僕と兄貴と銀河天使と   作:HIGU.V

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第3部 エピローグ

 

 

 

 

 

 

あれから、結構な時間が────といっても単位は月ですが────経過しました。

 

 

今、僕はEDENを中心に復興活動のために頑張っています。僕が既に半ば下りた『エルシオール』は、レスターさんをトップに据えてトランスバールやEDENの星々を回っています。この銀河に住む人は、性善説でも信じているのでしょうか? 暴動や、火事場泥棒といった、混乱を隠れ蓑にした悪事は、人口比率で考えて、圧倒的に少ないです。

 

この戦いを得て少し僕も成長した気がしていますが、贔屓目に見ても僕の周りは辛口な人が多いので、褒められてはいません。

さて、そろそろEDENでのお仕事を終わらせないといけません。

 

 

「ヴァルターさん」

 

「ああ、ミスターマティウス。本日はこのような式典にお招きいただき、ありがとうございました」

 

「とんでもない!! こちらこそ、わざわざお忙しい中お越しくださるなんて、光栄ですよ」

 

 

EDEN星系の外れ、その星で小規模なものですが、宇宙港が開港しました。今日はそれに招かれています。そういったわけで、お仕事モードな僕は頭の中も敬語です。

別にトランスバール公用語で考えると、まだどうにしても固くなってしまうからだという理由はありません。決して。

 

 

「これから私はトランスバール皇国に帰還しますから、この宇宙港から出る第1便で。そういった意味ではまさに渡りに船でした」

 

 

「さすが、英雄の剣ですね。息子にも見習わせたいところです。おお、噂をすれば」

 

 

戦後EDEN星系近辺、要するに直接的にヴァル・ファスクに支配を受けていた場所では、心情的に報復を望む声は決して少なくありませんでした。ですが、それを銀河を救ったタクトさん達が望むわけがありません。僕は正直あまり使いたくなかった、自分のネームヴァリューというものを駆使しました。

自分から積極的にいろいろな場所に赴いて、ヴァル・ファスクにも人間と分かり合える可能性があることを、争いを繰り返してはならないことを説きました。講演会は勿論。街頭演説からTV番組の特番まで組んでもらって活動しました。将来振り返ったら後悔するかもしれないような、気取った言い回しや口調を多用しましたが、ここ10年は後悔しないでしょう。

だって、その結果僕は英雄タクト・マイヤーズの剣としてEDENにおいて、広く認知されてしまいました。なにせ、もはや公然の秘密となりかけてはいるのですが、エンジェル隊は、自分たちからメディアに露出しません。タクトさんは居ませんので、僕が一人でこういった顔役を果たす必要がありますから。特にヴァル・ファスクとの混血という立場で、こういったポジションに付いている僕という前例が、ヴァル・ファスクの旗印になるでしょうら。ああ、僕を神輿にヴァル・ファスク再興とかいう人はさすがにいませんよね?

 

そして、僕が受け入れられた結果、ヴァル・ファスクに対する風あたりも、幾分か緩和されました。もちろん僕一人の功績だなんて思いません。なにせ、目に見えて変わってきたのは、ヴァル・ファスクの首相として就任した、ダイゴの爺さんが武装解除を宣言してからですので。

ええ、ダイゴ爺さんはあの戦いの後、ヴァル・ファスクが本星ヴァル・ランダルに戻り、敗北を受け入れ始めたヴァル・ファスクに対して、人類を理解することが今後の大きな利益になると説きました。そのまま戦後のどさくさやら、皇国側の支援者の後押しもあり王政を廃止して、民主制に近い形態をとり始めたヴァル・ファスクのトップに返り咲いたのです。600年の左遷から戻って昇格した。とか言っていました。さすがヴァル・ファスク気が長いです。まあ実際は皇国の傀儡政権ですけどね。

ちなみに、僕たち兄弟位の血の薄まり具合だと、そのまんま1/64の兄たち二人は、将来若干年齢不詳になるけど、少し長生きな人間程度の寿命だそうです。僕は後50年程肉体が若いままだそうです。人類の寿命のギネスを更新する可能性があるそうですが、150年も生きられないそうです。そこまで生に執着していませんので、気にしていませんが。

 

 

「ロゼル。挨拶なさい」

 

「初めまして、ヴァルター少尉。ロゼル・マティウスと申します。貴方の事を尊敬しています」

 

「ああ、ロゼル君。初めまして。そんなに畏まらなくても平気ですよ」

 

「ロゼル、ミスターヴァルターはお前と同い年だそうだ。ミスターヴァルター。こいつはパイロット志望で、来年から空軍学校に入学予定なのですよ。よろしかったら、何かアドバイスをいただけないでしょうか? 」

 

 

この宇宙港の責任者のマティウス氏の息子のロゼル君。彼はなんというか、すごい貴公子のような雰囲気を持った子だった。同い年ですので、子というのは失礼かもしれないですが、貴族のような立ち振る舞いと、整った目鼻立ち、愁いを帯びている目と、女性受けしそうな要素が盛りだくさんだ。なるほど、相変わらず僕は外見や内面の優れている同性を呼ぶのだね。

 

 

「もしかしたら同僚になるかもね。楽しみにしているよ」

 

「ありがとうございます」

 

「ミスターヴァルター、そろそろ艦のお時間では? 」

 

「ああ、そうですね。本日はお招きいただきありがとうございました」

 

 

きっと、ロゼル君が心までイケメンだったら、また会うでしょう。そんな気がしました。

そして僕は、ここから1週間弱かけて、トランスバール本星に向かいます。快適な宇宙の旅です。最高級の座席に乗ることになれてしまった、自分が少し悲しいです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っていうのが、1週間前」

 

「何ぶつぶつ言ってるんだ? 」

 

「いえ、別に」

 

 

予定通りあの決戦の後は、タクトさんとミルフィーさんを探す……というか連れ戻す研究が最優先で行われていた。能力の関係もあって、カマンベール兄さんはEDENのライブラリーでルシャーティーさんと一緒に。白き月はトランスバールに戻る必要があったから、月の管理者同志で、ノアとシャトヤーン様は白き月で研究をしていた。

その間、パルメザンおじさん、まあ本当はヴァインだけど、彼とノアの機嫌が少し悪かったのは、結婚式でネタにするつもりだ。たまにはいじられ側に回りやがれって話だよ。

 

まあ、ライブラリーの本物のルシャーティーさん管理者と、能力をフルに駆使したカマンベール兄さんが全力で協力した結果、あっという間に組んであった仮説を証明するための資料を見つけた。それを元に、白き月が機材を作って実験をして微調整して。ようやく今日完成した装置を起動するというわけだ。

ちなみに、その研究の過程で、複数の宇宙を示唆するデータが見つかったそうだけど、それはきっともう少ししてから議論されるのだろうね。

 

 

「あードキドキしてきた」

 

「そうですわねーちょうど今日で100日ですから」

 

「長かったような、短かったような、まあいろいろやっていたからあっという間ではあったね」

 

「タクトさん達をお出迎え出来ます」

 

「ええ、成功を祈りましょう」

 

 

エンジェル隊の皆さんも、ここの所それなりに忙しい日々を送っていたみたいだ。ヴァル・ファスク勢力圏の調査団の護衛から、宇宙海賊の討伐まで。もはや、白き月のシャトヤーン様の近衛兵という設定はどこに行ったのだって思うけど、言ったらきっと負けなのだろうね。

ちなみに、タクトさん達を出向かえるにあたって、僕たちは自分の機体に搭乗して、トランスバール本星近くを飛行している。『エルシオール』や白き月も一緒だ。修理が終わったエタニティーソードの調子を確かめつつ、今か今かとその時を待っているのだ。

 

 

「皆、忙しい中、良く集まってくれたことを感謝するわ」

 

「なーに、英雄の御帰還とあらば、この位の箔は必要だろ」

 

 

ノア……義姉さん(こう呼ぶと怒るけど、タクトたちが戻ってくるまで結婚しないつもりだからだと僕は分析している)が、通信を入れて、それにフォルテさんが答える。

そろそろ始まるようだ。

 

 

「理論を説明しても無駄だろうから、いきなり始めるわよ。先に言っておくと、向こうとこっちだと時間の流れが違うから、恐らく向こうからしたら、三か月以上もたっていることに驚くと思うわ」

 

「へー、不思議なところなのね」

 

「そうよ、そうでなかったら、この私がこんなに時間をかけなきゃいけないはずがないもの」

 

 

ノア義姉さんは、相変わらず自信満々にそう言っている。これで、カマンベール兄さんがいない間の不安定さを指摘されたら、顔を真っ赤にして起こった後、兄さんに甘えるんだろうなーと考えると、殺意の波動が沸いて……こない。

身内だからだといいな、本当に。

 

 

「それじゃあ、始めるわよ」

 

 

その言葉とともに、前方に『黒く光る』歪のようなものが出現する。歪はどんどん大きくなり、中心が黒色から白に塗りつぶされ始める。そして、白色の歪の大きさが、50メートルほどになった時、まばゆい光が周囲を包んだ。

 

 

「……な!! なに!?……これっ!」

 

 

その瞬間、僕の体が焼けるように痛みだす。いや、これは痛みじゃない。力が!! 溢れんばかりの力が! 僕に纏わりついてくる!! なんなんだこれ。気持ち悪い! でも不快じゃない訳が分からない。

体中に何かが走っているような、包み込まれているような、そんな不思議な感覚だ。そしてそれは、目の前の光が消えて、ラッキースターが現れると同時に終息した。

痛みはない、でも何かわからないけれど、体中に力があふれている。

 

 

「ただいま」

 

「おかえり」

 

 

周囲では、みんなの注目がラッキースターに集まっていて、だれも僕が漏らした言葉に気づいていない。とりあえず急いで、機体側から自分の体調をチェックしてみると、全くの正常。機体側にも何ら問題がないみたいだ。先ほどのログを見ても、一切異常な値を示す証拠は残っていない。

そんなことを考えていたら、気が付いたら、白き月のお帰りパーティー会場にいた。催眠術とか超スピードとかそんなちゃちなものじゃ断じてなく、ただ呆けていただけだ。

 

 

「どういうことだ……力が溢れている? 」

 

 

あの謎の感覚以来、体が異常に軽くそして力強い。今までも大概の馬鹿力を持っていたのを自負しているが、今は何か違う。意識しないで歩けるのは当然であるように、意識しないで空を飛べそうな、そんな感覚だ。

 

 

「やあ、ラクレット。EDENでいろいろ頑張ってくれていたみたいだね」

 

「あ、タクトさん、いえ僕にできることをしていただけです」

 

「そうか、いやーなんか一回り大きくなった? 」

 

「……いえ、身長は少し大きくなって183cm程ですが……」

 

 

なんだろう、タクトさんは僕の事を見抜いている? 僕もちょっと把握してないのだけど。まあ、この人の直観はおかしいレベルだからね。もう気にしていないけど、すべての選択肢を正解しか選ばない確率ってどのくらいなのだろう。

 

 

「まあいいや、それじゃあ頼むよ」

 

「え? 」

 

「さっき白き月の移動中に担当決めたじゃないか、ラクレットはまたかくし芸担当だよ? あ、同じ芸は2度通じるとは思わないほうがいいよ」

 

 

そんな、いつもながら、また僕が落ちに使われようとしているのがわかる。第三部の終わりでギャラクシーエンジェルという作品の終わりであるこの時期に、そんな、何時もの僕を使ったオチだなんていやすぎる。

 

 

「わ、わかりました。やって来ますよ。ドーンと盛り上げて見せますよ!」

 

「おーし、みんなーラクレットが一発芸をするってよ!! 」

 

 

ワイワイガヤガヤと周囲がお立ち台の様になっている、前方の台の前に集まる。うん、ノーって言える訳ないからね。仕方ないね。まあいいや、実験も兼ねてやってみますか、何かできるような気がするし。

 

 

「1番ラクレット、逆立ち片手親指腕立て伏せ!! 」

 

 

宣言と同時に、前屈の姿勢からぐいっと足で地面を蹴り上げて、倒立の姿勢に。全くぶれなく、綺麗な倒立の姿勢になったので、利き腕の右腕を背中に回す。重心が傾いて、バランスが変わるも、何とか維持。ここまでは前もできた。だから────

 

 

「お、親指だけで支えている!? 」

 

「おかしい人だと思っていましたが、まさかここまでとは」

 

 

親指に力を込めるとあら不思議、体が浮いてしまいました。そのまま、難なく腕立てというか、腕の屈伸運動を開始する。うん、自分でもわからなかったけど、さっきのあの光の時に、超ヴァル・ファスクに目覚めたという説が有力だね、これはもう。

 

 

僕は逆さまに映る、エンジェル隊やタクトさん達エルシオールクルーと、白き月の人たちや、ともかく皆の驚く顔を見ながらそう思った。これからどうなるかわからないけど、全力で生きていこうとね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なんか、綺麗に絞められないし、追記しておこう。

数年後この力のおかげで僕は彼女ができたと。

 

 

 

 

 




完。

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