僕と兄貴と銀河天使と   作:HIGU.V

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本編とは違う前提条件
ラクレットはミントのことが好きである
ファーゴのイベントから立ち直って以来、微妙にアプローチを続けていた。
その後なんだかんだあって仮面婚約者になった。
実際はお互いデレデレなんだけどね。
詳しくはIFEND2  ミント編を参照

詳しい時期とかを考えると、矛盾が起きそうなのでおおよそ
・『タクト帰還から、ラクレットの離船までで、少し時間的余裕ができた頃、EDEN 主体で『エルシオール』が活動していた時期』
・でももうすぐ婚約解消という感じの時期
とだけ。ようするに『仕方ないね』の赦しの精神が必要です。
あと若干メタいです。

それでも大丈夫な方はどうぞ
基本ネタですよーっと



続 IFEND2  ミント編

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私としては信じられませんが、ラクレット・ヴァルターという少年は、非常に女性から人気ですわ。

EDEN解放の立役者の一人で、有数の資産家の家系で本人もかなりの財を成している。原始的ですが、腕節という面でも白兵戦、戦闘機戦共に銀河最強と言っても否定する人物は極々稀。精々人類最強を議論している人たちだけですわ。

その彼の唯一といって良い難点であった外見も、最近は身だしなみに気を遣うようになってきたのか、幾分か解消されてしまいました。顔の造形も成長期なのか、出会った当初よりもどんどん男らしい彫りの深い彫刻のような様相になってきましたわ。ええ、まるで美術館に展示してある、先文明時代の英雄像のような……コホン! 脱線しましたわ。他意はありませんわよ、ええ。

 

ともかく、私がスキャンダルを防ぐために『婚約者』(風よけ)に近づく家柄目当ての女を全て門前払いさせているといいますのに、婚約破棄が近いからと言って、プライベートで個人的に御近づきになりたいという、頭のねじどころか、CPUとグラボが丸々破損している女性が増えてきていますの。全く、あんな甲斐性なしの何処が良いのでしょうか? 半年どころか、1年たっても自分から手も握れないような男ですのに、タバコ臭くはありませんが。

まあ、本人が私にしつこい位に私に迫ってくるわけで、そういった女性はすぐに諦めるわけですけど。ざまあみろですわ……コホン! 何か?

 

そんなラクレットさんに、どうやら不可解な噂が最近流れていますわ。

『ラクレットに彼女ができた』『婚約者の暴君ぶりに嫌気を指して、愛人を作った』

なんて、不名誉で根も葉もない噂でしょう!! 憤慨ですわ。特に二つ目! 婚約者が暴君などの噂が流れるなんて心外にも程がありますわ!! ただちょっと、私の気分が向いたときに呼び出したり、私以外の方と話しているときに、用事を言いつけたりとしただけですわ!! あの人は、私に好きだって言わない癖に、何のうのうとクロミエさんや、レスターさん、ランファさん、ヴァニラさん、ちとせさん、フォルテさん、ミルフィーさん、ココさん、アルモさん、クレータさん、ケーラ先生とばっかり話しているのですから!! オフの日は貴重だというのに、そのせいで私の部屋で10時間位しか一緒に居られませんわ。

思い出したら怒りが再燃してきました、ですがここは堪えて。ともかく、この根の葉もない噂を確かめるべく、ラクレットさんの行動を監視することにしますわ。ええ、このような不名誉な噂が、私と私の婚約者にあると、風評が傷ついてしまうので、その対策ですわ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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ラクレットが一言ミントに好きと伝えないがために、少々最近不安定になってきていしまっているミントはおいておくとして、ラクレットは現在、艦外に定期的に連絡を取り合っている女性がいた。

それだけで十分驚愕の事実であろうが、相手が相手だけに無下にできないのが問題であった。

 

 

「ねぇねぇ、ラクレット君。私、ネフューリアの時の事もっと詳しく聞きたいなー」

 

「えーと……軍事機密に抵触すること以外は、全てお話ししましたよ……フィグ先輩」

 

「リーナでいいって、言ってるでしょーもう」

 

 

彼の正面に座っているのは、リーナ・フィグと呼ばれる女性だ。大手出版社に勤める記者である。ラクレットの通っていたガラナハイスクールの先輩であり、ハイスクールへの在籍期間が1年半のラクレットは最初の1年、彼女と同じ教室で幾何学の講義を受けていた。その間に1度か2度宿題の答え合わせをした程度の仲であった。

 

容姿はラクレットの知り合いだとランファの胸を若干削った感じに近いと、すごい考察をしている。一般的にモデル体型というのだが、ラクレットには全くその手の知識がなかった。今はよく言ってもペド野郎だし、仕方ないね。身長は高く、全体的にすらりとしている、手足も長く顔の造形も整っている。そんな女性だった。

 

そんな、ほぼ他人といっても差支えない彼女は現在、EDENへとやってきた皇国民間人の第一陣である。20歳にして記者として一流と呼ばれるまで彼女は実績を積んでいる人生の成功者の一人なのだが、EDENに来てEDENの記事を書こうと探索していたところに、ラクレットと遭遇したことは、彼女の運が凄まじいというべきなのか。

それ以来、半場無理矢理連絡先を交換し、このように定期的に呼びつけて話をしているのだ。

 

 

 

おしゃれな喫茶店で、ラクレットと二人で。

 

 

 

 

 

 

さて、今回は、ミント編の完結編をそういうお約束で始めさせてもらいます。

ミントさんはデレデレにまでなるでしょうか? お付き合いください。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、どうしましょうか……」

 

まずは情報収集だと決めたのは良いが、本人に聞くわけにもいかず、最初から二の足を踏んでしまう結果となっていたミント。最近体の変化が著しく、歩くと強烈な違和感が彼女を苛むので、長距離の移動はしたくないのだが、ラウンジに向かうことにした。

大仰に書いたが、実はミントにとって喜ばしいことに、ここ半年程どうにも全身の節々が痛く、洋服を着ていると、窮屈さを覚えた。その為ケーラ先生に診断してもらったところ『成長痛』だと宣告されたのだ。

どうやら、本格的に恋の病に落ちてしまった為、精神的な変化が、体にも影響を及ぼしたとか(ケーラは本人に言うと怒るので、一緒に来ていたエンジェル隊に伝えた)。元が6歳児程度の体躯だったのが、一般的なロリキャラくらいになったというレベルであるが、それでも彼女からすれば、成長したことそれが嬉しいのだ。このまま、スタイルが特に胸まで大きくなればと思うミントであるが、残念ながら妊娠するまでその夢はかなわなかった。

 

元々彼女はファンからの『ミントを成長させないでほしい』という声で身長が変わらなかったわけであり、二次創作で大きくなっても多少は許されるであろう。外見がひんぬーでロリキャラなのは変わらないのだから。一発アウトがギリギリアウトになったようなものだ。

閑話休題、ラウンジについた彼女は運の良いことに、エンジェル隊のランファとちとせの二人と話している、ラクレットを見つけたのであった。

 

 

「なによ、ラクレット。あれだけミントミント言っていたのに、彼女居たの? 」

 

「……浮気はどうかと思いますよ。ラクレットさん」

 

「いえ、ですからね……」

 

 

タイミングの良いことに、まさにその話をしているようだ。少し離れた席に自然につく。こういう時は人ごみに紛れやすい自分の小さな体に感謝である。幸い気配察知に鋭い二人がいるのに、気づかれていないようだと安堵して、耳を傾けることにする。

 

 

「フィグ先輩は、確かに綺麗な人です。スタイルも良いですし背も高い、家事もできて気配りはできるし、仕事に関しても非常に有能。年は20歳と僕より上で、年上が好きな僕からすれば、そういう邪推されることも仕方ないでしょうが────」

 

「アンタにしてはすらすらと良い点が出て来るじゃない、何、冗談じゃなくて本気? 」

 

「そういった女性が好みでしたか、それでも二股は倫理的に……」

 

「ちとせさん、さっきから風評被害を受けそうなことを言わないでください」

 

 

なにか、琴線に触れるものがあるのか、二股疑惑を徹底的に追及してくる始末だ。もちろんランファはわかってやっている。ラクレットは絶対浮気できないタイプであることを知っているのだ。まず自分自身に正直であり、遊び慣れていない。つまり好きという感情を向けることに抵抗がないが、誰彼構わずというわけではない。本当に何かの拍子で誰かを同時に好きになってしまったら、それこそ目で見ればはっきりわかるくらいの憔悴を見せるであろう。何よりも一番恋愛相談に付き合ってラクレットの財布でお菓子とお茶を楽しんでいるのは彼女だ。

 

今回ランファは、あまりにも自分たち以外への関わりのないラクレットが、そういったアプローチを受けてどうするのかという反応を楽しんでいるのだ。もちろん最終的にミントの方に行くのはわかっているが、それでは面白くない。

立場的には二人の見方だが、最近ミントの我慢が限界になってきていることを察しているので、いつも獲物に絶対牙を立てない狩人に『追いかけられては逃げて』をしているミントが、狩人が別の獲物に目移りした(という風に錯覚した)場合どうなるかの反応を見たいのである。

何度かアドバイスしても、その単純さと一途さ故に、ラクレットが今まで絶対にできなかった『押してダメなら引いてみろ』を偶然にも行っているのだから、これは良い見世物であるのだ。

故に、より揺さぶりをかける事にする。

 

 

「それにしても、アンタがああいうタイプも行けるなら、私も立候補しておけばよかったわ」

 

「……え? 」

 

「え? ラ、ランファ先輩? 」

 

 

遠くの方でもティーカップをひっくり返したような音がしたのを、笑みだけ作って気にせずにランファは続ける。

 

 

「だって、あんたってお金もあるし、身長も十分あるし、強いじゃない。顔は……まあ良くはなってきたけど男らしいという方向よね、格好良さというより。妥協できる範囲ギリギリまであと少しって感じね。どう? 」

 

「いや、どうと申されましても、ランファさんは非常に御綺麗な女性で、それでいながら可愛らしい側面も持っておられる素敵なお人ですが、いえ、だからこそ妥協は似合わないのでは……」

 

「そ、そうですよ、ランファ先輩!! ラクレットさんは浮気疑惑があるとはいえ、婚約者がいるのですよ!! も、もしかして略奪愛ですか!? に、日記に書いておかなくては」

 

 

少々からかいすぎた気もするが、ラクレットからの脈がないことを確認したランファ。ちとせは暴走を始めてしまったようでフォローが必要だが、それを今は頭から外して考える。

自慢ではないが、フィグという女性を一度見た結果、年齢の為大人の魅力という点では向こうに軍配があるかもしれない。だが、それ以外では間違いなく自分が上であろう。容姿とスタイルならば特に。有力な筋からの情報でラクレットはメリハリのある体系のほうが好みであるという事実を知っているランファなのだ。そんな彼女がやんわりとお断りされてしまったのだ。

(コイツ、本気でミントが好きなのね)

改めてそう思うランファ。エルシオールクルー達が持つ、共通の運命共同体である。という仲間意識もあり、なんだか嬉しくなってしまう。まあ、ミントにはいい薬になるといいわねと思うのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな平和な終わり方ですまないのがミントだ。

自分が心を読めるのだという事をすっかり忘れて完全に錯乱してしまっている。

 

(ラ、ランファさんが、ラ、ラクレットさんを。きょ、強敵すぎますわ!! )

 

ミントもとある筋からの情報で、ラクレットが実は巨乳で少しばかり太っている抱き心地の良い女性が好きだという事を知っている。現実世界から見て2次元の標準体型くらいの娘だ。ランファは何を食べたらそうなるのかわからない位、余計な肉がついていない奇跡のような体型で、好みと完全一致してはいないが、少なくとも自分よりは近い。

 

(き、緊急事態ですわ……即急に対策を講じなければいけません)

 

お約束だが、あとの話は聞こえていないし、冷静に考えていないし、声のトーンと前後の話から察せていない。外伝だからね、ご都合主義なのは仕方ないね。

ミントはすばやく会計をすませて、自室に戻る。どうにかして攻め手を打つ必要がある、その作戦を練る必要があるであろうと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラクレットが、いつものようにシミュレーターで訓練を終え、最後に遊びがてら自機のエネルギーを無限に設定し、敵の構成を母艦20とエオニア、ロウィル、ゲルンの旗艦にしてそれを15分ほどで葬ったりした後、幾分か前の改修で設置されたシミュレータールーム横のシャワーで汗を流していた。

このシミュレータールーム自体がエンジェル隊とラクレット専用の為、利用頻度は低かったのだが、女皇陛下や上層部の計らいで、シャワールームが増設されたのだ。これにより、トレーニングルーム近くの更衣室まで行かなくて済むようになったのだ。最もシミュレーターで汗をかくのはラクレット位なので、実質ラクレットの為のシャワールームといって良い。

事実、シミュレータールーム横の小部屋を改装しただけで、2,3人用の小さなものだ。それでも、訓練の直後にシャワーが浴びられるのは有難く、本当はだめなのだが着替え一式を常備し、私物化していた。

 

 

「ん……? 髪が伸びてきたかな?」

 

水にぬれると、青っぽさが少しだけ増す自分の黒髪をつまみながら、ラクレットはそう呟く。最近忙しく散髪をしていないのだ。ここ最近は元々のツンツンヘアーから、数センチで切りそろえる短髪にイメチェンしたのだ、楽だったので。

 

さて、男のシャワーシーンをいくら描写しても作者しか楽しくないであろう、俺は別にホモじゃないけど。なので、状況を進めよう、俺は別にホモじゃないけど。

 

最初にラクレットが覚えたのは強烈な違和感であった。シャワーの水音だけではない、なにか物音がするのだ。現在シャンプーをしているので、よく見えないのだが、脱衣所のほうに人影が見える気がする。

敵意は感じないので、清掃係と時間がかぶってしまったのであろうか? しかしいつもならば、あと2時間はあるはずだ。そんな風に疑問を覚えつつ、万が一の場合は即応出来るように、タオルを腰に巻くラクレット。この判断が彼を救った。

 

 

「お、お背中を、お流しますわ……」

 

 

小さくドアが開いて現れたのは、薄青い髪。小さく水音を立てながらもじもじと恥じらうように近寄ってきた、ミント・ブラマンシュその人であった。

 

 

「────ッ!!」

 

 

声にならない声を上げるラクレット。そして瞬時に、入り口に側に背を向けた。まずこのシャワールームは別に男女に別れていないので、ミントが来ることには何の問題もない。一緒に入ることには、問題があるであろうが。ラクレットは着替えなどを自分の目線の高さにおいたので、ミントはラクレットが入っている事がわからずに来た可能性もあったであろう。60cmの身長差は伊達ではない

 

最も、前述のセリフがなければだが。

 

ミントは意図して入って来たのだ。そんな彼女の格好はバスタオルを胸のところから巻いているものである。あのバスタオルが取れたらどうなってしまうかをラクレットは考えただけでやばそうなので意識から強制的に外す。実際には保険としてチューブトップの水着を着ているのだが。

 

なぜミントがこんなことをしたのか。それはいろいろ考え過ぎた結果である。もっと攻勢に出るにしても別のところがあったであろう。素直にとはいかなくても、理由をつけて抱き付いてみたり、アイスティーに睡眠薬を入れてソファーに寝かして色々したり。

だがまあ、考え過ぎた結果こうなってしまったのだ。ちなみに彼女の中のプランとしては

 

『バスタオルで乱入→背中を流すためにラクレットを屈ませる→背中を流している間に、ハプニングとしてバスタオルが外れてしまい、驚きの声を上げる→ラクレットがつられて振り向いたときに水着を見せて、何を想像していたのかを煽って上に立ちつつアピール』

 

であった。突っ込み所が多いのは気にしてあげない。参謀がいない結果こうなってしまったのだ。でも16歳の女の子が好きな人に意識してもらうために一生懸命考えたって考えれば何でもありだよね。

 

 

「ら、ラクレットさん……?」

 

「いえ、そんな、疑問符はこちらのセリフですよ!? ミントさん何をしてるんですか!! 背中なんて僕一人でも流せますよ!? むしろ僕がミントさんの背中を流すべきなんじゃないでしょうか立場的に!? あ、もちろん柔肌を見ないように目隠しでも何でもしますよ、あれ? でもその方がむしろご褒美な気がします。ああ、もう!! ミントさんはもう素晴らしいですね!! 」

 

 

思考と口が直結してしまっているラクレット、完全に焦っている。しかし本能的にミントに恥をかかせてはいけないとわかっているのか、ラクレットは膝をついて背を向ける。

ミントは、暫く悩んだものの、ここまで来たら自棄だと、ラクレットに近づく。持参して来た洗面器を脇において、準備を始める。どこのトルコ風呂だ。こんな娘がくるなら迷わず行くであろう。俺は行く。

なお、ミントはさっきからずっと、胸元の少し下にいろいろ入った洗面器抱えている。非常に愛らしい格好をしていた。画像だけ切り取りセリフをつけるとすれば、『パパ~緒にお風呂入ろ~』が一番しっくりくるかもしれない。

 

さて、絶体絶命であるラクレットだが、奇襲側のミントも、予想外の攻勢を受けてたじたじであった。思い出してほしいラクレットの過去を。こいつは『一度もエンジェル隊と海で遊んでいないのだ』

個人的にクジラルームで訓練の為に泳いだ事は数度あるが、全てクロミエと二人。ミントと婚約者になってからも、どこかにデートへ行くという事は職務上なかった。そんなラクレット、水着を着ていたのを見られたのは 本編でルシャーティとタクトの意図的な偶然の出会いを妨害するためのみである。その場にいたミルフィータクトルシャーティに非常に強烈なインパクトを与えただけであった。

 

そう、ミントからしても、ラクレットの鍛えられた鋼のような肉体を生で見るのは初めてなのだ。最近男性の筋肉とかたくましい姿にドキッとする事が、増えてしまったミントである。昔は男性の外見には特に頓着しなかったのだが、テレビや雑誌などでふと格好良いと呼ばれる男性を見た時に『誰か』と比較して、筋肉が貧相で弱っちい。などと結論付けてしまったり、美術館の英雄達の彫刻を見てうっとりしたりしてしまう。そんな彼女だが、実物をこんなに間近で見るのは初めてである。

ミントの前に聳え立っているのは、自分の倍はあろうかという横幅の筋肉の塊だ。同性同士でシャワーを浴びる時に見るものとは全く違う、ゴツゴツとして日焼けのため若干浅黒い皮膚である。

 

 

「そ、それでは失礼しますわ」

 

 

泡立てたタオルで背中をこすり始めるミント。右手のタオル越しに感じる硬さを非常に意識してしまう。バランスが取れずに、左手で直接背中を触ってしまう。

 

(熱い……それに、すごく硬いですわ……強いラクレットさんの匂いがしますわ)

 

シャワーで熱せられた背中は非常に熱を帯びていた。それ以外にも理由はあるのだが、ミントはそんな感想を覚えつつ、何とか言葉を口にする。

 

 

「か、加減はいかがですか? 」

 

「ああ、はい。もうちょっと強くても大丈夫です」

 

 

非常に近くにあるラクレットの裸身で、割と一杯一杯のミント。それとは対照的に少し余裕の出てきたラクレット。ラクレットから見て、背中側にはバスタオル一枚のミントがいて背中を流してくれている。天国のような状況だが、それだけだ。

 

(僕はいつもこの女神と一緒にいるじゃないか)

 

そう、ラクレットは休みの日は1日10時間『は』ミントの部屋に拘束されるのだ。もちろん嬉しいのだが、最近少し無防備になってきたミントに対して、自制するのに妙に力を使うのだ。ミントは稀に本を読みながら日頃の疲れが出たのか寝てしまう(寝たふりなのだが彼は知らない)。それをベッドに抱き上げて移したり、ソファーでうまく自分の肩が枕になるようにしたりするが、けしからん事にその時にスカートがまくれあがったりしてしまうことがあるのだ(こっちはわざとじゃない)そういった、生活のちょっとした時で培われた自制心を使っているのだ。

直、このラクレットは好きな人が早い段階から居た為に、性欲の減退がないです。

 

故に、姿が見えない今は少しばかり余裕があった。やがて背中を洗ってもらい流した後、今度は自分で、上半身の前側を洗う。足などは下手するとタオルが落ちてしまうので、とりあえずだ。

急いで洗い終え、シャワーで流してミントのほうへと向き直ると、ミントは呆けた様子でラクレットのことを見ていた。ミントのフィルター越しにラクレットのシャワーシーンを間近で見たのは、彼女を呆けさせるのには十分だった。もう本当お前ら早くくっ付けよ。

 

 

「ミントさん? 」

 

「え、あ、はい? 」

 

「あの、僕上がりますので……」

 

「あ、そうですの? 」

 

「……大丈夫ですか?」

 

 

反応が遅いことを、のぼせてしまったのかと思い心配そうに話しかけるラクレット。そうは言いつつも、さすがに大丈夫であろうと、この場から逃げる一心で先に脱衣所に戻るのであった。

一方でミントは気が気ではなかった。先ほどまで完全にラクレットに見惚れていたのが、ラクレットにばれてしまったかもしれないと杞憂していたからだ。何とか我に返り、せっかくだからとバスタオルをとって冷水を頭からかぶり、頭を冷やす。

 

 

「失敗ですわ……でも、ラクレットさんの背中、温かかったですわね……」

 

 

反省会は長引きそうであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数日後、ラクレットは正式にフィグに対して、これ以上の接触を避けてもらうようの旨を記したメールを送った。婚約者が良い顔をしないだの、興味がないだのとあることないこと書きながら。もちろん単純な取材には、正式な手筈を踏めば快く答えるが、これ以上話せることは機密の保持上ないともしっかり書いた上でだ。

 

結局彼女は、ラクレットというビジネス面で非常においしい存在と近づきたかっただけである。プライベートとしてもラクレットと仲良くなりたかったかもしれないが、それはラクレットが好きではなく、英雄ラクレット・ヴァルターの彼女である自分が好きだったという事だ。

 

まあ、それは些細なことだ。さて、イレギュラーな出来事の熱が冷めれば人は平常通りの思考を取り戻し、その間の行いを反省するものだ。この場合はミントとラクレットであろう。

 

まずラクレット。彼は今回の件で改めて自分の気持ちを再認識した。美人であったとはいえ、自分が好きでもない女に付きまとわられても、全く何も感じずむしろ迷惑すら覚えたのだ。

ある意味で、大きな前進であった。彼はミントのことが好きであったが、ここまで人を好きになることはなかったので、自分の気持ちに確信が持てなかったのだ。これは、どういった感覚が、どういった名称なのかを他人に確実に伝達する方法はないという事と似ている。子供がちょっとぶつけただけで骨が折れたかもと心配するのと同じだ。彼は好きという気持ちの明確なケースがわからなったのだ。

自分では好きと言える、だが、それは本当に世間一般でいう愛情なのか? 自分はミントに大切なものをもらった、それゆえの恩や親しみによるものなのではないのか? 一人眠れない夜になると、そんなことを考えてしまうことがあったのだ。

だからこその今回、女性にアプローチを仕掛けられて、それが本質的に彼を見てないにしても、不快と感じて、ミントの事しか考えられなかったのだ。ラクレットはこれをもって自分の気持ちの証明とすることにした。

 

今まで直接的に本人に好きと言えなかったのは、この確信がなかったからだ。そう、ラクレットはミントに好きという事を決意したのである。

 

 

 

そしてミント。今回彼女は自分の行動の浅慮さを猛省した。少し考えればわかりそうなことなのに、いくつも重要なことを見落としてしまったのだ。特に何が『お、お背中を、お流しますわ……』だ。顔から火がでそうになる。

もう少し反省するべきですわ、冷静さを心掛けて、無駄な恥をさらさないようにするべきですわ。

そうミントは固く誓ったのだ。疑り深く生きようと。

 

 

 

さあどうなるでしょうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ある夜、ラクレットは珍しくミントを自室に呼び出していた。実はミントのことを好きになったのは、この部屋でミントに頬を張られて、説教されたからなのだが、それは外伝なので別の世界線の本編を読めばわかるよね。的なノリで流しておこう。

 

だからこそ、あえて自室に呼び出したのだ。

ラクレットの格好はあの時と同じではない。さすがに学生服は体に入らないのだ。軍服を着こんでいる。変に気取ったところを見せないために、式典用のではなく普段着るものだ。

 

深くソファーに腰かけて、もう何度繰り返したかわからないシミュレーションを頭の中で再生する。

 

『(まず、ミントさんを呼び出して席についてもらう。この時にどこに座ったかで僕の座る位置は変わるが、今回は正面の席に座ったと仮定して行おう。その後この前ミントさんが交渉の難航していた所に、僕の名前を広告として使って良いと言ったらよい返事が期待できそうになっていたという業務報告を行う、その時のミントさんの反応が好意的だった場合は22aに、興味なさげに本題をせかしている場合は14bに(以下略))

 

 

シミュレーターでの旗艦撃墜王もこうなれば形無しである。というか、そういう綿密な計画というのは、立てれば立てるほどにうまくいかなくなるのだ、本当に些細なイレギュラーのせいで。

 

『(~~中略~~そして、その場合、ミントさんの発言にチェーンして~~中略~~スタックして袖に隠しておいたカードを~~中略~~そして「好きです」と告白~~中略~~二人は幸せなキスをして終了)』

 

そんな風に入念なシミュレーションを行っているから気づかなかった。

 

 

 

 

「あの? ラクレットさん? いきなり呼び出して何の用ですの? 電気もつけずにソファーに座り込んで」

 

 

目の前に既にフリーパスで入れるミントがいたことを。彼女は呼び鈴を押さずに、お邪魔しますわとだけ告げて、上がり込んだのだ。ラクレットが座らせようとしていたのは食事用のテーブルの椅子だが、ミントは既にラクレットの座るリビング部分のソファーの隣に腰かけて、袖を引っ張りながら、ラクレットを揺らしていた。シミュレーション終了のお知らせだ、二重の意味で。

 

 

「え? ミミミミミミミミミントサン!? 」

 

「そのような名前ではありませんわ、落ち着いてくださいまし」

 

「アイエエエエ!? ミント=サン!? ミント=サンナンデ!?」

 

「ですから、落ち着いてくださいませ、別にとって食いやしませんわ」

 

 

もう駄目駄目であったのだが、何とか落ち着くラクレット。最近購入したヴァル・ファスク専用の体の血流を操作し強制的に自分の意識を操作する器具を使い、冷静さを取り戻したのだ。

部屋の明かりは、既にミントの手によって点灯してあるが、隣で突然ラクレットが紅く輝いたため、少し驚いてしまうミントであった。

 

 

「すみません、取り乱しました」

 

「いえ……それで、どういったご用件ですの? 私、最近夜はなるべく早めに寝るようにしていますので、手短にお願いしたいものですわ」

 

 

前までならば後半の言葉はなかったであろうが、若干疑り深くなってしまっているミントは半場無意識的にそう口にしてしまう。最も内心では、夜にラクレットの部屋に呼び出されてドキドキしている部分はあったのだが、当然顔には出さない。

逆にラクレットは、初手どころか二手目まで取られたようになってしまうが、今までの洗浄を思い出し、何とかこらえる。これ以上に厳しい戦場『いくさば』は無数にあった。

 

 

「はい、そのですね……もうすぐ婚約解消ですよね、僕たち」

 

「……そうですわね、いい風除けでしたわ。私も独り立ちしますし、ちょうど良い機会ですわね」

 

 

ラクレットは、すでに壁を作られていそうなのを感じるが、めげない。彼は一度決めたら一直線。壁があろうと気にしないで突き抜ける男なのだ!! ヘタレではあるが。

 

 

「ですから、その伝えるべき言葉があるんです……今までありがとうございました。楽しかったですよ。それと」

 

「…………」

 

 

無言でこちらの瞳を覗き込んでいるミントにラクレットは頭の中がクリアになる。本当に真新に。乾き張り付く喉を何とか少ないつばを飲み込み潤し、次の言葉を載せて紡ぐべく、肺に空気を吸い込む。膝に置いた手は震え、視界の端は赤緑色にチカチカ光って、平衡感覚は曖昧だ、それでも言いたい言葉があるのだ。首をかしげて覗き込んでいる目の前の少女に向かって、本心を言うのだ。

 

好きだと、ずっと前から好きであったと。その気持ちに確信が持てたから、もうばれているけど伝えるのだと。誠意を見せる自信ができたから、好きだというのだと!!

 

 

そうして、ラクレットは、言葉を紡いだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ミントさんは僕の嫁といわせてください!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

焦りすぎて、色々段階を飛ばし過ぎた言葉を。本当に思考が『クリア』された結果だ。

 

 

 

 

ミントは、その言葉を瞬時に理解できなかった。兎にも角にも重要なのは分析することだ。これはどういう事であろう?そういった疑問をねじ伏せながら、彼女は分析を続ける。

 

(調子に乗ったラクレットさんのドッキリでしょうか? まずは様子を見ないことには、返答ができませんわ? )

 

発せられた言葉の何となくの意味も分かる。方向性的にもう少し抑えた言葉だったら、まんざらでもないどころか、この場で色々と許してしまいそうなくらい嬉しいものだ、だがどうにもニュアンスがおかしかったのだ。

 

 

「なにをおっしゃっておりますの? 私たちの婚約はあと少しで解消されますわよ? 」

 

「ええ、ですから嫁だと言わせてください」

 

「……」

 

 

意味が解らなかった。いやわかるのだが、プロポーズの言葉の一種であろうと推測できるのだが、だからこそわからなかった。

 

(なぜこのタイミングなのでしょうか? ああ、もう!! 本心だから言いましょう、すごく嬉しいですわ!! ですがなぜこのような変な言い回しなのでしょう? )

 

前回の反省か、確信が持てない限り、何とも言えなかった。そう前回だってそのようなミスをしてしまったのだ。自分が何かしらの聞き間違いや勘違いをしていないか、冷静に考え始める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方のラクレット、彼は自分がどのような言葉を口にしたのか、よく認識できていなかった。好きです結婚してください!! そういった意味で言ったつもりであったのだ。

だが、ミントの様子をうかがってみると、どうであろう、顔を若干赤らめてはいるが、何かを考え込むかのような態度を見せている。

10秒、20秒、30秒と無言の帳が部屋を包んでいく。

 

ラクレットの体は緊張と圧迫感で吐き気と腹痛を訴え始めていた。ネガティブな体調は思考をもネガティブにする。それはやがて、ある仮説まで彼を誘導し絶望感で彼を包み込んだ。

 

 

「あの……返事を……」

 

 

何とかそう絞り出すラクレット。声はかすれて震えていた。ミントはその言葉で我に返り、ラクレットの顔を視界に収める。そして、驚くべき事実に気が付いた。

 

 

「……って、どうして泣いておりますの!? 」

 

 

そうラクレットは涙をはらりはらりと流していたのだ。両の瞳からあふれる涙は頬を伝って軍服のズボンに染みを作っていた。

 

 

 

「だってミントさんが、こんなにどうやって断ろうと考えるほど迷惑をかけていただなんて思うと……」

 

 

ラクレットの仮説はそういう事だ。今までいろいろと自分に対して思わせぶりな態度をとっていたのは、別段男女の関係として一定の行為を持っていたのではなく、からかうと面白い対象だと思われていたのだ。なので、本気になってしまったラクレットに対して、申し訳なくて何とか傷つかずに処理できる言葉を探しているミント

ネガティブすぎであろう。というか、今までのミントの行動がアピールと割っていたならば、もっと早く行動に移せよである。

 

 

「え!? いやちょっとお待ちになってくださいまし」

 

「大丈夫です、僕、今回断られたので、もうすっぱり諦めます。ヴァル・ファスクの薬飲んで半世紀ほど性欲を一切なくします。だから安心してください」

 

 

それは、この前論文を読んでいた時に見つけたものであった。EDENをヴァル・ファスクが統治していたころ、性犯罪者に対しての刑罰としてそういった薬の服用を命じていたらしい。

ラクレットは、それを入手できるコネをすでに持っているのだ。

 

 

 

 

 

 

そして逆に今度はミントが窮地に陥る。何が安心してくださいだ。

ちょっと前まで甘酸っぱい空間だったのに、今は既にコメディチックでギャグティストな空間になってしまっている。何が性欲減退だ。

慌てて口を開くミント。

 

 

「ああ!! もう!! 貴方は!! 私の事をどう思っているんですの!? 好きなのですか!?」

 

 

出来ればこの言葉は言いたくなかった。たぶんどのような状況であっても、この言葉を言えばラクレットは自分に告白してくれるであろう。そういった確信が前はあったからだ。彼女はそういうのは抜きでラクレットから言わせることが重要だと考えていたのだ。

彼女がラクレットを本格的に意識した切掛けが切掛けだけに。

 

 

「好きです!! 大好きです!!」

 

「……私もですわ」

 

 

げんなりしながら、そういうミント。もっとロマンチックな状況がよかったのだ。ラクレットが告白しようとしてくれたのは、本当に嬉しかった。しかし、もう少し状況ってものを考えてほしかった。

なにせ、人生で最初の、そして最後になるであろう告白なのだから。

 

 

(少しは乙女みたいな夢を見ても良いでしょうに)

 

 

 

「ミントさん……」

 

「……なんでしょう」

 

 

ラクレットは、ミントの名前を呼ぶ。告白の後だというのに無気力気味にそう答えるミント。すると横に座っていたラクレットが、ソファーから降りてミントの目の前で跪いて向き直り、ミントの手を握り締めている。

そして真っ直ぐミントの目を見ながら、ゆっくりと口を開く。

 

 

 

 

 

 

「すっと、すっと好きでした。この部屋で貴女が僕を人間にしてくれた時から。貴女は僕にとって、生きる目標でした。貴女のそばに居たい、役に立ちたい。それが僕の最初の生きる理由でした。意気地がない僕がたくさん迷惑をかけたと思います。きっと僕が思う異常には苦労をかけていると思います」

 

 

 

「だから、なんでも言ってください。あなたが望めば僕は何でもします。皇国に反旗を翻して建国したって良い。二人で新しい会社を作っても良い。どこか辺境に旅に行たって良い。僕にできること、できないこと何でもやります。だからあなたのそばに居させてください。こんなダメな僕ですけど、貴女を守る位ならできます」

 

 

 

「そして、僕に人の愛し方を教えてください。まだ、どうすればよいのかわかりません。好きだってことが自分で確信できるまで、貴女好きっていえなかった僕に、愛を教えてください。愛してると言わせてください」

 

 

 

「好きです。ミントさん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラクレットはずっと伝えたかった思いのたけを言葉にし終えた。それは拙く、たどたどしく、無駄に難解であったが、借り物ではなく彼の言葉だった。

 

 

「全く……告白のやり直しなんて、男らしくありませんわね。そんな殿方はもらってくれる人もいないでしょう、私が教えて差し上げますわ。人の愛し方を

 

 

 

────私はあなたを愛しておりますわよ。ラクレットさん」

 

 

穏やかな微笑みを浮かべ、ミントはそう答えた。二人はこの日から本当の意味で婚約者になったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後どうしたか? ミントさんは好きって言われたら、色々許してしまいそうだって言っていたんだよ? だから色々しましたとさ。

 

 

 

 

 




この後はただいちゃつくだけの話しかないんだ。Ⅱの方書きながらゆっくり書くよ。

全員分書いたよー。もうすぐこっちにも上げるよ。

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