僕と兄貴と銀河天使と   作:HIGU.V

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【舌を】天使の飯がまずいスレpart18【バーンとやっちゃう】

 

 

 

「すまない、愚弟よ。もう一度言ってくれ。よく、聞こえなかった」

 

「いや、兄さんの作った歪曲場発生装置、たぶん7号機の座席下に置いたままだ」

 

「……はぁ!? なんでだよ!! 」

 

「話せば長くなるけど……」

 

 

場所は『エルシオール』内、ラジオの収録室の隣の控室。男二人が会話しているが、周りには聞いている者などいない。此処からは確認できないが、閉ざされた扉の向こうにはスタッフが立っており、廊下側からその扉を見れば、収録中の文字が表示されている。

 

これほどはないというくらいの情報機密レベルであろう場所で話しているのは、内緒の話に他ならない。

 

 

「前にタクトさんが乗った時に付けていたでしょ? 」

 

「……ああ、そうだな。昔のバージョンだが、俺が作ったやつは一定以上の重要人物が常備しているからな」

 

 

エメンタールがエオニアに認められるきっかけになった発明品だ。その当時に発見されたロストテクノロジーを解析し、自分なりに再現し制作したものである。彼が皇国にいない間それは皇国軍内部では暗殺防止策として一定以上の階級のモノや要職に就く者に配備された。

全員にいきわたらないのは単純にコストの問題だ。これを1個小隊分用意するのに、中隊規模の人員を1から育てるお金がかかるのだから。彼が戻ってきてコストそのままにさらに高性能化し実弾にも対応したものが完成し、試験的に女皇陛下やタクトにエンジェル隊などが所持している。ラクレットが話しているのはそのことである。

 

 

「そうそう、で一応どの紋章機にも遭難した時用の最低限装備はあるわけでしょ? 」

 

「……白き月にあり続けている決戦兵器に緊急遭難の時を備える意味はともかくそうだな」

 

「という訳で、この前僕が着座調整した時にお守りがてらおいて来たんだよ……」

 

 

一応紋章機も戦闘機であり兵器であるため万が一に備えた装備はある。他にも各隊員が持ち込んだ私物などもあるわけだが、それは今置いておくとしよう。

 

ラクレットは先日7号機の研究の為に搭乗し着座調整を行った、その時 『なぜか』 装置を置いて来たのだ。まあ戦闘機乗りが願掛けの為そういった自分の私物を持ち込むことはトランスバール皇国でも別段珍しくない。しかしそれは自分が乗った後に片づけるものだ。自分専用の戦闘機なんて持っている人物の方が少ないのだから。置きっぱなしにするということはない。

 

 

「はぁ……まあ、白兵戦なんてやらないから別に戦況には問題ないがな。ヴァル・ファスクにはもっとすごい技術があるかも知れないし」

 

「アクティブな装置ならあるかもだけど、性質的にパッシブなのは少なそうだよね。保険をかけるくらいなら、芽を摘む感じだし」

 

「……はぁ……」

 

「悪かったって、僕のモノだったし、紛失したことにするからさ。一個融通してよ……始末書には点検のために交換したことにしたいんだ……あれ払えなくはないけど馬鹿みたいに高いからさ……」

 

 

忘れがちだがラクレットは、相当な高給取りであり、実家関連の試算も相当にある。実を言うと同階級のちとせはもちろん、中尉のミルフィーたちよりも貰っている。というより広告塔としての仕事などによる休日拘束や、ゴーストライターの書いた本の印税なども合わせればエルシオールクルーで1番である。まあその分仕事が多いのだが。

 

 

「それが頼みってわけか……はぁ、貸一つだぞ」

 

「ありがとう。それと例の件頼んだよ」

 

「ラジオのゲスト出演か……まあ、良いけどそんな空気じゃないだろ? 」

 

「だからこそだよ、こういう時だからって日常の清涼剤を軽んじると、余計沈んでいくものさ」

 

「一丁前に口を叩きやがって、まあ詳細は正式な形式でくれよ」

 

「了解」

 

 

ラクレットは、そう言った会話を交わした後、そそくさとその場を後にする兄をその場で見送る。そしてその場でわざとらしくため息をつき、口を開いた。

 

 

「ルシャーティさん……貴方は無事でしょうか……あの美しいお顔が憔悴してないことを切に祈ります」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、タクト……今回のお前の処分が決まった」

 

「はい」

 

 

『エルシオール』のブリッジその場に直立不動で画面越しのルフトに対して敬礼しているのが我らの司令官タクト・マイヤーズである。彼はようやく決まった自分の処分を聞くために、このまで待機していたのだ。指定された時間にある2秒前に通信の予兆が入り、いつもより険しい表情のルフトが現れた。

 

 

「タクト・マイヤーズ大佐、貴官が犯した罪は大きい。決戦兵器である7号機を奪取され、工作員の潜入および脱出を許すことになってしまった」

 

「……」

 

「よって、今回予定していた昇進の取り消し、およびEDEN解放軍の総司令とし、EDEN解放まで休暇を取り上げることにする」

 

 

そこで、表情を緩め、いつもの顔になりながら言うルフト。ようするに昇進はなくなったけど大筋では何もないという処罰になったのだ。これには、EDENを解放するということが決まった後、EDEN解放の為に先陣を切ることができる人物が皇国にあまりいなかったというのが大きい。能力や人柄などは問題ないが、多忙と言った人物が多かったのだ。現在の皇国は年功序列や血統主義と言ったことによって上にいた人物が軒並み消え、1年ほどたつため、かなりの実力主義の精鋭となっているが、それは同時に優秀な人材ほど、重要な場所に当てられているのだ。

要職にある人物の中で動かせるのがタクトしかいなかったのだ。カトフェルはどうかといった声も出ていたのだが、彼は今別の任についており、呼び戻すのに2月以上の時間がかかる為、それは無理な話であった。

そもそもエルシオールと紋章機たち以外に正面から渡り合える戦力はなく、タクトの代役をこなせる『エンジェル隊と決戦までに良好な関係を気付くことができる』人物がレスター位しかいないのも大きい。

 

 

「ふぅー……いやー緊張した」

 

「おい、タクト、態度変えるの速すぎだろ、それに責任重大なんだからな」

 

「わかっているって、ありがとうございます、ルフト将軍」

 

「うむ、さすがに今回は、責任を取って辞め去るべきだという意見も出ておったからな。調整に苦労したわい、女皇陛下の一押しもあって何とか落ち着いたがな」

 

 

 

その後3人でこの後の詳細な侵攻プランを確認し合い、準備を整えていくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっぱり……おいしくないわよ」

 

「ええ……食べられなくはないのですが、完食するのはちょっとと言った感じですわ」

 

 

場所は銀河展望公園、ミルフィーがリハビリも兼ねて、再チャレンジのお弁当を作ったので、ピクニックに来ていた。参加者はエンジェル隊タクト、レスター、ラクレットである。白き月の中にいる為に、二人とも余裕があるのだ。もちろんEDEN解放のために組織された軍の調整などの仕事もあるが、『エルシオール』の司令官としての仕事である、ミルフィーのテンションとも関係がある為に参加していた。レスターはとばっちりである。

 

 

「……栄養バランスは取れています」

 

「味付けと調理法に問題があるのではないかと……」

 

「そうさね、横でラクレットが見ていたんだろ? 」

 

「ええ、最後の方だけですが、これと言っておかしいところは……」

 

「どうしてこうなっちゃうんだろう……」

 

 

ミルフィーは深くため息をついた。いつもの大輪のような笑顔ではなくどこか悲しそうなそれである。結局のところ、彼女にも、ケーラにも、そして白き月の医者にも原因が分からずじまいだったのだ。ノアやシャトヤーン、エメンタールの仮説では、H.A.L.Oシステムに同調している時に強すぎる恐怖や戸惑い驚きを感じたことによって、信号が逆流してしまったのではないかという原因を示唆していたが、それが分かったところで解決する手段は現状無い。医学的に診断できるのは重度の味覚障害だけなのだから。

7号機にタクトと二人で乗り、シンクロすることによって治療は可能であろう、実生活には問題ないため後回しにすることにしたのであった。この事を知った一同は取り戻そうと躍起になるのではなく、間の悪さに気分を沈めてしまった。

 

 

 

「あの、今の現象から自分なりに考察してみました」

 

 

ラクレットは、しっかり行程通りに、分量通りに調理していたミルフィーの料理がなぜこのような微妙に残念な仕上がりになってしまったかを考えてみた。彼女は首を傾げながらも味見をし、レシピ通りの分量で正確に再現していたのだ。

それはミルフィーの運が絡んでいるのではないか? という一番考えやすい結論に落ち着いたのだ。

 

 

「ミルフィーさんは、自分の運をコントロールすることはできません。前も一切運が発動しなくなったりしていましたし。ですが、紋章機に乗りシンクロすることである程度なら制御できるということも分かっています」

 

 

此処でいったん言葉を切って周囲の理解を確認する。目が続けろと語っていたので、そのまま続きを口にする。

 

 

「前回、僕の攻撃と、なによりヴァインによる干渉という外部から強制的な刺激を受けた為、制御中だった運が変な方向に接続されてしまった。その結果、『ものすごい偶然が重なってしまい、どういう訳かあまりおいしくなくなってしまう料理』になるのではないでしょうか? 今回は観測者がいたわけで、前回ほどのイレギュラーが起こりうる隙がなかった。故に前回より良い出来になった。というのはどうでしょう? ミルフィーさんの味覚もあのクッキーを先ほど食べてもらった結果そこまで美味しくないと自己評価してましたので、味覚の方は徐々に良くなっていっていると思います 」

 

「つまり……人の手の及ばないところで必ず、負の方向に作用する?……現状、料理の分野でのみ」

 

「はい、そういうことです」

 

 

レスターとラクレットがそういった会話をしている中、段々各々の箸を進める速度が落ちてくる。ほとんどの面々が、最初に自分の皿に取った分を何とか食べ終わったのだ。するとやはり、重箱の中にはまだいくつもミルフィー印のお弁当が残ってしまう。いつもならば取り合いになるそれは今回ばかりは寂しげで重苦しい空気の象徴となってしまった。

それはすなわちミルフィーに気を使いながらも、自分の好悪の判断的に許容できないことを如実に表しており、自己嫌悪と悲しみにより、彼女たちのテンションが急降下しているという事に他ならない。

 

しかしそんな中、レスターとラクレットはお代わりの為に、菜箸に手を伸ばした。

 

「あ、無理しなくて大丈夫ですよ? 私が夜食べますし」

 

 

不味いと感じない彼女自身ならば、問題なく食べられる。量を除けばなので夜までかかるが。

 

 

「いや、栄養バランスが考えられた食事だ。独り身の俺には有難いくらいだ。それに、女の作った料理を残して、恥をかかせるなんて、男のする事じゃない」

 

「レスターさんに同じですが、僕は単純にお腹が減っていますので、こんな体なので燃費が良くないんですよ」

 

 

ミルフィーが控えめに微笑みながら制止しようとするが、レスターとラクレットは逆にミルフィーを制しながら、残りの弁当を自分の皿に盛りつけ始めた。レスターは気遣いもあるが、別段自分の本心と矛盾していない。仕事で美味しくもない脂っこいだけの食事をとらされることや、味気のないレーションのみしか食べられないこともあった。見方を変えればこれもエルシオールの首脳陣としての仕事でもあるのだ。そう考えれば別段、少々美味しくないだけで栄養も見た目も完璧な料理など辛いものではなかった。

ラクレットはやせ我慢でそう言っている。場の空気を沈めないための行動である。

 

 

そんな風に何とか表面上は、元通りに見えるが、やや暗くなってしまった『エルシオール』の空気である。エンジェル隊のテンションもやはり少々下降気味であるのは純然たる事実であった。

しかし、そんなことなど些事ともいえるような大きな問題が目の前にあった。それはタクトの皿がほとんど減っていないという、彼女からしたらいちばん残酷な事実であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カースマルツゥはEDENに戻った後、とある場所に来ていた。EDENはヴァル・ファスクの占拠下にあるが、それでもヴァル・ファスクは別段政治形態を変更させたりや、此方よりの政治家を配置したり、都合の良い法律を発布したりなどはなく、自治の色が強かった。ヴァル・ファスクは占領後の略奪や強姦などは一切しない上に、人間に対して飴を上げて制御する気も必要もないのだ。逆らわずに、物好きなヴァル・ファスクの研究用モルモットの製造プラントであり、資源回収用惑星の拠点でもある。そんな程度だ。

 

だからこそ、EDENは独自の警察組織や裁判所まである。それは同時にきちんと刑務所に入れられる、犯罪者もいる問う事だ。

 

 

「えーと、来週までに死刑執行される奴が17、俺の条件を飲んだ奴が48合わせて65か、本星から届くのは30だし、あと5かー」

 

「カースマルツゥ様、後5人でしたらこちらで工面することもできなくはありませんが……」

 

「……なら頼もうか。その方が早い」

 

 

独り言であったはずだが、此処を管理する人間にそう口を挟まれ、その方が楽だと判断し、提案を飲むことにした。本当は人間なんぞに指図は受ける気はないが、その方が早いならそれを使う。それだけなのだ。

小太りの中年の、この刑務所の管理を任されている男は、そうして悪魔の契約書に平然とサインした。

 

 

「それでは、準備ができ次第、隣の星系の中継基地に送ればよろしいのですね? 」

 

「いや。こいつらを使うなら、その場所はもう使えん。今日中に直接こいつらと一緒に連れて行く」

 

「きょ、今日中にですか!?」

 

男からしてみれば、元々来週までの死刑囚を確保しておけという話だったので、周辺星の監獄から引っ張って融通するだけだったつもりなのだが。突如期限を設定されてしまう、だが配達バハの眠こめない。

 

「出来るんだろ。用意」

 

 

 

「そ、それは……な、なんとか」

 

 

 

しかし、彼にとっての悪魔は、此方のことなど道具か、それこそ資源としか見ていない。ならばこそ、先ほどどれだけでできると言わなかった自分が悪いのだ。自分の為に適当に見繕ってくるしかない。スケープゴートを。

 

 

「じゃあ、死刑囚と他の自殺願望者を発着場まで誘導しろ。あと4時間でな」

 

「りょ、了解いたしました」

 

 

 

結局彼は、4人しか用意できず、自らがその代りにならざるを得なかった。

この時、彼等がどのように使われるかを知っているのは、カースマルツゥのみしかいなかった。

 


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