僕と兄貴と銀河天使と   作:HIGU.V

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この話は当SSの4周年およびミント役の沢城みゆきさんの結婚の時期が重なったために
作者の妄想が粗ぶり(誤字に非ず)生まれたものです。
ツッコミどころも多いですが、最後のファンディスク的幸せ時空とでも思って下されば幸いです。

これでストックは全部消化されました。


劇場版ギャラクシーエンジェル特典映像+外伝

劇場版 ギャラクシーエンジェル1 覚醒の剣士 (420)

 トランスバール皇国で420年に公開された映画作品。ラブロマンスやコメディの要素も加えてあるが、かなり精巧に史実を再現しているという、戦史的にも価値のある映画と評価が高い。後の続編が群像劇の形になるのに対して、1作目の本作はあまり語られていないラクレット・ヴァルターの内面に関する考察が施されており、自己に否定的である彼の描写に賛否両論があった。

前述の通り、主人公は司令官であるタクト・マイヤーズではなく、リッキー・カート演じるラクレット・ヴァルター。彼は企画段階で話を聞き、オーディションの為に大幅なビルドアップをして挑んだという逸話がある。結果本人から太鼓判を押されるラクレット・ヴァルターになった。

また、データ販売の際に特典としてついた、エンジェル隊とのIFENDを描いた100分に及ぶおまけ映像が話題を呼んだ。

 

 

 

 

 

 

「あ、そこの瓶とってー」

 

「はい、これですね」

 

「うん、ありがとー」

 

 

二人肩を並べて立っているのは、最新式のシステムキッチン。既に使用者の趣味および利便性を考えられた物の配置になっており、生活感に溢れているが清潔感を失っていないのが使用者の性格を知れる。

此処は二人の新居。全ての争いに片を付けた二人は、彼の総資産を全て彼女が公営ギャンブルの大穴に1日中(胴元が泣いて謝るまで)賭け続けて作ったお金を軍に収めてEDEN星系から少し離れた星系を丸々買い取った。

彼らを追いかけるパパラッチや、彼の名声か彼女の幸運を求める政治思想活動団体をシャットアウトする目的であった。さすがに星系レベルの防衛システムを構築され、星系内の生体反応を観測されていれば入ってこらないわけだ。

最もここまでしなくとも、彼女の方の運で全て上手く行きそうなものだが。彼の方が万全をきす方が性に合っているという事だ。まあ、彼女の悪運が発動して一度すべておじゃんになったりしたのは今では笑い話であろう。

 

 

「んー。うん! いい感じにできた」

 

「こっちも仕上がりましたよ」

 

 

彼女が作るメインディッシュは宇宙生物の宇宙香草焼きである。彼の方はそれの付け合わせだ。いつもの分担である。彼はどうにも繊細な料理をする際にはマニュアルを寸分狂いなく再現しようとするために時間がかかる。それ故の分担だ。

 

 

「それじゃあ、冷めないうちに食べちゃおうか?」

 

「はい。いただきます」

 

 

ニコニコ笑顔を崩さないで彼の顔を覗き込む彼女。椅子に座っていても少し目線を上に上げなければ顔が見られないのだが、彼女はそれすら楽しんでいた。未だに自分の上目づかいの視線攻めだけで顔を赤らめてしまう、体の大きい年下の男の子がたまらなく愛しいからだ。

案の定、良く咀嚼し味と香りを堪能してから飲み込んで、口を開き感想を言おうとした彼は、彼女の笑顔に気づき少し目が泳ぐ。それでもきちんと美味しいと言うのは律儀である。

 

 

「火加減変えましたよね?」

 

「正解! やっぱり分かった? えへへ。少しよく火を通してみたの」

 

 

そんな調子で感想を言い合いながら彼と彼女はテーブルの上の料理を片付ける。楽しい会話と少しばかりのアルコールでよりポジティブな気持ちになる二人。食後の余韻を楽しんでいると、彼女が思い出したように声を上げた。

 

 

「あ! そうだ。デザートがあるの。少し待っててね」

 

「あ、はい」

 

 

彼女はそう言って席を立つ。彼の抜群の聴覚がしゅるりと布がこすれた音を聞き取ったが、表面上は一切の動揺を見せることなくグラスを傾けていた。そのまましばらく待つと彼女が戻って来る。

 

 

「これ、ほら貰ったの」

 

「ああ、あの人らしいですね」

 

 

彼女が持ってきたものは、試作品と書かれた箱だった。上は開けられていて中からカラフルなゼリーが見える。ハート型で青と赤と黒のものと、桃色と銀色のものが2つあるのは気を利かせたのか、本気でこれで売り出すのか。それならば、名前の使用料代わりにクーポンでも貰おうか。そんなことを彼が考えていると、彼女は包んでいた布を見せて来る。ハムスターが書かれており、彼女プライベートのものであることの証明となっているらしい。

ともかく、二人とも変な味だの、甘すぎだの言いながら、少しずつ交換し合って笑いながら完食した。感想を書いて送るべきなのであろうが、二人とも正直甘すぎること以外よくわからなかった。

 

 

「それじゃあ、今日は私が洗い物するから、お風呂入っちゃってね」

 

「はい、お願いしますね」

 

「もぉー、そうじゃないでしょ?」

 

 

彼女は人差し指で彼の胸板をツンツンと突きながらそう言った。二人は家事を代り番でこなしているのは事実だが、彼女が言いたいことはそうではないのだった。彼の方も分かっているのだが、未だに気恥ずかしさが先立つ故に躊躇いが出てしまうのだ。

 

 

「言わなきゃ? ダメですか? 」

 

「うん、そうじゃないと私を待っていてくれないでしょ? 」

 

 

彼は観念したようにため息をつくと、顔を赤らめながら、そしてその反応こそが彼女の笑顔をより一層魅力的にする事に気づかない振りをしながら口を開いて言葉を紡いだ。

 

 

「待っていますので、その……背中を流してください……」

 

「はーい! 私も洗い物終わったら行くから。 勝手に洗っちゃだめだからね?」

 

 

普段は天然で毒気のかけらもない彼女だけど、彼をからかう時は少しだけ意地悪なお姉ちゃんになるのが。今の二人の間柄であり、それはもうしばらく続くのであった。

 

 

 

 

 

2 ※

 

 

「ねぇ、ダーリン?」

 

「なんでしょう? 」

 

「もー。そこは『何だい、ハニー?』か『どうしたんだい? マイスィーティー』でしょ? ダーリンたら恥ずかしがっちゃって! 」

 

「いえ、そういう訳じゃないのですが」

 

 

リプシオール艦内ブリッジ。司令席に腰かける彼と、その膝の上に腰かけ体を胸板に預けしなだれかかっている彼女。ブリッジクルー達は、『まーた始まった』と思いつつも、数々の功績を認められ4段階昇進をして艦長に就任した彼と、自然にその副官の位置についていた副指令の彼女には逆らえない。

非常時以外は常にアットホームな職場なのだが、副指令が司令とくっ付いている時に横槍を入れることの無意味さと、火に油という慣用句の意味をよく知っているからでもある。

 

 

「それより、キッチンから苦情来ているんですよ? 香辛料、特に辛いものが底をつきかけているので何とかしてほしい。あとブラックコーヒーも在庫が無いとか」

 

「だってー、アタシは辛いものをダーリンと一緒に食べるのが好きなんだもん! コーヒーだって皆が勝手に飲んでいるだけじゃない。アタシはほとんど飲まないわ」

 

 

もん。語尾にもんかー。そんな事を彼は考えてしまう。自分は尊敬する司令官が廃太子を制し、名を馳せた年に来年なるというくらいだ。なので自分の4つ上の彼女は……と思考した辺りで、彼の鎖骨をなでていた彼女の指が、首の頸動脈を撫でたので瞬間凍結した。そして 似合ってるし可愛いからいいかも! という本心の70%の意見を採用し思考を続けることにした。

 

 

「でも、あれだけ辛いものを作っている人達見ましたか? ゴーグルとマスクしていましたよ? 」

 

「気化した湯気が目や器官に入ったら痛いからよ。ダーリンったら、普段あんなにいろんなことを考えているのに、そういう所を見落とすのよねぇ。でもそこが可愛いから大好き!」

 

「あはは、僕も貴方が好きですよー。ただできればそんな危険物を食べ物にカテゴライズしたくないんですよ」

 

 

だって僕辛いの苦手だし。そんな事は口を割けても言えない。進んでは食べないが、食べなくはないという立ち位置を頑張って維持しているのだ。常人ならば一口食べただけで3日は舌の痛みが取れずのたうち回り、流動食に痛みを覚えるようなものだ。

それを、いままで培ってきた精神力と体力で耐え忍び笑顔を見せるのだ。それを可能とする今までの戦いや、屠って来た敵たちに感謝する彼。敵もそんな事の下積みに成るなんて浮かばれないであろう。

それでも食べてしまうのは、あーんとのばしてくる彼女の白魚のような指と、心から純度100%の笑み。そして少しだけ見える、好みを押し付けてないかな? という不安の色を見せる瞳があるからなのだ。よーするにギャップ。

 

 

「もぉどうしたの? 今日はいつにもましてクールで知的じゃない。そんなダーリンも素敵よ!」

 

「いやー貴方の手ずからに食べると、より美味しく感じられると考えていました」

 

 

嘘は言っていない。彼は嘘をつくことを嫌うからだ。嘘をつくのにはエネルギーがいるのを彼は良く知っているからである。一部しか言わなかったり、誘導したりはするが。

 

 

「やーん! ラ●ファ嬉しい! 今度は蘭●スペシャル フルコース作ってあげるから、楽しみにしててね?」

 

「ほ、ほんとですか? わーい、嬉しいなぁー」

 

 

しかし神様は見ているのか、正直者であれと布告するのか藪蛇であったようだ。固まりかけた笑みを誤魔化すために、彼女の腰に回していた右手を強く内に寄せ、手繰り寄せるように抱きしめた。

 

 

「やん! ダーリンったら。ここはブリッジで皆が見ているのよ? ダイタンなのは……ね? 」

 

 

少し馬鹿っぽいと彼は思っている彼女のぶりっ子ぶった態度の中から、突然蠱惑的な魔の取り方と声使い。正直クラクラ来てしまっているが、公務はまだ4時間ほどは続くので、鋼のような理性(笑)で彼は耐えるのだった。

 

 

「ねえ、どうしてダーリンはそんなに私の事ハニーって呼んでくれないの?」

 

 

いつの間にか、その蠱惑的な彼女は万華鏡のように移ろっていたのか、不安げな光で見上げている。彼の右肩に左頬をつけて甘えるようにしているが、声と目で彼は理解した。

彼はそろそろ流石に無理があったかと自嘲する。かなり前からの熱いラブコール(そのまま)を受けていたが、のらりくらりと躱したり、その場で一度だけ返し時間を挟んだりとしていたのだが、限界だったようだ。それは彼のちっぽけな拘りでしかないのだから。彼女を不安にさせるのならばやめるべきなのだろう。

 

 

「僕は、自分の一番好きな人は、多くの人が使える単語じゃなくて、名前で呼びたいから」

 

「え? 」

 

「貴方はハニーって名前じゃないですから。でもハニーの方が良いのなら、そう呼びますね」

 

「……名前! 名前で呼んで!! アタシの事はアタシだけの名前を呼んで!! 」

 

 

雨があがった。そう言わんばかりの彼女の変化に、ああ自分も結局骨抜きになっているんだなと、再認識する。そして、彼女の要望に応えるべく、耳元に口を寄せて囁くのは愛しい人の名前。

 

 

ブリッジクルーは諦めたように、ため息をつくと全員ヘッドセットをつけ艦内放送チャンネルに合わせて傾聴しながら同じことを祈った。 あと4時間司令と副指令が最後の良識を無くさない様にと。

 

 

 

※一部伏せ字を使用しております

 

 

 

 

「全く! 楽させてくれないね! 」

 

「この程度、苦労に入りませんよ! 」

 

「ほぅ? 言うようになったじゃないか!」

 

 

 場所は密林。生い茂る樹木達により、直射日光はない物の、籠る湿気が茹だるような熱気となって包み込んでいる。昼間なのに鬱蒼と生い茂り薄暗いこの場において、二人の男女がいたのだが、状況は緊迫していた。

僅かな機械音が二人の右前方から聞こえた瞬間、彼女は愛銃をそちらに向けて即発砲。彼は盾のように剣の腹を前面にだしてチャージ。しかし彼が違和感を覚えバックステップで急加速していた身体を戻す。すると彼の足跡の3cm先に着弾。悔しげな声が聞こえないのは、敵が熟練だからではない、人間では無いからだ。

 

彼と彼女がいる場所は、クロノクェイクにより人が死滅し、機械が自己修復して管理していた無人の惑星だ。多くの人の作った施設は自然に蹂躙されており、600年という年月を如実に表している。

そんな星なのだが、この5つ目の銀河SKIAにおいて、此処まで自然にあふれている星は珍しく。1つの星に人口を集中させ、人々に節制を進め資源を守りつつ共同体を作ることで生き延びたSKIA人達にとって、理想的な再入植場所だった。そんな星の今の王者である機械達の軍勢を殲滅ないし、無力化するのが二人の任務だ。

 

この時代白兵戦ができるEDEN軍人は非常に少ない。白兵戦をするという事態にそもそも至らないのもあるが、『敵対する星は衛星上から砲撃してればよい』という技術力の進化があるからだ。銃が戦場の主役になりサムラーイがレーザーブレードに持ち替えたようなものだ。

予定だと、2番目に技術と軍の再編が進んでいるNEUEからもうじき援軍が来るが、先達として示す意味もあり先遣隊の二人が派遣されていたのだ。

 

 

「親玉を叩けば良いってのと、その場所はわかったけど! 」

 

「簡単に情報を持ち帰らせてくれそうにはないですね!! 」

 

 

 本当に非常時であれば、遠隔操縦のできる彼が機体を呼び寄せれば蹂躙できるが、それでは意味がない。6つの銀河で同規模を出し合った連合軍を作る。そんな将来的なビジョンは兎も角、現在の肥大化しすぎてしまったEDEN軍とNEUE軍は戦いを終えた結果、少しずつ軍縮して行く必要がある。とにかく金を食うのだ、戦時の徴収ができない以上回らないのだ。

すぐに解雇することは経済的な問題がある為に、こういった別銀河の支援活動を公共事業として請け負っていくことで解決を図ろうとしたのだ。その先例になるべく二人がここにいるのだから。

 

 

「まだいけるかい? 」

 

「そっちこそ、お体に触るのでは? 」

 

「ふーん、年寄りの冷や水とでも言いたいのかい? 」

 

 

そんな軽口を叩き合いながらも、二人は密林という環境で戦い続ける。数の面で劣り、視界に関係なく熱源感知する機械相手と不利な条件は多いが、二人はその位では怯むことなどない。

 

 

「まさか? 昨晩あんだけ僕の下でもう無理だって言っていたのに、大丈夫ですかって事ですよ! 」

 

「ッは! それはこっちのセリフだね。全く、可愛げって奴が無くなっちまったようだよ」

 

「相棒の影響ですよ! 援護お願いします! 」

 

 

 楽しげとは言わないが、余裕あると見える会話をしながら戦い続けている。彼は愛剣に最近追加されたフォルムチェンジ能力で巨大化させると、元同僚にならった剣技を見様見真似で繰り出す。横薙ぎに払われた剣の先から光のエネルギーが生まれ、木を切り倒し道を作っていく、そして漸く敵の機械を視界にとらえた。その瞬間赤いモノアイに弾丸が命中する。その怯んだ隙に彼が寄って切る。これで撃破数は4。6機編成の小隊を組んでいるらしい機械と頭数で総数になる。

 

 

「やるじゃないかい? これで撃破数は並んだね」

 

「勝った方が負けた方の言う事を聞くんですからね? 今更無しとか無効ですよ」

 

「っは。軽口を叩けるのも今の内だよ。そっちこそ泣いて謝るまでとことん可愛がって欲しけりゃ、辞退しても私は構い話しないよ!」

 

 

そんな会話をしながらも油断なく周囲を警戒する。先ほどから見えない機械が攻撃を仕掛けてきているのだ。移動銃座もあるようで自分の勘と耳が頼りだ。

 

 

「それこそまさかですよ。僕が勝ったらフリフリの可愛いドレスを着てジュノーのデートコース2泊3日ですからね」

 

「……いや、それは流石に。ま、私に勝ててから夢を語るんだね! 」

 

「勝って見せますよ! 師と相棒と恋人に誓ってね! 」

 

「んじゃあ、こっちも弟子と相方と未来の旦那様に誓うとしようかね!! 」

 

 

そんな状況でも二人は楽しげに、そして冷静に戦闘を続けていく。自分の背中は相手が。相手の背中は自分が。彼女の剣に彼はなり、彼の銃に彼女はなる。二人で一人の無敵の兵士は、今日も銀河のどこかで泥臭く戦い、絆を確かめ合っている。戦いの中だからこそ通じ合う思いと言葉に出来る気持ちもある。二人はそう思っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

4

 

「皆さん、ご飯の時間ですよ」

 

その言葉に彼に群がり彼を遊具にして遊んでいた子供たちは一斉に離れて行き、彼女の元を通り過ぎて洗面所に走って行った。食事の前には手を洗う。何度も言い聞かせきちんとその言いつけを守っている良い子たちなのであろう。

 

「お疲れ様です。『お父さん』」

 

「ああ、『お母さん』もお疲れ様」

 

 

彼女の出身星のほど近く、そこにある小奇麗な孤児院。それが二人のいる場所だ。軍をやめた二人は私生活が地味目であったことと、かなり高級取りだった事もあり、貯金がかなりの額あった。そのお金を使って小規模な財団を結成。銀河の生まれに拘わらず、種族すら問わないと明言された孤児院の経営を始めたのだ。彼の兄や彼女の元同僚の出資も来るようになり、設立12年を迎え経営規模が今や惑星単位となっていたが、始まりの場所であるこの場に二人はいた。

孤児と言っても年齢はバラバラ、種族による寿命成長体格の差もある。それでも彼と彼女は孤児たちに最適な仕事を与えて、共同体として自活できるようにしていた。この星では1次産業からサービス業まで多くの元孤児が従事している。今後増えていくであろう移民や他民族との交流において、中立地域としての役割すら期待されるほど大きな物になっている、そんな星だ。

 

 

「あの子たちも、すっかり笑えるようになりましたね」

 

「ええ、元気すぎて怖いくらいですね」

 

 

そんな大仰なことにはなっているが、やっている事は子供たちの世話でしかない二人には今一実感が無かったが、そう言った折衝担当は別にいるので問題ない。二人の理念の協力者はとにかく多いのだ。なにせ二人の財団に協力することでできるパイプは、銀河のあらゆるところにつながっている。そんな下心があっても、救われる命があるのならばと、二人は懸命にできる事だけをしている。

そんな二人の所に来るのは心に問題を抱えた子供たちが多いが、直ぐにとはいかなくても徐々に心を開いていっている。それは二人の真摯な態度が子供たちにも伝わるからであろう。

もうすぐ30歳になる二人がしみじみそう語っていると、子供たちの催促するような声が聞こえてくる。どうやらお腹がすいているようだ。

 

 

「行きましょう。私たちの子供たちが待っています」

 

「そうですね」

 

 

彼はそっと彼女に手を差し出す。彼女の方もゆっくり軽くそれに手を重ねて指を絡める。こうした普段のちょっとしたつながりで二人の心は満たされている。可愛いわが子たちに囲まれており。今でも毎日のようにこの孤児院を巣立った、自分たちと殆ど年の変わらない息子娘たちが挨拶しにやって来る。

加えて昔の同僚たちも視察と称して子供たちと遊び、食事を食べにくる。彼女の一番娘なんかは長女風を吹かすために帰省してくる。そんな生活が幸せでないわけが無かった。

 

 

「貴方がいたから、みんなの笑顔があります」

 

「貴女がいるから、僕もここの皆も幸せなんですよ」

 

 

二人はそう言ってゆっくりと食卓に足を向けた。

 

 

 

「ねえ、お母さん」

 

「はい、なんでしょう」

 

 

食後のひと時、子供たちは集まってゲームをしたりおしゃべりをしたりしている中、サマーセーターを編んでいた彼女の元に娘の一人がやって来た。この家では小さい子も多い為夜は早く明りを消すが、だからこそこの時間を目いっぱい楽しんでいる子たちが多いのだが。

そんな中彼女の元に来たのは、何時もは彼の絵本の読み聞かせの所にいる子だった。べつに今日はやっていない訳ではないので、きちんと用事があったのであろうと思った彼女は手を止めて彼女の方をしっかり見つめた。

 

 

「あのね、私、お父さんと結婚するの。良いよね? お母さん」

 

 

 どうやら、この子なりに真剣なようだ。と彼女は冷静にそう思った。そして、こう言った事は別に初めてではない。彼女の方も子供から求婚されたことはあるし、彼の方だって然りだ。可愛い子供の言う事ではあるが彼らなりに真剣なのはわかっている。

 

 

「お父さんに聞いて、いいよって言ったらいいですよ」

 

「本当? 聞いてくる! お父さーん!」

 

 

 もちろん、彼がYESと少なくとも彼女の前でいう訳はなく(勿論隠れて言う訳もないが)。そんなわけで直ぐに少し不貞腐れながら、彼に頭を撫でられている女の子の姿が此処から見える。そんなところに彼女がやってきて諭す様に言い聞かせた。

 

 

「お父さんはお母さんの旦那様だから。貴方は自分の好きな人を見つけなさい」

 

そう言いながら、彼女は自然な動きで彼の横に立ち腕をとった。

 

「そうそう。可愛いから、大きくなったらお母さんより綺麗になって! 男の子が放っておかなくなるよ」

 

彼がにこにこ笑いながらそう言う。綺麗になっての当たりで、とられている腕に、爪を立てられたような鋭い痛みを感じ取ったが、なるべく顔に出さないままに。

女の子は納得したのかしてないのか、今日はお父さんと一緒に寝て良い? と聞いて来たので、いいよと笑って答えてあげると、歯を磨くと言って洗面所に走って行った。他の子たちも寝る準備を始め、三々五々と散っていき、二人だけになると、彼女が口を開いた。

 

 

「私より可愛いですか? あの子の方が」

 

「イタイイタイイタイイタイ。やめて、ねえごめんなさい。ああ言うしかないでしょ? 」

 

二人きりになると見せるちょっと嫉妬深い少女の顔。それを彼の前に出しながら、彼女も大きくはなったけど、さらに引き離されてしまった背の高い彼を覗き込んでそう漏らす。少し頬をふくらましているのがたいへん愛らしい。

 

 

「それに、あの子が可愛くても、僕にとって一番で唯一なのは貴女だけだよ。僕の天使さん」

 

「はい、知っていますよ」

 

 

 控えめな微笑みを浮かべそう言った彼女は少しだけ周りを見渡し子供たちがいないか確認すると、目をつむり背伸びをするのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

5 

 

「とうさまー。おかえりなさい! 」

 

「ああ、ただいま」

 

「かあさまにもいってきますね! 」

 

 

 すっかりたどたどしい敬語で話すようになった息子の頭を撫でながら、彼は靴を脱ぐ。Absolute近くに作られた人工惑星にある、彼と彼女とその子供たちの家は、最近では珍しくなくなってきたが、ジュンワフウと呼ばれるスタイルで、靴で歩くドマ以外は土足厳禁なのだ。

 

 

「貴方、おかえりなさい」

 

「ああ、ただいま」

 

 

 愛する妻と、愛する子供。充実した仕事にもついている彼は公私ともに絶好調であった。彼女の方も育児に専念するために軍を辞め家庭に入ると上に申し出たが、『今後いつでも戻ってきてくれ、というか戻ってきて下さいお願いします』と言われ結局無期限の育児休暇という扱いになった。

彼女自身父親が軍人であったために、そこまで個人に特別な措置をとってもらえることに心苦しさを感じたものの、有難く頂戴することにして4歳の息子と忙しい父親を待つ日々である。

 

 

「本当に疲れました。艦長なんてやるもんじゃないです」

 

「ふふ。皆さんがそう言っていますね。どの位いられますか?」

 

「2週間程。丁度点検できるドックが混んでいたみたいで、休暇といい具合にずれ込んだ。後半は通う事にはなるけど定時で帰れるよ」

 

 

 艦長職につき、まだ多くの銀河が抱える諸問題の解決に奔走する毎日。平行世界連盟が結束され10年がたち、人材も育ち艦の数も揃い、艦の速度が革命的に早くなったために、長期任務は少なくなった。それでも前大戦での英雄たちはそれぞれの銀河から指名を受ける事が多く、暫くは食いあぶれる事はないが、休みも少ないのだ。

 

 

「とうさま、またお仕事なの?」

 

「しばらくはおうちにいるよ」

 

「ほんとう!? とうさま、じゃあおふろはいりましょう!」

 

 

そんな中二人の子供は、大好きな父親が暫く家にいるとわかって大喜びである。普段は少し寂しい思いをさせているかもしれないと、少し引け目に感じている彼。仕事での冷静沈着にして隙の無い歴戦の軍人にして切り札の姿はなく、子煩悩の父親でしかない彼は、そのまま我が子に手を引かれて脱衣場に行くのであった。彼女の方もそんな二人の愛の結晶の無邪気な姿に思わず笑みを浮かべるのであった

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほら! どうだ? 」

 

「わーすごいです! かあさまー見てください」

 

 

 彼の休暇中、ジュノーに民間船で赴き、移動型遊園地船であるケーゼクーヘンに彼女と子供を伴ってやってきた。所謂家族サービスというやつである。もうすぐ始まるパレードの為に進路上で待機していたのだが、人垣で見えない子供の為に肩車をしたところだ。

 いつも見ている景色と違い、2m以上の高さから見える風景は新鮮だったのかはしゃぐ子供。彼もつられるように笑う。しかし彼女の方を見ると微笑んでいるものの、少し寂しさというか複雑なものが瞳の奥にあるのを感じた。

 

 

「どうしました?」

 

「あ、いえ。昔を少し思い出しまして。私も幼いとき父に肩車をしてもらったなと。ふと懐かしくなりました」

 

「お義父さんですか……」

 

 

 彼女の父は任務中に殉職している。しかし彼女に軍人として人としてあるべき姿を伝え、彼女もそれを受け継いで育った。そんな父親の事が彼女は大好きであった。父との思い出の一つの今の自分が重なったのである。

 彼はそこまで正確に察することは出来なかった。それでも寂しさがネガティブなものだけでは無い事を感じ取ることができた。自分が彼女にそして彼女の父を見習ってできる事はなんであろうかと考える。少し周りを見渡すと始まったパレードに夢中であり、人垣の最後尾にいる自分たちに注目する者はいない。

彼は肩の上の子供にしっかりつかまっているようにと言い聞かせる。パレードに夢中で、上の空の返事が返って来るものの、足で挟む力が強くなったのを感じ取る。

 

 

「こっちに」

 

「きゃっ!」

 

 隣の彼女の手を引き自分の胸に抱き寄せるようにかき抱く。少し驚いて怯んでいる彼女に優しく足払いをかける。突然の事に鍛えられた彼女の経験と反射神経が、体を支えようと彼の首を両手でつかむ。その間に彼は右手を彼女の背中に回し持ち上げ、左手を膝の下に添える。

 

 

「肩車もおんぶもできませんが。こういったのならいつでも。僕で良ければ」

 

「もう。びっくりしたじゃないですか!」

 

「はは、ごめんなさい」

 

 

 口調は怒っているし、目つきも真剣だ。だけど二人の距離は近く口元はお互いにやけていた。そう言えば子供ができてから日常での接触回数が減った気がする。ふとそんな事を二人とも思った。

そんな風に子供を肩に妻を腕にと彼が立っていると、いつの間にかパレードは佳境に入っていたのか聴衆は大盛り上がりを見せる。興奮した前の人の手が彼の髪に当たり謝る為に振り返った。遊園地にいる間、ここのマスコットキャラクターのお面をつけていた彼だが、パレードの前に外している。謝りながら顔を見た青年の表情がみるみる変わっていくのを冷静に観察しながら、彼女を腕から下ろす。彼女も慣れたもので、足元にある荷物を拾い上げる。

そして青年が二の句を継ぐ前に3人はその場を後にする。今日はプライベートで来ているからであり、大切な人との時間を邪魔されたくはないから。

 

 

「抱きかかえて逃げるのもありだったんですけどね」

 

「ふふ、我慢ができなくなりそうなので、それは家に帰って、日記を書いてからで」

 

「とうさま、かあさま! 観覧車に乗りたいです!」

 

 

 二人の愛の結晶の要望通り、宇宙大観覧車へと向かう。その足乗りは一人を担いでもなお軽快で、今後生まれて来る多くの子供たち全員を抱えられるものであった。それはそんな彼の3歩後ろで支える彼女の存在があるからだという事を自覚しながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

此処まで映像特典 こっから外伝

 

6

 

「はい、ラクレットさん。あーん」

 

「あ、あーん」

 

 

その瞬間朝の和やかなエルシオール食堂の空気が凍った。あるものは飲んでいたコップの水を膝にたらし、あるものはスプーンを落とし、またある者は隣にいる女性に俺を殴れと頼み叩かれていたり、酷いものは懐から遺書を取り出して加筆を始めていたりしている。

どうやら寝ている間にこの世が終わり、今は来世にいるようだ。そんな共通認識があった。ありえないことなのだ。昨日までのミント・ブラマンシュがラクレットの膝の上に座りなおして、左手で持ったスプーンをラクレットの口に持っていくなんてことは。

 

 

「ふふ、どうでしょう? このゼリーは何と一切砂糖を使っていませんの、でも焼けつくような甘さはそのままどころかパワーアップしている、とても素晴らしいものですわ」

 

「は、はい。心なしかいつもより味がしない気もするのですけど美味しいです」

 

「あら? 風邪でも引かれましたか? 昨日は夜遅くまで起きていらっしゃいましたからね」

 

 

風邪を引いた疑いがあるのはアンタだよ。とミントの発言に対してサイレントマジョリティはツッコミを入れていた。だから後半のセリフまで処理は間に合わなかった。

あ、ミントさんは結婚式がファーストキスが良いって言っていたけど我慢できなかったみたいだよ。ウェデングアイル(バージンロード)的には問題ないレベルまでだったのは、物理的に無理という深刻な問題だったと巷ではもっぱらの噂だ。

 

 

「あ、あのー」

 

「なんでしょう? お代わりですか?」

 

「いえ、僕はまだ自分の宇宙ハッカバーガーが残っていますので、その」

 

「あら? 私としたことが申し訳ありませんわ」

 

 

ミントはラクレットのまだ自分のごはん食べ終わってないので、降りてほしいなーという言葉を理解したのか、していないのか。ゼリーの容器とスプーンを一度テーブルに戻した。

 

 

「それでは改めまして。はい、あーんですわ」

 

 

彼女は、ラクレットのバーガーに手を伸ばし、手ずからに食べさせようとしたのである。要するに彼の意図を全く理解していなかった。今の彼女は脳内がミルフィー状態(命名蘭花)だ。お花畑である。

 

 

「いや、その一人で食べられま「ちょっと、ミント! アンタ何やってんのよ! 朝っぱらから! 」

 

「あら? ランファさん。おはようございます。婚約者と仲睦まじい朝食をとっていただけですわ」

 

「変わりすぎなのよ!! 昨日(IFEND2-3参照)から!! アンタ別にこいつの事表面上はどうでも良いように扱っていたでしょ!」

 

 

 ミントの奇怪極まりない行動が、既に噂として艦を駆け巡っているのを聞き、急行した蘭花が見たのは変わり果てたミントの姿であった。

いつもの一歩引いた冷静な笑みは締まりない満面の笑みと、彼女の親友のそれになっており、見る者が見ればあからさまであった彼への好意を全く隠そうともしていない。いつもなら彼の正面に座って物欲しそうに口元を眺めているが、今日は彼の膝の上でご満悦の様子だ。今も会話しながらラクレットの口についた食べカスをとって口元に運んでいる。

 

 

「全くランファさんは、少々心境に変化があっただけですわ。それに、婚約者と朝食の席を共にすることに何の問題がありまして? 」

 

「席を共にするってそういう意味じゃないわよ!! 恥じらいを持ちなさいよ!」

 

「ら、ランファさん落ち着いて下さい」

 

 煙に巻くような態度はいつもと変わらないのだが、方向性が非常に腹立つようになっているミントにヒートアップするランファ。

 

「ランファさんももう少し優雅になさっては? 彼氏がいないから少々余裕がないのではありませんこと?」

 

「……アンタ後で覚えてなさいよ」

 

 

そのアンタには僕も含まれてるよねぇ!? これ! と内心涙目になるラクレット。だが、さすがにミントが浮かれ過ぎているのを彼は感じていた。昨晩の決意である彼女の為にならば何でもするといった。愛し方を教えてもらうともいった。いろいろ可愛がってもらった。あ、最後のは余計だった。ともかく、だがこれはおかしいだろ。そう思うラクレットであった。

とりあえず、目の前で静かに怒りのボルテージを上げるランファの手前、少しでも被害を減らすべく対策をとったことを明確にしておくことにする。

 

 

「あ、ああー。僕はもうお腹いっぱいだなぁー」

 

「きゃ! も、もうラクレットさん、急に抱え上げないでくださいまし!」

 

 

 ラクレットがミントの脇の下に手を入れてそのまま小さい子を持ち上げるように膝から下ろして、席を立ったのである。ミントは不満げな顔でその行為をしたラクレットを見つめている。ジト目もかわいいなーなんて思ってしまう彼も十分末期なのです。

 

「ほら、ランファさんも呼びに来てますし、朝のミーティングに行きましょう? ね?」

 

「私としては、もう少しふれあっていたいのですが……」

 

 

 上目使いでそう言うミント。なにこのかわいい生き物。ラクレットは無意識に頭を撫でて兎のような耳をつまもうと、手を伸ばそうとする。その瞬間横からいい加減にしろという怨念が感じられたので我に返る。

 

「そういうのは、二人きりでしたいなー、ミントさんに思いっきり甘えるのは二人きりの方がいいなー」

 

「そ、そうですの? それなら仕方有りませんわね。ランファさん早く行きましょう。ミーティングなんてすぐ終わらせてしまうべきですわ」

 

「二人とも、後で個別に説教」

 

 

ラクレットは目の前が まっくら になった

 

しかし、その日の午後には多くの人に祝福された。独身仲間からはやっとかと安堵され、女性職員の多くもおめでとう、よく頑張ったねと賛美していたのは、彼の今までの態度と、年単位でミントのあの態度を受け入れ続けたからか。

ラクレットは自分を叱っていたレスターの小言を受けた後、まだまだかかりそうなミントを待たない様に言われていたので、一人で自室に戻り眠りについた。

 

それが彼の独身生活最後の夜になることも。明日の朝には記者会見を開くことも。ミントはもうこじらせすぎて手遅れになっていたことも。そしてなにより、毎晩睡眠不足にはなるが、最高に幸せな結婚生活が始まることも全く知らないままに。

 

 

「ミントさん……愛しています」

 

 

彼の寝言に、遠くの方で「私もですわ!!」と叫んだ愛しい人いたことも知らないままに。

 

 

 

 

 

 

 

 

7 

 

「こっちですよー」

 

「ああ、すまない。待たせたな」

 

 

今日のラクレットは恋人であるクロミエと水族館に来ていた。宇宙クジラは厳密には水棲生物ではない為にそれつながりではないのだが、昨日の夜動物や自然を紹介する番組を見ていた時にふと明日行くかという雰囲気になったからである。

 

 

「待ち合わせなんて初めてだな」

 

「一度こういうことをしてみたかったんです。お嫌いでしたか? 」

 

「はは、まさか。お前とする全ての事が楽しいよ僕は」

 

「僕も同じですよ、ラクレットさん」

 

 

 クロミエが名前を呟いたからか、チケット窓口のお姉さんが顔を上げる。しかし直ぐに状況を理解して、笑みを浮かべた後口を開いた。

 

 

「恋人料金でよろしいでしょうか?」

 

「お願いします」

 

「かしこまりました」

 

 

 彼女もプロであり、以前お忍びで女皇陛下と聖母様がいらっしゃった時に対応した経験もある。その際には大人1枚子供1枚と言われたが、家族料金にいたしますかと言ったらすごく驚かれた。サービスですよと続けて言うと安心したように聖母様が微笑みお願いしますと仰られたのだ。女皇陛下もその言葉に嬉しそうに口元を緩めていらっしゃった。

 そんなわけで、異性の影も噂もない、あの英雄ラクレット・ヴァルターがデートで来ようと冷静に対応できたのは『ほう、経験が生きたな』と言うやつである。彼女は慣れている作業をこなしながら、クロミエと呼ばれた人物を観察する。

勿論失礼に当たらないように横目でだ。服装は淡い緑のユニセックスなつくりのブラウスにショートパンツと、ボーイッシュなもので、髪型も帽子をかぶっているがショートである。それでいて活動的な印象も受けない。中々珍しい少女()と彼女は感じ、これが好みならば確かに今まで恋人がいなかったのも信じられると納得していた。

 

 

「こちらになります」

 

「ああ、ありがとう。ほら、クロミエ」

 

「はいどうも。ボクはまず宇宙クラゲが見たいですね」

 

「えーおまえ、クラゲ見だすと長いじゃんか。僕もクラゲは好きだけど2時間はきついよ」

 

「大丈夫です足は止めませんから」

 

「円柱の水槽をバターになるまで歩くの禁止だからな」

 

「てへっ」

 

 

 ボクッ娘とはレベル高いわね。愛読書がチーズ商会傘下の出版社レーベルの本である彼女はそう思った。しかしかなり長く連れ添った、息の合ったカップルね。と言う感想でもあった。飾った様子も、気取った様子もない、ありのままの自分を晒し合えるような、そんな二人である。

 

 

「イルカの餌やり体験だって、行きたい?」

 

「宇宙クジラが嫉妬しちゃうので、パスします」

 

「はは。イルカもクジラも同じだって言ってから妙な対抗意識があるんだっけか? あのクジラさんはもう」

 

「ラクレットさんが僕と付き合うようになった時、複雑だけど賛成してくれましたから、ご機嫌とらないと」

 

「いやー、宇宙クジラとガチンコするとは思わなかったよ、本当」

 

「ボクの為に争わないで! って一度言ってみたかったので満足しました」

 

「おいおい……もしかしてあれ全部仕込みだったのか?」

 

「……てへっ?」

 

 

 そんな風に楽しげに会話をしながら、水族館のゲートをくぐる二人の影は一つであった。これがエルシオール公認のNo1カップルの自然すぎる在り方である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

EX おまけのおまけ テンプレだったらこんな感じ

 

 

 

 

「くらえ、エオニア!! クロノブレイクキャノン!! 」

 

「ぐわあ~~~!! 」 ドカーン

 

「ククク、エオニアは所詮黒き月の傀儡……真の黒幕たr「もう一発クロノブレイクキャノン!! 」

 

「ぐはぁ!! 」 チュドーン

 

「人間よ!! 底力は見せてもらったわ!! ひれ伏s「7号機発進!! クロノブレイクキャノン!! 」

 

「クソガァあああ!! 」 ファビョーン

 

「下等種族どもが、CQぼm「愛の力だああああああ!! 」

 

「」 チーン

 

 

 

 

こうして銀河に平和が訪れた。タクト達『エルシオール』の活躍が銀河を救ったのである。そうしてその結果ラクレットは軍を追われた。

 

ヴァル・ファスクだからとか、そういった理由ではない、ものすごい圧力がかかったのだ。そうしてラクレットは皇国で200年ぶりの女皇の騎士に任命されたのだ。軍ではなく、騎士団を設立しそこに入ったのだ。入隊資格は貴族であることと、叙勲されるほどの武功を示すこと。寄付金などは一切認められない完全実力性である。現在1名所属。

 

 

「どうして、僕はこんなところに来てしまったのだろう……」

 

「どうした、ラクレット」

 

「陛下……」

 

 

EDENとの友好条約を戦後に正式に更新するという、今後の双方の発展において重要な節目になるであろう式典、その場において、最もシヴァ女皇のそばにいたのは、常に後方に控えるラクレットであった。

 

気が付いたら、実家が貴族の爵位を金にものを言わせて買っていた。主に長男が泣く泣く払う羽目になった。エメンタール曰く、良い商売口ができたし(声が震えていた) 

そうして、1週間後に父が退位し自分が家督を継ぐことになってしまった。正式に貴族様になってしまい、さらに女皇直属というより女皇の騎士(所有物)になってしまったのである。「これはもう詰みだ、はっきりわかるね」そう空に呟いてしまうほどにラクレットは、状況に流されているままだった。

いや想定の千倍の速さで物事が進んでいるのだから仕方がないともいえるが。それでもその状況に反発することはなかったのは、自分に騎士になってほしいと直々に頼みに来た女皇陛下の声が少し震えていたから。

 

 

「いえ、急転直下な状況に、少々気圧されただけですよ」

 

「ふむ、そうか。すまないな。だが、どうしても譲れなかったのだ」

 

 

未だ御年12歳と少女ではあるが、纏いし風格は比喩ではなく王者そのもの。そんな少女は満足げに頷きながらそう口にした。

 

 

「たった1度の」

 

「なんでしょう?」

 

言葉に詰まる彼女に先を促すラクレット。正直状況がわかっていないのだが、なんとなく人生この先道が2本くらいしかなさそうなことだけは感じ取っていた。

 

 

「たった1度きりのわがままだな。許せラクレットよ。余は、いや私は私的に権力を使ってしまった。そんな私を軽蔑するか?」

 

「まさか? 立派な女皇様ですよ。誰がどう思おうと、僕の中では」

 

「そうか……」

 

 

その言葉に、少しばかり強張っていた頬が戻るのを彼女は自覚した。そう言ってくれるだろう自身もあったが、言葉にしてもらえるのは嬉しいものだ。

 

 

「ただ、少し驚いただけです。なんで僕が? いや僕しか騎士になれそうな人いませんけど、しいて言うならばレスターさんとかですが」

 

「……まだわからぬのか?」

 

「え?」

 

本気でわかっていないのか、とぼけているのか。周囲の政治屋は全員後者であるために、彼女はラクレットのリアクションが良くわからなかった。ちなみに無意識で惚けているのであるが。

 

「いや、なに。私も女なのだ。エルシオールでそなたに庇われた時に、胸の高鳴りを抑える事が出来なかった。許せ、そんなわがままでお前の人生を決めてしまった」

 

「陛下……」

 

 

ラクレットも腹をくくった。自分が彼女を庇ったから、自分が彼女の命を救ったから彼女が恐怖を覚えたまま生き、そして皇国を導くことになったのだ。そう理解した。

 

『騎士団を作り(護衛として)常に自分を傍に置かないと安心できないようになってしまった』

 

のであろうと。ならば、その責任を取るのも自分がするべきであろう。

 

 

「御身は既に陛下のものであり、わが剣を振るうは陛下の為にあります」

 

「くく……ハハハ。ラクレット其方は本当に面白い男だな!」

 

「お褒めに与り恐悦至極にございます」

 

 

何か失礼なことを、変なことを口にしてしまったのか、そう不安になるが目の前の女皇様が楽しそうなのでよしとする。

 

「そうか、ではシヴァ・トランスバ━ルの名において命ずる。傾聴せよ、一度しか言わぬからな」

 

「はっ!」

 

 

臣下の礼をとり、ひざまずき下を向くラクレット。全神経を聴覚に集中させると、小さく深呼吸する音まで聞こえてくる。そのまま待つと意を決したのか彼女が口を開いた。

 

 

「……貴方の子供を、私に生ませてください」

 

「ご命令とあれ……ば?……え? 」

 

 

12歳の少女にその台詞を言わせたのは、たぶんアウトであろう。思わず顔を上げると、珠のような白い肌を紅色に染めている、一人の恋する乙女がそこにいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────と、これが余の父と母の馴れ初めだ。

 

そう語ったのはヴァル・ファスク、トランスバール皇族、月の聖母の血を引いた蒼の瞳と黒の髪をもつ青年。各方面のスペシャリストが師に着いた為か、圧倒的なカリスマと、白兵・戦闘機・艦隊全ての戦いにおいて非凡の才能を示す英雄にして。6つの銀河を平定し、超大国を作り上げた覇王であった。

彼の座右の銘は『公私混同すべからず』 現役を引いてなおべったりの両親を反面教師にしたものである。

 

 

 

 

 

 

 

 




まとめあとがき

1 デザート(意味深)ではないです。それがやりたかった。アニメばっか見てる人かつ、彼女のルートをやると敬語が普通な感じがするけど、ため語の彼女が実は好きです。
2 ギャグ枠ではあるんですけど、ああいった態度は妙に低い自己評価の性だって考えると、すごく可愛いと思う。そんな感じで書いた。
3 彼女のルートはたぶん確率分岐的に一番少ないと思った。書いてて戦友パターンしか思い浮かばないのは流石よね。どっちも
4 天使。慈愛の天使です。幸運の女神がいるし、救いの女神とかでもいいんじゃない? とか思ったり。内容自体は「王道をいく」見せつけ系ですかね。
5 奥さんと言うより妻って言葉が合う子ですよね? シチュエーションを4と取り合った結果、こんな感じに落ち着いた。
6 作者の奴、最近(大嘘)イチャラブが書けないで鬱憤が溜まってたんだな。 その上あの結婚報告を見たんだ、いつも以上にテンションが上がって(略 そんな感じです。ギャグだけど、ニュースみてお幸せにと思った次の瞬間には頭の中でミントさんが微笑んでいた結果がこれ。
7 要望が来たので。書いていると会話のキャッチボールが弾む弾む。これメインヒロイン力がけた違いだわ。これ以上書いても距離感は変わらないので少し短め。ちなみにこの場合クロミエは意識としてやや女よりになります。
EX これの書き始めはEL完結前なの。そのくせ低クォリティですまんの。Ⅱの最大の失敗はルシャーティとシヴァ陛下の新規立ち絵を用意しなかった事。特に前者なんかCGもないじゃないか。今だから言うけど、当作品でシヴァ陛下との絡みは意識して減らして来たのは、作者が敬語に自信ないからなんだ。

クレータ班長とケーラ先生は これ読み切り成人漫画でやったやつだ!
になったので残念ながらカットで。

後全体的に思ったのはムーンエンジェル隊は、ラクレットにとって姉みたいになるという事ですね。年齢的なものとかあると思うんですけど。



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