僕と兄貴と銀河天使と   作:HIGU.V

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第8話 GAGABD出ます

 

 

第8話 GAGABD出ます

 

 

「タクトさーん」

 

「ミルフィー!」

 

「お待たせしてすいません」

 

「いや、俺も今来たところだよ」

 

 

そんなお約束なやり取りを交わしているのは、昨日のデートの約束を今果たしている二人だ。まあ、それはいつもの事なのでいいだろう。二人は『エルシオール』内でデートする時、毎回決まったような時間に、決まった場所に集まるのだ。まあ、広いといっても所詮は儀礼艦であり、デートで行ける場所など数えられるほどしかない。

それでもミルフィーは、タクトとのデートを楽しみにしていた。タクトもそれは同じで、今日の仕事の半分を昨日のうちに終わらせ後はレスターに投げてきた。レスターも対処し難いように、微妙な量を最低限こなしたので、文句は言えなかった。なにせ、エンジェル隊のご機嫌取りなんてレスターには到底できない仕事なのだから。

 

 

二人は、いつものように銀河展望公園を回り、ミルフィーの家庭菜園の様子を見て、コンビニを回って、クジラルームまで来ていた。一々書くと、甘くてしょうがない話になるので割愛させていただきたい。

 

 

「いやー、宇宙クジラは、本当に大きいねー相変らず」

 

「そうですねー……あ、タクトさん私、飲み物買ってきますね」

 

「え、あうん、頼むよミルフィー」

 

彼女に買いに行かせるのはどうかなーなんて一瞬思ったが、すでにこちらに後ろを向けて小走りでクジラルームの入り口に向かうミルフィーを見て、タクトはまあいいか、と結論した。

 

 

「いい天気だなー……まあ、人工だから当たり前だけど」

 

 

手持ち無沙汰になったタクトは、ボーっと水平線を眺めていることにした。人工の海はいつもと変わらず波打っている。思えばずいぶん遠くまで来たなーなんて、黄昏てみる。全然自分らしくないことをしている自覚はあるのだが、こうやって一人ですることもなく佇んでいると、いろいろと考えてしまうのだ。

ほんの1年前は、クリオム星系と言う、田舎の星系で小さな船団の司令官をやっていた。そんな自分が、昔の恩師の推薦の形で、特殊部隊であるエンジェル隊の司令官となり、『エルシオール』でシヴァ皇子を連れての逃避行。白き月に戻りエオニアを撃退。そこで軍をやめるも、その半年後には、新たな勢力と戦い始めて、さらに半年で超古代文明との会合だ。

 

 

 

「全く、どうしてこうなったのかね……ん? あれは?」

 

 

そんな風に懐かしんでいると、海岸線をこちらに向かって歩いてくる少女の姿が目に入った。方向的にはクジラルームの奥からなのでミルフィーが行った方向とは逆だ。

 

 

「ルシャーティ? にしては、なんか様子が変な気がする」

 

「……タクトさん」

 

 

どこか危なげにふらふらと歩いているルシャーティはタクトの名前を呼ぶと、そのまま、タクトに近づいてくる。

 

 

「って、おい!! 大丈夫かい? ルシャーティ」

 

「タクトさん……」

 

 

ルシャーティはタクトの目の前まで来ると、そのままふらつく足でタクトにもたれかかった。とりあえず、そっと受け止めるタクト。自分の名前を呼んでいるので、意識はあるようだが、自分では詳しい体調は解らない。素人判断で見れば、顔色は正常だし、脈拍も至って異常なし。呼吸も落ち着いていて、体温も適温だ。少しばかり目の焦点があってないように見えるが、それだけだ。

 

 

「ど、どうしよう? 」

 

「どうしました? 」

 

 

そんな風に狼狽していると、突然横から声がかかる。タクトはその方向は確か海だった気がすると思いながらも振り向くとそこになっていたのは

 

 

「ルシャーティさんにタクトさん、こんなところで何を? 」

 

「ラクレット!? その格好は? 」

 

 

ブーメランパンツでゴーグルをかけ、黄金色に輝く筋肉隆々の全身を露出された男だった。要するにラクレット・ヴァルターだ。心臓の弱い人があったら気絶するであろうそんな肉体を見せつけるように(本人は意図していないが)そこに佇んでいた。二の腕はミントの腰回りよりは確実にあるであろうし、鍛え上げられた腹筋はまるで鎧の様だ。体が一回りも二回りも盛り上がっている印象を受けるそんな肉体である。実にホモ受けしそうだ。

 

 

「さっきまで、素潜りしていまして……肺活量の特訓ですね」

 

「そ、そうかい……」

 

 

突然海から人が現れたら、誰でも驚くであろう。それが筋肉の塊ならなおさら。

 

 

「ルシャーティさん、大丈夫ですか……」

 

「え、あ、はい……ヴ! ヴァルターさん!! 」

 

 

そして、いまラクレットの存在に気付いたかのようなリアクションをして正直恐怖の色がひとみに見えているルシャーティなにせ、気が付いたら、男の胸に抱きかかえられて、目の前に裸の筋肉がいるのだから。女性としては当然である。

すぐさま立ち上がって、タクトからも、ラクレットからも一歩離れて、そのままじりじりと後退していく。

 

 

「あ、良かった。意識が覚醒したみたいですね……あれはミルフィーさんですか? デートの邪魔をしては悪いので僕は、もうひと泳ぎしてきますね? 」

 

「え、あ、うん……み、ミルフィー……お疲れ━」

 

「あの、タクトさん、私はどうして……ここに? 」

 

「あ、はい、タクトさんこれ飲み物です。ルシャーティさん、こんにちは。お散歩ですか?」

 

 

大変カオスな状況になってくるクジラルーム。ミルフィーはラクレットと言う謎すぎる存在のせいで、自分のデート相手が、浮気相手の候補とデート中に会っていたという事が頭からスポーンと抜けていた。

まあ、状況的にミルフィーの主観からは

「ラクレット君が海から出てきて、それにルシャーティさんが驚いてふらふらしている」になってしまっているのだから仕方ないかもしれない。

 

 

「えーと……そうだ!! ミルフィー展望公園行こう。オレお腹減っちゃったんだ」

 

「え? またですか? いいですけど……」

 

 

なんとかタクトが、この場をなかったことにしようと、提案するが、そこでアラームが鳴り響く。敵の来襲だ。

その音に合わせて再び海に潜っていたラクレットがあがってくる。少し離れていたルシャーティは音と、ラクレットにおびえた様子を見せている。

 

 

「タクトさん!! 自分は急いで着替えてきます。ルシャーティさんに指示を」

 

「解った!! ミルフィーは今すぐ格納庫に……いや、ルシャーティをMPに任せてからでいい、その後急いでくれ!! 埋め合わせは必ず!! 」

 

「わかりました!! ルシャーティさん、こっちです」

 

「は、はい……」

 

 

 

直ぐに戦闘の緊張感あふれる空気に成れるあたり、彼等もすでにこういった経験に慣れきっていると言った所か。ルシャーティは、走りにくい服装で、走りにくい砂浜をミルフィーに手を引かれて進む。タクトはすぐさま端末で会話しながら、司令部に急ぐ。

ラクレットは既に更衣室にいて、全身洗浄機で体を洗浄していた。

 

 

その様子を、不満げに見つめる少年の存在は最後まで誰も気づくことはなかった。少年は、最初からそこに居なかったかのように、すぐその場を後にした。

 

 

 

「レスター!! 状況は!? 」

 

「敵艦だ……しかもどうやら先遣隊の司令官さんが乗っているド本命と来た」

 

「なるほどね……向こうから通信は? 」

 

「まだありません……!! いま入りました! 」

 

「いいタイミングだ、モニターに出してくれ」

 

 

ブリッジに息を切らして到着すると、ちょうどそのタイミングで通信が入るという、なかなかにいいタイミングで戻って来られたことに安堵するタクト。ついに、ヴァル・ファスクの軍隊と向き合う事となったブリッジには緊張が走る。

モニターに通信先の映像が映し出される。そこに映っていたのは、冷たい目をした一人の男性であった。

 

 

「……我が名は、ロウィル。我、貴君らに告ぐ、立ちはだかるすべてを打ち砕きトランスバールへの道とする」

 

「俺は、タクト・マイヤーズ……それはちょっと困」

 

 

タクトがそこまで行ったとき、画面が暗転する。突然の事態に視線がアルモに集まる。アルモも、何が起こったのか一瞬理解できなかったようで、すぐに画面を確認すると、明確な答えが出たのかすぐに顔を上げてタクトの方を振り向く。

 

 

「……通信切れました……」

 

「なんという……」

 

「聞く耳持たずってか……解り易いけど、やりにくいね……」

 

 

通信を切られたのだと認識した司令と副指令のコメントである。敵の数は前回戦った艦が十数隻と旗艦とみられる大きな艦、それを守る護衛艦3隻という構成であり、未確認の艦の性能次第では苦戦しそうではあるが、ずいぶん余裕である。

 

 

「じゃあ、こっちも……皆、準備はいいかい? 」

 

格好良くポーズを決めて、タクトはそう通信に向かい問いかけた。戦闘前のパフォーマンスである。

 

 

「はーい、こちら一番機ラッキースター!! 準備万端でーす」

 

「二番機カンフーファイター、こっちもOKよ」

 

「三番機トリックマスター。発進準備完了ですわ」

 

「こちら四番機ハッピートリガー、いつでも行けるよ!! 」

 

「五番機ハーベスター……準備完了です」

 

「六番機シャープシューター、出陣の準備は整いました」

 

「エタニティーソード準備完了!! いつでも行けます」

 

 

全員の返事を確認して、自信満々な不敵な笑みを浮かべてタクトは強く宣言する。これは戦の始まりなのだ。こういった様式美に乗っ取らないで、士気を保とうなど笑止千万。

 

 

「それじゃあ皆、全機そろった『エルシオール』の戦力を見せてあげようか!! EDEN解放戦は、白星から始めるよ!! 」

 

────了解!!

 

 

『エルシオール』から7機の戦闘機が飛び立った。それぞれが残す軌跡の光には、輝く羽が舞っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よし、それじゃあ、いつも通り、ランファとラクレットが前衛、ミントとフォルテとミルフィーで中衛、ちとせとヴァニラは後衛みたいなスタイルで……と言っても敵の数を減らすまでは各個撃破で行くよ!! 」

 

「敵の装甲は、前回の戦闘でもわかっているとは思うが、エオニアの時の無人艦隊に比べて倍以上だ。速度や攻撃性能はあまり変わらないが、継戦時間が長い以上被害は大きくなりやすい。全員気を付けるように」

 

 

「はいはい、わかったわ」

 

「レスターさんの方が、司令官みたいな助言ですわね」

 

「それは言わない約束だよ、ミント」

 

 

さっそく軽口が飛び交う通信。彼女たちのテンションはすでに最高潮まで鰻登りである。大義名分はこちらにあり、久しぶりの7機での戦闘なのだ。

 

 

「さて、修行の成果見せてもらうわよ!! ついて来なさいよね!! 」

 

「そちらこそ。油断していたら、僕一人ですべて持って行ってしまいますから!! 」

 

「言うようになったじゃない!! 」

 

 

ランファの駆るカンフーファイターが高速で敵の先頭にいた艦に突っ込む。下からミサイルの雨を降らせつつ粒子ビーム砲を浴びせる。ラクレットも負けじとランファが着弾させたポイントへ縫うように食らいつき、刃を突き立てる。トレース機能を使わずにほぼ完ぺきにこなしたその絶技に、思わずタクトやレスターエンジェル隊のメンバーは色めき立つ。

 

 

「へー、口だけじゃないのね!! 」

 

「自分には近接攻撃(これ)しかありませんからね!! 」

 

 

自分の腕に自信がついたのか、謙遜せずにまっすぐ受け止めるラクレット。ランファは久しぶりに会った、戦闘における自分の相棒の成長ぶりを素直に褒め称えた。なにせ、彼女の速度についていけるのはラクレットだけなのだから。

 

 

「それじゃあ、こっちも負けてられないね!! 」

 

「そうですわね」

 

「ぱーんっと行きますよー!! 」

 

 

中衛の3人がすでにかなりのシールドを削られた艦に向かい攻撃を仕掛ける。火力に優れたハッピートリガーとラッキースターの二機の攻撃で敵艦は瞬く間に破壊されてしまい、ミントは若干出鼻をくじかれてしまうものの、そのまま、自分を右から狙う敵に対して攻撃を開始する。彼女の機体の売りは全方位への攻撃なのだから。

 

 

「それでは、私はミント先輩のサポートに参ります!! 」

 

 

そう宣言したちとせは既に全員の遥か上方に機体を移動させていた。宇宙空間に上下もないのだが、便宜的にその方向なのだ。そしてその位置で機体を停止させると、ミントが攻撃した艦の動力部めがけて狙撃を開始した。

 

 

「……やはり、かなりシールドが強固のようですね」

 

 

しかし、そう簡単に落ちてくれる敵ではなく、ちとせのシャープシューターに向かい攻撃を放ってくる。距離がある為に正確無比とは言えないが雨あられと降り注いでくる。ちとせはしかし、それを避けることもせず攻撃を続ける。彼女のそばに控えるのは、回復機能を持った、ヴァニラのハーベスターなのだから。

 

 

「多少の傷では怯みません!! 」

 

「修復します……」

 

 

 

ナノマシンが散布され緑色の光がシャープシューターを包む。被弾箇所の損傷が終わったあたりで、全く攻撃に対して動じず狙撃を続けていたのが功を奏したのか、敵の戦艦は爆散し、宇宙のチリの体積を増やすこととなった。

 

 

「いやーみんな、絶好調だね」

 

「ああ、だが、だからと言ってお前が何もしないでいいという訳ではないからな」

 

「わかっているって、よし、ラクレット、ランファ、二人はそのままひたすら攻撃。ミントとミルフィーは正面の敵を、フォルテは左中間の護衛艦と打ち合いをしてみてくれ。ちとせはギリギリの距離で狙撃を。ヴァニラは一端ミント達と合流。ラクレットたちが危なくなったら、修理できる位置に」

 

 

────了解!!

 

 

レスターにこれ以上の嫌味を言われないように、素早く的確な指示を出すタクト。すでにブリッジには戦闘前の重苦しいピリピリと肌を焼く緊張感はなく、適度な緊張感が漂っていた。この楽勝ムードで気を抜かないのはやはり敵がヴァル・ファスクという得体が知れない存在であるからだろう。

 

 

 

「……ここは撤退か。第2陣と合流して先の宙域に誘い込んで落とす」

 

 

ロウィルは敵の戦力分析は済んだとばかりに、そう呟き全身を紅く輝かせ指示を出すと、旗艦と数隻の艦と共に引いて行った。

 

 

 

「逃がしたか……どうするタクト? 追えなくはないが……」

 

「その言い方ならわかるでしょ。皆、一端戻って作戦会議だ。目の前の敵を片付けてくれ」

 

 

タクトは、敵が何をしてくるかわからない上に、地の利までとられている状況で、猪突猛進で追撃戦を行う程、蛮勇ではなかった。レスターも分かっていたし、万が一にも策もなく突っ込むといったのならば、止めていたであろう。

こうして、第1戦は宣言通り白星で飾られることとなるが、敵がどのように出てくるかを話し合う事となるのであった……

 

 


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