赤き弓兵、錬鉄の記憶   作:ハウンド・ドッグ

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楽しんでいってね!

もっと……伸びても良いのよ(震え声)


Ep.19 羽を休めて

 サソリモドキを倒した後、三人はサソリモドキとサイクロプスの素材や肉を拠点へと持ち帰った。

 余談だが、そのまま封印の部屋を使うという手もあったが、ユエが断固拒否したためその案は没となった。まあ、無理もないだろう。何百年も閉じ込められていた場所など見たくもないのが普通である。消耗品の補充の為にしばらく身動きが取れないことを考えても、精神衛生上、封印の部屋は早急に出た方がいいだろう。

 そんな訳で、現在三人は消耗品を補充しながらお互いのことを話し合っていた。

 

「そうすると、ユエって少なくとも三百歳以上なわけか?」

 

「……マナー違反」

 

「ハジメ……女性に年齢の話はダメよ……」

 

 ユエ、並びに琴葉が非難を込めたジト目でハジメを見る。女性に年齢の話はどの世界でもタブーのようだ。

 ハジメの記憶では、三百年前の大規模な戦争のおり吸血鬼族は滅んだとされていたはずだ。実際、ユエも長年、物音一つしない暗闇に居たため時間の感覚はほとんどないそうだが、それくらい経っていてもおかしくないと思える程には長い間封印されていたという。二十歳の時、封印されたというから三百歳と少し、ということだ。

 

「吸血鬼って、皆そんなに長生きするのか?」

 

「……私が特別。″再生″で歳もとらない……」

 

「ふーん……」

 

 聞けば十二歳の時、魔力の直接操作や″自動再生″の固有魔法に目覚めてから歳をとっていないらしい。普通の吸血鬼族も血を吸うことで他の種族より長く生きるらしいが、それでも二百年くらいが限度なのだそうだ。ちなみに、人間族の平均寿命は七十歳、魔人族は百二十歳、亜人族は種族によるらしい。エルフの中には何百年も生きている者がいるのだとか。

 ユエは先祖返りで力に目覚めてから僅か数年で当時最強の一角に数えられていたそうで、十七歳の時に吸血鬼族の王位に就いたという。

 しかし、欲に目が眩んだ叔父が、ユエを化け物として周囲に浸透させ、大義名分のもと殺そうとしたが″自動再生″により殺しきれず、やむを得ずあの地下に封印したのだという。

 ユエ自身、当時は突然の裏切りにショックを受けて、碌に反撃もせず混乱したままなんらかの封印術を掛けられ、気がつけば、あの封印部屋にいたらしい。

 その為、あのサソリモドキや封印の方法、どうやって奈落に連れられたのか分からないそうだ。帰還する方法が判るかもしれない、と期待した二人はガックリと項垂れた。

 ユエの力についても話を聞いた。それによると、ユエは全属性に適性があるらしい。チートじみたその事実に呆れる二人であったが、ユエ曰く、接近戦は苦手らしい。一人だと身体強化で逃げ回りながら魔法を連射するくらいが関の山なのだそうだ。もっとも、その魔法が強力無比なのだから大したハンデになっていないのだが。

 ちなみに、無詠唱で魔法を発動できるそうだが、癖で魔法名だけは呟いてしまうという。魔法を補完するイメージを明確にするためになんらかの言動を加える者は少なくないので、この辺はユエも例に漏れないようだ。

 ″自動再生″については、一種の固有魔法に分類できるらしく、魔力が残存している間は、一瞬で塵にでもされない限り死なないそうだ。逆に言えば、魔力が枯渇した状態で受けた傷は治らないということだ。

 

「ここからが肝心な話なんだケド……」

 

「ユエはここがどの辺りか分かるか? 他に地上への脱出の道とか」

 

「……わからない。でも……」

 

 ユエにもここが迷宮のどの辺なのかはわからないらしい。申し訳なさそうにしながら、何か知っていることがあるのか話を続ける。

 

「……この迷宮は反逆者の一人が作ったと言われてる」

 

「「反逆者?」」

 

 聞き慣れない上に、なんとも不穏な響きに思わずユエに視線を転じる二人。二人の作業をジッと見ていたユエも合わせて視線を上げると、コクリと頷き続きを話し出した。

 

「反逆者……神代に神に挑んだ神の眷属のこと。……世界を滅ぼそうとしたと伝わってる」

 

 ユエは言葉の少ない無表情な少女なので、説明には時間がかかる。ハジメとしては、まだまだ消耗品の補充と新兵器の開発に時間がかかり、琴葉は琴葉で投影魔術の精度向上の鍛錬の続きをしている為に、作業しながらじっくり聞く構えだ。

 ユエ曰く、神代に神に反逆し、世界を滅ぼそうと画策した七人の眷属がいたそうだ。しかし、その目論見は破られ、彼等は世界の果てに逃走した。

 その果てというのが、現在の七大迷宮といわれているらしい。この【オルクス大迷宮】もその一つで、奈落の底の最深部には反逆者の住まう場所があると言われているのだとか。

 

「……そこなら、地上への道があるかも……」

 

「……なるほど。神代の魔術……いえ、魔法使いならそれくらいは出来てもおかしくないわね」

 

「奈落の底からえっちらおっちら迷宮を上がってくるとは思えないしな」

 

 見えてきた可能性に、二人は自然と頬が緩む。

 再び、視線を手元に戻し作業に戻る。ユエの視線も二人の手元に戻る。ジーと見ている。

 

「……そんなに面白いか?」

 

 口には出さずコクコクと頷くユエ。

 

「ユエの年齢からすると……年上なのよね? と、なると……()()()()()()()?」

 

 琴葉が何気なく呟いたその言葉にユエがぐりんと振り向き、琴葉の肩をがっしりと掴む。琴葉は突然のことに思わずビクッとしてしまう。

 

「……今の、もう一回」

 

「へ……?」

 

 ユエのその言葉に理解が追いつかず、琴葉はきょとんとしている。

 

「……もう一回」

 

「も、もう一回って……何を……」

 

「も う 一 回」

 

 勢いに押され、冷や汗をかく琴葉。必死に頭の中を巡らせる。何がそこまでユエを駆り立てるのか、己の発言の一々を思い出し、吟味していくと……

 

(もしかして……さっきの)

 

……あった。一つだけ、心当たりが。

 琴葉は意を決して口を開く。

 

「……ユエ、お姉ちゃん?」

 

───ユエお姉ちゃん

 

 その言葉を放った途端、ユエの目がキラキラと輝いているのが判った。どうやら、当たりらしい。

 

「……もう一回」

 

「ユエお姉ちゃん……」

 

「もう一回」

 

 何度も要求するユエ。

 

(ユエのおねだりが終わる気配が無い……!? こういう時どうすれば……!)

 

 琴葉は己の記憶を辿り、解決方法を見出そうとする。

 

(確か……漫画部の助っ人にいった時……これを習ったっけ……)

 

 『南陽高校のブラウニー』───それは見返りを求めず人助けをし、アフターフォローもバッチリ行っていた彼女の地球での異名である。その記憶から探り当てたのは、かつて人手不足となっていた漫画部に助っ人に向かった頃、そこの先輩部員からの教えであった。

 

(″アレ″をやれというの……!? 無理よ無理! 恥ずか死ぬわ!)

 

 今でもその記憶は忌々しいものだ。出来うることなら、彼女は今すぐに自身の頭に掃除機を突っ込み、記憶を吸い出し処分してしまいたい。しかし、人間の身体はそう便利には作られていない。

 

(やるしかない……! この無限に続くおねだりを終わらせるには……やるしかないんだ……!)

 

 目の前には期待で瞳をキラキラと輝かせるユエ。琴葉は腹を括る。

 先輩部員から教わった、というか、身に着けさせられた御業──それは……

 

「……ユエお姉ちゃん♡」

 

 あざとさ全開のサキュっと♡スマイルである。

 

「ぐっはぁぁぁ!!」

 

 ユエは女の子らしからぬ声を上げ、鼻から血を流し卒倒してしまった。

 これが、先輩部員直伝の悩殺技である。

 

「くっ……これが″尊い″ということか……!」

 

 何故その言葉を知っている───と言った表情にハジメはなるが、ハジメも余波で色々とマズい。耐えられたのは、一重にその胆力のおかげだろう。

 一方の琴葉はというと……

 

「ああああああああああ!!」

 

 羞恥で悶絶していた。己の黒歴史を掘り返し、剰えそれを実践してしまったのだから無理もないだろう。琴葉のライフはもうゼロだ。

 

「ひと思いに殺せぇぇぇ!」

 

 拠点には琴葉の叫びが響いていた。

 

 

 

 

 ───さて、と気を取り直してユエはかねてより感じていた疑問を口にする。

 

 

「……二人とも、どうしてここにいる?」

 

 当然の疑問だろう。ここは奈落の底。正真正銘の魔境だ。魔物以外の生き物がいていい場所ではない。

 ユエには他にも沢山聞きたいことがあった。何故魔力を直接操れるのか、何故固有魔法らしき魔法を複数扱えるのか、何故魔物の肉を食って平気なのか、エトセトラエトセトラ……

 ポツリポツリと、しかし途切れることなく続く質問に律儀に答えていく二人。

 ハジメは、仲間と共にこの世界に召喚されたことから始め、無能と呼ばれていたこと、ベヒモスとの戦いでクラスメイトの誰かに裏切られ奈落に落ちたこと、魔物を喰って変化したこと、爪熊との戦いと願い、ポーション───ハジメ命名の神水のこと、故郷の兵器にヒントを得て現代兵器モドキの開発を思いついたことをツラツラと話す。

 琴葉もまた、話し始める。ハジメを助けようとして出来なかったこと、奈落の底で可能性未来の自分と殺し合ったこと、力を譲渡されたこと、ハジメと同じように魔物を喰って変化したこと、可能性未来の自分の記憶から引っ張り出した武器を投影して戦ったことを話していった。

 すると、いつの間にかユエの方からグスッと鼻を啜るような音が聞こえ出した。

 二人は再び視線を上げてユエを見ると、ハラハラと涙をこぼしている。ギョッとして、ハジメは思わず手を伸ばし、流れ落ちるユエの涙を拭きながら尋ねた。

 

「いきなりどうした?」

 

「……ぐす……二人とも……つらい……私もつらい……」

 

 どうやら、二人の為に泣いているらしい。二人は少し驚くと、表情を苦笑いに変えてユエの頭を撫でる。

 

「気にするなよ。もうクラスメイトのことは割りかしどうでもいいんだ。そんな些事にこだわっても仕方無いしな。ここから出て復讐しに行って、それでどうすんだって話だよ。そんなことより、生き残る術を磨くこと、故郷に帰る方法を探すこと、それに全力を注がねぇとな」

 

「私も同意見。故郷に帰る為に、今自分に出来ることを精一杯、そして出来ないことを出来るように必死でやるだけよ」

 

 スンスンと鼻を鳴らしながら、撫でられるのが気持ちいいのか猫のように目を細めていたユエが、故郷に帰るという二人の言葉にピクリと反応する。

 

「……帰るの?」

 

「うん? 元の世界にか? そりゃあ帰るさ。帰りたいよ。……色々変わっちまったけど……故郷に……家に帰りたい……」

 

「そう……だね。待たせてる人もいるし……帰りたいよ……」

 

「……そう」

 

 ユエは沈んだ表情で顔を俯かせる。そして、ポツリと呟いた。

 

「……私にはもう、帰る場所……ない……」

 

「「……」」

 

 そんなユエの様子に彼女の頭を撫でていた手を引っ込めると、ハジメは、カリカリと自分の頭を掻いた。

 別に、ハジメは鈍感というわけではない。なので、ユエが自分や琴葉に新たな居場所を見ているということも薄々察していた。新しい名前を求めたのもそういうことだろう。だからこそ、二人が元の世界に戻るということは、再び居場所を失うということだとユエは悲しんでいるのだろう。

 琴葉は何か言いたげな様子でハジメを見ている。故郷に連れて行くことは出来ないか───そう訴えていた。

 ハジメは内心で、徹頭徹尾己の望みの為に行動すると決めたにも関わらず、その己の甘さに呆れ、そして苦笑しつつ、再度ユエの頭を撫でた。

 

「あ~、なんならユエも来るか?」

 

「え?」

 

 ハジメの言葉に驚愕をあらわにして目を見開くユエ。涙で潤んだ紅い瞳にマジマジと見つめられ、なんとなく落ち着かない気持ちになったハジメは、若干、早口になりながら告げる。

 

「いや、だからさ、俺達の故郷にだよ。まぁ、普通の人間しかいない世界だし、戸籍やらなんやら人外には色々窮屈な世界かもしれないけど……今や俺達も似たようなもんだしな。どうとでもなると思うし……あくまでユエが望むなら、だけど?」

 

 しばらく呆然としていたユエだが、理解が追いついたのか、おずおずと「いいの?」と遠慮がちに尋ねる。しかし、その瞳には隠しようもない期待の色が宿っていた。

 

「良いに決まってるでしょ? 貴方を縛るものはもう無い。自由に生きて良いのよ。それに、貴方は私の()()()()()なんだから。『家族』とは一緒にいたいじゃない?」

 

 にしし、と笑いながら琴葉はユエに優しく語り掛ける。ハジメもまた、頷いていた。すると、今までの無表情が嘘のように、ユエはふわりと花が咲いたように微笑んだ。

 

 

 

「……ありがとう」

 

 

 

 きっと、その瞳の涙は寂しさから来るものではないはずだ。もう、独りではないのだから。




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完結後、カルデア召喚編やる? やるとしたら琴葉はどのクラスで召喚する?

  • やれ。クラスはセイバークラスで。
  • やれ。クラスはランサークラスで。
  • やれ。クラスはアーチャークラスで。
  • やれ。クラスはライダークラスで。
  • やれ。クラスはアサシンクラスで。
  • やれ。クラスはキャスタークラスで。
  • やれ。クラスはバーサーカークラスで。
  • やれ。クラスはルーラーで。
  • やれ。クラスはアヴェンジャーで。
  • やれ。クラスはムーンキャンサーで。
  • やれ。クラスはアルターエゴで。
  • やれ。クラスはフォーリナーで。
  • やらなくていいんじゃない?
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