合のいい改造を含んだりします。
もう一度言います。本筋とは一切関係ありません。
時系列も気にしてはいけませんし、のりがいつもよりうざい感じです。
人によっては不快感を抱く人もいるかもしれませんが
ジョークと笑って流していただけると光栄です。
ヴァレンタインちとせ編
ヴァレンタインの文化がない物語において、内政型の転生者がそれを持ち込みヒロインとの話に利用したり、商戦を繰り出したりとするのは、もはや『ふーん』といった、出尽くしたようなリアクションしか取れないであろう。しかし、実際にそういった日本の70年代以降に勢いを増したヴァレンタインの考えを持ちこまれた側は、それをイベントとして楽しめるものなのである。
チーズ商会が過去にあった聖人を祝う祭りと銘打ち適当にでっち上げ、10年ほど前から宣伝しているこの催しは、日本のそれを少々改良したもので、お世話になった人、恋人などに男女問わずチョコレートをプレゼントするというものとして広まりつつあった。
若い世代は特に顕著であり、流行に敏感なティーンエイジャーが自分の想いをのせて渡すといったものがこの時期になると見られるようになり、ある程度浸透したといっても過言ではない知名度にはなったのだ。
故に、500人ほどの乗組員のうち400人が女性の『エルシオール』においても、それは例外ではなかった。『エルシオール』内のコンビニの売れ筋商品は、特設コーナに展示してあるチョコレート関連商品と、店員は笑顔で語っている。
自作しようと、材料を購入する客も増え売り上げは右肩上がりなのである。
そんな中、一人の少女が、チョコレートを自作するために、『先生』の元を訪ねるところから話は始まる。
「ミルフィーユの お料理教室―」
「わー」
「ぱちぱちぱちぱち」
「よ、よろしくお願いします」
そういう設定で始まった、ミルフィー先生のお料理教室、助手はラクレット・ヴァルターと、ヴァニラ・Hでお送りします。
「それで、ちとせは、お世話になった人にお礼をしたいから、宇宙チョコレートケーキを作りたいんだっけ?」
「は、はい……私事でミルフィー先輩の手を煩わせるのは恐縮なのですが、私には和菓子の心得しかなく、ばれんたいんでは、和菓子はあまり適さないと小耳に挟みましたから」
調理器具が充実しているミルフィーの部屋で、彼女たち+彼の4人はいつものように騒がしく、とまでは言わないが、賑やかに集まっていた。と言っても、主に賑やかなのはミルフィーであり、周囲の3人は彼女を中心とした会話を構成していた。
まあ、会話の通り、ちとせはヴァレンタインの為にミルフィーに習いに来たという事である。
「じゃあ、さっそく始めるよ。まずは下準備から」
ミルフィーのその言葉に助手1のヴァニラはどこからともなく材料の描かれたフリップボードをちとせが見える様な方向に提示する。ちょっと大きめのフリップボードを持つ彼女の姿は大変可愛らしく、親衛隊ができるのも頷けるレベルで、なぜアンケートで票が入らなかったのか疑問に思うレベルだった。作者的には本命だったのだが、ちとせ編とノアカマに票が流れたのである。全く持って作者の予想と読者の要望が違うものだと理解することができた。さて、愚痴はこの位にして、話を進めよう。
「材料は、宇宙チョコレート、宇宙生クリーム、宇宙シュガーパウダー、宇宙卵の卵黄、砂糖、宇宙卵の卵白、宇宙バター、宇宙ブランデー、ココアパウダー……ですか」
「そうそう、まずバターと卵黄は常温に、卵白は冷やしておいて、粉類は振るっておいてね。宇宙チョコレートは湯せんするから溶けやすいように細かく刻んでおくこと」
ちょっと誇らしげに、そしてわかりやすくゆっくりとミルフィーはちとせにそう伝える。ちとせは、婦女子の嗜みとしての料理はできるので、言っていることは理解できた。レスターやカマンベールが聞いたら、湯せんあたりで首をかしげたであろう。
「こちらに、準備したものが」
「ありがとー」
そして、助手2であるラクレットは、いつの間にかミルフィーの口にしたものを綺麗にテーブルに並べていた。料理番組の助手という事で彼は、『~~します。そしてそれがこちらです』をするために、奔走している。
「それじゃあ、宇宙チョコレートを湯せんにかけて溶かします。そしたら、バターとブランデーを少し加えて、かき混ぜてね。この後生地を作るからその間に固まらない様に暖めとくよ」
「は、はい。ブランデーはこの位ですか? 」
「そうそう、少しで良いの。じゃあ、生地を作るよ。卵黄をほぐしたら、砂糖を加えて……じゃーん! このミントのお店で買った、まぜーる君を使い良くかき混ぜます」
「……ハンドミキサーです」
今度はプラカードを持ちながらヴァニラそう呟く。『お手軽に泡立てる、パティシエの味方5,980ギャラ ブラマンシュ商会』と書いてある。ミントとラクレットが作ったものだ。字はヴァニラ直筆だが。
※これらのプラカードは後程ヴァニラちゃん親衛隊によってオークションにかけられ落札されました。その費用は運営費および皇国のボランティア団体に寄付され戦災孤児たちの為に使われます。
「よく混ざってきたら、チョコレートを加えて混ぜます。ここで好きな人のことを考えながら混ぜるとおいしくなります」
「そ、そうなんですか……」
「こちらが、そのチョコレートを加えた生地となります」
また、テーブルの上にボウルを置くラクレット。彼の仕事は、経過品を置くだけの簡単なお仕事である。
「じゃあ次に、メレンゲを作るよ、卵白に少しずつ砂糖を加えながらかき混ぜます。泡が立つまでよーく混ぜるよ。それをさっきの生地にちょっとずつ入れて混ぜて、そこに粉類をふるいながら入れて……」
「なるほど……こうですね」
「上手、上手。やっぱちとせもお料理得意だね」
「はい……幼いころから、花嫁修業として婦女子たる者料理ができないと恥をかくと、母に教わり練習してきました」
「そっか、それじゃあきっと美味しくできるよ。そしたら、感謝される人もきっと喜んでくれるよ」
にっこり満面の笑みを浮かべて隣のちとせに微笑みかけるミルフィー。恋する乙女のその最強の武器たる笑顔にちとせは一瞬腕の運動を止めてしまいそうになる。なにせ、そこまで綺麗に笑える人物なんてそうはいないであろうことが、本能で分かるくらいに素晴らしい笑顔だったのだ。
「そうしてできたものを、型に入れたのがこちらです」
「……詳細が知りたい人は、番組ホームページにレシピを公開してます」
「あとは160℃に温めたオーブンに入れて4,50分焼き、粗熱を取ってから方から外し、宇宙シュガーパウダーを振り掛ければ完成です。その完成したものがこちら」
「……以上ミルフィー先生の3分クッキングでした」
助手の方が活躍しているように見える料理番組であった。
尚、ラクレットがその都度提示してきたサンプルは、彼が自作したものであり、それは前世において、彼が『貰えないならば、自分で作ればいいじゃない』の精神で培った。チョコレート菓子制作の技術の賜物である。詳細を訪ねると傷口が開くので触れてあげないでください。
「ちょっとー、まだー? おなかすいたんだけどー」
「ランファさん、紅茶でも飲んで気長に待つべきですわ」
「そうそう、美味しいものをより美味しくするのは、空腹っていうスパイスなのさ」
そうして完成したちとせの宇宙ガトーショコラは、可愛らしくラッピングされ、出番を待つこととなる。一緒に作っていたミルフィー、ヴァニラ、ラクレットのは、別室で待機していた特別審査員胃3名の胃の中に消えた。
ヴァレンタイン当日、ちとせは彼の事を待っていた。彼はいつも早朝にランニングを終えた後、自室でシャワーを浴びる。そこを待ち構え渡してしまおうという魂胆だ。こういったモノは朝駆けで渡してしまわないと、その後グダグダしてしまい、チャンスを逃す。先手必勝です!! と自分に喝を入れ、彼女は彼の部屋近くの廊下に寄り掛かり、期を窺がっていた。
そうして、そんなちとせを遠くから野次馬的に眺める天使達もとい、特別審査員達がいることに彼女は気づいていなかった。
すると、公園に通ずるエレベーターの方向から一人の少年が歩いてきた。良く見なくても、運動をした後だという事が一目瞭然なくらい、汗をかき顔を紅くしていた。腰に差した愛剣は今や完全な重りとなっており、模造剣としての役割は果たしていない。
「来たわ!! ラクレットよ……」
「まさかちとせさんが、ラクレットさんを……」
「お礼って言ってのは、やっぱ建前だったのよ……」
盛り上がる観衆、ちとせの待機している壁の柱の陰にラクレットが通りかかる、ちとせは息を吸い込み、そして深く吐き出し精神を集中させた。
「あ、ちとせさんおはようございます」
「おはようございます。ラクレットさん」
「それじゃあ、シャワー浴びたいんでこれで」
「はい、またあとで」
そう言うとラクレットは去って行き、自室のドアを開け入っていった。これに驚くのは観衆だ。
「ちょ、ちょっと、どういう事? 」
「単純に、ラクレットさんではなかったという事でしょうね……」
「なーんだ、ツマンナーイ」
「っ静かに!! 誰か来ましたわ……この思考波長は……」
そして、彼女のターゲットが来る。勤勉な彼女はリサーチ済みだったのだ。ラクレットは整理体操を手短に済ませる為、手合せしているターゲットよりも早く戻ってくること。ターゲットは最後に仕上げとして一人で型の復習をすることを。
ラクレットが来たら、もうすぐターゲットが来る合図だったのだ。
「ん? ちとせか、どうした? 」
「副指令、その……これを受け取ってください」
「む? あ、ああ。受け取るのは構わないが……」
「先日、これからの軍の在り方について教鞭をふるっていただいたお礼です。何でも今日はお世話になった人に菓子を送呈し、感謝を伝えるとのことで……」
「そうだったのか……それは丁寧に……ありがとう。昼食後にでも美味しく頂くこう」
「いえ……早朝から御引止めしてしまい、此方こそ申し訳ありませんでした……それでは」
そういってちとせは足早にその場を後にする。レスターを慕う女性は多く、こういった場を目撃されると不都合が起こりうるのだ。朝駆けしている時点でそれを気にするのはどうなのと言う疑問はここではおいておくべきである。
「なによー、副指令でしかもただの感謝。要するに義理だったのね」
「あんなに朝から準備をしていたので、勘違いしてしまいましたわ」
「ハイ、解散―。あーアタシにも王子様が現れないかしら」
そうして、観衆は散って行った。朝早くからご苦労なことであった。
部屋でシャワーを浴びているラクレットは、なぜあんなに人が集まっていたのだろうと、考えながら頭を洗っていた。
「やっぱり畳は落ち着きますね」
「私の星の伝統様式ですが、最近は皇国中の方がそう言って下さるそうで、私も鼻が高いです」
場所はちとせの部屋。ラクレットは、ちとせのラッピングに使った包装紙を引き取りにきていた。彼女が用意した包装紙は、元はラクレットが大量に所持しているものから選んだものだったのだ。なぜ彼がそんなものを持っているかと言えば、この前大量に購入し、彼当てに送られてきたファンレターにお返しを包み送付したもののあまりだからである。有名人であり、広告塔の彼は兄が用意した物品をせめて本人が手で詰めて送れという指示を忠実に実行したまでであった。
「そうだ、ちとせさん。チョコレート自分でも作ってみたんですけど、どうせ自分しか食べませんし、食べて感想聞かせてくださいませんか? 」
と、突然ラクレットは言い出し、おもむろに綺麗にラッピングされたチョコレートを取り出す。それを見たちとせは、一瞬驚くものの、微笑を浮かべてそれに答えた。
「あら、ラクレットさんもでしたか。実は私も余った材料で、自分なりに作ってみた所なんです」
ちとせもそう言いつつ、自分の部屋にあるキッチンからチョコレートを取ってくる……といってもキッチンが後ろにあるので、振り向いただけだが。
「それじゃあ、お互い試食しましょうか」
「そうですね、それではいただきます」
そう言って、ちとせはラクレットのチョコレートのラッピングをはがし、小分けにされたチョコレートの一つを摘み、口に運ぶ。一口かじると、中からいい香りがする。ラクレットが作ったのは俗にいうところの、チョコレートボンボンであった。彼があの体で作っている所を想像してはいけない。
「やっぱり、ラクレットさんはお菓子作りが得意ですね。私はまだまだ精進が必要なようです」
そのちとせの褒め言葉に対して、ラクレットは謙遜なく返す。
「いえ、ちとせさんのほうが優しい味わいがありました。やはり自分には菓子に気持ちを込めることができません。変な技術だけあるとこうなってしまいます」
ラクレットのも本心であり、ちとせも本心であった。これによりお互いがお互いを褒め合うという永久機関が完成してしまったのである。この二人、気質が似ているせいか、たまに会話がこうなってしまう。大抵は第三者が止めるのだが、今この場には二人きりで有り、ブレーキをかける人がいない。
「やっぱり経験ある方がいいわけです。お菓子作りにでもなんにでも。ですからラクレットさんの方が」
「いえいえ、かわいい女の子が作った方が、断然おいしい訳ですから、ちとせさんの方が」
故に会話のキャッチボールを誰も止めるものはなく加速していくことになる。
「そんな……自分の作ったものを食べている時は、褒めてくださった後ですし、嬉しくてあまり味を覚えていません。ラクレットさんはそれだけ素晴らしいという事です」
「いえ、先日の料理教室で、僕は『この人の作る姿をずっと眺めていたい』という思いが胸を満たしていましたし、その補正も含めるとやはりちとせさんに軍配があがります」
「お菓子はおいしく食べてくれた時点で役割は終わってるんです。そういった補正はあまり関係ないでしょう」
「実は僕、何だかんだ理由をつけて、これは貴方に渡そうとしていたんです。ですが、ちとせさんの事を考えていたら、材料の分量を少し間違ってしまったんです」
「そういったことは関係ありませんよ、やはり憧れの人の作ったものの方が価値があります。私のものなんて……とても……」
「いえ、好きな人に作ってもらったものは、何よりも素晴らしい最高の美味しさです」
「……? え? 」
「……あ? 」
生まれる空白。勢いに任せて、ヒートアップした会話の中ラクレットの言った言葉は、しっかりとちとせの耳を通り脳に届き、その意味を咀嚼され、理解されていた。
言ってしまった方も、言われてしまった方も。共に仲良く硬直してしまう。冷静に考えてみれば、無意味に先程までお互いをほめちぎっていたのだ。冷静になればそれだけでも恥ずかしいのに、つい勢い余って伝えてしまった胸中の想いが、その恥ずかしさに拍車をかけてしまう。
先に変化が訪れたのは、ちとせだった。どんどん表情が赤く染まって行き。しまいには耳の先まで真っ赤にしてしまう。ラクレットは僅かに頬を紅潮させていた程度だったが、そのちとせの顔を見ると、自分の行いがどのようなものなのか、強く見せつけられるようで、だんだんと顔が赤くなっていく。
「あ、あの……その……今の……」
「すいません……こんな、ロマンの無い形で、失言で伝えることになるとは思いませんでしたが……本心です」
その言葉を聞いたちとせは、既にこれ以上ないほどに紅かった顔を、第三者が見たら『ボン!! 』という擬音を幻聴するかもしれないほど急激に、さらに紅くした。もう人間ができるとは思えないレベルで真っ赤であり、耳の先どころか髪の毛まで紅くなってるのではないかというほどだ。
対するラクレットも、完全に焦っていた。自分の内心なんて吐露するつもりはみじんもなかったのだ。遠くで彼女の幸せを願えればいいなんて格好つけるつもりはないが、自分が想いを伝える度胸がないと、認識していたのだから。結果的に失言で伝えてしまったのだが。
「あぁう……」
「ち、ちとせさん!! しっかりしてください! 」
オーバーヒートを起こしてしまったのか、座っていた姿勢のまま机に突っ伏してしまうちとせ。ラクレットはすぐに机を回り込み彼女の横に行き、助け起こす。
軽くゆすれば、意識を取り戻したのか、渦巻き状に回転していた目に焦点が戻る。至近距離でラクレットと目があった。なにせ今の二人の姿勢は、力が抜け体重を全てラクレットに預けるちとせと、その肩を抱いているラクレットという、ラクレットの世代で言うところの『マジでキスする5秒前』と言った姿勢だ。
しかし、ちとせは気絶しないで、ラクレットの目をしっかりと見据えて口を開いた。彼女には彼女の矜持があるのだ。
そう、殿方に思いを告げられたら、それに返答する義務がある。
「その…………………………………………不束者ですが……」
「え? ……あ、いやえーと、その……こちらこそ……お願いします」
なんだか、良くわからないけど、自分が今幸せの中にいることを自覚するラクレットは、反射的にそう答えていた。今の彼は表面上は冷静に見えるが内実、有頂天であり暴走状態で正しい判断などできなかった。
だからやってしまった。
「あれ、ちとせさん、さっき倒れたからだと思いますけど、髪の毛にチョコレートがついていますよ」
彼はそう言って、ちとせの髪を一房かき分け持ち上げると、あろうことかそのチョコレートを口で拭った。
それに驚くのは、もちろんちとせだ。
なにせ、髪は女の命としており、日ごろから手入れを欠かさずしている自慢の髪だ。母親から『心にこれと決めた殿方以外に、気安く触らせてはいけませんよ』と口うるさく言われてきた自分の髪に、接吻をされたのだから。
「な、ななな、ラクレットさん!? 」
「フフ、ちとせさんの髪……すごくいい匂いがしますね……」
「そんな……あぁ!」
しかし、ちとせの熱暴走を起こしたばかりの頭は、先ほどの矜持を守るので精一杯だったのか、近づいてくる彼の顔を拒めと判断せず、彼の力の促すままにその身を従わせるのだった。
「ごめんなさい……僕がこんなものを作ったから……ああ、御髪だけでなく頬っぺたにもついていますよ……今、綺麗にしますね」
体験版ではここまで!! 続きは製品版で