赤き弓兵、錬鉄の記憶   作:ハウンド・ドッグ

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Ep.25 迷宮の守護者(ガーディアン)───Ⅴ

「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」

 

 固有結界内、琴葉は死力を振り絞り、黄金の剣に魔力を注ぎ続ける。地を踏み締め、押し飛ばされないように踏ん張り、身体を駆け抜ける激痛に耐える。

 黄金の剣から放たれた光が、ヒュドラの極光を押し返し、やがて───

 

 

ドガァァァァン!!

 

 

───空が爆ぜた。

 

 世界が崩壊していく。固有結界の維持限界だ。琴葉の視界が光に包まれ、その眩しさに一瞬目が眩む。

 次に目を開くと、そこはヒュドラが待ち受けていた元の部屋であった。眼前には───重傷ではあるが、未だに倒れないヒュドラの姿が。 

 

(倒しきれなかった……)

 

 その手に握る黄金の剣が砕け散る。魔力に耐えられなかったのであろう。そして、全身を立つことすら出来ない程の激痛が襲う。

 

「ちく……しょう……」

 

 もう、力も入らない。血液を吐き、呻いた後、琴葉は床に倒れた。

 ヒュドラは琴葉をその視界に捕らえ、とどめを刺さんとその巨躯を引き摺る。ヒュドラもまた、限界が近かった。そしてまた、自身を追い詰めたことがヒュドラにとって腹立たしくもあった。激痛がヒュドラの憤怒を増大させ、膨大な殺意を琴葉へと向ける。

 

(動け……動けぇ…………!!)

 

 琴葉は倒れ伏しながらも必死で四肢を動かそうとする。気を抜けばすぐに意識を失いかねない程の激痛を耐え、身体に力を込めるが、彼女の身体は動かない。筋繊維は既にボロボロになっており、傷口からは夥しい程の血液が流れ落ちている。

 少しずつ、少しずつヒュドラが近付いてくる、ヒュドラは琴葉を警戒しており、確実にとどめを刺せる距離まで近付こうとしているのだ。

 

(動け……動けよ…………!!)

 

 身体は動かない。もう目の前まで″死″が迫っている。死んでしまったら、ハジメとユエが殺されてしまう。……駄目だ。認められない。二度ならず三度もあって堪るものか……! 琴葉は必死に身体を動かそうとする。

 しかし、残酷にもヒュドラは極光の発動準備に取りかかった。増大していく極光。それはまるで、死刑宣告をするように、射線に琴葉を捕らえる。

 放たれようとするその瞬間、一陣の風が吹いた。

 

(一体……何が……)

 

 琴葉は何者かに抱えられているのを感じた。

 ヒュドラから放たれた極光はもはや遠く。彼女を仕留めきれなかった事に、ヒュドラは怒りの咆哮を上げる。

 

「ったく……無茶すんじゃねぇよ……!」

 

「……ハ、ジメ……!?」

 

「…………琴葉、後で説教」

 

「ユエお姉ちゃん……!?」

 

 全快とまではいかないが、ハジメとユエの二人を視認し琴葉は驚きに包まれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 時は少し遡る。

 ユエは琴葉を引き留めようと腕を伸ばした。しかし、琴葉はそれを拒絶するように、一言だけ謝罪の言葉を口にすると、ユエとハジメを柱の後ろへと転移させた。

 

「琴葉……! 琴葉……!」

 

 必死で叫ぶが、琴葉の耳には届いていない。彼女が詠唱を始めると同時に、周囲には膨大な魔力の奔流が。ユエもそれを感じ取っていた。ユエは琴葉が固有結界を張ることは聞かされていない為、何をしようとしているのかわからなかった。

 数秒後、詠唱が終わると同時に、琴葉とヒュドラに電光が走り、その場から消えてしまった。突然の事態に目を見開くユエ。少なくとも、この魔法は知らない。

 

「う……ぐ……」

 

「っ! ハジメ……!?」

 

 神水が効力を及ぼしてきたのか、ハジメは苦しげに呻きながら目覚める。ユエはハジメを支え、壁にもたれさせる。

 

「ユ、エ……? そうか……俺は……」

 

 少しずつだが、何があったのか思い出せてきた。ハジメは辺りを見回す。周りにはボロボロになった外壁と柱が。

 

「ハジメ……良かった……」

 

「おお……すまん……心配かけた」

 

 泣きじゃくるユエを宥めるハジメ。と、その時、違和感に気付く。

 

「ちょっと待て……何で琴葉がいないんだ……? それに、ヒュドラも……」

 

「琴葉は……一人でいっちゃった……」

 

「はぁ……? 一人で?」

 

「……ん。私とハジメをここに逃がした後、一人でヒュドラと戦ってる……」

 

「待て待て待て…………じゃあ何でここにいないんだ」

 

 ハジメは今の状況を上手く掴めていない。ヒュドラが消えていることも、琴葉が消えていることも、何もかもが理解できていない。それは、ユエも同じ事だ。何故両者が忽然と消えているのか、彼女にも理解できなかった。

 

「消える前、琴葉が何か詠唱してた……多分、それが原因……」

 

「マジか……」

 

 大方、その原因は琴葉の詠唱によるものだろうと二人は結論づけた。そう考えるしかなかった。

 

「信じるしか、ないな……」

 

「…………んっ」

 

 ハジメの言葉にユエは力無く頷いた。

 

「「っ!?」」

 

 突如、部屋に閃光が迸る。ハジメとユエの二人は警戒する。閃光が爆発し、視界が晴れたその先には───

 

 

 

───黄金の剣を携えた琴葉の姿が。

 

 やがて黄金の剣は砕け散り、血を吐き琴葉は倒れ伏す。

 ヒュドラは重傷を負いながらもまだ息があり、戦闘態勢のままであった。ヒュドラは琴葉の息の根を止めるべく、その巨躯を引き摺る。

 

(やめろ……)

 

 身体を激痛が蝕むが、ハジメは必死で立ち上がろうとする。

 

「琴葉……!」

 

 ユエの悲痛な声を響く。

 その時、ハジメの胸中に激烈な怒りが満ちた。自分は何をしている? いつまで休んでいれば気が済む? こんな所で仲間を、友人を奪われる理不尽を許容するのか? 自分にとって大切なパートナーを絶望させるのか? あんな化物如きに屈するのか?

 ───否。断じて否だ。自分の、自分達の生存を脅かすものは敵だ。敵は、殺す……!

 その瞬間、頭のなかにスパークが走ったような気がし、ハジメは一つの技能に目覚めた。″天歩″の最終派生技能[+瞬光]。知覚機能を拡大し、合わせて″天歩″の各技能を格段に上昇させる。ハジメは一つ、″壁を超えた″のだ。

 琴葉の元に駆けだそうとしたその時、腕をくいと引かれた。

 

「……私も行く」

 

 ユエは真っ直ぐにハジメの瞳を見詰めていた。ハジメはそれに答えるように、頷いた。

 ユエはハジメの背中に掴まる。その直後、ハジメは爆発的な加速により、友人を助ける為に跳躍した。

 ヒュドラから放たれようとする極光。それは琴葉をしっかりと照準していた。

 

「間に合えぇぇぇぇ!!」

 

 ハジメはもう一度、加速する。それはまさしく、一陣の風のよう。そして……

 

ガシッ!

 

 琴葉を抱え、離脱する事に成功した。すぐ後ろを極光が焼く。

 

「ったく……無茶すんじゃねぇよ……!」

 

「……ハ、ジメ……!?」

 

「…………琴葉、後で説教」

 

「ユエお姉ちゃん……!?」

 

 琴葉はハジメとユエを視界に収めると驚愕で目をぱちくりとさせている。

 

(軽い……!? だが、この状態……失血か!)

 

 まずは琴葉を安全な場所に隠す必要がある、とハジメは考え、全速力でヒュドラから離れていく。怒り狂うヒュドラは光弾を辺りにばら撒いている。

 ヒュドラから離れた場所に琴葉を下ろすハジメ。その後、分厚い壁を錬成し、トーチカを三人の周りに形成した。琴葉は衝撃によって激痛がぶり返し、苦しげに呻く。

 

「ありがとう……助かった、わ……」

 

 激痛で表情を歪ませながらも琴葉は二人に礼を言う。

 

「礼はいい。それより……何があった?」

 

「固有結界を使って……アイツを仕留めようとしたけど……仕留め損ねたわ……」

 

「固有結界ぃ……? まあ、詳しいことは後で聞こう」

 

 ハジメは石で作った試験管を取り出し、先を砕いて開けて琴葉の口に突っ込む。いきなり突っ込まれた事に抗議するように琴葉は目で訴えるが、激痛で身体を一ミリも動かせない今の状況に置かれている以上、仕方の無いことなので受け入れるしかなかった。試験管の中に入れられていた神水が身体に染み渡り、激痛が少しずつ和らいでいく。

 

「アイツは俺達が殺す。お前はもう、休んでろ」

 

「でも……!」

 

「でもも何も無い。第一、こんなボロボロになるまで無茶しやがって……まあ、でも、耐えてくれてありがとな。そして、生きててくれてありがとう」

 

「……うん」

 

「後は任せろ。そんで、ゆっくり休んでろ」

 

「っ……」

 

「仲間を信じられないのか?」

 

「いや……それは無い」

 

「なら、俺達を信じろ」

 

「……わかった」

 

 ハジメは琴葉を説き伏せる。ハジメとしては、ボロボロになるまで戦った琴葉をこれ以上戦わせるわけにはいかなかったのもあるし、こうなるまで日和っていた自分が不甲斐ないというのもあった。琴葉としては不服ではあるだろうが、それでも、仲間を頼って欲しかった。

 

「じゃあ、ここで待ってるから。あとは……お願い、ね……」

 

「おう。任せろ」

 

 その言葉を聞き届けると、琴葉は意識を失った。極度の緊張状態から解放されたのもあるし、激痛に耐えきれず気絶したというのもある。ユエは慌てて駆け寄るが、ハジメはまだ息がある事を伝え、ユエを安心させた。

 

「ユエ、俺の血を吸え」

 

「……ん!」

 

 ユエはハジメの首元に顔を埋め、牙を立てる。それはハジメの力が直接流れ込むかのようにユエの体を急速に癒していく。ヒュドラを殺す為には、ユエの魔法が頼みの綱だ。琴葉の死闘を無駄にしない為にも、必ず勝利しなければならない。

 その間も、錬成によって構築されたトーチカを光弾が削っていく。このままいけばいずれ破られるであろう。だが、破られる前にユエの吸血が終わった。ユエは自身の身体に活力が戻るのを感じた。

 

「さて、殺るぞ」

 

「んっ……アイツはぶっ潰す」

 

「ユエ、合図をしたら″蒼天″を頼む。それまで、回避に徹しろ」

 

「んっ……ハジメは?」

 

「俺は下準備」

 

 ハジメはそう言うとユエを下ろし、トーチカの一部に穴を開け、外へと飛び出した。瞬時にトーチカを補強し直し、ヒュドラの方へ駆けていく。

 襲い来る光弾をハジメは紙一重で躱していき、″縮地″で場所を移動しながらドンナーを発砲する。ヒュドラは血が流れ落ちる身体を動かし、何とか回避してみせた。銃弾は外れ、明後日の方向へ飛んでいき、天井に穴を開けるだけに留まる。

 ハジメは気にした様子もなく次々と場所を変え銃撃する。しかし、弾丸はやはり外れて虚しく天井に穴を開けるだけだった。馬鹿にしているのかとヒュドラの瞳に憤怒が宿り、更に攻撃が苛烈になる。しかし、冷静さを失っているのか、その攻撃はあまりにも安直で、回避しやすかった。

 ハジメはドンナーに装塡された銃弾全てを撃ち尽くすと″空力″で宙へ跳躍。壁を越えたが為に、今までの比でない程に細やかなステップが可能になっており、天井付近の空中を泳ぐように跳躍し光弾を次々と躱していく。

 怒り心頭で冷静さをかなぐり捨てたヒュドラは極光を放った。暴力的な光の奔流を軽々と躱したハジメはニヤリと笑う。ハジメは看破していた。銀頭が極光を放っている間は硬直していることを。そして、銃弾を再装填したドンナーを再び、先程撃ち抜いた六箇所に照準を合わせて狙い撃った。

 すると、突然天井に強烈な爆発と衝撃が発生。一瞬の静寂の後、一気に崩壊を始めた。その範囲は直径十メートルにも拡がり、重さは数十トン達する大質量が崩落し直下のヒュドラを押し潰した。

 種を明かすと、ハジメは天井にドンナーで穴を開け、空中で光弾を躱しながら手榴弾を仕込みつつ、錬成で天井の各部位を脆くしておいたのだ。そして、六箇所をほぼ同時に撃ち抜くことで爆破した。

 ハジメは攻撃の手を緩めない。ヒュドラは既に疲弊仕切っているが、琴葉の死闘ですら仕留めきれなかったが故に油断できなかったのだ。大質量の塊に押し潰され身動きが取れなくなったヒュドラに″縮地″で接近し、錬成。崩落した岩盤の上を拘束具に作り替え、身動きを封じる。それと同時に、ヒュドラの周囲を囲み、突貫工事で溶鉱炉を作り出した。その場を離脱しながら焼夷手榴弾などが入ったポーチごと溶鉱炉の中に放り込み、ユエに叫ぶ。

 

「ユエ!」

 

「んっ! ″蒼天″!」

 

 青白く輝く太陽が突貫工事で設営された溶鉱炉の中に出現し、拘束されたヒュドラを融解させていく。中に放り込まれた爆薬の類も連鎖して爆発し、ヒュドラを沈黙させた。既に死に体でもあったのだ。抵抗することも出来ず、そのまま燃え尽きていった。

 ハジメの感知系技能からヒュドラの反応が消える。ヒュドラの死を確信したハジメは、そのまま後ろにぶっ倒れた。無理のしすぎだ。

 

「ハジメ!」

 

 ユエは多量の魔力行使で力の入らない身体を動かし、慌ててハジメのもとへ行こうと床を這いずる。

 

「流石に……もう、ムリ……」

 

 ハジメは自分も人の事言えないなと自虐し、彼の元へ辿り着いたユエが自身に抱きついてくる感触を知覚すると、突如襲い来る脱力感に身を任せ、ゆっくりとその意識を手放した。

 

 




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さて、ここまで書いたけど、琴葉の扱いどうする?

  • 百合にしてヒロインを作ろう
  • ハジメハーレムに加えよう
  • そのままヒロインムーブ無しでいこう
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