僕と兄貴と銀河天使と   作:HIGU.V

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第26話 成長と慢心

 

 

 

 

 

EDENの解放記念式典は、当然の如くエルシオールに対して正式に招待状が送られる所から始まった。それにはもちろん、来賓の方々に対する下調べが綿密に行われてからのものである。ロームで行われたものと違い、上層部の勘違いというか先入観によるミスなんて存在せず、タクト、エンジェル隊、ラクレットの8人は無事招かれたのであった。

この事に何時もならば、大げさにも落涙して喜ぶラクレットであろうが、今回は普通に了解と答えただけであった。まあ、不安定なところのある彼の事だと、大げさにしなかったタクトであったが(これは彼自身のミルフィーに対する問題があったということも大きい)逆にエンジェル隊の面々は、この前の反省も相成って、少しばかり注意を向けることにしていた。

 

そして当日、パーティー会場にて、序盤の挨拶やらの定型文などにはきちんと反応していた彼だが、いざ本格的に始まってみると、少しばかりの飲み物と、食べ物を片手に早々に壁の花を決め込んでいた。壁の花と言っても、テラス側であり、かなり人気の少ないところであり、屋外でもあったが。

加えて、彼の無駄に高いスキルを駆使して気配を薄めており、EDEN側からの招待客は、彼を探している人もいるであろうが、彼の存在に気付くことはできていない。

そんな相変らず『周囲に一定以上の人がいて賑やかな中に、一人孤独で居る』といったシチュエーションをもう何度目かわからないくらい経験して、味わっているラクレットであった。

 

 

「……ヴァインが生きていると、こうなるのか―」

 

 

ラクレットは、正史において、ルシャーティがこの後どうなるかを一切知らなかった。実際はEDENのライブラリー管理者として4年後から始まる戦いに向けて精力的にノアやタクト達に協力していた程度しかわかっていないのだが、それでも、彼女ほどの美少女が、生涯独身であるはずはないであろうことは解った。公園での女子会ではあるまいし。

この体で生を受けて初めて芽生えた、異性に対する、少々特別な気持であったが、終わってしまえば何でもない、多少の感傷となぜか心地よい心の隙間風があるだけであった。結局のところラクレットは、告白と言う事すらせずに自分の恋が終わっていたのだが、そのことに対する後悔はなかった。

 

 

「なんだかなー……はぁ」

 

 

もはや趣味の一環になっている自己分析を始めると、どうにも彼にとって嫌な事実が段々と浮き彫りになってきた。先に断わっておくが、ラクレットは今でこそ賢者のような生活を送っているが、別段、異性に対して一切の興味がないわけではない。特別な関係に成れるとするのならば、それはもちろんなりたいと思う。しかしそれは誰でもいいわけではない。自分が一生かけて守っていきたいと思えるような女性が理想だ。

今はエンジェル隊を守るという事を最優先としており、なかなか目立たないが、これでも彼は男の子であるのだ。かわいい女の子や、綺麗な女性と恋仲になることに対する憧れがないわけではないのである。ただそれが二の次になっているだけだ。目の前の戦争が大きすぎるというのも問題であろう。性欲もほぼ0に近くなっているが、ダイゴ曰く必要になれば戻るとのことで、彼は気にしていなかった。

 

 

「あ! いた!! 全く、アンタ気配消しているんじゃないわよ!! 」

 

「ランファさん? 」

 

 

そんなラクレットを見つけて声をかけたのはランファであった。白と赤を基調としたドレスに身を包んでいる彼女は、異性の服装に疎いラクレットから見ても、かなり綺麗に見えた。そんな彼女にはきっと、ダンスのお誘いが引く手数多であろうに、わざわざ探さないと見つからない自分を見つけてくれたことに若干の疑問を持つラクレット。

 

 

「どうしてここへ? 」

 

「アンタがさっきから少し変だったからよ。なんとなく予想はついたから、皆で話し合って、アタシがアンタの様子を見に来たわけ」

 

「皆さんが? 」

 

「そうよ。エンジェル隊全員でね。タクトはなんだかミルフィーの事で上の空だったわ。大方プロポーズでもするんじゃないの? 」

 

 

実際はもうしいているのだが。今回は婚約指輪を正式に渡そうとしての緊張だったことが判明するのはまたしばらく後の事。

ラクレットは、自分がエンジェル隊のメンバーに心配をかけていたことに気づき内省する。それが出過ぎたことなのだが、いまだに学習してないのか、それとも今の気分がそうさせるのか。

 

 

「それで、どうしたのよ? 聞かせなさい」

 

「……」

 

 

ここで、話してみたら? やら、相談に乗ろうか? ではなく命令形で聞くあたりがランファらしく、そしてラクレットに対してらしかった。こういえば彼は断れないのを知っているのだから。

ラクレットは一度ため息をついてから今までの経緯を説明することにする。ミルフィー撃破のあたりで優しく接してくれたルシャーティの事。それが切っ掛けだったこと。そして先ほどの事を目撃してしまった事。

 

 

「なるほどね……そんな、おもし……もとい複雑なことになっていたなら、相談してくれればよかったのに」

 

「だって、恥ずかしいじゃないですか……女の人に恋愛相談するなんて」

 

「馬鹿ね、逆なのよ。女の子はそういうの大好きだから、話した方がいいのよ」

 

「そうですか……」

 

何を言っても無駄であろう、そう彼はしみじみ思った。

 

「それで、アンタは失恋したことで凹んでここに来たという訳ね」

 

 

これで、『エルシオール』における失恋経験者の人数がランファとラクレットの二人になったわけだ。そのことに関してランファはあまり触れようとしないのだが、親近感でも得たのか、ラクレットに向かい優しげな視線を向ける。するとラクレットは先ほど自分を分析した結果から、導き出されてしまった答えについてランファに対して相談しようと口を開くことにする。

 

 

「ランファさん、ランファさんはミルフィーさんの事を恨みました? 」

 

「え? ……そうね、あの時恨んでいないって言ったら、嘘になるわ」

 

 

過去を振り返るように、夕と夜の境目の橙と紫が混ざる空を見つめて、ランファはラクレットの言葉に肯定した。彼女だって人の子だ。いつだって親友に良い感情を持ち続けているわけではない。正直にそう答えてくれたランファに感謝をしつつ、ラクレットはぎこちない笑顔で、ランファに向き直った。二人の身長差はおおよそ20cm弱。少し下を見つめる形になるが、ラクレットはそこに見下したものを含まない様に気を付けつつ、いまだに少々苦手な、人の目を(特に美少女の)見て話すことを心掛けた。

 

 

「ランファさん、僕はですね。失恋自体はそこまで辛かったわけじゃないんです。ルシャーティさんが幸せならばと思えて、身を引くのは辛いのと嬉しいのが半々なんです。ですけど、ヴァインに対して、全く含む所がないんです。嫉妬というか独占欲と言うか、そう言うのが全く。自分の失恋を悲しめないで、相手に対して、両手を上げて祝福しまえそうな、そんな自分が悲しいんです」

 

 

ラクレットの懸念はそれだった。先ほどから何度も自問自答し、自己分析を繰り返しても、ヴァインが憎くない。ルシャーティが幸せなのがうれしい。ルシャーティがとられて悔しい、悲しいといった思いがないわけではないが、恐らく一晩で簡単に整理ができてしまう程度のものだ。

もしかしたら、これがヴァル・ファスク的な考え方なのかもしれないが、それでも今の彼には、このことが悲しかった。今後恋愛をするときにきっと、自分の独占欲のなさが足を引っ張るであろうから。

生前彼が蛇蝎のごとく嫌っていた、処女厨のように、歪んだまでの愛情を注げる方がましなのかもしれない。そうラクレットが思ってしまう程に。

 

ランファはラクレットの言葉を聞くと、慎重に噛みしめて理解するかのような仕草をする、それが彼の話を真剣に聞いてくれているのだなと、ラクレットにも伝わり、ゆっくりと固唾を飲んで彼女を見守ることにする。二人の間に独特の沈黙が流れる。

 

 

「ランファさん、どういった調子でしょ……失礼いたしましたわ」

 

 

そこに、二人よりも身長がかなり小さいため発見が遅れた乱入者。ミントがやってくるまで、その沈黙は続いた。なにせ、向かい合って見つめ合う、無言の二人の男女だ。見方によってはキスの直前か直後とも思われかねない。

 

 

「え? ミント、いやそういうのじゃないから」

 

「ええ、そうですよ。僕の悩みの相談に乗っていてもらっただけです」

 

「ええ、恋愛相談ですね。承知しておりますわ」

 

「そうだけど!! そうじゃないのよ!! 」

 

「ミントさん、割と真面目な話なので、心読んだ上でからかうのは」

 

 

急にシリアスがシリアルな空気に成るのは、『エルシオール』か、それともラクレットのお家芸か。

 

 

「……そうですわね。ラクレットさんも中々業が深いお悩みをお持ちのようで」

 

「そうなのよ、こいつ。ラクレットの癖に一丁前に、自分の引き際がよすぎるなんて悩みを抱えているなんてね」

 

「はぁ……申し訳ありません」

 

 

ラクレットは、目の前の美少女二人からの攻めるような言葉に、少々及び腰になってしまう。まあ、仕方なかろう。自分の知識が全くない分野なのだから。

 

 

「でも、解決方法なんて一つよね? 」

 

「ええ、それしかないと思いますわ。ラクレットさん」

 

「あ、はい。なんですか? 」

 

 

しかしながら、どうやらあっさりとこの自分の悩みに関する答えを得ることができそうなので、ラクレットは安心して聞くことにする。

 

 

「新しい恋を────」

 

「────見つけてくださいませ」

 

 

見事に二人とも同じ回答に至ったのか、同じタイミングでそう返されるラクレット。

思わず、聞き返してしまうほどには、理解が追い付いていなかった。

 

 

「……新しい恋ですか? 」

 

「ええ、そうよ。アンタはルシャーティに対してしたのって、初恋でしょ? 」

 

「ええ、まあそうですが」

 

「でしたら、尚の事、いろいろ経験をしてみてください。そこから見えてくるものもありますわ」

 

 

ミント達の言い分を、ラクレットは何とか理解することができたものの、納得ができたわけではなかった。なにせ、今失恋したばかりだ。引きずってはいないものの、積極的に恋愛をしたいとは思わなかった。しいて言えば、しばらくはルシャーティの事を思い続けていたいと思ったくらいか。

 

 

「アンタ今、しばらくルシャーティの事を好きでいたいとか思ったでしょ」

 

「え? ええ、まあ」

 

「それが問題なのですわ」

 

「はぁ……」

 

「とりあえず、アンタは、いろいろ恋をしてみるべきなのよ。そうすればきっと見えてくるものはあるわ」

 

「ランファさんの言うとおりですわ。まだお若いのですし、いろいろ経験してみても損はないかと」

 

 

二人して、ラクレットに対して新しい恋をするように勧める、ランファとミント。ラクレットは今一つそれに乗り気ではなかった。自分の感情を否定されているような気分になったのと、そして何よりも

 

 

「お二人とも、恋愛経験少なさそうなのに、詳しいですね」

 

 

そう思っていたからだ。これは、ラクレットからすれば非常に珍しい事であった。彼がうっかりではなく、自然と、エンジェル隊の言うことに対して反感を持ち、それを口にしたのだ。ある意味親離れを始めた子供のような図であるが、この時はこの言葉はまずかったであろう。

 

 

「へぇ……そう言うこと言っちゃうんだ」

 

「あらあら、面白いことをおっしゃるお口ですわね」

 

 

急に雰囲気が変わったことに気付くラクレット。いつもならここで焦りの表情を浮かべて、あ、ヤバと言った感じで謝罪を始めるのだが、今の彼は、言い過ぎてしまった感はあるものの、思っていることは本心なので、へっぴり腰になりながらも、二人を見つめている。

 

 

「僕はまだ、新しい恋愛を見つける気分ではないのですよ」

 

「女々しい人ですわね」

 

「ウジウジしている奴は持てないわよ」

 

「別に誰彼からでも好かれたいわけではないですから。ランファさんやミントさん。エンジェル隊の皆さん、『エルシオール』の皆さん。家族以外ではその位の方々に好かれているのならば十分です」

 

 

良くわかってないからこそ言えるその言葉。ナチュラルに好意を示すその言葉。ヒロインならば顔を赤面させて、動揺しながら礼を言うようなものであるが、そこはラクレット、ミントもランファも、少しだけ心拍数が上がったものの、目立った変化はない。嬉しいといったレベルであろう。

ラクレットは内心で彼女たちの助言を受け入れる事は当分ないと感じていた。しかしもし仮に次の恋が見つかったならば、もっと独占欲を前面に出して行こう、意識して。そう考えていた。

 

そのままにらみ合いを続けていた3人だが、その均衡は、突如発生した警報によって破られることになる。

 

 

────エルシオールクルーは直ちに帰艦せよ。繰り返す、エルシオールクルーは直ちに帰艦せよ。

 

 

レスターのその声が聞こえた瞬間、視線で続きは後でじっくりと、と会話をすると、3人はそろって『エルシオール』に駆け出す。途中、足のコンパスに絶対的な差があるミントが遅れ出したため、ランファが背負い3人は『エルシオール』へ急いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その男、カースマルツゥは、100の僕を従えて、中空に布陣していた。構成されている機体は、全て格安で入手できる。ヴァル・ファスクの練習用機体。エタニティーソードと同型のモノである。それが今、彼を守るように100機が待機しているのだ。100機それぞれが、エタニティーソードとは形状の違う剣を装備している。剣の背に多くの溝が刻まれており、そこから蒼いエネルギー刃特有の光が強く発生しているのだ。

そんな機体を従えて、彼は尊大にタクトに向かい通信で呼びかけた。

 

 

「やあ、マイヤーズ司令さんよぉ。お久しぶりじゃん? 」

 

「カースマルツゥ!! 」

 

「どーだった? 俺が用意した策は読めた? 残念ー。何も用意していませんでした。近くの基地に集めた機体を持ってきただけー」

 

 

相変らず狂ったような態度を示すカースマルツゥ。タクトは怒り心頭であった。何せ指輪を渡したタイミングでこれだ。答えは戦闘の後でもらうことになったが、台無しにされたことは事実なのだ。

カースマルツゥは、どっしりと、簡素ながらも、優美な作りになっている黒い椅子に腰かけ。全身を紅く光らせていた。

対するタクトも、この戦いが自信初の大気圏内の戦闘だと感じさせないように堂々とした態度で相対していた。

 

 

「この機体の中にはなぁ、この星の死刑囚を乗せてみたんだぜ? 思ったより出力が伸びなかったから、H.A.L.Oシステムと融合させて、生体コンピューターにしてみたのさぁ!! 」

 

「貴様! どこまで!! 」

 

「あ、もう元に戻らないよ、ただのエンジンの部品だし、タンパク質でできた」

 

 

レスターは激昂する。死刑囚とはいえ元は人間なのだ、そんなことをしてよい訳ではない。ダークエンジェルと同じようなことは、認めるわけにはいかないのだ。

カースマルツゥが以前、この星から連れて行った人間は、この機体を構成する部品の一部となっていた。人間を乗せ、それでも足りないH.A.L.Oシステムとの適合率は、黒き月からパくれなかった部分を独自に研究し、ヴァル・ファスク流の方法で機会と合体させた。あとは、高性能AIと必要な時に自分が玉座から操作すればよいだけだ。

そう、彼の元には、100機の最善の状態の無人戦闘機がいるのだ。

 

 

「前回3機だけ出して、すでに戦闘におけるデータはある程度収拾させてもらっているからなぁ。それも全部これを見越しての事だったんだぜ? 」

 

 

ミルフィーを拉致しようとした際に、使われた3機の練習機は、この時に効率よく動かすためのデータ採集用だったのだ。彼にとって、EDENを取らせることは、別段大きなことではなかった。彼が用意した、最強の戦闘機集団で、戦闘機によって構成された『エルシオール』を撃ち倒し、彼のヴァル・ファスクとしての優秀さを証明するためであったのだ。

 

 

「そうやって、解説してくれるのは有難いけど。解説する奴は、大抵負けるって法則知ってる? 」

 

 

しかしタクトは、そんなことなど尻もせず、そして興味もなさ気にそう言い放った。なにせ、今まで相手が無数の戦力を用意している事なんてよくあったのだ。今更100機のエタニティーソードもどきで驚くわけがないのだ。最も内心はレスターと同じように、怒りで燃えていたが、それは司令官が出してはいけない怒りだ。

 

 

「なんとでもいうがよい、それにオレだけを見ていると大変みたいだぜぇ? 」

 

「何!? 」

 

「────ッ!! 司令本惑星近辺にドライブアウト反応、大量の起動爆雷です!! 」

 

 

その声と同時に、上空数万メートルの高さに、光るものを視認するタクト達。すると次の瞬間不思議なことが起こった。何もない上空の空間に突如、老人の顔が投射されたのだ。あまりにも巨大な映像が、彼我の距離を錯覚させられるが、そこに確かに表れた、老人の顔は、いかにもな悪役の顔であり、瞬時に敵だと彼等は判断した。

 

 

「クズが逃げおおせたようだな。EDENの道具と共に掃除すれば、手間は増えぬがな」

 

「何者だ!! 貴様!! 」

 

「フン、寛大な余は、その無礼にも目をつぶろう。だが二度はないぞ。我が名はゲルン。ヴァル・ファスクの王にして。それはすなわち、全銀河の頂点に君臨する。真の支配者よ」

 

 

醜い外見の老人は、そう堂々と答えた。そう、彼こそが、ヴァル・ファスクのトップであり、現在のこの戦争の首謀者であるゲルンだ。敵の親玉の突然の登場に、にわかに浮き足立つ『エルシオール』。エルシオールですらそうなのだ。元々存在を知っていたであろうEDEN本星においては、すでにパニック状態に陥っている。それほどまでにこの老人は恐怖の象徴なのだ。

絶対的な自信と経験に裏打ちされた、その言動は、圧倒的なカリスマを持つ、悪の権化であった。

 

 

「今回は試金石だ。この起動爆雷がスカイパレスに到達する前に迎撃して見せよ。できなければ死ぬ。それだけのことだ」

 

「なんだと!! 」

 

 

事も無げにそう言い放つ、ゲルン。あまりにもタクトとは物差しが違っていた。いや、カリスマ性という点では同じなのかもしれない。しかし、その方向性、使用方法、人柄など、あらゆる面においてタクトと対極にあったのだ。

 

 

「せめて見世物に成れ」

 

 

それだけ言うとゲルンは、消え去った。投射されていた映像が消え去ったのである。急転直下の事態。それに対して、エルシオールは対応を迫られていた。

 

 

「どうする、タクト? こちらの左方向から起動爆雷と、それに付随する艦隊が、右方向から、エタニティーソードと同型機が100機だ。こちらの『エルシオール』以外の戦力は、今出せるのとなると、ザーブ戦艦が5隻だけだ」

 

「……」

 

 

戦力差は激しい。まず対処しなくてはいけないのは、起動爆雷であろう、これは直接ライブラリー、つまり建物を狙っている。そしてそれに付随する敵の戦艦群も当然破壊が必要だ。逆に、エタニティーソードと同型の機体が100機あっても、遠距離や範囲を攻撃できる武装がないために、出す被害は大きくない。やるべき順序は決まった。あとはどうするかだ。

 

 

「よし、護衛艦隊の皆さんは、『エルシオール』と共に、起動爆雷の対処をお願いします」

 

 

「了解した」

 

 

そもそもが旗艦などに強い設計になっている為、戦艦をエタニティーソードもどき相手に戦わせるという選択肢は、まず存在しない。故にこの判断は正解であろう。

 

 

「ランファとミントとラクレットは、戦闘機の対処を頼む。困難な任務だけど、持ちこたえてくれ」

 

「了解よ……さすがに今回の敵は、厳しいかもね」

 

「了解。ええ、油断ができない相手ですわ」

 

「了解。やりましょう、全力で」

 

 

足の速い2機と、ピットにより複数同時および全角度攻撃が可能なトリックマスターの3機ならばある程度は戦えるであろう。彼らが持ちこたえている間に、起動爆雷を何とかしなくてはならないのだ。3人の方はエルシオールが近づけない以上、補給や回復はできないということになる。厳しい戦いだ。

今入った情報だと、EDENにもある数少ない戦闘機部隊などの警備兵程度の戦力を今急いで捻出しているらしいが、間に合うかどうかも、そもそも戦力になるかどうかも疑問だ。

 

 

「他のみんなは、起動爆雷の対処をお願いするよ」

 

────了解!

 

 

「皆、厳しい戦いになると思う。だけど、これを凌げないなら、ヴァル・ファスクに勝てるわけがない。絶対に勝つぞ!! 」

 

────了解!!

 

 

そうして戦闘の火蓋が切って落とされた。

 

 

 

 

 

ラクレットを先頭とし、ランファ、だいぶ遅れてミントと進んでいく3機。相手は100機の戦闘機だが、まだ大きな動きを見せる様子はない。もっと近づいてから仕留める心算なのか。相手の数がこの半分もなかったならば、遠距離からの攻撃のできる機体や艦などで、距離をとりつつ引き撃ちで削り切れるであろうが、さすがに100機もあれば接近されてしまうのだ。数はやはり戦場における重要なファクターである。

 

 

「気をつけなさいよ、ラクレット。アンタの機体と同じ動きをするんだったら、正直100機相手に勝てるとか思っちゃだめだから」

 

「遠まわしに褒めて頂きありがとうございます。ですが、切りこまないことには始まりません!! 」

 

 

ランファの忠告を半場無視する形で、ラクレットは先に進む。このまま距離を開けて対峙し続けても良いのだが、敵の後列が回り込んで『エルシオール』が挟み撃ちに成ったり、この戦闘宙域を南紀篝脱市街地に散開して向かわれ、破壊活動などを行われたりする可能性こともの考えると、戦闘をして釘付けにせざるを得ないのだ。

 

 

「まずは一機!! 」

 

 

ラクレットは、近づいたことで、戦闘形態に移行した敵機に向かい、エネルギー剣を伸ばす。1kmの射程を持つエネルギー剣を、敵戦闘機は左右の剣を交差することによって防ごうとした。

 

 

「一刀両断!! 」

 

 

しかし、ラクレットは、敵が抑えている部分にエネルギー刃を集中させる。生み出せるエネルギーも運用できるエネルギーも、此方の方が上なのか、敵の機体が押し込まれ、数秒とせずに、敵機を切り裂いた。

 

 

「次!! 」

 

 

しかし敵の数は、そう簡単に減る者ではない、1機目との戦闘を介した直後に無数の敵が襲い掛かってきた。蠅にたかられるように、周囲を囲まれていく。敵の剣はどうやら100Mも伸びないようで、脅威なのはこちらとほぼ同等の速度と言った所か。

左右の剣で次々と迎撃していくラクレット。しかし流石に懐に入られてしまう。

 

 

「っく、だが、鍔迫り合いでは負けない」

 

 

正面から来る2機をそれぞれ左右の剣で迎撃しつつ、機体を前方下方に移動させる。剣は数秒の抵抗を受け速度が鈍るものの、問題なく切り抜くことができるものであった。

 

そう、何事もなければ。

 

 

「何っ!! 」

 

 

左の剣を受け止めていた機体が突如急激に前進を開始した。剣と言うのは、根元程切断力は弱いものだが、これはエネルギー剣だあまり関係はない。しかしそれによって剣の軌道がわずかにそれた。その逸れた先に待ち構えていた、1機の戦闘機は、剣をクロスさせず、片方の剣の背で、此方の剣を止めた。

そう、既にエネルギーの部分ではなく、実体の部分で切り合う程までに接近していたのだ。ぶつかる様な至近距離で、その機体は自身をエネルギーで切り刻まれながらも、自身の剣の背についている溝でエタニティーソードの剣を受け止めた。その瞬間、自身の剣の溝にエネルギーを集中させ、掠め取り

 

 

「エタニティーソードの剣が……」

 

「折られた……?」

 

 

敵戦闘機が装備している剣は、そこまで攻撃性を求められていない。元は、防御の一環として敵のレイピアを折る短剣。エネルギーで射程が伸びるからあまり関係ない実体験の部分に装備していた武器の名前。それは

 

 

「クク、どうだい? ソードブレイカー搭載型の戦闘機の能力はよぉ! 」

 

 

左手の剣を失ったラクレットは、即座に、山のような数の戦闘機に囲まれた。そのすべてが、左右にソードブレイカーを装備した戦闘機であったのは言うまでもない。

戦艦に強い戦闘機。その戦闘機の中でもさらに大きな艦に強い近接型戦闘機相手に有利に立てる限定的な武装を持った機体。カースマルツゥは無策で挑んできたわけではなかったようだ。

 




向こうのⅡの方も更新しました。

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