俺と皇子と嫁の幼女と
本星から脱出し、第一方面軍の護衛とは名ばかりのお飾り艦隊に見送られながら、エオニアとわずかな手勢は、トランスバール文化圏から離れていった。
彼について行った僅かな手勢は全て、追放されなければ処刑は免れないような腹心ばかりである。現皇ジェラールは兄の死後、甥であるエオニアが幼いという理由で、皇位を簒奪した。その結果ここ数代で最も人気のない皇である為に、正統継承者であった、エオニアを処刑するのは国民の余計な反発感情を招くだけであった。故の追放である。
そんな彼らの旅路であるが特に目的はなく、この艦の生命維持装置が切れるまでに、補給ないし、滞在可能な惑星を見つけるくらいである。長期航行用に特化した艦であり、1年は軽く持つ。人員も艦を動かせるギリギリしかいないために、食糧にも余裕はあり、比較的艦の空気は陰鬱などとは遠かった。むしろ敬愛する主君の新天地を見つけるという目標で士気は高く保たれていたのであった。
そんな中騒動を起こす一人の科学者がいた。
「ヴァルター!! 貴様また発明したものを放置しただろ!! 食堂に大量の蟻が発生しているぞ!! 」
「ああ、蟻型の小型ロボットだな。べつに有機物を食べるわけじゃないから気にしなくていいぞ、あれは清掃用ロボットなんだ」
「それが問題ではない!! 外見を考えろ!! 」
カマンベールである。彼は、エオニアのお抱えの研究員であり、エオニアのバックアップのもとに、大量に謎な発明をしては、こういった騒動を巻き起こしていた。始末に悪いのは、本気で困ることと、エオニアが不快になるような事をしないで、妙な成果ばかりあげるので、対処しにくいといったことか。
現にこの蟻型のロボットも、数年後にはいろいろなタイプに改造が施され、多くの場所で運用される事になる。考えても見てほしい、蟻サイズの本物にしか見えないロボットで、精密な動きや命令を請け負うことができるのだ。それだけで色々な利用法が思いつくものである、
そんなある日、カマンベールはいつものように、エオニアのもとへできた発明品を持っていき、簡単なプレゼンを行っていた。
「ふむ……外見を自在に変化させる装置か……興味深いな」
「ええ、これを装着したものは、設定した外見のように周囲からは見えます。体に触られると無効化されてしまうという欠点はありますが、影武者などには適任でしょう」
カマンベールが持ってきたのは、一見するとやや派手で大きな首輪であった。黒い革製のベルトに、銀色の金具がついている。かなりごついものである。大型犬の首輪ですといえば納得できそうなそれだ。
これを装着すれば、事前に入力しておいた画像データのように装着した人物を見せるのだ。欠点としては、あくまで見せるだけなので、身長や体格に無理がある設定の場合は、そのサイズに縮尺が変わってしまい、それを考えた設計が必要であるということ。装置を装備している人物に直接触れると、その人物も対象と機械が誤認してしまうために効果が無効化されてしまうことだ。また、変身中も首輪は隠せないため、犬の首輪をつけている痛い人に見えるというのもあるか。
技術的にはナノマシンを扱えるものであれば、ナノマシンを利用してできる事と大して際はないので、革新的とは言えないが。燃費や持続時間という面においてはこちらに分がある。
「似たような体格のものにエオニア様の外見データを入れて装備させておく。逆にエオニア様が適当な外見になり、周囲に紛れる。諜報や潜入にはリスクも高いですし、使いにくいですが、それは今後の課題ですね」
「うむ、確かにそれなりに使い道はあるようだな。実際に使ってみてはくれぬか」
「そういうと思いまして、エオニア様の外見データをすでに作りこの中に入れてあります。」
エオニアからの好感触をもらい、少々口元がにやけるカマンベール。この艦には予算というものはない。なぜならば通貨が使用できる場所にはいかないからである。しかしそれでもここでエオニアに好感触を得ておけば、使える物資が今後増えていく可能性が高いのだ。手つかずの暗黒領域であるが故に、掘削は容易でも輸送を加味すれば割に合わない為に放置されている資源惑星は、比較的容易に見つかるのだ。
カマンベールは、自分の首のサイズに調整してから、黒い首輪をつける。そして、スイッチを入れると、彼の体が白い靄に包まれた後、優美で細身な体が現れる。エオニアから見ると、そのように見えるのだが、カマンベールには一切何も見えていない。
「ククッ……カマンベール、お前が使うとずいぶん小柄な余が出来上がるな」
「それは言わないお約束でしょう」
カマンベールはエオニアにもう一つ持ってきていたサンプルを手渡しながら、やや不機嫌にそう言う。エオニアの身長は190cmを超えており、かなりの長身である。カマンベール16歳とは30cm以上の差があるのだ。故に小柄で、少々歪なエオニアが出来上がるのだ。体系は二人とも細身なのでそこまでの違和感はないのだが。
「ではいつものように命名を頼みます」
「ふむ……そうだな、『影首輪』でどうだ? 」
「いいですね、シンプルで」
「失礼します」
エオニアが、いつものように、シンプルな名前を付けて、カマンベールも特にこだわりがないので了承していると、そこに何かの報告があったのか、シェリーが入ってきた。手元には今時珍しい紙の書類を抱えており、それなりに重要な件であることは容易に推察できるのだが、カマンベールは自重しなかった。
「父上の副官の方ですね、ご苦労様です」
「な!……え、エオニア様?」
今まで、この艦のどこにいたんだ? や、息子って年を考えろ! だとか、そのようなことを全部放り投げてのからかいのような発言であったのだが、シェリーは引っかかってしまった。普段は冷静でエオニアのことも仕事や安全に関することは、完璧にこなすのだが、こういった方向からのアプローチでは若干抜けているところのあるシェリー。エオニアはなんだか、可笑しくなってしまった。少々この茶番に便乗してみる事にしたのである。
「ふむ……こいつにまで敬意を払う必要はないぞ」
「な、それでは……」
べつに否定も肯定もしない、解釈次第の言葉を意地悪くエオニアは選んだ。まだエオニアが幼かった頃から、シェリーは小言が多かったのだ。嘘をついたという言質を取られるのを避けつつ面白くなりそうなことを言うのである。
「父上、この方が母上ですか? 」
「あ、いや違う……違います、あ、いえ、その、嫌というわけでは、ですが、その既にお世継ぎがいたとあっては……」
追撃をかけるカマンベール、そして何か自爆をし始めるシェリー。場はカオスになった。カマンベールはそろそろ引き際だと判断し、シェリーの混乱を横にこの部屋を後にする。あとはエオニアに窘められて、我に返り恥をかけば良い。カマンベールはそそくさと逃げ出したのである。
そんなカマンベールが、運命の相手と会う、それがこの物語である。
(ここまでイントロです)
注意
この物語は基本的に本編では書けなかった次兄カマンベールの話です。
時間もどんどん過程が省かれ重要な結果の部分だけの更生になります。
要するに、主人公変更して、サブヒロイン攻略する追加ルートみたいなものです。
ファンディスクのようなものです。(つまり超絶ご都合主義)
それでも良いという方はどうぞ。
「どうやらこの天体は、古代の超テクノロジーによって作られたもののようです」
「おぉ……これが、かの古代文明EDENの遺産。ロストテクノロジーか!! 」
「これほどのサイズのものは、私も見たことがありません。ああ、アレを除いては」
放浪の果てに、辺境の惑星を漂う、巨大な人工物の影をとらえ。それから二日間の追跡によりようやっと追いつき補足した。それがこの『黒き月』であった。この天体はまるでエオニアを主君と認めたかのごとく、先ほどとは打って変わって、誘導光を出しその場にとどまっていた。武装も搭載していないようなので、エオニアたちは、ひとまず着艦する運びとなったのである。
ドックのような場所で、エオニア一行は周囲を見渡している。うす暗い赤と紫のライトを主体とした、黒い壁と天井。どこか不気味で無機質に感じるその場所は、彼らがよく知る、巨大な天体、『白き月』と真逆のものであった。
「ようこそ『黒き月』へ、お兄様」
その場でしばらく呆然としていると、どこからともなくこの場に似付かない、少女の鈴のような声が聞こえてきた。
全員がそちらの方向に顔を向けると、そこには中空に浮かぶ、片方の腕が触手のような形状をした10歳くらいの金髪の少女であった。すぐさま護衛役である数名と、シェリーは懐のレーザー銃の照準を合わせる。効果があるかどうかすら不明であるが、ないよりはましであろう。警戒しているという意思が相手に見えればそれで十分なのだから。
「君は一体? 」
「私はノア。この『黒き月』の代表よ。動いているの私しかいないけど。お兄様たちは? 」
「お兄様……ああ、余はエオニア・トランスバール。国を追われて、帰り咲くための策を探していた、そんな人間さ」
謎の少女ノアが、エオニアとフレンドリーに会話をする中、カマンベールは強烈な違和感を覚えていた。彼の能力がそうさせるのか、先ほどから急速な勢いで、この『黒き月』のデータが頭に入り込んでくる。
恐らくはこの『黒き月』はすべての人員が的確にどの場所でも同じように仕事ができる。そのように設計されているのであろう。彼は、この場所からでも多くの情報を知ることができた。全体の見取り図、搭載されている戦力、戦力の生成方法。目的や、製造年月などは不明であったが、それでも一般レベルの権限で多くの情報が手に入った。
そんなことをやっている間に、周囲の人間は移動を始めていた。どうやら、エオニアをコントロールルームである、ブリッジに案内するといっているそうだ。道すがらこの『黒き月』に関する説明をするそうであるが、カマンベールは、こっそり最後尾から、先ほど手に入った見取り図にそって、気になった場所に向かうことにした。
「うーむ……いくら昇降機や移動装置があるといっても、遠いな」
彼が向っている場所、それはこの天体の中心よりやや下にある、コアユニット上層部の空間である。どうやら一定の権限があるもの以外は立ち入りを禁じられているようであり、逆にそれで興味がわいたのである。
先ほど、姿を消したこちらの心配をしたシェリーが連絡を入れてきたので、問題ないとだけ返してそのまま探索を続けているのだ。しかしながら流石に天体を語るだけありかなり広い。何せ大きさは、月のサイズだ。なんだかんだ言って直径数千キロの物体なのである。表面積だけでも、地球のアフリカ大陸と同程度だという計算が、先ほど出ているのである。まあそれを補助する装置はたくさんあり移動自体に疲労はさほど伴言わないのだが
「全く景色が同じなんだよなーどこでも」
そう、どの場所でも、どこに行ってもどこまで行っても、同じような景色が延々と続いているだけなのである。移動するものの精神状態を一切考えていない。これではどこまで進んだのかさっぱり体感ではわからないのだ。
「これを作ったやつはまるで機械みたいなやつだな……っと、ついたか」
そこにあったのは重厚な扉である。黒く分厚いそれは、来るもの全てを拒否しているどころか、知らないものがい見たらそもそもこれを扉ではなく壁と認識そうなほどであった。
カマンベールは壁に触れて意識を集中させる。すると、この壁を開くには、インターフェイス以上の権限が必要だということが分かった。カマンベールは、ここから一旦中央のブリッジにあるコントロールルームを経由してもう一度アクセスしてみようとするものの、やはりは弾かれてしまう。
「なんだよ、ここまで来たのに、開かないのかよ」
イラつきながらそういうカマンベール。その場を後にしようかと思い振り向きながら、無駄足を悔やもうと思った瞬間、ふと頭の中に何か強迫観念のように、もう一度やってみようという考えが浮かんできた。カマンベールは、もう180度振り向き、扉に手を合わせる。
「……なぜかわからないが、俺には、開く確信がある。そう、開かないのがおかしいという考えがなぜかね」
そう呟きながら、また意識を扉に集中させる。すると、先ほどのインターフェイスに似た少女が脳裏に一瞬浮かぶ。そのイメージをつかみ離さないようにしようと、頭の中で手を伸ばしたら、するりと、手元に鍵が魔法のように現れた感覚で、ドアを開くことができるようになっていた。
「なんだこれ? というか、さっきまで俺は何をしていた? 」
浮かぶ疑問は多い、先ほどからのこの感覚や、自分の行動の不可解さ、しかしそれ以上に、このゆっくり開く扉の向こうへと、強く引き寄せられる魔性の引力めいたアトモスフィアは実際大きかった。
「まあ良い、先を急ぐか」
カマンベールはひとまず、せっかく開いたこのチャンスを逃そうとは、考えることはなかった。元々、自分でもよくわからない理由でここに来たのだが、動機はこの中に入ろうと思ったからなのだ。彼自身も理解できていないが、ともかく、なんで開くかはわからないが、この場所に来たかったのである。
今までと同じように、病的なまでに等間隔に配置されている赤紫色のライト。そんな廊下をしばらく進んでいくと、目の前に今まで見たことのなかった、兵士ドローンが配置されていることに気が付く。
大凡のスペックは既に、先ほどのアクセスで確認しているので、データ上は知っているものの、ここまで来て配置されている実物を見たのは初めてである。それだけ重要な区画なのであろう。自分をすでに射程距離に入れているのに、全くのアクションがないので、それに関して信頼性を疑うべきなのか。それとも、自分がきちんとここの一定の権限を入手できたと考えるべきなのか。前者ならば、今後の対策は必須であるし、後者ならば、今後やりたいことが急激に増えるであろうことは容易に察することができる。
そんなことを考えながら、カマンベールは廊下を進んでいく、途中2室くらい中規模な研究用と思われる部屋と私室と思われる部屋が見つかったが、それよりも重要と考えられる、この廊下の先へと歩を進める。王宮への回廊を歩いているような気分になるが、むしろ先に待ち受けるのは冥府のほうが正しいであろう。
何せここは、彼や、一般的な皇国民から見て、現存するどのような艦よりも強力な戦艦を容易に量産することが可能な兵器量産工場なのだ。その最深部など、何がいるのか予想もできない。
廊下の月当たりの扉を開くとそこは、まるで尖塔の中のように、円柱状の構造で、下へと、このようなハイテクの中で、螺旋階段で続いていた。
手すりすらないその中を慎重に降りていくカマンベール、中心部からぼんやりと赤い光が照らし、壁側に大きな影を作る。そして、何とか最下層までたどり着くと、そこには、さらにもう1枚の扉が存在した。
「どうやらこの奥のようだな」
彼が惹きつけられていた何か、それがこの奥にいるということをなぜか彼は確信した。扉に近づくと、ゆっくりと横に開かれる。その隙間から、強烈な赤い光が差し込んできており、まるで地獄の門があいたような、そんな感覚だ。
とっさに目をつぶり、手で顔を覆う。そしてしばらくして目が慣れてきた彼の視界には、高さ数メートル幅数メートルの巨大な紅い宝石が眩いばかりの光を発していた。そしてその中には、10歳ほどのどこかで見たことのある少女が死んでいるかのように眠っていた。
「なんだ……これは……」
カマンベールはすぐさま、自身の能力の対象を目の前の宝石のようなものに絞って発動する。すると、目の前の少女は厳密には物体として存在していないことがわかる。どうやらこのクリスタルは、体の情報をすべて、分解し情報化して取り込むもののようだ。そして、ここから出る時には、その情報を元に体を再構成する。
そう、原作版どこでもDoorとおなじである。そういった代物のようだ。それは果たして、今までの自分と同一人物と言えるのか疑問な装置ではあるが、これ自体のレベルの高さはわかる。
彼も数年前に似たような研究をしていたからだ、ちょうどエオニアが訪ねてきたころのテーマであった。そして、さらに解析を続けていると、驚くべき事実が頭に入ってくる。
「稼働時間615年だと……だが、再構成された回数は1度もない……この少女は……まさか……」
この装置は615年前に一度使用されて以来、一度も再利用されていないのだ。そう、その事実は、目の前の少女が、それだけ前の時代の人間であるということの証左だ。そう、今や一種のオカルトのような扱いである先文明EDENに関する、いや、EDENの時代の人間であるのだ。
「この宝石の中でも、設計上は意識は保つことはできる。宝石をコンピューターに見立てると、内蔵されている人工知能のような存在になるように……しかし、彼女はそういった状態にもない、完全なコールドスリープ……いや、これは仮死状態に近い。あのインターフェイスはおそらく彼女自身が彼女の情報をもとに再構築したものだろうな」
推論で、かなり真実に近い仮説に辿り浮いたカマンベール。この少女には、彼にとって不思議なまでの魔力があった。そう、非常に魅力的に見えるのだ。宝石の中でずっと眠り続ける少女、気分はまるで、スリーピングビューティーの王子様である。しかし彼にとって、その目覚めのキスをする機会は今じゃなかった。
「……エオニアについてきた意味は、ここにあったかもしれないな。だが、さすがに今ここでエオニアとの関係を切るわけにはいかないであろうな」
エオニアからすれば、ようやっと野望への第一歩を踏み出した所なのだ。
これから彼は、この兵器製造機能を利用できるように、無人の資源惑星をひたすら探す旅に出るであろう。そして無数の艦隊を制作し、皇国へと帰還するのは素人でもわかる事実だ。今すぐに彼女のことを研究するのは、現実的に考えて不可能であろう。
まずはこの、一新した環境で、エオニアからの信頼を得る事。それから始める必要があろう。正直に言って、カマンベールには、このような兵器工場を手に入れたエオニアが、トランスバール皇国軍に負けるイメージが見えなかった。おそらくだが、これは白き月と対となる物体であろう。そして白き月は、兵器工場であったという事実はなかったはずである。彼の考えでは、これは人間の矛であり、軍事を担当するもの。白き月は、盾であり、人間を生活を助ける技術を象徴しているものだというものである。
この仮説は間違っているのだが、実際に白き月は、兵器工場としての機能を300年以上封印しているのだ。仕方のないことであろう。
話を戻そう。エオニアはおそらく、皇国で皇に返り咲くであろう。これだけの装置を味方につけたのだ。天が彼に味方をしていると考えて差し支えなかろう。ならば、どうするか、彼の信頼を得てより関係を密にしていく必要がある。
ここから覗ける司令室の様子を見ると、エオニアはインターフェイスの少女に夢中のようだ。彼の興味はおそらく、彼女から与えられる兵器工場としての機能に集中するであろう。もしかしたら、この月のコアにある主砲の存在に気が付くかもしれないし、この部屋の存在に気付くかもしれないが、それまでだ。この部屋に何があるかはおそらく気が付かないであろう。
「となれば、まずはこの部屋の……いやさっきのでかい扉の権限をいじって俺以外はいれなくするか」
彼は今後の予定を急速に考えていく。まずエオニアと協力し良い関係を気付くのは前提だ。彼は曲がりなりにも、専制国家の皇だ。謀反の兆しを見せたならば、比喩ではなく首が飛びかねない。
しかし、すべてを明かして、自分はこの少女と一緒に暮らします。でもだめだ。彼女には、彼女の考えがあって、自らを眠りにつかせたのだ。恐らく余程のことがあるか、設定された条件が整わないと、目が覚めないのであろう。仮に彼女を起こすことができても、自分が彼女の興味を覚えるかどうかもわからない。ならば、理想は、彼女と同じように、彼女が目覚めるまで自らも眠りにつくことであろう。そう、この短時間でそれほどまれに彼女に魅了されてしまったのだ。
運命の人や赤い糸なんて、年ごろの女性の妄想であろうなどと考えていた彼が、まさにその運命を信じなければいけないような事態にあるのだ。そう、まるで『世界にそう求められているように』
「よし、俺はここで暮らそう。さっき会った部屋はきっと彼女が航行が軌道に乗るまで過ごした部屋であろう。レーション製造機もあったしな。ここは、俺だけが能力によって入れる。ほかの人間はドローンに殺される。とでもしておくとするか。定期的に研究成果を上げれば納得するであろうな、エオニア様は。そうだな……前世で作った遠距離操縦できるAIでも作るか」
こうして彼が、ものすごく都合のよい考えに誘導させられていく。
それが、自分の意思によるものなのか、何者かによるものなのか
彼が気付くのはしばらく後になる。