赤き弓兵、錬鉄の記憶   作:ハウンド・ドッグ

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Ep.22 迷宮の守護者(ガーディアン)───Ⅱ

 琴葉が回復役を撃ち抜く為に、ハジメとユエは他の頭の気を引いていた。しかし、黄色の文様の頭が射線に入り込み、その頭を肥大化させて攻撃を受け止めてしまう。閃光と燃え盛る槍が着弾し、衝撃と爆炎の後には無傷の黄頭が平然としてハジメ達を睥睨している。

 ヒュドラのその攻撃・防御・回復のバランスのいい構成に舌打ちをしながら、ハジメは頭上に向かって焼夷手榴弾を投げる。同時にドンナーの最大出力で白頭に連射した。ユエも合わせて"緋槍"を連発する。ユエの"蒼天"なら黄頭を抜いて白頭に届くかもしれないが、最上級を使うと一発でユエは行動不能になる。その事を理解しているからこそ、琴葉が自身で白頭を撃ち抜くことを提案したのだ。彼女が白頭を撃ち抜く為に、ハジメ達は他の頭の気を引くことに専念している。しかし、そこに立ちはだかったのが黄頭だ。黄頭は、ハジメとユエの攻撃を尽く受け止める。

 だが、流石に今度は無傷とはいかなかったのかあちこち傷ついていた。

 

「クルゥアン!」

 

 すかさず白頭が黄頭を回復させる。全く以て優秀な回復役である。しかし、その直後、白頭の頭上で"焼夷手榴弾"が破裂した。摂氏三千度の燃え盛るタールが撒き散らされる。白頭にも降り注ぎ、その苦痛に悲鳴を上げながら悶えている。

 このチャンス逃すかとばかりにハジメが"念話"で合図を琴葉とユエに送り、白頭の破壊を行おうとする。が、その時、

 

「いやぁああああ!!!」

 

 響き渡る絶叫。それはユエの声であった。突如鳴り響くその声に、異常を感じた琴葉はその方向へ目を向ける。

 

(一体何が起こってるの……!?)

 

 琴葉が見た限りでは、このような事態に繋がるヒュドラの行動は無かった。琴葉は頭を必死で働かせ、原因を探るべく、考え込む。

 

「!? ユエ!」

 

 ユエの元に、ハジメは咄嗟に咄嗟に駆け寄ろうとするが、それを邪魔するように赤頭と緑頭が炎弾と風刃を無数に放ってくる。

 

(させない……!)

 

 琴葉はその弓に番えていた剣を霧散させ、新たに投影した矢を番え、放たれた炎弾と風刃の進行を阻止するべく、ヒュドラに居場所が感知されることを承知で矢を放った。"心眼"による近未来予知により、的確にそれらを撃ち抜き、ハジメとユエの援護射撃を行う。しかし、如何せん数が多い。何発かを撃ち漏らしてしまう。

 未だ絶叫を上げるユエ。歯噛みしながら一体何がと考えるハジメ。そして、そういえば黒い文様の頭が未だ何もしていないことを思い出す。

 

(違う、もし既に何かしているとしたら!)

 

 ハジメは"縮地"と"空力"で必死に攻撃をかわしながら黒頭に向かってドンナーを発砲した。射撃音と共に、ユエをジッと見ていた黒頭が吹き飛ぶ。同時に、ユエがくたりと倒れ込んだ。その顔は遠目に青ざめているのがわかる。そのユエを喰らおうというのか青頭が大口を開けながら長い首を伸ばしユエに迫っていく。

 

「させるかぁああ!!」

 

 ハジメはダメージ覚悟で炎弾と風刃の嵐を"縮地"で突っ込んで行く。致命傷になりそうな攻撃だけドンナーの銃身と"風爪"で切り裂き、ギリギリのタイミングでユエと青頭の間に入ることに成功した。しかし、迎撃の暇はなく、ハジメは咄嗟に"金剛"を発動する。"金剛"は移動しながらは使えない。そのため、どっしりとユエの前に立ち塞がる。魔力がハジメの体表を覆うのと青頭が噛み付くのは同時だった。

 

「クルルルッ!」

 

「ぐぅう!」

 

 低い唸り声を上げながら、青頭がハジメを丸呑みにせんと、その顎門を閉じようとするが、ハジメは前かがみになりながら背中と足で踏ん張り閉じさせない。そして、ドンナーの銃口を青頭の上顎に押し当て引き金を引いた。

 

(そこだ……!)

 

 琴葉はダメ押しで青頭に向け、弓に番えた剣を放つ。

 ドンナーのゼロ距離発砲の射撃音と共に噴火でもしたかのように頭部が真上へと弾け飛んだ青頭に、琴葉が放った剣が着弾。直後、剣に意図的に仕組まれた魔力暴走によって、爆発。青頭を消滅させた。

 ハジメは琴葉に感謝しつつ、ヒュドラに向け、閃光手榴弾と音響手榴弾をヒュドラに向かって投げつけた。

 音響手榴弾は八十層で見つけた超音波を発する魔物から採取したものだ。体内に特殊な器官を持っており音で攻撃してくる。この魔物を倒しても固有魔法は増えなかったが、代わりにその特殊な器官が鉱物だったので音響爆弾に加工したのだ。

 ハジメの意図を理解した琴葉は空中を舞いながら、床へと着地。"転移"によって、その場を離脱した。そして、爆発した二つの手榴弾が強烈な閃光と音波でヒュドラを怯ませる。その隙に琴葉はハジメとユエに触れ、再び"転移"。柱の陰に隠れた。

 

「おい! ユエ! しっかりしろ!」

 

「ユエお姉ちゃん……!」

 

「……」

 

 二人の呼びかけにも反応せず、青ざめた表情でガタガタと震えるユエ。黒頭のヤツ一体何しやがった! と悪態を付きながら、ペシペシとユエの頬を叩く。"念話"でも激しく呼びかけ、神水も飲ませる。しばらくすると虚ろだったユエの瞳に光が宿り始めた。

 

「ユエ!」

 

「ユエお姉ちゃん……!」

 

「……ハジメ? ……琴葉?」

 

「おう、ハジメさんだ。大丈夫か? 一体何された?」

 

「大丈夫なの……!? 何が起きたの……!?」

 

 パチパチと瞬きしながらユエは二人の存在を確認するように、その小さな手を伸ばし顔に触れる。それでようやくそこにいると実感したのか安堵の吐息を漏らし目の端に涙を溜め始めた。

 

「……よかった……見捨てられたと……また暗闇に一人で……」

 

「ああ? そりゃ一体何の話だ?」

 

「へ……? どゆこと……?」

 

 ユエの様子に困惑する二人。ユエ曰く、突然、強烈な不安感に襲われ気がつけば二人に見捨てられて再び封印される光景が頭いっぱいに広がっていたという。そして、何も考えられなくなり恐怖に縛られて動けなくなったと。

 

「ちっ! バッドステータス系の魔法か? 黒頭は相手を恐慌状態にでも出来るってことか。ホントにバランスのいい化物だよ、くそったれ!」

 

「アイツ……マジで殺す……」

 

「っ……」

 

 敵の厄介さに悪態をつく二人に、ユエは不安そうな瞳を向ける。よほど恐ろしい光景だったのだろう。二人に見捨てられるというのは。何せ自分を三百年の封印から命懸けで解き放ってくれた人物であり、吸血鬼と知っても変わらず接してくれるどころか、日々の吸血までさせてくれるのだ。心許すのも仕方ないだろう。そして、一緒に故郷に行くという約束がどれほど嬉しかったか。再び一人になるなんて想像もしたくない。そのため、植えつけられた悪夢はこびりついて離れず、ユエを蝕むしばむ。ヒュドラが混乱から回復した気配にハジメは立ち上がるが、ユエは、そんなハジメの服の裾を思わず掴んで引き止めてしまった。

 

「……私……」

 

 泣きそうな不安そうな表情で震えるユエ。ハジメは何となくユエの見た悪夢から、今ユエが何を思っているのか感じ取った。そして、普段からの態度でユエの気持ちも察している。どちらにしろ、日本に連れて行くとまで約束してしまったのだ。今更、知らないフリをしても意味がないだろう。

 慰めの言葉でも掛けるべきなのだろうが、今は時間がない。それに生半可な言葉では、再度黒頭の餌食だろう。ハジメがやられる可能性もあるのだから、その時はユエにフォローしてもらわねばならない。そんなことを一瞬のうちに、まるで言い訳のように考えると、ハジメは、ガリガリと頭を掻きながらユエの前にしゃがみ目線を合わせる。

 そして───

 

「? ……!?」

 

───首を傾げるユエにキスをした。

 ほんの少し触れさせるだけのものだが、ユエの反応は劇的だった。マジマジとハジメを見つめる。

 

(わ〜お……ダイタン)

 

 ひゅー、と琴葉は口笛を吹く。

 ハジメは若干恥ずかしそうに目線を逸らしユエの手を引いて立ち上がらせた。

 

「ヤツを殺して生き残る。そして、地上に出て故郷に帰るんだ。……一緒にな」

 

 ユエは未だ呆然とハジメを見つめていたが、いつかのように無表情を崩しふんわりと綺麗な笑みを浮かべた。

 

「んっ!」

 

 ハジメは咳払いをして気を取り直しつつ、ユエに作戦を告げる。

 

「ユエ、シュラーゲンを使う。連発できないから援護頼む」

 

「……任せて!」

 

 いつもより断然やる気に溢れているユエ。静かな呟くような口調が崩れ覇気に溢れた応答だ。先程までの不安が根こそぎ吹き飛んだようである。

 ハジメは全長一・五メートルの対物ライフル、″シュラーゲン″を構えた。″纏雷″により、弾丸を電磁加速して撃ち出すことで、理論上ドンナーの十倍の火力を誇る。ドンナーでも対物ライフルの十倍の威力なのだ。シュラーゲンはもはや化け物銃と言っても過言では無いだろう。

 

「じゃ、私はユエお姉ちゃんの援護を行うわ」

 

「頼む!」

 

 琴葉は黒い洋弓に矢を番え、準備を始めた。

 三人は一気に柱の陰を飛び出し、今度こそ反撃に出る。

 

「″緋槍″! ″砲皇″! ″凍雨″!」

 

 矢継ぎ早に引かれた魔法のトリガー。有り得ない速度で魔法が構築され、炎の槍と螺旋に渦巻く真空刃を伴った竜巻と鋭い針のような氷の雨が一斉にヒュドラを襲う。攻撃直後の隙を狙われ死に体の赤頭、青頭、緑頭の前に黄頭が出ようとするが、白頭の方をハジメが狙っていると気がついたのかその場を動かず、代わりに咆哮を上げる。

 

「クルゥアン!」

 

 すると近くの柱が波打ち、変形して即席の盾となった。

 ユエの魔法はその石壁に当たると先陣が壁を爆砕し、後続の魔法が三つの頭に直撃した。

 

「「「グルゥウウウウ!!!」」」

 

 悲鳴を上げのたうつ三つの頭。黒頭が、魔法を使った直後のユエを再びその眼に捉え、恐慌の魔法を行使する。

 ユエの中に再び不安が湧き上がってくる。しかし、ユエはその不安に押しつぶされる前に、先ほどのハジメからのキスを思い出す。すると、体に熱が入ったように気持ちが高揚し、不安を押し流していった。

 

「……もう効かない!」

 

 ユエは、ハジメを援護すべく、更に威力よりも手数を重視した魔法を次々と構築し弾幕のごとく撃ち放つ。

 

(やるじゃない……! なら、私も!)

 

投影開始(トレース・オン)!」

 

 琴葉の周囲の空間に次々と剣が投影されていく。その数が百を超えた時、琴葉は剣の空間待機を解除。

 

「行け……!」

 

 その弓に番えた矢を放つと同時に、一斉層射した。投影された武器がヒュドラへと殺到し、意図的な魔力暴走による壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)により、爆発。次々と爆撃を行っていく。

 回復を受けた赤頭、青頭、緑頭がそれぞれ攻撃を再開するが、ユエと琴葉は背中合わせでそれと渡り合った。尽く相殺し隙あらば魔法を打ち込み、剣と矢を放つ。

 一方のハジメは、三つの首が二人に掛かり切りになっている間に、一気に接近する。万一外して対策を取られては困るので文字通り一撃必殺でいかなければならない。黒頭がユエに恐慌の魔法が効かないと悟ったのか、今度はハジメにその眼を向ける。ハジメの胸中に不安が湧き上がり、奈落に来たばかりの頃の苦痛と飢餓感が蘇ってくる。だが、

 

「それがどうした!」

 

 そう。それはとっくに耐え切った過去だ。今更あの日々を味わったところでどうということはない。ハジメはドンナーで黒頭を吹き飛ばす。

 白頭がすかさず回復させようとするが、その前にハジメが″空力″と″縮地″で飛び上がり背中に背負っていた対物ライフル:シュラーゲンを取り出し空中で脇に挟んで照準を合わせる。

 黄頭が白頭を守るように立ち塞がるが、そんな事は想定済みだ。

 

「まとめて砕く!」

 

 ハジメが″纏雷″を使いシュラーゲンが紅いスパークを起こす。弾丸はタウル鉱石をサソリモドキの外殻であるシュタル鉱石でコーティングした地球で言うところのフルメタルジャケットだ。シュタル鉱石は魔力との親和性が高く″纏雷″にもよく馴染む。通常弾の数倍の量を圧縮して詰められた燃焼粉が撃鉄の起こす火花に引火して大爆発を起こした。

 

ドガンッ!!

 

 大砲でも撃ったかのような凄まじい炸裂音と共にフルメタルジャケットの赤い弾丸が、更に一・五メートルのバレルにより電磁加速を加えられる。その威力はドンナーの最大威力の更に十倍。単純計算で通常の対物ライフルの百倍の破壊力である。異世界の特殊な鉱石と固有魔法がなければ到底実現し得なかった怪物兵器だ。

 発射の光景は正しく極太のレーザー兵器のよう。かつて、勇者の光輝がベヒモスに放った切り札が、まるで児戯に思える。射出された弾丸は真っ直ぐ周囲の空気を焼きながら黄頭に直撃した。

 黄頭もしっかり″金剛″らしき防御をしていたのだが、まるで何もなかったように弾丸は背後の白頭に到達し、そのままやはり何もなかったように貫通して背後の壁を爆砕した。階層全体が地震でも起こしたかのように激しく震動する。

 後に残ったのは、頭部が綺麗さっぱり消滅しドロッと融解したように白熱化する断面が見える二つの頭と、周囲を四散させ、どこまで続いているかわからない深い穴の空いた壁だけだった。

 一度に半数の頭を消滅させられた残り三つの頭が思わず、二人の相手を忘れて呆然とハジメの方を見る。ハジメはスタッと地面に着地し、煙を上げているシュラーゲンから排莢した。チンッと薬莢が地面に落ちる音で我に返る三つの頭。ハジメに憎悪を込めた眼光を向けるが、彼等が相対している敵は眼を離していい相手ではなかった。

 

「″天灼″」

 

 かつての吸血姫。その天性の才能に同族までもが恐れをなし奈落に封印した存在。その力が、己と敵対した事への天罰だとでも言うかのように降り注ぐ。

 三つの頭の周囲に六つの放電する雷球が取り囲む様に空中を漂ったかと思うと、次の瞬間、それぞれの球体が結びつくように放電を互いに伸ばしてつながり、その中央に巨大な雷球を作り出した。

 

ズガガガガガガガガガッ!!

 

 中央の雷球は弾けると六つの雷球で囲まれた範囲内に絶大な威力の雷撃を撒き散らした。三つの頭が逃げ出そうとするが、まるで壁でもあるかのように雷球で囲まれた範囲を抜け出せない。天より降り注ぐ神の怒りの如く、轟音と閃光が広大な空間を満たす。

 そして、十秒以上続いた最上級魔法に為すすべもなく、三つの頭は断末魔の悲鳴を上げながら遂に消し炭となった。

 いつもの如くユエがペタリと座り込む。魔力枯渇で荒い息を吐きながら、無表情ではあるが満足気な光を瞳に宿し、ハジメと琴葉に向けてサムズアップした。二人も頬を緩めながらサムズアップで返す。

 ハジメはシュラーゲンを担ぎ直しヒュドラの僅かに残った胴体部分の残骸に背を向けユエの下へ行こうと歩みだした。

 

 その直後、

 

「ハジメ!」

 

 ユエの切羽詰まった声が響き渡る。何事かと見開かれたユエの視線を辿ると、音もなく七つ目の頭が胴体部分からせり上がり、ハジメを睥睨していた。思わず硬直するハジメ。

 

(うそ……!? まだ、頭があったって言うの!?)

 

 だが、七つ目の銀色に輝く頭は、ハジメからスっと視線を逸らすとユエをその鋭い眼光で射抜き予備動作もなく極光を放った。先ほどのハジメのシュラーゲンもかくやという極光は瞬く間にユエに迫る。ユエは魔力枯渇で動けない。

 ハジメは銀頭が視線をユエに逸した瞬間、全身を悪寒に襲われ同時に飛び出していた。

 琴葉も遅れて飛び出す。が、途中で足がもつれて転んでしまう。

 

(今、こうしている場合じゃないのに……!)

 

 痛みに呻き、どうにか立ち上がる琴葉。身体を動かし、二人の元に向かおうとするが───

 

 

 

 

 

 

───目に映ったのは、極光に飲まれる二人の姿であった。

 

 

Ⅲへと続く……




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さて、ここまで書いたけど、琴葉の扱いどうする?

  • 百合にしてヒロインを作ろう
  • ハジメハーレムに加えよう
  • そのままヒロインムーブ無しでいこう
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